風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第38話:敵は種子島】

作・風祭玲

Vol.519





キィィィィィィィン…

櫂たちが屋久島に到着する少し前、

東方より飛来してきたA380Fが種子島・大日本宇宙センター内の滑走路に後輪を付ける。

イィィィィィン…

宇宙センターの滑走路に着陸をしたA380Fはタービン音を響かせながらゆっくりと誘導路を通り、

そして、駐機場に着くなりタラップが横付けされるが、

しかし、時間が経っても機体のドアは開かず

「?」

機体整備のため待機していた作業員たちは思わず顔を見合わせた。

すると、

シュルル…

沈黙を守るA380Fを見上げている作業員達の背後より、

吸盤がついたタコの脚のような物体が伸びてくると、

シュッ!!

「うわっ」

ガコッ!

ドタッ

「うごっ!」

次々と作業員達に襲い掛かり、

瞬く間にA380Fの周囲から人影が消えてしまった。

そして、その頃合を見計らうかのように、

ガゴン!!

シュッ!!

A380Fのドアが内側より開くと、

『ふふっ』

不敵な笑みを浮かべる馬場勝文ことハバククが種子島に降り立った。

コツコツコツ…

靴を鳴らしながらハバククはタラップを降り、

そして、倒れている作業員を無言で見下ろすと、

ザザザザ…

たちまちハバククの周囲に異形の姿をした海魔たちが一斉に集まり、

シュルルル…

不気味な音を上げる。

『ふむっ

 出迎えご苦労!』

勢ぞろいした海魔の姿にハバククは満足そうに頷くと、

キッ

鋭い視線で海魔たちを一瞥するなり、

『よいか

 お前達、

 これからが我々にとってもっとも重要な時間となる。

 我々海魔が人魚どもに取って代わり、

 海の覇者になれるかどうかはお前達の働き次第だ』

と声を張り上げ、

『まずは人間共よりここを奪い取るのだ!!』

と滑走路越しに見ると宇宙センターの管制塔を指差しながら命令を出した。

その途端、

シャシャシャ!!

ハバククの号令が下るや否や海魔たちが一斉にハバククの元から散ると、

まるで、最初から何も居なかったかのように風が吹く。

『さぁてと、

 ここを陥したあとは…

 次は…

 上か…』

一人残ったハバククはそう呟きながら雷光が瞬く空を見上げると、

ゴロゴロゴロ

曇天のから雷鳴が響き渡り、

『確か、昼には片がつくと聞いていたが…』

雷鳴を聞きながらハバククは腕時計を見る。

すると、

サッ

一つの影がハバククに近寄るなり、

『ハバククさまっ』

と声をかけてきた。

『なんだ?』

その声にハバククが返事をすると、

『東京で振り切りました者達が音を超える速さでこちらに向かっておりますが』

と海人達の接近を告げる。

『振り切った連中?』

『はいっ、

 ハバクク様が猫柳の空港で痛めつけたものたちです』

『ほぅ…

 そうか』

間接的な表現で海人達の接近を聞かされてもハバククは余裕の表情で答えると、

『いかがなさいますか?』

と影は善後策を尋ねる。

『ふむっ

 音を超える速さと言うからには、

 天脚か、

 それとも水の道を使っているのか』

『いえっ

 今のこの状況では神通力系の力は容赦なく天界からの規制対象となりますので

 おそらく機械の力かと』

『飛行機か…

 しかも、

 超音速…

 ほぅ…猫柳には超音速機は保持していなかったはずだが』

影の説明にハバククは楽しそうに考えをめぐらすと、

『犬塚家…』

と影はヒントを告げた。

『ん?

