風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第39話:驚異、ハイパーバニー砲】

作・風祭玲

Vol.521





コォォォォォン…

「竜宮を見つけたとは本当か?」

利島沖海底で静止するシーキャットに猫柳泰三の声が響き渡った。

「はいっ

 お喜びください、会長!

 我々が放った探査機の一つが海中を移動していく人魚と思わしき物体をキャッチ、
 
 その物体を追尾を始めましたところ、
 
 大島の北北西海域にて探査機からの位置情報に異常発生、
 
 同時にマッピング面より消滅しました」

と青柳は胸を張って報告をした。

「消滅って…」

「何かトラブルがあったのではないのか?」

青柳の報告に他のスタッフ達が事故の可能性を指摘すると、

「いえっ

 あくまで、位置情報が得られなくなっただけで、
 
 探査機からのデータ通信は海底内に設置した固定アンテナを経由して現在も送られております」

「データ通信はおっけーか…」

「位置情報ののみに障害?」

「ふっ

 何、戸惑っておる。
 
 探査機は現在マッピングができないエリアにある。
 
 と言う事ではないか、
 
 マッピングができないエリア…
 
 それはすなわち竜宮であると見ていいだろう」

青柳からの一連の報告を聞いた泰三は大きく頷きながらそう判断をすると、

海図に目を落とし、

ツー

っと指で大島の北北東海域へとなぞった。

すると、

ピタッ

泰三の指がいきなり止まると、

「ふふっ

 そうか…

 サルめ、小癪なまねを…
 
 攻撃に見せかけて我々を竜宮から遠ざけていた。
 
 と言うワケか」

というセリフがその口から漏れ、

そして間を置かずに

「面舵いっぱい180°!!

 ダッシュッを使い、全速力で探査機が消えた大島北北西海域へ向かえっ」

と声を張り上げた。

そして、その直後、

ゴゴゴゴ…

南に進路を取っていたシーキャットは巨体を捩るように大きく反転をすると、
 
シュォォォォォン…

ズムッ!!!

電磁推進システムを稼動させ、

まるでかき消すかのごとく視野から消えて行った。


 
その頃、種子島西方海上では

「はいっ、

 実はあなた方が使われる術と混同されるのを防ぐため、

 あえて、枷を填めさせてもらいました。

 でも、ご自分で見つけられた以上、

 規制はいたしません」

10万馬力のメイドスーツに備えられている力、

人造オリハルコンによって作られたそのエネルギー源について

水姫は美麗より説明を受けると、

「そっか…

 これって、あたしの術とは違うのか」

美麗の言葉をかみ締めながら水姫はそう呟くと、

「じゃっ

 遠慮なく…いこっか!」

表情を変えながら持っていたマシンガンを放り投げると、

「いくわよぉ

 覚悟はいいわね

 ハッ!!」

ドォォン!!

両手に光弾を作ると、迫る海魔に向け一気に放つ。

すると、

「さっ沙夜子ちゃん、見て」

「なに?」

光弾による攻撃を始めた水姫を見た夜莉子が沙夜子に声をかけると、

「あなた達、

 このパワードスーツには私達の水術と同じ力があります。

 それをお使いなさい」

と水姫が声を張り上げた。

「え?

 そうなの?」

「それならそうと」

「さっさと言ってくれればいいのに」

水姫のアドバイスに沙夜子と夜莉子もマシンガンを放り投げ、

シャッ

沙夜子は雷竜扇を広げ、

「はぁぁぁ!!」

と気合を込める。

そしてその直後、

「翠玉波っ!!」

の掛け声をともに、

シャシャシャッ!!!

普段とは色の違う波動が海魔たちに襲い掛かかる。

『ちっ

 一気に反撃に転じたか』

押し返され始めた海魔の勢力をジラは感じ取ると、

『遅い…

 あいつらは何をしているんだ?』

自分の後から追いかけてくるはずの後続隊が遅れていることが気になった。



その頃、櫂はと言うと、

攻勢に出た見方の援護と種子島への侵入ルート探索のために

残っているメイド2名を従えて北東の方向へと向かっていた。

そして、海面付近にまで下降したとき、

「ん?

