風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第25話:ハバクク動く】

作・風祭玲

Vol.344





その日の昼前…

「げっ幻光様!!

 お喜びくださいっ

 乙姫を捕まえて参りました!!」

東京から長躯、隠密飛行をしてきたモンキースィーパーが猿島邸に到着をするなり、

見猿・言猿・聞猿の三名が口に猿ぐつわ、そして両手と両脚を縛り上げたサヤを連れて

幻光忠義の執務室へと飛び込んで来た。

「なっなんだ、お前達は!!」

出航準備で大わらわの幻光忠義の目前に突如飛び込んできたバニーガールに

忠義がメガネをズリ下げて驚くと、

サッ

バニーガール達は揃って忠義の前で跪づき、

「このような姿になってしまい申し訳ありませんっ

 見猿・言猿・聞猿、猿島忍軍っ

 ただいま帰着しました!!」
 
と声を揃えて帰着の報告をする。

「んなぁ?

 おっお前等があの猿島忍軍だとぉ?!

 なっなんで…

 あのムサイかった連中が…

 え?

 どうして?」

言猿たち言葉とその姿にさらに忠義が混乱をすると、

「我々にも原因が分かりませんっ

 不覚にも”猫”との混戦になったときに現れた

 なぞの老人が放った怪光線を浴びたところ、

 このような姿になってしまいました。」

と艶めかしいバニースーツを輝かせながら言猿がそう返答をする。

「謎の老人?」

言猿のその言葉に忠義のメガネが光ると、

「はっ、こちらにその時の映像があります」

忠義の問いに言猿がそう返事をしながら、

サッ

一枚のDVDディスクを忠義に差し出した。

「まさか、その老人も”猫”ではあるまいな」

DVDを受け取った忠義がそう尋ねながらプレーヤーにセットをすると、

「いえ、その場には”猫”の”化け物”部隊もいましたが、

 老人は”猫”の部隊にも怪光線を浴びせていました。」

言猿は返事をする。

「化け物部隊?

 なんだそれは?」

「はっ、”猫”の部隊でして、

 最初は人間の姿をしていたのですが、
 
 突然、魚の化け物のような姿に変身をして、

 我々に襲いかかってきたのです。」

「う〜ん…(魚の化け物?)」

言猿の報告を聞いた途端、忠義は難しい顔になる。

しかし、

「ご安心ください、忠義様っ

 ”猫”の混乱には失敗しましたが、

 しかし、

 この通り、乙姫を捕まえて参りました!」

忠義のその様子に言猿はそう言うなり、

ズイッ

っと猿ぐつわを噛まされているバニーガール姿のサヤを忠義の前に差し出した。

「うっうぅ!!」

サヤは盛んに何かを言うが、

しかし、猿ぐつわを噛まされているために喋ることが出来なかった。

「う〜ん?

 この女が乙姫だとぉ?」

忠義はシゲシゲとサヤを見ると、

「はっ、

 この女は我らの目の前で人魚に変身いたしました。

 ですので、

 この女を乙姫と判断し、こうして連れて参りまりました」

そう言猿が理由を説明する。

「う〜ん…

 おいっ、

 この女の猿ぐつわを外せ!!

 直接話をしたい」

忠義はサヤを見つめながら言猿に命令をすると、

「はっ」

忠義の命令に言猿は即座に返事をし、

サヤに噛まされていた猿ぐつわを外し始める。

すると、

「ぷはぁ!!

 私は乙姫様などではない!!」

開口一番、サヤは忠義に向かってそう言いきった。

「え?」

「なに?」

それを聞いた忠義と言猿達は驚くと、

「何を言っているんだ!!

 お前、あのとき人魚に変身したじゃないか!!」

サヤの言葉に驚いた言猿が詰め寄るが、

「さぁな?

 なんのことだ?」

とサヤはしらばっくれる。

しかし、

「ふふふ…

 なぁるほど…

 確かにお前は人魚に変身していたな…」

ピッ

忠義はさっき言猿が提出したモンキースィーパーが記録していた

DVD画像を眺めながらそう告げると、

パンパン!!

