風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第47話:竜宮浮上】

作・風祭玲

Vol.563





「えぇいっ

 しっかりせいっ

 いまこそ人魚達の力を一つにする必要があるのだ。

 これはお前にしかできないのだ。

 頼んだぞ、竜王!!」

宇宙へと行ってしまった乙姫たちの後を追うため、

竜宮そのものの浮上と地球からの発進のため、

成行は困惑する海人の肩をしっかりと握り締め、

そう言い聞かせると、

「そうは言われても…」

海人は頬を掻きながら困惑した表情をする。

すると、

「なに、自信の無い顔をしているのっ

 あなた、竜王でしょう?

 ”任せろ”の台詞もいえないの?」

それを見ていた水姫が怒鳴った。

「あのなぁ、

 人魚達のあんな姿を見せられれば、

 いくら俺でも気が引けるぞ、

 それに…

 …俺が表に出たら、

 …水姫…お前に危害が及ぶんだろう?」

そんな水姫を横目に見ながら海人は反論すると、

呟くようにして水姫のことを案じる。

「あらっ

 あたしのこと心配してくれているの?

 それはありがとう。

 でもね、いまは乙姫がピンチなのよ、

 あたしの方はうまくやるから、

 海人は海人にしか出来ない仕事に専念して、

 さっ、

 行った行った」

自分の安全のことを気にしてくれる海人の言葉に

うれしさを感じつつも、

水姫はあえて海人の尻を叩くと、

『まっ

 そうビクつくな、

 女達も乙姫様が居ないのを理由に調子に乗っているだけだ。

 そっちは俺から釘を刺しておくから、

 竜王、竜宮のこと頼むぜ』

ずっと話を聞いていた竜族の竜彦は海人に向かってそう告げ、

スーッ

体をくねらせながらその場から立ち去って行く。

「やれやれ、

 仕方が無いか…」

話の流れから拒否をすることが出来ないと海人は悟ると、

「で、成行博士、

 どうやって力をあわせるんだ?

 ただ闇雲に力を貸してくれって、

 言ってすむ話じゃぁないんだろう?」

と竜宮浮上の手順に付いてたずねる。

「ふむっ

 確かにそうじゃ、

 竜宮自体、

 さっきのことで大分傷ついているからのぅ」

海人の指摘に成行は大きくうなづき、

「スレイヴっ

 さっき一通り見たときに見つけたのだが、

 この居城の奥に旧日本海軍の沈没戦艦が仕舞い込んであるが、

 あれはなんだ?」

と竜宮の管理をしている人工精霊・スレイヴに

居城の奥に置かれている戦艦のことをたずねた。

「えぇ!!

 戦艦が竜宮にあるのですか?」

成行の質問に沙夜子は驚くと、

「ねねっ

 どんな戦艦ですか?

 本当に旧帝国海軍の戦艦なのですか?」

と目を輝かせながら成行に迫る。

「なっなんじゃ、

 お前は…

 そんなに目を輝かせて…」

嬉しそうに尋ねる沙夜子に成行は戸惑うと、

「ちょっと、沙夜ちゃん。

 みっともないって…」

それを見た夜莉子が呆れた顔をする。

すると、

「何を言っているんだよっ

 戦艦だよ戦艦!!

 大和は沖縄に向かって撃沈されているから、

 大和かな…

 あっでも、

 大和は沈んでいるところが発見されたから、

 違うか…

 となると姉妹艦の武蔵か…

 でも、武蔵は東京から南に向かっていたはず…」

沙夜子はブツブツ言いながらあれやこれやと思案を始めると、

ついに、

「あぁもぅ!!

 いくら考えても仕方が無い!!

 ねぇ、成行博士。

 ちょっとそこまで案内してよ

 直接この目で見てみる!!」

と叫びながら成行に再度迫った。

「まっまぁ

 落ち着け…

 今すぐでなくても、

 竜宮の浮上に使えるものなら

 否応なくとも連れて行ってやる」

沙夜子の迫力に押されながら成行はそう返事をすると、

「やったぁぁぁ!!」

飛び跳ねながら沙夜子は声を上げる。

「あのぅ…

 軍艦とかそういうのが好きなんですか?

