風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第19話:天使のお手伝い】

作・風祭玲

Vol.338





さて、時計の針を少し巻き戻してその日の夕方、

キーンコーン!!

校内に放課後を告げるチャイムが響き渡ると、

校内の張りつめていた空気が一気に和らぎ、

放課後独特の開放感に包まれていった。

すると、

「ちょっと、それこっちじゃない?」

「違います。

 そのパーツはこれと断面が一致します。」

「そうかなぁ…

 あたしはこっちだと思うんだけど」

教室に居残っているシシル達が瞬間接着剤を片手にやいのやいのと騒ぎながら

その日の朝、廃工場の傍で拾ってきた釣り竿の破片を組み合わせていた。

「あら?

 さっさと帰らないで、なにやってんのあんた達?」

そのとき教室の傍を通りかかったミールがシシル達に気づくと声を掛けてきた。

「あっミールか…」

「何よその言いぐさは?

 ん?、

 なにそれ?」

「えへへ…

 まぁちょっとね」

ミールの指摘にそうシシルが答えると、

「釣り竿?」

そう言いながらミールは接着剤が固まったばかりの釣り竿を持ち上げた。

「あっミール勝手に持たないでよっ

 折れたらどうするの!!」

そう言いながらシシルがミールから釣り竿を奪い取ると、

慎重に机の上に置いた。

「あらあら…

 夢中になるのはいいけど、

 ちゃんと今日の食事当番サボらないでよね」

呆れながらミールがそう言うと、

「え?、今日の食事当番はリムルじゃないの?」

とルシェルが声を上げた。

すると、

「あぁリムルはパスさせてくれって、

 今日ある人に手渡す資料作りに根を詰めていたから

 帰ったらずっと寝るってさ」

そうミールが告げると、

「えぇ!!

 そんなのズルイよ!!」

とシシルが声を上げた。

「文句を言わないっ!!

 リムルはあたし達アトランの為に仕事をして居るんだから、

 文句があるんだったらリムルのような仕事をして言いなさい」

とミールはキッパリと言い切った。

「確かに、ミールの言う通りだよね」

「矛盾はしません」

ミールの台詞にルシェルとサルサは大きく頷いた。

「こらぁ!!

 裏切り者!!」

ミールに同調した二人にシシルはそう怒鳴ると、

「と、言うわけで、

 今夜の当番、よ・ろ・し・く・ね」

ミールはそう言いながら教室から出ていってしまった。

「ぶーっ」

ミールの後ろ姿を見ながら膨れっ面をするシシルに、

「じゃぁ帰りましょうか?」

「そうですね」

ルシェルとサルサはそう言って、

机の上に広げていた破片を紙袋に入れると腰を上げた。

そして、とっぷりと日が落ちると…

薄暗くなった教室の中で、

ボゥ…

シシルの机の下に置かれた紙袋が微かに光り輝くと、

ピシッ!

ピシピシッ!!

袋の中でシシル達の手によって汲み上げられた黒潮丸の破片が

お互いに癒着し始めると次第に一体化していく。



「ただいま戻りました」

水城家に姫子(乙姫)の声が響き渡ると、

「あっ乙姫様っ

 どうでした?」

出迎えた櫂は姫子の姿を見るなりそう尋ねた。

すると、

姫子(乙姫)は首を横に振って、

「竜宮の中を探してみたのですが、

 あのときマナより預かった筈の櫛がどうしても見つからないのです」

と告げた。

「そんな…

 それって…無くなったと言うことですか?」

姫子(乙姫)の言葉に愕然としながら櫂が聞き返すと、

「紛失と言うことは管理上あり得ませんし…

 盗まれたと結論づけるのは少々無理があります」

そう姫子(乙姫)が答える。

「う〜ん…

 真奈美はそんなの知らないと言っているし…
 
 僕の記憶違いとも言えないしなぁ…」

そう言いながら櫂が首を捻ると、

「えぇ…わたくしもハッキリを覚えています…

 ただ…

 櫛に宿っていた思念を鎮めるために安置していた所を幾ら探しても

 何処にも無いのです…

 まるで消え失せてしまったかのように…」

「………とっとにかく今度の満月の時に僕も一緒に探してみます。

 えっと、

 その場所って僕も入れるのでしょう?」

そう櫂が姫子(乙姫)に尋ねると、

「はぁ…一応は…」

それに答える姫子(乙姫)の答えはどこか歯切れが悪かった。



そして迎えた深夜…

モクモクモク…

さっきまで星空だった夜空が沸き上がってきた黒雲に覆い尽くされると、

カッ!!