と手を叩き、

「おいっ、

 この女の血液を検査しろ!」

と声を上げた。

その途端、

ザッ

「畏まりました…」

その言う声と共に白衣姿の男達が忠義の執務室に入ってくるなり

「え?、なっなによっ!!」

抵抗をするサヤを数人掛かりで押さえつけた。

「ふふふ…

 まぁ、お前は乙姫ではないと思うが、

 なにぶん、人魚を捕らえたのは初めてなのでなっ

 じっくりと調べさせて貰おうか」

取り押さえられたサヤに忠義は妖しく光るメガネをズイと上げながら告げると、

「骨の髄まで調べ上げろ!!」

と男達に指示をした。

「よっこいしょっ」

「ちょっと重いな」

「なっ失礼ね

 ちょちょっと待て!!」

暴れるサヤを男達は担ぎ上げると、そのまま検査室の方へと連行していく。

「幻光様…」

サヤが連れ去られた後、

言猿達が恐る恐る尋ねると、

「あぁ…気にするなっ

 と、ついでだから

 君たちも検査を受けたまえ」

そう忠義が言猿達に言った途端、

ズィッ!

別の白衣姿の男達が執務室に入ってくると、

「ちょちょっと…忠義さまぁ!!」

と叫ぶ言猿たちを次々と検査室へと連行していった。

「ふっ、

 謎の怪光線を浴びたらバニーガールに変身か…

 全く羨ましい奴めっ」

全員が居なくなった後、

忠義はそう言いながらメガネを拭き直すと、

カチャッ

っと横にある備え付けのロッカーを開けた。

するとその中には、

ズラリ!!

と色とりどりのバニースーツや付け耳が収められていた。



同じ頃…

「なんですか、その姿は!!」

藤堂千帆の執務室に彼女の叫び声が上がった。

『申し訳ありませんっ

 ジラさまの指示により乙姫の拉致を決行しようとしたところ、

 既に猿の忍び達が先に手を付けていまして、

 そして、その後に乱入してきた謎の老人が放った光線を浴びたところ、
 
 こんな姿になってしまいました。』

そう訴えながらバニーガール姿にされた海魔達が千帆に縋り寄るが、

「えぇいっ

 うっとぉしい!!
 
 寄るな!!」

ドゲン!!

千帆は普段見せている知的な印象とは裏腹に感情的な声を張り上げると、

すり寄る海魔達を片っ端から蹴飛ばしていく、

『じっジラ様!!』

身をくねらせ、男が見たら涎を垂らしそうなポーズで海魔がそう訴えると、

「やかましい!!

 私がこれまでどれだけの苦労をしてきたと思っているのだ、

 猫柳家に潜り込み、

 当主の泰三を取り込んで、

 陸の人間達とは馴染みのないお前達を魚組と言う部隊に仕立て上げたのだ。

 それを…

 折角の人が立てた計画を台無しにしおって…

 いいか、

 こうしている間にも猫柳泰三は刻々と竜宮に迫っているんだぞ!!

 このまま泰三に竜宮に乗り込まれてみろ、

 それこそ、

 竜玉を奪い、海精族の上に立つ!!

 と言う我らののぞみは潰えてしまうのだ!!

 いいかっ

 何としても乙姫をここに連れてくるのだ!!」

言葉を荒げながら千帆がバニーガールになってしまった海魔達にそう厳命をすると、

『ははー』

海魔達はその場に座り直すと一斉に頭を下げた。

「まったく…

 何奴も此奴も」

そんな海魔達を見下ろしながら鼻息荒く千帆が腕を組んでいると、

『ご機嫌ナナメだな、ジラ…』

と言う言葉と共に、

ヌッ

千帆の影が微かに動いた。

「ハバククか…」

千帆は影の方をチラリと見るとそう尋ねる。

すると、

『よっ』

その声とともに千帆の影の中より逞しい身体付きの半魚人が姿を見せた。

「ちょうど良い、ハバクク…

 お前に一つ聞きたいことがある。

 お前…私の知らないところで何をしている?」

『ん?

 何の事かな?』

姿を見せたハバククに千帆は質問するが、、

しかし、ハバククがしらばっくれると、

「私が知らないとでも言うのかっ!

 お前、私に何の断りもなく乙姫達を襲ったそうだな」

先日リムルに指摘された事を尋ねた。

すると、

『あぁ、そのことか?

 乙姫の警護の連中がどんなものか知りたくってな、

 まぁ、一種の腕試しのようものだったのだが、

 それがなにか?』

「余計なことをするなっ!!」

ハバククがそう聞き返した途端、

千帆はハバククに向かって怒鳴った。

「いいかっ

 お前が余計なことをしたお陰で、

 我々の計画が人魚側に漏れたのだぞ!!」

『あん?

 人魚って竜宮の奴か?

