風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第49話:宇宙機雷の罠】

作・風祭玲

Vol.570





オオオオオンンンンンンンン…

地球の引力を振り切り、

そして月の姫・カグヤからの援軍を得た竜宮は光のリングを輝かせ、

先刻、飛び立った連合艦隊の後を追い地球から離れていく、

「ねぇ見て、沙夜さちゃん。

 地球があんなに小さくなっているよ」

ビー球大の大きさになってしまった地球を指差し

夜莉子が声を上げると、

「まさに

 ”さらば、地球よ…”ってところでしょうか」

と藤一郎が口を挟む。

「ねぇ成行博士、

 ヤマトではここでワープをして一気に火星まで飛んだけど、

 この竜宮にはワープは出来ないの?」

藤一郎の言葉を受けて沙夜子は成行に尋ねると、

「艦長と呼べ、

 艦長と」

艦長席に座る成行はそう注意した後、

「けっ

 ぬわにが艦長だ、

 それなら、人魚達を束ねている俺こそが

 艦長に相応しいんじゃないのか?」

と壁に背中を預けている海人が文句を言う。

「ふんっ

 私の手がなければ

 この竜宮を前に飛ばすことも出来ないくせに

 大口を叩くな」

「なんだとぉ!!」

「まーまーま、

 こんなところで喧嘩をしないでよ、

 みんなの目的はさらわれた乙姫様をお救いするんでしょう、

 こういうときだからこそ、

 協力をしなくっちゃ」

険悪な空気を追い払うように夜莉子はそういうと、

「ふんっ」

海人はプイッと横を向いた。

「もぅ…

 で、さっき沙夜ちゃんが言っていたワープって言う奴だけど、

 なに?

 それが出来るとすごいの?」

ふてくされる海人を横に置いて夜莉子は話を進めると、

「まっ、

 ワープをしろと言うのなら出来る。

 竜宮のパワーの源・キリーリンクはワープくらい屁でもない」

「だったら…」

「最後まで聞けっ

 しかし、

 しかしだ、

 そもそもワープと言うのは最短でも数光年の距離を飛び越えるもので、

 恒星系内の惑星から惑星の間を行き来するものではない。

 第一、そんなことを頻繁にしてしまったら、

 惑星の重力でワープ軌道が狂ってしまったり、

 ワープの際に発生する重力震で惑星の環境に悪影響を起こすではないか、

 それに、この竜宮は長い眠りから覚めたばかり、

 慣らし運転もそこそこなのに、いきなり高速道路に出て、

 思いっきりアクセルを踏むような馬鹿な真似は出来ないんじゃ」

と成行は指摘する。

「そーなんだ…」

「まぁな」

その説明に夜莉子は幾度もうなづくと、

ジロっ

成行は海人の方を見るなり、

「というわけじゃ、

 わかったか」

と念を押す。

「けっ

 早い話が”使えない”ってことなんだろう?

 で、いつになったら乙姫様に追いつけるんだ?

 この鈍亀はよ…」

海人は戦艦を載せて宇宙を突き進む岩の亀と化してしまった竜宮を指差すと、

「ふっふっふっ

 鈍亀ではないぞ、

 聞いて驚け、現在の竜宮の速度はのぅ

 マッハ30をゆうに越す猛スピードで飛行しておるのだ、

 あの連合艦隊とやらの速度よりも早く飛んでいるので、

 そーじゃのぅ…

 まっ途中休憩も含めて木星までには追いつくと思うが…」

と成行は海人に言い聞かせる。

「本当に追いつけるのかな…」

説明をする成行を海人は疑念の篭った目で見ると、

「土星までには追いついてください。

 土星はあのツルカメ彗星と連合艦隊が激突する場所ですから」

竜宮が地球を立つ前、

スレイヴがツルカメ彗星と連合艦隊との激突地点が

土星近辺になることを指摘したことを水姫は告げると、

「それくらい、判っておる。

 大丈夫じゃ、

 木星までには追いつく」

成行はそう繰り返していた。



ゴォォォォォ!!!!

