風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第23話:成行博士、参上!!】

作・風祭玲

Vol.342





ゴワァァァァ…

ガコン!!

エンジン音を高らかにゴミの収集車が

モビルスーツ・モンキースィーパーへと姿を変えると、

「おぉ!!」

パチパチパチ!!

「すげーな…」

「収集車って何時の間にこんなに進化したんだ?」

「飛ぶのかな?やっぱり…」

「合体して欲しい…」

「消防車だとやっぱり運動性能が3倍違うのかな…

 一度に5件の火災を消化する赤い彗星…なんちゃって」

「と言うと救急車は敵か…連邦の白い奴って」

と言う声がギャラリーから沸き上がると拍手一斉にわき起こった。



「はーはははははは

 どうだ!!

 SSM−06SR!!

 我が猿島家が誇るモビルスーツ・モンキースィーパーだ!!

 ふふふふ…

 例えゴ○ラといえどもこのモビルスーツ・モンキースィーパーの前では赤子も同然!!

 行くぞ!!」

コックピットとなった運転席に座る言猿が

正面に迫り上がったディスプレイに映し出されている櫂達を眺めながらそう叫ぶと、

カチッ!!

っとハンドルについているボタンを押した。

すると、

グリンっ

モンキースィーパーの両腕が交差するようにして背中の方に素早く動いた。

「おぉ…ビームサーベルか!!」

「いやっヒートホークかも!!」

「ジェットストリームやってくれるのかな?」

「バカか、あれににはスカートがついてないだろうが」

ギャラリーの期待の声が見る見る高まっていく、

すると、

ジャコン!!

生徒達の期待を一身に背負ってモンキースィーパーが取りだしたのは、

巨大な箒とチリトリだった。

「残念だったなぁ…諸君、

 このクルマはゴミの収集車なんでな、

 清掃用具しか持っていないんだよ

 さぁ…

 燃えないゴミはどこだぁ!!」

そう叫びながら言猿はアクセルを思いっきり踏み込んだ。

すると、

ガチョン

ガチョン

ガチョン

ぎこちない動きをしながらモンキースィーパーが動きはじめると、

校庭に転がっている海魔を次々とチリトリの中に押し込みながら、

櫂の方へと向かってきた。



「かっ櫂っ!

 こっちに来た!!」

向かってくるモンキースィーパーを指さしながら真奈美が声を上げると、

スッ

櫂は無言で立ち上がり静かに構える仕草をした。

と同時に

ギンッ!!

櫂の手に竜牙の剣が姿を現す。

「いけませんっ、櫂さんっ

 いまそれを使っては櫂さんに身が大変なことになります」

それを見た姫子(乙姫)が声を上げると、

「乙姫さまっ

 いまはこれしか…」

振り向かずに櫂はそう言うと、

「ここは私たちにお任せを、

 櫂殿は姫様を連れて逃げてください!!」

サヤの部下達が櫂とモンキースィーパーの間に立ちはだかるとそう叫んだ。



その頃、

ヒュォォォォォ…

水無月高校を望む丘の上に二人の人影が静かに立っていた。

そのうちの一人、白衣姿をした初老の男性が徐に双眼鏡を目に当て、

「ふむ…平和な学校の校庭で妖しげなロボットが暴れているのか…」

と呟いて双眼鏡を降ろすと、

「博士ぇ…お腹が空きました…」

と黒いエナメルのバニースーツを輝かせ、

長い髪を払いのけながら後ろに控えていたバニーガールがそう訴える。

すると、

「なんだ、バニー1号っ

 これくらいの事で音を上げるのではないっ

 究極のバニーを追い求めて早や幾年…

 流離いに流離ってきたが…」

と言いながら博士と呼ばれた男性は再び双眼鏡を構えた。

そして、数分もしないウチに、

「やや!!

 なんだ!!、あの少女は!!」

と博士は双眼鏡に映し出された少女・乙姫を発見すると声を上げた。

「どうかしましたか?、博士?」

博士の様子の急変にバニー1号と呼ばれたバニーガールが尋ねると、

「こっこれを見たまえ!!