ゴロゴロゴロ!!

ズズズズーーーン!!

夜空いっぱいに稲光の光と共に雷鳴がとどろき始めた。

「んな?

 雷?」

雷鳴に眠りを妨げられた櫂は寝ぼけ眼でカーテンをそっと開けると、

カッ!!!

夜空を切り裂くように走った青白い閃光が

部屋の中を真昼のように照らし出しだすのと同時に、

ガラガラガラ!!!

ドドォォォォン!!

頭の上から降り注ぐようにして雷鳴が鳴り響いた。

「うわっ」

光と音の攻撃に面食らった櫂は反射的に布団の中に潜り込む、

そして、

「すっげーっ

 稲光…マジで見たぁ」

と心臓をドキドキさせながらそう呟いていると、

再び、

ガラガラガラガラ!!

ドドーーン!!

と雷鳴が鳴り響いた。

「なんなんだよ…

 真夜中に雷だなんて」

そう言いながら櫂は布団の中で耳を塞いだ。



「おはようございます」

「おはよー」

翌朝、

起きてきた櫂の姿を見て一同は思わず驚いた。

「どっどうしたんですか?」

思わず姫子(乙姫)が尋ねると、

「いや…雷がねぇ…お陰で全然眠れなかった…」

と言いながら櫂が上を指さすと、

ガラガラガラガラ

ドドォォォォォォォン!!

と雷鳴が鳴り響いた。

「あぁ…

 夜中から五月蠅かったけど、
 
 でも、眠れないくらいだっけ?」

上を眺めながら香奈はそう言うと、

「はは…香奈は図太いからなぁ…」

櫂はそう言って席に着いた。

すると、

「図太くって悪かったわねぇ!!」

櫂の言葉に香奈はそう文句を言うとプイッと横を向きながら席に着くと、

「でも…確かにこの雷は変ですね…」

そんな二人のやり取りを眺めながら姫子(乙姫)がそう呟きながら、

「何かが迫ってきているみたいなそんな感じがします」

と続けた。

「変って…竜宮が何か関係しているんですか?」

出されたホットミルクに口を付けながら櫂が尋ねると、

「いえっ

 そうではなくて、竜宮と言うよりもっと大きな異変を感じます」

目を瞑りながら乙姫はそう告げた。



その頃、竜宮では…

『えぇ!!

 乙姫様…居ないんですかぁぁ!!』

竜宮の裏にある港に横付けされたウォルファより

降り立ったばかりのマーエ姫の悲鳴が鳴り響いた。

『マーエ姫様っ

 なんですかっ、そんな大声を上げて!』

すかさずエマンが注意をすると、

『だってぇ…』

マーエ姫は膨れっ面をする。

『とんだご無礼をしてしまい申し訳ございません』

そんなマーエ姫を横目で見ながらエマンは

出迎えに来た留守居役のシノにそう謝罪をすると、

『いえいえ

 そんなに気を使わなくても…

 本来でしたらこの場に乙姫様がいらしてなければならないのですが、

 乙姫様も色々と多忙でして、

 特に最近は竜宮を留守にすることが多く、
 
 まことに申し訳ございません。』

そういいながらシノが頭を下げた。

『いえっ

 こちらも本来でしたらもっと早く来る予定でしたが、

 次元航行の途中でトラブルにあってしまい、

 このような醜態を晒してしまうことに…

 それにしても、竜宮の主が留守にするとはよほどのこと…

 なにか、重大な問題でも起きているのでしょうか?

