風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第40話:炸裂、N2超時空振動弾】

作・風祭玲

Vol.522





「乙姫さま、

 真奈美…
 
 無事でいてくれ!!」

そう念じながら櫂は小さく見えている大日本宇宙センターへ向けて飛んでいた。

すると、

フォォォン…

櫂の目の前にオーロラのような光のカーテンが現れその行く手を遮り始める。

「ちっ

 結界か…
 
 邪魔だ!!
 
 どけぇぇぇぇ
 
 アクアランス!!!」

行く手を遮る結界に向け櫂は思いっきり強烈なアクアランスを放つが、

しかし、

シュゥンンンン…

櫂が放ったアクアランスは結界のカーテンの向こうに消えていくだけで、

なんの反応も起こらなかった。

「くそっ

 これでもか
 
 これでもか」

焦りの心に突き動かされ、

何本ものアクアランスを放ちながらさらに結界へと近づいていくと、

バリッ!!

櫂が着ているメイドスーツの表面に放電が走り、

ガクッ!!

「うわっ」

いきなり櫂の体が真下へと落ちてしまった。

「なっにっ

 くそっ
 
 どうした、
 
 飛べ!!」

落下しながら櫂は跨っていたモップにそう念じるものの、

しかし、モップはもとよりメイドスーツからも何の反応も返ってこない。

「なっ

 なんで…
 
 まさか、結界のせい?」

櫂がそう思ったとき、

『大丈夫です、落ち着いて…』

との声が櫂の耳元に響き、

それと同時に

バサッ!!

銀色の羽を輝かせながらカラスと程の大きさの鳥が一羽、

櫂に向かって真っ直ぐ飛んでくるなり、

ガシッ!

櫂の身体を捕まえた。

「うわっ

 なっなんだ?」

襟の後を取りに掴まれた櫂は宙ぶらりんの姿勢で驚くと、

『大丈夫ですか?』

と鳥は羽ばたきながら櫂に尋ねる。

「え?

 とっ鳥が喋った!!」

鳥からの言葉に櫂が驚くと、

『大丈夫です。

 私の名前は摩雲鸞…とある神につかえる鸞の仲間です。
 
 オギンと呼んでください』

と鳥は櫂に言う。

「摩雲鸞?

 オギン?」

『はい』

「神って?」

『ここではいえません、

 乙姫様と縁のある”とある神”に仕える者…
 
 ということで勘弁してください。
 
 私はその神よりあなた様を警護する様に申し付けられました。
 
 さて、そろそろ竜筒による攻撃が始まりますよ』

摩雲鸞・オギンと名乗った鳥は頭から左右の方向に角の様に伸びる羽を靡かせ、

高々と舞い上がる。

すると、

ズムッ!!

屋久島の方向より重い響きが響き渡ると同時に、

シャ!!

オギンと櫂の頭上を1本の青白い光の矢が駆け抜け、

正面の結界へと突き刺さった。

その途端。

パァァァァン!!!!

さきほど櫂を拒絶した結界はまるで風船を割るが如く弾けとび、

オーロラを思わせる光のカーテンは呆気なく消え去ってしまった。

「す・ご・い」

自分が放ったアクアランスをものともしなかった結界が

いとも簡単に消え去ったことに櫂は目を丸くすると、

『驚きました?

 あれが竜筒…
 
 竜宮の力の一つです』

とオギンは櫂に言う。

「そっそうなんですか…

 竜筒ってそんなに凄かったのか…」

オギンの説明に櫂はただ驚いていると、

グンッ!!

結界が消え去ったせいか、

櫂が着ているメイドスーツに力が戻ると、

クィッ!!

フワッ

手にしていたモップが浮き上がり、

櫂はモップにぶら下がる格好になってしまった。

『さぁ

 行きましょう。
 
 結界が消えたということは、
 
 向こうも自由に出て行けるということです。

 早くしないと乙姫様が手の届かないところに連れて行かれますよ』

櫂から離れたオギンはそういい残すと、

バサッ!!