光の粒子と共に戦国時代を飛び立った櫂とオギンは

400年後の世界・現代を目指す。

『櫂っ

 来たよっ

 400年の旅ももぅすぐ終わり、

 準備はいい?』

間近に迫ってきた出口を示す光の玉が迫ってくる様子に、

オギンは櫂に覚悟を尋ねると、

『あぁっ

 準備はオッケーだ、

 どんな奴でも掛かって来いっ』

櫂は自信満々に返事をした。

『時間はあの爆発の次の日のお昼過ぎに出るわ、

 本当は爆発時点にしたかったんだけど、

 あたしの力ではこれが精一杯』

『そうか、

 真奈美や乙姫様…

 無事で居てくれたらいいんだけど…』

現代に飛び出す時間がN2超時空振動弾の炸裂から、

約18時間後であることをオギンは告げると、

自信が溢れていた櫂の表情がかすかに曇る。

そして、手が届きそうなくらいに光が迫ったとき、

ゴンッ!!

目の前の光が楕円形に変形すると、

グルッ!!

通過する列車のごとく横へと動ていく、

『キャッ!!

 なっなによっ!!』

『え?

 ちょっとぉ!!!』

突然の事態に櫂とオギンは悲鳴を上げながら、

移動する光の中へと飛び込んで行った。

そして、その直後、

ドザァァァァァァ!!!!!

竜宮の事情を知ろうと櫂の母・綾乃が

水術による交信を行っていた庭の池より、

巨大な水柱が吹き上がると、

「うわぁぁぁぁ!!!」

その水柱から櫂と魔雲鸞・オギンが飛び出し

そのまま庭へと落下する。

「イタタタタ!!!」

戦国時代、藍姫より掛けてもらった

巫女装束の上衣だけを纏った姿で櫂が痛む頭を抑えていると、

『(ポヒュッ)

 だっ大丈夫ですか?

 櫂さんっ』

介抱のため鳥の姿より人間の姿に変化したオギンが

駆け寄り様子を尋ねる。

「大丈夫なもんかっ

 もぅ

 一体ここはどこだよ!」

オギンの言葉に櫂は文句を言いながら周囲を見ると

「あれ?

 ここは…」

あまりにも見慣れた光景に櫂はキョロキョロする。

そして、

「お帰り、お兄ちゃん!」

櫂の背後より妹・香奈の呆れたような声が響くと、

「かっ香奈ぁ?

 ってことは…

 ここって、ウチなのか?」

てっきり種子島近所に出ると思っていた櫂はあっけに取られる。

すると、

「なに寝ぼけたことを言っているのよ、

 いきなりこっちに戻ってきて…

 何か忘れ物でもあったの?

 あれ?

 その体…男に戻っているじゃない。

 へー元に戻れたんだ」

櫂が戻ってきたことに香奈は立腹しながらも

男の姿に戻っていることに香奈は気づくと、

「まっまぁな…」

あわてて上衣を正しながら櫂は返事をする。



櫂と香奈が話をしていると、

「ふぅ…(すっかり濡れてしまったわ)」

吹き上がっていた水柱が消えたのを見計らって

綾乃が立ち上がり、

「で、櫂っ

 竜宮で何かあったの?

 こっちに戻って来るだなんて一大事でも起きたの?」

と髪から滴る雫を振り払いながら櫂が戻ってきた理由を尋ねる。

「あっ

 うんっ

 実は…」

綾乃の質問に櫂はばつの悪そうな返事をすると、
 
「なによっ

 情けないわねっ

 乙姫様の奪還に失敗したぐらいなによっ

 それで、竜宮から尻尾を巻いて降りてきたの?」

と香奈は櫂に言う。

「何を言っているんだよ、

 僕はねぇ、種子島で海魔と戦ってきたんだ。

 それは乙姫様を助け出すことは出来なかったけど…

 でも、後一歩だったんだよ、

 もぅ少しでシャトルに追いつけたんだけど、

 あの爆発に遭って…

 オギンと共に戦国時代で真奈美の前世である愛姫さまに逢って、

 そして戻ってきたんだよ」

呆れる香奈に向かって櫂は事情を話すと、

「え?

 戦国時代に行っていた?」

櫂の説明に香奈は驚きの表情をする。

「あぁそうだよっ

 爆発に巻き込まれてタイムスリップしたみたいでね。

 うんっ

 でも、お陰でこうして男の体に戻れたんだ」

櫂は男に戻れたことを嬉しそうにして言うと、

「じゃっ

 じゃぁなに?

 お兄ちゃん、

 あの竜宮からちょっと戻って来たんじゃなかったの?」

目を剥きながら香奈は櫂に問いただすと、

「はぁ?

 お前、何を言っているんだ?