 沙夜子さんって…」

そんな沙夜子の姿を見ながら

藤一郎が冷や汗を流す夜莉子に尋ねると、

「そう言えば…

 犬塚のあの超音速飛行機に乗るときも、

 あっちこっち覗き込んでいたし、

 女の子にしては珍しいかな」

横に立つ海人もそう呟く。

「えぇまぁ…」

夜莉子は顔を引きつらせながら返事をしたのち、

「ちょちょっと

 こっちに来て…

 いーから、こっちに来て」

「痛い!

 何するんだよ」

はしゃぐ沙夜子の耳を抓りながら夜莉子は沙夜子を

皆から外れたところへと連れて行くと、

「もぅ、

 沙夜ちゃん、

 昔の”地”を出さないでよっ

 みんな不思議がるでしょう!!」

と注意をする。

しかし、

「なんでー…

 昔の戦艦だよ、

 それがこの竜宮にあるんだよ、

 夜莉子は見たくないの?」

そう言い返すと、

「あたしにはそんな趣味はありませんっ

 とにかく、

 沙夜ちゃんは女の子なんだから、

 その辺、忘れないでよ」

沙夜子の言葉に夜莉子はキツク注意をすると、

「はいはいっ」

沙夜子は不機嫌そうな口調で返事をした。

「えっと、

 お話は終わりましたか?」

そんな二人に藤一郎が尋ねると、

「あっ

 どうも、お騒がせしました」

夜莉子は場を繕いながら沙夜子と共に戻ると、

「まぁ…

 趣味は人それぞれだからな…

 別に女の子だからと言う理由で、

 趣味を強制する必要は無いと思うけどな…」

成行はそう沙夜子の肩を持つ、

すると、

『あのぅ…

 ご報告をしてもよろしいでしょうか?』

スレイヴが作り出す人工精霊が恐る恐る口を挟んだ。

「おぉ、

 そうじゃった。

 で、アレは一体なんだ?」

成行は戦艦のことを聞き返した。

『はいっ

 あの艦ですが

 乙姫様がカグヤ様とのお茶会に出席する際使っていました船が

 老朽化してきましたために、

 その代わりとして整備しておりまして、

 地上人たちが捨てたものを再利用しております』

と説明をすると、

「ほほぅ

 乙姫のお茶会とな?」

成行は聞き返す。

『はいっ

 時々乙姫様は月のカグヤ様とお茶会を開いておりまして、

 今度の会場は火星と聞いております』

「へぇ!!!