 なんだあれは?」

海面スレスレに移動していく巨大な飛行物体を見つけると、

「はぁ?」

この場にあまりにも場違いな姿のそれに櫂は呆気に取られた。

そんな櫂の後ろでは

「なんで…」

「あんなのが飛んでいるの?」

と護衛のメイド達は呟き、

「(コホン)まるで…木馬だな…」

と櫂は見た感想を素直に言う、



「え?

 木馬がこっちに向かっているっですって?」

櫂からの通信に思わず美麗が声を上げると、

「木馬ってあの木馬?」

それを聞いた沙夜子は聞き返す。

「そっか、

 木馬と思わせてこっちを油断させておいて、

 一気に攻め込む気なんかじゃないの?」

沙夜子の言葉に夜莉子はそう推理すると、

「ふむっ

 その可能性は大か…」

沙夜子も納得したかのように頷いた。

「うん

 この感じ…

 間違いなく敵…

 ならば沈めるまでだ」

宙を飛ぶ木馬より海魔の気配を感じた櫂はそう決心すると、

ジャキッ

座倶マシンガンの弾を装てんし、

そして、胸ののリボンを揺らしながら一気に突撃を開始した。

ズドドドドドドン!!

櫂のマシンガンが火を噴き、

ドンドンドン!

木馬の胴体から一斉に煙があがる。

と同時に

シャッシャッシャッ!!

攻撃をかけた木馬からの反撃が一斉に始まり、

「おっと」

櫂は巧に反撃をかわす。

『!!っ

 しまった』

後続が櫂に襲われていることにジラは気づくと

『えぇいっ

 邪魔だ!!』

追いすがるメイドを突き飛ばし戦線を離脱し、

櫂の攻撃を受けている木馬へと向かいはじめた。



「博士っ

 こんなところでなにを…」

「ふっふっふ

 なんだか手こずっているようだから、

 土産をと思ってな」

一方、櫂たちの戦場から距離を置いた海上では

”百”と書かれた金色のバニースーツを輝かせるバニー1号が支える巨大な砲筒の整備をしていた。

「あのぅ

 なんですか?

 これ?」

「ん?

 わからんか?

 ワシの苦心の作品…

 名づけてハイパーバニー砲じゃ!!」

と尋ねられた成行は胸を張って砲筒の正体を明かした。

「ハイパーバニー砲…」

「そうじゃっ

 このハイパーバニー砲に掛かれば、

 どんなに強いやつでもたちまちバニーに大変身!!

 ふふっ

 また一つワシの野望が実現するのじゃぁ!!!」

成行は喜びの表情を顔中に滲ませながらボルテージを上げる。

そして、

「あっ

 そこのカモメ君っ

 鏡に影を落とさないで、

 出力が下がるからな

 こんな天気では一つの影でも大変なんだからな」

と成行はハイパーバニー砲の周辺に展開しているミラーの上を飛ぶカモメに向かって注意をすると、

「ところで、どうじゃっ

 MSN−100…百式バニースーツの着心地は!

 ワシの作品中、トップクラスの性能を持つバニースーツじゃぞ」

バニー1号に向かって着心地を尋ねた。

「え?

 えぇ…

 まぁ(いつものとそんなに変わらないような)」

成行から着心地を尋ねられたバニー1号は戸惑いながらもあいまいな返事をすると、

「ふふっ

 そーじゃろう

 そーじゃろう

 よーしっ

 さぁ、バニー1号よ、

 エネルギーのチャージが終わったら、

 ハイパーバニー砲をゲルドルバ照準にて照射じゃっ!!

 ふふっ

 これを浴びれば例え化け物であってもバニーと化すのじゃァァ!!!

 うわーははははははは!!」

キラーン…

成行の笑い声を背景にハイパーバニー砲が砲口を向けるその先には

「たー」

「落ちろぉぉぉ」

「いけぇぇ」

の叫び声と共に激しい戦いを演じている櫂たちの姿があった。



『キェェェェェ!!!』

「うわっ

 おいっ、藤一郎!!

 しっかりと警護しないか!!」

「それぐらい、自分で何とかしろ!!」

「うるせーっ

 こっちは竜筒だけで精一杯なんだよ」

「なにを!!

