風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第42話:成行博士の謎】

作・風祭玲

Vol.553





シーキャットの竜宮激突は短時間のうちにアトランの人魚であるミール達にも知らされた。

「竜宮で事故が起きたって本当?」

なぞの全校生徒集団バニーガール化現象により

閉鎖されている水無月高校の職員室にミールの声が響き渡ると、

「うん…

 いま調べているところ…」

その声に液晶ディスプレイを見つめながらリムルは返事をする。

学校の閉鎖以降、

ミール達は校内管理を名目にこの職員室をアトラン人魚の拠点として整備していたのであった。

「何が起きたって言うの?

 一体…」

身を乗り出しながらミールが訊ねると、

「うん…

 天界のN2超時空振動弾の影響がまだ残っているから、
 
 推測も混じるけど、
 
 どうも、あの猫柳とライバルである猿島の潜水艦が

 竜宮と地球とを隔てているトンネル・竜道に潜り込んだみたいね」

「潜り込んだっていつ?」

「N2超時空振動弾が爆発するちょっと前みたい…」

「えぇっ

 じゃぁ!!」

「そうっ

 恐らく爆発に巻き込まれ…
 
 その影響で竜宮に何らかの被害が出たみたいね。
 
 なんでも、竜宮の門が崩壊し、
 
 さらに、市街地にも大きな被害が出ているそうよ」

とリムルは推測を交えながら被害状況を説明する。

「うひゃぁぁ

 大惨事じゃない。
 
 乙姫不在の状況でこの事態は…
 
 で、乙姫の居場所ってわかったの?」

それを聞いたミールは先日以来行方不明になったままの乙姫の消息について訊ねると、

「ふふっ…」

「あっ知っている顔をしているな」
 
リムルが浮かべた笑みをすかさずミールは指摘する。

すると、

「乙姫はもぅこの星には居ないわよ…」

リムルはそう言いながら天井を指差した。

「この星に居ないって…

 え?
 
 宇宙?」

上を指し示す指を追いかけながらミールは上を見ると、

「爆発前にスペースシャトルに乗って飛んでいったみたいだから、

 さて、いまはどの辺に居るのかなぁ
 
 いいわねぇ、宇宙旅行が出来て…」

リムルは頭の後ろに手を組みながら天井を見つめた。



『ふんっ

 散々渋っておきながら、
 
 一度風が吹けば今度は尻を叩いてさっさと行けとは…
 
 わたしをバカにしているのか』

出撃を渋る地球防衛軍本部に対して実力行使を行い、

係留されていた浮きドックを拡散波動砲にて吹き飛ばしたものの、

しかし、宇宙戦艦ヤマモトはその後直ちに出動してきた警備艇群に包囲され、

事実上拘束状態に置かれていた。

ところが、

姿を消していたツルカメ彗星が突如天王星と海王星の間に姿を見せたことで状況が一変、

宇宙戦艦ヤマモト・バーチャル艦長ヤマモトに対して直ちに出撃命令が下されたのであった。

『ふんっ

 誰が行くかっ』

さっきまでとは逆に出撃を迫る防衛軍本部に対してヤマモトは出撃を拒むと、

「えーぃっ

 まだ、ヤマモトは出撃をしないのかっ」

司令の強制連行後、

その代理を務める副指令が怒鳴ると、

「はっヤマモト艦長は

 『本部の指示が二転三転する状況下では作戦行動は出来ない』

 と申しておりますが」

ヤマモト艦長とコンタクトをした女性オペレータは返事をする。

「何を言っているんだ、アイツは、

 状況が変わったのだ、
 
 姿を消していたツルカメ彗星がここから22天文単位のところに現れた以上、
 
 直ちに連合艦隊は…」

と副指令が事の重要性を言おうとしたとき、

ビー!!!