 犬塚とな…』

『はいっ

 竜王・海彦と犬塚とは因縁めいた縁がありますので』

『ふむ、

 そうか、

 犬塚を引っ張り出したか、

 竜王にしては上出来な』

『ハバクク様っ』

『まぁ案ずるな、

 そうだな…

 ここの占拠が終わり次第、

 島の周りに楯甲陣を張れっ

 なぁに天界は昼のことで頭が一杯だ。

 防御系の術は恐らく…無視するだろう』

ハバククは影にそう命じると、

再びA380Fのタラップを上り

そして、機内のいたるところで倒れている人間の部下達を横目に見ながら、

貨物室へと向かっていった。



『乙姫さまぁ…

 どこかに着陸をしたみたいですよぉ』

円筒形の水槽に入れられたままの真奈美が周囲の気配を探りながらそう囁くと、

『そうのようですね』

真奈美の隣の水槽に入れられている乙姫は

瞑っていた目を開けながら返事をする。

『う〜っ

 何処につれてこられたのかなぁ…』

ピタッ

そう呟きながら真奈美は水槽の壁に身体を密着させ

出発時と変わらない貨物室の風景を覗いていると、

カコン!!

『!っ』

何かが開く音が響き渡った。

『乙姫様っ

 誰かが来ます』

その音に素早く真奈美が反応すると、

『……』

乙姫は答えることなくジッと前を見据える。

そして、程なくして

コツン

コツン

足音とともに現れたのはハバククであった。

『海魔…ハバクク…』

ハバククを見ながら真奈美はそう呟くが、

しかし、ハバククは真奈美や乙姫には一切目をくれず、

その前を通り過ぎていくと、

貨物室に積み込まれている別の梱包へと向かっていった。

『?』

ハバククのその行動を真奈美は不思議そうに眺めていると、

『おいっ

 起きろ!!

 出番だ!!』

という声とともにハバククは梱包を蹴飛ばした。

『なっなに?』

てっきり自分たちにイヤミの一つでも言いに来たのかと思っていた真奈美にとって、

肩透かしを食らうようなハバククの言動だったが、

しかし、

『うぐっ』

梱包より異様な呻き声が響き渡ると、

サッ

距離を空けるかのように水槽の反対側へと身体を寄せた。

『どうしたジラっ

 飛行機にでも酔ったか?

 出番だぞ』

再びハバククは梱包に向かってそう言うと、

ガシャッ!!

梱包の閉じられていた蓋を開く、

すると、

『うぐっ

 ぐぅぅ』

不気味な声を上げながら、

ピシャッ

ピシャッ

梱包の中より異形の姿をした海魔が姿を見せる。

『よーぅ

 なんとか生きているみたいだな、ジラッ

 君にチャンスをくれてやろう。

 いま、あいつ等の仲間がここに向かってきている。

 そこでだ、

 君に俺の計画が終わるまでその仲間の足止めをお願いしたいんだ。

 無論、引き受けてくれるだろう?』

と右足を海魔の身体の一部に乗せながらハバククは依頼内容を告げた。

『!!っ

 仲間って…』

ハバククのその言葉に真奈美は再びハバクク側の壁により、

『(ドンドン!)

 ちょっと、それってどういうこと?』

と壁を叩きながら声を張り上げた。

しかし、ハバククは声を上げる真奈美には一切目をくれずに、

『じゃぁ、

 お前に闘えるだけのエナジーをくれてやる。

 頑張れよっ

 期待しているからね』

と言うなり、

ブンッ

右手に光球を作ると、

ドォォン!!

一気に振りかぶり、下に居る海魔目掛けてたたきつけた。

バリバリバリ!!!

