風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第15話:竜玉の中の想い】

作・風祭玲

Vol.243





「猿…島…万…歳…」

真央の鉄拳を受け、忠義の身体が宙を舞っていた頃

ザザザザザザザ…っ!!

ヘッドライトを輝かせながら一台の乗用車が一軒の古びた民家の前に停車した。

「香奈をお産したとき以来だわ…」

乗用車から降り立った綾乃が民家を見ながら感慨深げに言うと、

「へぇぇぇ…潮見のお婆さんの家ってこういうトコだったの」

と興味深そうに香奈が言う。

それに続くようにして、櫂と乙姫が降りてくると、

「はぁ…」

と感心しながらグルリと周囲を眺めた。

ザザーン

近くに浜があるのか潮騒の音ともに磯の香りが周囲を包み込んでいた。

「さて」

最後に車から降りた恵之が先頭に立ち、

”潮見”と書かれた表札が掛かる玄関の前に立ったとたん、

カラカラ…

戸が独りでに開いた。

「ひぇぇぇぇぇ!!」

それを見た香奈が思わず飛び上がると、

「…そんなところで何をしておる、

 ワシに用があって来たのじゃろう」

と言う声と共に、

ボゥ

っと白い装束を身に纏い白髪を結い上げた一人の老婆が玄関の奥に姿を現した。

「でっでたぁぁぁぁ!!」

香奈は叫びながら綾乃にしがみついた。

「ふんっ、随分長う生きとるがまだ幽霊ではないぞ」

怯える香奈を見ながら老婆はそう言うと、

「潮見の婆様…その節は大変お世話になりました。」

そう言って綾乃が深々と頭を下げた。

「10…5年ぶり位かのう…」

潮見の婆様と呼ばれた老婆は顎をしゃくりながら何かを思い出すようにして呟くと、

「えぇ…この子が生まれた時以来でしたから…」

と言いながら綾乃は香奈に手を向ける。

「ほほほ…

 まぁ立ち話も何だからお入りなさい」

そう言って婆様が振り向こうとしたとき、

「ん?、あなた様は…」

櫂の隣に立っていた乙姫の存在に気づくと思わず振り返った。

「初めまして…

 潮見のお婆さん…」

婆様と目があった乙姫はニッコリと微笑むと頭を下げる。

すると婆様は細い目を大きく開くと、

「はぉ、これは…

 竜宮の姫君が直々に御出とは…」

と驚いた表情をすると乙姫は、

「あっ、あのぅ…

 別に竜宮で何かあったわけではありません。

 私の一存で陸に来ただけですので、

 どうぞお構いなく」

そう婆様に告げた。

「はぁ…

 まさか、ここで竜宮の主であられる乙姫殿に会えるとはのぅ」

婆様は乙姫の出現に驚きながらも一行を屋敷の中へと案内した。



ギシ

ギシ

灯明を持つ婆様を先頭に一行は家屋の奥へと案内されていく、

「うひゃぁぁぁぁぁ…電気来ていないんだ」

綾乃の後ろにぴったりとくっついて歩く香奈は

びくびくしながら視線を左右に振っていた。

婆様の家屋は表で見たときに感じた以上に広く、

一度はぐれると2度と表へは戻れない印象を与えていた。

婆様に連れられ櫂達が屋内をしばらく進むと、

突然、右手に土間が姿を現した。

「?」

香奈が不思議そうに土間をのぞき込むと、

土間の中央部には周囲を加工された石で囲われた長方形の池の様なものがあり

静かに水をたたえていた。

「なっなに?あれ?」

香奈が指さして訊ねると。

「う?、あぁ……あそこでお産をするのよ」

綾乃は素っ気なく説明をした。

「えぇ…あそこでぇ…」

驚きながら香奈が訊ねると、

「そうよ、香奈も櫂もあそこで生まれたのよ」

とケロリとした表情で綾乃は言う。

「ここが…僕の生まれた場所か…」

その説明を聞いていた櫂は感心しながら池を眺めていた。

「ほほほ…どうじゃな?

