風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第43話:恐怖、機動シーモンキー】

作・風祭玲

Vol.556





『で、どうするんだ?』

竜宮内に突入したものの、

実質上遭難状態になっている猫柳と猿島の両潜水艦を指差しながら、

海人が藤一郎に善後策を訊ねると、

「どうするって…」

藤一郎は声に詰まる。

すると、

「ねぇ、

 あの中にも人が居るんでしょう、

 助けなくっていいの?」

激突の衝撃で本体より切り離され

切断面より空気を漏らし続けている百日紅の後部艦体を夜莉子が指さすと、

「そうよっ、

 早く助けないと、

 ねっ成行博士っ

 これよりももっと大きな空気って作れるんでしょう?」

自分達が入っている気泡を指差して沙夜子が成行に訊ねた。

「まっ…

 出来なくはないが…」

困惑した口調で成行は可能であることを返事すると、

パチン!!

と指を鳴らしてみせる。

すると、

ボコボコボコ!!!

たちまち後部艦体に泡がまとわりつき、

ボコン!

大きな気泡が艦体を包み込んでしまった。

「よしっ

 じゃぁ行こう!!」

それを見た夜莉子と沙夜子が駆け出した途端、

「うわっ!!」

気泡の動きに乗り遅れた藤一郎はひっくり返り、

「なんで、僕が…」

と文句を言いながら起き上がる。

すると、

「良いじゃないですか?

 人助けというのも」

文句を言う藤一郎に対して美麗は笑みを浮かべた。



程なくして切り離された百日紅後部より

逃げ遅れたと思われる10人ほどの乗組員達と

動力室付近で捕らえられていた人魚戦士・サーヤが発見救出され、

また乗組員達は尋問のため藤一郎の前に連れてこられた。

「さて、

 僕は犬塚家次期当主の犬塚藤一郎だ。

 一つ聞きたいことがある。

 お前達、この竜宮に何しに来たんだ?」

メイド衣装を翻しながら助けられた乗組員に向かって藤一郎が尋ねてみるものの、

「いやっ

 私達は動力系のメカニックなので作戦のことなど詳しいことはわかりません」

「その辺は奥様か幻光様がご存知のはず…」

と返答が返ってくるだけだった。

「奥様って、

 なんだ、猿島のおば様も乗っているのか、この潜水艦に…」

その言葉に藤一郎が驚きながら聞き返すと、

「あっはい

 艦橋の方に幻光様と居ましたので」

と乗組員は返答する。

「おば様って?」

彼らの言葉の意味を沙夜子が尋ねると、

「うん、

 猿島家の奥様だよ、
 
 こんなところに来るだなんて…
 
 一体なにをしに来たんだ?…」

藤一郎は首を捻りながら考え込んだ。

すると、

「そういえば…

 不老不死がどうのこうのって幻光さまが言っていたよなぁ…」

「あぁ…

 言っていたな…
 
 なんでも人魚の血肉は不老不死の効能があるって言っていたっけ」

と乗組員達は話し始める。

『ちょちょっと、待ってよっ

 じゃなに?
 
 あなた達ってあたし達を食べるために?』

その話を聞いた水姫がすかさず割り込むと、

「あっ、

 いや、忠義さまがそう口走っていただけで、
 
 私達はそんな事には興味はありません」

と乗組員は慌てて首を横に振った。

「ねぇ犬塚君、

 どうする?」

「どうするってもねぇ…

 これは本人に聞くしかないか…」
 
沙夜子の問いかけに

藤一郎は横たわっている百日紅の本体を親指で指差すが、

「でも、従わなかったらどうするの?

