風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第21話:迫る魔の手】

作・風祭玲

Vol.340





「じゃぁ、

 ぼくは伊織を捜しながら早川神社の方に行ってみます。

 何かあったらすぐに知らせてください。

 飛んでいきますので」

再び舞い戻った水無月駅前でシリアルはそう姫子達に言うと、

シュタッ!!

っと疾風の様に走り去っていった。

「シリアルさんも大変ですね」

シリアルが消え去った後を眺めながら真奈美がそう言うと、

「じゃぁ行きましょうか…

 4時間目からなら間に合いそうですから」

と姫子(乙姫)は時計を見ながらそう言うと

生徒達の姿がない通学路を歩き始めた。

そして、その後を、

「こちら、聞猿っ

 ターゲットは水無月駅で下車っ

 どうやら水無月高校へと向かう模様!」

と携帯電話に向かって話ながら聞猿が後を追いかけていく。

その一方で、

ザワザワザワ…

櫂や聞猿を遠巻きに取り囲むようにして、

猫柳青年探偵団・魚組の姿が沸き出すようにして蠢き始めていた。



「遅れてしまって申し訳ありません」

4時間目の授業が始まったのとほぼ同時に

教室に入ってきた姫子(乙姫)は開口一番そう言うと、

「あぁ…

 湊に水城、そして美作っ

 話を聞いたぞ、

 駅で倒れた人を救助したんだってな、

 昨今の節がないこう言うときに実に良い話じゃないか」

と古文担当の教師・高野は櫂達に向かってそう言うと、

授業そっちのけでとくとくと話をし始めた。

「(ぽしょ)あちゃぁ…

 高野の長説法が始まっちゃったよ」

高野を見ながら櫂がイヤそうにそう呟くと、

「この理由はまずかったでしょうか?」

と姫子(乙姫)が小声で櫂に尋ねた。

すると、

「いえ良いんですよ…」

と真奈美は涼しい顔でそう言うとしばらくの間、高野の説法を聞いていた。

そして、話の区切りの良いところで、

「先生っ

 席についてもよろしいでしょうか?」

と真奈美が手を上げて尋ねると、

「あぁ…

 すっかり脱線してしまったね。

 うむっ
 
 座りたまえ」

高野は櫂達にそう指示をすると、

「はーぃ」

真奈美はそう返事をしながら、

「ほらっ、

 行こう…」

と櫂の背中を押すと自席へと向かっていった。

「コホン…

 では、えっと何ページだったかな?」

「89ページからです」

「おぉそうだったか…」

こうして、櫂達は無事授業に復帰したが、



しかし、

「この学校か…」

「そうだ」

学校の裏門のところでは

言猿達と合流した聞猿はじっと校舎を眺めると、

「水無月高校か…

 妙に臭うな…」

と呟いた。

「どうした?」

聞猿の言葉に言猿が聞き返すと、

「いやっ

 俺の勘だがな…

 この建物の中にどえらい物がありそうな気がするぞ」

校舎を睨みながら聞猿はそう呟くと、

キラッ

自信ありげな視線で校舎を見つめ直した。



同じ頃、

「秘書室長の藤堂は何処へ行ったぁぁぁぁ!!」

猫柳重工・和歌山工場内の敷地にある迎賓館の中に猫柳泰三の怒鳴り声が鳴り響いた。

「かっ会長!!

 お体はもぅよろしいので」

その声に慌てふためいて秘書室のスタッフが駆け寄ると、

「えぇぇいっ!

 こんな腹下し、病気のウチには入らんわ!!

 それよりも、秘書室長の藤堂千帆の姿が見えないが、どうした!!

 すぐに連れてこい!!」

と泰三が怒鳴ると、

「藤堂は昨日、東京に向かいましたが…」

猫柳執事隊・隊長を勤める青柳が泰三の前に進み出てくるなりそう告げた。

「なに?