突然、本部内にアラームが鳴り響き、

『第1防衛圏内に未確認飛行物体出現!!』

と放送が入った。

「ぬわにぃ!」

その放送に副指令が怒鳴り声を上げると、

「第1防衛圏内に高速飛行物体が突入、

 所属他各種情報が不明なため不審飛行物体と認定。

 周回行動を取る模様です」

と男性オペレータが分析結果を報告し、

本部のマルチスクリーンには侵入してきた不審飛行物体の現在位置と、

今後の進路予想が表示される。

「よしっ

 近くで警戒に当たっているパトロール隊に通達、
 
 飛行をしている不審飛行物体に対し直ちに警備行動を取るように
 
 抵抗するようなら撃破しても構わん」

副指令はそう指示をすると、

「はっ

 パトロール隊、
 
 直ちに警備行動に入ります」

オペレータは復唱し、太陽系内に展開するパトロール隊に対して指示内容を伝えた。

すると、

「そうだ…

 連合艦隊にも出撃命令を出せ」

何かを思いついた副指令はそう指示を出すと、

「え?

 でも、ヤマモトが動きませんが」

と別のオペレーターが聞き返す。

「構わんっ

 行きたくないものを無理に行かせても足手まといだ、
 
 ヤマモトの代わりは姉妹艦のトーゴーに任せ、
 
 連合艦隊を発進させろ、
 
 よいかっ

 天王星では時間がない。

 土星で迎え撃つんだ、
 
 そして、不埒な輩に正義の鉄槌を下せ!」

そう副指令は指示すると、

たちまち待機していた宇宙戦艦ヤマモトを除く連合艦隊に発進命令が告げられ、

地球連合艦隊はDejimaより出撃を開始した。



『ん?

 なにやら騒がしいな…
 
 それに艦が移動しているようだが』

連合艦隊発進に宇宙戦艦ヤマモト・バーチャル艦長ヤマモトが気づくと、

『おいっ

 何が起きた』

と防衛軍本部を呼び出すが、

しかし、その声への返答はなかなか返ってこなかった。

『む?

 この私を無視する気か?』

中々返ってこない返答にバーチャル艦長ヤマモトの自尊心が傷つけられると、

『そうか、

 この私を無視するか、
 
 ふふっ
 
 ならば良い、
 
 宇宙戦艦ヤマモト!!
 
 発進だぁ!!』

バーチャル艦長ヤマモトの声が響き渡り、

カカカカ!!

ズゴゴゴゴゴゴ!!!!

戦艦に搭載された超光速波動エンジンが一気に吹き上がる。

『うーん、

 このエンジンの音、
 
 そして、排煙の臭い、
 
 ふふっ
 
 血が騒ぐのぅ』

発進を始めた連合艦隊に宇宙戦艦ヤマモトは合流し、

そして、艦隊は一路ツルカメ彗星が向かってくる宙域へと向かい始める。



その頃、乙姫と真奈美他、元ハバククの部下である海魔たちを乗せた

スペースシャトル・隼はというと、

『はいはいっ

 じゃ、そういうことでお願いしますね』

コクピットに座る乙姫は手にした携帯電話に向かってそう言い、

『うん

 これで安心ですね…

 カグヤの方から遠隔操作してくれることになりました』

と電話を折りたたみながら返事をした。

『はー…

 月の姫様ねぇ…』

乙姫とカグヤ姫との通話を聞いていた真奈美は感心したように幾度もうなづくと、

『えぇ、

 カグヤとは幼馴染なんですの』

と乙姫は笑みを浮かべる。

『うーん…

 乙姫にカグヤ姫、

 とくれば…織姫も居そうな気がするわ』

その笑みを見ながら、ふと、真奈美がそう漏らすと、

『あれ?

 マナって、

 織姫さまはご存知なんですか?』

と意外そうな顔をしながら乙姫は真奈美を見た。

『やっぱり…

 居るんですね…』

乙姫の顔を見ながら真奈美は冷や汗を流すと、、

『あっそうだ、

 織姫ちゃんに頼んでいた例のものってどうなったのかしら?

 ”注文流れが出たから改装して持ってきてくれる”

 って言うからお願いしたんだけど…

 もぅそろそろ送ってきてもいいころだと思うけど』

と乙姫は織姫に依頼をしていた物件について呟いた。




「五十里ぃ、

 偵察機からの中継がつながったぞ」

海王星と天王星の間を地球に向かって進行中のツルカメ彗星、

その内部に浮かぶ浮城の中に夏目の声が響くと、

パパパッ!!