 まさか、ここで戦争って訳には行かないでしょう」

と夜莉子が指摘した。

「あっそうか…

その指摘に藤一郎が頭を掻くと、

『けっ、そんなもん、

 実力行使すればいいじゃねーかよっ』

やり取りを聞いていた海人がそう言いながら手に光弾を作ろうとすると、

『いいの?』

水姫が一言口を挟み、

大勢の人魚達が集まっている居城を指差した。

『いっ…』

『いま、この場で海人が竜王としての力を使った場合、

 あの人魚たちがどういう反応をするか楽しみね』

引きつる海人に向かって嫌味たっぷりに水姫が言うと、

『くそっ…』

あげかけた手を海人は引っ込める。

「(ぽしょ)何かあるんですか?」

そんな海人の姿に沙夜子は小声で水姫に訳を尋ねると、

『あぁ…

 もし、海人が力を使った場合、
 
 あの人魚達は海人…いえ、竜王の力を求めて一斉に襲い掛かってくるわ、

 下手をすると、食い殺される可能性もあるのよ』

と水姫は涼しい顔で返事をする。

「うひゃっ」

その返事に沙夜子が縮み上がると、

『ふふっ

 あなたも、女の子だから判ると思うけど、

 ”飢えた女”って怖いわよぉ』

そんな沙夜子に向かって水姫がさらに脅しをかけると、

「とにかく僕が行って、

 取り合えず降伏勧告して様子を見よう。

 あっそうだ、
 
 成行博士っ
 
 僕だけコレ、切り離せませんか?
 
 何かあったら危ないですから」

百日紅に降伏勧告をすることにした藤一郎が成行に気泡の切り離しを要請すると、

「ほいほい」

成行は二つ返事し、

パチン!!

指を鳴らすと、

プチッ!

瞬く間に気泡は2分割される。

「よしっ」

身軽になった藤一郎は横倒しになっている百日紅の艦体に取り付き、

そして、艦橋部に移動していくと、



「あーっ

 聞こえるかっ
 
 猿島の潜水艦乗組員に告ぐ、
 
 僕は犬塚家次期当主・犬塚藤一郎だっ
 
 知っての通り、
 
 お前達の潜水艦は真っ二つに折れていて軍事行動は一切出来ないぞ、
 
 大人しく降伏するんだ。
 
 後ろ側に居た人たちは僕の方でさっき救出した。
 
 全員、地上まで送ってやる」

と降伏勧告を告げた。

「あれで決着がつくのかな?」

「うーん、どうでしょうか…」

「どうも、徹底抗戦しろって嗾けているみたいにしか聞こえないけど」

藤一郎のその台詞を聞いた沙夜子たちがヒソヒソ話をしていると、

スーッ

一人の人魚が居城より舞い降り、

『あなた方は地上の人間ですね』

と話しかけてきた。

「え?」

「あっ」

「えーと、誰なのかな?」

降りてきた人魚の姿に沙夜子たちは驚くと、

『こらっ

 地上人たちよっ
 
 控えなさい。
 
 この方はマーエ姫様なるぞ』

とやや歳の行った人魚が怒鳴りながら降りてくる。

『エマン!!

 いきなりそう言うのは…』

その声に最初に降りてきた人魚・マーエ姫は困惑しながら注意をすると、

「マーエ姫?」

エマンの声を聞いた成行はマーエ姫を凝視し、

そして、

「あぁ、マームヘルムの王女様か、

 随分と大きくなったの」

と感心しながら大きく頷いた。

『え?

 私のこと、
 
 知っているのですか?』

成行の声にマーエ姫は驚くと、

「あぁ、

 お前さんが小さな稚魚だったときに一度なっ
 
 ふふっ
 
 そーか、もぅそんなに大きくなったか」

と成行は感慨そうに目を細めた。

「ちょっと、

 沙夜子ぉ

 聞いた?今の」

「うっうん、

 稚魚の頃って
 
 あの博士って、一体何なの?
 
 助手のあなたなら何か知っているんじゃないの?」

と沙夜子は成行に付き従うバニー1号に事情を尋ねる。

しかし、

「うーん、

 そう言われましても…
 
 私にも何のことなのか?」

バニー1号は困惑した顔をしてみせた。

「まったく、

 ただのバニーガール好きの博士じゃぁなさそうねっ
 
 成行って人は」

ますますその正体に疑念を持った沙夜子はジッと成行を見つめていた。



「げっ幻光様っ」

「いかがしたらよろしいので」

突然の降伏勧告に百日紅の中は大騒ぎになり、

その返答について乗組員全員の注目を幻光忠義は一身に浴びていた。

そして、

ダァン!!