 火星でお茶会かよ。

 なんだかんだ言っても

 乙姫の方が宇宙によく行っているんじゃないのか?」

人工精霊の返事に海人は感心しながら言うと、

『はいっ

 わたくしもそう思います』

人工精霊はキッパリと言い切った。

「う゛っ」

その言葉に海人は少し不機嫌になりながら、

「ふんっ

 だからって別に偉いわけではないと思うが…」

文句を言うように呟くと、

「はいはいっ

 妬かない妬かない、

 今度は海人が宇宙に行く番なんだから」

水姫は宥めるように海人の頭をなでると、

「うっうるさいなぁ!!」

海人はその手を払いのける。

「…という事ですと、

 なにもこの竜宮で宇宙に行かなくても

 その戦艦というのに乗れば宇宙へ行けるのではないのでしょうか」

人工精霊の説明に藤一郎が聞き返すと、

『はいっ

 でも実は先日、

 戦艦に搭載した魔導エンジンの起動試験を行ったのですが、

 エンジンの起動に失敗し、

 その後の調査でエンジン鋼体を構成する

 基盤ブロックの一つが割れている事が判明し

 現在修理を行っているところです』

と人工精霊はそう返答をした。

「ふむ、

 起動に失敗とはのぅ

 まっ新しいものを造り出すには失敗はつきものだ、

 このわしとて、失敗作は山のようにこさえたけどな、

 で、それ以外ではどの程度作業は進んでいるのだ?」

『はいっ

 魔導エンジン系以外での作業進捗率は95%となっております』

「そうか、動力系のみが使えないのか…

 じゃぁ、動力は竜宮のキリーリンクを手当てすれば…

 いや…制御関係をその戦艦側で行えばいいか…

 問題は竜宮の魔導炉と戦艦のコントロールをつなぐ部分と

 補助動力…

 いきなりキリーリンクのパワーを魔導炉に入れるには危険すぎるし、

 一つ、クッションが欲しいのぅ」

スレイヴからの情報を元に

成行はどのパターンが竜宮の浮上に都合がいいのか考え始めた。

すると、

「あのぅ…」

これまで黙って成り行きを見ていたマーエ姫が口を挟み、

「あたし達が乗ってきた船…

 オルファを補助動力として使ってみてはいかがでしょうか?」

と提案してきた。

「ほぅ…」

マーエ姫の提案に成行は興味深そうに聞き返すと、

「このオルファなら宇宙にも出ていましたし、

 それにワープもしてきました。

 ねぇ、エマン、そうでしょう?」

成行に向かってマーエ姫は説明をし、

そして、エマンに話しかけると、

「はぁ…

 まぁ姫様の仰るとおりですが、

 でも、このエマン、

 オルファを使うのは賛成いたしかねますが?」

とマーエ姫の守役でもあるエマンはオルファの使用に難色を示す。

「そんな…

 エマンっ

 乙姫様の危機なんですよ、

 私達が手を差し出してあげなくてはいけないと思います。

 第一、いつもエマンは私に言っているでしょう?

 困った人が居たら手を貸すようにって」

「お言葉ですが姫様、

 オルファは私達がマームヘイムへ帰るための大事な船なんですよ、

 もし、また障害などで使えなくなってしまったら、どうするんですか?

 ラサランドスの時と同じような奇蹟は2度はないと思いますが…」

「でも

 だからと言って…」

渋るエマンにマーエ姫は苛立ちを感じ始めると、

「ふむ、

 なるほど…

 まぁ、補助動力と言っても

 ずっと使用するものではありません。

 魔導炉の起動用に1回だけ使用するだけですから、

 それなら構いませんでしょう?」

険悪になりつつあったマーエ姫とエマンの間に成行は立つと仲裁し、

そして、

「すまぬが、スレイヴっ

 指揮関係は戦艦側で行い、

 動力はこの居城のキリーリンクと魔導炉で行うようセットしてくれないか、

 それと、海人っ

 お前は人魚達に竜宮全体で乙姫の救出に行くことを伝えるんだ、

 いいな」

成行はスレイヴ、海人双方に指示を出しす。




『ねっシホ、聞いた?

 なんか重大な発表があるって』

『そうそうそう!!

 なんだろうね

 なんだろうね

 すっごく気になる』

『ユイはどぅ思うの?』

『えぇっ(こっちに振らないでよ)

 そうねぇ…

 嫌なことじゃなければいいけど、

 大体、リナはどう思っているのよ』

『うん、それは…

 あたしも嫌なことじゃなればいいけど…』

『みんな…何の話をしているの?』

『ナギサっ

 あんた何も聞いてないの?』

『聞いているって?』

『重大発表のことよ、

 あぁ…

 そのことか、

 そういうことにはあんまり興味がないから…』

『はぁ…

 ナギサっていいわねぇ

 楽天的でさ』

『あっその言い方ないでしょう

 あたしだって…』

『あたしだって?』

『あぁ…ホノカか…』

『ふふっ

 前回の失敗を反省に

 ホノカ1号の改良案を考えたの、

 シンクロ率がちょっと足らなかったのが原因だったわ。

 その辺の再調整と、

 それに、3番目の適格者も見つけたしね。

 今度こそちゃんと動くわ』

『へーへー

 どうせあたしの竜玉じゃ、

 シンクロ率は低いですよ』

『ナギサったら、落ち込まないでよ。

 ホノカ1号って?

 あぁ…あの魔導エンジンのこと?

 いいの?