『ぎゃおぉぉぉう』

貨物室に放電光と共に海魔の絶叫が響き渡り、

そして、放電光が収まってくると、

『くくっ

 よーし、

 その身体ならちゃんと闘えるなじゃっ

 頑張ってな、ジラ

 あっそうそう、

 猫柳から面白いのを持ってきたから、

 それを使いといいよ』

変身をした海魔の姿にハバククは満足そうに頷き、

ポンッ

とRX-78と書かれたスーツケースを放り出すと、

『おいっ

 そこの人魚の積み替え作業をさっさとするんだ。

 時間は無いんだぞ』

とハバククは追って入ってきた海魔に命令をして立ち去っていった。

『くはぁ…

 はぁ

 はぁ…』

さっきまで海魔が居たところに人間の姿をした女性が蹲り、

そして肩で息をしていた。

『おっ乙姫様っ

 海魔が…

 おっ女の人に…』

『あなた…』

真奈美と乙姫の前に姿を見せた女性・千帆は

ジロッ

声をかけてきた二人を見据えると、

『(ふんっ)……』

何も言わずに立ちあがり、

ガッ

ハバククが放り投げたスーツケースを引っ張りながら立ち去っていった。



『なによっ

 あの態度っ

 ムカツクわねぇ』

千帆のその態度に怒った真奈美がべぇっと舌を出していると、

『あの人…

 死ぬつもりですね…』

と乙姫は呟く。

『え?』

乙姫の言葉に真奈美が驚くと、

『もぅすぐ、

 ここで戦いが始まります…

 わたくし達も海魔…

 相反する者ども同士ですが、

 でも、片方のみでは生きられません。

 そう言う宿命なのになぜ…』

空を見つめながら乙姫はそう呟くと目を閉じた。



シャシャッ!!

キンッ!!

住民達に気づかれず種子島の周囲に結界が張られたのはそれから程なくのことだった。

これが通常の日ならば誰かが気づいて大騒ぎになるものだが、

しかし、

ピシャッ!!

ガラガラガラ!!

大荒れの天気のためにそれに気づくものは誰も居なかった。 

そして、

ヒュォォォォォッ…

『くっ来るならこいっ!!』

白地に青のアクセントの配色で塗られたメカメカしい装甲のパワードスーツ

猫柳・RX−78を身に着けた千帆こと海魔・ジラは

ハバククより与えられた100匹近くの海魔を従えて、

結界の外、種子島の北東海上にて、

ジッとこの島に向かってくる者を待っていた。

『くっ

 ハバククめっ』

自分にとって目下扱いだったハバククに警護を命じられたことに内心腹を立てながらも、

しかし、ハバククより与えられた力でこうして人間の姿をしていられることをかみしめると、

『くっ

 あたしには…

 後がない…』

そう呟きながら背後に浮かぶ種子島を苦々しく見つめ、

そして、静に目を閉じ気配を感じ取り始める。

カチカチカチ

重苦しい無言の時間が過ぎていく、

『どこ…

 何処から来る…

 上か

 下か』

ジラは全神経を使い迫ってくるであろう気配を探るが、

しかし、いくら気配を感じ取ろうとしても、

海の向こうから来る者たちの気配を感じ取ることはできなかった。



『3時か…』

占拠した大日本航空宇宙センターのコントロールルームで

ハバククは時計がPM3:00を指したのを見るなりそう呟くと、

『確か天界より現在発生している異常事態を解決するための作戦が今日の昼に行われる。

 と聞いていたが、アレはどうなった?
 
 まだ始まっていないのか?』

と天界で進められているN2超時空振動弾による攻撃時刻を尋ねた。

『さぁ?

 何かが行われたかと思われますが、

 でも、ココの空は未だに晴れませ』

ハバククの問いに彼の後方に立つ海魔はそう返事をする。

『ふっ

 そうか、我々は所詮、その程度のものか』

天界からの情報が直通で伝わってこない自分達の扱いに

ハバククは唇をかみ締めながら沿う津媚薬と、

『ハバクク様っ』

そんなハバククの姿に心配した海魔が声をかける。

『ん?

 気にするなっ

 もぅすぐ、天界の我々に対するその見方も変わる、

 いやっ

 この俺が変えてやる』

グッ!

拳を握り締めながらハバククはそう言うと、

『皆もその思いです』

とこの作戦に参加している海魔たちの思いを告げた。

『そうか』

『はいっ』

『では、その思いを全てこの私に託してもらおう、

 無論、ジラもな…』

意を新たにしたハバククはそう呟きながらコントロールルームの窓の外を見上げた。

そのとき、

『ハバクク様

 来ましたっ

 屋久島方向より

 総勢30がこちらに向かってきます』

と監視をしていた海魔が叫ぶと、

『なに、屋久島からだと、

 ふふ

 そうか、

 この私を欺くつもりだろうが、

 おいっ

 その海域に待機している者共を上に上がらせろ、

 それとジラにも向かうように言え』

櫂たちが屋久島方向から来たことを知ったハバククは矢継ぎ早に命令を下す。

ところが、

『この感じ…

 こっちではない?