 もしも、よろしかったら我々もお手伝いさせて貰いますが…』

そうエマンが切り出すと、

『はぁ…あまり大きな声では言えませんが、

 地上の方で少々…』

シノは申し訳なさそうに小声でエマンにそう告げると、

『地上ですか?

 それはまた…

 どの様なことが起きているのでしょうか?』

『えぇ…

 まぁ、ちょっといろいろありまして…』

エマンの質問にシノは半分はぐらすかのような返事をした。

すると、

『エマン!!

 あたし、地上に行く!!』
 
とマーエ姫は声を上げた。

『マーエ姫様っ

 なにをおっしゃるのですかっ

 簡単に地上に行くと言っても、

 あなたはマーメヘイムの王女であさらされるのですよっ

 もっと自分の立場を弁えて行動をしてください』

エマンは強い口調でマーエ姫に警告をすると、

『あらっ

 地上と言っても

 すでに乙姫様は行かれているじゃないですかっ

 それにあたしだって、

 ついこの間、ラサランドスの人たちと仲良くしてきたでしょう。』

両脇に手を当てながら自慢げにマーエ姫はそうエマンに言う、

すると、

『ラサランドスと地球とでは違いますっ

 ラサランドスは”たまたま”我々に友好的な人たちだったから良かったのです。

 もしも、悪意を持っている人たちだったら、
 
 マーエ姫様の命はなかったのですよっ』

『五月蠅い五月蠅い!!

 あたしが行くと言ったら行くの!!』

マーエ姫の行動を抑止させようとするエマンにマーエ姫はそう怒鳴ると、

スイッ

っと飛び出していってしまった。

『なりませんっ、マーエ姫様っ』

その後を即座にエマンが追いかけて行く、

『やれやれ、

 エマン殿も大変だな…』

そんな二人の後ろ姿を見ながらシノがため息を付くと、

『シノ様…

 ちょっと…』

そう言いながらノンが飛び出してくると、

シノの手を引いた。

『どうした?』

『はいっ

 マーエ姫が竜宮にご到着したことを乙姫様に知らせようとしたのですが、

 どういう訳かお知らせすることが出来なくて…』

『なんと?』

『原因は分かりません…

 ただ、これと関係があるかは判りませんが、

 先ほど天界の方から第1級警戒警報が発せられ、

 もぅ間もなく地球の外周にAクラスの結界が張られるそうです。

 そして、それに会わせて竜宮は門を閉門するようにとの通達が来ました。』

『門を閉門とは穏やかではありませんね』

頷きながらシノが聞き返すと、

『はいっ

 ただ、天界の担当はハッキリとは言いませんでしたが、

 どうも地球と別の世界が接触をし始めているようです。』

そうノンが事情を説明をする。

『そうですか…

 困りましたね』

シノは困った表情をしながらしばし考えを巡らすと、

『いかしたがあるまい、

 天界に乙姫様が竜宮に不在であること伝えた後、

 門を閉門。

 乙姫様には天界の方から知らしてもらようにして貰いましょう』

と決断をした。

『はいっ、畏まりました』

シノの判断にノンは頭を下げると、

その場から去っていく。

『さて、

 厄介なことになりましたな』

シノはそう呟きながら乙姫が不在の玉座を眺めた。



「いってきまーす」

支度を終えた櫂と香奈、

そして乙姫こと湊姫子が家を出た。

ゴロゴロゴロ!!

空は相変わらず雲に覆われ、

雲間の所々から稲光の明滅が漏れる。

「それにしても本当に雨降らないのね

 こんなに雷が鳴っているのに…」

空を見上げながら香奈がそう呟くと、

「なんか朝からこんな天気だと鬱になるなぁ」

そう言いながら吊られるようにして櫂も空を眺めた。

とそのとき、

「あっあのヌイグルミかわいい!!」

と香奈が声を上げた。

「はぁ?」

香奈の声に櫂と姫子(乙姫)がその方向を向くと、

ポツリ…

一抱えほどもあるネコの姿をしたヌイグルミが一体、

不燃物置き場に置かれていた。

「おいおい、香奈ぁ

 そんなもの放っておけ」

ネコを抱きかかえた香奈に向かって櫂がそう声を上げると、

「いいじゃないっ

 全然汚れていないし、
 
 これ貰っちゃおうかな…」

と香奈はヌイグルミを抱きかかえながらそう言った。

「まったく…」

その姿に呆れながら櫂はそう呟くと、

「あっ、櫂さん…

 電車の時間が…」

腕時計を見ながら姫子(乙姫)はそう指摘すると、

「あっ急ぎましょう…」

櫂はそう返事をすると先を急いだ、

「それじゃ、櫂・お姉ちゃん!!