 全然、話が見えないぞ、

 あっそうだ、

 今から急いで竜宮に行かなきゃ、

 マーエ姫にことの詳細を話して、

 乙姫様や真奈美の後を追いかけなくっちゃ」

香奈の話が見えない櫂は一旦、竜宮に戻るつもりで、

スッ…

翠の髪を伸ばし、

体を人間の男から人魚のカナへと姿を変える。

すると、

「あのっお兄ちゃんっ

 竜宮へ行こうとしても竜宮無いよ」

と香奈は櫂に告げた。

『へ?

 竜宮が無い?

 なんだそれは?』

突然の話に櫂は目を白黒させると、

「いやね、櫂…

 あたし達はあの竜宮に櫂がてっきりいたものだと思って

 話をしていたの、

 でも、櫂の話を聞いてちょっと驚いているのよ」

と話を割ってきた綾乃が櫂に告げる。

『あの竜宮?

 僕が乗っている?

 なに????』

母親の言葉に櫂は首をひねると、

「実は…」

綾乃は今日、起きたことを一つ一つ説明を始めだした。

そして、

『なんだってぇぇぇぇぇぇぇ』

事の詳細を知らされた櫂が驚きの声を張り上げると、

「お兄ちゃん…

 本当に、竜宮に乗ってはいなかったんだ…」

ショックでがっくりと膝(?)をつく櫂の姿を見て、

香奈はポツリとつぶやく。

『り…竜宮が、

 宇宙に行ってしまっただなんて、

 そんな…

 どーすればいいんだ』

『あらら…

 そーとーショックを受けているようですね』

放心状態の櫂の姿にオギンも心配そうに覗き込むと、

ガシッ!!

いきなりオギンの首に櫂の手が掛かり、

『なぁ、教えてくれオギン!!!

 どうすれば竜宮にいけるんだ!!』

ミュギュゥゥゥゥゥゥ!!!!

櫂は思いっきりオギンの首を絞めながら問いただした。

『うぐぐぐぐぐぐぐ…

 うぐぐぐ…』

首を絞められたオギンの顔は見る見るパンパンに腫れあがり、

そして、目が白目を剥いていく、

『教えてくれ!!

 頼むっ

 オギンっ

 僕はどうすればいいんだ!!!』

窒息寸前のオギンに向かって櫂は声を上げていると、

パンパン

オギンの手が首を絞めている櫂の手を2・3回叩いた後、

すぅぅぅぅ…

と引いてくと。

『…だ・か・ら…つーて

 無我夢中でヒトの首を絞めるなっ

 このボケぇぇぇぇぇ!!!』

搾り出す声ををもに、

バキィィィッ!!!

オギンは櫂を思いっきり張り倒すと、

一匹の人魚が華麗に宙を舞った。



一方、乙姫達が乗艦している宇宙戦艦ヤマモトが率いる地球連合艦隊は

木星と土星の間にある小惑星帯・通称アステロイドベルトへと差し掛かっていた。

『ふむっ

 木星の引力に阻害され、

 惑星になれなかったなりそこないどもか…』

太陽を回る4大小惑星の一つ、ベスタを左手に見ながら

バーチャル艦長・ヤマモトはそうつぶやくと、

カッ!!

チュドォォォン!!

連合艦隊の側面を護る1隻の駆逐艦が突然火を噴き、

瞬く間に大爆発を起こすと宇宙の藻屑と消え去ってしまった。

『敵襲!!』

たちまち連合艦隊内に緊張が走るが、

『触雷です。

 小惑星に紛れて宇宙機雷が多数敷設してあります』

爆発の調査を行った駆逐艦からの報告が入ると、

『そうか…

 機雷とはなかなかやるではないか』

ヤマモトは不敵な笑みを浮かべ、

『連合艦隊全艦に注ぐ、

 この宙域に機雷が敷設してある。

 全艦隊その場で停止せよ』

と命令を発したが、

しかし、そのときまでに5隻の宇宙船が機雷の餌食となっていた。

「乙姫様っ

 攻撃を受けたみたいですが」

「とにかくヤマモト艦長のところに行って見ましょう」

艦内に響き渡る警告放送に乙姫と真奈美は艦長室へと向かっていく。

そして、

「失礼します」

の声と共に艦長室へと入っていくと、

『また君達か!!』

薄暗い部屋の中にヤマモトの声が響き渡る。

「あのぅ…

 攻撃を受けたと聞きましたが?」

ヤマモトの声に向かって乙姫が尋ねると、

『まったく…

 ここで話をするとややこしい事になる。

 下の第1艦橋に下りたまえ!』

再びあの悪夢が来ることを警戒したヤマモトはそう告げると、

フッ!