 向こうか!!』

ハバククからの命令が伝達される直前、

種子島に接近してくる櫂たちの気配を感じ取ったジラは

パワードスーツのバーニヤを起動させるなり、

屋久島の方向へと向かい始めた。

『あっ

 ジラ様っ

 どっ何処へ行くのですか』

ジラの突然の行動に気づいた海魔たちが声を上げるが、

『……』

ジラはそれに返答をせずに飛び去ってしまうと、

程なくしてジラの行動に困惑する海魔たちに

『敵襲!!

 各守備隊はは至急西海域へ集結!

 敵は屋久島方面より侵攻中!!』

と、櫂たちの侵入を告げる連絡が入った。

『おっおいっ』

『ジラさまはそこへ向かったのか』

『よーしっ

 我々もホーメーションWBに合体し追いかける!!』

海魔たちは声をあげながら

兼ねてからの訓練どおり次々と合体していくと

とムクムクと巨大な”あるものの姿”へと変身し、

ジラの後を追いかけ始めた。



シュォォォォン…

モップの柄に腰掛け、

座倶・具布・怒務この3種類のメイド衣装を靡かせながら

櫂・海人・藤一郎・水姫・沙夜子・夜莉子と

美麗のほか23人のメイド隊員を含めた総勢30人の強襲部隊は一路種子島へと飛んいく。

櫂たちと一緒に屋久島に降り立った成行とその助手・バニー1号は

なにやら別の作業があるからということで、この攻撃には参加していない。

ゴロゴロ…

本来なら南国の太陽が出迎えてくれるはずなのだが、

しかし、空には一面の暗雲と、

そして、明滅する雷光が事態の深刻さを物語っていた。

「そろそろ、結界の先端に差し掛かります。

 海人さま、ご準備を!!」

顔に装着したサングラス状のサイバーグラスに表示された情報を美麗が読み上げると、

「そっそうしてくれるか…

 おっ重くて重くて」

加世子から受け取った竜筒を強化カーボン繊維でできているベルトで肩より下る海人は

額から滝のような汗を流しながら訴える。

「そうですかぁ?

 怒務(MS−08)の積載重量にはまだ余裕があるはずですが…」

目を剥いて耐えている海人を美麗は首を傾げながらそう言うと、

「ふんっ

 十畳島ではあのレンに持って貰っていたからなっ

 たまには自分で持つのもいいんじゃないか?」

とそんな海人に藤一郎は言う。

「てってめぇ…

 なっなんならお前もこれ持ってみるか?」

ダラダラと汗を流しつつ海人はそう言い返すと、

「ん?

 あれ?」

海人が着ているメイド衣装(怒務)をチェックしていた美麗は何かに気づくと、

「あのぅ、

 リボンの結び方が違いますわよ」

と指摘をすると、

シュルリ

海人の胸元を飾るリボンを結びなおした。

その途端。

フオンッ

メイド衣装よりオーラが吹き上がると、

たちまち海人は竜筒の重量を感じなくなり、

「え?

 あっあれ?」

キョロキョロ周囲を見回した。

「どうです?」

「え?、

 えぇまぁ…

 急に軽くなって…はい」

竜筒の重量を感じなくなったことを海人は告げると、

「リボンの結び方がパワーセーブモードになっていました。

 いまフルパワーモードに結び変えましたので、

 重量を感じなくなったのでしょう」

と美麗は事情を説明をする。

「え?

 そうなの?」

「はいっ」

美麗のその言葉に海人は呆気にとられると、

ワサワサワサ…

それを見ていた櫂たちも慌てて胸元のリボンを結びかえる。

「よしっ

 これならなんとかなるか」

竜筒の重さを感じなくなった海人は涼しい顔をしながら

肩から下げていた竜筒を引揚ると、

海人一人を残して皆、後方へと引き下がる。

「まったく、

 一人でこんなことをするハメになるなんてな…」

ついさっきまでの事を忘れてしまったようなセリフを言いながら、

海人は竜筒の後方から突き出しているエネルギーチャージ用の装置に触れた途端、

ガコン!!

