風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第37話:雉沼メイド隊】

作・風祭玲

Vol.518





「え?

 種子島に行かないって?」

櫂がそのことを知ったのは搭乗しているSR−71が

足摺岬の南方海上を飛行しているときだった。

「うむ」

ピシャン!!

ガラガラ!!!

窓の横を走る雷光を背景に藤一郎は頷くと、

「残念ながら種子島にはわが犬塚家の専用飛行場はないし、

 それに普通の空港にはこのSR−71は着陸は出来ない。

 そのため種子島の隣、屋久島にある空港を使わせてもらうことにした」

とマスク越しに返事をする。

「屋久島って…

 あの、縄文杉がある島?」

藤一郎の説明を聞いた夜莉子と沙夜子は声を揃えて聞き返すと、

「まぁ…

 そっちの方が有名か、

 でだ、屋久島到着後、

 向こうで用意してもらっている小型機に搭乗し種子島に向かう

 以上だ」

と藤一郎はこれからのスケジュールを話すが、

「え…

 なんか面倒ねぇ」

「そうよ、

 かっこよくパラシュートで降下するなんてできないの?」

スケジュールを聞いた夜莉子はそう提案をすると、

「このSR−71には空中降下用の設備は無いのでな、

 もっとも、そこに居るヤツなら意地でも飛び降りるかも知れないが」

と藤一郎は皮肉を込めて海人を見る。

「けっ

 超音速で飛んでいる飛行機から飛び降りる馬鹿なんて居やしないよ」

「ほー…

 君ならできると思ったが?」

「まさか…

 女性のためなら火の中、水の中の藤一郎君であるまいし、

 僕にはそんな大それたことなんて、

 あはは」

「ほぅ…」

「やるかっ」

「ちょちょっとぉ」

次第に火花を散らし始めた二人の会話に沙夜子が割って入ろうとしたとき、

カッ!!!

輝いた閃光で

一瞬、機内の色が消えた。

「きゃぁぁぁぁ!!!」

その閃光に驚いた夜莉子が耳を押さえて悲鳴を上げると、

「なんだ、何処からかの攻撃か!!」

その悲鳴にすかさず藤一郎が声を張り上げる。

すると、

「いえっ」

「ちょうど進行方向よりこちらに向かって雷光が発生したためです。

 計器等には影響はありません」

藤一郎の声に乗務員が答えた。

「まったく…

 天界は何をやっているんだか…」

機内のやり取りを聞きながら海人は矛先を天界の女神達へと向けると、

「ちょっと、海人っ

 あまり天界を挑発しないほうが良いよ」

とすかさず水姫がたしなめる。

すると、

「んー?

 犬塚とやら」

これまで黙って話を聞いていた成行兎之助が口を開き、

「屋久島にはお前さんの縁のものが居るのか?」

と尋ねた。

「え?

 まっまぁ…

 雉沼の叔母様の空港があるのでそこを使わせてもらいます」

「雉沼の叔母様?」

「えぇ、

 まぁ親戚というか、敵対をしているというか…」

そう言いながらなぜか藤一郎が口篭りはじめると、

「はぁ?

 どっちなんだよっ

 俺達に敵対しているのか、

 それとも、味方なのか」

煮え切らない態度の藤一郎に海人は声を荒げた。

その途端、

ジロッ

藤一郎は海人を睨みつけ、

「それはお前ら次第だ」

と言い放った。

「あん?」

「それってどういうこと?」

藤一郎の言葉に沙夜子と夜莉子が口を揃えて尋ねると、

「雉沼のおば様は礼儀作法にすごく煩くてな、

 些細なことでもビシビシしごかれる、

 できればあまりお会いしたくは無いのだが…」

「ほほー

 その様子じゃぁ

 相当痛い目を遭って来たみたいだな…」

そんな藤一郎の様子を見た成行が指摘する。

「うっ」

成行の指摘に藤一郎が言葉を詰まらせると、

「ふんっ

 たかだか、おばさん一人だろう?

