風祭文庫・人魚の館






「五十里の野望」
(第10話:決戦)


作・風祭玲
(RB原案・TWO BIT)


Vol.089





この話を読む前に”レンタルボディ編:ヒミコシリーズ”
並びに”色々なお話:No11 ウルトラナイン”
を読まれますとちょっぴり味が濃くなります。

「ヒミコ」シリーズの詳細については


http://www2u.biglobe.ne.jp/~bell-m/bunko/rb/index.htm


を参照して下さい。


「ウルトラナイン」の詳細については

http://www2u.biglobe.ne.jp/~bell-m/bunko/dabun/29.htm


を参照して下さい。



なお、「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/indexj.html


を参照して下さい。





「全機攻撃開始!!」

シュパ〜〜〜ン

富士田の指示でファイターから一斉にミサイルが発射された。


「きゃぁぁぁ、ミサイルよミサイル!!」

「しかも、いっぱい!!」

マナが悲鳴を上げる。

「うわぁぁぁぁっ…来るなっ」

反射的に思わず右手で払った瞬間。

ドドォォン、ドドォォン…

目の前にまで迫ってきたミサイルが、突然、爆発を起こし始めた。

「え?」

「なに?」

「どうなってんの?」

僕とマナは爆発の衝撃も爆風も感じず、

まるでシャボン玉が弾けるようにして散っていくミサイルを呆然と見ていた。



「しまった!!」

すべてのファイターから一斉に放たれたミサイルを見て、富士田は声を上げた。

「一度に撃ちすぎた!!、これじゃぁ怪獣は…」

怪獣に吸い寄せられるように、

幾筋の白い筋を延ばして大量のミサイルが突き刺さっていく、

「馬鹿者っ、ミサイルを一度にそんなに撃ち込むヤツがあるかっ」

映像を監修している監督からの怒鳴り声が無線を通して響いた。

「やばいっ」

とっさに、富士田は怪獣がこの攻撃に持ちこたえてくれることを祈った。

「お願いだ、まだ死なないでくれぇ〜っ」

すると、ミサイルがまるで透明な壁にブチ当たったかのように、

コン

と弾かれると、次々と爆発しはじめた。

「え?」

怪獣の周りに閃光の花が咲き乱れる。そして、

ドドドドドドド〜〜ン

っと衝撃波が機体を揺らした。

「怪獣は…」

衝撃波を避けるように機体を持ち直すと、

富士田は怪獣の様子をうかがった。

やがて、煙の中から怪獣が悠然と姿を現した。

「良かったぁ…無事で」

怪獣が健在なのを確認すると富士田はほっと胸をなで下ろしたものの、

「それにしても、あれだけのミサイル攻撃を1度に受けても、無傷とは…」

「こいつ…ひょとして、俺達が考えている以上にとんでもないヤツかも」

富士田の背筋に冷たいモノが走る。


とっさに無線のマイクを取ると、

「隊長機より全機へ」

「怪獣は特殊なバリアで守られているようだ、十分に気をつけるように」

と指示を出し、

「本部っ、こちら富士田」

本部へ通話をはじめた。

『はい、こちら本部』

「見ての通り、怪獣は特殊なバリアで守られているようだ」

「作戦に変更はないか?」

と尋ねたが、

『こちらでも確認した、現在対策を協議中』

「それまでの間、シナリオ”B−29”に沿った行動をするように」

そう指示を伝えると、本部の方から無線を切った。

「おっおい、時間稼ぎにB−29をそのまま続けろって言うのかよ」

富士田は無線機に向かって言っていると、


ギユゥゥゥゥゥン

後から発進したしてきた、自動操縦のファイター編隊と