コントロールルームにあるパネルスクリーンに漆黒の宇宙空間に浮かぶ地球の姿が浮かび上がる。

「おぉ!!!」

地球の様子が映し出されたとたん、

息を呑んで待っていた一同より感嘆の声が上がった。

「ふふっ

 帰ってきたのだな」

地球の映像を見ながら五十里はいつもの姿勢で呟くと、

「そーだな…」

隣にたつ夏目にもこみ上げて来るものがあった。

ところが、

キラッ☆

画面の片隅に光るものが姿を見せると、

シャシャシャ!!

たちまちビーム砲らしきものが放たれ、

そのうちの何発かが偵察機に当たったのか画面が幾度も振動した。

「なにっ」

その様子に皆が驚くと、

「ふふっ

 やはりな…

 老人達はヤル気満々ということか、

 それならこちらもそれなりの対応をとらないとな」

地球側の反応がうれしいのか、

五十里は笑みを浮かべると、

「夏目っ

 準備は終わっているか?」

とたずねる。

「準備?

 あぁ、地球侵攻用の艦隊か?

 一応、準備はしているが」

「そうか、

 いつでも発進できるようにしておけ、

 老人達は我々に戦いを挑むようだ」

夏目の返事を聞いた五十里はそう指示をすると席を立った。




『あれぇ…』

コクピットに座る乙姫が不安そうな声をあげると、

『乙姫さま…

 どっどうかしましたか』

隣に座っていた真奈美が恐る恐る聞き返す。

『おかしいです。

 ガクヤの誘導を受けているはずなのですが…
 
 なんか、コースを外れているような…』

と乙姫は月からの誘導よりシャトル・隼が外れ始めている事を伝えた。

『えぇ!!!

 それって!!』

その言葉に真奈美が飛び上がって驚くと、

『うーん、

 どうしましょうか…
 
 ちょっと、カグヤに…
 
 あれ?
 
 電話が通じない…』

驚く真奈美を横に乙姫は月の王国を統べるカグヤ姫に連絡を取ろうと

専用の携帯電話を開くが、しかし、その画面は真っ暗なままだった。

『ちょっと貸してください…

 もしもし
 
 もしもし
 
 あの、カグヤ姫さまっ
 
 聞こえますか?』

困惑する乙姫より真奈美は携帯電話をひったくると、

電話の筐体を叩きながら声をあげる。

しかし、幾ら真奈美が声をあげても携帯電話に灯りが灯ることなく、

『……乙姫様…

 このケータイ…
 
 バッテリーが切れてますが…』

ガックリとうな垂れながら真奈美は携帯電話を乙姫に返した。

『あら…
 
 たて続きにいろんなことがありましたから、
 
 十分、充電が出来なかったみたいですね』

そんな真奈美に乙姫は涼しい顔で返事をすると、

『あたし…

 どうなるの?
 
 このまま宇宙の迷子になってしまうの?
 
 いやっ
 
 いやよっ
 
 あたしジャミラなんかになりたくない!!

 櫂ぃ
 
 助けてぇぇぇ』

真奈美は悲鳴を上げ泣き出してしまった。

『まっ

 まだ、遭難と決まったわけでは…
 
 それにあたし達の事はカグヤも把握している事ですし…』

泣き出してしまった真奈美を乙姫は気まずい思いで見ながら、

『うーん…

 なんとかカグヤと連絡がつくといいのですが…』

とおぼつかない手でコクピットの機器を操作し始めた。

すると、

カチ!

乙姫の肘が脇に備え付けられていた赤いスイッチに触れ、

その途端、

パッ!

『救難信号発報中』

と言うメッセージがディスプレイに表示されるが、

しかし、スイッチを押した乙姫も、

また真奈美や同席する海魔たちもそれに気づくことはなかった。

そのとき、

キラッ

キラキラキラ

隼の進行方向に進撃をする壮大な宇宙艦隊の姿が見え始めた。

『真奈美さん?

 あれはなんでしょうか?』

『え?』

乙姫の指摘に真奈美は泣き止み、

そして、宇宙艦隊を見直すと、

『なっなんですか?

