風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第33話:櫂、竜宮へ…】

作・風祭玲

Vol.467





「フンフンフン」

天界・時空間管理局工作室内に鼻歌が響き渡る。

「フンフンフン」

響き渡るその鼻歌は工作室内に横たわる朱色の巨大工作物の脇から流れ、

そして、巨大工作物の下で、

カチャカチャ…

ジジジジジ…

スパナとドライバーを脇差の様に挿し、電気溶接を行う黒髪の女神の姿があった。

カチャカチャ

カチャカチャ

女神の手が動くごとに物体の完成度は増し、

キラリ!!

向かって左側に突き出す巨大ドリルの先端が鈍い光を放つ。

やがて、

「よしっ

 出来たぁ!!

 あとは調整室に送って、

 最終チェックをすればおっけーね」

と黒髪の女神は声を上げながら、

バンッ!!

開いていた最後のカバーを閉めた途端、

ヌッ

その女神の背後に一人の人影が迫ると、

「なぁに?

 これ?」

と言う声と共に銀髪の女神が話しかけてきた。

「キャッ!!

 あっなんだ…」

その声に黒髪の女神は小さな悲鳴をあげ飛び上がり、

そして、後ろを振り返りながら銀髪の女神の姿を見た途端

ホッと胸を撫で下ろす。

「なによ、ご挨拶ね、

 で、なんなのこれ?」

黒髪の女神の態度にムッとしながら銀髪の女神が聞き返すと、

「見て判らない?」

黒髪の女神は胸を張りながら銀髪の女神を小馬鹿にしたようなセリフを言う。

その態度に銀髪の女神は顔を引きつらせながら、

「ふんっ

 どうせあなたが作るものだから、

 しょうがないものだと思うけど」

と棘のある言葉で返すと、

「なんですってぇ?」

「じゃぁなんだっていうのよ」

「いいわ、教えてあげるわよ

 よっく聞ききなさい。

 これはドリルミサイルって言うのよ」

銀髪の女神の挑発に乗った黒髪の女神は

バン!!

っと自分の前に聳える本体カバーを叩き説明をした。

「ドリルミサイルぅ?」

その説明に銀髪の女神が胡散臭そうな表情をすると、

「そうよ、

 これを今日のお昼にあの特異点めがけて打ち込むの
 
 すると、この先端の特殊ドリルが特異点上に唯一空いている穴を確実に捉え、

 そして、回転しながら特異点の中に潜り込み、

 その中心部に来たときに搭載しているN2超時空振動弾を爆発させるのよ、
 
 どっかーん
 
 ってね」

と黒髪の女神は両腕を使って爆発シーンを見せる。
 
「へぇ…で、本当に大丈夫なの?」

全身を使った黒髪の女神の演技に銀髪の女神は嫌味っぽく尋ねると、

「ふふっ、あたしの技術は完璧よ

 少なくても、誰かさんの訳の判らない薬よりも当てになるわ」

と黒髪の女神は言い返しながら

ピッ!!

ボタンを操作した。

その途端、

ウィィン…

黒髪の女神の目の前に聳え立っていたドリルミサイルはゆっくりと床に沈み、

階下の調整室へと送られていく。

ところが、

「なんですってぇ…」

黒髪の女神の言葉にカチンと来た銀髪の女神が髪を浮き上がらせながら怒り始めると、

「あら、なにか」

涼しい顔をして黒髪の女神はさらりと聞き返す。

「あたしの薬のどこが訳がわからないのよ」

「さぁ

 そういえば…夕べ、人間界に降りたようだけど」

「別にいいじゃないのよぉ」

「でも、降りた先がRL338PMQ248っていうのはどういうことかしら?

 あそこ、全ての介入を禁止していること知っているでしょう?」

「うっ

 そっそれは…

 そう、ちょっと天使の尻を叩きにね、

 なんかモタモタしているから…ね」

「イオ・リンクのこと?」

「そっそう言っていたっけかなぁ〜」

「でも、”恋のタネ”を強要するのはどうかしら?