 俺はてっきりアトランの人魚だと思ったが…

 言って置くが、

 人魚と言っても一枚岩じゃないぞ、

 アトランと竜宮、

 双方ともお互いを牽制しているんだからな。

 それに俺を嗾けたのはアトランの人魚だし、

 お前に接触をしてきたのもアトランの人魚だよ』

そう言ってハバククがリムルの事を暗に指摘すると、

「うっ」

たちまち千帆は言い返せなくなった。

『まったく人魚共に手玉に取られて、

 で、慌てふためいて強硬手段か…

 少しは先を読めよ、ジラっ』

ハバククはそう言うと千帆の肩を叩きながら、

『で、お前達、報告することがまだあるんじゃないのか?』

と話の矛先を猫組の海魔達に向けた。

『えっえっと』

ハバククに指摘された海魔達の表情は暗くなると何かを言おうとしたが、

しかし、

『あのぅ…』

と言う言葉を続けていると、

『なによっ

 他になにがあったの、ハッキリと言いなさい!!』

と千帆が催促をした。

すると、

『はっはぁ…

 じっ実は…』

ようやく海魔達は櫂達に襲いかかったときに次々と力を奪われ、

自分たちの素性を見せてしまったこと、

そして、乙姫の警護の者が猿島に連れ去られてしまったことを説明した。

「なんですって!!!」

それを聞いた途端、千帆の怒鳴り声が執務室に響き渡る。

「まずい…

 猿島に先手を取られてしまった…」

ヨロヨロとよろめきながら千帆がそう呟くと、

『ふふん…

 なぁるほど、

 こりゃぁガードが堅くなるぞ!!』

そう感心しながらハバククは薄い笑いを浮かべた。

すると、

「ハバククっ

 何がおかしいの!!」

それを見た千帆がハバククに食ってかかると、

グッ

突然、ハバククの左手が千帆の胸ぐらを掴み上げると、

自分の目の前に千帆の顔を寄せ、

『いいモノを見せてやろうか、ジラ』

と言いながら、

ポゥ…

千帆の目の前に右手の先で作った光の玉を見せた。

「なっなによ…

 そっそんな、危ない物近付けないでよ!!」

光弾に怯えながら千帆がそう叫ぶと、

「ふっジラッ…お疲れさま…」

ハバククはそう囁くとグッっと右手でそれを握りしめると、

思いっきり振りかぶった。



「やっやめて、

 ハバクク、お願い!!

 いやっ

 いやっ

 いやぁぁぁぁぁ

 ぎゃぁぁぁぁぁぁぉぉぉっ!!」

千帆の悲鳴が次第に獣の叫びの声へと変化していった。

「藤堂様っ

 どうかなさいましたか!!」

その声に驚いた千帆の部下達が執務室に駆け込んできた。

そして、

部屋の中に累々と倒れている海生生物を思わせる生き物を見た途端、

「うわっ!!」

っと叫び声を上げ、

「なっなんだ…これは」

そう言いながら部下達がよろめいた。

すると、

「おいっ、

 なんだこれは…
 
 化け物がこの部屋に巣くって居たぞ」

と言う男の声が響いた。

「え?」

「だっ誰だ、貴様は」

「何を言うんだ、俺だよ、

 お前達の上司の馬場、馬場勝文じゃないか」

驚く部下達に男はそう告げると

パンパンと高級スーツを叩いた。

「ばっ馬場勝文ってそんな人居たっけ?」

聞いたことのない名前に部下達が顔を見合わせると、

ポンッ

馬場は部下達の頭に自分の手を乗せ、

「おいっ

 お前等なぁ

 少しの間出張に行っていただけで

 俺の名前を忘れるなんて、だらしがないぞ!!」

と怒鳴ると、

バンッ

と頭を強く叩いた。

その途端、

「あっ…」

部下は一瞬目を回すと、

「どっどうも、申し訳ありません馬場室長。

 お出迎えもしませんで…」

と返事をした。

「あははは…

 まぁまぁ気にするなっ
 
 それより、この化け物共をさっさと始末してくれないか」

そう言いながら倒れている海魔を蹴飛ばしながらそう言うと、

「はっただいま!!」

部下達は大慌てで飛び出していった。

「ふふふふ…

 そう言うことだ、ジラ…

 竜玉の力を使って俺達の上に立とうと画策していたみたいだが、

 まぁ、ここいら辺が潮時って奴じゃないか?