 誰が東京行きを許可した?」

千帆の東京行きを聞いた泰三はそう尋ねながら青柳に迫ると、

「さぁ…

 なにしろ会長が倒れるという緊急事態でしたので、

 藤堂は東京の留守居役と相談するために向かったのでしょう。

 会長…
 
 お茶が入りましたが」

長年、泰三に仕えてきたために泰三の扱いにはなれている青柳は

やんわりとそう告げると、

湯気の上がる湯飲みを差し出した。

「言われなくても判っておるっ」

バッ!!

泰三はそう言いながら青柳が差し出した湯飲みを奪い取るように取ると口を付けた。

「あっ

 会長…
 
 お熱いですから…」

と青柳が注意をする前に、

「あちぃぃぃぃ!!」

泰三の叫び声が館内に響き渡った。

それからしばらくした後、

「今日の午後に出航する!!」

「なんと?」

「今日の午後、

 シーキャットはここ和歌山を出航するっ!」

舌の火傷を冷やしながら泰三はそう決意を伝えると、

「藤堂は如何するので?」

泰三の決定に青柳は思わず尋ねた。

すると、

「しらんっ!

 もぅこれ以上ここに足止めを喰っているわけには行かないっ

 藤堂の代わりは青柳っ

 お前が務めろ」

と泰三は青柳を指さしながらそう告げた。

「そんな…

 わたくしには藤堂の代わりなど…」

泰三の指示に青柳は思わず躊躇していると、

「何を弱気な…

 シーキャットの準備は既に整っておる」

と言いながら白衣姿の原子力(はらこちから)が入ってきた。

「おぉ、原子博士っ

 このようなところに長い間足止めをしてしまって申し訳ない」

原子の姿を見た泰三はオーバーなアクションをしながらそう言うと、

「うむ、

 眺めも良いし、

 飯もうまいし、

 なかなか良いところだが、

 いい加減、身体が鈍ってきたわい、

 何時になったら私の研究成果が試せるのかのぅ?」

と原子は泰三に尋ねた。

「はははは…

 まぁまぁ原子博士っ

 待った分だけ、楽しみは大きいと言います。

 私の体調もこの通り戻りましたので、
 
 すぐに竜宮へ参りましょうぞ」

泰三は自分の体調が戻ったことをアピールしながらそう言うと、

「ほっほっほ

 それは頼もしい…

 折れた骨がくっつくと人一倍強くなると言うから、

 シーキャットも猫柳殿もきっと強くなっているでしょうなぁ」

原子は笑いながらそう言うと部屋を後にした。

そして。原子の姿が消えた後、

「と言うわけだ青柳、

 今日の午後、シーキャット出航。

 これは決定事項だ。

 いいなっ」

と泰三は青柳に厳命した。



そしてこのシーキャット出航の知らせはすぐに千帆の元へと届けられた。

「なんですってぇ!!

 今日の午後、

 シーキャット出航ですってぇ!!」

東京・猫柳邸に千帆の叫び声が鳴り響いた。

「はいっ

 なんでも、会長のご決断だそうで」

出航を知らせるファックスを持ってきた部下がそう告げると、

「まずい…

 もしもシーキャットが先に竜宮に押し掛けでもして、
 
 それが元で人魚共と一悶着を起こしでもしたら…」

頭を抱えながら千帆はそう呟くと、

「和歌山へ向かいます!!

 すぐに準備をしなさい!!」

と怒鳴った。

しかし、

「むっ無茶ですっ藤堂様っ

 現在、全国的な異常気象の影響で航空機はすべて欠航していますし、

 また、航空管制当局からも、自家用機の発着は控えるように。

 と言う通達が来ているので自家用機を飛ばすことは出来ません」

と部下が言うと、

「そこを何とかしなさい!!」

千帆はヒステリックに叫んだ。



ゴロゴロゴロ

ズズズズン!!

