風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第24話:流離いの水惑星】

作・風祭玲

Vol.343





「水無月高校、真昼の怪事件!?

 生徒教職員全員がバニーガールに?

 一連のテロと関係か?

 警察が駆けつける前に飛び立った謎の飛行物体に、首相、早急な調査を指示。

 北方人民共和国は事件の関与を否定する声明を発表。

 米ゴルァ大統領は緊急安保理の開催を国連に要請。

 東証株価は事件を受け安値を更新…

 う〜ん、

 おいっ櫂よ一大事になっているぞ」



夕刻…

バサッ!

水無月高校・集団バニー化事件を報じる夕刊紙をめくりながら恵之がそう言うと、

「奥方殿、お代わりを頂けますかな?」

とご飯を頬張る成行が声を上げると、

「あっわたしくも…」

成行につられるようにしてバニー1号も茶碗を差し出す。

「お前等っ

 なんで、ウチでご飯を食べて居るんだ?」

そんな成行達を苦々しく眺めながら櫂が怒鳴ると、

「まぁまぁ、旅は道連れ世は情けっていうじゃろうが

 困ったときはお互い様、

 情けは人のためならず、

 こう言うときは施しをするものじゃよ…」

といつの間にか遍路の衣装を身に纏った成行がそう返事をした途端、

「(プツン!)88カ所巡りか、こらぁ!!」

ゲシッ!!

成行のその姿にキレた櫂が拳を握ると成行の頭を殴ると、

「こらっ、櫂っ

 無闇に暴力を振るうんじゃない!!

 折角のバニースーツが台無しじゃないか」

と櫂の行為を恵之がすかさず注意をした。

「おやじぃ」

それを聞いた櫂が情けなさそうな顔をすると、

「で、こちらが、櫂の彼女さんですか?」

そんな櫂を無視して恵之は改まると、

ずっと緊張した面もちのままの真奈美の方を向くなりそう彼女に尋ねた。



そう、モンキースィーパーが飛び立った後、

走って追いかけようとする櫂をサヤの部下達が押し止め、

「こっちじゃ!!」

と叫ぶ成行のクルマに乙姫や真奈美共々押し込むと、

ファンファンファン

ウーカンカンカン!!

群をなして押し寄せてきたパトカーや消防車の津波から逃れるように、

バニーガールになった生徒達で大混乱に陥った水無月高校から辛くも脱出すると、

そのまま水城家に駆け込んでいた。

「いっいえ…そんな…」

恵之の言葉に真奈美は顔を真っ赤にして俯くと、

「ははははははは!!

 いやいや、なかなか初々しくっていいじゃないか、

 なぁ櫂っ

 女の子はこうじゃなくっちゃダメだぞ!!」

緊張している真奈美の姿を見ながら恵之が豪快に笑うと、

櫂に話の矛先を向けた。

すると、

「ガサツで悪かったわね」

横で聞いていた香奈が櫂よりも先にそう言ってプィっと横を向くと、

「ところで、お姉ちゃん、

 いつまでそんなのを着ているの?」

っと艶めかしい色を放つ櫂のバニースーツを指さしながらそう尋ねた。

「え?」

香奈からの意外な質問に櫂は一瞬キョトンとした表情をすると、

「そうか…

 よっ」

っとバニースーツに手を掛けそれを脱ごうとしたが、

しかし、

幾ら脱ごうとしてもバニースーツは櫂の肌に密着したまま頑として動かなかった。

「うそぉ…脱げないよ、これ!!」

身体に張り付いたままのバニースーツに櫂が困惑した声を上げると、

「はーはははははは!!

 そのバニースーツはただのバニースーツではないぞ、

 身につけた者の身体に完璧にジャストフィットするようにしてある。

 よって、一度着たら脱ぐことは出来ないのじゃよ!!」

と櫂の様子を見ていた成行が声を上げた。

「ちょっと待て!!

 脱げないとはどーゆことだ、

 じゃぁ、”こんな時”や”あんな時”はどーしろと言うんだ?」

そう言いながら切迫した表情で櫂が成行に迫ると、

「それは、ほれ…ゴニョゴニョゴニョ…」

と成行が櫂に耳打ちをする。

その話を聞いたその途端、見る見る櫂の顔が真っ赤になっていくと、

ゲシッ!!