 僕が遊んでいるとでも言うつもりか」

「遊んでいるんじゃなかったらなんだよ、

 こっちはさっきから海魔に攻撃されっぱなしなんだぞ」

「あぁ?

 それは単純にお前がノロマなせいじゃないか?」
 
「なんだとぉ?」

「やるかぁ!?」

もともと気が合わない上に、

警護をめぐってのすれ違いから海人と藤一郎とがいがみ合いをはじめてしまうと、

「ちょっとぉ

 こんなところでケンカをしないでよ」

とそれに気づいた水姫が割って入った。

「水姫っ

 邪魔をするな」

「そうですよっ

 水姫さん、
 
 これは僕とこのアホの問題です」

水姫はその両側から責められた。

しかし、

キッ!!

水姫は鋭い視線で両者を交代で睨みつけると、

「こういう馬鹿な真似は全てが終わってからにして、

 いま、あたし達がしなければならないのは、
 
 囚われている乙姫様を助けに行くことでしょう。
 
 個人的な問題を持ち込まないのっ」

と強い口調で言う。

「そっそれはそうだけど」

「まっ、確かに…」

水姫の言葉に海人・藤一郎両者が口篭ってしまうと、

「もぅ、海人っ

 竜筒へのエネルギー注入、
 
 全然じゃないっ
 
 さっさと作業をするのよ、
 
 それと藤一郎さん。
 
 あまり、海人にちょっかいを出さないでね」

と注意をするなり、

パンパン!!

二人を急かすように手を叩いた。

その途端。

「え?」

水姫は何かを察すると、

バッ

っと後を振り向いた。

「どうしたんだ?」

「どうかなされましたか?」

水姫の行動に海人・藤一郎の両人が尋ねると、

「なんか…

 とてつもなく邪悪なものが…」
 
と水姫は呟き、悪寒を感じるのか肩を小刻みに震わせた。

「邪悪?」

「さぁ?」

「お前のことじゃないのか?」

「あのなぁ!!」

水姫のその声に海人と藤一郎は的外れの言葉を言う、



ミアミアミアミア…

「エネルギー充填、

 70%」

「うむ」

バニー1号が読み上げるチャージ率に成行は大きく頷くと、

「さぁ、

 あと30%だ
 
 頼むぞ!
 
