風祭文庫・人魚の館






「五十里の野望」
(第13話:ファーストキス)


作・風祭玲
(RB原案・TWO BIT)


Vol.096





この話を読む前に”レンタルボディ編:ヒミコシリーズ”
を読まれますとちょっぴり味が濃くなります。

「ヒミコ」シリーズの詳細については


http://www2u.biglobe.ne.jp/~bell-m/bunko/rb/index.htm


を参照して下さい。




なお、「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/indexj.htm


を参照して下さい。





米国・HBS本社の会議室

「さて、諸君らに緊急に集まって貰ったのは、

 知っての通り、先日、日本支社を任せた五十里のことだ」

議長役の男がしゃべり出す。

「例の発掘・整備中のアトランティスの船を無断で持ち出し、

 さらにオリハルコン、そしてつい今し方ミラーの独断使用を行った。

 もはや見過ごすわけにはいくまい」

「先ほどから、アトランティス側から盛んに事情説明を求めてきてもおる」

と次々と意見が出てくる。

「さて、どうしたものか」

それを受けての議長の発言に、

「…………」

一同考え込んだ。


やがて一人が、

「この際、彼に休暇を与えてはいかがかな?」

と提案をすると、

「休暇?」

「そう、あの船のコンピュータには大マゼラン星雲への航海データが入っている。

 そのデータに沿って彼に外宇宙のクルージングを楽しんで貰うと言うのはどうかね」

「なるほど、厄介払いか」

「船を一隻失うのは痛いが、仕方があるまい」

「五十里君、ご苦労だったな、あとは我々が引き継ぐ、

 君には特別休暇を与えよう」

「では、外宇宙のクルージングを楽しんできたまえ」

結論に達すると、議長は

「潜入工作員に連絡っ」

「直ちにプログラムにそって行動を開始せよっ」

と指示を出した。


時を同じくして、

………ニャン

UFOの片隅で白黒斑のブチ猫が起きあがると、

びろーん

と大きく体を伸ばし、その後、

しゅた

っと姿を消した。


「あれ?、ネコ?」

船内を走るネコの姿に出会った人は驚きの声を上げる。


そして、音もなくブリッジ内に進入すると、

トッ

猫は桂の机の上に飛び降りた。

が、そのときネコは机の上に置いてある

ピンクのクマの縫いぐるみを踏みつけてしまった。

ぶぅぅぅぅん

クマの目が光る。



「あの人魚達、だいぶ苦戦しているようだな」

道路が冠水で進めなくなったので鳥羽は車を置くと、

とある雑居ビルの屋上にいた。

「おっ、あの姉ちゃんもいるな…」

そう言いながら双眼鏡で眺めていたとき、

「!!」

「ん?、ととちゃん2号の反応が……」

鳥羽はすぐに視覚をととちゃん2号から送られてくる映像信号に切り替えた。

「これは………」

机の上でキョロキョロするヌイグルミ、

やがて居場所の様子が分かってくる。

「あそこに居るのは…五十里………」

「ってことは、ここはUFOのブリッジか………」

感心しながら眺めていた。

とそのとき、

突如、視界一杯にネコの顔が入ってきた。

「うわっ、なんだ?」

思わず手足をばたつかせたが、

身体はUFOの外にいることを思い出すと

気を落ち着かせながらネコを睨んだ。

「なんで……ネコがいるんだ?」

鳥羽は不思議に思いながらも、

手足の感覚をヌイグルミへと切り替えると、

ヌイグルミはひょっこり立ち上がると机の上を歩きはじめた。


「よっ、こら、おっとっと」

やや不器用な足取りで机の上を1週するとなんとかコツがつかめてきた。

「よし、あのビーム砲を止めさせなくては…」

鳥羽の遠隔操作を受けている縫いぐるみはキョロキョロしたのち、

会話などからビーム砲の操作をしているのは、

五十里の斜め前にいる相沢だと言うことが判った。

「ようし、あそこか」

鳥羽は目的地を確認すると、

「えいっ」

っと机から飛び降りる。

ボテ

「よし」

薄暗いブリッジの床をピンクのヌイグルミがトコトコと走っていく。

相沢の席まで後少しと来たところで、

「あれ、僕の”しゃるろっと”が居ない」

桂が自分の机の上に置いていたヌイグルミが

無くなっていることに気がつき声を上げた。

「桂っ、ヌイグルミのことなど放っておけ」

五十里の声がするが、

「どこ行っちゃったんだろう」

と桂はヌイグルミを探し始めた。

「見つかると、やばいなぁ……」

鳥羽は隠れるところを探し始めた。

注意深く探して、運良く机の下の暗闇を見つけると、

「よし、あそこに隠れよう」

っと走り出したとたん。


ニャン

さっきのネコがヌイグルミに飛びかかってきた。

「こっコラっ、離せっ」

ヌイグルミはネコから逃れようともがくが、