竜筒の両脇より後付された針のような突起が突き出し、

途中で90°上に曲がると空を睨んだ。

「何だ、これは?」

突き出した針を不思議そうに見ていると、

『をーぃ、聞こえるカァ』

と成行の声が響き渡った。

「成行博士っ」

響き渡った成行の声に櫂たちが驚くと、

『はーはははは…

 驚いたか、

 そうじゃろう、そうじゃろう、

 これはのぅ無線機とゆーてな、

 遠くから離れたところから会話ができると言う…』

「でっなんですか?

 まさか、無線機を発明したとで言うのですか?

 こっちは忙しいんですから、

 邪魔はしないでください」

竜筒の先端にぶら下がる安物のラジオを思わせる無線機を見つけた櫂は

無線機の説明を始め出した成行に向かって怒鳴ると、

『まったく、最近の若者はセッカチでいかんっ

 ワシがいいたいのは

 ”いま竜筒を起動したろう。”

 ってことじゃっ』

「いつそんな事言いました?」

『だから、いま言ったところだ』

「あっあのぅ…

 とにかく成行さんの話を最後まで聞きましょうよ」

櫂と成行の会話に危惧を抱いた夜莉子が思わず割って入ると、

『ふむっ

 物分りがいい者は出世するぞ』

と成行は夜莉子を褒め、

そして、

『竜筒にちょっと仕掛けを施しておいた。

 天界に隠れてこそこそしておるいまのお前たちには

 竜筒のエネルギーをチャージするのに時間が掛かるだろう。

 そこでじゃっ

 天界の力を利用させてもらうことにした。

 いま竜筒から突き出しているもの…それは避雷針じゃ、

 しかし、ただの避雷針ではない。

 天界からの雷撃をエネルギー変換をして竜筒に送る優れものじゃっ』

「へー…(でもいつの間に…)」

『だから、

 天界からジャンジャン雷撃を受けるといいぞ、

 それだけエネルギーが早く溜まるからなっ

 はーはははは!!

 あっそうそう、

 ワシらも準備ができたのでいまからそっちに行くぞ

 では、戦場で会おう!!』

成行は言うだけ言うと一方的に無線を切った。

「人の話を聞かないおっさんだなぁ…」

「でも、いいんじゃない、

 エネルギーが早く溜まるんだからね」

「うん」

無言になった無線を見ながら櫂たちはそう言いあっていると、

「ふぅぅん

 どれ?」

海人は試してみるかのように装置に向かって

グッ!

っと力を込めた。

その途端、

カッ!!

ガラガラガラ!!!

閃光と共に天上より稲妻が走ると、

ビシャーン!!

竜筒の両脇に突き出している避雷針へと誘導され、

そして、

グンッ!!

ミアミアミアミア…

竜筒にエネルギーが込められはじめた。

「おぉ!!」

パチパチパチ!!!

その模様に皆から一斉に拍手が送られると、

キ・キ・キ・キ…

エネルギーを受けて砲身全体が青白く輝きはじめる。

「よっしゃっ」

竜筒の起動を確認した海人は

バズーガ砲の様に竜筒を持ち替え次のオペレーションを行いはじめると、

「おいっ
 
 そこのお前っ

 竜筒から離れろ、

 邪魔だ」

と藤一郎を指差しながら声を張り上げた。

「なに?」

海人のセリフに藤一郎がすかさず刀に手を掛けると、

サッ

その手に水姫の手が重ねられ、

静に首を横に振った。

「ふっ

 仕方があるまい」

水姫の制止に藤一郎はそう漏らしながら刀から手を引いたとき、

「来ました!!」

海魔来襲を告げる美麗の叫び声が響き渡った。

「なに?」

その声に櫂を除く一同が一斉に種子島の方ををくと、

輝きを増す竜筒に引かれる様にして、

シャァァァァァ!!