 宇宙船の大艦隊?』

SF映画やアニメでしか見たことがない、

艦隊の姿に真奈美は目をパチクリさせる。

すると、

ォォォォォォン…

隼の中が共鳴を始めだすと、

『あっあのぅ…』

これまで話さなかった海魔の一人が声を挙げ、

『何かが、こっちに接近してきますが…』

と横の窓を指し示す。

『何かってなに?』

海魔のその言葉に真奈美と乙姫が海魔を押しのけその窓を見ると、

ヌォォォォォォッ…

艦首に巨大な2連の砲口を持つ宇宙戦艦が隼に接近してきていた。

『うわっ

 なにこれぇ!!』
 
接近してくる宇宙戦艦の姿に真奈美が声をあげると、

グォォォン!!

戦艦の艦底がゆっくりと開き、

その開いた口よりレーザービームが放たれると、

クンッ!!

クンクン!!!

隼の姿勢制御用のバーニヤが噴出し、進路を固定した。

そして、戦艦が迫ってくると、

隼をその中へと取り込み始めた。

『え?』

『え?』

『なんですかぁ?』

その様子に真奈美や乙姫他全員が唖然としている中、

ガチャンッ!!

放浪しかけていたスペースシャトル・隼は宇宙戦艦の中へと収容され、

ゴゴゴゴゴゴ…

隼収容後、宇宙戦艦はエンジン出力をあげると、

地球から離れる軌道を進み始めた。



時間軸を少し戻して…

ズドォォォォォォン!!!

至近距離でN2超時空振動弾が炸裂し

藤一郎や海人たちは迫り来る衝撃波より必死で逃げていた。

そして、誰もが諦めようとしたとき、

『スケカク!

 マーブルサンダーっ!!!』

男のハモル声が響き渡り、

それと同時に海人たちの行く手より光の渦が現れると、

シャッ!!

海人たちの横を走り過ぎ、

襲い掛かる閃光へ深く突き刺さると、

バチバチバチ!!

閃光を押しとどめる。

「あっ」

その様子を海人たちが見つめていると、

『そんなところで何をしておるっ

 こっちじゃ』

突然成行兎之助の声が響き渡り、

モワッ!!

海人たちの前に渦巻く暗黒の渦が姿を見せると、

「はーぃ

 みなさーんっ

 こっちでーす」

の声と共にあのバニー1号が中から姿を見せると手招きをする。

「みんなっ

 あそこに逃げ込め!!」

「おっおう」

その様子を見た海人や藤一郎たちが次々と渦の中に飛び込むと、

「なんとか間に合ったようじゃな」

渦の中で成行が藤一郎達に声をかけた。

「成行博士っ」

「これは一体…」

思いがけない場所での、思いがけない人物の登場に

皆は一斉に驚くと、

「なんじゃっ

 その目は…」

メイド服も身に着けない白衣のままの成行はクルリと藤一郎たちに背を向けると、

まるでそこに道があるような姿で歩き始めた。

「え?

 床があるのここ?」

その姿を見た沙夜子と夜莉子は足を伸ばして探るが、

しかし、彼女達の脚はただ宙をかき、

その先で床の感覚を掴む事は出来なかった。

「?」

「?」

「??!!」

そのことに沙夜子と夜莉子は驚きながら見詰め合うと、

「ほれっ

 なにボケっとしておる。
 
 さっさと来ないか」

先に進んだ成行は声を挙げ、

皆に向かって手招きをした。

「あっ待ってください。

 博士!!」

その声にバニー1号が一目散に向かうと、

「どうする?」

「行くしかあるまい」

「そうねぇ」

「それにしてもここってどこ?」

藤一郎や海人、

そして沙夜子達は相談した後、

成行の後を追いかけ始めた。

コツコツコツ

成行一人の足音が響く中、

「あのっ」

沙夜子が声をあげると、

「なんじゃ?」

成行は振り返らずに声をあげる。

「ここって一体どこですか?」

そんな成行に沙夜子はいま居る場所のことを尋ねると、

「んーっ

 そーじゃな…
 
 まぁ次元トンネルの一つとでも言おうか」

と成行はあっさりと答えた。

「次元トンネルって」

「ドラ○もんがよく使う奴か」

「あれはタイムマシンだろう?」

「もぅ、恥ずかしいわね」

「で、一体、

 これはどこに続いているんですか?」

海人たちはこの向かう先のことを訊ねると、

「知りたいか?」

成行は妙に含みを持たせた返事をする。

「それはまぁ…」

成行のその言葉に海人は呆気に取られながら返事をすると、

スッ

成行の前に一枚のドアが現れ、

それに成行は手をかけながら

「ふむ、

 このドアの向こうは…
 
 竜宮じゃっ」

の声と共に

カチャッ!!!