 カガミ君!!」

と声を張り上げる。

「はぁはぁ」

「はぁはぁ」

「はぁはぁ」

「はぁはぁ」

「ねぇ…」

「なに?」

「海魔って全部で何匹いるの?」

「なんでよ?」

「だぁって、全然減らないじゃない…

 あたし一体何匹退治したんだろう…」

「さぁねぇ

 何匹だなんて忘れちゃったよ、
 
 そんな大昔の事…」
 
雷竜扇を開き、

片っ端から海魔を葬ってきた沙夜子がついに弱音を吐くと、

それを聞いた夜莉子は流れ作業の如く処理をしていった。

「もぅ…

 なんか、イヤになっちゃった
 
 あかん、もぅ
 
 何が大きな何かで彼奴らを綺麗サッパリにお掃除してくれるモノはないのぉ!!」

額を流れる汗を拭いながら沙夜子がそう訴えると、

「沙夜ちゃんっ

 ここが踏ん張りどころなのよっ」

と夜莉子はいままさに戦いが天王山であることを告げた。

「ひぇぇぇぇ!!」

夜莉子の声に沙夜子が思わず悲鳴をあげたとき、

「夜莉ちゃんっ!!」

「!!!っ

 なにこれ?」

二人は遠く離れたところから漂ってきた邪悪なエネルギーを感じ取った。

「なにこれぇ」

「怨嗟?それとも邪悪?」

暗黒の太陽から流れてくるのかと思わんばかりの

ダークなその気配に沙夜子と夜莉子は顔を背けてしまうと、

『だめっ

 そこにいては…
 
 離れて…』

と言う声が頭の中に響いた。

「だっだれ?」

「だれよぉ!!」

頭に響いた声に向かって沙夜子達が声を張り上げると、

『櫂にも離れるように言って』

と声は告げた。

「櫂君に?」

「どっどうしよう」

「行きましょう」

思いもよらぬ声に沙夜子と夜莉子は戸惑いながらも、

海面方面に降りていった櫂の後を追う。



『ふふっ

 なかなか強いではないか、
 
 我が軍は…』

結界の外側で繰り広げられている戦いをハバククは

管制室のモニターで観戦しながらそう呟くと、

『ハバクク様っ』

の声と共に一体の海魔が飛び込んでくるなり、

『スペースシャトル・隼への荷物の搭載が完了しました!』

と乙姫と真奈美をスペースシャトル・隼への搭載を終えたことを報告する。

『そうか、

 ご苦労』

櫂たちに押し返されたときは不機嫌な顔をしたハバククであったが、

なんとか5分に持ち直した途端、上機嫌になっていた。

『ふっ

 ジラも持ちこたえているみたいだし…
 
 まぁ足止めとしては合格か…』

戦場に送り込んだジラの活躍を見ながら、ハバククはそう評価すると、

『あっあのぅ…』

さっき報告をした海魔が声をかけた。

『なんだ』

海魔の声にハバククは聞き返すと、

『はっ

 はっ隼の発射は何時でしょうか?
 
 その準備をしなくてはならないので』

と海魔はシャキっと背筋を伸ばすと、

スペースシャトル・隼の発射時間を尋ねた。

『ん?

 そうか?
 
 そーだなぁ…』
 
海魔の問いにハバククは時計に視線を送ると、

『17:00に出発だ』

とハバククは時間を定めた。

『畏まりました。

 では17:00には全ての準備を終わらせます』

ハバククより出発時間を聞かされた海魔は

そういい残して管制室を飛び出していった。



「どひゃぁぁ!!」

「なによっ

 あの木馬は!!」

櫂の元へと下りていった夜莉子と沙夜子は猛然と攻撃をかけてくる木馬に苦戦をしていた。

「落ちろぉ!!!

 くぉのっ雷竜扇!!」

シャシャシャ!!

ドォォォン!!

接近を試みた沙夜子が放つ雷竜扇が木馬の脚に命中するが、

しかし、攻撃で大きく傷ついた脚が見る見る修復してしまうと、

今度は木馬からの反撃が沙夜子を狙い撃ちにする。

「うひゃぁぁぁ!!!」

「逃げて、沙夜ちゃん

 援護するわ」

モップにしがみつくようにして引き返す沙夜子に夜莉子は援護攻撃をすると、

今度は夜莉子を目掛けて木馬は攻撃をかけてきた。

「うひゃぁぁ!!!」

「なによ、アイツ…

 全然攻撃が利かないじゃない…」

「まさに海魔の要塞って感じね」

「でも、なんで木馬なんだろう?」

「さぁ、海魔に聞いてみたら?」

「で、

 櫂君は何処?」

木馬への攻撃を一時断念した夜莉子は櫂の姿を探すと、

「夜莉ちゃんっ

 あそこっ」

同じように櫂を探していた沙夜子が声を上げた。



『ならば、お前を沈めるだけだ』

「うるせーこの野郎!!

 さっさと通しやがれ!!」

そのとき、櫂は襲いかかってくるジラと対峙し、

激しい空中戦を演じていた。

スドォン

「うぉっと!」

ジラが放った光弾をスレスレで櫂が避けると、

「どこ撃っているんだ、

 あたらねーぞ!!」

と怒鳴り声を上げる。

『うるさい

 うるさい』

櫂の声にジラは頭に血を上らせると、

チャキッ!!

装備していたビームライフルを構えるなり、

シュパーン!!!

手当たり次第に射撃を始めだした。

「うわぁぁぁ!!

 キレやがったコイツ!!」

ジラの猛攻撃に櫂は一気に離脱すると、

「櫂さーん!!」

との声と共に夜莉子と沙夜子が一直線に飛んできた。

「あっ

 沙夜子さんに夜莉子さん。
 
 下がってください。
 
 ココは危険です!!」

姿を見せた二人に櫂は声をあげ、

ジラが放つビームをかいくぐりながら二人の元へと飛んで行く。

『逃がすか!!』

それを見たジラが櫂を追いかけようとすると、

「あっ

 このぉ!!

