風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第20話:真織のヌイグルミ】

作・風祭玲

Vol.339





「では、わたしは仕事があるので、

 あとのことは頼んだぞ、

 一応、3日間と言う時間はあるが、

 出来るだけ早く”特異点”を見つけ出して欲しい」

アーリーは姫子達にそう言い残すと、

バサッ!!

純白の羽根を羽ばたかせて天空へとのぼっていった。

「やれやれ…

 これじゃぁ藍姫の櫛探しは当分お預けだなぁ…」

アーリーが去っていった空を見上げながら櫂がそう呟くと、

「まだ、そんなこと言ってる…

 それよりも早く人間の姿に戻らないと」

ピチッ

尾鰭を地面に叩きながら真奈美が声を上げた。

「あっそうだった」

真奈美の指摘に櫂が慌てて人間に戻ろうとしたとき、

スッ

突如、櫂と真奈美の姿が人間へと変化し始めた。

「え?」

変身が自分の意志でないことに真奈美が驚くと、

「そうか、

 アーリーさんの力で無理矢理変身させられたから、

 そのせいじゃないか?」

と変身していく櫂はそう説明する。

「なるほどね…」

人間の姿に戻った真奈美はそう感心していると、

「どうも、ぼく達のことでお手数をかけてしまい申し訳ありません…」

そんな二人を横目で見ながらシリアルは姫子達に頭を下げた。

すると、

「いいのですよ…

 困ったときはお互い様ですし、

 私たちも無縁ではないでしょうから」

と姫子(乙姫)はシリアルの頭を撫でながらそう言う。

「で、”特異点”というのはどういうものなんだ?

 アーリーさんの説明ではいまひとつよく判らないんだけど…」

真奈美に続いて人間の姿に戻った櫂がシリアルにそう尋ねると、

「え?

