風祭文庫・人魚の館






「五十里の野望」
(最終話:それぞれの結末)


作・風祭玲
(RB原案・TWO BIT)


Vol.097





この話を読む前に”レンタルボディ編:ヒミコシリーズ”
を読まれますとちょっぴり味が濃くなります。

「ヒミコ」シリーズの詳細については


http://www2u.biglobe.ne.jp/~bell-m/bunko/rb/index.htm


を参照して下さい。




なお、「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/indexj.htm


を参照して下さい。





「カナ……どうも、ありがとう」

乙姫さまは僕の手を取ると盛んに感謝した。

「いっいえ……」

「そんなに感謝されなくても…」

と気恥ずかしさで頭を掻きながら僕が言うと、

「こうして、海母様の鰭が無事戻ったのはカナのお陰です」

「本当に礼を申します…」

乙姫さまは深々と頭を下げた。

「そっそんなぁ…」

余りにものの乙姫さまの低姿勢に何とか話題を変えようと、

「あの、ところでサキさんの竜玉とNo3は…」

僕が気に掛けていたコトを乙姫さまに尋ねた。


「はい、マナさんから確かに預かりました」

「竜玉は地上人がつくった人魚と共に、

 この竜宮の奥にある墓所で眠りについています」

「え?、No3もですか?」

「えぇ……彼女は地上人がサキの身体を元に作り上げた者…

 竜玉が眠りにつくと同時に彼女も竜玉を守るようにして眠りにつきました。

 それが、サキが彼女に与えた使命だったようです」

「そうですか…」

僕がそう返事をすると、

「サキは15年前の海魔との争いの時、海彦様と共にココを離れて行きました。

 それから長い年月が過ぎてようやく戻ってきたことに彼女も安堵したことでしょう」

と乙姫さまが言うと、

「その海彦さまですが………

 実は五十里との決戦の時に僕は彼に会いました」

っと僕が乙姫さまにビーム砲を押し返していた時のことを話し始めた。

「何ですって?」

「はい、僕が五十里が放ったビーム砲を押し返そうとしていたときに、

 彼は現れ、僕を励まし…そして共に押し返してくれたんです。
 
 いまココにこうしていられるのも彼のお陰です」
 
と言ったが、

その後の顛末については思い出したくなかったので口にしなかった。

「で、海彦さまは…」

乙姫さまは僕ににじり寄ると、

「はい、乙姫さまが探していることを伝えたのですが、

 まだ、時期ではないと言って…そのまま…」

「姿を消したのですか?」

「はい…」

ふぅ〜っ

乙姫さまは大きなため息をつく、

「海彦さま…なにか不自由をしていなければ良いのですが…」

と呟いた。

「あの……」

「え?」

「いえ…」

「?」

僕はその後”水姫”と言う人魚が彼の側にいたことを言おうとしたが、

いらぬ混乱の元になりそうだったので、

そのことについては黙っていることにした。


「あっ、そう言えば……」

「なんですか?」

「あの……」

と僕は研究所で人間に戻れなかったことを乙姫さまに話した。

乙姫さまは話を聞き終わると、

「それはもぅ大丈夫ですよ」

と返事をした。

「え?」

「人間が人魚になったり、その逆の時は身体に”力”と”負担”が

 もっとも大きくかかります。
 
 カナは怪我が治ったばかりで、きっと身体がそれらに耐えられなかったから
 
 変身が出来なかったのでしょう」
 
と説明をしてくれた。

「じゃぁ…」

「えぇもぅ大丈夫です」

乙姫さまは笑顔で答えた。



そのころ…

太陽系からいままさに外宇宙へ出ようとしていた1隻の船があった。

「あの星は?」

夏目は褐色色の巨大なガス状惑星を指さして相沢に尋ねた。

「あれは、先日アメリカの天文衛星によって発見された第10番惑星ですね。

 質量は木星の約1.5倍、太陽の周りを350年掛かって回っているとか」
 
赤い表紙の科学雑誌を眺めながらの相沢の説明に、

「そうか……じゃぁ記念に一枚写真でも撮っておくか…」

と夏目は答えると

パシャッ

ブリッジにフラッシュの閃光が光る。

「この星を過ぎると…」

そう桂が訊ねると、

「そうですね、

 一応、ここから先は太陽系外と言ってもいいですが、

 まぁもぅ少し先にあるオートの彗星雲と

 その外側にある太陽風の到達限界域である末端衝撃波面を通過したときが、

 太陽系の外、銀河外宇宙に出たと言っていいですね」

と相沢が答えた。

その途端、

『ワープまであと5分…』

航行管理コンピュータがワープ・インを伝えた。

「やれやれ、ここに戻ってくるのは…」

「1年後ですね」

「ふふふ…待ってなさい人魚達…」

「私が戻ってきたら…次は絶対に!!」

五十里の決意が聞こえたとたん。

『ワープ、入ります』

UFOの姿が一瞬揺らぎ、

強烈な光と共にUFOはワープに突入した。

五十里達が再び太陽系に戻ってくる日まで、

あと364日(のはず)