 雷竜扇!!!」

すかさず沙夜子が雷竜扇で反撃をした。

すると、

ドォォォン!!

『うぎゃぁぁ!!』

沙夜子が放った光弾が命中し、

ジラは白煙を棚引かせながら落下していく、

「ありがとう、

 助かったよ」

「良かった。

 あれ?

 護衛のメイドは?」

礼を言う櫂に夜莉子は櫂についていたはずのメイドの姿が見えないことを指摘すると、

「残念だけど、

 二人ともあの白いヤツに…」

夜莉子の質問に櫂は従えていたメイド2名が落とされたことを告げる。

「そっか…

 悔しいな…

 ところで、あたし達に残っている戦力ってどれくらいあるのかな?」

櫂の返事に夜莉子は不安そうなセリフを言うと、

「向こうはどうなんです?

 美玲さんたちは無事なんですか?」

と櫂が尋ねた。

「え?

 うんっ
 
 何とかね」

「でも、さすがに敵も強いわ、

 さっき木馬とやりあったんだけど、
 
 ダメ、全然歯がたたない」

「くそっ

 種子島が見えているのに…」

手詰まり感に櫂が無念そうなことを言うと、

「でも、

 海人さんの竜筒が健在だから、
 
 大丈夫、こんな結界なんて吹き飛ばしてくれるわ」

と夜莉子は希望が残っていることを言うと、

「とにかく、竜筒のところに集合しましょ」

沙夜子はそういい残して一足先に海人のところへと向かっていった。




一方、海人たちはというと、

「おらぁ、しっかりと守れよ」

「やかましいわ、

 こっちだってギリギリだつーのっ」

湧き上がってくるかのように襲い掛かってくる海魔を相手に

奮戦している真っ最中であった。

「うりゃぁ!!」

「消えろぉぉぉ」

「くっそぉ…

 これじゃぁ…竜筒の準備すらままならないぞ

 せめて、1分でもいいから足止めしてくれ!」

隙を突いては襲い掛かってくる海魔に海人は藤一郎に向かって怒鳴ると、

「これだけの相手を前に無理を言うなっ

 えぇいっ

 落ちろぉぉ!!」

ヒュン!!

バシッ

『ぎぇぇぇぇ!!』

袖より伸びる鞭を振るいながら藤一郎は怒鳴り返すと、

「口ゲンカをしている場合じゃないでしょう」

奮戦中の水姫が声を上げる。

「まったく、なんでこんな目に」

まさに死守という言葉がぴったりな状況に、

藤一郎や海人、そして水姫に疲労と焦りの色が出ていた。

「とっとにかく、

 一旦退却をして体勢を…」

と藤一郎が退却を口にしたとき、

「アクア・ランス!!」

櫂の掛け声が響き渡ると、

シャッ!!

鋭い光の矢が海魔たちの中へ突き刺さり、

その直後、

ズドォォォン!!

強烈な爆発と共に海魔たちが吹き飛ばされ落ちていった。

「櫂っ」

「大丈夫ですか?」

「あぁ、なんとかなっ

 それにしても、いまのはなんだ?」

「あっ

 えぇ、アクアランスって言って、
 
 乙姫様から教えて貰った技です」

「ほーそっか、

 結構威力がある術じゃないか」

「でも、連射は利きませんが」

合流してきた櫂と海人がそんな会話をしていると、

「おいっ、

 ここは一旦、退却をしたほうがいいんじゃないか」

取り囲む海魔をけん制しつつ藤一郎が声を上げる。

「ダメだ!!」

藤一郎の声に櫂が即座に反論すると、

「でも、

 ちょっと今の状況では、キツイのも事実ね」

と夜莉子は言う。

「………」

あまりにも圧倒的な海魔の攻撃力に櫂が唇をかみ締めると、

「櫂さん…」

美麗が櫂に呼びかけ、

「結界が張られて以降、種子島からはまだ何も飛び立っていません。

 恐らく、島の周りに張ってある結界が種子島から出るモノまでも規制していると思われます」

と分析結果を報告をした。

「え?」

美麗の報告に櫂が驚くと、

「そっか、

 結界がある限り乙姫様達も足止めされて居るんだ」

そう呟きながら種子島を見下ろした。

とその時、

『大分苦戦しているようじゃのぅ』

成行の声が無線機を通じて響き渡った。

「成行博士っ」

「今度はなんですかっ」

「それよりも攻撃に参加してくださいっ

 人手が足りないんです」

さっきとは情勢が変化したためか、

櫂たちの口から出てくるセリフも大きく変わる。

すると、

『はーははははは!!