ネコに首をがっしりと押さえられているために、

逃れることが出来なかった。

するとネコは手足をばたつかせているヌイグルミを、

桂の方へと引きずっていくと、

ポイッ

その桂へと飛ばしてしまった。

「あっあったあった」

「ダメだよ、勝手に出ていっては」

桂は転がってくるヌイグルミをそう言って拾い上げた。

「しまったぁ……」

と悔しがる鳥羽。

ヌイグルミはそのまま桂のオペレーション席に置かれると、

彼の監視を受けることになってしまった。



「エネルギー充填100%、出力80%にて発射」

「ようし、こんどこそ外すなよ」

五十里の声が響く、



「はぁはぁはぁ」

「くっそう、力が抜けて思うように動けない……」

ミール達を含めて僕たちはぐったりとUFOの周囲で浮かんでいた。

「甘かったわ…」

ミールが悔しそうに言う。

「すまぬが俺も、こうしているだけで精一杯だ」

竜彦が僕の下で声を絞りながら言う。

「あたし達…コレで終わりなのかなぁ…」

シシルが言うと

「そんなぁ」

「だからこんな所に来たくなかったんだ」

ルシェルが泣き始める。

「いちいち煩いわよ」


「いいわねぇ…こんな状況で喧嘩できるなんて」

ミールが羨ましそうに彼女たちを眺めていた。



シュォォォォォン

UFOのオリハルコンが光だす。

「ちっ、始末に来たか」

ミールの声に、

「くっそう、これまでか……」

「マナごめん……」

観念した僕は思わず目を閉じてしまった。

『こら、諦めるのは早いぞ、

 お前は竜の騎士だろうが』

と言う声が頭に響いた。

「え?」

思わず顔を上げたとき、

シュバァァァァン

UFOが【アクア=レイ】を発射した。

「うわぁぁ、きたぁぁ」

翠色の光の帯が空に向かって延びていく、

やがて数カ所で折れ曲がると、

まっすぐこっちに向かって落ちてきた。

「きゃぁぁぁぁ」

シシル達が悲鳴を上げる。

「駄目か……」

と思ったとき、

『しっかりしろ、お前が止めるんだ』

再び声が響いたの同時に力が戻ってきた。

「くそっ」

僕は剣を取ると構えた。

そして一言。

”水術、鏡の舞”

と叫んだ。

ぱぁぁぁぁぁぁぁ

僕の周りに光が乱舞し始めると、

どぉぉぉぉぉん

迫ってきた光の帯を堰き止めた。

「くぅぅぅぅぅぅぅ」

持てる全ての力を使って猛烈な力を堪える…

「くぅぅぅ…………ダメ…」

負けそうになったとき。

ふっ

僕の横に人が姿を現すと、同じように剣を構えた。

「徐々に軽くなっていく…」

そして

「だぁぁぁぁぁ」

思いっきり叫んで押し返すと、

ぱしぃぃぃぃん

翠色の帯は乱舞している光の破片にはじき返されると、

それを生み出したUFOへめがけて一気に進みはじめた。



「なに?」

五十里は何が起きたのか判らなかった。

ただ、人魚達に迫っていた【アクア=レイ】が、

何かにはじき返されると、こっちに向かっていることだけが判断できた。

「いかん、回避しろっ」

と叫ぶが、身体が動かなかった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


そのとき、

ニャン

一匹のネコが夏目の机の上に上ると、

ポチ

とあるスイッチを押した。

その瞬間、UFOは虹色の光に包まれると、

シュン

と言う音と共に姿を消した。

パァァァァァァン

UFOが消えた空間を翠の帯が走る。

「ちっワープで逃げたか」

男は去っていく光を見つめる。

しかし、僕の記憶はそこで途切れた。



どぉぉぉぉぉぉん

程なく【アクア=レイ】はHBS社研究所に着弾。

巨大なキノコ雲を奥武蔵の山中に上げた。



「……………ん?」

「なんだ…………」

「暖かい…」

「身体に力がそそぎ込まれれくる」

僕は徐々に力と体の感覚が戻ってくるのを実感していた。

と同時に、身体が誰かに抱きかかえられているのと、

そして、唇に何かが押し当てられているのが判ってきた。

「ん〜と、これって…………」

しばし考えていると、

やがて一つの答えが頭に浮かんだ。

「キス!!?」

はっと目を開けると、目の前に男の顔が…

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

思わず声を上げて男を突き飛ばした。

「痛っってぇ」

「何もいきなり突き飛ばすことは無いじゃないか」

男はそう答えるが、

僕は男にキスされた。と言う事実がショックだった。

「そんなぁ、まだ真奈美とキスをしていないのにぃ…」

「僕のファーストキスが男に奪われるなんて……」

僕がショックに打ちひしがれていると、


「ねぇ、彼っ、あたしにもして……」

と言いながらミールが彼ににじり寄る。

「これは、アトランのお姫様ですか、では…」

と言ってミールを抱きかかえたとき、

すぱぁぁぁぁぁん!!