 今日も元気に女子高生、頑張ってきてねー」

駅前で香奈はそう言って手を振ると、

「あのなぁー…

 好きで女子高生を演じているわけじゃーねーぞ

 それと、そのヌイグルミはそこに返して置くんだ
 
 いいな…」

と櫂はそう言い残して走っていった。



「おはよー」

櫂が真奈美と出会ったのは学校へと続く通学路の途中だった。

「で、どうだった?

 藍姫について何か手掛かりはあった?」

櫂と合うなりそう真奈美が尋ねると、

「それがぜーんぜん」

と言いながら櫂は手を横に振った。

そして、それに合わせるようにして姫子(乙姫)も、

「昨日の夕方、竜宮に戻ってみたのですが…

 マナさんから預かった筈の櫛が何故か見つからなくて…」

と告げる。

すると、

「ほらっ

 あたしの言った通りじゃない。

 そんな櫛なんてあるわけ無いでしょう」

「そーかなぁ…

 いや…確かにあった!!」

なおも頑として櫂は櫛の存在にこだわると、

「じゃなによっ

 あたしがウソをついているとでも言うの?」

と真奈美が櫂に迫る。

「いやっ…

 真奈美がウソをついているなんて言っていないよっ

 だけど、昨日言っていたじゃないか、

 記憶があやふやになっているって…」

「そりゃぁ…そうだけど…

 じゃぁなんで、櫛が見つからないのよっ」

「そんなこと…あたしが知る分けないでしょう!!」

真奈美に問いつめられて櫂は思わずそう言い返すと、

「え?」

櫂はあることに気づくと慌てて口を閉じた。

「櫂…あなた…いま…あたしって言ったわよね…」

「………」

櫂が思わず口走ってしまったその言葉を

真奈美に指摘された櫂は顔を真っ赤にして俯く、

「これは、櫂さんが長い間女の子で居るために

 女の子の言葉遣いや振る舞いが

 徐々に染みこんできている証拠ですね」

そう姫子(乙姫)が指摘すると、

「とっとにかく、

 いっいまは一刻も早く藍姫のその櫛を探し出すことが先決ですよね…

 じゃななかった…先決だ(うん)!!」

忍び寄る女性化を振り切るようにして櫂がそう言うと、

「あれ?」

いつの間にか通学路から人の姿がかき消すようにして消えていた。

「そんな…

 さっきまであんなに居たのに…」

「どうなているんだ?」

まるでゴーストタウンに迷い込んでしまったかのような光景に

櫂と真奈美が困惑していると、

「人払いを掛けた

 久しぶりだな、乙姫」

突然、女性の声が空から響くと、

ブワッ!!

純白の羽を大きく広げ、

金色の髪に金の装飾をあしらった純白の衣装を身につけた

文字通り”天使”が空に浮かんでいた。

「まぁ…アーリー様…」

突然現れた天使・アーリーの姿に姫子(乙姫)は驚くことなく深々と頭を下げると、

「ふむ…」

スゥゥゥゥ…

アーリーは音もなく櫂達の前に着地すると姫子(乙姫)の所へと歩み寄った。

そして、

「いつもは竜宮の奥でジッとしているお前が

 陸にいるなんてどういう風の吹き回しだ?」

とアーリーは首を傾げながら姫子(乙姫)に尋ねると、

「えっとそれは…」

姫子(乙姫)は事情を説明しようと口を開いた。

すると、

「まぁいい…

 なにか事情があってのことなんだろう」

アーリーは片手を上げて姫子(乙姫)を制止させると、

「乙姫…お前の顔を見ただけで大分気が楽になった。」

とアーリーは安堵の表情をしながらそう続けた。

「はぁ?