 自分がこの世に生を受けた場所を見るのは」

先を歩く婆様が笑いながら櫂達に告げた。

どうやら婆様は櫂達にこの部屋を見せようとして遠回りをしたようだった。

そして、ようやく客間の部屋に通されると、

婆様は部屋の隅に置いてある行灯に灯明の明かりを移した。

ボゥ…

部屋の中が行灯に照らされてぼんやりと浮かび上がる。

「まるで、時代劇みたい…」

部屋の様子に香奈はそう言いながら綾乃にぴったりとくっつくと、

「長う生きてきたせいか、

 ワシは電気というのが苦手でな…

 それにどうもアレは好かん」

婆様はそう言いながら座布団に座った。

「さて、丁度、お産を控えた者が居らなくてな…

 まぁ見ての通りだが、

 で、こんな夜更けにこの婆に何のようじゃ?

 3人目でも身ごもったか?」

早速婆様からそう尋ねられると、

「いやですわ…そんな…3人目だなんて…」

綾乃は思わず頬を赤らめた。

「ふむ…」

頷きながら婆様はチラリと一同に視線を送ると、

「はて?、

 ワシは男(お)の子と女(め)の子を一人ずつ取り上げたたハズじゃが…?」

と言いながら首を傾げた。

「あっ、実は今夜伺ったのは…」

綾乃がそう切り出した途端、

「………」

婆様は綾乃の行動を制止するようにおもむろに手を挙げると、

キッ

とキツイ視線で櫂を見つめ、

「なるほど…おぬしか…」

と言いながら櫂を指さした。

「はっはい?」

婆様に突然指さされた櫂が驚くと、

「竜玉をお出し、持っておるのだろう?」

と婆様は櫂に言う。

「え?えぇ?…」

婆様の言葉に櫂が困惑していると、

横でそれを見ていた綾乃が、

「櫂っ」

と促した。

「うっうん…」

綾乃に促されるようにして、

櫂は胸元より竜玉を取り出すと婆様に手渡した。

「ほぉ…っ」

婆様は手渡された竜玉を感心しながらシゲシゲと眺める。

「あっあのぅ…」

その様子を見た櫂が恐る恐る訊ねると、

「やれやれ…、

 そなたに力が備わるとはのぅ

 このワシも見抜けなかったわ…」

竜玉を眺めながら婆様は軽く笑うと、

「どれ…」

と言いながら、竜玉を左掌の上に置き、

そして右手を上から被せるようにして包み込むと、

「・・♪〜・・・・・・・」

っと歌い始めた。

「…これは…」

それを聞いた乙姫が驚いた顔をする。

「どうかなさったのですか?乙姫様」

彼女の驚いた様子に櫂が訊ねると、

「これは竜宮の呪文です。

 しかし、竜宮でも詠唱することが出来る者は居ないという高等な呪文です。

 私すらも唱えることは難しいものを…」

と感心しながら答えた。

「高等な…呪文?」

彼女の答えに櫂が首を捻ると、

「えぇ…特にこれは、竜玉に…」

乙姫がそう言ったとき、

「!!っ」

竜玉から何かを悟ったかのように婆様が驚くと、

パァァァァァァ…

突如、婆様の手にあった竜玉が光り輝き始めた。

「うわっ、なんだ?」

それを見た櫂は思わず声を上げる。

「・・・♪・・・・・・・」

しかし、婆様は詠唱を止めることなく更に続けると、

フォン!!!

っと竜玉から煙のような物体が立ち昇ると見る見る人の形へと変化し始めた。

「ゆっ幽霊?」

それを見ていた香奈が思わず綾乃にしがみつく。

「!!」

その一方で櫂は呆然としながらそれを眺めていた。

ふわぁぁぁぁぁぁぁぁ

竜玉から立ち上った煙はゆっくりと人の形を作っていくと、

やがて、気品のある長い髪を垂らした武家の姫君の姿へと変わっていった。

「…真奈美に似ている…」

その姫君を見た櫂がそう呟くと、

ほぼ同時に、

「櫂に似ているな…」

と恵之が言う。

「なっなんなのよっ…ゆっ幽霊なの!?」

怯えながら香奈が声を上げると、

「いいえ、これは亡霊の類ではありません」

姫様の姿を見ていた乙姫がきっぱりと言い切った。

「へ?」

その声に香奈が乙姫を見ると、

「これは…

 この女性の強い想いが作った思念体です。

 でも、なんで竜玉に思念体が…」

と言いながら乙姫は首を捻った。

すると、

『…わたしは…藍…姫…

 …十郎太を…守…る…』

思念体は視点の合わない眼をしながら譫言のような口調でそう呟いた。

「藍姫?」

それを聞いた櫂が聞き返すと、

「櫂さん、思念体に尋ねても何も答えてくれませんよ

 どうやら、彼女は、

 十郎太と言う人を守りたいという意志で出来ているようですね」

と乙姫は櫂に告げた。

「十郎太?、藍姫?