 勝手に名前付けちゃって』

『それは大丈夫よ、

 許可取ったから』

『で、誰なの誰なの?

 3番目の適格者・サードチルドレンって』

『うん、ヒカリちゃんっていうの、

 ついこの間、ここに来たばかりだけど…

 うふっ

 今度こそ大丈夫よ』

『でも、また

 起動確率0.000000001%とか

 言うんじゃないでしょうね。

 ホノカ1号はオーナインシステム。

 なんて陰口はもぅ聞きたくないわよ…』

『ねぇなに固まって話し込んでいるの?

 さっさとしないと怒られるよ』

『あぁ、アカネさんか…

 竜王様の追っかけ、

 もぅ終わったんですか?』

『あらご挨拶ねぇ…

 あたしも追っかけばっかりしてないわよ』

『ねぇねぇ、

 竜王様って?』

『あれ?

 リナ、知らなかったの?

 いま、竜宮に竜王様が来ているのよ』

『うそぉ!!!

 それ、本当ですか?』

『うんっ

 ほらっ

 あの地上人たちの乗り物が来たときに

 竜王様が来て追い払ったとか…』

『ほんとー?』

『あぁ、ショック、

 そのとき、

 あたし、奥に隠れていたよぉ』

『ねぇねぇねぇ

 竜王様って格好よかったですか?』

『そうですよっ

 どうなんですか』

『気になる気になる』

『あぁっもぅ、

 一度にせっつくなっ

 ちゃんと教えてあげるから』

………

『で、なんて言うの、海人?』

居城内の大広間へと集められている人魚達を見ながら水姫は尋ねる。

『なにを話すって…

 普通にお願いするだけだよ、

 あまりヘンなことを言うとややこしいことになるからね』

腕を組みながらそう返事をする海人に、

『ふぅぅぅん』

人魚体に戻り、

水の中を漂う水姫は感心したような返事をすると、

『とにかく、

 やってみないと判らないだろう』

海人は肩を窄めながらそう言い、

そして、

『で、

 マーエ姫さんの方は準備はいい?』

と海人たちと共に来ていたマーエ姫に尋ねると、

『はぁ

 私は大丈夫ですが…』

とマーエ姫は少し困惑した表情で返事をする。

『んじゃっ

 一丁やってくるか』

マーエ姫からの返事を聞いた海人はそう言いながら

人魚達の前へと出て行った。



『ねぇ、何時まで待たせるのかしら』

『あっちょっと、

 誰か出てきたよ』

ザワッ!!

マーエ姫に連れられて海人がでてくるのと同時に

人魚達にどよめきが上がる。

『(うっ

  大丈夫かなぁ…)』

先刻のトラブルのことがまだ頭にある海人にとって、

ズラリと勢ぞろいする人魚の姿に少しおびえるが、

竜彦からの警告が効いているのか、

いまこの場で海人に飛びついてくる不心得者の人魚は皆無だった。

『(とっとにかく

  大丈夫そうだな…)』

ざわつくものの危害を加えそうな人魚が出てこないことに、

海人は少しホッとしながらもその前に立つと、

『(コホンッ)