雷鳴が街中に鳴り響き渡る。



「なんだとぉ!!

 シーキャットが出航するだとぉ!!」

同じ頃…

猿島邸内にある幻光忠義のオフィスに忠義の絶叫がこだました。

「はっ、

 複数の消息筋の話を纏めますと、

 猫柳家総帥・猫柳泰三は今朝には体調を回復し、

 本日、午後、
 
 シーキャットの出航を命令したそうです。」

と忠義の部下が報告をすると、

ダァン!!

「猿島忍軍は何をやっているのだ!!」

報告を聞いた忠義は痛々しい包帯姿とは裏腹に

机を思いっきり拳で殴るとそう怒鳴った。

すると、

「はっ

 昨夜、忍軍より

 ”我、これより猫柳邸に侵入する。”

 との一報が入った後の続報は一切ございません」

別の部下が忍軍の状況報告を行った。

「なるほど…

 罠に填めるつもりが、

 罠に填っていたと言う訳か…」

それ聞いた忠義は壁を睨みながらそう呟くと、

「ふははははははは…

 このこの幻光忠義をまんまと填めるとは、

 猫柳泰三、

 やりおったなぁ!!
 
 はーはははははは!!」

と一人で笑い声を上げた。

そして、

キッ!!

いきなり部下達を睨み付けると、

「忍軍は潜入工作に失敗っ

 全員始末されたものとする。

 直ちに百日紅の出航を急がせろ!!

 これは、忍軍の弔い合戦だ!」

と叫んだ。

「はっ、直ちに!!」

忠義の意を受け部下が飛び出していくと、

たちまち猿島邸内はてんやわんやの大騒ぎになってしまった。

「くくくく…

 猫柳めぇ…

 竜宮に行きたければ我々を倒してからにして貰おうか…」

大騒ぎの邸内を眺めながら忠義はそう呟いていた。



「お昼だお昼だ!」

4時間目が終了し嬉々としている櫂を先頭に

姫子(乙姫)と真奈美が学食へと続く晒し廊下を歩いていると、

「あっ、櫂さん…」

突然、姫子(乙姫)が櫂を呼び止めた。

「はい?」

姫子(乙姫)の声に櫂が振り返ると、

「(ちょっと)」

と姫子(乙姫)が手招きをしながら廊下から外に出ると、

そのまま体育館の方へと歩いていってしまった。

「?」

姫子(乙姫)の行動の意味が分からず、

櫂と真奈美が姫子(乙姫)の後について建物の角を曲がった途端、

ヌッ!

突如、彼女たちの視界いっぱいにネコのヌイグルミが姿を見せた。

「うわっ!!」

あまりにもの唐突な登場に櫂が思わず悲鳴を上げると、

「もっ申し訳ありませんっ」

と言う言葉と共に目の前のネコのヌイグルミが退けられると、

あの黒スーツ姿の女性・サヤが櫂達の前に姿を見せた。

「あぁ驚いた。

 あっ、香奈からヌイグルミを持ってきたんだ、
 
 良くあいつはこれを手放したな」

サヤが持つヌイグルミを見ながら櫂はそう尋ねると、

「はぁ、最初はちょっと困惑していましたが、

 でも、事情を話すと快く渡してくれました」

と櫂の質問にサヤは答えた。

すると、

「何か約束をさせられなかった?