 海魔に比べれば大したこと無いじゃないか」

と海人は強がりを言うが、

「いまのお前の言葉、

 おばさまの前で堂々と言ってのけたら褒めてやるよっ」

藤一郎は皮肉たっぷりにそう言うと視界に見えてきた屋久島の島影をにらみ付けた。



ゴォォォォォォォォ…

屋久島にある雉沼家私設空港にSR−71のジェットエンジン音が響き渡ると、

カチャッ

その音に一人の婦人が静かにティーカップを置き、

「美麗さん」

と声を上げる。

「はいっ、

 お呼びでしょうか、
 
 奥様」

その声に答えるようにメイド服に身を包んだ美少女が老婦人の前に姿を見せると、

「あの音は何?」

老婦人は轟音の正体を尋ねた。

「はい、

 執事の伊藤が申すには犬塚の若君がここに着陸をなされるとか」

「あら、そうなの?」

「はい、

 あのぅ奥様にはお話が行っていませんでしたか?」

「う〜ん…

 そういえば伊藤からそのような事聞いたような…

 いけませんわね、

 まだまだ若いと思っていたけど

 いつの間にか物忘れをするような歳になたのかしら…

 あっそのことについては伊藤に全てお任せしますわ

 でも、久しぶりね…

 最後に藤一郎君にあったのはいつでしたっけ…」

「はいっ

 2年と3ヶ月でしょうか」

「あら、そんなに会っていなかったの?」

「はいっ」

「そう、それじゃぁすっかり大きくなっているわね」

「由紀夫様と同い年ですから高校2年になっております」

「あっそうだったわね…」

フフッ

メイド・美麗の言葉に夫人は含み笑いをすると、

カチッ

置いていたティーカップを静に取った。




キィィィィィン!!

東京より音速を超えて飛行してきた犬塚空軍所属の超音速偵察機SR−71は

浮体工法で構築された雉沼私設空港の滑走路に車輪を付けると、

PM2:30、予定よりも早く着陸をする。

そして、そのまま誘導路から駐機場へと向かうと、

カチッ!!

機体の横に乗降用のタラップが寄せられ、

待つこと数分後

ガチャッ!

閉じられていたドアが開くと、

「うわぁぁ…」

「ひゅぅぅぅ!!」

「ほぅ」

驚きと感慨を表現しながら夜莉子や海人たちが機体より出てくるとタラップを降りてきた。

「ふぅ、さすがは南国・屋久島

 こんな天気でも夏をかんじるなぁ…」

降り立った藤一郎が湧き出してきた汗を縫いながら

東京と同じ曇天の空を見上げる。

すると、

「そんなことよりも、

 すぐに種子島に行こう」

ノンビリムードを打ち消すように櫂が藤一郎を急かすと、

「まーま」

「落ち着いて」

慌てる櫂を夜利子と小夜子が制した。

「コレが落ち着いていられるって言うのか?」

そんな二人に櫂が怒鳴り声を上げたとき、

「ようこそ!

 屋久島へ…」

と言う声をと共に一列に並んだメイドが頭を下げた。

「メイドさん?」

横一列に整列しているメイドの姿を見ながら櫂が藤一郎に尋ねると、

「あぁ…

 雉沼家メイド隊の隊員達だ…」

と藤一郎は返事をし、

「あっお世話になります、

 犬塚藤一郎です。

 この度は雉沼私設空港への着陸を許可していただきありがとうございます」

と藤一郎はメイドに向かって礼儀正しく挨拶をすると

クッと頭を下げる。

「おっおいっ

 どうしたんだ、藤一郎

 いつものお前らしくないな」

そんな藤一郎の姿を見た海人は驚きながら彼のわき腹を突っつくと、

「静かにしろ」

そんな海人を藤一郎は小声で制した。

「?

 なんだ?」

「なにをしているっ

 さっさと頭を下げないと

 お前みたいな無作法者なんかあっと言う間に修正されてしまうぞ」

事情を飲み込めていない海人に藤一郎が小声で怒鳴る。

「修正って?」

その言葉に沙夜子が尋ねると、

「洗脳ってことです…」

と藤一郎は言い切った。

「ぬわにぃ!」

「やだぁ…」

「怖い…」

藤一郎の説明が終わるや否や、

バッバッバッ!!