 えーと、

 私がこの竜宮の主である、竜王・海人だ…』

と話し始めた。

『ねぇねぇねぇ

 ナギサっ

 ちょっと、イケてるぽくない?』

『そうかぁ…

 あたしの趣味って感じじゃないなぁ』

『うーん、あたしは…

 ぎりぎりおっけーてところかな?』

『えっリナって

 あぁ言うのがタイプなの?』

『そんな訳じゃないけど…

 でも、なんかお兄さんぽくて…』

『でも、

 もぅ少し知的な方が良かったかも…』

『相変わらずホノカは男には厳しいね』

『うーん、

 あたし達を導いていくのなら、

 体力勝負な人よりも、

 キチンと状況を説明し、

 そして、誰でも納得ができる話をする人の方が良くなくて?』

『はいはい、

 優等生の言うことは違うわよ』

海人の話の最中、

人魚達の間からそんなヒソヒソ話がもれる。

すると、

『ちょっとソコ、

 静かにしてよ。

 竜王様の声が聞こえないでしょう?』

そんな人魚達に向かってたちまち注意の声が響くと、

『あはっ

 いけない…』

『もぅ

 怒られちゃったじゃない』

人魚達は慌てて頭を下げる。



『…と言うわけで、

 我々は直ちに竜宮と共に乙姫救出のため、ここを出る。

 しかし、私だけの力ではこの竜宮を動かすことはできない。

 そこで、みんなの力を貸して欲しい。

 みんなで乙姫様を迎えに行こう』

と締めくくると、

『はーぃ!!!』

広間を埋め尽くす人魚達から一斉に返事が返ってきた。

『(ふぅ…

  なんとか大丈夫かな?)』

人魚達の反応に海人はそう思っていると、

『(はいっ)質問があります』

人魚の中から手が伸びる。

『なっ何かな…』

伸びた手にやや臆しながら海人は指さすと、

『あの…

 地上人の艦に取り付けている魔導エンジンはどうするのですか?』

と人魚は質問する。

すると、

『それについては私から答えよう』

その声に答えるように成行の声が響くと、

『今回、時間がないので艦の魔導エンジンは使わずに

 この竜宮の魔導炉を直接制御することにした。

 その為に戦艦と竜宮とをこのように結ぶ』

と説明し、

フッ!

海人の後に戦艦と竜宮とを結ぶ配線図が浮き上がった。

『そっか、

 この手があったのね』

その配線図を見ながら人魚は頷くと、

『あのーっ

 私にもキリーリンクへのアクセス権をいただけませんでしょうか』

と成行に話しかける。

『ほぅ…

 名前は?』

『はいっ

 ホノカと申します。

 あの…戦艦の魔導エンジンの開発に携わった者です』

成行の問に人魚・ホノカは自分の名前を申告すると、

『うむっ

 それは心強い、

 判った、考えよう』

成行は認める返事をした。

『やったー』

その言葉にホノカが飛び上がると、

『あのー

 竜王様はこれからもずっとこの竜宮にいらっしゃるのですか?』

と別の人魚が海人に尋ねる。

『え゛っ』

その問いに海人は思わず固まってしまうと、

『なに当たり前のことを聞いているのよ、

 竜王様ならずっと居てくれるに決まっているじゃない』

と人魚達よりそんな声が響き渡る。

『あっ

 まっ

 そっそうだな…』

人魚の問いに対して海人はやや曖昧な返事をすると、

『はぐらかさないで、

 ちゃんと答えてください』

その人魚は海人に言質を迫った。

『ちょちょっと、リナ…

 まずいって…そんなこと言っちゃぁ』

海人を困惑させる人魚に、

別の人魚が話しかけると、

『だめよ、ナギサっ

 こういうことはハッキリしないと、

 示しがつかなくなるでしょう?

 ただでさえ、竜王様はずっと竜宮を留守にしていたんだから』

とその人魚はケジメの必要性を説く、

『(この場は仕方がないか)』

人魚達の注目を一身に浴び続けている海人は、

とにかくこの場を静めるにはその人魚の質問に答えるしかないと判断をすると、

『はいっ

 私は逃げも隠れもしないっ』

と竜宮にとどまることを明言した。

その途端、

『キャーッ!!』

人魚達より歓喜の声が一斉に響くと、

『じゃぁ頑張っちゃお』

『そうねぇ…

 上手くすればあたしにもチャンスがあるわ』

『負けるものですか』

と騒ぎながら一斉に散っていった。

『はぁ…

 本当に良かったのかな…

 これで…』

去っていく人魚達を見送りながら海人は頭を抱えていると、

チョンチョン

何者かが海人の肩を叩き、

『え?』

それに応えるようにして海人が顔を上げると、

そこには海人に言質を迫った人魚が漂い、

『ふふっ

 乙姫様とあたし達を捨てるようなことをしようとしたら、

 みんなでお仕置きですからね。

 竜王様☆!』

と告げるや否や、

サワッ

海人の顔を尾びれで軽くなで、

シュッ!!