翼を羽ばたかせながら種子島へと降りて行く。

「あっ待て!」

体勢を整えた櫂が先を行くオギンを追いかけ始めようとしたとき、

「おぉーぃ」

と言う声と共に櫂と同じようにモップに腰掛けた藤一郎や夜莉子たちが櫂を追いかけてきた。

「大丈夫だった?」

「もぅ一人で突っ走っちゃうんだもん、

 心配したよ」

「単独行動は敵の思うツボだぞ」

「もっとも、誰かさんのおかげでその敵も居なくなっちゃったけどな

 それに結界は俺が吹き飛ばしてやったから、

 もぅ俺達を邪魔するものはないぞ」

メイドスーツに身を固めた藤一郎たちが代わる代わるに言い、

「さぁて、

 じゃっ敵本陣に殴りこみと行きますか」

スチャッ

海人は竜筒を構え直しながらそう言うと、

「うん」

櫂は力強く頷いた。



「ちょっと、なんなのこれぇ?」

RL338PMQ248上において突如出現したエネルギーの流れが

天界・時空間管理局中央発令所のメインモニターに映し出されると、

間髪入れずに黒髪の女神の怒鳴り声を響き渡らせると、

「はっ、

 RL338PMQ248にて強力なエネルギービーム砲が使われたようです」

その声を受けてディスプレイと睨めっこしていた局員が即座に返答をする。

「強力なエネルギービーム砲?」

「はいっ

 しかも、単純なエネルギーではなく、
 
 一種の思念波に近いものです」

「そんなのが何で出てくるのよ、

 あの世界から届出がされている技術水準ではこれほどのものは出来ないはずよ」

「そればかりはデータが不足していて判断が出来ません」

「一体何が…」

予想外のエネルギー源の出現に黒髪の女神は考え込むと、

ポッ!!

またRL338PMQ248にて魔導エネルギーの収束をしめすシグナルがモニターに表示された。

「雷撃っ

 早くして!」

それを見た黒髪の女神が声を上げると、

「行っています!!

 でも、こちらからの攻撃は吸収されているようです!!」

と今度は局員が悲痛な叫びが響きわらせた。

「なんで!!」

「判りません!!」

泣き声に近い声を局員が上げると、

「なに、大騒ぎしているの?」

ノンビリTVを見ていた銀髪の女神が口を挟んだ。

「なによっ

 ノンビリ寛いじゃって、
 
 もーすぐN2超時空振動弾の発射よ、
 
 少しは緊張してよ」

寛ぐ銀髪の女神の態度にムッときた黒髪の女神は文句を言うと、

「緊張って言ってもねぇ…

 本来ならとっくに作業が終わっている時間でしょう?」

発令所の壁に掛かる時計に視線を送りながら銀髪の女神は皮肉めいたことを言うと、

「だからなによっ」

むくれながら黒髪の女神は言い返す。

「いーや、べつにぃ…

 ただ、超過勤務手当ては出るのかなぁってね」

「そうねぇ…

 その辺の判断はあたしには出来ないけどね…
 
 でも、そんなに暇そうなら、
 
 少し手伝ってもらおうかしら、お姉さまっ
 
 N2超時空振動弾を運搬する飛行機の最終調整があるのよ、
 
 照準を担当する”ばん○いくん”とのシンクロが上手く行かなくてね」
 
イヤミを言う銀髪の女神に言い返すように黒髪の女神はそう言うと、

「え?

 あっちょっと
 
 こらっ」

嫌がる銀髪の女神の手を引き階下の作業工房へと引っ張って行った。



コポコポ…

「ちょっとちょっと

 なんなのこれぇ!!!」

打ち上げを待つ隼の機内に真奈美の怒鳴り声が響き渡る。

「なんで、水の中でバニーガールにならなくっちゃならないのよ」

怒鳴り声を上げる真奈美の姿は半人半魚の人魚体ではなく、

腰の括れをことさらに強調しているスーツに

そして、脚を艶やかに表現する編みタイツと、

頭からニョッキリと伸びる2本の付け耳
 
そう、閉じ込められている水槽の中でバニーガールに変身をしていた。

「ちょっと、

 これって誰の趣味?
 
 水の中のバニーだなんて聞いたことが無いわよ」

ドンドンと透明な壁をたたきながら真奈美が抗議していると、

「マナ…」

隣の水槽でじっとしていた乙姫が真奈美に声をかけた。

「乙姫様っ

 乙姫様も抗議すべきですよっ
 
 もぅ、2度もバニーにされているんでしょう?
 