「おのれ、犬塚め…
 
 興味が無いフリをしながら先回りするとは、
 
 くっそぉ…
 
 この外でせせら笑いながら私達を見ていると思うと…
 
 えぇい!!
 
 忌々しい奴め!!」

やっとの思いで竜宮にたどり着いたものの、

しかし、予想外のトラブルのために当初の目的を果たせない状況に忠義は苛立ち、

そして、そのやりきれない思いを横にそそり立つ本来の床に向かってぶつけた。

「忠義っ!!

 どうするのです」

そんな中、猿島雪乃が決断を迫ると、

クルリ!!

忠義はいつものポーカーフェイスに戻り、

「お任せください奥様っ

 まだ終わったわけではありません」

と自信たっぷりに返事をした。

「なにか手段があるのですか?」

忠義のその言葉に雪乃は怪訝そうな目をすると、

「ふふふっ

 奥様っ

 この百日紅は二重構造になっておりまして、
 
 いま我々が居る艦橋部分は本体から切り離して自立できる仕組みになっております。
 
 では、ご覧に入れましょう。
 
 これこそ、猿島家の技術の結晶!!
 
 モビルアーマー・シーモンキー!!
 
 いざ発進!!」

忠義は声高に叫びながら、

”触るな危険”と言う札が括り付けてあるヒモを横に引っ張って見せる。

すると、

ババババババババババ!!!!

横たわる百日紅の艦体を切り裂くように火薬が炸裂し、

ギー

メキメキメキ!!!

引き裂くような音ともに艦体の一部が盛り上がり始めた。

そして、

バゴン!!!

ついに内部より破裂するような音が響くと、

グッググググググ!!!

潜水艦の艦体より二本のアームが姿を見せる。

「なっなんだぁ?」

腕を生やした潜水艦の異様な姿に皆が唖然としていると、

『くふふふふっ

 これで終わりではないぞ…』

忠義の声がまた響き、

ガゴン!!

潜水艦から伸びたアームの指が火薬によって裂けている艦体に取り付くと、

ベキベキベキ!!!

自ら艦体を引き千切りはじめた。

「うっうわぁぁ

 なっなんか…

 グロっぽーぃ」

その光景に夜莉子は口を押さえながらそう呟くと、

ギギギギギギギギ!!!

バキバキバキバキ!!!

ついに百日紅は大小5つのブロックに分離してしまい、

その中より獣を思わせる不気味な影が姿を見せる。

「なっなんだぁ!?」

その影の姿に藤一郎が驚くと、

『はーははははははは!!!

 犬塚の当主よっ

 我が猿島はこの程度のことで白旗を上げはしないぞ!!』

と笑い声とともに忠義の声が響き渡り、

ガゴン!!

ガゴン!!

バコン!!

ガチョン!!

クルクルと姿を見せた影の上下左右がそれぞれ回転し、

また回転にあわせて大きさを変えていく。

そして、

ギンッ!!

影の真ん中に巨大なモノアイが点灯すると、

「猿島家、最終兵器!!

 モビルアーマー・シーモンキー!

 いざ出陣!!」

銀色に輝く戦闘服に身を包み、

SFチックなヘルメットをかぶった忠義はそう声を張り上げると

水無月高校で櫂たちが遭遇したあのモビルスーツ

モンキースィーパーとは比べ物にならない巨大ロボットが姿を見せた。

「うひゃぁぁぁ…

 シーモンキーだってぇ」

「なんか、ダサイね…」

『ほぉ脚が無いんだ』

立ち上がる巨大ロボットを見上げながら夜莉子や海人はそう評すると、

『ふふふっ

 脚なんて海の中ではただの飾り、

 お前達にはわかるまい』

シーモンキーのコクピットに座る忠義は自信たっぷりにそう言い、

『さて、

 乙姫はどこだ?
 