 シリアル・リンクからの報告が来ているんだけど」

しらばっくれながら冷や汗を流す銀髪の女神に

止めとばかりに黒髪の女神はシリアルからの報告書を見せる。

「あっ

 ちょっとそれ!

 よこしなさい」

黒髪の女神が報告書を見せた途端、

慌てた銀髪の女神が報告書を取り上げようと飛び掛ろうとするが、

「おっと」

黒髪の女神は巧みに掻い潜ると、

「どうしました?」

と銀髪の女神から間を置き嫌味を漂わせ尋ねる。

そして、

ブチブチブチ!!!

「そう、よぉっくわかったわ」

黒髪の女神のその言葉が銀髪の女神の怒りを一気に燃え上がらせた。



ピッピッピッ、ポーン!!

黒髪の女神が不在の発令室に時報の音が響き渡ると、

「作戦発動まであと3時間…」

追ってカウントダウンを告げる声が時空間管理局・発令所内に響き渡った。

しかし、

「………」

その声への管理者・黒髪の女神からの返事が無く静まり返っていると、

「あれ?

 いないの?」

「どこ行ったのか知っている?」

「さぁ?」

「わたしは聞いていませんが」

それに気づいたオペレーター達がヒソヒソ話をはじめだした。

すると、

シュン!!

自動ドアが軽い音をあげて開くと、

「まったく、もぅ、

 戻るのが遅くなったじゃない」

「うるさいわねぇ、

 あんたがあんなに粘るからでしょう」

と文句を言いながらボロボロの姿になった女神が二人発令室に入ってきた。

そう、二人はついさっきまでお互いの意地と名誉をかけたゴム銃の銃撃戦を演じ、

そして、勝負はいうまでも無く相打ちで終わっていたのであった。

「あっあのぅ」

発令室に入ってきた黒髪の女神にオペレータが声をかけると、

「で、調整は終わっている?」

席に着いた黒髪の女神が作業班に尋ねる。

「(はぁ)…発動、1時間前には終了します」

と返事をする。

「あっそう

 2時間前には仕上げて…」

その返事に女神は指示を出すと、

「…座標の計算は?」

続けて尋ねた。

その質問に

「はいっ0.000005%の誤差までの修正が終わりました」

と言う報告が響いたとき、

フォンフォンフォン!!

発令室に緊急を知らせるサイレンが響き渡り、

『警告!

 警告!

 何者かがイグドラシル・システムに侵入しています!!』

と警告が発令所内に流れた。

「なっ、なんですてぇ!!」

それを聞いた黒髪の女神はアップになって叫び、

「すぐに進入経路を特定して切断して!!」

間髪入れずに指示を出すが、

「侵入者はA20ゲートを潜り抜けているために、

 権限上の関係で切断することが出来ません」

と言う報告が入る。

「(しまった…あそこから入られたか…)」

そう、イグドラシルのA20ゲートとは

黒髪の女神が人間界に降臨したときに人間界側からイグドラシルにアクセスするために空けた

実質上のセキュリティーホールであった。

「(それにしても…なんで、A20ゲートが見つかったんだろう、

  あれの情報は確か、あたしの部屋のパソコンにしかないはず…

  はっ

  まさか…魔族の仕業?

  ありうるわっ、

  いつも人間界でお姉さまにちょっかいを出していたあの魔族ならやりかねない)」

と黒髪の女神は人間界に降臨したままのすぐ上の姉に何かと嫌がらせをしている魔族のことを思いつくと、

「すぐにプログラム666を走らせて。早く!!」

と叫んだ。



むぅぅぅぅぅんんんんんん…

プログラム666の起動後、発令室内は不気味な静けさに包まれていた。

そして、その中で

「うふふふふ…

 イグドラシル・システムの処理能力は大きく落ちるけど、

 でも、こうしておけばデーターの流出は防げるし、

 その一方で侵入者を追い詰めて行くことが出来るわ」

黒髪の女神は勝ち誇ったようにパネルスクリーンを眺めていた。

ところが、

ピーーーーーーー!!!