 あっ…

 そうですね、

 コホン」

シリアルは咳払いをして、

「一口に”特異点”と言っても、

 それは常に姿形がある物ではなくて、

 えぇっと…

 まぁなんて言いますか、

 そうだ、

 魔導というのを聞いたことがありますか?」

と逆に櫂達に質問をした。

「魔導?」

「魔導ですか?」

シリアルの質問に櫂と真奈美はそう言いながら顔を見合わせると、

「魔導というのはあたし達のこの竜玉の中に流れている力の事ですよ」

と姫子(乙姫)は櫂の胸を指さしながらそう説明をした。

「そうなんですか?」

姫子(乙姫)の説明に櫂が竜玉を取り出しながら聞き返すと、

「それは…

 あぁ…

 あなた方はキリーリンクをお持ちなのですね。」

櫂の竜玉を見たシリアルはそう言うと、

「まぁこの世界もそうなのですが、

 命がある世界には魔導と呼ばれるエネルギーの流れがありまして、

 その流れが循環していることで世界は成立しているのです。

 それが今回のように2つの世界がニアミスもしくは、

 衝突を起こした場合、

 双方の魔導の流れがお互いに干渉を起こして

 ある種の渦のような物が出来てしまうのです。

 それを天界では”特異点”と呼んでいまして、

 その”特異点”によって2つの世界が絡まっているのです。」

「絡ませる?」

「はいっ

 えぇっと言い方を変えますと、

 そうだ、

 あなた方、お二方の髪の毛が若干絡み合ってしまって、

 お互いを引っ張り合っている状態。

 とでも言いましょうか」

とシリアルが説明をすると、

「なるほど…」

ようやく納得をしたような表情で櫂は大きく頷くと、

「それで、超時空振動弾っていうのは?」

と次の質問をした。

「はいっ

 本来、絡み合った物は解せばいいのですが、

 ただ物質である髪とは違って、

 エネルギーである魔導は絡み合うとそのまま融合してしまいます。

 ですから、その特異点めがけてN2超時空振動弾を撃ち込み、

 それを破壊することによって強制的に魔導を切断をする。

 と言うわけです」

「なるほど…

 つまり、絡んだ髪を解すのではなく、

 鋏でバッサリと切ってしまうのか?」

シリアルの説明に櫂は頷きながらそう答えると、

「少々乱暴ですが…」

とシリアルは付け加えた。

「なるほどねぇ

 それで、”特異点”探しというわけね、

 でも、”特異点”ってどういう姿をしているの?」

じっと話を聞いていた真奈美がシリアルに尋ねると、

「先ほども申し上げたとおり、

 エネルギーである”特異点”には物質的な姿形と言うは存在しませんし、

 またエネルギーと言っても、

 魔導は直接的に物質に影響を及ぼして

 光や熱と言ったのも発生させたりすることはありません。」

とシリアルは答える。

「えぇ〜っ!

 じゃぁどうやって見つけだすのよぉ!!」

まるで、幽霊を捕まえろと言うかのようなシリアルの答えに真奈美が声を上げると、

「竜玉ですね…」

と黙ってシリアルの説明を聞いていた姫子(乙姫)が口を挟んだ。

「竜玉?」

姫子の言葉に櫂と真奈美が振り返ると、

「先ほど言いましたが、

 竜玉の中にも魔導が流れています。

 櫂さんや真奈美さんが人や人魚の姿に変身出来るのも、

 この魔導の力のお陰なのですよ」

と姫子(乙姫)は告げる。

「そうなのか…」

「知らなかった…」

姫子(乙姫)の説明に櫂と真奈美はそう呟くと、

「はいっ

 アーリー様もあなた方のその竜玉・キリーリンクを当てにしていると思います。

 それで、実を言いますと、

 さきほど”特異点”は物質ではない。と言いましたが、

 今回の場合、ある物質を伴っています」

とシリアルは今回の鍵となることを櫂達に言った。

「物質を?」

シリアルのその言葉に櫂が聞き返すと、

「えぇ、

 今回発生した”特異点”は

 真織さんのヌイグルミを引きずってこの世界に飛び込んできました。

 その原因は伊織がこの世界に落ちてきたときに、

 彼の心の底にある真織さんへの想いに”特異点”が反応し、

 その結果、真織さんのヌイグルミを引きずったものと思います」

とシリアルは答える。

「真織さんのヌイグルミ?

 伊織って?」

シリアルの口から飛び出してきた人物名に櫂が聞き返すと、

「え?、あぁすみません。

 真織さんと言うのは、

 ぼく達天界の者達が活動の拠点としている早川神社という神社の娘さんでして、

 伊織というのは、なんて言いますかその…

 僕と共に行動をしている人間のアルバイト天使とでも言いましょうか…

 まぁその辺を詳しく教えるとなると、

 ちょぉっと時間が掛かりますので…」

シリアルは困惑した表情をしながらそう答える。

「わかった…

 まぁその伊織という人のことは僕たちには関係が無いんだろう?

 今やらなくてはならないのは、
 
 その真織さんって人のヌイグルミを探し出す事だな、

 で、なにか特徴でもあるの?」

話の矛先を変えた櫂はシリアルに改めてヌイグルミの特徴を尋ねると、

「えぇっと…

 そうですねぇ
 
 大きさはぼくの3倍ほどあるネコの姿をしたヌイグルミです
 
 ほらこの写真に写っています」

とシリアルは答えると、

一枚の写真を櫂達に見せた。

そこには部屋の中で談笑している二人の少女の姿が映っていて、

そのうちの髪の長い少女の腕の中で抱きかかえられるようにして

一体のヌイグルミが写っていた。

「えっと、

 こっちのショートヘアが伊織で、

 その向かい側にいるのが真織さんです。

 で、この真織さんが抱きかかえているのが、

 ”特異点”が取り憑いているヌイグルミです」

とシリアルが写真の説明をすると、

「このヌイグルミか…

 随分大きなヌイグルミだなぁ…」

シリアルの説明に櫂は感心しながらそう言うと、

「あれ?