VTOLが上空にさしかかってきた。

「ヤラレ役のダミー編隊とお守りのVTOLか」

「よし、ココはあいつ等に任せて…」

「隊長機より全機へ」

「怪獣の様子を観察する、持ち場をダミー機に譲り一旦離脱せよ」

と指示を出した。

『えぇ、もぅ離脱ですかぁ』

文句を言う声が聞こえてくるが、

「早くしろっ、コレは隊長命令だ」

と言って富士田は自機を怪獣から引き離した。


「こっコラっ、勝手に動くなっ」

無線を通して監督の怒鳴り声が響くが、富士田はそれを無視した。

「ふん、文句があるのならこっちに来て言え」

そう呟くと、携帯電話を取り雪子に電話を掛けた。

「あぁ、わたしだ」

「TV見たか?」

『……………』

「そうだ、あれだけのミサイルを喰らっても、ヤツはピンピンしている」

『……………』

「ここは一つお前に任せるしかないかもな」

『……………』

「あぁ、そうだ」

「あのダミー編隊が壊滅したらココに来い」

『……』

そう言うと電話を切った。


「うん、判ったわ」

「じゃぁ…いま到着したファイター達が撃墜されたら、そっちに行くね」

『……………』

『…………………』

「はい」

雪子は電話を切るとTVを見た。

TVでは防衛軍によるミサイルの一斉攻撃を受けても無傷である怪獣について、

評論家達や国会議員が討論を繰り広げていた。

無論、討論会の流れは防衛軍の装備の充実と言う方向に流れはじめていた。



「カナったら凄い…」

「あれだけのミサイルを打ち落としてしまうなんて」

マナが感心したように僕を見る。

「いやぁ、そういうわけでも」

「向こうが勝手に爆発したみたいだけどなぁ」

と言っていると、

僕たちの周囲を伺っていたファイターが別のと入れ替わりはじめた。

「新しいのが来たみたいね」

マナが呟く、

『おい、お嬢さん達…』

おっさんがヌイグルミを通して話しかけてきた。

『いや、凄かったぞ今のは…』

『あれだけのミサイルを一気に撃墜してしまうなんて』

『お嬢さん達は相当強いんじゃないのか?』

「それよりも、おっさん」

『なに』

「僕たちは防衛軍と闘う気はないんだけど、これ何とかならないの?」

と言うと、

『う〜ん、それは難しいかもなぁ』

『連中、ここで点数を稼がないとリストラされてしまうし…』


「カナ、カナ、カナっ」

マナが後ろで騒ぎはじめた。

「どうしたの?」

「あっあれ…」

「え?」

マナが指した方をみると、

いつの間にか現れた防衛軍のVTOLから、

特大のミサイルが放たれようとしていた。

「ちょちょっと待ってよぉ」



ぐぉぉぉぉぉん

「目標を捕捉…」

「よし、E1MAX、発射っ」

ガコン

VTOLからミサイルが切り離されると、

シュゴォォォォォン

大音響をあげて大型ミサイルが怪獣目がけて発射される。



「うわぁぁぁ、きたぁぁぁ」

ずんずん迫るミサイル。

「きゃぁぁぁ」

マナが僕の陰に隠れた。

「でぇぇぇぇぃ」

思わず左腕を出してミサイルを受け止める素振りをしたとたん、

ぐにゃ

広げている羽の1枚が腕に変形して、

ぱし

っとミサイルを受け止めた。

ググググググ

グイグイと押してくるミサイル。

その力が僕の腕に伝わってくる。

「くぉのっ」

思いっきり押し返した、と思った瞬間。

ガガガガガ

ミサイルは3つに裂けると、

ズドォォォォォン

大爆発を起こした。



「ねぇ…こんなシチュエーション、

 あたし、アニメで見たような気がするんだけど」

マナがぼそっと言う。

そう言えば僕も見た記憶がある。

アレはなんて言ったっけ?