 これはきっと、あのテンテコ爺の仕業ですよっ
 
 あたし達の高校を襲ったあの爺さんの…」

むくれながら真奈美はそう言っていると、

ピクッ

乙姫の目元が微かに動き、

「マナ…

 カナたちが来たようです」

怒る真奈美にそっと告げた。

「え?

 カナが?」

「はい…

 大勢の仲間を連れて近くに来ています。
 
 大丈夫です。
 
 きっとカナはここに来てくれますよ」

と乙姫は喜びの表情を見せる真奈美に告げた。

「そっか、

 カナが来てくれているんだ…
 
 カナぁ!!
 
 こっちよぉ
 
 あたしと乙姫様はここにいるのよぉ」

隼の天井に向かって真奈美が怒鳴り声を上げると、

「!!っ

 真奈美…」

ドンッ!!

フルスピードで海人たちと共に大日本宇宙センターに迫っていた櫂の耳に

真奈美の叫び声が微かに届いた。

「真奈美?

 真奈美かっ

 待ってろいま行くからなっ」

間近に見えてきた宇宙センターの建物に向かって櫂が怒鳴り上げる。



コーン…

コーン…

「ふふっ

 さぁて…そろそろ竜宮か…」

櫂たちが宇宙センターに迫っていた頃、

大島沖海底ではもぅ一つの鬼ごっこがクライマックスを迎えようとしていた。

猿島家の総力を結集して建造された潜水艦・百日紅は

捕らえた人魚・サヤより聞き出した竜宮の入り口と言われる洞窟の

傍にまで接近をしていたのであった。

「幻光様っ

 ソナーに反応!!
 
 9時の方向に海底洞窟があります」

海底洞窟の位置を探査をしていた担当員が声を上げると、

「そうか、見つかったか!!」

その声を聞いた幻光忠義の手に力が篭る。

そして、艦長席に座る猿島幸江へと体の正面を向けると、

「奥様っ

 お喜びくださいっ
 
 竜宮の入り口を発見いたしました」

と言う声を上げながら礼儀正しく30°の角度で頭を下げた。

「あら、そうなの?

 忠義っ
 
 頑張るのですよ」

忠義の報告を聞いた幸江はひとこと労うと、

「ははぁ〜」

忠義は大げさな声を上げながらさらに頭を下げる。

そして、

コォォォン…

コォォォン…

竜宮に通じる洞窟の前で百日紅はゆっくりとその船首を左に向けると、

洞窟の中へと進入を試み始めた。

「ふふっ

 竜宮は私のものだ…」

艦首に取り付けてあるTVカメラから送られてくる映像を見ながら忠義がほくそえんだとき、

「ぎっ魚雷です!!!」

突然、音探の担当員が声を上げた。

「なに?」

担当員のその声と同時に、

ズゥゥゥゥゥゥン!!!

百日紅の艦体を強烈な衝撃波が直撃し、

スゴォォォン!!

百日紅は洞窟の壁に激しく激突をしてしまった。

「なっ何事だ!!!」

床に叩きつけられた忠義が怒鳴り声を上げると、

『はははははは

 どうかな?
 
 我が猫柳特製・原子(ハラコ)爆弾の威力は…』

と猫柳泰三の声が艦内に響き渡る。

「なに?

 猫柳だとぉ?」

海底に響き渡った泰三のその声に忠義が驚きの声を上げると、

『ふふっ

 我々を竜宮から遠ざける作戦だったみたいだが、
 
 この猫柳泰三!!
 
 そのような誤魔化しが通用すると思うなっ
 
 さぁ、海の藻屑になりたくなければ大人しく道を開けろ!!』

と泰三は忠義に脅しをかける。

「なにを!!」

泰三の脅しに忠義の目が輝くと、

「忠義っ

 なにをしているのですっ
 
 ネコなんぞ捻り潰しておあげなさい!!」

とヒステリックな雪江の声が響き渡った。

「(シュパッ)もちろんです奥様っ

 この幻光忠義っ
 
 決して敵に背中を向けるようなまねはいたしません」

雪枝からのハッパに忠義は瞬間的に身なりを整えると、

泰三の通牒を拒否することを告げ、

「目には目を…

 歯には歯をだ!
 