 そっそんなこと言われても…

 何も知らないよ」

戸惑いながら櫂が返事をすると、

「そうですね…

 でも、櫂さんの竜玉に憑いていたと言うことは…

 これは恐らく…

 櫂さん、あなたの前世に関係があるようですね」

と乙姫は言い切った。

「僕の前世?

 そっそんなコト言われても…」

そう言いながら櫂がさらに戸惑っていると、

「藍姫様…十郎太様…」

姫君の姿を見ながら婆様が呟いた。

「?…知っているんですか?

 このお姫様を…」

櫂が婆様にそう訊ねると、

「知っているも何も…

 もぅ500年になるか…

 ワシがまた普通の人間だった頃に仕えていた姫じゃ」

と婆様は櫂を見ながら言う。

「人間だった頃?」

綾乃が訊ねると、

「あぁ…忘れもせん、

 守上城が秀吉の軍によって落城したときのこと…」

そう婆様が言うと、

「守上城?

 あれ、それって信州にあったお城のこと?」

何かを思いだしたように櫂が尋ねた。

「お前…よくそんなことを知っているな」

恵之が感心しながら訊ねると、

「うん…真奈美が確かそこに行ったと聞いたけど」

そう櫂が返事をした。

すると、

「ねぇ…おねぇちゃん?

 さっきから言っている”真奈美”って誰のこと?」

っと香奈が櫂の肩を掴みながら尋ねた。

香奈のその言葉に

「え?…

 いや、その…なんて言うか…」

櫂が返答に困ると、

「はははは…

 お前のコレか?」

と恵之はニヤケつつ小指を立てながら尋ねた。

「いっ、ちっ違うよ…

 たっただの友達だよ」

顔を赤くして櫂が反論をすると、

「ちょっとして、竜宮で櫂がよく会っていたあの子?」

と綾乃が尋ねた。

「へぇ……

 竜宮でガールハントとはおねぇーちゃんも隅に置けないわね」

香奈が櫂の脇をつつきながらそう言うと、

「あっあのなぁ…」

困惑した表情で櫂が声を上げる。

すると、

「あら…

 マナさんのことみなさんご存じではなかったのですか?」

と話を聞いていた乙姫が口を開いた。

「おっ乙姫様ぁ……」

乙姫の暴露で事実上櫂の内堀はすべて埋め尽くされてしまった。

「今度、ウチに連れてきなさいよ」

綾乃がそう言うと、

「はぁ…」

櫂は力なく答えながら、

「その前に男に戻る方が先決じゃないのか?」

と心の中で呟いていた。



「(オホン)で、話は終わったかの?」

櫂達の話をじっと聞いていた婆様がそう訊ねると、

「え?