手にかけたドアを開けた。

すると、

ヒラリ…

一匹の魚が藤一郎たちの前の横切っていくと、

ゴボッ!!

「!!!!」

一瞬のうちに全員が水につつまれ、

そして、

フッ!!

これまで暗くてよく見えなかったあたりの景色が一気に開ける。

すると、

「(ごぼっ)

 なんだぁ!!」

「(ごぼごぼ!!)

 なっなにぃ!!」

文字通り水中に放り出された形になった藤一郎たちの周囲に開けたのは、

水の中に佇む巨大な木造の宮殿の内部だった。

『ここは…』

シュルッ

反射的に翠色の髪の毛を伸ばし、

身体を水中適応型に切り替えた海人は驚くと、

『間違いないわ』

シュルッ

海人と同じように人魚体に変身した水姫はあたりを泳ぎ回り、

そして、その匂いを嗅ぎ分けると、

『ここ…本物の竜宮よ…』

と告げた。

『なっ

 りゅ竜宮だってぇ』

水姫の答えに海人は顔を青くすると、

『落ち着きなさい海人、

 もぅ竜王の癖にアタフタしないの
 
 あなたはここの主なんでしょう
 
 もっと堂々としなさい』

すかさず水姫はたしなめる。

『だってぇ…』

水姫の言葉に海人は反論しようとしたとき、

トンッ

トントン!!

震える藤一郎の手が伸びるなり海人の肩を叩くと、

「うぐぐぐぐぐぐ!!!!」

白目を剥き喉元を締めながら藤一郎は海人に寄りかかってきた。

『なっなにをやってんだ…お前』

そんな藤一郎の姿を海人は怪訝そうに見るが、

しかし、沙夜子達他の者の姿を見ると、

夜莉子や美麗までもが窒息寸前の状態になって水中に漂い、

『きゃっ!!!

 たっ大変!!』

その光景に水姫が小さく悲鳴をあげると、

「やれやれ、

 まったく世話の焼ける…」

人魚で無いにもかかわらず

成行は地上に居るのと変わらない仕草で近づくと、

パチン!!

指を鳴らした。

すると、

バシュン!!

ボコボコボコ!!!

たちまち、無数の気泡が発生し、

程なくしてそれは一つの巨大な気泡へと成長すると、

藤一郎たちを包み込んでしまった。



「ぜはぁ…はぁはぁ」

「ひぃひぃひぃ」

「あぁ…死ぬかと思ったぁぁ〜」

気泡の中で藤一郎たちは一斉に深呼吸をすると、

『まったく、本当に世話の焼ける奴だ』

その姿を見た海人が皮肉を言う。

「なんだとぉ!!」

その言葉にすかさず藤一郎が斬りかかろうとするが、

「ねぇ…なんで成行博士は水の中なのになんともないの?」

まだ呼吸が荒い夜莉子が水の中ですましている成行を指差しながら沙夜子に訊ねると、

「さぁ?

 そんなこと博士に聞いてみたら?」

やや投げやり気味に沙夜子は返事をした。

「でも、ここがあの竜宮だなんて…」

ようやく呼吸が落ち着いた頃、

沙夜子は感慨深そうに周囲を見ると、

「そうねぇ

 御伽噺でしか聞いたことが無いものねぇ…」

夜莉子は朱色を基調とした壮麗な装飾が施されている部屋をグルリと見渡した。

「水姫さん、

 乙姫様がいる部屋ってここなんですか?」

部屋を見渡しながら夜莉子は水の中に居る水姫に尋ねると、

『さぁ、わたしも竜宮の中は詳しくは無いのですが…

 ただ、ここは玉座の間ではなく、
 
 控えの間の一つかと思います』

と水姫は部屋の中を泳ぎまわりながらそう推測した。

「で、成行博士っ

 そろそろ聞かせてください。
 
 なんで、あなたは竜宮に僕達を連れてきたんですか?
 