瞬く間に去っていってしまった。



その後、直ちに竜宮内は成行の指揮の下、

乙姫救出のための準備に取り掛かり、

短時間のうちにレストア中の戦艦より

キリーリンク制御する直接制御線の設置と、

予備動力としてマーエ姫より提供の申し出があった、

マームヘイムの宇宙船・オルファの魔導炉と

スレイヴを結ぶ回線工事を完了してしまった。

「ふぅ…

 それにしてもあのホノカって人魚は手際が良い、

 わしの第2助手としてスカウトしたいくらいじゃ」

水中にもかかわらず

地上と同じように行動する成行の指示を

即座に理解し行動をするホノカを誉めると、

「なんでも、

 竜宮一の天才人魚って話ですよ」

と成行特製の水中作業用バニースーツを着て人魚と混じって作業をしていた

あの雉沼メイド隊の隊長・美麗も誉める。

「ほぉ…

 そうか、

 うーん、あのような者が居るということは実に頼もしいのう、

 ところで、美麗殿、

 そなたを巻き込んでしまって申し訳ない」

と成行は美麗に頭を下げると、

「いえっ

 いいんですよ

 わたしも本来なら来ることなんてありえない

 この竜宮に来られたうえに、

 お手伝いも出来て、

 とても貴重な体験をさせてもらっています。

 このまま、一緒に宇宙へ行ってもよろしいですか?」

美麗は成行に礼を言いながらも、

宇宙への旅立ちに付き合うことの同意を求める。

「あぁ、

 まぁ美麗殿さえ良ければ…」

美麗の願いに成行は許可をする返事をすると、

「ありがとうございます」

美麗は頭を下げた。



カチッ!!

改造工事の最後となるコネクターの接続が終わり、

『よしっ

 出来た』

ドライバーを片手にホノカが作業の終わりを告げると、

『第125番回路、

 接続、並びに調整終わりました!!』

と声を張り上げた。

すると、

「125番回路…

 接続点検終了…

 うむっ

 これですべての作業は終わったな…

 スレイヴよ、回路切り替え終了。

 メインシステム起動!!」

戦艦の艦橋でチェック項目すべてに印がついたことを確認した成行は、

伝声管に向かって声を張り上げると、

フッ!!!

スレイヴを構成するクリスタルの前に人工精霊が現れ、

『了解しました、マスター

 直ちにメインシステムの起動を行います。

 補助動力起動…

 キリーリンク、パワー開放!』

成行の声を受けスレイヴは竜宮のパワーを開放し始めた。

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴンン…

それと同時に竜宮は鈍い音を響かせ、

全体を細かく振動させ始める。
 
ウォォォォォン…

『竜宮が目覚める…』

居城内に響き渡る唸りに似た音に

人魚達は皆立ち止まり、

そして竜宮の目覚めを実感すると。

「よーしっ

 総員、決められた持ち場に着けっ

 竜宮を浮上させるぞ!!

 補助動力10%出力上昇、

 メインシステム・Dモードに移行!!」

艦長席に着いた成行はそう命じ、

『アイサー!!』

艦橋内の人魚達は一斉に持ち場に着くと、

マニュアル通りに操作をはじめだす。

「それにしても…

 なんて手際のいい…」

竜宮浮上に向けての余りにものの手際のよさに、

することが無くなった藤一郎たちは冷や汗を掻きながら

その様子を見ていると、

「ふむ…

 Aモードに移行するにはちょっとパワーが足りないか」

艦長席のパネルに映し出される情報に成行は呟き、

「仕方が無いな…

 ”白”からパワーを拝借するか」

と決断するや否や、

ピッ!

手元のコンソールを操作し、

竜宮の宝珠・キリーリンクと時空を隔てて存在するもぅ一つの竜宮

ルルカの地に聳え立つラサランドス城内にあるキリーリンクとを連結させた。



「あれぇ?」

そのとき、ラサランドス城内オペレーションルームに

オペレーターの驚き声が響くと、

「ん?