 例えば、代わりのヌイグルミをよこせとか」

そう櫂が探りを入れると、

「えぇ…まぁ」

どこか奥歯に物が挟まったような返事をサヤはした。

「やっぱりなぁ…

 全く…

 捨ててあったヌイグルミを利用して新品を手に入れるとは…
 
 あいつめ…」

櫂は抜け目のない香奈の行動に思わずほくそ笑むと、

「で…これが話のあった”特異点”なのか?」

と改めてヌイグルミを眺めた。

「別に変わったところは無いけどねぇ…」

同じようにヌイグルミを眺める真奈美がそう言うと、

「シリアルさんにはいま連絡を入れました。

 間もなくこちらに到着するそうです」

と乙姫は櫂に告げた。

「そうですか…

 まぁ、これが本当に”特異点”なら文句は無いんだけど…

 それにしても見れば見るほど、

 ただのヌイグルミだよなぁ…

 これの何処にこの世界を救う鍵となる”特異点”がついているのか…」

とヌイグルミを眺めながら櫂はそう言っていると、

「え?」

突然、何かに気づいたのか、

モソモソ

っと櫂は胸の中に手を入れると胸元から竜玉を取りだした。

すると、

ィーーーーーン!!

櫂の竜玉が淡く輝いていた。

「これは…」

竜玉の反応に櫂が驚いていると、

「あっあたしも…」

真奈美が声を上げると、

同じように光り輝いている竜玉を取りだした。

「どうやら、ビンゴってもののようですね」

竜玉の様子をみながら姫子(乙姫)がそう言うと、

「じゃぁやっぱり、

 このヌイグルミが”特異点”だったのか…」

と櫂は感心しながらヌイグルミを眺めた。



「おいっ」

「あぁ…」

そんな櫂達の様子を校舎の屋上から見ている男達がいた。

そう、猿島忍軍の見猿・言猿・聞猿である。

「やはり、さっきの行動は我々の様子を見る為だったのか、

 くっそぉ

 可愛い顔をしてやることがえげつないぜ」

と櫂の姿を見ながら悔しそうに言猿が呟くと、

「ばーか…

 これくらいのこと、忍なら当然だろうが」

コツンッ!

言猿の頭を叩きながら見猿がそう言うと、

「で、どうする?

 いま奪回に行くか?」

聞猿が尋ねた。

すると、

「そーだなぁ…

 ただ、ここは学校だから迂闊に騒動を起こすと我々の行動が制限される。

 取りあえず連中が完全に孤立するまで監視を怠らないことだな」

と見猿はそう提案をすると、

「おっけー」

言猿、見猿は聞猿の意見に従った。



「なぁ、伊織…じゃなかった、

 進藤こっちに来ているか?」

昼休み、

早川真央が水姫達の前に姿を見せるとそう尋ねてきた。

「いや…

 来ていないけど」

真央の質問に顔を上げた海人がそう返事をすると、

「そうか…」

真央はそう言いながら頭をポリポリと掻く、

「?

 どうかしたのか?」

そんな真央の様子を見ながら海人が理由を尋ねると、

「いや…

 アイツ…きょうなんか変なんだよなぁ…」

と言いながら真央はグルリと視線を泳がせた。

「変?」

真央の言葉に水姫が聞き返すと、

「うん…

 なんて言うか、

 俺のことをまるで他人の様な目で見てさ」

と呟くと、

「ねぇ…

 そういえば今朝、

 進藤さん、
 
 あたし達のこと知らないような素振りをしたわよね」

と水姫が海人に話しかけた。

「本当か?それ?」

水姫の言葉に真央が身を乗り出して尋ねると、

「うん、まぁな…

 なんか、初めてあったような素振りをしたよなぁ」

と頭の後ろに手を組みながら海人はそう返事をする。

すると、

「う〜ん…」

真央は口に拳を当てると考え込んでしまった。

「まぁ、いろいろあったから、

 ひょっとしたらストレスが原因の記憶喪失に掛かっているかもよ」

そんな真央を見ながら海人がそう言うと、

「え゛っ、まさか!!」

その言葉を聞いた真央は驚いた顔をする。

「海人っ!!」

それを見た水姫がすかさず窘める後、

「でも、何となく判る気も…

 あぁ進藤さんの心の話ね、

 確かにいろいろあったし、

 ひょっとして早川君に甘えたいんじゃないのかな?

 ほらっ、

 彼女って結構芯の強いところがあるじゃない。

 だから自分のプライドが早川君に甘えることを許さないんじゃないかな?