けたたましい、ビープ音が鳴り響くと同時に

ドヒュゥーーーン!!

何かが停止する音と共に表面のパネルスクリーンの情報が一斉に消えてしまった。

「なっなに?…

 何が起きたの?

 え?

 えぇ?」

突然のことに黒髪の女神は呆気にとられると、

その訳を知ろうと周囲を幾度も振り返る。

「イっイクドラシル・システム・MAKIが停止しました」

「はぁ?」

オペレータからの報告に黒髪の女神は思わず聞き返すと、

「イグドラシル・システムが落・ち・た?」

「いえ…落ちたのはMAKIを司る”松・竹・梅”のみです…」

「…………まさか…666が…」

黒髪の女神の額に冷や汗が浮かぶと、

その途端、

ポン!!

黒髪の女神の肩に手が掛けられ、

「あーぁ、やっちゃったね」

と銀髪の女神が笑みを浮かべ見下ろしていた。

「なっ

 なによっ」

「うふふふ…

 大変よぉ

 イグドラシル・システムを落としたとなると、

 始末書2・3枚じゃぁ済まないわよぉ、

 詰問会やら公聴会やらあっちこっち引っ張り出されて説明をしないとならないのよぉ

 大変よぉ」

「うっ…」

ここぞとばかりに銀髪の女神は黒髪の女神を奈落の底に突き落とすようなことを言う、

その言葉に黒髪の女神は見る見るその顔を青くしていくと不気味な静けさが発令所を包み込んだ。

そして、

「……とっとにかく、何とかしなくては…」

銀髪の女神の言葉に怯えながら黒髪の女神はこの事態を打開する解決策を必死で考える、

そして、

「そうだ」

ある光明が浮かび上がった途端、黒髪の女神は顔を上げ、

「ねぇ

 上位システムのMAGは動いている?」

と尋ねた。

「はぁ

 雪・月・花ともに現在、動作中ですが…」

「よし…管制業務をMAGに切り替えて作業続行!!」

イグドラシルシステムの上位システムであるMAGが生きていることを知った黒髪の女神は表情を明るくすると、

MAKIで行っていた処理をMAGへ振り返るように指示を出した。

「しかし、座標計算は初期化されてしまいますので再計算しないとなりませんが」

「え?、それにどれくらい時間がかかるの?」

「早くても8時間はかかります」

「仕方が無いわ…

 判かりました、N2超時空振動弾の発射は6時間遅らせます。

 すぐにMAGにバックアップデータを移して計算を始めて」

と矢継ぎ早に指示を出すと

「はぁ…」

大きくため息を吐き、黒髪の女神は頬杖をついた。

そして、そんな女神を見下ろしながら、

「ちっ」

銀髪の女神が軽く舌打ちをしていた。



「なにをしておる

 さっさと原子(はらこ)爆弾で攻撃をしないか」

百日紅とのにらみ合いが始まってすでに数時間が経過していた。

その間にお互い数発の魚雷による打ち合いを演じたものの、

しかし、対規模な攻撃は初回の一回のみで、

その後の打ち合いは相手の動きを探り当てる意味合いのものだった。

そんな状況に猫柳泰三が痺れを切らすと、

「申し訳ありません」

艦長の貝枝が頭を下げ、

「しかし、会長、

 敵も去るもの、

 我々の動きを確実に捉えると回避行動を取っております」

「それは、判っておる、

 なぜ、原子(はらこ)爆弾でさっさと決着を付けないのかと、

 そう言っておるんだ

 あれならどんな動きをしようとも奴らを海の藻屑に出来るだろうが」

貝枝のその姿を見ながら泰三は原子(はらこ)爆弾の威力を力説すると、

「けど、会長、

 原子(はらこ)爆弾は極めて威力の大きい爆弾ですので、

 むやみに使用しますと、

 我がシーキャットも無傷で…というわけには」

原子(はらこ)爆弾に使用の決断を迫る泰三に対し、貝枝は懸命に説得をはじめた。