暗い艦長室の一角の床に円形の明かりが灯った。

「あそこに行け…ということでしょうか?」

円形に光る床を見ながら真奈美が乙姫に尋ねると、

「そうみたいですね」

乙姫はそう答えながら明かりへと歩いてゆく、

そして、二人がその明かりの上に立つと、

スッ!!

かき消すように二人の姿が消え、

その直後、

パッ!!

乙姫と真奈美は光の中に立っていた。

「うわっ」

「まぶしい!!」

暗闇と赤外線の光に慣れていたため、

強烈な可視光線に思わず手を掲げ光をさえぎる。

『はははは…

 ちょっとこの光はきつかったかな?』

そんな二人の姿にヤマモトの声が響き渡ると、

「うー…」

真奈美は幾度も瞑った目を擦り、

そして瞼を瞬かせると、

「もぅ、

 明るいなら、

 明るいって言ってください!」

と文句を言いながらヤマモトの声が響いたほうを振り返った。

すると、

「あっ

 あれ?」

ようやく視界が戻ってきた目に飛び込んできたのは、

巨大なホールを思わせる部屋の大きさと、

その壁にそってギッシリと並び光り輝くパネル。

そして、目の前に据え置かれた木目調の舵輪であった。

「うわっ

 なっなにこれぇ!!」

文字通り宇宙戦艦の艦橋という趣の部屋の様子に真奈美は驚くと、

「本当…

 すごいですわね」

乙姫も感心したようにつぶやく、

『はははは…

 驚いたかね』

驚いている二人に向かって再びヤマモトの声が響くと、

『ふふふ…

 ようこそ、

 宇宙戦艦ヤマモトへ…

 わたしがこの艦の艦長・ヤマモトだ』

と言いながら

襟足が長く、一見ハーフコートに似た

艦長服をまとった壮年の男性が真奈美と乙姫の前に立った。

「あっあなたが?」

目の前に立つヤマモトを指差して真奈美が声を上げると、

「真奈美さんっ

 よく見てください。

 この人の向こう側が透けて見えます」

と乙姫がヤマモトの向こう側が透けて見えることを指摘する。

「え?

 あっ

 本当だ…

 じゃぁ…」

そのことに真奈美も気づくと、

『ふむ、

 早速ばれてしまったか、

 なかなか目が良いな

 そうだ、

 私は実在する人間ではない。

 すでに君達も見たであろう、

 この宇宙戦艦ヤマモトに搭載されているコンピュータが

 かつて実在した人物データも元に作り上げたバーチャル艦長である』

とヤマモトは改めて説明する。

「ふーん、

 そうなんだ…

 まぁ…

 この方が話しやすいかな?

 だって、艦長室であったボールじゃ

 いまひとつ実感が湧かないもんだしね」

ヤマモトの姿を足元から顔まで幾度も視線を往復させながら

真奈美はそういうと、

『おほんっ』

その話を遮るようにヤマモトは咳払いをする。

「それで…

 先ほどの放送で仰っていました攻撃を受けたことですが…」

ヤマモトの咳払いの後、

乙姫はその件について話を持っていくと、

『そうだ、

 先ほど、敵が敷設した宇宙機雷に触れ、

 駆逐艦ら五隻が撃沈された』

手を後手に組み、

クルリと背を向けたヤマモトはそう説明をする。

「敵…ですか?」

ヤマモトの告げた”敵”と言う言葉に二人の体が微かに強張ると、

『あぁそうだ…

 これを見たまえ』

ヤマモトはそう言いながら右手を上げる。

すると、

艦橋の明かりが落とされ、

代わりに天井に取り付けられているマルチパネルに、

宇宙を進む巨大彗星の画像が映し出された。

「これは…」

『現在、地球に向かって進んでいる彗星だ、

 先日まで太陽系の最果てに居たのが、

 一気にワープしたらしく

 先ほど天王星を通過したところだ』

とヤマモトは説明すると、

「あっもしかして、

 ツルカメ彗星じゃないですか?」

それを聞いた真奈美は拉致される前に

世間で騒いでいた彗星のことを指摘した。

『そうだ、

 地球ではツルカメ彗星と呼ばれているみたいだが、

 だが、この彗星は普通の彗星とは訳が違う。

 彗星の中に地球の侵略を狙う者が居るのだ!』

真奈美の指摘にヤマモトはそう答えると、

パッ!