 構わんっ反撃をしろ!!
 
 ネコの位置を細く次第
 
 魚雷発射!!」

と声を張り上げた。

その直後、

ゴゴゴゴ!!!

百日紅はゆっくりと回頭をしながら艦首の魚雷発射管を一斉に開き、

そして、シーキャットの方を向くのと同時に一斉に魚雷を放った。



そのとき、百日紅がいる洞窟の奥深く、

次元障壁に守られている竜宮はいたって平穏だった。

天界からの知らせで門を固く閉じ、

N2超時空振動弾による世界の切り離しまでの間、

竜宮内の全ての人魚たちは皆それぞれの自宅に待機するようにとのお触れを

マーエ姫の名前で出していたからだ。

「マーエ姫様」

「どうしました?」

乙姫の玉座の傍でたたずむマーエ姫に侍従が声をかける。

「ねぇ、外が騒がしいけど

 なに?」

マーエ姫は竜宮の門の外側から響く衝撃波のことを尋ねた。

「さぁ?」

侍従たちは皆首を傾げると、

「う〜ん、

 見に来たいんだけど、

 天界からの命令もあるし…」

ウズウズする胸を押さえながらマーエ姫は無念そうにそう言うが、

しかし、その門の外側、

そう、門に続く洞窟の先では猫柳と猿島の潜水艦同士の

壮絶な戦いが繰り広げられていたのであった。



「雷竜扇!!!」

シュバーン!!

ドォォォン!!

『うぎゃぁぁ!!』

向かってくる海魔の群れに向けて沙夜子が雷竜扇を放つと、

その直撃を受けた海魔達は断末魔を上げながら消えていく、

「さぁ、急いで!!」

「うっうん」

消滅していく海魔に気を取られること無く、

夜莉子や藤一郎、そして櫂たちが、

飛行するモップにしがみつくようにして防衛線を突破していく。

既に櫂たちは大日本宇宙センターの敷地内に突入し、

正面に聳える管制塔へ向けて一直線に突き進んでいた。

「乙姫様っ

 真奈美っ
 
 どこにいるんだ!!」

広大な宇宙センターの中を飛びながら櫂は怒鳴り声を上げるが、

しかし、さっきまで聞こえていた声は聞こえなくなり、

襲い掛かるタイミングを取っている海魔が放つ音のみが聞こえるのみだった。

「くっそう!!」

シャッー!!

臍をかみながら櫂が管制塔の後ろに見えてきた格納庫へと進路を変えると、

ワラワラとその足元に無数のバニーガールたちの姿が目に入ってきた。

「バニーガールが…

 そっか、成行博士のあの光線を浴びたのか…」
 
その様子を見た櫂はそう呟くと、

「それにしてもあの結界を突き抜けて

 なお、これほどの被害を出すだなんて」

「あぁ、それだけ意志が強いってことだな…」

「人間の持つ”業”って凄いのね…」

と夜莉子達も続けて言う。

すると、

キィィィィン…

管制塔の向こうからエンジン音を響かせゆっくりと移動を始めだした

スペースシャトル・隼の白い機体が目に入った。

「スペースシャトル!!」

「そっか、結界を吹き飛ばしたんで離陸するつもりだな」

日の丸を輝かせるシャトルの姿に藤一郎と海人は代わる代わるそう叫ぶと、

「くっ」

櫂は口を真一文字に結び乗っているモップの柄を握る手に力を入れた。



『急げっ』

『席のない者は床に伏せろ』

コクピット内に甲高い怒号が飛び交う中、

『くっ

 我々は負けたわけではない、
 
 まだ、駒はこの手中にある』

肌に張り付くようなバニースーツを輝かせ、

ファサッ

バニーガールに変身してしまったハバククは長く伸びた髪を軽く流した。

そのとき、

『ハバクク様っ

 あれを!!』

操縦桿を握る元海魔であるバニーが叫び声を上げた。

『なんだっ』

バニーの声にハバククが不機嫌そうに立ち上がり、

そして操縦席に向かうと、

ピクッ!!

ハバククの露わになった肩が強ばり、

ワナワナと震わせ始めた。

『はっハバククさま?」

ハバククの様子にバニーが聞き返すと、

『彼奴ら…

 おいっ、
 
 30分経っても私が戻らない場合は、
 
 構わんっ
 
 離陸しろ、
 
 私は後から追いかける』

ハバククはそう言い残すと、

カツン!!