 ここに居るんだろう?』

と尋ねながら、光るモノアイを人魚達が集まっている居城上部へと向ける。

「まずいわね…」

その様子に水姫が危機感を持った途端、

キュィィィィン!!!

シーモンキーのウェスト部分でベルトのようにグルリ360°備え付けられている砲口のうち、

居城を向いている砲門数個が光を発すると、

ボヒュッ!!

その砲口より光の帯が放たれ、

ドォォォォン!!

瞬く間に居城の一部が爆発と同時に崩れ落ちた。

「乙姫様のお城が!!」

その光景に沙夜子が思わず叫ぶと、

『はーははは

 どーだ、
 
 苦労に苦労を重ねて開発したメガよりも1ランク上、

 水中でも威力を発揮するこのギガ粒子砲の威力は!!』

忠義の自信に満ちた声が響き渡り、

「くっそぉ!!」

「こんな化け物を隠し持っていただなんて」

シーモンキーの圧倒的なパワーの前に藤一郎たちは固まっていた。



「ふふふっ

 すっかり、このシーモンキーのパワーに圧倒されているな、
 
 では、乙姫をゆっくりと探させてもらおうか…」
 
モノアイが映し出す藤一郎たちの姿をモニター越しに見る忠義は

優越心に浸りながら呟くと、

「では奥様っ
 
 参りましょう」

操縦席の後ろにあつらえたソファーでキセルを揺らせる雪乃に声をかける。

すると、

「忠義っ

 やっておしまい」

年に似合わず露出度の大きい衣装を身に着けた雪乃はそう指示をすると、

「畏まりました。

 奥様っ」

その指示に忠義は身を震わせ、

そして、手にしたレバーを思いっきり引いた。



『くっそぉ』

一方、圧倒的な攻撃力を見せ付けたシーモンキーの姿を海人は苦々しく見つめていると、

ガゴン!!

シーモンキーの肩より出ている二本のメカメカしい腕がさらに伸び、

それを合図に、

キュォォォォォン!!!

ゴワァァァァ!!!

下半身に当たる部分についている幾本ものフード付スクリューが回り始めると、

フワッ!!

シーモンキーが居城目掛けて上昇を始めだした。

「あっだめっ!!」

居城に向かって動き出したシーモンキーを追って

反射的に雷竜扇を手に沙夜子は追いかけようとするが、

「あっちょっと…」

夜莉子や美麗も居る気泡の中で飛び出したために、

ベチン!!

沙夜子は気泡の壁にものの見事に激突してしまった。

「痛ーぃ」

鼻っ面を押さえながら沙夜子が悲鳴を上げると、

『えぇぇいっ!!

 くそっ!!

 ここで、暴れるなっ!!』

バキッ!!

の怒鳴り声とともにシーモンキーに取り付いた海人が胴体から伸びるアームをへし折るが、

『くくくっ

 何をするかと思えばその程度の攻撃か…』

忠義は余裕たっぷりに呟き、

ピッ

操縦桿の脇にある液晶ディスプレイを指で押した。

すると、

ジャコン!!

折られたアームに変わって新しいアームが数本、胴体より伸びると

瞬く間に海人を掴みあげる。

『しまった!!』

『ふははははは!!

 お邪魔虫は捕まえて潰すに限る!!

 さらばだ!!』

バシュッ!!

忠義のその声とともに海人を捕まえたアームはシーモンキーから切り離され、

ロケット花火のごとく勢いよく上昇していった。

そして、

カッ!!

ズムッ!!

竜宮の上空で自爆するものの、

『げほげほっ

 てめーっ
 
 よくもやってくれたな』

自爆に巻き込まれたにもかかわらず

かすり傷の一つついていない海人は

怒り100%モードでシーモンキーを見下ろし、

『この俺をここまでコケにするとはいい根性だ。

 これでも喰らえ!!』

の声と同時に竜気に満ちた光弾を一気に放つ。

『あっあのバカ!!!』

それを見た水姫が思わず叫び声をあげるが、

けど、キレてしまった海人にはその声は届かず、

また、

『面白い!!