すると、

「そうじゃのぅ、

 確かに私が作った原子(はらこ)爆弾は威力が強すぎるからのぅ…」

貝枝の話に原子(はらこ)爆弾の設計者である原子力(はらこ・ちから)博士は大きく頷く、

「よろしいですか、会長、

 原子(はらこ)爆弾の性能を考えますと確実に狙わなければなりません、

 仮に自動追尾型魚雷をもってして向こうを攻撃したとしても、

 万が一外れてしまった場合も考えなければなりません、

 狙うには100発100中でなくては…」

と貝枝は泰三に進言した。

「むぅ…」

貝枝の説得が功を奏してか、泰三は黙ってしまうと、

「よかろう、

 お前の判断に任せる」

と原子(はらこ)爆弾付き魚雷の射出権を貝枝に認めた。

そして、

「で、人魚共はちゃんとマークしているだろうなぁ」

と尋ねると、

「はっ、

 サルが放った魚雷の爆発以降、

 岩礁の中に隠れています」

と報告が返ってきた。

そのとき、

「会長、

 先ほど猫柳本邸より、

 このような問い合わせが送られてきましたが…」

と言う声音ともに、泰三にFAXが届けられた。

「ん?

 なんだ?」

FAXを受け取った泰三は訝しげながら目を通す。

すると、

「なに?」

泰三の太い眉がピクリと動き、

「おいっ

 これはどういうことなんだ?」

と声を上げた。

「会長、どうかしましたか?」

泰三の声に青柳が駆けつけると、

「読んでみろ」

と泰三は青柳にFAXを突きつける。

「はぁ?」

意味も判らずに青柳が泰三から押しつけられたFAXに目を通すと、

「え?」

一瞬、驚いた顔になり、

「会長、

 これは?」

とあわてながら尋ねた。

「わしにも判らん」

驚く青柳に泰三は不満そうに腕を組むと、

「おっ乙姫他、人魚1匹が…

 猫柳本宅に送られ?

 で、担当の馬場が…

 その乙姫と人魚を会長命令で種子島に移送??

 って…これは一体どういうことですか?」

FAXの文面は猫柳本宅より馬場勝文ことハバククの一連の行動を問い合わせてきたものであった。

「訳がわからん」

「第一、私たちはまだ竜宮にも辿りつけていないのに…

 え?

 えぇ?」

混乱する青柳に対し、泰三は憮然としたままだった。

「なぁ?

 どういうことだ?」

「さぁな?」

「乙姫が猫柳本宅に居るらしいぞ?」

「え?

 それってどういうことだ?」

「じゃぁ、俺たちがしていることって、

 猿との戦争なのか?」

泰三と青柳との会話を聞いたシーキャットの乗組員達は一斉に噂話を始めだした。

ヒソヒソ

ヒソヒソ

そんな声が静かに響く中、

ドン!!

泰三は目の前のテーブルを叩くと、

「青柳、

 至急、猫柳本宅に問い合わせをしろ!

 わしはまだ乙姫を捕まえてはいないし、

 馬場とか言うものにそのような命令を出した覚えは無い。

 とな。

 第一、馬場とは一体何者だ?

 藤堂は何をしておる」

顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。

ところが、

「申し訳ありません、

 電波障害がさらに酷くなり、

 猫柳本宅との通信がままならない状況でして、

 で、さらに、

 先ほど猫柳私設空港に大規模な落雷が発生、

 その影響で猫柳邸全土が停電している模様です」

と猫柳家の現状が報告された。

「なにぃ?」

その報告に泰三の血圧がさらに上がると、

「会長、引き返しますか?」

それを見た青柳が恐る恐る尋ねる。

すると、

「くぅぅぅぅぅ!!」

泰三は煮え湯に浸かったかのように顔が真っ赤になり、

「仕方が…」

と撤収の指示を出そうとしたとき、

「魚雷8線接近!!