ハイヒールの音を響かせながら表へと出て行った。



「くそっ

 逃げる気か!!」

キィィィン…

エンジン音を響かせ駐機場から移動する隼に櫂は怒鳴ると、

その進路を妨害するかのように回り込む。

すると、

『はははははは!!

 お前達、

 よくぞきたとほめてやろう』

と女性の声が響き渡ると、

カツン!!

移動する隼の真上で一人のバニーガールが声を高らかに叫び声を上げた。

「バニーガール?」

「新手の敵?」

髪をなびかせ櫂達を見下ろすバニーガールの姿に

沙夜子と水姫はヒソヒソ話をすると、

『ふっ』

バニーガールは憂いの表情を漂わせた後、

『お前達と出会うのはこれで2回目だ』

と告げた。

「え?

 2回目?」

「えっと」

「沙夜ちゃん、会ったことある?」

「えぇ?

 あのバニーさんにですか?
 
 しっ知らないよ」

「あたしもよ」

バニーガールからの意外な言葉に沙夜子と夜莉子はお互いに顔を見合わせると、

フルフルと首を横に振り会った。

「なぁ、藤一郎っ

 お前、あのバニーさんに恨みを買われるようなことをしたか?
 
 飲み代を踏み倒したとか」

「なんで…

 っそうなるんだ!!」

「海人こそ、どこかでちょっかい出したんじゃないの?」

「あのなぁ!!」

巫女神姉妹の反応に海人や藤一郎達も面識がないことを言うと、

『くくっ

 そうか…』

バニーガールは一瞬惚けたような表情をした後、

『ふっ

 ならば思い出させてやろう、
 
 猫柳邸でお前達の前に立ちはだかったこの私を!!』

と怒鳴り声を上げながら、

いきなり右手の中に光弾を作ると、

パァァァン!!

一番前にきていた櫂に向けて放った。

「え?

 うわっ!」

まっすぐ自分に向かって来る光弾に櫂は慌ててよけると、

シュンッ

ドォォォン!!

光弾が飛び込んだ格納庫の中で爆発音が響き渡った。



「あっ!!」

それを見た海人がバニーを指さしながら声を上げると、

『ふっ

 ようやく思い出したか』

ジロリ

長い髪を振り乱しながらバニーを海人を一瞥するなり、

シュンッ!!

一瞬のうちに姿を消す。

「消えた」

隼の上から姿を消したバニーに皆が驚くと、

その直後、

『遅いっ!!』

との声が響き、

ズドォォン!!

海人の正面で爆発が起きる。

「海人ぉ!」

それを見た水姫が叫び声を上げると、

「ゲホッ!

 くぅぅ効いたぁ」
 
鼻と腹部を押さえながら海人が煙の中から飛び出す。

「大丈夫かっ」

「あぁなんとかな…

 それよりもアイツ…

 猫柳のところで会った海魔だ、
 
 確かハバククとか言っていた奴だ」

直撃を受けた腹を押さえながら海人が叫ぶと、

「え?」

「ハバククって」

「あの、目茶強かった海魔?」

海人の指摘に沙夜子と夜莉子は驚きの声を上げた。

『ふんっ

 強かったではないっ
 
 いまでも強いだ!』

とバニーガールことハバククは雄叫びをあげるかのごとく怒鳴る。

「すっげー…」

「成行博士…

 あの海魔もバニーガールに変身させてしまったのか」

「はぁ…」

猫柳邸で苦戦をした相手が美しいバニーガールにされてしまったことに一同が驚くと、

『お前達!!

 わたしをこんな姿にした奴は何処にいる!!」

ハバククは自分をバニーにした張本人のことを尋ねた。

しかし、

「何処って言われてもねぇ…」

「うん、何処にいるんだろう?」

「北の方じゃないかな?

 ホラっあの光、北から来たじゃない?」

「まぁ、どっかに居ると思うけど、

 用があるのか?」

と櫂達は素っ気なく答えた。

そして、

「それよりも乙姫様と真奈美をさっさ返しやがれ!!

 この間は油断したけど、
 
 今日はそうはいかないからなっ!!」

フォン!!