 攻撃に参加か…

 良かろう。

 ただしワシは並みの攻撃はしないからな』

と含みを持ったセリフを言った。

「並でも特上でも構いません。

 とにかくすぐに…」

痺れをきらせた櫂がそう怒鳴るのと同時に、

『よーしっ、3時のオヤツの時間を過ぎてしまっているが、

 困っている君たちに特上のランチをご馳走してやろう。

 さぁ今すぐ真上に向かって進めっ!』

と成行は櫂たちに命令をした。

「え?」

「上?」

成行が告げた命令に皆が戸惑うと、

『巻き込まれなければさっさとしろ』

と成行は急かした。

「え?

 えぇ?」

成行の急かすようなその言葉に櫂たちは訳もわからないまま慌てて上昇していく。

すると、

『なんだ、あいつら…

 上に逃げただとぉ?

 追えっ』

その様子に再び上ってきたジラは櫂たちを追うように海魔たちに指示をするが、

次の瞬間、

ズムッ!!!

北の海上より衝撃波がジラ達海魔を直撃をすると、

間髪いれずに巨大な光の矢がまっすぐ自分達の方向へと向かってくる様子が目に入った。

『なっなんだ…

 あれは…』

向かってくる光の矢にジラは逃げることも立ち向かうこともできないまま呆然としていると、

シュォォォォン!!

『え?

 え?

 うっ

 うわぁぁぁぁぁ!!!』

叫び声を残し、ジラと海魔の群れは光に飲み込まれ、

そしてあるものへと強制的に”変身”されていった。



「10・9・8・7…」

ヒィィィン…

時間軸を少し戻し、

ここは、成行とバニー1号がハイパーバニー砲の発射準備をしている海域。

「バニー1号!

 ハイパーバニー砲、

 ゲルドルバ照準で180秒間照射じゃ!!』

バニー1号のカウントダウンを聞きながら照準器を微調整を終えた成行は声を張り上げると、

「はいっ

 博士、エネルギー充填、100%

 ハイパーバニー砲、ゲルドルバ照準にて180秒間照射いたします。

 最終安全装置解除、

 全ての回路オールグリーン…

 カウント5より再開。

 博士、対閃光防御を」

準備を整えたバニー1号は顔に掛かる髪を退けながらテキパキと作業をこなす。

「おっおぉ、そうじゃった

 おいっ、聞こえるか、

 巻き込まれなければ上に上がれ」

バニー1号に閃光避けのサングラスをつけるように指示された成行は

顔に風防のようなサングラスを付けると、

無線機で櫂たちに向かって照射域から脱出するように指示をだす。

カチャッ!!

照準器内に映る海魔の大群を見据えながらバニー1号がトリガーに手を掛け、

「3・2・1…

 ハイパーバニー砲っ

 照射っ」

カウントダウンを言い終えたバニー1号が叫び声を上げるのと同時に

カチッ!!!

トリガーを引いた。

一瞬、周囲の音が消え去り、

次の瞬間、

カッ!!

ハイパーバニー砲の砲身の先端で閃光が輝くと、
 
ズンッ!!

砲身全体が周囲の区間を揺るがすかの如く大きく振動をした。

「うわわわわわ」

まるで暴れ馬の如く振動するハイパーバニー砲の砲身をバニー1号が必死で支えていると、

「見よっ

 バニー1号!!
 
 ワシの成果を!!
 
 バニーが…
 
 バニーガール達がまるで花吹雪の様ではないかっ!!」

ハイパーバニー砲の砲口の先を指差し成行は叫び声を上げる。

「え?