 今時このような少女が居たとは…
 
 あぁ…なんて言う巡り合わせなんだろうか」

そう言いながら博士は双眼鏡をバニー1号に手渡すとパンパンと柏手を打つ。

「はぁ?」

首を傾げながらバニー1号は双眼鏡を覗いて見た途端、

「まぁ!!」

と驚いた様な声を上げた。

「どうだ、彼女なら究極のバニーことゴールデンバニーが現れると思うぞ!!」

小躍りするようにして博士がそう叫ぶと、

「そうですね」

と呟きながらバニーが大きく頷いた。

すると、

「何をぐずぐずしておる!!

 すぐにクルマを出すんじゃ!!

 あぁ、それと、

 例の新兵器・改良型拡散バニー砲の準備をしたまえ!!」

博士はそう怒鳴るや否や止めてある車の方へと走っていった。



「うっう〜ん…」

「あっ気がつきましたか?」

猿島加代子が目を覚ましたのは保健室のベッドの上だった。

「あっあれ?」

そう言いながら加代子がキョロキョロと周囲を見回すと、

「職員室で出会い頭にぶつかってしまったんですよ、

 慌てて駆け込んでくるなんて、

 いつもは冷静な猿島先生らしくないですね。」

席に座りながら養護の教諭はそう加代子に言うと、

「駆け込んできた?

 私がですか?」

と加代子が聞き返した。

「えぇ、そうですよ、

 釣り竿を持って職員室に飛び込んできた所を、

 校庭でケンカをしていると知らせを聞いて

 出ていこうとした先生とぶつかってしまったんですよ」

「釣り竿?

 あっ!!」

養護の教諭から黒潮丸の事を指摘された加代子は思わず声を上げると、

「すぐに生徒の所持品検査をしなくては!」

と叫び声を上げるなり、

「あっまだ休まれた方が…」

と言って押し止めようとする養護の教諭の手を払いのけると、

保健室から飛び出して行った。

「私にはやらなくてはならない仕事がある!」

ショックで未だフラフラする身体に鞭をウチながら加代子の足は職員室へと向かう。



一方、その職員室では、

「リムルぅ…何とかならないの?」

「うーん、困ったわねぇ…」

教員達が出払い、無人となった職員室の中で、

人魚の姿になってしまったミールとリムルが必死で藻掻いていた。

「どうやら、あの釣り竿から伸びている糸があたし達に絡まっているようだけど」

とリムルが床の上に転がっている黒潮丸を横目で見ながらそう言うと、

「あの釣り竿って…

 シシル達が拾ってきた奴じゃない。

 なんのよ?