 生身でこのシーモンキーに立ち向かう愚かさを教えてあげよう』

忠義も海人が仕掛けてきた戦いに打って出た。



「ねぇ、この勝負…

 どっちが勝つのかな?」

「うーん、

 モビルアーマーvs竜王か…

 さながら南海の決闘って所かな…」

目の前で繰り広げられる戦いを見ながら沙夜子・夜莉子と美麗が眺めていると、

『あれが竜王様なのですね…』

海人の戦いをジッと見つめながらマーエ姫が呟く。

『まっまぁそうなんだけどね…

 アイツあんなにムキになって…
 
 後のこと…ちゃんと考えているのかな』

水姫は決着がついた後に起こるであろう騒動を気にしつつ、

居城の中よりこの戦いを注視している人魚の群れを見ていた。




「むっ

 あれは…

 サルではないか、
 
 くっそぉ、
 
 あんなものまで持ち込んでいたのか」

一人の人間相手にビーム砲を撃ちまくるモビルアーマーの様子を

シーキャットの後部監視カメラで見ていた猫柳泰三は

先を越された怒りで頭を真っ赤にしていた。

すると、

「ここから抜け出す手が一つある」

と原子力(ハラコチカラ)博士が提案をしてきた。

「ん?

 脱出できるのか?
 
 この状態から?」

「うん、まぁ可能性の一つだけどな」

期待を込めて尋ねる泰三に原子(ハラコ)はそう返事をすると、

「つぶれている艦首に原子(ハラコ)魚雷が一本無傷で残っている。

 これを自爆させるのだ。
 
 そうすれば爆発の圧力と、
 
 周囲岩盤の破壊でこのシーキャットは抜け出す事が出来る」

と断言した。

「確かに…

 でも、艦内で原子(ハラコ)爆弾を爆発させると艦の被害が大きすぎないか?」

原子(ハラコ)博士の提案に対して、

泰三は納得はするものの、

しかし、疑念も同時に指摘すると、

「ふふふっ

 確かに、危険ではあるが、
 
 しかし原子(ハラコ)爆弾の特性、
 
 そう、生物には一切傷をつけないという特性を利用するのじゃよ」

と原子(ハラコ)は返答をした。

「そうか、なるほど!」

その返答に泰三はハタと手を打つと、

「おいっ、

 艦首ブロックとの境界にありったけの食料を積み上げろ!!

 早くしろ!!」

と指示を出し、

そして、瞬く間にシーキャットの艦首ブロックとの境界にありったけの食料が積み上げられると、

「よーしっ

 艦長っ
 
 原子(ハラコ)魚雷の自爆と同時に生きている補助動力炉を使い
 
 シーキャットをバックさせるのだ」

シーキャット艦長・貝枝に指示をした。



一方、

『くっそぉ!!

 これでも喰らえ!!』
 
シュボッ!!

『なんのっ

 はーははは
 
 無駄無駄無駄、
 
 お前の動きなどすべてお見通しだ。
 
 さっ悔しがれ、
 
 わめけ、
 
 泣け、
 
 ふっふっふっ
 
 このシーモンキーに戦いを挑んだ愚かさに気づくのだ!!』

モビルアーマー・シーモンキーと対戦している海人だったが、

しかし、予想外のその機動性と圧倒的なパワーを見せ付けられ、

苦戦を強いられていた。

『くっそぉ!!

 あんにゃろー…』

崩れ落ちた建物の影に潜り込み、

海人が息を整えていると、

『くっくっく

 それで隠れたつもりか?
 
 わたしには高感度の生体センサーがあるのだよ、
 
 ほら、
 
 こそっ!!!』

ズシャァァァン!!