 何か…あったのですか?」

アーリーの言葉に何かピンと来た姫子(乙姫)が訊ねると、

「まぁ…な」

途端にアーリーの表情が曇る。

ゴロゴロゴロ…

雲間が光ると雷鳴がとどろいた。

「…急がねばならんな…」

空を見上げながらアーリーがそう呟くと、

「…ねぇ…櫂っ、天使よ天使…」

「うん…まぁ人魚がこうして居るのだから天使が居ても…」

「…あの羽ってやっぱ本物なのかな?」

「そうじゃないか?」

「触ってみてもいいのかな?」

「え?

 そんなことをしたら怒られるよ」

「でも天使の羽根ってそう滅多に触れないし…

 それに乙姫様の知り合いみたいだから、
 
 いいんじゃない?」

「あぁちょっと真奈美…もぅっ」

櫂と真奈美はアーリーを指さしながらひそひそ声で囁き合った後に、

真奈美が恐る恐るアーリーに近づくと背中の羽をさわり始めた。

「うわぁぁぁ…

 本物の羽だぁ…」

「やわらかくってフカフカ…」

「……なんなんだ、此奴らは…」

ムッとした表情でアーリーが横目で二人を見ると、

「こっ、これ、カナにマナ…

 アーリー様に失礼なことをするのではありません」

姫子(乙姫)はちょっと困惑しながら二人に注意した。

そして、

「申し訳ありません、

 この者達はあたしの共の者でして…」

と乙姫はアーリーに向かって頭を下げると、

「…共の者?」

その言葉にアーリーはちょっと驚き、

スッ!!

二人の前に手をかざした。

すると、

ドン!!

軽い衝撃波が二人を直撃した。

キャッ!!

うわっ!!

櫂と真奈美は悲鳴を上げると、

「なるほど…確かに人魚だな」

アーリーは二人をシゲシゲと眺めるとそう返事をする。

「へ?」

「あっ!!」

アーリーの声に櫂と真奈美は自分の体を見て驚きの声を上げた。

ピチッ!!