 後は俺がしっかりと引き受けるから

 お前はずっとその姿で居ろ」

馬場、いやハバククは累々と倒れている海魔達の中で

ただ一人、

引き裂けた女物のスーツを身に纏った海魔に向かってそう告げる。



「ふぅーん、選手交代ね…」

その様子を換気口の中からそう言いながらジッと見つめている2つの目があった。

「藤堂千帆と魚組は粛正されたという訳か

 でも、あのハバククと言う海魔…なかなか危なそうじゃない」

声の主はそう言うと、

トットットッ

っと換気口の中を移動していく、

そして、

外に出ると勢いよく羽ばたいていった。

「さぁーて、

 どうしようか…

 まだご隠居様からの指示はないし、
 
 もうしばらく様子を見ていましょうか」

摩雲鸞・オギンはそう呟きながら雷鳴が轟く空に舞っていく。



その頃、

「つまーんない!!」

天界の要請を受けて固く門を閉じた竜宮にマーエ姫の叫び声が上がった。

「姫様っ

 はしたないですぞ」

すかさずエマンがマーエ姫を窘めると、

「だってエマン、

 もぅ2日目よ!!

 竜宮に2日も居て何もしないだなんて、
 
 マーエには耐えられなーい!!」

事実上の軟禁状態に痺れを切らしたマーエ姫がそう文句を言うと、

「とはいっても、仕方のないことです。

 天界からの指示には従わなければなりません。

 そのことはマーエ姫様もよくご存じの筈っ」

とエマンがマーエに注意をすると、

「そんなこと判っているわよっ

 あたしはただ…」

「ただ?」

「もぅいいですっ」

エマンの言葉にマーエ姫はかんしゃくを起こすと、

尾鰭で床をきそのまま泳いでいってしまった。

「マーエ様!!

 やれやれ…

 どうも、ここでは安心なさるのかマーエ姫様の悪い癖が出てしまう」

エマンはマーエ姫を一度は追おうとしたが、

しかし、すぐにそれを止めるとため息をつきながらそう呟いていた。

「もぅ…エマンのイジワルっ!」

膨れっ面のマーエ姫は力任せに乙姫の館の中を泳いでいくと、

「あれ?」

いつの間にかマーエ姫は通路が入り組みまるで迷路のような所を泳いでいた。

「えぇっと…こっちかな?」

半分心細くなりながら通路を泳ぎ、幾度目かの角を曲がると、

その先に光り輝くものが目に入った。

「やった、出口だ!!」

見えてきた光にマーエ姫は小躍りしてそこへと向かっていく、

すると、

ゴワァァァァ!!!!

一気に視界が開けると、マーエ姫の目の前に巨大な戦艦の艦橋が姿を現した。

「うわっ

 何かしらこれ?」

姿を見せた艦橋にマーエ姫は驚くが、

しかし、元々好奇心が旺盛な彼女はすぐに興味津々に艦橋の周囲を泳ぎはじめた。

すると、

『ただいまより、魔導エンジンの起動試験を行います。

 係員は所定の配置についてください。』

と言う艦内放送が流れた。

「え?

 魔導エンジンの起動試験って…
 
 これってウォルファと同じ船なの?」

マーエ姫はそう呟きながら艦橋の周囲を泳いでいると、

「あーそこの、あなた!!」

そう言いながら艦内からヘルメットを被った一人の人魚が出てくるなり、

「外を彷徨いていてはダメでしょう?、

 これから魔導エンジンの起動試験をするから、

 中に入っていなさい。」

と注意をすると、

カポッ!!

っとマーエ姫にヘルメットを被せて艦内へと連れ込んだ。

「へぇ…

 ウォルファとは全く違うんだ」

ウォルファとは全く違うデザインの艦内を珍しげに眺めながらマーエ姫がそう言うと、

「何を言っているんの?

 あなたは…」

マーエ姫を連れ込んだ人魚はやや呆れたような表情をしながらそう言うと彼女の手を引き、

”待機所”

と書かれた部屋の中へと入っていった。

するとその中には

ワイワイ

っと様々な人魚達が詰めていて話の花が咲いていた。

「よしっ

 これで全員を収容っと…」

マーエ姫を連れてきた人魚はそう言うと、

「あっ私です」

と艦内電話を取るなりそう受話器に向かって声を上げた。



それから程なくして、

『魔導エンジン起動試験を行います。

 係員は手順通りの操作をお願いします。』

と言う声が響き渡ると、

ピッピッピッ

時を刻む音が響き始めた。

一方、艦橋では緊張した面もちの人魚達が

パネルスクリーンに映し出される時計に見入っていた。

「5秒前…

 4秒前…
 
 3秒前…
 
 2秒前!
 