 しかも、あの爆発の中から…」

落ち着いた藤一郎が成行に向かって問いただすと、

『そっそうだよっ

 普通、竜宮に行くには”水の道”か、
 
 あとはあの洞窟…”竜道”を通らないといけないはずだぞ、
 
 それなのに、まったく違うルートで俺達を竜宮に連れてきた。
 
 誰だ?
 
 あんた?』

藤一郎の話に海人も尋ねる。

「やれやれ、

 命の恩人に向かってそのような口を利くのか?」

二人からの質問に成行は面倒くさそうに返事をしたとき、

ズズズズズンンンン!!

爆発音が響き渡ると建物が激しく揺さぶられた。

「なっなに?

 爆発?」

「え?

 うっうそぉ!!

「おっおいっ

 どっどーなっているんだ?」

その爆発音に一同は慌てふためくと、

『竜宮で爆発だなんて…

 そんなことありえない…』

驚きながら水姫はそう呟くと、

シュルッ!!

尾びれで床を叩くと表に向かって泳ぎ始めた。

「あっちょっと!!!」

「まっ待って!!」

去っていく水姫を追って沙夜子や藤一郎たちも追いかけようとするが、

「って、どーやって追い掛けるんだよ…」

目の前に立ちはだかる水の壁に皆の足が止まる。

すると、

ジワッ

沙夜子たちの足元に水が広がっていくと、

プクンッ!!

沙夜子たちをつつむ気泡は床から離れ宙へと浮かんだ。

「わっわわわわ!!!」

「何を遊んでいるんだ、

 ホレ、
 
 宙に浮かべてやった、
 
 あとは子供の頃に遊んだ玉転がしの要領で進め」

驚く沙夜子たちに向かって成行はそう告げ、

水の中をスタスタと去っていく。

「あっちょっと!!!」

「ねぇ玉転がしって…」

「要するにキャタピラのようにして進めってことだろう?

 ホラッ
 
 この気泡の底は足が掛かるし、手ごたえもある」

成行が去った後、沙夜子たちは結論を出すと、

ワッセ

ワッセ

ワッセ

気泡をクルクルと回しながら前へと進みはじめた。

「まったく…

 なにが悲しくてこんな事を…」

メイド服のスカートを捲り上げながら藤一郎が文句を言うと、

「あっ、

 タイミング合わせて、
 
 じゃないとひっくり返るわよ」

と夜莉子が注意した途端、

「うわっ!!」

藤一郎は悲鳴と共に前つんのめりになりながら盛大にひっくり返った。



そんな苦労をしながらやっとの思いで部屋から出た途端、

避難してきたのか大勢の人魚のほか、

様々な水の聖魔がある一点を見つめ呆然としていた。

「なにっ」

「こっこれは…」

「うわぁぁ、

 人魚さんがいっぱい居るぅ」

地上ではまず見たことがない様子に感心するものの、

「はいっごめんね」

「すみません、通してください」

人魚達を押し分けて前に出ると、

ズンッ!!!

沙夜子や藤一郎の眼下に竜宮の市街が目に飛び込んできた。

しかし、その街はまるで爆撃でもあったかのように大きく破壊され

その真ん中には2つに切断された潜水艦が横たわっていた。

「あのマーク…

 さっ猿島のものか…」

潜水艦の艦体の描かれてる見ザル・言わザル・聞かザルの

いわゆる猿島・3サルのマークを見た藤一郎はそう呟くと、

「ねぇ、こっちにも別の潜水艦が突き刺さっているよ!」

夜莉子がいま居る居城の斜め下にめり込むようにして突っ込んでいる別の潜水艦を指差した。

「あれは…

 猫柳か…」

『猫柳に猿島…

 やつら、乙姫様をさらっただけじゃなくて
 
 ついにここまで来てやがったのか』

ボキボキボキ!!