「船がワープに入りました」

HBS本社の会議室に特殊観測チームからの報告がなされた。

「そうか」

「ご苦労だったな、五十里クン」

「キミは今日付けで、営業部・外宇宙課への異動が決まった」

「では、特別休暇をエンジョイしてくれたまえ…」

「そうそう、マゼラン星雲の惑星に立ち寄ったら、

 ぜひ、放射能除去装置を貰ってきてほしい。

 これは、これからのビジネスには欠かせないものになるからな」

「最近、原発の事故が多いですからなぁ」

「コレが手に入れば、我が社の業績はアップ間違いなし」

「経営を立て直せるし」

「頼んだぞ、五十里クン」

重役達は好き勝手なことを言った後、

モニターの電源が落ちた。



一方ココは、巫女神家

「そんなぁ……」

「TVを見て急いで山を下りてきたのに……」

「みんな終わっちゃっているなんて…」

巫女神夜莉子と沙夜はすっかり平穏に戻っている街の様子に落胆していた。

「まぁまぁ、夜莉ちゃんに沙夜ちゃん」

「一部始終をちゃんとビデオに撮ってあるから機嫌を直して…ねっ」

巫女神家長女・摩耶が

ドサッ

と2人のまえにビデオテープを置いた。

「そうだよ、私と摩耶が一所懸命テープを交換したんだから」

いつの間にか泉から這い上がってきたマイはそう言うと胸を張ったが、

シクシク……

「いーのよ…いーのよ」

二人はガックリと肩を落としていた。

「あ〜ぁ、落ち込んじゃっているよ、摩耶ぁ」

マイは沙夜を覗き込みながら言う。

「ほっときなさい」

「さぁ、夕飯の支度をしなくっちゃ」

摩耶はそう言うとパタパタと台所の中へと入っていった。



「あっいたいた」

「鳥羽課長っ」

白衣姿の研究員が鳥羽の姿を見つけると走り寄ってきた。

「おう」

「どうでした?、新型RBの使い心地は」

息を弾ませ感想を聞いてくる研究員に

「そうだな、なかなか面白い体験をさせて貰ったよ」

「そうですか」

研究員は安堵の表情をする。

「いやぁ、心配していたんですよ、

 普通なら施設内で調整をしたのちに、

 実社会での運用テストをするところを、

 課長は役所への試験体の仮登録後、

 すぐにそれを使って出て行かれたでしょう。

 シンクロ率が完全に固まっていない状態での

 運用には少々不安だったものですから」

そう言う研究員に

「いやぁ、それはすまなかったな」

「本来なら、キミの言うとおり調整をしなくてはならなかったのだが、

 緊急の事態があってな」

「…それって、ひょっとしてHBSの」

「あぁ…」

頷く鳥羽に

「でも、ニュースで言ってましたが、

 HBSの研究所は大爆発を起こして消えてしまいましたし、

 日本支社長は行方不明、だいぶ息がしやすくなりますね」

明るい顔をする研究員に、

「そうだな……いや、五十里はまた来るだろう」

「それに、あの人魚達のことも気になるな…」

鳥羽はそう呟いた。


「あっ、そうそう、今度息子さんを連れてきてください」

「ん?」

「いえ、RB使用経験者の追跡調査をしたいので」

と研究員が言うと、

「あぁ…

 息子…じゃなかった”娘”はあれ以来すっかり私を警戒していて、

 素直に来てくれるかどうか…」

そう言って思案顔の鳥羽に、

「娘?」

研究員が不思議な顔をする。

それを見た鳥羽は慌てて、