 なにかあったか」

統括本部に異動したばかりのカンダ・グラムが顔を上げた。

「いえっ

 先ほどからキリーリンクの出力が上昇したのですが、

 ただ…

 そのエネルギーがどこかに消えているのです。

 おかしーな…

 こんなことって…」

とオペレーターは首をかしげる。

「はぁ…

 ちっ

 なんだなんだ、その返事は…もぅ」

騎兵隊上がりのカンダにとって、

このような歯に物が挟まったような返答はガマンできなく、

腰を上げると、そのオペレータのそばに立つと、

「もっと、的確に状況を説明しないか」

と怒鳴った。

「そう言われましても…

 マニュアルには無い挙動ですので」

カンダに怒鳴られたオペレーターはそう口答えすると、

「馬鹿者っ

 マニュアルに無ければ、調べろ、

 現実に異変は起きているのだろうが?

 もし、これが敵襲だったらどうするんだ」

そんなオペレータにカンダは怒鳴り、

「ひぃぃ!!」

その怒鳴り声にオペレータは縮み上がると、

必死で端末を操作し始めた。

「!!っ」

同じ頃、浮城の上層部に聳える神殿の中で、

ラサランドスを護るサーラ姫が何かを感じると顔を上げる。

「どうかされましたか、サーラ姫様?」

サーラ姫の態度に侍従たちが訳を尋ねると、

「キリーリンクが騒いでいます…」

サーラ姫はそう告げ、

「しかし、

 邪悪なものの仕業ではありません、

 この感じは…

 むしろ神聖なもの…

 いえ、私達と同じといって良いかもしれません」

と続け静かに祈り始める。

「?

 カンダ…何の騒ぎだ?」

サファンがオペレーションルームに入ってきたのは

それから程なくのことであった。

「おぉ、カインか」

「カンダ、いい加減、それは止めろよ

 いまのあたしはサファン」

長く伸びた髪を梳きながらサファンは自分の名前を言い聞かせるが、

「けっ

 何を言っているんだよ、

 俺にとってはお前はカインだ」

カンダは頑としてそれを受け付けなかった。

「まったく…

 で、何が起きたの?」

そんなカンダを苦々しく見ながら

サファンは現在発生しているトラブルについて尋ねると、

「あぁ、

 見てくれよ、

 キリーリンクのパワーがどこかに吸い取られているみたいなんだ」

と状況を説明する。

「キリーリンクのパワーが吸い取られている?

 スレイヴはなんて言っているんだ?

 その辺の監視はしているんだろう?」

カンダの説明にサファンはそう指摘すると、

クルリと背を向け、

スレイヴの所へと続くドアに手をかざした。



『現在、最高特権にてアクセスしているユーザーからの指示です』

”白”と書かれた札の下がるコンソールの前に立つ、

カンダとサファンに姿を見せた人工精霊はそう告げると、

「最高特権?」

二人はそう言いながら顔を見合わせる。

「誰です?