全員慌てて整列をすると、

一斉に頭を下げた。

ひゅぉぉ〜っ

ピンと張った緊張の空気の中、南国の風が吹き抜けていく、

すると、

タタタタタタっ

遠くから足音が響いてくると、

「とーうーちゃぁぁぁん!!」

と張り詰めていた緊張感を突き崩す声が響き渡った。

「はぁ?」

張り詰めた緊張感を一気に崩壊させる能天気な声に一同が声をした方を見ると、

紺の剣道着に防具の面と籠手を外した剣士が一直線に走ってきた。

「(ギラッ)ゆっきぃ…」

近づいてくる彼の姿を見た途端、

藤一郎の目はひかり、

手は反射的に持っていた刀へと伸びていく、

無論、向かってくる剣士も竹刀でなく、

スチャッ!!!

きらりと輝く真剣を抜いた。

「おっおいっ

 なにを…」

突然始まった決闘シーンに海人はともかく、

その場に居た全員が身を引くと、

「(うぉらぁ)会いたかったぞぉ!!」

「(でやぁぁ)こっちもだぁ!!」

カキーン!!

唖然とするギャラリーを前にして、

二本の刀が刃を交えた。

「うりゃぁ!!」

「せやぁ」

キン!

キン!

キン!

白熱する藤一郎と謎の剣士との真剣勝負に

「ねぇ…止めなくていいの?」

と沙夜子が呟くと、

「沙夜子ちゃん、

 あの中に割って入る勇気ある?」

夜莉子は火花を散らす刀を指差した。

フルフル

夜莉子の指摘に沙夜子は首を横に振ると、

「どれ、

 このままではチャンバラで日が暮れてしまうからな」

じっと成り行きを見ていた成行がそう言うなり一歩前に出た。

そのとき、

「まぁまぁ

 元気なことで…」

と女性の声が響き渡ると、

ピタッ!!

藤一郎と剣士の動きはまるで瞬間接着剤で固めたかの様に止まり、

ひゅぅぅぅ…

代わりに南国の風が吹き抜けていった。

「(コホン)奥様の御成りです」

咳払いの後、若い女性の声が響くと、

全員の視線がその方向へと向く、

すると、

カララ…

手押しの車椅子に乗った和服姿の夫人と、

その車椅子を押すメイドの姿が目に入って来た。

「あっ

 これはとんだご無礼を…」

婦人を見た途端、藤一郎は顔色を真っ青にしながら、

慌てて抜いていた刀を鞘に収めると、

「おほほほ…

 男の子はやんちゃでなくてはダメよ」

そんな藤一郎の姿を夫人はそう言い、

そして、

「由紀夫さん」

と剣士に向かって声をかける。

「いっ」

婦人の視線が自分に向けられてことに由紀夫と呼ばれた剣士は顔色を変えると、

「こちらにいらっしゃい…」

と夫人は剣士を呼び寄せ、

そして、傍に立った剣士に向かって、

「あなた、

 剣術の稽古の途中でしょう?

 その稽古を抜け出してこんなところで遊んでいては…」

と言いながら

スッ

胸元より扇子を取り出し、

そして、

「ダメでしょう!!!」

と言う強い調子の言葉と共に、

ヒュンッ!!

扇子の先が剣士の顎を掠めた。

その途端、

「うわぁぁぁぁ!!!」

一瞬のうちに剣士の身体は中に舞い、

さらに10m以上吹き飛ばされて地面に激突した。

「すごい…」

「沙夜ちゃんの雷竜扇よりも破壊力あるわよ」

「うっうん」

地面に激突し足を痙攣させている剣士を見ながら夜莉子と沙夜子はヒソヒソ話をしていると、

「あら…

 小声でのお話しだなんて行儀が悪いですわよ」

眼光鋭く夫人は注意をする。

「ひっ」

その眼力に二人は縮み上がると、

「ふふっ

 そんなに固くなることは無いですわ、

 巫女神夜莉子さんと妹の沙夜子さん。
 
 その巫女装束、とても似合っていますよ」

夫人は笑みを浮かべながら夜莉子と沙夜子の名前を言う。

「え?