「貴様っ、

 僕にそーゆー生活をしろ。言うのかっ」

と怒鳴りながら成行の頭を思いっきり殴った。

「まぁまぁ、櫂…

 そんなに慌てて脱がなくてもいいじゃないか、

 父さんはお前がそのままの姿で生活することに反対はしないが」

恵之が読み終えた新聞を畳みながらそう言うと、

「あのなぁ親父!!」

呆れた表情をしながら櫂が恵之に再度迫る。

すると、

「あの…そのバニースーツですが、

 バニー化砲に安定化剤を入れておきませんでしたので

 3日もすれば消えてしまいますよ」

とバニー1号がひとこと口を挟んだ。

「え?」

バニー1号のその説明に櫂が明るい表情で振り返ると、

「なんだと!

 バカモン!!

 なんで、安定化剤を入れておかなかったのだ?」

今度は逆に成行がバニー1号に向かって怒鳴り声をあげた。

「そんなこと言われても…

 安定化剤の在庫が切れているのですから仕方がないですわっ

 第一、安定化剤の在庫が切れているの、

 博士も知っていたでしょう」

とバニー1号が安定化剤の在庫が切れていることを、

成行が承知していたことを強調した。

「まっまぁ…

 そうだっけかかな…」

バニー1号に指摘された成行の勢いが見る見る落ちていく、

と、そのとき、

「さて、サヤ殿が攫われたとなると、

 ただ事では済まされないな…」

ふと恵之が一切報道されていないサヤの拉致事件についてそう呟くと、

「………」

恵之のその言葉を聞いた途端、

櫂の表情に悔しさがにじみ出た。

「櫂っ、そんなに自分を責めるなっ」

そんな櫂の表情に気づいた恵之が励ますように肩を叩くと、

「ねぇ…

 今のところなんの連絡もないの?」

と香奈が櫂に尋ねた。

「うん…

 どうも連中はサヤさんを乙姫様と勘違いして攫っていったみたいなんだけど…」

「へぇ…乙姫様を狙う謎の組織か…

 なんか格好いいわねぇ」

櫂の返事に香奈が感心しながらそう呟くと、

「コラッ、香奈っ

 相手は誘拐犯だぞ!

 格好いいなんて言う者があるか」

と恵之が注意した。



するとその時、

ピンポーン!!

玄関の呼び鈴が鳴ると、

「ごめんくださーぃ!!」

とシリアルの声が響き渡った。

「この声は?」

「シリアル!!」

シリアルの声に櫂と真奈美を驚いて玄関に向かうと、

「こんばんわ」

と言う声と共にシリアルが姿を見せた。

「シリアル!!、

 よくここが判ったな」

シリアルの姿に櫂が驚くと、

「あっどうも…

 一応、ヌイグルミの件の報告にと思いまして…

 で、どうしたんです?

 その格好は?」

とシリアルが水城家を訪れた理由を説明するのと同時に、

櫂と真奈美のバニースーツ姿に驚いた。

「まっまぁ…あれから色々…あってな」

櫂はやや誤魔化しながらそう返事をすると

ポリポリ

と鼻の頭を掻く。

すると、

「すごーぃ!

 これが例の天使の猫なの?

 うわぁぁぁ
 
 本当に猫が人の言葉を話しているぅ…」

そう叫びながら香奈が分け入りシリアルを抱き上げると、

シゲシゲとシリアルを見つめた。

間近に迫る香奈にシリアルは大粒の汗を流しながら、

「にっにゃおぉぉぉん」

と鳴いて見せると、

キラキラ!!

香奈は目を輝かせながら、

「お姉ちゃんっ

 この猫飼いたいよぉ!!」

と櫂に迫った。

しかし、

「香奈っ

 それは普通の猫じゃぁ無いからダメ!!」

櫂がそう言って香奈の腕からシリアルを抱き上げて下に降ろすと、

「…えっえぇっと話を続けていいですか?

 で、それでですが、

 真織さんのヌイグルミからの特異点の分離は無事成功して、

 天界管理の元、特異点はこの世界と向こうの世界の間に固定されました。

 あとはそこにめがけてN2超時空振動弾を撃ち込めば、

 この2つの世界の絡まった状況は解決されます。」

と状況を説明した。

「そうか…

 これで一件落着だな」

シリアルの説明に櫂がそう返事をすると、

「どうもお世話になりました。

 特異点探しを依頼したアーリーに代わってお礼を言います。」

そう言いながらシリアルは深々と櫂や真奈美に向かって頭を下げた。

「いや…

 まぁヌイグルミが簡単に見つかったのは

 その香奈がヌイグルミを持っていたからだよ」

礼を言われた櫂は困惑しながら香奈を指さしてそう言うと、

「そうだ!!