「ふむ、やはり通常兵器では役に立たないか」

落ち着いた表情で言う夏目。

「あぁ、そうでなければ単独兵器としては役に立たないよ」

ゆったりと構える桂


「おいっ、遊んでないで、あいつ等を捕らえる方法、考えついたのか」

五十里が声を上げると、

「いや、支社長」

「連中が何かバリアのようなもので守られているのでは

 と言っているんですよ」

と桂が身を乗り出して言う。

「それにしても、あぁも通常兵器が役に立たないとなると、

 捕らえるのは至難の業ですよ」

「それを何とかすのが君たちの仕事だろうが」

「通常兵器が役に立たないのなら、逆に原始的なのはどうだろうか?」

夏目が呟く。

「え?」

「見たところ、連中はそんなに早く動けないようだから…」

「見方を変えて、そうだなぁ……」

「投網で一気にすくい取るのはどうだろうか?」

と言う夏目の提案に相沢は

「夏目さん、そんな大きな網、どこにあるんです?」

「それに、ココは海ではなくて空ですよ」

とあきれ顔で言った。

「いや、面白い…」

五十里の目が光った。

「いくらバリアで保護されていても、網ですくってしまえば関係ない」

「それにこのUFOなら連中をつり上げることは簡単だ」

そう言うと、

「桂、直ぐに網を用意しろ」

「え?えぇっ?」

「それから、人魚の周りでウロウロしている防衛軍のおもちゃを追い払うんだ」

と指示を出した。



ズドォォォォォン

VTOLから発射された大型ミサイルが怪獣に阻止されたのを見た富士田は、

「ヤバイぞ、これは」

本能的にそう呟いた。

やがて、散開していたファイターが一斉に攻撃を始めようとしたとき、

シュピー

これまで沈黙をしていたUFOが突然ビーム砲でファイターを攻撃し始めた。

「しまった、アイツがいた」

すっかり、UFOのコトを忘れていた富士田は、

発射されるビーム砲をかい潜るようにしてファイターを操縦する。

次々と撃ち落とされるダミー機。

富士田は無線を取ると、

「シナリオは破棄しろ、各自攻撃目標をUFOに合わせ攻撃開始」

『怪獣はどうします?』

と言う部下の問いに、

「怪獣は、まもなくウルトラナインがやってくる、それに任せるんだ」

『えっ、ウルトラナインってまだ地球にいるんですか?』

「あぁ、私が連絡をした」

『はぁ?』

「いいから、さっさとUFOを攻撃するんだ」

「じゃないとこっちが全滅だぞ」

『了解』



怪獣を攻撃していたファイターは怪獣から離れるとUFOに向かいだした。

「五十里、奴さん達、こっちに向かってきたが、大丈夫か」

心配する夏目に、

「ふっふっふっ、よかろうっ」

「私と闘うというのなら、相手になってやる」

「全砲門を開け、砲雷撃戦用意っ」

五十里は声を張り上げる。

「おいおい、これは戦艦じゃないんだぞ」

夏目は張り切る五十里を背にため息をついた。



やがてUFOvs防衛軍の一大空中戦が所沢付近の都県境で始まった。

防衛軍は、当初のシナリオによる怪獣撃退作戦が、

現場のなし崩し的な判断によって崩壊したために、

急遽JR武蔵野線を第1次防衛ライン。

環状八号線を第2防衛ライン。

JR山手線・明治通りを最終防衛ライン。として

怪獣並びにUFOを迎撃する体勢に切り替えていた。


「全く、富士田君の独断のおかげでとんだ大騒動になってしまったわ」

三枝長官はぶつぶつ文句を言うが、

世論はマスコミの巧みな操作と予想外の展開のために、

防衛軍増強へと傾きつつあったので、内心は喜んでいた。


「あ〜ぁ、すっかり、街の中に出ちゃったね」

マナが眼下を見下ろしながら言う、

直ぐそばではUFOvs防衛軍の激しい戦闘が繰り広げられているのだが、

なぜか僕の周囲は平和な静寂が包んでいた。

「あいつ等、あたし達を放って置いて戦争を始めちゃったけど、いいの?」

あきれた顔でマナが言う。

「さぁな」

下に見える高速道路にはクルマが一台も走っていない。

「クルマ、いないね…」

「うん」

「おそらく交通規制が敷かれているんじゃないかな?」

「そうだ」

「おっさん、いる?」

『なんだ?』

「いま下はどういう状況なの?」

『あぁ』

『お嬢ちゃん達の横でやっているUFOとのドンパチを盛んに報道しているぞ』

「それだけ?、僕たちのことは?」

『どうやら、お嬢ちゃん達はあのUFOの操られている様なことを言っているなぁ』

「そうなの?」

『というか、どのチャンネルも防衛軍の増強のことについてばかり言っているからな』



風が変わったのか、僕たちはUFOから離れはじめ、南南東の方向へと向かいだした。

「スピードが上がったね」

マナが景色の動くスピードが上がってきたのを見てささやく。

「そうみたいだな…しかも向きも変わったみたいだし」

「こりゃぁ、ひょっとすると東京には出ないかも知れないぞ」

「ほんと」

マナの表情が明るくなる。

「よく判らないけど」

「もぅ、カナったら」



「マズイ、怪獣が先に動き出した」

富士田は直ぐに携帯電話を取ると雪子に掛けた。

「あぁ、俺だ、怪獣が先に進みだした」

「第1次防衛ラインはすでに突破されているから」

「なんとしても、第2次防衛ラインの環八で仕留めてくれ」


「判ったわ、あなた…」

雪子は電話を切ると庭に出て手にしたカプセルを高く掲げた。

ぱぁぁぁぁ

強烈な光と共に雪子の姿が消える。



「五十里っ、人魚がどんどん離れていくぞ」

「なにっ?」

五十里がモニターを見ると、

さっきまで横にいた人魚が徐々に離れはじめていた。

「風向きが変わったようですね」

桂が言う。

「くっそう、追えっ、追うんだ!!」

五十里はそう命じるが防衛軍の攻撃に阻まれて、

UFOは思うように移動できなかった。



「カナっ、UFOからどんどんと離れていくよ」

「ホント?」

「ほら…」

マナが指さしたUFOは徐々に小さくなっていった。

「よしっ、このまま海に行ってしまえば、こっちのものだ」


ひゅぉぉぉぉ

びっしりと住宅やビルが建ち並んだ上を飛ぶ、

やがて、一本の大きな通りが姿を見せた。

その道路に近づいてきたとき、

ブワッ

っと一瞬影が僕を頭の上を覆うと、

ズシン!!