隠れている海人の位置を生体センサーで的確に把握していたシーモンキーは

休む時間も与えることなく攻撃をかけると、

『ひゃぁぁぁ!!!』

絶え間ない攻撃に海人は次第に息が上がってくる。

「助けなきゃ…」

押され気味の様子に夜莉子が駆けつけようとすると、

スッ

水姫の手が伸び、

『いいえっ

 それはいけません』

の声と共に押し留めた。

「なんで?

 ピンチじゃないっ
 
 助けなくていいのですか?」

そんな水姫に夜莉子は声を荒げると、

『これは海人の戦いです、

 あなた方は一切手を出さないでください』

と水姫は夜莉子に告げ、

『海人ぉ!!

 あたし達は手を出さないからねっ、
 
 あんた一人で決着をつけるのよ!!』

戦いの最中の海人に向かって怒鳴り声を上げた。

『うるせー!!

 そんなことは判っているよっ
 
 水姫もくだらない助太刀をするなよっ
 
 したら、お前、ぶっ殺すからな』

水姫の声に海人は血気盛んに反論すると、

「まっ

 強がり言っちゃって!」

それを聞いた夜莉子は呆れた顔をする。

しかし、状況はまったく好転はしてはいなかった。

『ぜはぁ

 ぜはぁ
 
 くっそぉ!!
 
 ちょろちょろと…
 
 少しでもいいからあの動きが止まれば…』

巨大な身体のワリには小回りが利くシーモンキーの動きに海人は焦りを感じ、

そして、その焦りは一方で、

「ふんっ

 そろそろとどめと行くか…」

シーモンキーを操縦する幻光忠義に隙を与えていた。

「さぁこれで、フィニッシュだ!!」

ピピピッ!!

居城の基礎部に深く突き刺さるシーキャットを背に

千手観音のごとく無数の腕を伸ばしたシーモンキーは

海人目掛けてギカ粒子砲の照準を合わせると、

キュォォォォン!!

両肩の砲口にエネルギーを集め始める。

そして、

『私の前から消えなさい!!』

の声と同時にギガ粒子砲のトリガー引こうとしたとき、

「爆破!!」

泰三の声が響くのと同時に

カッ!!!

ズズズズズズズズズンンンンン!!!!

背後のシーキャットの周囲で大規模な爆発が発生すると、

シーキャットがバックの状態で飛び出し、

シーモンキーに向かって突進してきた。

「んなにぃ!!!」

突然のことに忠義は唖然とすると、

『いまだ!!

 喰らえ!!!
 
 このやろう!!!』

シーモンキーの注意が背後より迫るシーキャットに向けられた事に

海人はチャンスと見るや否や、

特大の光弾をシーモンキーに向かって放つ。

「(はっ)しまった!!!」

背後よりシーキャット、

そして前より光弾の挟み撃ち状態になったシーモンキーは、

一瞬早く到達した光弾に弾き飛ばされると、

そのままシーキャットの艦尾に激突し、

伸びた無数の腕がシーキャットの艦尾部分に二重三重に絡まる。

『ちぃぃ!!

 邪魔だぁぁぁ!!!』

ギュォォォン!!!

絡まり動かなくなった腕を忠義は力ずくで動かそうとするが、

しかし、

メキメキメキ!!!!

絡まる腕は解けることなく逆にシーキャットの艦尾部分を締め上げ引きちぎり始めた。

「なっなんだ!!!」

脱出に成功したものの、

突然響き渡り始めた身を引き裂くような音に泰三は声を上げると、

「大変ですっ

 艦尾に絡みついたサルのロボットが当艦を破壊しようとしています」

と報告があがる。

「おのれ!!!

 サルめっ
 
 そこまで邪魔をするのか

 構わんっ
 
 踏み潰せ!!」

悲鳴を上げる艦体の音に切れた泰三は声を張り上げると、

「どけっ!!」

自らシーキャットの操縦桿をとり、

それを思い切り押し倒した。

すると、

ゴゴゴゴゴ!!!