彗星の画像から地球の青空に浮かぶギョロ目の仮面を映し出した。

「なっなんですか?」

「本物の宇宙人?」

仮面を見ながら真奈美と乙姫は首を傾げるが、

しかし、その後に響いた声に

「いっ

 こっこいつは!!!」

見る見る真奈美の表情が引きつると、

「お知り合いですか?」

乙姫が真奈美の耳元で囁く、

「知っているも何も…

 間違いないわ、

 ほらっ

 この仮面を被っている奴は五十里と言う奴で、

 あの海母様の鰭の時の悪玉ですよ。

 UFOと共にいきなり消えちゃったので

 どうしたのかな…と思ったけど…

 まさか、あの彗星の中にいるだなんて…

 それにあのときの事、

 しっかりと覚えているみたいだし…」

『この映像は我々が地球を出発した後

 地球上のあらゆる地域に向かって流されたものだ。

 見てのとおり、

 この者は地球に対して敵意を持った行動に出た。

 よって我々はこの者の野望を潰すため

 これより迎え撃ちに行くのだ』

五十里の映像を横目にヤマモトがそう言った途端、

「そーよっ

 ちゃちゃっとやっちゃって!!!

 もぅ、

 二度と見たくないんだから!!

 あいつの顔は!!」

パネルに浮かび上がる仮面を指さし真奈美が思いっきり怒鳴った。

すると、

『当然だ。

 そのために私は究極兵器を持ってきたのだからな』

真奈美の言葉にヤマモトはそう返事をすると、

ヌッ…

宇宙戦艦ヤマモトの右後方に控えている巨大な円筒形の物体に視線を送る。

「うわぁぁぁ…

 何これぇ!!」

そのあまりにものの巨大さに真奈美は驚くと、

『ふふっ

 我々の究極兵器・ヤマトソウル砲だ…

 たとえ誰が相手でもヤマトソウル砲の前には皆跪くのだからな』

自信たっぷりにヤマモトは説明すると、

「ヤマトソウル…

 なんだかとても恐ろしい予感がします…」

巨大な必殺兵器を見ながら乙姫がポツリとつぶやいた。



一方、乙姫たちが居る連合艦隊を追い地球を飛び出した竜宮は

そのとき火星軌道を通過しようとしていた。

『艦長っ』

連合艦隊の動きをモニターしていた人魚が成行を呼ぶと、

「何事だ」

艦長席に座っていた成行兎乃助が威厳を保ちながら立ち上がり、

人魚のそばへと向かっていく。

「けっ

 何だあの態度っ」

成行のその態度が虫好かない海人は文句を言うにしてつぶやくと、

「文句は言わないっ

 あなた、竜王なんでしょう、

 細かいことで愚痴らないのっ」

すかさず水姫が注意し、

「連合艦隊に何かありましたか?」

と尋ねながら水姫は成行の傍に立った。

すると、

『…アステロイドベルト内を進行中の連合艦隊で爆発を確認、

 艦隊側面を護っていた宇宙船が五隻、撃沈した模様です』

とモニターしていた人魚が報告をする。

「爆発・撃沈か…

 いよいよ始まったのか?」

その報告に成行は顎をさすりながら彗星・五十里側と、

連合艦隊との間で交戦が始まってしまったのか懸念すると、

『いえっ

 爆発はその五回だけです。

 また、爆発を受けて連合艦隊は

 アステロイドベルト内で停止している模様です』

と人魚は続ける。

「そうか、

 どっちにせよ足止めされているのなら、

 チャンスというわけか、

 おいっ

 魔導炉もなれた頃だろう。

 竜宮の速度をさらに上昇させろ

 今のうちに距離を稼ぐのだ!!」

連合艦隊が足止めされていることが

距離を縮めるチャンスと判断した成行はさらなる増速を命じると、

『出力上昇!!』

『出力上昇!』

艦橋内に増速の命令が響き渡り、

グゥゥゥゥゥゥン…

キリーリンクより魔導炉へと流れるエネルギーが上昇し

それに合わせて竜宮は航行速度を上げていった。



『本艦はただ今より、

 敵が敷設した宇宙機雷の強制撤去を行う』

ジワリジワリと沸いてくる宇宙機雷にすっかり取り囲まれ、

身動きが取れなくなった連合艦隊の窮地を打開するため、

宇宙戦艦ヤマモトのバーチャル艦長・ヤマモトは