 1秒前!!」

「魔導炉起動!!」

カウントダウンを読み上げる声が響いた後、

艦長席に立つ人魚がそう叫ぶと、

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴン!!

船体は大きく振動し始めた。

「竜玉出力上昇!」

「魔導炉内、圧力上昇」

「補助動力炉、点火!」

「2番弁、3番弁閉鎖」

「バイパスカット正常に動作」

「魔導炉エネルギー充填開始」

作業員達は決められた手順に従ってテキパキとレバー操作する。

そして、

「フライホィール接続、

 魔導エンジン起動!!」

と言う声と共に起動のレバーが押し下げられると、

ズギュウーン

これまで響いていた音が鳴りやんだ。

10秒…

20秒…

静かなときが流れていく、

「なに?

 止まっちゃったの?」

天井を眺めながらマーエ姫がそう言うと、

「やれやれ、また失敗?…」

「これで何回目だっけ?」

と人魚達の声が響き渡った。

すると、マーエを連れてきたあの人魚が電話を取ると何やら話し始めた。

そして程なくして、

「はい、みなさーん

 やはり起動試験に失敗したそうです。

 現在原因を調べているとのことですので、

 今日はコレにて散会です。」

と声を張り上げて伝えると、

「やっぱりねぇ!!」

と言う声が待機室に響き渡った。

そして、

「もぅ…本当に動くのかしら?」

「さぁ?」

「これだけのことをして動かなかったらお笑いよ」

等と言い合いながら人魚達は三々五々控え室から出て行く、

「あらら…みんな居なくなった…」

すっかりガランとした控え室を眺めながらマーエ姫はそう呟いていると、

「はい、あなたも行っていいですよ」

「はっはい…」

そう言われてまるで追い出されるようにしてマーエ姫は控え室から出ると、

「ふむっ」

そう言いながら未だに沈黙をしている戦艦から離れていった。



ゴロゴロゴロ!!

ズズズン…

雲間に稲光が明滅すると、

追って雷鳴が響き渡る。

「この雷はただの雷ではないな…」

フォォォォォン…

微かに光る雷竜扇を片手に屋上で巫女神沙夜子がそう呟いていると、

「ねぇどうしたの?

 そんな難しい顔をして」

とクラスメイトの新羅美沙子が沙夜子に話しかけてきた。

「え?」

美沙子の声に沙夜子が振り向くと、

「巫女神さんって時々大人びた顔をするのよね」

と言うと、

沙夜子の横に立った。

「そっそう?」

美沙子の指摘に沙夜子が聞き返すと、

「うん…

 そうよっ
 
 まぁそう言ったところが男子達に人気があるんだろうけど」

と空を眺めながらそう言った。

「別に男子達の噂なんてあたしには関係ないけど」

美沙子の言葉に沙夜子はそう返事をした途端、

「そこよ、そこ!

 巫女神さんってホント、異性には興味を示さないのよね。

 だって、この間、あの相沢君からわざわざ告白されたのに、

 ”興味がない”
 
 立ったその一言で振っちゃうんだもん、
 
 あたしにはその考えが理解できないわ」

と沙夜子を指さしながら美沙子が指摘すると、

「そう?」

沙夜子は面倒くさそうにそう返事をした。

「はぁ…これだもんねぇ…」

そんな沙夜子の態度に美沙子は呆れたポーズをしながら

「ねぇ…巫女神さんの理想の男性ってどういう人?

 あたしが見たところ年上にしか興味がないみたいだけど」

と探りを入れてきた。

「べっ別に…

 あたしはそう言ったことには興味がないから」

「なによっ、このあたしにもいえないの?」

「そう言う訳じゃないけど…」

美沙子の追求に沙夜子は後退していくと、

「ほらっ、もうすぐ授業が始まっちゃうよ、

 あたし先に戻るね。」

と言うと、一目散に校舎の中に戻っていった。

「もぅ!!」

そんな彼女の後ろから美沙子の声が響くが、

しかし、沙夜子の視線は別の所を見ていた。

「何時もあたしを見張っているあの連中が居ない…

 どうしたんだろう?」

と沙夜子を監視していたあのトレンチコートの男の姿が

無くなっていることを訝しがった。



つづく


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