 あっ、どうぞ…お続けください」

その言葉にハッと気が付いた全員が婆様にそう告げた。

「さて、

 何処まで話たっけか…」

「…守山城ですよ」

婆様が話の続きを思い出そうとしていると、

櫂は小声でその場所を指摘した。

「あぁ、そうじゃった。

 さて、

 忘れもせんわ、落城の時のことを…

 わしらはなぜお館様が秀吉殿と戦をさせたのか判らなかったが、

 でも、城中の雰囲気からただならないコトになっていることは判ったわ、

 しかし、藍姫様はわしらの不安を取り除くようにいつもと代わらぬ振る舞いをされ、

 わしらもひょっとしたら何とかなるのでは…

 とほのかな希望を抱いておったわ。

 じゃが、それもほんの一時のことでしかなかった。

 鬨の声と共に秀吉の軍勢は瞬く間に城を取り囲み、

 そして攻めてきたのじゃ、

 無論、城に詰めておった武者達は勇敢に立ち向かったが、

 しかし、多勢に無勢…

 次々と砦や櫓は敵の手に落ち、

 逃げまどうわしらの所にも弓矢や鉄砲が飛んできおったわ

 もやはこれまで…

 わしらがそう観念したとき、

 藍姫様は山を下りるようにと言われたのだ、

 無論、わしらも藍姫様と最後までご一緒すると申し出たのだが、

 しかし、姫様は大勢だと目に付く上に

 それに自分が居たのではわしらが逃げおおせることは出来ないと言い残して

 護衛の十郎太殿と数名の武者を引き連れてわしらの前から去られた」

と昔を思い出すようにして言った。

「なんとか、お城から落ち延びたわしらは、

 敵の追っ手をかわしながらひたすら逃げた。

 城中の者は全員生きて出すなっ

 と言う命令が出ていたらしく、

 掴まった者はその場で首をはねられたわ、

 だから、わしらは生きるために逃げて…

 逃げて…

 逃げまくり、

 そして、ある漁村にたどり着いた。

 城を出たときには十数人居た者達も、

 その時にはワシを含めて3人だけになっておってな…

 おっと、ここから先は関係のない話だったか」

婆様そう言って小さく笑うと、

「…じゃぁ何?

 おねぇちゃんの前世ってこのお姫様なの?」

婆様の話を聞いていた香奈が尋ねた。

「いいえ、この藍姫と言うお姫様は櫂さんの前世はありません」

香奈の話を聞いていた乙姫はそう言うと、

「と言うより…

 すみません、

 その竜玉をちょっと貸していただけませんか?」

と婆様に頼んだ。

そして、

婆様から竜玉を手渡されると竜玉を挟むように両手を静かに合わせ、

「・・♪・・・・♪・・・」

呪文を歌うように詠唱し始めた。

すると、

グンッ!!

一瞬、沸き上がっていた藍姫の姿が何か見えない力に押されると、

一気にその形を崩し、

乙姫の手中にある竜玉を守るかのように包み込んだ。

「!!

 ・・・♪♪・・・・・」

その様子を見た乙姫は詠唱する力を次第に強くしていくと、

フォォォォォン…

それは竜玉を中心にして渦を作り、

乙姫の詠唱に対決すかのように強くなっていった。

「これは…」

その様子に乙姫は驚く、

そのとき、

「ハッ!!

 そう言うこと…!?」

乙姫は何かに気が付くと、

ハタッ

っと詠唱を止めた。

その途端、

ブワッ!!