 お姉ちゃんっ

 あのヌイグルミの代わりを買ってくれるって約束はどうなるの?」

と香奈がサヤと交わした約束について櫂に詰め寄る。

しかし、

「あの話はあとあと」

そう言って櫂は迫る香奈を押し戻すと、

「シリアル、わざわざの報告ありがとう」

と報告に来たシリアルに礼を言い、

「じゃぁ、僕たちの仕事はこれで終わり。

 と言うことでシリアルとはお別れだね」

そう言いながらシリアルの頭を撫でた。

すると、

「で、櫂さん達の問題は解決したのでしょうか?

 なにか、色々と狙われているようですが」

と心配そうにシリアルが尋ねると、

「あっあぁ…

 その話はよそう、

 あっ勘違いしないで、

 君には君の大事な仕事があるし、

 僕たちは君の仕事の邪魔をしたくはないんだよ、

 それに、こっちのトラブルはこの世界に住む僕たちの仕事だし、

 違う世界に住む君の手を煩わせたくはないんだ。

 あっ、でも、

 もしも、天界の方にも関わることになようになったら、

 遠慮なく協力を要請するからその辺はよろしく」

とウィンクをしながら櫂が言うと、

「はいっ

 その時は喜んで協力をいたします。

 えっと乙姫様の姿が見えない様子ですが、
 
 よろしく伝えておいてください。

 では、ぼくはこれにて失礼します。

 あっ、N2超時空振動弾による爆破作業はあさってのお昼ですので注意してください。

 では」

そう言い残してシリアルの姿は夜の闇の中に溶けていった。

「やれやれ、

 世界の衝突に乙姫様を狙う謎の組織か…

 あっちこっちも大変だなぁ…」

シリアルが去ったあと、

恵之が封筒の中に入っていた書類を眺めながらそう呟くと、

「あなたっ

 なにノンビリ構えているのですかっ

 乙姫様が狙われている。
 
 これだけでも重大なことなんですよ」

と話を聞いていた綾乃が恵之に迫る。

「判った判った母さん、

 そう言わなくても…」

綾乃を宥めながら恵之がそう言って、

「で、その乙姫様は?」

と櫂に乙姫の状況を尋ねると、

「うん、いま竜宮の方と話しているみたいだけど…」

と言いながら櫂は庭先で輝水の竪琴を使っている乙姫の方に視線を移した。

そこでは、

黄金に輝くバニースーツに身を包んだ乙姫が静かに輝水の竪琴を鳴らしていた。

「なっなんて素晴らしい…」

その様子に成行が身を乗り出しながらそう呟く、

その途端、

ゲシッ!!

「何が素晴らしいかっ

 お前が余計なことをしなければ、

 乙姫様があんな恥ずかしい格好をしなくても済んだんだぞ!」

と怒鳴りながら成行を殴ると、

「こらっ、櫂っ

 恩人をそうポンポンと殴るんじゃないぞ!!

 第一、この成行博士のお陰で学校からどさくさに紛れて逃げ出せたんだろう」

と恵之が櫂に注意をすると、

「え?、成行博士?」

と恵之が自分の口から言った台詞に何か気がつくと考える素振りをした。

「オヤジ、この爺さん、知っているのか?」

恵之の態度に驚いた櫂が聞き返すと、

「あっひょっとして、帝都大の成行兎之助博士ですか?」

と恵之は成行を指さして尋ねた。

「え?、帝都大?博士?」

恵之の言葉に櫂は驚きながら成行を見る。

「あぁ…帝都大の成行博士と言えば幾度もノーベル賞候補に挙がった方だよ

 確か…

 有機物には傷を付けずに無機物だけを崩壊させる理論を発表していましたよね」

思い出しながら恵之が成行に尋ねると、

「ふむっ

 まぁ昔の話じゃよ」

イスに座り直しながら成行はそう呟くと、

「もっとも、原子の大バカがその論文を横取りしおったがな…」

と続けた。

「原子…あぁ原子力博士ですか…

 確か、その論文の共同研究者でいらした」

「共同研究?