 サルがこっち向けて魚雷を放ちました!!」

と音響探査をしている担当者が声を上げた。

「なにぃ?」

その声に泰三は大声を上げると、

「ダッシュをしろ

 回避だ」

素早く貝枝が指示を出しす。

その途端、

イィィィィィン!!!

シーキャットの反応炉は出力を上げると、

ドォォォォォォン!!

シーキャットは一気に進行方向へ突き進んでいった。



「ネコが物凄いスピードで去っていきます」

百日紅の艦内にその報告が響き渡ると、

「ふふふふふ…」

メガネを怪しく輝かせ、幻光忠義は不気味な笑みを見せる。

そして、

「よしっ

 その調子でネコを追い払ってしまえ、

 愚かな奴め、

 戦争とは頭でするものだよ、

 早く動けるから我々よりも性能が上と考えていると

 その考えに足をとられるもの…

 おいっ

 ネコの足はそう長くは持たない、

 ネコの足が止まりかけたら次の魚雷を放て!!

 遠くへ遠くへとな…」

と命令を下し、

そして、

「さて、

 では、我々は王道を通って竜宮へ行くとするか」

と呟きながら忠義は海図を見下ろした。

しかし、その頃

百日紅の奥深くでは…

シャァァァァァァ…

「ひぃぃぃ!!

 くっ来るな!!

 うっ撃つぞ!!」

闇より迫り来る生き物に警備の男が悲鳴をあげながら銃口を向ける。

そして、

カシッ!!

その指先がトリガーに触れた途端、

シャッ!!

生き物は男に飛び掛ると、

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

艦内に男の絶叫が響き渡り、

程なくして、

ドシャッ!!

ゴボゴボゴボ

口から泡を吹きながら男は倒れた。

そして、倒れた男の横を、

ピチャ

ピチャッ

朱色の鱗に覆われた物体がゆっくりと通過していく。

「ったく…

 パニック映画じゃあるまいし、

 化け物扱いにしないでよね」

監禁された部屋から脱出に成功したサヤは白目を剥く男を横目で見ながら文句を言うと

「さて、こんな奴を締めていないで、

 あのムカつくオッサンをぶん殴るほうが先だ」

と自分に言い聞かせ、百日紅の艦内に消えていった。



「竜彦ぉ…

 いつになったらここから出られるんだ?」

事実上、岩礁で軟禁状態になってしまった櫂(人魚名:カナ)は岩礁から顔を覗かせながら文句を言うと、

「さぁな

 文句はあそこでにらみ合っている連中に言ってくれ」

と櫂の下に居る竜彦は膨れっ面をする。

「もぅ、
 
 日が昇っちゃったじゃないか」

「仕方が無いだろう?

 迂闊に出て行けばドッカーンなんだからよ」

「あぁっ

 もぅ、こんなところで足止めを食らうだなんて」

「タイミングの悪さを呪うんだな」

などとそんな会話を交わしていると、

ドォォォォン!!

と言う振動とともに再び海水が動くと、

「え?

 うわっ

 まただ!」

と櫂は叫びながら頭を引っ込める。

そして櫂が頭を引っ込めたその真上を、

シュォォォォォォン!!

海水を押し流しながら巨大な物体が飛び越えていくと、

それ追って8本の魚雷が後を追いかけていった。

「ひゃぁぁぁぁぁ!!!」

「おいっ、

 中へ入れ!!

 衝撃が来るぞぉ」

縮こまる櫂を竜彦が岩礁の奥へと押し込んで数分後、

ズズズズズズズズズズンンン!!!