 あたし達のこと知っているんですか」

夫人が自分の名前を言ったことに夜莉子は驚きながら聞き返すと、

「あぁ、僕が紹介しましょう、

 この方は雉沼加世子さんと言って

 大財閥・雉沼家の総帥であり、

 我が犬塚家とは親戚筋でもあるんです。

 そして、あそこでひっくり返っているのが…」

と紹介したところで、

ドタタタッ

「はいっ

 雉沼由紀夫です。

 宜しくね」

加世子に扇子で飛ばされ今し方までひっくり返っていたはずの由紀夫が

いつの間にか復活し駆け寄ってくると、

夜莉子や沙夜子そして、水姫と言う順に挨拶をしていく。

「あっこらっ!」

女性陣に挨拶をする由紀夫に向かって藤一郎が怒鳴り声を上げると、

「なんだよ、とうちゃん」

「僕を馴れ馴れしく呼ぶなっ」

「いいじゃないかよ、

 せっかく来てくれたんだからさっ」

「あのなぁ…」

「で、これからの予定はあるの?

 こんな天気だけど、

 あちこち連れて行ってあげるよ」

と櫂の手を取り由紀夫はモーションをかける。

「いやっ

 あのぅ…

 ちょっと急いでいるので…」

由紀夫から漂う防具の匂いに櫂は身を引きながら返事をすると、

「由紀夫さん」

と成り行きを見ていた加世子が声をかける。

「はいっ!」

加世子のその言葉が響いた途端、

由紀夫と藤一郎は気をつけの姿勢になると、

「美玲さんっ

 あの飛行機を格納庫に仕舞ってあげてください」

と加世子はメイドの美麗に命じた。

すると、

「はいっ」

美麗は鈴のような声を響かせながらSR−71へ歩いて向かいはじめた。

「なにをするのかな?」

「牽引車でも出すのかな」

駐機場へ向かって歩く美麗の後姿を見ながら夜莉子と沙夜子はそんな話をしていると、

SR−71の前輪の後ろ側に立った美麗は

「ヨイショ」

という掛け声と共に前輪を押した。

すると、

グッ

グググググ…

SR−71の巨体がスルスルと移動し始めると、

まるで、おもちゃの様に格納庫へと移動して行く、

「………」

「なぁ…」

その様子を呆然と見つめながら海人が藤一郎に声をかけると、

「なんだ…」

信じられないものを見るような視線で藤一郎が返事をする。

「お前の…

 あのご自慢の飛行機って紙でできているのか?」

「貴様っ

 この僕を愚弄する気かっ

 いいか、あのSR−71はこの地球でスペースシャトルの次に…」

「でも、メイドに軽々と持ち運ばれているぞ…

 総重量は何グラムなんだ?」

顔を真っ赤にして怒鳴る藤一郎に対して

海人は冷静に美麗によって動かされてゆくSR−71を指差した。

「そんなの…

 ………」

藤一郎はなおも反論しようとするが、

しかし、メイド・美麗の手で動かされていく飛行機の姿に言葉が詰まってしまった。

すると

「パワードスーツですわ」

と出迎えに来ていたメイド達がこの怪現象の種明かしをする。

「パワードスーツ?」

その言葉に全員が一斉に振り返ると、

「はいっ

 わたくし達が着ておりますこのメイド衣装は

 身に着けているものの力を増幅する効果があります。

 わたくしのタイプで10万馬力、

 あの美麗さまが身に着けているタイプは50万馬力出すことができます」

と説明をする。

「10万馬力に50万馬力かよ…」

メイド達の説明に海人は驚くと、

その一方で、

「ほぅ…

 ここの者共もなかなかやるよる、

 ふふっ

 100万馬力のバニーと言うのも良いかも知れないなぁ」

と成行は呟きながらバニー1号の方をチラリと見た。

すると、

「そんなことはどうでもいい、

 時間が無いんだ。

 種子島へ行く飛行機を貸してもらえないか」

痺れを切らした櫂が声を上げると、

「行ってどうします?」

と加奈子が聞き返した。

「どうするって、

 決まっているだろう、

 奴らに捕まっているマナや乙姫さまを助けるんだよ」

加奈子の問いに櫂はそう答えると、

「若いって良いことですわね、

 余計なことを考えなくて、

 まっすぐモノを見る。

 でも…

 それ故、罠に陥りやすい。

 ねずみ講に引っかかったり、

 詐欺に逢ったり…」

櫂の返事に加奈子はそう言うと、

「罠?