 あれって…」

その釣り竿が昨日シシル達が拾ってきた釣り竿であることに

気づいたミールが釣り竿の正体を尋ねると、

「聞いたことがあるわ、

 昔、浦島太郎と言う人間が竜宮城を訪れたとき、

 そこの宝物庫から一本の釣り竿を失敬してきたそうよ。」

とリムルが説明を始めた。

「失敬って

 それって盗んできた。と言うこと?」

「詳しいことは判らないわ、

 ただ、大の釣りマニアだった太郎が宝物庫でその釣り竿・黒潮丸を見たとき、

 ”体中に電撃が走った。”っと後の日記に書いているから、

 つい失敬してきちゃたんでしょうねぇ」

「で、その黒潮丸とこれってどういう関係なの?」

「うん、それで太郎が持ち帰った黒潮丸なんだけど、

 その釣り竿は魚を釣るためのものではなく

 人魚を釣る釣り竿だったそうよ。」

「なんですってぇ!!」

リムルの説明にミールが思わず叫ぶと、

「しかも、人間の姿に変身した人魚も見つけだして捕らえる。

 と言うから、あたし達人魚にとってはまさに脅威…

 故に、竜宮でも宝物庫に仕舞って置いたんでしょう」

「そんな、危ない物を…

 何で竜宮は持ち出されたまま放置していたのよ!!」

「知らないわよっ

 あたしは竜宮の管理担当じゃないから、

 ただその黒潮丸がいまそこにあって、
 
 こうしてあたし達を捕縛しているのは事実よ」

とリムルが黒潮丸を睨みながらそう言った。

すると、

「ねぇ…

 ってことは、教室に居るシシル達も…」

シシル達の事が気になったミールがリムルにそう尋ねると、

「えぇ、黒潮丸はあたし達だけではなくて、

 シシル達も間違いなく襲っているはず、

 恐らく…教室で人魚になっていると思うわ」

とリムルはシシル達の現状をそう推測した。



「シシルぅ…

 何とかならないの?」

「そんなこと言っても…

 動けないんだからどうしようもないわよ!!」

「とにかく、教室に人が戻ってくる前に元に戻らなくてはいけません」

「そんなこと、判っているわよ!!」

ミール達と同じように黒潮丸の糸に絡め取られ藻掻いているシシル達の声が

無人となった教室内に響き渡っていた。



一方、校舎の外では、

ガチョンガチョン!!

転がる海魔を片付けながらモビルスーツ・モンキースィーパーが櫂達に迫ってくると、

『さぁ、大人しく乙姫を渡して貰おうか!!』

と言う言猿の声がモンキースィーパーから響き渡った。

すると、

「なにを!!

 誰がお前なんかに乙姫様を渡すか!!」

その声を受けて制服のスカートを翻しながら櫂がそう怒鳴り返したが、

『わはははははは!!

 お嬢さん、

 お転婆も度が過ぎると痛い目に遭うよ、

 君がそこまでして乙姫を庇う理由は良く知らないが、

 その細腕でこのゴ○ラをも倒すモンキースィーパーに勝てると思っているのか?』

と自信満々に言猿が告げると、

「ねぇねぇ

 ゴ○ラと闘ったって言うけど、

 本当に闘ったの?

 言って置くけどウソ言ったら法律に違反するんだからね」

と気丈に真奈美が言い返した。

その途端、

『うるさいっ!!

 性能テストでジャイ○ンツの松○を三振させたのだから、

 ゴ○ラに勝ったんだ!!

 これで文句はあるまい!!』

と言猿が言い切るのと同時に、

ガチョン!!

モンキースィーパーが投球フォームのポーズをした。

すると、それを聞いていた野球部員が、

「監督!!

 あの歩くバッティングマシーンって押収できないんですか?

 いや、バックネットを壊した見返りに野球部のモノになれば、

 我が野球部に松○級のホームランバッターが続々誕生すると思うのですが」

とモンキースィーパーを指さしながら監督に進言をした。

「はぁ…

 そうか、お前ってバッティングマシーンだったのか」

モンキースィーパーを見ながら櫂が納得をするようにしてそう言うと、

『やかましい!!!

 我が猿島家の技術力の粋を集ったモンキースィーパーを

 バッティングマシーン呼ばわりするとは許さん!!

 えぇいっ

 乙姫をさっさと渡せ!!』

なかなか進まない話についに言猿が切れてそう怒鳴ると、

ガチョン!!

ガチョン!!

モンキースィーパーを動かし始めた。

「櫂殿っ

 離れてください!!」

グッと構える櫂をサヤの部下達が押し下げる。

「そうだ」

櫂は固まったままのシリアルに気づくと、

ひょいと持ち上げて、

「シリアルっ

 連中の目的はこの封筒だ、

 君はこのヌイグルミを持って行くと良い」

と言うと、

グイッ

っとヌイグルミをシリアルに押しつけた。

「え?