いつの間にか二人の身体は人魚に変身していて宙に浮かんでいた。

「なにこれ?」

状況を飲み込めない櫂が声を上げる。

ヤレヤレと言う表情で姫子(乙姫)は二人を見た後、

「で、アーリー様がこちらに来られたと言うことは、

 何か天界であったのですか?」

と尋ねると、

「ふむ、そのことだが、

 実はいま天界で大騒ぎが起きていてな…」

と現在進行している重大事件を説明した。



その事件とは、

 櫂達が暮らすこの世界と別の世界がニアミスを起こし、

 そして双方に悪影響を及ぼしている。

と言う話だった。

「まぁ、世界と世界の衝突ですかぁ」

アーリーの説明に姫子(乙姫)が驚きの声を上げると、

「うむっ

 それで、けさほどからこの世界と別の世界とが接触をしている。

 天界の予測ではある程度は接近するものの、

 お互いが影響を及ぼすほどにはならない言うのであったのだが、

 残念ながらその予想は外れてしまった」

アーリーはため息混じりにそう言うと、

「…イグドラシルが計算違いを犯すだなんてするなんて…

 そんなコトってあるのですか?」

そう乙姫が聞き返した。

「…たまにはこういうこともあると、

 システム管理室からはそう言ってきている」

ヤレヤレと言う表情でアーリーが両腕を肩の高さにまで上げて言うと、

「それでだ、

 ココの時間で3日後の正午、

 天界は現在ニアミスを起こしている2つの世界を引き離すために、

 N2超時空振動弾と言う強力な爆弾を、

 ここと向こうの2つの世界の間に設けたポイントへ

 ココの時間で3日後の正午に打ち込むことを内々に決定した。」

と告げた。

「N2超時空振動弾?」

「強力な爆弾って?」

アーリーのその言葉を聞いて櫂と真奈美はお互いに顔を見合わせる。

「そこで、乙姫…

 一応、竜宮の方には万が一の事態に備え、

 3日後の夕刻までの間、

 門を閉門するように伝えて置いた。」

そうアーリーが乙姫に言うと、

「あっ、わざわざ、申し訳ありません」

姫子(乙姫)はそう答え、頭を下げた。

「(はぁ…パラレルもお前のようにすべてを任せられればどんなに楽か…)」

そんな姫子(乙姫)の姿を見ながらアーリーはそう呟くと大きくため息をついた。

「どうかなされました?」

アーリーの様子を見て姫子(乙姫)が訊ねると、

「あっいや、

 こっちの話だ

 そうだ、それと、一つ頼みがある…」

「なんでしょう?」

アーリーからの頼みに姫子(乙姫)がそう尋ねると、

「”特異点”を見つけてきて欲しい」

とアーリーは姫子(乙姫)に告げた。

「…特異点…ですか?」

「特異点って?」

「さぁ?」

アーリーの言葉に櫂達は首を傾げた。

すると、

「そうだ、

 特異点だ。

 実はつい先ほど衝突をしている向こうの世界から、

 こちらの世界に小規模な空間転移現象が発生した。

 …まぁ人が一人こっちに落ちてきてしまったのだが、

 それと同時に”特異点”と呼ばれる、

 今回の衝突の中心にあった物体がこの世界に飛び込んできている。

 もっとも、時空の歪みからこの世界に落ちてきたのは、

 ココの時間で6時間ほど前なのだがな」

そうアーリーが説明をすると、

「判りました。

 私たちの手でその特異点を探し出して置きます」

姫子(乙姫は)そうアーリーに答えた。

「そうか、

 すまぬな、

 本来なら私の仕事であり先頭を切って探しださなければならないのだが、

 色々とあってな…」

すまなそうにアーリーが言うと、

「いえいえ…

 アーリー様は天界で天使達を束ねられるお立場…

 何かとお忙しいかと存じ上げます。」

「かたじけないっ

 ただ、私も何もしないわけではない

 実は特異点探しに1人…

 いやっ1匹か…

 助っ人を連れた来た」

アーリーはそう言うと、

ピシッ

と指を鳴らした。

すると、

「わわわわわわ〜〜っ!!」

と言う声と共に一匹の黒猫が

突然、空中に姿を見せると姫子(乙姫)の前に落ちてきた。

スタッ!!

必死の思いで黒猫が着地すると、

「私の配下の者でシリアルと言う、

 特異点の素性はシリアルがよく知っているから、

 この者を頼ると良い。」

とアーリーが姫子(乙姫)に黒猫の素性を伝えると、

「え?

 あっどうも…

 アーリー様の配下でパラレルと言う見習い天使の監視役をしています

 シリアル・リンクを言います。

 短い間と思いますがよっよろしくお願いします。」

とシリアルは姫子(乙姫)や櫂達に挨拶をすると、

「で、アーリーさまっ

 いっ一応、

 パラレルの方に私がこっちに来ていることを知らせておきたいのですが…」

と伺いを立てると、

「パラレル・リンクには私の方から知らせておく、

 シリアル・リンク、

 お前は特異点探しに専念しろ。

 それと、

 イオ・リンクの事だが、

 ココの時間で2時間ほど前に落ちてきたことを確認した。

 作業の進捗状況を見てコンタクトを取れっ」

とアーリーはシリアルに告げた。

そんなアーリーとシリアルのやり取りを横目で見ながら、

「あのぅ…

 そのパラレルさんという天使の方はこちらには見えられないのですか?」

と櫂が尋ねると、

ピクッ

アーリーのこめかみが微かに動いたと思った途端、

「それはずぇったいに無い!!」

とアーリーは思いっきり力を込めて否定すると、

「…ただでさえこのクソ忙しい状況なのに、

 ココにあいつを呼んだら、

 私の仕事が天文学的に増えてしまうわっ」

と吐き捨てるように続けた。



「…なんか嫌われているみたいね

 …そのパラレルさんって人」

「みたいだな…」

そんなアーリーの姿を見ながら櫂と真奈美はそっと呟いていた。



つづく


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