 罠があるのか?」

加奈子の言葉にあった罠という言葉に櫂は素早く反応した。

「えぇ…

 種子島の周りにさきほど強力な結界が張られました。

 もし、なにも考えずに突入をすれば永遠にたどり着くことができず、

 そして、引き返すこともできない無限の回廊が待っています」

「そんな…」

加奈子の言葉に一同の顔から表情が消えると、

「じゃぁどうすればいいんだ!!」

と頭を抱えながら櫂が声を上げる。

「ふふっ

 人間を含めて生ける者が作ったものに完全というものはありません。

 お尋ねします。

 缶の中に大切なものがしまってある場合。

 あなたならどうします?」

櫂の叫びを聞いた加奈子は問うと、

「え?

 それは…

 缶切りで開けるけど…」

「なるほど

 では、

 その缶切りが缶の中だった場合は?」

「うっ

 その場合は…

 トンカチや何かを使って無理にでもあけるよ」

口を尖らせながら櫂は返事をする。

「ふふっ

 お行儀が悪いですわね」

「悪いかよっ

 でも、缶きりがなければ仕方が無いだろう」

「そうですわね…

 本来の出入り口が固く閉ざされているのなら、

 空いている窓から入ればいいこと…

 非は出入り口を固く閉ざしている向こうにあり。

 かしら…」

「ちょちょっと、

 おば様…それは…」

加奈子のその言葉を聞いた藤一郎が驚くと、

「たまには良いでしょう、

 思いっきり暴れるのも…

 小百合さんっ

 こちらの方達の衣装を…」

と加奈子はメイドの小百合に声をかけると、

「ハイッ」

小百合と呼ばれたメイドは笑みを見せながら立ち去り、

そして、程なくして櫂たちはメイドの衣装に身を包んでいた。



「きゃぁぁぁ!!