っと男の頭が叩かれた。

「海人っ、そこで何をやっているのっ」

男の後ろに、水の衣をまとった人魚が立っていた。

「えっ、あぁ水姫か…」

「いや、動けなくなった彼女たちの介抱をね」

男が弁解をしていると、

「ごめんなさいね、

 コイツ、女性を見るとすぐに手を出してしまうクセがあって、

 まぁ、今回のことは、野犬に咬まれたとでも思って許して上げて」

と言いながら彼女は男の頭を小突くと男の頭を僕に下げさせた。

「そっそう言う問題かぁ〜っ」

僕は竜彦の頭の上に突っ伏した。

「僕のファーストキスがぁ〜っ……」

と言う言葉がこみ上げてきたが、さすがに言えなかった。

「いいじゃないかよ、

 俺が彼女たちに力を分け与えたおかげで

 こうして元気になったんだから…」

男はぶつぶつ文句を言っていると

「あのぅ、あなた方は?」

ミールが彼女達に訊ねると、

「え?、あぁ、あたしは、水姫でコイツは海人……」

とアッサリと答える。

「はぁ?」

ミールの声に

「おいおい、そんなアッサリと紹介するな」

海人はそう言うと、僕を見ると

「挨拶が後になったけど、初めまして…竜の騎士。

 僕が竜宮のもぅ一人の主、竜王・海彦」

と自己紹介し、

「で、コイツは僕の下僕の水姫」

と彼女を紹介した。

「アナタが竜王?」

ミールが海人を指さして驚きの声を上げる。

と同時に

「誰が、下僕よ、だ・れ・が」

水姫は怒った顔で海人の頭を叩いた。

「すぐ暴走をするあなたの監視役でしょうが」

「いいじゃないかよ」

「よくない」


二人の漫才をしばらく眺めていると、

あのUFOがいなくなっているコトに気づいた。

「UFOは?」

僕が訊ねると、

「さぁ、消えちゃったわ」

と水姫が空を見上げながら答える。

「消えた?」

「連中は特別休暇を貰って、宇宙旅行に出かけたそうだ」

海人も空を見上げる。

「宇宙旅行?」

僕が不思議そうな顔をしていると、

「まぁ当分の間、地球には帰ってこないね」

海人も空を見ながら言う。



ザザーーーン

その日の夕暮れ、僕は人魚姿のまま友石海岸の波打ち際で一人佇んでいた。

みんな、今日日中に起きた騒動の報道に釘付けになっていて、

波打ち際を歩く人は皆無だった。

「カナ…」

沖合にマナが姿を現す。

「マナ…」

海彦とのキスのことが頭にあった僕は思わす顔を伏せる。

やがて、海岸に上がってきたマナは僕の隣に身を寄せた。

「良かった…無事に帰ってきてくれて」

顔を伏せた状態で、

「鰭は?」

と訊ねると、

「うん、ちゃんと乙姫さまの所に持っていったわよ」

「そうか」

「喜んでいたわよ、乙姫さま」

「そうか…」

「カナ…」

「うん?」

「竜彦から聞いたわ…」

「えっ?」

マナは僕の顔をじっと見つめると…

「ファーストキスおめでとう」

とサラリと言った。

ちゅっどーん!!

ガックシと項垂れた僕の姿を見ると、

「あっやっぱしショックだったの?」

僕の顔を覗き込むようにして言う、

「……………」

何も返事をしないと、

「目を閉じて…」

「え?」

「いいから、目を閉じて…」

「うっうん」

マナに言われるようにして目を閉じると、

ちゅっ

僕の唇にそっと何かが当たった感触が走った。

「え?」

思わず目を開けると、マナの顔が目の前に迫っていた。

「マナ…」

「口直しと、約束を守ってくれた、あたしからのお礼…」

「えぇ……?」

マナは頬を赤らめながら、

「さぁ、竜宮に行きましょう、

 みんなカナが帰ってくるのを待っているわ」
 
そう言うと、ザブンと海に入っていった。

「あっ待って…」

僕もすぐに彼女の後を追って海に入っていった。



つづく


← 12話へ 最終話へ →