竜玉を包み込んでいた渦は一気に砕け散ると、

まるで竜玉の中へと吸い込まれるようにして消えていった。



沈黙が部屋を包み込む、

「そう言うことでしたか…」

乙姫が呟くようにして言うと、

「あのぅ…なにか判ったのですか?」

恐る恐る櫂が尋ねた。

すると、乙姫は顔を上げるなり櫂の方を向き、

「櫂さん…

 いま、竜玉が教えてくれました。

 あなたの身体が女性になったのは彼女の影響なんです」

と告げた。

「え?、女になったのはあの姫様の影響?」

驚きながら櫂が聞き返すと、

「えぇ…

 疑問が解けました。

 櫂さんには前にもお話をしたと思いますが、

 櫂さんが人魚に変身せずに”竜牙の剣”を使った際、

 剣は竜玉の竜気を使わずに櫂さんご自身の魂の力を使ってしまいました。

 普通そのような状態は櫂さんご自身の命に関わる重大事なんです。

 でも、その時は何も起こらなかった。

 私自身、それが不思議でなりませんでした」

そう乙姫が言うと、

「でも、一夜明けたら女の子になったけど」

櫂は自分を指さしてそう反論をする。

「えぇ、そこなんです。

 何で櫂さんは女の子になったのか…

 その答えが、藍姫様なんです」

「藍姫様?」

「はい、櫂さん自信は気づくことはありませんが、

 櫂さんの前世は藍姫様が愛した十郎太と言う侍だったのです」

「なに?」

乙姫のその言葉に櫂と乙姫を除く全員の視線が櫂に集まった。

「…へ?」

一変した部屋の空気に櫂がキョトンとしていると、

乙姫は更に説明を続け、

「…藍姫はその十郎太と言う侍を好いていたのですが、

 しかし、その恋を遂げることは出来ずに、

 二人は戦の中に消えていった。

 でも、藍姫様の十郎太への想いは思念体という形で、

 十郎太の魂を常に見守っていた。

 そこで、この間の事が起こります。

 竜牙の剣を使った櫂さんの魂は大きく力を失いました。

 そのとき、藍姫様の思念体は力を失った櫂さんの魂の力を補うべく
 
 竜玉の中に飛び込んだのです。

 その結果、櫂さんの身体は藍姫様に近い姿を…」

と話した。

「はぁ…」

一同は乙姫の説明に関心をする。

「…そうか、

 お主が、十郎太殿の生まれ変わりとはのぅ…

 ワシも長生きをしたものだ…」

婆様はそう言うと目をしばたたかせる。

「じゃぁ、男に戻るには

 その竜玉の中に居る藍姫の思念体というのを追い出せばいいのか?」

そう櫂が訊ねると、

「櫂さん…追い出すというのは感心しませんよ、

 なぜなら、いま櫂さんがこうして生きていられるのは、

 藍姫様の思念体が竜玉の中で櫂さんを支えているからなんですから」

と乙姫は注意した。

「あっそうか…

 と言うことは、

 女の子でいる間は、魂の力は戻っていないってコト?」

そう櫂が尋ね直すと、

「そう言うことになりますわね、

 でも、いまの状態では魂の力は簡単には戻りません」

「というと?」

「藍姫様の思念体が櫂さんの竜玉の中にいる限り、

 櫂さんの魂は力を取り戻すことが出来ないのですよ」

「え?、なんですかそれは?」

と言う乙姫の答えに、櫂が声を上げると、

黙って乙姫の話を聞いていた婆様が口を開き、

「簡単な話じゃ、

 藍姫様の思念体がその竜玉の中でお主の魂を支えている。

 しかし、藍姫様の思念体の分、

 お主の魂は力を回復することが出来ない。

 と言う事じゃ」

と諭した。

「そんな…じゃぁどうすれば」

婆様の説明に櫂は呆然とすると、

「藍姫様が生まれ変わった者を見つけるコトじゃ

 十郎太殿が櫂、お主として生まれ変わっている以上、

 この世のどこかに藍姫様も生を受けて居るはずじゃ、

 探すのじゃ、

 藍姫様を捜しだせば、きっと絡まっているお主の竜玉も元通りになる」

潮見の婆様はそう告げると目を瞑った。

「そんなぁ!!

 生まれ変わった藍姫を捜すって!!

 どうすればいいんだ!!」

櫂は事実上不可能なこの注文に途方に暮れていた。



「しかし…

 おねぇちゃんも迂闊よねぇ…

 人魚にならない状態で剣をつかうなんてさ」

帰りの車の中で香奈が呆れた口調で櫂に言った。

「しょうがないだろう…

 あのときは無我夢中だったんだから…」

膨れながら櫂が文句を言うと、

「でも、潮見のお婆さんに会えて良かったですね、

 あのお婆さんが櫂さんの竜玉に憑いていた藍姫様の思念体を呼ばれたのですから…

 私の術では到底そこまではいきません」

と乙姫が呟く。

「そんな、乙姫様…

 乙姫様だって、

 生まれ変わった藍姫を見つけること。

 と言う解決法を見つけたじゃないですか」

乙姫の台詞を聞いた櫂が慌ててそう言うと、

「えぇ…でも…

 突破口を見つけたのは潮見のお婆さんです。

 わたしもまだまだですね」

と軽く笑う。

「まぁまぁ…

 櫂も乙姫様もまだ若いんだから、

 未熟と思えば勉強をすればいいのですよ」

とハンドルを握っている恵之が声を掛けると、

「そうですとも…」

助手席に座っている綾乃も同調した。

「だって…おねえちゃん」

それを聞いていた香奈が櫂に言うと、

「うるせーっ」

櫂はプイッと横を向いた。



「コレでよいのか?」

櫂達が立ち去ったあと、潮見の婆様は少し開いていたふすまに向かって言った。

『……かたじけないのぅ…』

少し間をおいてそこから婆様の労をねぎらう言葉が出てくると、

「なぁに、そなたとは500年の付き合いがあるからのぅ」

婆様は遠い目線でそう言うと、

「それにしても、十郎太殿が新たな生を受けていたとは…」

と笑みを作った。

そして、しばらく間をおいて、

「ところで、水神殿…姫様の居場所も知っておるのだろう?