 一度メイドの衣装って着てみたかったのよ」

喜びながらクルリと回ってみせる夜莉子に対して、

「あのぅ…

 なんで僕もこれを着なければならないんですか?」

と戸惑い気味に感想を言う藤一郎と海人の姿があった。

「いえっ、お似合いですわ」

そんな藤一郎たちに小百合はキッパリと言い切ると、

「もし、落ち着かないのでしたら、

 こちらに矯正下着がありますわ…」

と言いながら二人の前に精巧にできたブラ状の乳房パットと、

女性の股間を模したパンツを差し出した。

「うわっ

 すごい(リアル)…」

それを見た水姫が目を丸くすると、

「はいっ

 これらを身に着ければ女性と同じ感覚を得られますが、

 如何でしょうか?」

と小百合は勧める。

「いっいやっ

 僕は間に合っているから…」

「そっそうだな…

 俺も遠慮しておくよ」

勧める小百合に藤一郎と海人は辞退すると、

「ねぇ、

 海人っ

 一度女の子になってみるのも良いんじゃなくて?」

とイジワルそうに水姫が茶々を入れる。

「あっあのなぁ」

水姫の茶々に海人が声を上げると、

「はいっ、

 女性の方々がお召しになられた衣装は
 
 汎用型メイドスーツ、正式名称MS−06”座倶U”と申しまして、

 通常出力10万馬力、

 非常時には瞬間、15万馬力を出すことができます。

 なお、櫂さまがお召しになられた衣装は

 奥様のご指示でリミッターを外してありますので、

 他の方の3倍の運動性能を持っております。

 また、そのため目印といたしまして、胸のリボンを”赤”とさせてもらいました」

と小百合は説明する。

「ふぅぅん、

 一般型だと緑のリボンなのね」

小百合の説明に夜莉子は自分の胸元に付いているリボンの色に納得をする一方、

「ところで、僕のはなんで青のリボンなんだ?」

「そうそう、俺のは黒のリボンなんだけど…(それにスカートの丈も長いような)」

納得をする女性陣に対して藤一郎と海人が相次いで尋ねると、

「あっはい

 藤一郎さまのは”座倶U”の高機動型であるMS−07”具布”、

 また海人さまはパワー強化型・100万馬力の

 重メイドスーツ・MS−08”怒務”と申しまして、
 
 スカート丈が他のより長くなっております。
 
 本来、”怒務”の運用は3人1組が前提なのですが、
 
 海人様には3人分のお働きが可能と判断いたしましてご用意いたしました」

と小百合は返答をする。

「ふぅぅん、

 でっでも、
 
 パワーや運動性能だけあっても種子島にはどうやって…」

「はい

 それでしたら、空を飛べばよろしいのですわ」

「はぁ?」

「うふっ

 このパワードスーツは身に着けている者の生命エネルギーを

 増幅させパワーを出しているのです。

 ですので、そのパワーの矛先をこのように子の様に何かの媒体へ向けると…」

と言ったところで、

スチャッ

小百合は一本のポップを取り出し、

そして、そのモップの柄に腰掛けるようにして体重を預けた途端、

フワッ

小百合の身体が宙に浮く。

「へぇ…」

それを見た櫂や海人が驚きの声を上げると、

「その衣装は竜玉の力を一切使いませんので、

 天界からの干渉は受けることはありません」

と加奈子はメイドスーツに隠された秘密を告げる。

「!!」

「なんで、そのことを!」

加奈子の言葉に櫂や海人・水姫が驚くと、

「はいっ

 雉沼家の情報収集力を侮っては困りますわ」

と美麗がウィンクをしながら言う。

「情報収集力って、

 猿島や猫柳すら知らない僕達の秘密を知っているだなんて…」

呆然とした口調で櫂が呟くと、

「ふうっ

 猿島さんも困ったものです。

 私達と、犬塚さん、そして猿島さん

 仲良くやっていたのに…」

ため息交じりで加奈子が言う。

「猿に…犬に…雉って…

 桃太郎か?」

それを聞いた海彦がふと漏らすと、

「しっ」

すかさず水姫が口に人差し指を立てた。

「猿島といえば

 猫柳と竜宮を巡って争っているようですが」

と藤一郎が匙を向けると、

「えぇ…

 猫柳はシーキャット、

 猿島は百日紅という高性能潜水艦を建造し、

 伊豆大島あたりの海底をくまなく探査しておりますが、
 
 先ほど竜宮に繋がる通路を見つけたそうです」

と加奈子は竜宮に通じる通路が泰三に見つかったことを言うした。

「なにぃ!」

加奈子の言葉に櫂が目を剥くと、

「まぁ竜宮は次元断層の向こうにあるから簡単には行けないけど、

 でも、この状況では何が起こるかわからないからな…

 とにかく乙姫の救出は急いだほうがいいか」

海人は手を頭の後ろで組みながらそう答える。

そして、海人が答えている間に

「よっ

 こらっ

 しょっ

 おっ

 おぉ!!」

小百合に続いてモップの柄に腰掛けた櫂がフワリと浮き上がると、

「よっよしっ

 これならなんとか行けそうだ」

と呟きながら手ごたえを確かめた後、

クイッ!!

シュォォン!!

その柄先を種子島に向けるや否や一気に飛び出した。

「あっ待って!」

「おいっ、

 慌てるな」

飛んでいく櫂を追いかけるように沙夜子や夜莉子、

そして、藤一郎たちが次々と飛び上がり追いかけようとすると、

「お待ちなさい!!」

地上から加世子の声が響き渡った。

「なっなんですかっ

 まだあるんですか?」

宙に舞いながら櫂が声高に叫ぶと、

「あの結界を破るにはそれなりの支度が必要です。

 美麗さん、メイド隊を率いて、

 あの方々のサポートをしてあげなさい。

 そして、小百合さん。

 例の物をここへ」

加世子がそう言うなり、

「はいっ

 奥様」

ゴトッ

小百合の手によりとあるものが持ち出され、

そして、

「これは…」

宙に浮かんでいる海彦と藤一郎がそれを見るなり驚きの声を上げた。

「はいっ

 十畳島より借りてきました。

 あなた方が竜筒と呼んでいる砲筒。

 これなら種子島の周囲に張られている結界を剥がすことができるでしょう」

と加世子は空に向かって声を張り上げた。



つづく





← 36話へ 38話へ →