拡散波動砲を用いての強制撤去することを宣言するのと同時に、

ミアミマミマミア…

艦首で口を開いている2連装の砲口に灯りが灯る。

『安全装置解除

 拡散波動砲発射よーぃ 

 目標、前方宇宙機雷、

 距離3000

 艦内に居るものは対ショック並びに対閃光防護を行うこと』

艦首の砲口にエネルギー注入開始が始まると、

ヤマモトは艦橋内の乙姫と真奈美に向かって

艦首にある拡散波動砲の発射が行われることを告げ、

れから防護をするように命じた。

すると、

ビーッ!!

艦内に警報が鳴り、

『機雷が波動砲口周辺に移動、

 拡散波動砲の使用は中止してください』

と警戒をしていた宇宙船より緊急連絡が入る。

『なに?』

その報告にヤマモトは驚くと、

『機雷群は高エネルギーが収束する方向に集中するよう

 セットされているようです、

 拡散波動砲の使用は控えてください』

と連絡が入る。

「えーっ

 じゃぁどうするのよ、

 ずっとこのまま止まっているの?」

拡散波動砲が封じられてしまったことに真奈美が驚くと、

ズドォォォン!!

触雷してしまったのか1隻の宇宙船が大爆発を起こした。

『くっそぉ…

 なかなかやりおるわい、

 小型工作ロボットを放ち、

 機雷を移動させるのだ』

状況の打開策としてヤマモトは小型ロボットによる機雷の撤去を指示したが、

ドォォォン!!!

ロボットが近づくだけで機雷が爆発してしまうと、

『くっそぉ!!!』

ヤマモトの表情にあせりの色が出てくる。

すると、

ポロン…

乙姫の手に輝水の竪琴が姿を現し、

それを弾きながら乙姫の口から歌が流れる。

そして程なくしてその歌が止まると、

「ヤマモト艦長っ

 あの惑星の正面にある赤い機雷があるでしょう。

 あの機雷が全体をコントロールしています。

 まずあの機雷を停止させてください」

と乙姫は指摘した。

『むっ

 どういう理屈だかよく分からないが、

 あれを破壊すればいいのか』

「あっ待ってくださいっ

 破壊するのではありません。

 停止させるのです」

『しかし、どうやって…

 作業ロボットが接近するだけで自爆してしまうのでは?』

破壊ではなく停止させろとの乙姫の言葉にヤマモトは困惑すると、

「大丈夫、

 わたくしをあそこまで連れて行ってください」

乙姫は微笑みながら返事をした。



『なんで、宇宙でこんな事をしないと行けないのよ…』

『貴重な経験ですよ…』

『それは判るけど…

 でも…』

宇宙服に身を包んだ真奈美と乙姫は全体を制御する宇宙機雷にとりつくと、

その中へと潜り込んでいた。

『はぁ…それにしてもご丁寧に

 ”停止”

 なんてボタンが用意されて居るだなんて
 
 人を小馬鹿にしているというか、
 
 ナメられているというか』

10cm程もある赤いボタンを見ながら

真奈美はため息混じりにそのボタンを押そうとすると、

『待ってください、

 それはトラップです。

 本物の停止装置はこのレバーです』

ボタンを押そうとする真奈美の手を止め、

乙姫はボタンの横に小さく出ているレバーを指さした。

『へ?

 こっち?』

乙姫の指摘に真奈美は呆気に取られると、

『はい』

ヘルメット越しに乙姫は頷く。



ガチョンッ!!

ギューーーン!!

『宇宙機雷機能停止!!!』

『はいっ

 止まりましたよー』

乙姫の指摘通りにレバーを引き下げた途端、

宇宙機雷は機能を停止し、

機能停止の連絡はすかさずヤマモトの元へと送られる。

そして、

『さて、真奈美さん、

 もぅ一仕事ありますよ』

と機雷の機能を停止させ安堵している真奈美に向かってそう言うと、

『機能を停止したと行っても、

 相変わらずこの機雷は人工的なエネルギーに反応するようです。

 でも、あたしたちが手でどける分には問題ないようですので
 
 この際、どかしてしまいましょう」

と提案した。

『え?