 なぜ教えぬのだ?」

そう婆様が尋ねたが、

『…………』

しかし、何も答えは返ってこなかった。



やがて櫂達を乗せた車は水城家の近くに差し掛かったとき、

道路上で話をしている人の姿がチラホラと目に付きだした。

そしてさらに、自宅に近づくにつれてその人の数がどんどんと多くなっていく。

「なにが、あったのかな?」

その様子を見て不安そうに香奈が言うと、

「う〜む…」

恵之の表情が険しくなっていった。

「あれ?、お隣の佐島さんじゃない?」

綾乃が道路上で話をしている男性を見つけると声を上げた。

「あのぅ…何かあったんですか?」

男性の横に車を止めて綾乃が話しかけると、

「あぁ…水城さん、お出かけだったのですかっ

 お隣の南野さんの所でテロがあったんですよ」

と興奮した口調でしゃべった。

「はぁ?」

それを聞いた櫂達は一斉に見つめ合ったのち、

その場に車を止めると人混みをかき分けながら自宅へと向かっていった。

そして、人垣を抜けて自宅前に出たとたん、

赤色灯が回るパトカーが視界に飛び込んでくると同時に

「あぁ…そこ、入らないで!!」

と叫びながら警察官が飛んできた。

「あのぅ…ここ私の自宅なのですが…」

恵之が警官にそう言うと、

「え?、水城さんでいらっしゃいますか?」

警官はそう恵之に尋ねた。

「はぁ…」

恵之はそう言って頷きながら、

「何があったのですか?」

と奥をのぞき込むように恵之が警官に訊ねると、

「いや、南野さんのところで大勢の人が

 ケンカをしていると言う110番がありましてね。

 で、こうして来たのですが、

 どういうワケか、南野さんが我々を入れてくれないんですよ」

と困った口調で事情を説明をした。

「えぇ?!…南野さんのところでケンカ?」

警官の話を聞いていた綾乃が困惑しながら声を上げた。

「南野さんって、小説を書いている人ですよね」

警官とのやりとりを横で聞いていた乙姫が櫂に訊ねると、

「うん…そうだけど…

 なんで、ケンカなんて起きたんだろう」

櫂も不思議そうな顔をして答えた。

やがて、

「おーぃ、撤収だ撤収!!」

そう叫びながら警官の同僚が飛んでくると、

「えぇ?、

 事情を聞かなくていいんですか?」

恵之達と話していた警官が声を上げた。

「あぁ…

 上の方からの命令だ」

同僚警官はそう叫ぶと、

「やれやれ…

 ヘリコプターまで飛んできたらって言うから…

 あっ、ご協力ありがとうございました。」

警官は言い残してパトカーの方へと走っていった。

「なんなんだ?」

「さぁ?」

恵之と綾乃は走っていく警官の後ろ姿を眺めていた。

そして、櫂達が自宅に戻った途端、

「!!」

何かに気配に気づいた乙姫が

トタタタタタタ

っと走りながら庭へと飛び出していった。

「どっどうしたんですか?」

櫂が彼女の後を追いかけて行くと、

乙姫は庭にある池の所で佇んでいた。

「乙姫様?」

不思議そうに櫂が訊ねると、

「…竜王様…」

池の水面を眺めながら乙姫が呟いた。

「へ?」

彼女の言葉に櫂がそっと池の水に手を触れようとすると、

パシッ!!

軽い電撃が櫂の手を襲った。

「これは…」

その様子に櫂が驚くと、

「竜王様がここに来たようですね」

と二人の後ろに建った綾乃が説明をした。

「竜王様って、乙姫様が探している人…?」

呆気にとられながら櫂が訊ねると、

「えぇ…間違いなく竜王様はココに参られました」

乙姫はそう囁くとそっと手に池の水を掬い上げた。



つづく


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