トリコロールカラーの巨人が目の前に現れた。

「ウルトラナイン」

僕とカナは口をそろえてその巨人の名前を叫んだ。

『こりゃまた、とんだヒーローが現れた物だな』

おっさんも驚いている。


へぁ

ウルトラナインは間合いを取ると構えた。

「ちょっちょっとぉ〜」

「あたし達を退治するつもり?」

マナの問いに、

『この様子では、十中八九そう考えていいだろうなぁ』

おっさんが答えた。

「おっ、おい、あんなのと闘ったら勝ち目は無いぞ」



「お兄ちゃん、凄い!!」

ウルトラナインが現れたことを告げるTVを香奈は食い入るように眺める。

「ところで香奈っ、あんた学校は?」

綾乃が香奈に聞くと

「連絡があって今日は休校だって」

TVを見ながら答える。

「仮にあっても授業にはならないわよ…これじゃぁ」



ポショポショ

「えぇ、あたしがそれやるのぉ〜っ」

カナからある作戦を聞かされたマナを声を上げる。

「お前しかいない、頼む」

カナはマナに頭を下げた。

「もぅ」


じゅわ

『困ったわ…』

『これまでの怪獣とは違うから、どう攻撃していいか判らないわ』

雪子は判断に迷っていた。

っとそのとき、

「待ってください、ウルトラナイン」

怪獣の前に一人に人魚が姿を現した。

『人魚?』

「あたし達はこの海で静かに暮らしている人魚の一族です。

 実はあそこにいる悪い宇宙人にあたし達の宝と共に、
 
 さらわれてしまい、やっとの思いで逃げ出してきたのです」

『逃げ出してきた?』

雪子は構えを解くと人魚の話に耳を傾けた。


『そうか、彼らは海に帰る途中だったのね』

話を聞き終わったウルトラナインはマナにそっと手を差し出した。

「え?、海まで連れて行ってくれるんですか?」

マナが訊ねると、

ウルトラナインはすっと頷いた。

「カナっ、ウルトラナインがあたし達を海まで連れて行ってくれるんですって」

マナが嬉しそうに僕に言う。

「そっか…助かった」



それより少し前、鹿島灘の沖合に3筋の筋が流れはじめた。

「おいっ、なんだあれは?」

それを見つけた漁船の漁師が指を差して言う、

「まさか、ゴジなんとかちゅう、トカゲモドキじゃぁないだろうなぁ」

やがて、

ザザザザザザ

水しぶきをあげながら身の丈20mほどの水竜が姿を現した。

「うわぁぁぁ〜」

大慌てで逃げまどう漁船をよそに、

「いけぇぇぇぇ」

青緑色の鱗を輝かせた人魚が大声を上げる。

ブワシャァ〜

続いてもぅ一体

「シルル…こういう登場をしちゃぁマズイんじゃぁないのぉ」

ザバァ

さらにもぅ一体

「目標は10時の方向、距離100,000」


「ぶつぶつ文句を言わないっ」

「ちゃっちゃと仕事をして、直ぐに引き上げるわよ」

シルルはルシェルにそう言うと、

「サルサっ、ちゃんとナビしてね」

「ミールに叱られるよぉ」


3頭の水竜は程なく成田の上空を通過する。

ひゅぉぉぉぉぉぉ

「ふぅぅぅ、気持ちいいわ」

「アジアなんて来たことがないから新鮮だわ」

「で、海母の反応はどっち?」

シシルはサルサに訊ねると

「11時の方向、距離50,000」

サルサは機械的に伝える。

「11時の方向?」

シルルは身を乗り出すと、

遠くに一人の巨人と6枚の羽を持つ物体が目に入った。

「なるほど、あっちね」

「ルシェル・サルサっ行くわよぉ」

そう言うと、竜をその方角へと向かわせた。

「うふふふふ、お宝いただき」



つづく


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