 このヌイグルミ…」

ふと、

櫂はけさ方不燃物置き場に置かれてあった特大のヌイグルミの事を思い出した。

そして、

「そう言えば乙姫様…

 今朝、香奈が見つけたネコのヌイグルミ、

 これに似ていませんか?」

と姫子(乙姫)に話しかけると、

「そうでしたわね…」

櫂に話しかけられた姫子(乙姫)はそう返事をしながら大きく頷いた。

「何かあったのですか?」

櫂と姫子の会話を聞いていたシリアルが尋ねると、

「いやっ

 このヌイグルミによく似たヤツをけさ見かけたんだけどね」

と櫂が答える。

「本当ですか!

 それ!!」

予想外の情報にドアップになってシリアルが櫂に迫ると、

「まっまぁ…

 ただ似ていただけで、

 本当に”特異点”かどうかは判らないけど…」

シリアルの迫力に櫂は押されながらそう返事をした。

そして、

「じゃぁ、ちょっと戻って確かめてみるか」

櫂はそう言うなり駅の方へと来た道を戻り始めると、

「ちょちょちょっと、櫂っ!!

 学校はどうするのよ!!」

と真奈美が声を上げた。

「緊急事態だ!

 休みだ休みぃぃ!」

櫂はそう言い残してスカートを翻しながら駅に向かって走って行ってしまった。

「もぅ!

 乙姫様、どうします?」

走っていく櫂の後ろ姿を見ながら真奈美が姫子(乙姫)に尋ねると、

「じゃぁ

 そう言うわけですので、

 サヤ、学校の方への連絡の方、

 よろしくお願いします。」

乙姫はいつの間にか姿を見せていた、

警護役の黒メガネ・黒スーツ姿の女性・サヤにそう告げると、

すぐに櫂の後を追って行ってしまった。

「畏まりました」

サヤはそう返事をしながら深々と頭を下げるのを横目で見ながら、

「乙姫様まで…

 どうなっても、知らないからね!!」

真奈美は文句を言うと、

「あっ待ってください」

と叫び声を上げるシリアルを従えて駅へと向かっていった。

そして、櫂達が去ったあと、

フッ

物陰から数人の同じ黒スーツを決めた女性達が出てくると、

「ふっ、

 やれやれだな…」

とサヤに声を掛けた。

「まぁ…これも仕事よ」

黒メガネを外したサヤはそう返事をすると、

「そうですね、

 今のところ海魔にはこれと言った動きはないですし」

「あたし達の役目は乙姫様に危害が及ばないように影となって見守ること…」

サヤを含めて女性達はそう言い合うと、

「それにしても上の方は大変そうですね…」

と言いながら天空に視線を上げた。

ゴロゴロゴロ!!

上空を覆い尽くした雲間から絶え間なく雷鳴が響き渡る。



「なにビクついているのよ、海人」

その頃…

天ヶ丘高校への登校途中、

水姫が妙にソワソワしている海人を横目にそう言うと、

「いっなっなんでもない」

やや上擦った声で海人は返事をした。

「まったく…」

その様子を呆れながら水姫が呟くと、

「あっ、乙姫様!!」

と声を上げた。

その途端、

「うわっ!!」

海人は叫び声を上げ、一目散に走り去ろうとした途端、

グッ!!

水姫の腕が海人の肩を掴むと、

「竜王たる者がなにビビっているのよっ」

と悪戯っぽく言った。

「なっ、

 騙したのか!!」

水姫に謀られたことに気づいた海人は思わず文句を言うと、

「騙される方が悪いのよ、

 乙姫ごときにびびっちゃって、情け無い」

そんな海人を水姫は軽蔑が混ざった視線で見ながらそう言う。

すると、

「あのなぁ…

 お前は関係ないから良いけど、

 乙姫にマジで掴まって見ろ、

 俺から自由というものが取り上げられてしまうんだぞ!!