 あっあ…

 いっ良いんですか?」

櫂の言葉にシリアルが驚くと、

「天界は特異点の発見を急いでいます。

 すぐにそれを持っていってください」

と姫子(乙姫)が付け加えた。

「はっはいっ」

姫子(乙姫)の言葉にシリアルはそう返事をすると、

「で、探していた人には会えましたか?」

と姫子(乙姫)尋ねた。

「はいっ、

 なんとか会えました」

「そうですか、

 じゃぁその人と一緒に元の世界に帰れることを祈りますね」

シリアルの返事を聞いた姫子(乙姫)は、

そう言いながらシリアルの頭を優しく撫でる。

「ありがとうございます、

 こっこんな形で失礼するのは心許ないのですが…

 ではご無事で!!」

シリアルはそう返事をするなりヌイグルミを背中に結びつけ、

水無月高校から飛び出していった。

「よしっ、

 これで心おきなく闘えるな」

シリアルが去ったあと櫂はそう言ってモンキースィーパーを睨み付けた途端。

シュルル…

サヤや真奈美を襲った黒潮丸の糸が櫂の身体に巻き付き始めた。

「なっに?」

シュルン!!

身体に絡みついてきた見えない糸に櫂が驚くと、

グン!!

櫂の身体から急激に力が消え失せ始めた。

「櫂っ!!」

「櫂殿!!」

ガクッと片膝をついた櫂に向かって真奈美とサヤの部下の声が響く、

「くっそう!!」

人魚へと変身し始めた身体を必死で押しとどめながら櫂が立ち上がると、

スチャッ!!

竜牙の剣を構え直すと大きく振りかぶった。

「いけません!!

 櫂さん!!」

それを見た姫子(乙姫)が思わず櫂に飛びつくと、

ズムッ!!

黒潮丸の糸が姫子(乙姫)の力を一気に奪い始めた。

スルリッ

姫子の身体が見る見る人間から人魚の乙姫へと変わっていく、

「おっ乙姫様…」

それを見た櫂が驚くと、

「大丈夫です…」

乙姫はそう言なり、

グッ

と歯を食いしばった。

その途端、

バリバリバリバリ!!!

突如、黒潮丸の糸が真っ赤に染まると激しく放電が起きると、

その放電は糸を伝わるようにして校舎内へと向かっていった。



「とにかく、この呪縛を解かないと…

 せめてあの黒潮丸に触れるコトが出来れば何か展開が開けると思うんだけど…

 ねぇ、ミール。

 手を動かすことができる?」

校舎外の騒動を未だ知らないリムルがそうミールに尋ねると、

「無理よ、

 肘から巻き付いているんだもん、

 腕なんて動かせないわよ」

とミールは自分の両肘を黒潮丸の糸で固定されていることを訴えた。

「そっか…

 こっちも一緒ね、

 立てれば何とかなるんだけど、
 
 足がこの有様だし…
 
 どうしようか」

リムルはそう呟くと、

ピチッ!!

っと尾鰭になった自分の足で床を叩いた。

すると、

「ねぇ…

 二人で力を合わせて立ち上がってみない?」

と身体をリムルの方へすり寄らせながらりミールが提案してきた。

「へ?」

「誰か一人があのイスに身体を預けて、

 黒潮丸の所にイスごと転がっていくのよ

 そうすれば、床の上を這いずっていくより短時間で黒潮丸に触れることが出来るわ」

「無茶よ、

 まず第一にこの尾鰭で自分の体重を支えるなんてコトできないわよ。」

ミールの提案にリムルが思わず怒鳴ると、

「そーかな…

 でも、このまま床を這いずっていって日が暮れてしまうわよ、

 とにかく、他の先生達が戻ってくる前に元の身体に戻らないといい見せ物よ」

ミールが魚の尾鰭になった自分の足を見ながらそう言うと、

「…そうね…

 ダメは元々でもやってみる価値はあるか」

ミールの言葉にリムルは大きく頷いた。



「いよいしょ」

「いよいしょ」

ピタッ

リムルとミールはお互いの身体を背中合わせにすると、

「いーぃ」

「行くわよ!」

と声を合わせて、

「ぃよいしょっ!!

っと言うかけ声と共に、

ピタン!!

尾鰭に力を入れるとゆっくりと立ち上がり始めた。

ミシッミシミシ…

体重が掛かり始めた尾鰭の付け根から激痛が走る。

「痛ったぁ」

「くぅぅぅぅ」

「頑張って」

痛みを堪えながら二人の身体が徐々に持ち上がると、

「よっ」

ドサッ!!