8本の魚雷による衝撃波が岩礁を突き抜けていった。

ところが、

「おいっ、

 この衝撃波に乗って一気に竜宮へ行くぞ」

衝撃波の方向を見定めた竜彦は櫂に怒鳴ると

グィッ!!

櫂の尾びれを掴むと一気に岩礁を飛び出していった。

「え?

 うわっ

 うわぁぁぁぁぁ!!!」

衝撃波に乗る竜彦に尾びれをつかまれ

引きずられるように海中へと躍り出された櫂は

荒れ狂う海水に翻弄されながら竜宮へ向かって行き。

やがて、

「よーし見えた

 竜宮の門だ!」

海中を進んできた竜彦の前に竜宮へと続く洞窟が姿を見せると、

一気にその中へと飛び込んでいった。

照明の様に夜光虫が輝くなかを竜彦は一気に泳いでいくと、

やがて竜宮と地球をつなぐ時空の回廊へと達する。

「よかった、

 まだここは閉まっていないか」

回廊が健在であることに達彦はホッとすると同時に

高まっていた周囲の水圧が下がり、

そして、水温も上昇していくと、

ヌォッ!!

竜彦と櫂の前に竜宮の正門が厳かに姿を見せた。

「着いたぞ…

 ん?
 
 あぁ!

 おいっ

 こらっ!

 いつまで目を廻しているんだよ」

衝撃波に翻弄され目を廻している櫂に気づいた竜彦が頬を叩くと、

「え?

 あっあれ?」

ようやく目を覚ました櫂は周囲を見渡した。

そして、

「あっ竜宮だ…」

竜宮の門を見た途端安堵したような声を上げると、

「ぬわにが、

 あっ竜宮だ…

 だよ」

それを聞いた竜彦は呆れたような声を上げ、

「おらっ

 さっさと行こうぜ、

 マーエ姫がお前を待っているんだからな」

そう言いながら櫂の腕をひくと、

「あっちょっと…」

と声を上げる櫂に構わず竜宮の中に入っていった。



ゴォォォォォォ…

雷雲の中を猫柳私設空港を強行離陸したエアバス・A380Fが飛行していく、

「うひゃぁぁぁぁ

 四方八方から稲光が飛んでくるよ」

チラチラ

とエアバスに向けて飛んでくる雷光にハバククの部下たちが肝をつぶすと、

「ふんっ

 この飛行機には落ちはしないよ」

とソファーで横になっているハバククは声を上げた。

「馬場様っ

 何でです?」

ハバククの答えに部下たちがその訳を聞き返すと、

「ふんっ

 この飛行機の積荷はなんだ?

 雷雲を操る竜の化身である乙姫だぞ

 どんなに天気が荒れても竜には落雷は無い」

とハバククはキッパリと言い放つ。

「うん…

 まぁ、そういわれればそうか」

ハバククの言葉に部下達は妙に納得したような言い方をすると、

「おいっ

 それよりもシャトルの準備はどうなっている」

とハバククは種子島で乗り換える予定のスペース・シャトルのことを尋ねた。

「はいっ

 宇宙センターからの報告ではすでに準備は終わり、

 我々の到着を待っているそうです」

「そうか…

 じゃぁもぅ一寝入りするか」

その報告にハバククは満足そうなセリフを言うと寝息を立て始めた。

そして、その横では、

「なぁ、

 俺達も宇宙にいけるのかな?」

「さぁ?」

「やべーよ、

 俺、すぐに帰ってくるつもりで用意なんかしてないよ」

「あー

 こんなことなら、お袋に一言言って置けば良かったなぁ」

などと、部下達は宇宙へ行くことへの期待と不安を話し合い始めるが、

その一方でここ種子島の宇宙センターでは

「おいっ

 本当にこの天気で宇宙に行くのか?」

シャトルの離陸準備をする作業員達が悪天候下で行われる打ち上げを訝しむ声をあげていた。



つづく


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