 うひゃぁぁ…

 すっすごい…」

砲身を支えながらバニー1号は双眼鏡を除くと、

砲口のが向いているはるか先の空間より、

ぶわぁぁぁぁぁぁぁ…

っと吹雪が吹き上がるように飛散していく無数のバニーガールの姿を見た。

そして、ハイパーバニー砲の威力に唖然としながらふと手の力を抜いた途端、

ドン!!

「きゃっ」

ハイパーバニー砲の砲身が暴れると、

その砲口が種子島へと向きを変えてしまった。

「なにをしておるバニー1号!!

 すぐに修正をしろ!!」

即座に成行の怒鳴り声が響き渡り。

「すっすみません」

バニー1号は慌てて砲身の向きを戻すが、

しかし、ハイパーバニー砲の砲口が向いていた種子島・大日本宇宙センターでは

次々とバニーガールに変身してゆく海魔たちの間でパニックが起きていた。



ハバククがハイパーバニー砲による光線束を目撃したのは

隼の準備がひと段落し、喫茶室で優雅にコーヒーを啜っているときだった。

『なんだ…

 あの光は…』

北の海域より生じ、

天空を切り裂くように照射されている巨大な光線束をハバククはジッと見つめていると、

『たっ大変です、ハバクク様』

血相を変え、海魔が声を上げながら駆け込んできた。

『どうした』

海魔の声にハバククは怒鳴り声を上げると、

『ぼっ防衛隊がぁぁぁ!!』

海魔は屋久島の方角を指差しながら顔を引きつらせる。

『なに?』

海魔のその表情に驚いたハバククは慌てて司令室へと駆け込むと、

【…うわっ…】

【なっなんだこれは…】

【いやぁぁん…】

【あぁん、変身しちゃう】

と意味不明の声がスピーカーから流れ、指令室内は騒然としている。

『何が起きた!!』

それを聞いたハバククが呆然としている海魔達に怒鳴ると、

『あっハバクク様っ

 いっ一大事です』

『敵と交戦中の防衛隊に向け謎の怪光線が照射され、

 我が防衛隊はほぼ壊滅状態にあります』

と海魔は報告をする。

『謎の怪光線だと?』

海魔のその言葉にハバククは聞き返すと、

『あっあれです。

 あの光線が!!』

別の海魔がさっきハバククが見ていた光線束を指差した。

『確かに…

 あの光には途方もない怨嗟の念を感じるが…
 
 一体何が起きているのだ…
 
 ジラはどうした!!』

光線束を見つめながらハバククは陣頭指揮を執っているジラのことを尋ねると、

『はっ

 先ほどから呼び出しをしているのですが、
 
 応答はありません』

返って来た返事はジラとの交信が途絶えていることを告げる。

『なにっ

 ちっ、しくじったか
 
 こうなれば…

 至急”隼”の発進準備をしろ、

 結界を解き、すぐに飛び立つ!』

櫂たちと対峙していた防衛隊が

壊滅してしまったことを悟ったハバククは隼の発進を指示するが、

ちょうどそのとき、

空を駆け抜けていた光線束が急に移動を始めだすと、

シャッ!!

宇宙センターをまるで舐めるようにして移動していった。

そして、それと同時に、

『うわあぁぁぁぁ!!』

『やゃぁぁぁん!!』

宇宙センターを陣取っていた海魔はもとより、

海魔たちに封じ込められていた人間の職員までもが次々とバニーガールへと変身し、

たちまちのうちに宇宙センター内は大パニックに陥ってしまった。

「いやぁぁぁん、なにこれぇ」

「たったすけてぇぇぇ!!」

「いやだぁ、こんな姿」

金色の髪を棚引かせ、

ピッチピッチのバニースーツ姿のバニーガールが

目から涙を流しながら逃げ惑う中、

『ふっふふふふふふ…

 図ったなぁ…

 人魚共め…』

真っ赤なルージュが塗られた口をニヤリと開き、

ムチムチの肉体を金色のバニースーツで封じ込めたハバククはそう呟くと、

『ふっ

 こうなれば…

 直接私が行くまで!!
 