ゾゾゾゾゾ…

空や海から滲み出すように海魔たちが姿を見せると、

瞬く間に侵入者を排除するかの如く、櫂たちの前に立ちふさがる。

「海魔っ(でも違う…こいつらではない)」

「さっ沙夜ちゃんっ」

「わかってるって

 大暴れしてあげるわ」

間合いを詰めてくる海魔の群れに沙夜子は雷竜扇を開き、

そして、夜莉子は破魔札を手にする。

そのとき、

「ここで力を使ってはダメです」

と美麗の叫び声が響き渡った。

「え?」

予想外の美麗の言葉に沙夜子たちは出鼻をくじかれると、

「天界からの雷撃は竜筒の避雷針で避けることができますが、

 あなた方が使った場合はその限りではありません、

 この状況での力の使用は危険です」

と理由を言う。

「そっそんなこと言われても…」

美麗の言葉に沙夜子達は戸惑うと、

「ここでは、これをお使いなさい」

美麗のこれが響き、

シュッ!!

次々とあるものが沙夜子たちへ向けて放り投げられた。

スチャッ!!

「これは…」

美麗より受け取ったものを見て櫂たちが目を丸くすると、

「はいっ

 座倶マシンガンです。
 
 これには退魔用の弾丸をセットしてあるので、
 
 これで、あの魔物をやっつけてるのです」

と美麗は声を張り上げた。



「……ねぇ」

美麗より渡されたマシンガンをシゲシゲと眺めながら沙夜子が尋ねると

「なに?」

カシャッ!!

カシャッ!!

マシンガンを安全装置を確かめながら夜莉子が聞き返す。

「あのさ…

 こういうのって…

 ”悪い方”の装備じゃないのかな…」

やや遠慮気味に沙夜子が言うと、

「そぉ?」

そんな事には無頓着そうに夜莉子は返事をする。

「でさ…

 こういうシーンって…

 あたし達…雑魚扱いでさ、

 白いのが現れた…と思った途端、

 バタバタバタ!!

 って倒されちゃうの」

と沙夜子が呟いた途端。

「来たぁ!」

櫂が声を上げると、

『させるかぁぁ!!』

の叫び声と共に、

シュンッ

海魔の奥より白い装甲に覆われた人間の女性が一人、

一直線に飛び込んできた。

そして、

『ハッ!!』

の気合の声が響くと、

ドンッ!!

メイドの一人の胸元で爆発が起こり、

「キャァァ!!」

悲鳴を残して彼女は下の海へと落ちていく。

「え?」

突然の事に皆が唖然としていると、

「なにをしているのですっ

 魔物ですっ」

美麗が叫び声を上げ、

慌てふためきながらメイド隊より一斉に攻撃が始まる。

しかし、白装甲のパワードスーツ姿の女性・ジラは弾幕を巧に潜り抜け、

『そこっ』

『そこっ』

の声とともに的確に攻撃をかけると、

「きゃっ!」

次々とメイド達が撃墜されていく、

そして、瞬く間にあれほど居たメイド隊の大半が居なくなってしまうと、

「そんなバカな…

 一瞬に15人のメイドが撃墜だなんて…

 なんとかするのです。

 奥様が見ているのですよ」

声高に叫ぶ美麗の声が響き渡った。

しかし、その間にも

「うぎゃっ」

「いやぁぁ」

高速で移動するジラにメイド隊は一人、

また一人と撃墜され、

櫂たちの戦力は急速にそがれていった。

「アタレぇぇぇ!!」

「落ちろぉぉ!!」

ズドドド!!!

その中でも沙夜子と夜莉子はマシンガンを片手に打ちまくり、

動き回るジラを仕留めることはできないものの、

しかし、その後方より襲い掛かってくる海魔に向けて弾幕を張る。

その一方で、発射体制に入りつつある竜筒の護衛を任された藤一郎は

「ふっ

 射撃が正確なだけに避けやすい」

ジラからの執拗な攻撃を巧に避けつつそう呟くと、

シャッ!!

手にしていた刀を抜き、

「でやぁぁぁぁ!!」

との叫び声を上げながら、向かってくるジラに切りかかった。

ところが、

『おそーぃ』

バキッ!!