 で、その板挟みになっちゃって…」

と水姫が説明をすると、

「そっそうかなぁ…」

真央は鼻の頭を掻きながらそう返事をした。

「放課後、進藤さんを誘ってみたら、

 いま彼女に必要なのは真央君の気持ちなのよ」

真央のその様子に水姫はそうアドバイスをすると、

彼の胸をポンと叩いた。



「なかなか来ないな、シリアル…」

猿島忍軍に監視されているなんて事は知らない櫂達は、

そういながらじっとシリアルの到着を待っていた。

すると、

「ヌイグルミが手に入ったって本当ですかぁ〜っ」

の叫び声と共にシリアルが水無月高校に駆け込んできた。

ぜはぁぜはぁ

全力疾走をしてきた為か肩で息をしているシリアルに

「はいっ、

 これのことだろう?」

と言いながら櫂がヌイグルミをシリアルに見せると、

うるうるうる…

それを見たシリアルは

突然、目を潤ませると、

「そーです!!

 これですこれです!!

 間違いなく真織さんのヌイグルミですぅぅぅ!!」

と泣き叫びながらヌイグルミにしがみついた。

その途端。

ガサッ!!

何か紙のような音がヌイグルミの中から響き渡った。

「え?」

「?」

全員の目がヌイグルミに注がれる。

「なんだ?」

不審そうな表情をしながら櫂がシリアルをヌイグルミから引き剥がすと、

ユサユサ

と上下に振った。

すると、

ガサッ

ガサッ

紙で出来た何かがヌイグルミの中で上下に動きはじめた音が響く。

「あれ?中に何かが入っている…」

それを聞いた櫂はそう呟きながら、

ヌイグルミに作りつけられているポケットに手を突っ込んで漁ってみると、

ガサッ…

と言う音と共に分厚い封筒がヌイグルミの中から出てきた。

「なんだこれは?」

不思議そうに櫂が封筒を眺めていると、

「まずい!!」

「資料を見つけられてしまった!!」

その様子を屋上から見守っていた言猿たちは思わずそう叫ぶと、

「行くぞ!!」

「おうっ」

と言うかけ声と共に

フッ

と彼らの姿は屋上から消えてしまった。



「なんだこれは?」

ガサッ

櫂はヌイグルミから出てきた封筒を不思議そうに眺めていると、

「大人しくその封筒を渡して貰おうか…」

突然響いたその声と共に、

スッ

清掃作業服姿の言猿達3人が櫂達を取り囲むようにして姿を現した。

「何奴!!」

すかさずサヤが姫子(乙姫)を庇いながら叫ぶと、

「姫様っ」

ズザザザザザザ…

物陰に潜んでいたサヤの同僚達も飛び出し、

瞬く間に姫子(乙姫)周囲をガッチリとガードした。

「なんだなんだ?」

事態の異変にシリアルが驚いていると、

「あっ

 おじさん達…

 朝、不燃物の片づけをしていた人たちだ…」

と櫂は言猿達を指さしてそう言った。

すると、

「ふふっ、おじさんとはご挨拶だな…」

言猿はそう呟くと、

「ある時は清掃作業員!

 またあるときは、メガネっ娘のメイド

 そしてその実体は!!」

と叫びながら

作業着の上着を放り投げると、

「猿島忍軍・見猿!」

「聞猿!」

「言猿!」

「参上!!」

と叫びながら忍装束に変身した言猿達が櫂達の前に立ちはだかった。

「おーパチパチパチ!!」

その様子を見ながら櫂が拍手をすると、

「で、放映時間は何時?」

と聞き返した。

その途端、

「ぶわっかもぉぉぉん!!