と言うととリムルとミールのイスの上に織りかなさるようにして倒れ込んだ。

「ぐえっ

 おっ重い!!」

「それくらい我慢しなさい」

リムルの下敷きになったミールが悲鳴を上げると、

「行くわよ」

「おっおっけー」

「いよいしょっ」

カラカラカラ…

そのかけ声と共に、

リムルとミールは尾鰭を器用に動かすと、

二人を乗せたキャスター付きのイスは黒潮丸の方へと動き出した。

「おぉいいぞ!!」

「絶好調ね」

難なく動いていくイスに二人が頷いていると黒潮丸が間近に迫ってきた。

そして、手前でクルリと向きを変えると、

「ミール、足、届く?」

「あと少し」

そう言いながらミールが震える尾鰭を黒潮丸に延ばしていると、

突然、

ガラッ!!

と言う音共に頭を押さえながら加代子が職員室に入ってきた。

「げっ」

「まずい!」

加代子の姿を見たリムルとミールは思わず叫ぶが、

しかし、

「やっやっと職員室だわ」

加代子はそう呟きながらフラフラした足取りで中に入ってきた。

「えっと釣り竿はどこかしら?」

加代子はそう言いながらミール達の所へと歩いてくる。

「どっどうしよう…」

「そっそんなことを言っても」

ミールとリムルがそう言いあっていると、

「あった!」

黒潮丸を見つけた加代子はそう言って足早に歩いてきた。

そして、

床に転がっている黒潮丸に手を伸ばしたとき、

「え?」

ミール達の姿に思わず我が目を疑った。

「なっ…

 ミール先生…

 なっ何をしているのですか?」

「えへへ…どーも」

唖然とする加代子にミールとリムルが挨拶をしたとき、

シャッ!!

黒潮丸の糸が一気に真っ赤に染まると、

バリバリバリ!!

糸を伝わるようにして放電が黒潮丸の中へと飛び込んだ。

「へ?」

その光景に思わずミールがそう呟く間もなく、

カッ!!

乙姫の力を飲み込んだ黒潮丸が強烈な光を発した途端。


ちゅどぉぉぉぉぉぉん!!


と言う鈍い音を上げて大爆発を起こしてしまった。

「きゃぁぁぁ!!!」

爆風と衝撃波でミールやリムル、そして加代子が放り出され、

バリン!!

職員室の窓ガラスが一斉に吹き飛ぶと中から濛々と煙が吹き上がる。

「なんだ?」

「職員室で爆発だ!!」

「テロだ!!119番!!」

校舎を揺るがす爆音に生徒達は驚くと文字通り校内は大騒ぎになってしまった。

そして、黒潮丸が爆発を起こしたのと同時に、

シュルン…

「あっ…」

櫂達に絡みついていた糸の力が緩むと、

プチプチプチ!!

と言う音共に千切れていった。

「身体が…」

糸が消え、力が奪われなくなった櫂の身体に力が戻ってくるが、

しかし、

ガチョン!!

『わはははははは!!

 乙姫は貰っていくぞ!!』

そう叫ぶモンキースィーパーの右腕が間近に迫ってきていた。

「くっそう!」

櫂は迫ってくる右腕を睨み付ける。

と、その時、

ギャギャギャ!!

タイヤを軋ませながらあの博士と呼ばれた男性を乗せて

バニーガール姿の女性・バニー1号が運転するクルマが水無月高校に飛び込んできた。

「バニー1号!!

 改良型・拡散バニー砲発射用意!!」

クルマが敷地内に入ると同時に博士はそう怒鳴ると、

「ラジャー!!」

博士に言われてバニースーツ姿のバニー1号が

ハンドル片手に2連に繋がっている砲口を持ったビーム砲の砲口を乙姫に向けた。

ミァミァミァミァミァ…

たちまち砲口が淡く光ると、

光の粒子が砲口に集まっていく、

「エネルギー充填、90%…100%…110%…」

ミミミミミミ…

「エネルギー充填120%!!」

バニー1号のその叫び声が響き渡ると、

パリパリパリパリ!!