 はんっなにを馬鹿げたことを

 あの論文の99.999999999%はわたしが研究し書いたものだ、

 原子は最後の最後で学長に取り入って共同研究者として、

 その論文に自分の名前を書き加えただけじゃよ。
 
 オーナイン論文とはよく言った物じゃ」

と成行は吐き捨てるように言う。

そして、

「そんな馬鹿げたことが堂々とまかり通る事に嫌気をさして

 わしは大好きなバニーの研究に没頭した訳なんじゃよ。

 そして、ついにわしは究極のバニーに出会うコトが出来た。

 あぁ、なんて今日は幸せな日なんだろうか?」

成行はそう続けると自分で自分を抱きしめた。

「なぁ…ちょっとやばくないか?」

そんな成行を横目で見ながら櫂がそう呟くと、

「まぁまぁ、男のロマンって奴じゃないのか?」

恵之はそう言うとバニー姿の乙姫を眺めていた。



そのころ、

ゴォォォォォン…

「はーくっしょん!!」

紀伊半島沖を東へと向かうシーキャットの中で原子力が大きなくしゃみをした。

「おやおや、原子博士、

 風邪ですかな?」

そう言いながら泰三が声を掛けると、

「いやなに…

 どこかの誰かが私のうわさ話をしたんでしょう」

鼻を啜りながら原子がそう答える。

「おぉ…

 帝都大にその人ありと言われた原子博士の噂をするとしたら一体誰が?」

とオーバーなアクションをしながら泰三が驚くと、

「まぁ、

 わしも、色々と敵が居ますからなぁ…」

そう言いながら原子は苦笑をした。



ゴロゴロゴロ…

翌日、朝になっても晴れ渡ることなく、

空を覆い尽くした雲間から稲光と共に雷鳴がとどろき渡っていた。

「では、水無月高校で発生しました一連の事件のニュースはここで一旦終わりまして、

 次のニュースです…

 先日、日本のアマチュア天文家・都留一也さんと

 亀井良雄さんが相次いで発見した新彗星は

 その後の軌道計算の結果、

 同じ彗星であることが判明し、

 届け出を受けたCABTは新彗星にツル・カメイ彗星と命名しました。

 日本人の名前が名付けられた彗星は…」

「つっツルカメ彗星…?」

額に大粒の汗を浮かび上がらせながら相変わらずバニーガール姿の櫂がそう呟くと、

「ほぉ、”ツルカメ”だなんて随分とおめでたい彗星だな」

と恵之が感心した台詞を言う。

その途端、

「あなた!!