「いや、それにしてもヒミコの改良型BIOS”サスケ”の能力は、

 いやぁなかなかのモノだったぞ」

っと話を変えた。

「えぇ、私もさっき、データを見せて貰ったのですが、

 なかなか面白いデータが沢山取れててこれからの解析が楽しみです」

「ハハ…私が身を挺した価値はあったわけだな」

「そうですね」

「ところで、サスケの人格パラメータファイルに、

 ”カジ”と言う名前を振っているのは、

 どういう理由なんですか?」

研究員が訊ねると、

「あぁ、それか……?」

「ふふ、秘密だ」

鳥羽は含み笑いをしながら答える。

「はぁ?」

「まっ、報告書を楽しみにしているよ」

「はい」


「あっそうだ、どうだね、今晩一杯やらないか」

「えっ、よろしいんですか?」

「じゃぁ他の者も誘って」

「そうだな」

そう話ながら、二人は廊下を歩いて行った。



「なぁ雪子…結局アレは何だったんだ?」

富士田は妻の雪子に尋ねた。

「彼女たちは、海へ帰る途中だったんですよ」

そう言うと雪子は夫の側による。

「海へ?」

「えぇ…そこが彼女たち人魚の帰るところ」

「きっと、陸の上で暮らしているあたし達には

 想像もつかないところなんでしょうねぇ」

「そうか」



翌朝

「ニャァ」

「あっ、ネコ」

登校途中、真奈美は赤茶と黒のトラジマのネコを見つけるとそばに駆け寄った。

「よせよせ、思えばネコに出会ったのが、そもそものはじまりだったんだぞ」

僕はネコに近寄ろうとする真奈美に注意したが、

「別にいいじゃない、

 このネコがあの騒動を引き起こしたワケじゃないんだから…

 櫂の意地悪っ」

「なっ」

「誰がだ」

「きゃぁコワい…」

そう言って真奈美がネコを抱きかかえて走り出そうとしたとき、

ドンと人にぶつかってしまった。

「あっごめんなさい」

咄嗟に謝ると。

「いえいえ、」

「え?」

金髪に碧眼の美女がそこに立っていた。

「えっえぇっと…」

なんて答えたらいいのか困惑していると、

「私は、ミール、今日からこの学校の英語の講師をします。よろしくね」

と言って手を差し出した。

「あっ、どうも」

真奈美は差し出された手と握手した。

「あれ?、あなた…確か…」

そのとき真奈美はこの講師とすでに会っていることを思い出した。

「どこかで会いましたか?」

彼女が首を傾げる。

「いっいえ…あたしの思い違いかも」

と答えていると、その横を、

「ほらっ、ルシェル…なにモタモタしているのっ、遅刻よ遅刻!!」

「あん、シルル、待ってよ…」

「予鈴まであと5分…」

高校の制服を着た3人の娘が通り過ぎていった。


「あいつら…」

「昨日の…」

真奈美に言うと、

「あっ、やっぱり櫂もそう思った?」

「うん」

「でも、向こうはこっちに気づかないみたいね」

「どうする?」

「しばらく様子をみるか」

僕が答えると、

「ほらっ、櫂っ」

「あたし達も急がないと遅刻よ」

そう言って真奈美は走り出した。



報告します。

ミール・シルル・ルシェル・サルサの4名はムー領内への侵入に成功。

以上を持って作戦の第1段階の終了とします。



おわり





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