 構わんっ
 
 隼を出せ』

と怒鳴りながら、

カッ

ハイヒールを響かせ表へと出て行った。



コォォォォォ…

「なっ何だこれは…」

先ほどまで自分達が居た空間をまるで覆いつくすようにして

照射されている怪光線を眼下に望みながら櫂は呟くと、

「うわぁぁぁ…

 すごい…」

「うっうん、

 なんていうか、
 
 怨念というか…
 
 執念というか…
 
 すごい念を感じる…」

沙夜子、夜莉子の二人は身を寄り添わせながら震え上がっていた。

そして、その横では

「光線砲か…」

「あぁ…

 恐らくあの成行博士の仕業だろう…」

と囁く藤一郎と海人の姿があり、

「そうか、

 道理で俺達に合流しなかったわけだ、
 
 こんな隠し球を持っていたんだからな」

「それにしても、恐ろしい兵器だ、

 見ろ、
 
 あの木馬がまるでゴミの様だぞ…」

そう言いながら海人が光線束の向かう先を指差すと、

そこには波を被り崩していく砂人形の如く崩壊していく木馬の姿があった。

「木馬が…沈んでいく…」

「それにしても、あの吹き飛ばされていくのはなんだ?」

キラキラと輝きながら散っていくモノの姿に藤一郎が気づくと、

「これを…」

と言いながら美麗が藤一郎に双眼鏡を手渡した。

「あっ、どうも…」

双眼鏡を手渡された藤一郎がそれを目に当てると、

「んなっ!」

と大声を上げた。

「どうした?」

「かっかは…」

「どうしたって言うんだ?」

「ばっ

 バニー…」

「はぁ?

 貸してみろ!!」

口をあけたまま呆然としている藤一郎に代わって海人が双眼鏡をふんだくると、

「なにぃ!!!」

突然叫び声を上げ、

「海魔が…

 海魔がバニーガールに変身しながら吹き飛ばされている」

と声を上げた。

「え?」

海人の声に全員が驚くと、

「この光線って成行博士のあのバニー砲なのか?」

櫂が呆然としながらそう呟いた。

すると、

グンッ!!

櫂たちの真下を貫いていた光線束が急に動き、

その矛先を種子島へと向けた。

「見て!!

 バニー砲が種子島を…」

それを見た夜莉子がバニー砲の光線束が

大日本宇宙センターを舐めるように動いていくことを指摘すると、

「乙姫様!!」

その様子に驚いた櫂が怒鳴り声を上げ、

慌てて乗っていたモップをすかさず種子島へと向ける。



「待て、

 まだ、結界があるぞ」

「早まるなっ」

種子島を襲う光線束に沿って飛んでいく櫂を海人、藤一郎が止めようとするが、

しかし、櫂はその声には答えず真っ直ぐ種子島へ向かって行く。

「ちぃっ

 こうなれば!!」

その様子に海人は再び竜筒を構えると、

「結界を吹き飛ばす!!

 みんな、俺の後ろに来い!!」

と怒鳴りながら、

グンッ!!

竜筒に向け思いっきり竜気を押し込み始めた。

その途端、

ミミミミミミミミミ…

竜筒の砲身が青白く輝き、

また、

カッ!!

ビシャッ!!

天界から落とされる雷撃を吸収しながら急速にエネルギーを充填し始める。

「エネルギー充填90%

 よしっ」

カシャッ!!

海人は目の前にトリガーをせり上げ、それを両手で支えると、

「95、96、97、98、99!

 エネルギー充填100%!!

 目標!!

 前方の結界!!」

と叫び声を上げるのと同時に

カチン!!

トリガーに取り付けられていた安全装置を解除し、

「エネルギー充填110%!!

 誤差修正!!

 エネルギー充填120%!!」

 ……

 用ぉー意っ!!

 …………

 撃テェェェェッ!!!」

狙いを定めた海人はそう叫びながら、

ガシャッ!!

思いっきりトリガーを前に押し出した。

その途端、

ゴワッ!!

竜筒を全体を覆っていた青白い光は

小さな光球を次々と沸き出させながら一気に砲口へと集まると、

一呼吸置いた後

シュパァァァァァァァァァン!!

白く輝く光の槍を種子島めがけて打ち出した。



つづく





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