なかなか本題に入らないことに業を煮やした櫂は

両手で作ったアクアランスをハバククに向けながらそう告げると、

『ふんっ

 人魚としての力も満足に使えない貴様が何を言う』

ハバククは櫂が作ったアクアランスが人魚本来の力でないことを見抜きそう言う。

「なにを…

 お前にはコレで十分だ!!」

ハバククの言葉に瞬間的にカッとなった櫂は不適に笑うハバククに向けて、

「アクア・ランス!!」

と叫びながら振りかぶると

思いっきりぶつけるようにしてアクアランスを放った。

しかし、自分に向けて放たれたアクアタンスをハバククは見据え、

スッ

右手を挙げると

『ハッ!!』

気合いの声一つで片腕一つでそのアクアランスをはじき飛ばしてしまった。

「なっ」

満身の力を込めて放ったアクアランスがいとも簡単にはじき飛ばされたことに櫂は驚くと、

『くくっ

 拍子抜け…まさにこういうコトだな、
 
 どけっ!!』

ハバククは仁王立ちになると櫂に向けて怒鳴る。

「なんだとぉ!」

ハバククのその声に櫂はモップに跨り直すと、

「もぅいっぺん言ってみろ!!」

との声と共に隼の上に立つハバククに向かって突進していった。

「あのバカッ!!」

「おい援護だ!!」

ハバククに向かって突撃し始めた櫂の姿に海人と藤一郎がすかさず櫂の援護に周り、

ハバククに向けて牽制の攻撃をしかける。

『はははは!!!

 無駄だ無駄だ!!』

3方からの攻撃にもハバククはモノともせずに凌ぐと、

いつの間にか隼は滑走路に出ていて、

発進準備はほぼ整っていた。

『(ニヤッ)

 おいっ

 隼を出せ!!』

櫂達の向こうに見える滑走路を見渡したハバククは口元に笑みを浮かべながら

操縦席の海魔に向かって命令をすると、

『はっ!』

ハバククの指示に海魔は隼のエンジン出力をあげた。

キュィィィン…

スペースシャトル・隼のエンジン音が周囲に響き渡り、

グググググ…

乙姫と真奈美を乗せた隼は操縦席の上にハバククを頂いたまま

櫂達に向かって突進し始める。

「くそっ!!」

その姿に櫂は

フォン!

右手にアクアランスを作り上げると、

「ハバクク!!」

の叫び声と共に自分に向かってくるバニー姿のハバククに斬りかかる。

『無駄だと言っているだろうが!!』

突っ込んでくる櫂にハバククは光弾で応戦しようとしたとき、

ガクン!

隼の機体は大きく揺れると、

ガッ

『うわっ!!』

その振動でハバククはバランスを崩すと、

そのまま隼の上を滑るように転がり落ちるが、

ガシッ

何とか尾翼にしがみつくと必死にはい上がってくる。

一方、櫂は目の前に迫ったハバククの姿がいきなり消え、

櫂のアクアランスの切っ先はハバククが消えた空間を空しく切り裂いた。

「ちぃ!!」

尾翼にしがみつくハバククを櫂は目で見送った後、

「待てぇ!!!」

叫び声あげながら離陸していく隼を追っていく。



「いいわね、ばん○いくん。

 その2つの三角が重なったときにこの発射ボタンを押すのよ
 
 あとはこっちの機械が勝手にやってくれるから」

N2超時空振動弾の発射を数分後に控えた天界では

黒髪の女神が自らが作り上げたロボットにN2超時空振動弾発射についての注意事項を言う

『ピッ』

女神の言葉に応えるようにロボットは返事をすると、

「じゃっ頼んだわよ」

の声を残して発令所へと戻っていった。

「どぉ?

 準備は出来たの?」

黒髪の女神が戻って来るなり銀髪の女神は準備の状況を尋ねると、

「誰にそんなことを言っているの?