シーキャットはシーモンキーが取り付く艦尾を下に降下し始めた。

「なっなんだ!!!」

突然シーキャットが降下し始めたことに忠義は腰を浮かせ、

上を見ながら混乱すると、

「たっ忠義ぃっ

 まっ前!!」

ソファーの雪乃が声を上げ、モニターを指差す。

「前って…

 んなにぃ!!!」

モニターに映し出される迫ってくる海底に忠義の目が釘付けとなり、

「うわっ

 逃げろ!!」

迫ってくるシーキャットとシーモンキーの姿に

藤一郎やマーエ姫たちが慌てて逃げ出した後、

ズズズズズンン!!!

シーキャットはシーモンキーを押しつぶすように艦尾を下にして海底に激突すると、

砂埃を舞い上げ、破壊された艦首部分を上にして直立をする。



「まったく無茶な奴らじゃ」

その様子に成行は呆れながら声をあげていると、

「ねぇ

 中の人…

 大丈夫かなぁ…」

まさに惨事と言っていい、この有様に夜莉子はポツリと呟く。

『けっ

 散々手こずらせやがって』

ゴォォン!!

直立状態のシーキャットの艦体を海人は悪態をつきながら蹴飛ばすと、

メキメキメキ!!!

その艦尾部分に亀裂が入り、

バキッ!!

ガゴォォォン!!

ついに艦尾部分が切断されてしまうと、

支えを失ったシーキャットはゆっくりと回転しながら横転をする。

「おっ終わったの?」

すべてが終わった静けさの中、

恐る恐る夜莉子がたずねると、

ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

また起動音が響きわたると引きちぎれたシーキャットの艦尾部分がゆっくりと持ち上がり、

その下よりシーモンキーが巨体を震わせ浮上してきた。

「うわぁぁぁ〜っ」

「直撃を食らったはずなのに」

「しぶとい」

その衝撃の光景に皆の度肝が抜かされるが、

しかし、

『まっまだまだ…

 まだこの私は負けはしない!!!』

と忠義の声が響き渡らせるシーモンキーの姿は、

あれほどあった腕は3本だけが残り、

また、胴体部分も押しつぶされたためにベコベコになっていた。

『本当にしつこいやっちゃのぅ…』

その様子に海人は呆れていると、

ヒュゥゥゥゥン…・・・・・

シーモンキーを持ち上げていたローターが突然止まり、

『あぁ!!!

 バッテリーが!!!』

悲痛な忠義の声を残して、

フワッ

ズゥゥゥゥゥン!!!

シーモンキーは持ち上げていたシーキャットの後部に

再び押しつぶされるように沈んでいった。



「ふっどうやら、

 この勝負っ
 
 ついたようじゃのぅ
 
 さっ負けた方は退場してもらおうか」

猫柳、猿島双方からの攻撃が無くなった事に成行は腰を上げると、

パチンッ!

指を鳴らした。

すると、

バリバリバリ!!!

潜水艦の周りに放電する球形の球が姿を見せ

瞬く間に切断された潜水艦や潰れたモビルアーマーを包み込んでしまうと、

シュボッ!!!

一気に萎ませたかのように消えてしまった。

「え?」

「うそっ」

あまりにも突拍子のない結末に皆が唖然としていると、

「くっくっくっ

 敗者は強制送還じゃ
 
 ほれ、ウルトラクイズでもそーだったじゃろ?

 まっ本来ならここで罰ゲームの一つでもしてもらうところじゃが、

 あの有様ではそれもキツかろうて」

成行は笑みを浮かべてそういうと、

「さて、

 お前達、

 次の仕事に取り掛かろうか」

そう言い残して居城に向かいはじめた。



そのころ地上では久々の星空の下、猫柳邸は煌煌と輝いていた。

「おーぃ、

 シーキャットとはまだ連絡がつかないのか」

「いやっ

 さっきから各周波数にて呼びかけをしているのだが、
 
 なにも返答はない」

猫柳邸内のオペレーションルームでは

連絡の取れなくなったシーキャットに向けて

幾度も交信が試みられるが、

しかし、いくら呼びかけてもその返答は返ってこなかった。

「まさか、遭難したのでは?」

「いやぁ、それはないだろう」

「海上保安庁に連絡をしたほうが良いんじゃないか?」

「この場合、海上自衛隊じゃないのか?」

交信が出来ないシーキャットに対して様々な憶測が乱れ飛び、

そして、それは徐々にだが最悪のことを想定したものへと変わってしまっていた。

と、そのとき、

ズズズズズズン!!!