 それどころか、

 来る日も来る日も一人の女に縛り付けられて、
 
 そんな…
 
 そんな地獄のような生活はゴメンだぁぁぁぁ!!」

水姫の態度にカチンと来た海人がそう訴えると、

「あら、でも、

 この間、乙姫の呪を受けたときの海人の表情は満更でもなかったけど…」

と水姫はすかさずそう言った。

「う゛っ」

痛いところを突かれた海人が返す言葉に詰まると、

「あれ?

 進藤さんじゃない?」

と水姫が先を歩く進藤伊織を見つけると指さした。

「あぁ本当だ…」

道を歩く伊織の姿に海人がそう言うと、

「進藤さぁーん」

と叫びながら水姫が駆け出していった。

ところが、

「えっと…誰でしたっけ?」

海人たちが駆け寄ったときの伊織からの開口一番出た言葉はその言葉だった。

「おっおいっ

 悪ふざけはやめてくれよ

 俺だ俺」

伊織の言葉を受けて海人がそう言うと、

何故か伊織は首を傾げた。

ちょうどその時、

キーンコーン!!

校舎の方から予鈴のチャイムが鳴り響くと、

「あっ」

伊織は小さく声を上げると、

「それじゃぁ…あのぅ何か人違いだと思うので」

と言い残すと走り去ってしまった。

「なんだ?」

「さぁ?」

「早川の奴となにか企んでいるのか?」

「ねぇ?」

海人と水姫は去っていく伊織を眺めながらしばしその場に立ちつくしていた。



「無いっ!!」

猫柳邸内に千帆の絶叫が響き渡る。

猿島忍軍との壮絶なバトルの後片づけがようやく終わり、

千帆は悪臭が残る執務室内で紛失物のチェックをしていたところだった。

「藤堂様っ

 なにか盗まれた物がありましたか?」

千帆の声を聞いて慌てて部下が駆けつけてくると、

「そんな…

 リムルからの…あの竜宮の資料が…」

頭を抱えながら千帆はそう呟くと、

「追え…

 今すぐ、猿島の忍者を追うのだ!!

 奴らは我々から第一級の情報を盗み出していったぞ!!」

と叫び声を上げた。

「かっ畏まりました!!」

千帆の逆鱗に驚いた部下達はそう言うなり一斉に散って行く。

そして、部下の後ろ姿を見ながら、

「なんて事…

 よりによってあの情報を盗まれるとは…

 くっそう、くのぉぅっ!!」

千帆は悔しさをぶつけるかのようにして、

ガシッ!!

執務室のテーブルに手を掛けると、

それを軽々と持ち上げ、

そのまま崩壊し掛かった壁に向けて放り投げてしまった。

ズガン!!

ガラガラガラ!!

大音響と共に再び壁が崩れ落ちていく、

「はーはー

 こうなったら、

 猿共が竜宮に押し掛けてくる前に乙姫を我が手中に手に入れ、

 交換条件で竜玉を…

 ふふふふふふ…

 魚組はおるか!!」

想定外のことで事実上追いつめられてしまった千帆は

ついに、あることを決心すると声を張り上げた。



「おいっ、言猿っ、

 何でそのことを早く知らせなかったんだ!」

同じ時間、

キンコロカンコロ…

猿島忍軍の言猿・聞猿・見猿の3名は清掃職員の姿に化け、

オルゴールを鳴らしながら走るゴミ収集車を運転していた。

「いやぁスマン、

 つい忘れてしまって」

そう言いながら頭を掻く言猿に

「全く、

 余計な手間をとらせおって」

とハンドルを握る聞猿は文句を言うと、

「はははは…

 言猿一世一代のミスだな」

一番端に座っていた屈強の見猿が笑い飛ばした。

「笑い事ではないぞ!

 あれだけ苦労をして奪った資料を紛失したとあっては

 幻光様になんて申し開けばいいのだ?」

「まーま、

 だからこうして回収に向かって居るんだろう?