 あたし達の手ですか?』

『はいっ、

 お世話になっていることでもありますし』

驚く真奈美に笑みを浮かべながら乙姫はそういうと、

『はいはい

 判りましたよ』

真奈美は小さな白旗を掲げながらうなづいた。

『そうねぇ、

 あたし達だけじゃ手が足りないから、
 
 そうだ、あの方達も加わって貰いましょう』

俯く真奈美を横に乙姫はそう判断すると、

あの海魔たちも借り出され、

手で機雷を撤去を行われた。

そして、やっろ艦隊の進路が開かれると、

『処理完了っ

 行く手を阻むのはすべて消失いたしました』

『よーしっ

 全艦発進っ

 このまま土星まで一気に行くぞぉ!!』

鼻息荒くヤマモトが声を上げ、

ゴォォォォッ!!

停止を余儀なくされていた連合艦隊はツルカメ彗星討伐のため、

土星に向けて発進する。



一方、ツルカメ彗星内の浮城では、

カポーン!!!

「おーぃっ

 五十里ぃぃ、

 入っているのか?」

浮城内に設けられている宇宙大温泉、

ヒノキの香りが漂う男子浴場の脱衣所より夏目の声が響く。

「んーなんだ?」

乳白色のお湯が張られている湯船にどっぷりとつかりながら

メイドロボットに肩を揉ませている五十里が尋ねると、

ガラッ

閉まっていた引き戸が開き、

「ふーっ」

大きく息をつきながらタオル一枚になった夏目が入って来ると、

サブンッ!!

「どっこいしょっ」

そう言いながら湯船の中に体を入れる。

「はぁ…

 やっぱ…温泉が一番だなぁ…

 特に太陽系の惑星を見ながらの風呂というのは風情があっていい」

小さくなっていく天王星を上に仰ぎながら夏目はそうつぶやくと、

「ん?

 あれは映像だろう?」

すかさず五十里は茶々を入れる。

「判っているよっ

 それくらいっ

 まったくお前は風情がないな」

茶々に夏目はムッとしながら返事をすると、

「で、なんだ?

 何か用があるんじゃないのか?」

メイドロボットを下がらせ、

肩を湯の中に落とした五十里が夏目がここに来た訳を尋ねると、

「あぁ…

 アステロイドベルトに仕掛けた例の機雷…」

「んー?

 あぁ、桂が張り切ってやっていたな」

「そーそれが、

 見事に突破されてしまったぞ」

湯船に二人並びながら夏目は仕掛けた宇宙機雷が突破されたことを告げる。

カポーン!

「そーか…

 エネルギー源を目指して集まる機能付と聞いていたが、

 やっぱりダメだったか…」

「まぁな…

 あの戦艦には乗組員が居たんだな、

 手でどかされてしまったよ」

空気を入れたタオルを湯の中に沈ませ、

アブクをプクプクさせながら夏目は言うと、

「どうする?

 また何か仕掛けるか?」

と善後策を尋ねた。

「いやっ

 もぅいいだろう。

 そんな小細工をする必要はない。

 土星をぶっ壊す気で暴れればいい」

次の一手を尋ねる夏目に五十里は決戦を示唆すると、

「そっか、

 決戦といくか」

夏目は顔を上げ、

天井で輝く天王星を見つめた。

すると、

ザバー!!

隣で浸かっていた五十里が腰を上げ、

「あっそうだ、

 戻ったら祝電でも打ってやれ」

不敵な笑みを作りながら五十里はそういうと、

「ほぉ…

 祝電かよ」

湯船の中の夏目は驚いた顔をする。

「ふふっ

 まっ少しは余裕があるところを見せてあげないとな、

 ご老人達の期待に添えてあげるのも大変だよ」

驚く夏目をよそに五十里は脱衣所へと戻っていった。



『ん?

 なんだとぉ?』

それから程なくして、

宇宙戦艦ヤマモト艦長の一本の電報が届くと、

たちまちヤマモトの表情が険しくなる。

「どうかしたのですか?」

そんなヤマモトの表情を見て乙姫が尋ねると、

『ふふっ

 向こうから祝電を遣してきた。

 まったく、

 不敵な奴だ、

 さぁて、

 鬼が出るか、

 蛇が出るか、

 面白くなって気たな』

ヤマモトはそう呟き、

そして、見え始めたツルカメ彗星をジッと見据える。



つづく





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