 我々はナントカレンジャーとか言う子供だまし番組とは一切無関係だ!!」

と言猿が思いっきり叫ぶと、

「(コホン)一応、念のためにひとこと付け加えて置くが、

 その番組は我がグループ企業・猿島トーイが提供しておる。

 まぁこれを言っておかないと、営業の方が何かとうるさいからな」

と企業戦士の一端をのぞかせたが、

しかし、

「さて、昨夜はちょいとミスを犯してしまったが、

 ふふ、今度はそうはいかないぞ、

 さぁ、大人しくその資料を我々によこせ」

と櫂に向かって迫った。

「資料?

 あぁこれか?

 イヤだと言ったら」

言猿達を睨み付けながら櫂がそう言うと、

「ふふ、

 なるほど…

 流石は猫柳のくノ一、

 一筋縄ではいかないという訳か、

 ならば実力で奪うのみ!!

 かかれ!!」

と言猿たちは叫ぶと、

一斉に櫂に飛びかかったが、

「なっ(ひらり)」

櫂は巧みに言猿達の腕の中からすり抜けると、

「竜宮ってどういうことだ?」

と聞き返した。

すると、

「なんだと?

 なるほど、

 そうやって我々から我々が握っている情報の規模を聞き出そうというのか、

 随分となめたマネをしてくれるじゃないか、

 はは、いいかっ
 
 お前達も竜宮に押し掛け、

 そこに居る人魚の女王、乙姫を捕まえるつもりなんだろうが!!

 だがなぁ…

 そうはさせないぞ!!
 
 乙姫を捕まえるのは我々、この猿島だ!!」

言猿は自分を指さしながら声高にそう叫んで、

シュン

櫂の懐に飛び込むなり、

その鳩尾に強烈な一発を食らわせようとした途端、

パシッ!!

グイッ!!

言猿の腕をサヤが弾くと逆に掴み上げてしまった。

「なにっ?

 バカなっ
 
 俺の早さについてこれるだなんて」

腕を捻り上げられながら言猿が驚くと、

「早さだと?

 何を寝ぼけたことを…」

表情一つ変えずサヤがそう言うと、

ドンッ

と言猿を突き飛ばした。

「大丈夫か?」

たちまち突き飛ばされた言猿の所に聞猿と見猿が集まると、

「櫂っ!!」

真奈美がすぐに櫂の元へ駆けつけていていった。

「大丈夫?」

「あぁ、大したことはないよ」

心配そうに見る真奈美に櫂はそう返事をすると、

「危ないから真奈美は下がって…」

と真奈美に告げた。



ゴロゴロゴロ…

ズズズズン…

雷鳴が櫂達の真上から鳴り響き渡る。



櫂達と猿島忍軍とのド突き合いが始まったのと同じ頃、

ズシャッ

ゾロゾロ…

トレンチコート姿の魚組の面々が水無月高校の裏門付近に集結をすると、

『ジラ様より、命令が下った。

 素早く乙姫を奪った後、
 
 ジラ様の元に集合!!
 
 以上だ』

隊長らしき人物がそう告げると、

コクリ…

全員が頷いた。

そして同じ時刻、

「出航!!」

泰三の鶴の一声と共に

ついにシーキャットが和歌山の秘密ドックから出航していった。

「ふふふふふ…

 紀伊水道を抜ければ太平洋だ…

 待っていろよ人魚共!!」

そう呟き、ほくそ笑む泰三の背後で、

「はぁ…」

っとため息を吐き青い顔をした青柳が立っていた。



また北の方では、

「そうか、シーキャットが出航したか…」

シーキャット出航の連絡を受けた忠義はそう呟くと、

「準備を急がせろ、

 それと、奥様に連絡、

 百日紅は出航準備が整い次第出航する!

 以上だ。」

と言うと腰を上げた。

そして、

「よいか、

 猫に先を越されるのではないぞ、
 
 急げ、急ぐのだ!!」

と声を張り上げた。

ついに乙姫を巡る陰謀の歯車が大きく動きはじめた。



つづく


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