 でも、ヌイグルミの中に隠すとは言猿っ

 お前もなかなかだよなぁ」

「そうかぁ?」

「なに、脳天気なの事を言っているんだ、

 もしも、我々よりも先に猫が奪い返したらどうなるというのだ」

見猿と言猿との台詞を聞いた聞猿が思わず怒鳴り声を上げると、

「おっあそこだ!!」

バツの悪そうな顔をしていた言猿が真っ先に集積所を見つけると声を上げた。



「なぁっ、

 これをほじくり出すのか?」

「いやぁ昨夜は何もなかったのだが」

「はー」

ごちゃっ!!

文字通り不燃物が山積みになった集積場を目の前にして

言猿たちが呆然と眺めた後、

「まったく…

 この不況下なのによくもまぁこんなにゴミが出せるもんだ」

「少しは片付ける身にもなってもらいたいよなぁ」

と言いながら言猿と見猿がため息を付くと、

「おいっ、

 何をぼやっってしているっ

 仕事だ仕事!!」

と言いながら聞猿が不燃物を一つ一つ拾い上げると収集車へと放り込み始めた。

グォォォォン!!

ガッコン

バリバリバリ

収集車がうなり声を上げながら不燃物をかみ砕き、

そしてコンテナ部に押し込んでいく、

「はー…

 なんで、こんな事をしなくてはならないんだ」

汗だくになりながら見猿がぼやき始めると、

「言猿が資料を隠したヌイグルミを見つけるまでだ、

 大体お前はこれくらい苦じゃないだろう」

と呆れながら聞猿が言うと、

「ふっ

 聞猿っ

 俺はなぁ…

 こぉんな肉体労働よりメイドのような仕事の方が似合っているのさ」

見猿はおさげの髪を両手で持ち上げながら叫んだ。

「あー、そうかそうか、

 まぁそんな冗談を言う余裕があるのならそっちの山を頼むぞ」

見猿の台詞には耳を貸さずに聞猿はそう指示をすると、

言猿と共には正面の山と格闘し始めた。

やがて、

3人掛かりの作業の結果ようやく不燃物の山が消えたとき、

「おいっ、

 言猿っ

 本当にココにおいたのか?」

とグッタリとしている見猿をよそに聞猿が尋ねると、

「そんな…」

唖然としながら言猿が呟いた。

そう、

目の前の集積場からはすっかりゴミの山は消えたが、

しかし、どこにも言猿が置いたはずのネコのヌイグルミの姿は無かった。

「おぃっ

 どうなって居るんだ?」

聞猿と見猿の視線が言猿に注がれる。



それより少し前、

「よーしっ

 まずはあの不燃物置き場から行ってみるか、

 香奈のヤツがあとで戻したかも知れないし」

そう言いながら制服姿の櫂が駅から出てくると、

「そうですね」

その櫂の後を笑みを浮かべながらついていく姫子(乙姫)に、

「ここに真織さんのヌイグルミが落ちたのか?」

と言いながらキョロキョロと周囲を伺うシリアル、

そして、

「学校、サボっちゃったけど、いっ良いのかなぁ…」

やや後ろめたさを感じつつついてくる真奈美と、

4者4様の表情をしながら続いて駅から出来た。

「で、乙姫様…

 さっき竜玉で”特異点”を探せる。
 
 って言いましたが、

 何か明確な反応があるのですか?