 この重大なときにおめでたいだなんて言うんじゃありません」

すかさず綾乃が注意すると、

「何を言っているのだ、母さん。

 こう言うときだからこそ、
 
 どーんと身構えなくてはけないんだよ」

と恵之は自分の胸を叩いた。

そして、

「で、乙姫様っ

 ずっと、輝水の竪琴を鳴らされていたみたいですが、
 
 何か手がかりは掴めたのですか?」

と話を乙姫の方へと向けると、

「えぇ…

 竪琴でサヤの気配を探したのですが、

 世界の衝突による魔導の乱れから

 見付けることが出来なく、

 また、竜宮のほうとも安定した会話が出来なくって」

と答えると疲れた表情を見せた。

「うーむ…

 他人事だと思っていた衝突の余波がこんなところで出るとはなぁ」

乙姫の説明に恵之が腕を組むと、

「でもサヤは鍛え上げられた竜宮の戦士ですので、

 心配はなさらないでください。

 なんの気配も感じさせないと言うのは、

 彼女に差し迫った状況ではないと言うことだと思いますので、

 ただ…

 一時繋がった竜宮からの話で、

 マームヘイムのマーエ姫が竜宮に来ている。

 と言っていたのが気がかりです。」

と乙姫は言った。

「マームヘイムのマーエ姫?」

乙姫の口から出てきた人の名前に櫂が聞き返すと、

「えぇ…

 別の地球にある人魚の国の姫なのですが…」

「別の地球と言うと、

 つまり、昨日やって来たシリアルと同じと言うわけですか、

 そのマーエ姫様も世界衝突の余波で?」

乙姫の説明に櫂が聞き返すと、

「いえ、

 マームヘイムと竜宮とは2年おきに行き来をしているんです。

 それで、今年はマームヘイム側から来る番でしたが、

 ただこちらに向かっている途中で一時消息を絶ちまして…

 心配をしていたのです。」

「はぁ…

 なんか波瀾万丈の航海をしてきたみたいですね、

 で、気がかりってそんなに問題のある姫様なんですか?」

「えぇ…

 まぁちょっと…」

櫂の質問に乙姫は苦笑いをした。



「…なお、帝都大の有栖川教授のグループが行った軌道計算によると

 このツル・カメイ彗星が地球に最も近づいたときの距離は

 わずか20万kmと月と地球の距離の半分程度と、

 人類史上希にみる大接近であることが判明し、

 地球に衝突する可能性も低い確率であるが否定できない。

 と言うことだそうです」

とTVがツルカメ彗星が地球に大接近する事を告げた。

「ふんっ、

 有栖川め、院生だったのに随分とえらくなったもんだなぁ…

 あいつが教授なら、わしなんかとっくに学長になっておったのに」

それを聞いていた成行がそう言うと、

「だけど、大丈夫かなぁ…

 地球にぶつかるんでしょう?」

とジッとTVを見ていた真奈美が不安そうにそう言う。

すると、

「そう言えば恐竜を滅ぼしたのも彗星の衝突と言われているし、

 また、過去に起きた生物の大量絶滅劇もその裏では隕石や彗星の激突が

 絡んでいると言ったなぁ…

 この際、シェルターでも作るか?」

と恵之が言うと、

「もぅお父さん、変なこと言わないでよ」

香奈がそういながら恵之の背中を叩いた。

そんな様子を見ながら、

「そう言えば…地球には過去二回、

 巨大天体との衝突があったことをご存じですか?」

と乙姫が尋ねてきた。

「二回ですか?」

乙姫の言葉に櫂が聞き返すと、

「コホンっ

 ファーストインパクト、もしくはジャイアントインパクトと言う奴ですかな?

 二回目の話は聞いたことがないですな」

と咳払い一つ成行が答える。

すると、乙姫は目を瞑り、

「この太陽系が宇宙に誕生したとき惑星は全部で13個作られました。」

と静かに話し始めた。

「13個ですか?」

「はい」

「と言うと、いまはこの間発見された雷王星を含めて10個だから

 あと3つ未発見の星があるのか」

乙姫の説明に櫂がそう呟くと、

「いえっ

 そのうちの1つは既に失われています。

 と言うのも太陽系誕生時、

 地球は太陽から数えて4番目の惑星でした。」

「へぇ、そうなんだ…」

「はい、太陽系が誕生して間もない頃に、

 太陽の傍を別の太陽が横切りまして、

 その為に惑星の動きに乱れが生じたのです。

 そして軌道を外れたその時の1番惑星が海が誕生しつつある地球に激突しまして、

 その破片が後に月になりました。」

「ふむ、ジャイアントインパクトですな」

乙姫の説明を聞いた成行がそう答えると、

「えぇ」

乙姫は大きく頷き、

「やっと、生命の種が育ち始めた地球は、

 この衝突によって文字通り一からやり直しとなりましたが、

 しかし、それからしばらくした後に二回目の衝突が発生したのです。」

「ほぅ二回目とは初耳ですな」

乙姫の言葉に恵之が聞き返すと、

「はいっ

 星のすべてが水で出来た水惑星・ウールーとの衝突です。

 これによって灼熱の地となった地球は冷やされ、

 そして、生命の種が新たにもたらされるのとともに

 以前よりも大きな海が地球に作られました。

 これが地球の海と命の始まりです」

「その、水惑星は消えてしまったのですか?」

水惑星の消息を櫂が尋ねると、

「いえっ

 水惑星・ウールーは地球よりも遙かに大きな惑星でしたので、

 地球に水を命を分け与えた後

 長い旅へと出ていきました。」
 
「長い旅ですか?」

「えぇ…

 速度を上げて太陽系から飛び出したウールーは時空を越え、

 時々姿を見せては出会った星に様々な試練と恵をもたらしているそうです。

 天界ではウールーの事を”流離いの水惑星”と呼んで、

 その軌道は常に監視の対象となっていますが、

 ウールー気まぐれを起こすと

 その姿を隠してしまい見つけだすことは至難の業とか」

と乙姫は説明をした。

「流離いの水惑星かぁ…

 なんかロマンを感じるなぁ」

そう言って香奈が目を輝かせると、

「おいおい、

 いまの地球にそんなのがやってきたら大変だぞ」

と呆れながら櫂が注意をした。

その途端、

「あっいっけなーぃ、

 遅刻しちゃう!!」

時計を見た香奈がそう叫ぶと、

「じゃぁいってきまーす」

といいながら鞄を片手に飛び出して行った。

そんな香奈の姿を見ながら、

「櫂は学校はいいのか?」

と恵之は櫂に尋ねると、

「爆発事件もあったので、

 今週いっぱいは休校になるそうですよ」

と綾乃が水無月高校が休校になったことを教えた。

「まぁ、休校もさることながら、

 それまでにその衣装もなんとかしないとな」

休校と聞いて恵之が櫂達のバニー姿を指さしながらそう言うと、

「なんとかとは失礼な!!

 バニーは崇高な衣装だぞ!!

 なぜ、それが判らんのだ!!」

やり取りを聞いていた成行が声をあげた。



つづく


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