 全ておっけーよ」

髪を軽くかき上げながら黒髪の女神は返事をする。

「じゃぁ、予定通りね」

黒髪の女神の返事に銀髪の女神は

”変更無し”

と指示書に書き込む。



キィィィン…

「待てぇ!!」

離陸後、高度を上げる隼に追い縋るようにして櫂は全力で飛行をしていた。

「ちょっと」

「おいっ」

「待てって」

そんな櫂の後を藤一郎や夜莉子たちが追いかけるが、

「くっそぉ

 追い付けないか」

詰めるどころが徐々に距離を開けられていく隼の後姿に海人はほぞを噛む。

すると、

『くくっ

 ふはははは!!』

何を思ったのか尾翼にしがみついたままのハバククは機内に入ろうともせずに、

笑い声を上げると、

『はーははは!!

 私の勝ちだ!』

と勝利を確信する言葉を叫ぶ。

「させるかぁ!!」

その言葉に櫂は怒鳴り返すが、

「櫂っ

 無理だ!

 一旦引け、
 
 このまま上ると成層圏だぞ!!
 
 窒息するぞ!!」

後に続く海人が叫び声を上げた。

しかし、櫂はなおも高度を上げると、

「あのバカ…」

高度を上げていく櫂を海人は追いかけて行った。

その一方で、

「最終誤差修正!!

 カウントダウン再開します。
 
 プログラムに変更無し

 10…

 9…」

天界にN2超時空振動弾発射のカウントダウンの声が響きわる。

「ごくり…」

大型パネルに映し出される数字に皆が固唾を呑む中、

「ふふん」

黒髪の女神は余裕の表情をみせ、

また、銀髪の女神はピンと張りつめる発令所の雰囲気とは別に

じっとTVで放映されているアニメ番組を食い入るように見ていた。

ピピピピピ…

照準を示す2つの三角マークは画面の中を動き回り、

狙いがなかなか定まらないことを物語る。

けど、その間にも、

7…

6…

カウントダウンを告げる声が鳴り響き。

そして、

1…ビィー!!

カウントダウン終了と共に照準器内で動いていた2つの三角マークが一つになる。

「N2超時空振動弾、発射!!」

「ぴぴっ!!

 カチッ」

その瞬間、黒髪の女神が作り上げたロボットが発射ボタンを押すと、

シュバァァァァァ!!!

ドリルミサイルに搭載されたN2超時空振動弾は、

白い尾を延ばしながら天界より亜空間へと躍り出る。

シュォォォォン!!

ドリルミサイルはまっすぐ UC457LD298 と RL338PMQ248 の間に

設定されたポイントへと一直線に突き進み、

そしてポイントに到達すると、

ギュルルルン!!

ドリルを回転させながらN2超時空振動弾をセットする。

その直後…

カッ!!

ミサイルの中央部で閃光が走ると、

パァァァン!!

ドッゴォォォォン!!

N2超時空振動弾は球体状の衝撃波を発し、

絡み合っている二つの世界を激しく揺さぶる。

ビシビシビシ!!

その振動により世界と世界を絡め取っていた幾本もの腕が千切れ落ち、

ギギギギギ…

ゴゴゴゴゴゴ…

きしみむ音を上げながら絡み合っていた二つの世界はゆっくりと離れ始めていった。

「やった、成功だ!!」

「なぁに当たり前よ」

次第に離れていく世界に女神達も含めて発令所は喜びに沸く一方で、

乙姫達を乗せた隼は成層圏に達しようとした。

『はははは!!

 無駄だ!!
 
 お前は負けたのだ!!』

半ば凍り付きながらハバククはそう宣言したとき、

カッ!!!

隼の行く手に閃光が輝く。

『何?』

「え?」

光り輝く閃光は見る見るその大きさを変え、

まるで皆を飲み込むように迫ってくると、

『なっなんだこれは!!!!

 うわぁぁぁぁぁっ!!』

迫り来る閃光に向かってハバククが叫び声を上げるのと同時に

閃光は飛行する隼を飲み込み、

ハバククは悲鳴と共に光の中に消えていった。

しかし、閃光は容赦なく後に続く櫂へと襲いかかる。

「真奈美っ!!!」

閃光の中に消えていく隼に向かって櫂が叫ぶと、

『櫂さんっ!!』

シャッ!!

櫂の真下よりあの摩雲鸞・オギンが一気に上昇し、

見る見るその姿を巨大化させると、

バシッ!!