 朝、ヌイグルミを見たとき何も感じませんでしたが」

歩きながら櫂が姫子(乙姫)にそう尋ねると、

「そうですね

 わたしもそれを考えていた所です」

と姫子は考える素振りをしながら答えた。

「えぇ…じゃぁ違うんですかぁ!!」

櫂と姫子(乙姫)とのやり取りを聞いていたシリアルが声を上げると、

「まーま

 確認をすれば済むことだよ」

と櫂はそう言うと視線を元に戻した。

すると、

ゴゥゥゥン…

集積場の脇にはエンジン音を響かせた収集車が止まり、

3人の職員が何やら話している様子が櫂の目に飛び込んできた。

「え?、

 もぅ収集車が来たの!!」

それを見た櫂は思わず焦ると、

「すみませーん」

と声を上げながら、

集積場を前にしている職員、そう言猿達へと近づいていった。

「ん?」

突然響いた少女の声に言猿達が振り返ると、

タッタッタッ

セーラー服姿の少女・櫂が自分たちの方へと駆け寄ってきた。

「おいっ、

 女の子だっ」

「なっなんだ?」

予想外のことに言猿達は混乱すると、

「あのぅ…」

と櫂は言猿たちに話しかけてきた。

「なっ何かな?」

誰が応対に出るのかちょっとした小競り合いを繰り広げた後に

言猿が引きつった笑顔をしながら返事をすると、

「ここに、ネコのヌイグルミがありませんでしか?

 一抱えほどあるヤツなのですが」

と櫂は腕でその大きさを示しながら言猿に尋ねた。

「なにっ!!」

櫂のその言葉に言猿たちの表情はたちまち凍り付いく。

「(なんでだ)」

「(どうして、この少女がヌイグルミの事を知っているんだ?)」

聞猿と見猿は櫂を見ながら即座にそう思うと、

「いっいやぁ…

 いま片付けたばかりなのだが…

 そんなヌイグルミは…

 うん無かったよ」

言葉に詰まりながらも言猿がそう返事をした。

すると、

「さては香奈のヤツ…持っていったな…」

言猿の返事に櫂はそう呟くと、

「あっありがとうございました」

と返事をするなり言猿達の元から去って行った。

「おいっ」

「どうする?」

「決まっているだろう、

 あの娘はひょっとしたら”猫”の間者かも知れない」

「そうか、先にヌイグルミを回収した後、

 我々の動向を探っているのか?」

「なるほど、くノ一か…」

言猿達は櫂を猫柳の手の者を判断すると、

バッ

っと即座に収集車に乗り込んだ。



「無かったってさ」

姫子達の所に戻った櫂がそう報告をすると、

「じゃぁ、香奈さんが持って行かれたのですね」

と姫子(乙姫)は呟いた。

「まったく、

 あいつも落ちていたヌイグルミを本気で拾っていくこともないのに…」

香奈の行動を櫂は呆れながらそう言うと、

「まぁまぁ、櫂さん、

 香奈さんが”特異点”を保護したと思えばいいのですよ、

 で、どうします?

 香奈さんの所に向かいますか?」

「そうだなぁ…

 ココにいても仕方がないし

 行ってみるか…」

姫子(乙姫)の問いに櫂はそう答えると、

「姫様…

 それでしたら、私が参りましょうか、

 香奈さんの学校の場所は把握していますし、

 また、受け渡しも怪しまれずに済みます」

いつの間にか姿を現した黒スーツの女性・サヤが姫子(乙姫)に声を掛けてきた。

「(げっ何時の間に…)」

いきなり姿を見せたサヤに櫂が驚いていると、

「そうですね…

 じゃぁそうして貰いましょうか?

 櫂さんは如何です?」

姫子(乙姫)はそう言いながら櫂の意見を求めた。

「うっうん…

 まぁ…
 
 シリアルがそれで構わないのなら、
 
 僕は構わないけど…」

意見を求められた櫂はシリアルの方を見ながらそう言うと、

「え?」

シリアルは一瞬驚くと、

「そっそれは、あなた方の判断に任せます」

と言う。

「じゃぁ、決まりですね。

 済みませんが香奈さんの件、

 よろしくお願いします。

 さっ

 ちょっと遅れてしまいましたが学校に行きましょう」

と姫子はそう言うと駅へと向かって歩き始めた。



「おいっ、

 あの娘っ

 駅へ向かっていったぞ」

「電車か?

 どうする?」

駅へと向かい始めた櫂達の様子に言猿たちはそう言い合うと、

「よしっ

 俺が尾行する…

 お前達は外から追いかけろ」

聞猿がそう言うなり収集車から降りると、

櫂達から距離を開けて尾行を始めた。



ゴロゴロゴロ…

ズズズズズン…


雷鳴と稲光が空を駆け抜けていく。




つづく


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