 その人は?」

スレイブが作り出す精霊に向かってサファンは問いただすと、

『ダン・イルグース様です』

人工精霊はそう返事をする。

「ダン・イルグース…

 それって…

 まさか、ドクターダンでは…」

人工精霊より聞かされた名前にサファンがそう呟くと、

「まさか…

 だってドクターダンって言ったら大昔の人だぞ、

 なんで、そんな人がいまスレイヴにアクセスしているんだ」

サファンの言葉にカンダはそう言い返すと、

「でも、

 スレイヴは嘘はつかないし、

 つけないよ。

 スレイヴ…

 間違いなくダン・イルグースって人なんだな」

『はい』

「バカな…

 あり得ない」

「じゃぁ、

 ラサランドスのエネルギーはどこに向かっているんだ?」

あくまで否定するカンダに対してサファンは

キリーリンクのエネルギーの向かっていく先を尋ねると、

『我々ラサランドスとは対極の存在である、

 ”黒”という名のキリーリンクに向かって流れています』

と返事をした。

「”黒”?」

「黒ってなんだ?」

「ラサランドスと対称の存在って?」

スレイヴの説明に二人は驚きながら顔を見合わせた。



ゴゴゴゴゴゴゴゴンン…

『キリーリンクの出力さらに上昇!!』

『エネルギー密度、臨界点突破』

『キリーリンク、Bモードに移行』

『Aモード投入まであと300』

浮上に向け出力を上げる竜宮、

その上部に据え置かれたレストア戦艦の艦橋に人魚達の緊張した声が響き渡る。

「うむっ

 竜宮と地球とを別け隔てている結界を解除、

 竜宮、通常海底に移動せよ」

キリーリンクのモードがBモードに移行したのを受けて、

成行は竜宮と地球とを別け隔てている結界の解除を指示すると、

『アイサー!!

 結界、解除いたします』

その指示にオペレーションをする人魚は結界の解除操作を行う。

すると、

ブンッ!!!

竜宮の周囲を取り囲んでいた結界が姿を消し、

フッ…

普通の海底が姿を見せる。

「さぁて、

 これで竜宮は普通の海底の中だ、

 人間達のソナーにも反応するぞ」

海底を見ながら成行はそういうと、

艦長席へと向かい

そこのコンソールに映し出されるメインシステムの状況をひと目みた後、

「白と黒…二つの力が一つになったとき、

 真の力を生み出す。

 よーしっ

 Aモードに移行っ

 竜宮っ

 浮上せよ!!」

と命令を下した。

『アイサーっ

 メインシステムAモードに移行!!

 キリーリンク出力最大!!!

 竜宮浮上します!!』

人魚達は復唱し、

そして、レバーを赤字で記した位置にまで引き下げると、

キィィィィィン!!!!

竜宮の内部より甲高い音が響き渡る。

すると、

バキバキバキバキ!!!

居城の至る所に亀裂が入り、

その亀裂が広がっていくと、

ズゴゴゴゴゴゴン!!!

まるで、古い殻をはぎ落とすように、

居城の外壁が次々と剥がれ落ち、

竜宮はあるものの姿へと形を変えていく。

ゴゴゴゴゴゴゴ…

「うわぁぁぁ!!!」

水煙が濛々と立ちこめる中、

その光景に沙夜子が声を上げると、

ズンッ!!!

グ・グ・グ・グ

ググググググ…

身軽になった竜宮は沸き起こる水煙を

吹き払うかのように一気に上昇をはじめ、

やがて光輝く海面へと近づき、

太陽の光が浮上する竜宮を照らし始めた。




ザザザザザザザ…

「おっおいっ見ろ!!」

「海面が盛り上がってくるぞ」

「じっ地震か?」

「まさか津波?」

竜宮浮上による海面の変化を漁船で操業中の漁師は驚き、

そして

「すっすぐに118番に連絡だ!!」

と騒ぎながら一斉に船を変化する海域から避難させ始める。

そして、

ザザザザザ…

怯える漁師たちを尻目に海面はさらに盛り上がると、

サブン!!!

その中より旧海軍の戦艦の艦橋が姿を見せ、

さらに上を向く砲塔が姿を見せた。

「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

「船幽霊だぁぁぁ!!!」

「戦艦の幽霊だぁぁぁ!!!!」

それを見た漁師は皆震え上がり、

「もっもしもし、

 かっ海上保安庁?

 ゆっ幽霊が…

 軍艦の幽霊がでたんです!!」

と船舶電話に向かって思いっきり怒鳴った。



『竜宮っ

 海面に浮上します!!!』

艦橋の先端が海面に出たとき、

人魚の一人がそう叫ぶと、

「よしっ

 フライホイール接続!!
 
 魔導炉一斉点火せよ!!!

 竜宮、宇宙に向け発進!!!」

艦長席に座る成行は顔をドアップにして叫び、

『アイサーっ

 魔導エンジン点火っ

 竜宮っ

 第1宇宙速度にて上昇します』

それに応えるようにして人魚はオペレーションを行った。

すると、

ドォォォォォォォォン!!!!

海面に浮上する戦艦の艦橋の後部より数百メートルにも達する水柱があがると、

竜宮は太陽が輝く空中へと躍り出た。



つづく





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