櫂をさらい、そして迫る閃光から逃げ始めた。

一方で、

「きゃぁぁぁぁ!!」

「くそっ!!」

無論、櫂の後を追いかけていた藤一郎達にも閃光が襲いかかってくると、

「ちっ

 一旦脱出だ!!!」

迫る閃光を睨み付けながら海人はそう叫び、

方向を変えて逃げ始めるが、

迫りくる閃光の方が足が速い。

「だめっ逃げ切れない!!」

「うわぁぁぁぁん!!」

閃光が接近してくる様子を見ながら夜莉子と沙夜子が泣き出した。

「ちくしょう!!」

間近に迫ってきた閃光を背に受けながら海人が怒鳴り声を上げたとき、

『スケカク!

 マーブルサンダーっ!!!』

男の声が響き渡り、

それと同時に海人たちの行く手より光の渦が現れると、

シャッ!!

海人たちの横を走り過ぎ、

閃光へ深く突き刺ささると、

バチバチバチ!!

襲い掛かる閃光を押しとどめる。

「あっ」

その様子を海人たちが見つめていると、

『そんなところで何をしておるっ

 こっちじゃ』

あの成行兎之助の声が響き渡り、

モワッ!!

海人たちの前に突然、渦巻く暗黒の渦が姿を見せると、

「はーぃ

 みなさーんっ

 こっちでーす」

の声と共にあのバニー1号が中から姿を見せると手招きをする。

「(はっ)みんなっ

 あそこに逃げ込め!!」

「おっおう」

それをみた海人や藤一郎たちが次々と渦の中に飛び込み、

そして渦が消えた途端、

シャッッ!!

閃光を押しとどめていたマーブルサンダーも消え、

その直後、遅れ取り戻すかのように閃光が襲い掛かった。

その一方で櫂は…

『ダメっ

 間に合わない!!!』

摩雲鸞・オギンと共に一度は脱出を計ったものの

しかし猛追するかのように迫ってくる閃光にオギンは悲鳴を上げる。

「乙姫様!!!

 真奈美!!!」

櫂は自分を飲み込もうとする閃光をみつめながら叫び声を上げ、

そして、その直後、

二人の姿は閃光の中へと消えて行った。



時を同じくして太陽系外周部…

暗黒の宇宙空間の中を切り裂くようにして疾走するツルカメ彗星…

彗星の頭を形作るガス雲の奥深く、

ガスを盛んに吹き上げる核の中に巨大な浮城が浮かんでいた。

「座標、オールグリーン!!」

「魔導炉出力上昇!!

 +2.5
 
 +5.0
 
 +7.5…

 第6宇宙速度突破…」
 
「時空震確認!!

 ワープ入ります」

「ワープ!」

浮城の進行方向前方に設置してあるコントロールルームに

ワープインを告げる声が響き渡ると、

その瞬間、コントロールルーム内に緊張が走る。

「いよいよか」

「あぁ」

「これまでにもワープは幾度もしてきたが、

 随分と緊張するワープだな」

「ふっ

 さて、地球の老人達はどんな顔をして出迎えてくれるか」

「変な揉めコトが起こらなければいいが」

「ふふっ

 問題はない、
 
 あの老人達にそこまでの甲斐性はないよ、

 さて、このワープから抜ければそこは地球か…」

そう呟いた後、五十里の口は喜ぶかのようにかすかに開く。



ズゴォォォォォォン…

「………」

空の彼方で輝く閃光の下、

白い航跡を引きながら海原を進む船のデッキに雉沼加世子の姿があった。

「奥様…」

「収容者は全員収容致しましたか」

閃光をバックに加世子は掛けられた声の方を振り向くなりそう尋ねると、

「はいっ

 撃墜されたメイド隊の救出、
 
 並びにバニーガール達の回収を終わりました」

「そうですか、

 ご苦労様です」

「ただ…」

「何です?」

「はっ、メイド隊長の美麗様と、

 犬塚の若様と若様が連れてこられた方々の標識番号が先ほどよりロストしていまして」

「美麗が行方不明?」

「はっはぁ…

 あの…捜索をした方がよいのでは?」
 
メイドは加世子に美麗の捜索を提案するが、

「そうですわねぇ…

 でも、
 
 大丈夫です
 
 あえて捜索をする必要はありません」

メイドの質問に加世子はそう返事をすると、

輝き続ける空を眺めた。



つづく





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