これまで散々お邪魔虫をしてきた2大財閥の船の姿に

海人が苛立ちながら指の関節を鳴らすと、

「で、あの様子では何も出来ないんじゃない?」

と沙夜子は指摘する。

「んー…

 確かに…

 何をしにここまで来たのかは判らないが、

 ここで何かをしようとしても

 あれじゃぁ何も出来ないな…」

その指摘に藤一郎は大きく頷いた。



ビー

ビー

ビー

響き渡る警報音に気絶していた幻光忠義は気がつくと

「くっそぉ、

 いったい…
 
 どーなっているんだ」

文句を言いながら起き上がり、

そして、非常灯が灯る艦内を見渡すと、

「ちっ横倒しになっているのか…」

横転している様子に舌打ちをする。

そして、

「おいっ

 しっかりしろ」

ひっくり返って倒れたままの乗組員達を起こして回ると、

「急ぎ、艦の状況を把握しろ!!

 特に浸水箇所は念入りにだ」

と指示をした。

ところが

「げっ幻光さまっ!!

 大変です」

艦の状況を調べていた乗組員の一人が声を挙げ、

「百日紅が…

 艦体の2/3のところで2つに引き裂けています!!
 
 後部動力部の状況については不明!!」

と報告をした。

「ぬわにぃ!!!」

その報告に忠義は驚きの声をあげた頃、

「えぇいっ!!

 どうなっているんだ!!」

突き刺さるシーキャットの中で猫柳泰三は

何も判らない状況に苛立ちの声をあげていた。

すると、

「報告します」

シーキャットが置かれている状況の収集を終えた艦長の貝枝が一歩前に進み出て、

「現在、シーキャットは崖に突き刺さっている状態でして、
 
 艦首部はほぼ圧壊し、
 
 また、艦体も中央部まで皮膜・装甲板共に大破しています。
 
 さらに、動力炉も6本ある制御シリンダーのうち4本が破損、

 通常航行はほぼ不可能な状態になっております」
 
と泰三に報告する。

「なんだとぉ?

 通常航行が出来ないだとぉ」

その報告に泰三は顔を真っ赤にして怒鳴ると、

「はっ

 現在、応急処置を行っておりますが、
 
 ただ、反応炉を長時間に最大出力を長時間行ったため、
 
 異常溶融現象が反応炉内に発生している恐れがあります。
 
 ですので…」

「もぅいいっ!!」

「はっ!」

貝枝はさらに細かく状況を報告しようとするが、

泰三はその言葉を途中で遮り、

「で、いま、

 このシーキャットはどこに居るんだ?」

現在位置について訊ねた。

すると、

「先ほど、

 後部より分離可能なリモートカメラにて確認した
 
 周辺の構造物、
 
 並びに、水圧や各種情報などから推測したところ、
 
 現在、当艦は竜宮内、
 
 その中心にそびえる居城近くで遭難しているもののと見られます」

貝枝は泰三に向かってハッキリと伝えた。



「竜宮だとぉ!!!」

艦体を横にした状態の百日紅艦内に幻光忠義の声が響き渡る。

「はっ」

艦外の様子から当艦は恐らくこの辺りにあると思います。

位置確認を行った副長は

バッ

竜宮の地図を広げ百日紅の遭難地点を指し示した。

「くそっ

 竜宮内に居るというのに何も出来ないのか」

悔しそうにつめを噛みながら忠義はそう呟くと、

「水圧は深海というにもかかわらず、

 約2気圧ときわめて低い上に、
 
 また水温も20度程度ですし、

 予備動力炉が使えますので差し迫っての脱出はしなくても大丈夫です。
 
 ただし、この状態での長期の篭城は無理かと…」

そんな忠義に向かって副長は状況を説明した途端。

コ−−−ン!!

コンコン!!

艦外より何者かが百日紅を叩く音が響き渡った。

「え?」

その音に乗組員全員が驚くと、

「落ち着けっ

 どうせ、人魚共の悪戯だろう、
 
 くっそぉ
 
 こっちが手を出せない事に調子に乗りおってぇ」

苦々しく忠義は唇を噛む。

すると、

『あーっ

 聞こえるかっ
 
 猿島の潜水艦乗り組み員に告ぐ、
 
 僕は犬塚家次期当主・犬塚藤一郎だっ
 
 知っての通り、
 
 お前達の潜水艦は真っ二つに折れてまっていて軍事行動は一切出来ないぞ、
 
 大人しく降伏するんだ。
 
 後ろ側に居た人たちは僕の方でさっき救出した。
 
 全員、地上まで送ってやる』

と無条件降伏を勧める犬塚藤一郎の声が艦内に響き渡った。



つづく





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