猫柳邸内を強烈な振動が襲い掛かると、

ゴゴゴゴゴゴ…

満天の星空に見る見る暗雲が立ちこめ、

そして、雲が渦巻き始める。

「じっ地震か?」

激しく揺れ動く振動に皆が浮き足立つと、

ザザザザザザ!!!

渦の中心より滝のような水が流れ落ち始めた。

『緊急!

 緊急!!

 てっ邸内に浸水!!』

『こっこれは…

 しょっぱいっ
 
 かっ海水だ
 
 うっわぁぁぁぁぁ!!』

警戒に当たっていた警備員より報告がオペレーションルームに響き渡る。

「何が起きた!!

 おいっ

 状況を説明しろ!!」

机にしがみつきながら警備員に説明を求めるが、

「ザッザーーーーー」

警備員は叫び声を残したあと通信が途絶えてしまった。

「おいっ!

 もしもし
 
 もしもーーーーし」

連絡を絶ったことにオペレーションルームに緊張が走る、

そして、その直後

ゴォォォォォォォォォォォ!!!!!!

地響きというより、

導水管を水が伝ってくるような轟音が響き渡ると、

ゴバッ!!!

猫柳邸上空に巨大な水の華が咲き、

その中心がゆっくりと伸びると巨大な水柱が立ち、

波紋を広げるようにして巨大津波が邸内を飲み込み始めた。

「うわぁぁぁぁ!!!

 日本沈没だぁ!!!」

「えぇい、

 船はどこだぁ!!」

「オールをかせ!!」

たちまち邸内は押し寄せる海水で大混乱に陥り、

同時に規模を誇っていた猫柳私設空港も、

また邸内を網の目のように走る私設新幹線も次々と閉鎖や不通になっていく。



「”さくら”っ何をしているのっ

 避難よ」

「お姉さまは先に行ってくださいっ

 猫柳メイド隊華組の名誉にかけて私はここで水を止めますっ」

ムンッ!!

ムキッ!!

避難を呼びかける声に猫柳メイド隊の”さくら”は

自慢のマッスルボディを晒すと、

押し寄せた海水によって開きかけている扉を押し返した。

「うぎぃぃぃぃぃぃ!!!」

「くぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

身体をはちきれんばかりに膨らませポニーテールの髪を揺らしながら

”さくら”は泰三の部屋を守るために必死で押し返すが、

しかし、所詮は少女…

”さくら”の怪力も長続きせず、

「うがぁぁぁぁぁ…

 もっもぅ…だめぇぇぇぇ」

ついに力負けしてまうと、

バァァァンン!!

ズドドドドドド!!!

水はドアを破り、ドアもろとも”さくら”を押し流して行った。

その中で、

ガシャーン!!

バリーン!!!

猫柳泰三が世界中から集めてきた魚のコレクションは

次々と収めていた水槽が倒れ破損すると、魚達は一斉に逃げ出し、

そして、

ガタン!!

「乙姫」と書かれた札が下がる円形の水槽が大きく傾き、

流れ込む水の中へと消え去っていくと、

ゴォォォン!!

水没してゆく猫柳邸の上空に

艦首と艦尾を失い満身創痍のシーキャットが飛び出すと、

邸内に向けゆっくりと落下していく。



また、同じ頃、猿島邸もやはり空から降ってきた大量の海水によって水没し、

間一髪脱出し呆然とする関係者の前で

猿島の技術の粋を集めて製作したモビルアーマー・シーモンキーが

水没した本宅を押しつぶす形で沈んでいた。



つづく





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