「うげぇぇぇぇ!!」

瞬く間にジラの反撃に合うと、海人の所にまで飛ばされ、

そのまま竜筒に激突してしまった。

「おいっ

 何やってんだよっ」

「うっ煩いっ」

冷たい視線で見る海人に藤一郎は顔を真っ赤にして言い返すと、

「藤一郎様っ

 鞭をお使いください」

と美麗の声が響いた。

「鞭?」

「はいっ

 具布には不審者撃退用に装備されているのです」

「そうかっ

 よぉしっ」

美麗の言葉に奮起した藤一郎は、

「はははは…

 座倶とは違うのだよ!

 座倶とは!!」

と叫びながらヒュンッ!!

袖に仕込まれているムチを振り上げるや否や、

ジラを援護する海魔を叩き落しはじめた。

「あっあいつ…

 性格変わったか?」

冷や汗を流しながら海人が藤一郎の後姿を見ている間に、

『落ちろ!!』

「きゃぁぁぁ!!」

18人目となるメイドにジラが襲い掛かろうとしたとき、

「お待ちなさいっ!!」

の叫び声とともに水姫がその間に入ると、

「えいっ!!」

ドンッ!

反射的にジラに向けて光弾を放った。

「ちぃ!」

鳩尾に光弾の直撃を受けたジラは腹部を庇いながら、

襲い掛かっていたメイドを蹴飛ばし間合いを取る。

「大丈夫?」

「え?

 えぇ…」

ジラに肩を蹴られたメイドは水姫の言葉に返事をすると、

「下がっていなさい、

 あの者はあなたには手におえません」

と告げ、メイドを離れたところへと遠ざけた。

そして、そのときになって、

「あれ?

 いま、術が使えたような…」

ようやく、さっきの攻撃が普段自分が行っている竜気を用いた攻撃であることに気づくと、

「なんで…

 わたしは…力を使っていなかったはずなのに」

と水姫は自分の手をじっと見詰めていた。

すると、

キーン…

微かながら水姫の持つ竜気と違う波長の竜気を察すると、

「ん?」

ゴソゴソ

竜気の源が自分の体のすぐ傍、胸元にあることに気づくと、

胸のリボンをまさぐった。

そして、その直後、

「!!

 これ…」

その正体に水姫がたどり着くと、

キーン…

水姫の握られた手の中から出てきたのは、

他ならないオリハルコンの結晶であった。

「オリハルコン…なんで?」

この星では海霊族以外に扱えるものが居ない物質

オリハルコンが出て来たことに水姫は驚くと、

「さすがですね、

 教えていないのにパワードスーツのエネルギーの源にたどり着けるなんて」

と言う声とともにモップに腰掛けた美麗がよってくる。

「みっ美麗さんこれは…」

そう尋ねながら水姫はオリハルコンの結晶を差し出すと、

「それはあなた方のオリハルコンとは違います。

 我々人類が生み出した別のものです」

と美麗は返事をした。

「別のもの?」

「はいっ

 私たちは人造オリハルコンと呼んでいますが、

 特性や効果は人魚族のオリハルコンと同じながら、

 しかし、鉱物組成が微妙に違うためオリハルコンとは素直には呼べません。

 でも、それでもこのようなパワードスーツとして利用可能ですし、

 色々使い道がありますので私達には十分ですけどね」

美麗はそう返事をすると軽くウィンクして見せた。

「そっか、パワードスーツのエネルギー…源にしているんだ」

美麗の説明に水姫が大きく頷くと、

「はい…

 ですので、

 そのエネルギーはあなた方が使う術の代替としても使えます」

と美麗は付け加えた。

「え?

 じゃぁ」

「はいっ、

 実はあなた方が使われる術と混同されるのを防ぐため、

 あえて、説明せずに枷を填めさせてもらいました。

 でも、ご自分で見つけられた以上、

 規制はいたしません」

そういい残して美麗は水姫の元を去ると、

「そっか…(もぅ早く言ってよ)

 これって、あたしの術とは違うのか」

水姫はそう呟くと、

「じゃっ

 遠慮なく…」

と言いながらマシンガンを放り投げると、

「行くわよ

 ハッ!!」

ドォォン!!

水姫は両腕に光弾を作り、迫る海魔に向けて放つ。



つづく





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