砲口から小さな放電が起こり始めた。

「よしっ!改良型・拡散バニー砲発射!!!」

博士が叫ぶと、

カチン!!

その声に反応するようにしてバニー1号がトリガーを引いた。

とその時、

ドゲン!!

クルマの前輪が倒れている海魔の上に乗り上げてしまうと、

「あっ!!」

ピッ!!

そのショックでバニー1号の指が動くと

改良型拡散バニー砲の照準をリセットしてしまった。

その結果、

シュドォォォォォォォン!!

砲口から発射された青白い光の帯は狙っていた姫子(乙姫)から

大きく外れ軌道を突き進んでいった。

シュォォォォォン!!!

光の帯は離れた所を目指して進んで行く、

そして、

パァァァン!!

ちょうど櫂達の真横に進んだとき突如、光は四方に飛び散ると、

まるで雷雨のようにして水無月高校全域に降り注いだ。

「え?、なんだ?」

「うわぁぁぁ」

「どうなっているんだぁぁぁ!!」

「いやぁぁぁ」

拡散した光の粒子は校舎を貫通し、内部にいた生徒や教師達に容赦なく襲いかかる。

そして、その結果…

ムニムニムニ!!!

「なんだこりゃぁぁぁぁぁ!!」

生徒や教師達が皆一斉に艶めかしいバニーガールへと変身してしまった。

無論、この変身は生徒や教師達だけではなく、

水無月高校の敷地内にいた者達すべてに襲いかかった。

「うわぁぁぁ…」

「どーなっているんだ」

モンキースィーパーに乗り込んでいた言猿や聞猿、

そして、気絶したままの見猿も瞬く間にバニーガールへと変身してしまうと、

櫂や乙姫、そして人魚姿の真奈美やサヤまでも隈無くバニーガールに変身してしてまった。

「どっどーなっているんだ?」

カッ!!

赤いハイヒールの音を響かせながらバニーガールに変身してしまった櫂が驚いていると、

「あっあたしも…

 人魚だったのに…
 
 バニーになっちゃった…」

そう呟きながら困惑した表情で真奈美が立ち上がった。

「それにしても凄いですねぇ…」

黄金のバニースーツをキラキラと輝かせながら乙姫がそう言うと、

「おっおぉ!!!

 みっ見たまえ!!

 これぞ、探し求めていた…究極のバニー…
 
 ゴールデンバニーじゃぁぁぁぁ!!」

そう叫びながらクルマから飛び降りたあの博士がヨロヨロと乙姫に縋って来た。

その途端、

「こらっ!!」

ゲシッ!!

博士の頭上に櫂の真っ赤なハイヒールが振り下ろされると、

「なにかな?」

ハイヒールに踏みつけられながら博士が振り返る。

しかし、櫂は怯むことなく、

「これは、お前の仕業か?」

とハイヒールを捻りながら尋ねると、

「はーはははははは!!

 如何にも、

 この、成行兎乃助の長年の研究の成果である!!」

と成行は高笑いをしながら立ち上がった。

「はぁ?」

成行の態度に櫂が驚いていると、

『おっおのれっ!!

 奇妙な技を使いおって!!』

さっきとは違う甲高い女性の声が周囲に響き渡ると、

ガチョン

止まっていたモンキースィーパーの腕が動き、

バニーガールに変身したまま倒れているサヤを鷲掴みにすると、

『はははは…

 この通り、乙姫は我々が頂く!!
 
 さらばだ!!』

と言う声を響かせ、

ジャキン!!

モンキースィーパーの背中に2つの羽が伸びたと思った途端、

キュィィィィィィィィン!!!

タービンの音が響き始めた。

「サヤさん!!」

それを見た櫂が慌ててモンキースィーパーの方へと走り始めるが、

ゴワァァァァァァァァ!!

グォォォォォォォォォ!!

ジェットの音を轟かせながらモンキースィーパーは

雷光が瞬く曇天の空高く飛び去っていってしまうと、

「サヤさぁぁぁん!!」

空に向かって櫂は叫び声を上げていた。



つづく


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