風祭文庫・人魚の館






「五十里の野望」
(第9話:参入)


作・風祭玲
(RB原案・TWO BIT)


Vol.088





この話を読む前に”レンタルボディ編:ヒミコシリーズ”を読まれますとちょっぴり味が濃くなります。

「ヒミコ」シリーズの詳細については


http://www2u.biglobe.ne.jp/~bell-m/bunko/rb/index.htm


を参照して下さい




なお、「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/indexj.html


を参照して下さい





ここは米国・HBS本社。

そこの最上階にある会議室で一人の女性が、

ディスプレイパネルに映し出された幹部達と会談をしていた。

「さて、このミスター五十里のプランは見させてもらいましたが」

「はっきり言って重大な欠点があるコトを指摘します」

スーツ姿の女性は資料をパラパラと眺めながら言う。

『…ほぅ、欠点とは』

ディスプレイに映し出された男が問いかける。

「それは、彼のプラン”Mプロジェクト”には、

 キーとなる情報・技術が未だ手中にはなく、

 それを手に入れる所から始まっています」

『………』

ディスプレイの男は答えない。

「これでは、それらを手に入れることが計画の柱になってしまい」

「肝心の技術の応用・開発が後回しになってしまいます」

「現にこの報告書を見ますと、

 彼は人魚の捕獲に予算の大半を注ぎ込んでいる上に、

 未だ捕獲は実現していません」

『…なるほど』

「このような無駄な投資は慎まなければなりません」

「その点、我々ならベースとなる技術をすでに保有し、

 また、そちらに提供出来る体勢がすでに整っています。

 さらに、そちらからの々な相談・指導等にも協力をするつもりです」

彼女はそう言い切ると、中央のディスプレイに映し出されている男を睨んだ。

『ふむ……』

「決して、悪い話ではないと思いますが」

『…つまり、我々はMプロジェクトから手を引けと言うことか』

「いえ、それはそちらか決めることでして、

 私が指図する謂われはありません」


『ふ〜む』

『どうかね』

『そうですなぁ』

『五十里クンも頑張ってくれてはいるようだが、

 如何せん金と時間を使いすぎている』

『ここいらで、保険をかけておくのも…』

『…いいかもしれんな』


重役達のひそひそ話がまとまると

『よかろう……』

『キミ達と手を組もう』

「ありがとうございます」

「つきましては……」

『いや、その前にキミ達が本当に信用できるのかどうか試させていただく』

「なっ…」

女性は声を上げる。

『キミ達との契約はその後だ』

会長がそう告げると重役達は次々とスクリーンから姿を消した。

「くっそうっ、タヌキ共めが」

女性はそう怒鳴ると資料を机の上に叩きつけた。


「ふぅ」

金色の髪をたなびかせて彼女が会議室から出てくると、

「ミールさま、いかがでしたか?」

そう言いながら男が近づく、

「取りあえず半分成功よ、ラル……」

そう呟くとミールは廊下を歩き始めた。

「半分とは?」

「お試し期間って事よ…」

「あいつ等、あたし達が信用できるのか試すなんて吠ざきやがったわ」

「あったまくるったらありゃしないっ」


バムッ

用意しておいたリムジンに乗り込むと、

「はぁ……慣れないところにいたから肩がこったわ」

そう言いながらミールは自分の肩に手をやり揉みほぐしはじめた。

「お疲れさまでした」

ラルがねぎらう。

「それにしても人間って、どうしてこうキっツイ服を着たがるのかしら」

ミールはそう言いながらベルトを緩める素振りをすると、

「ミールさま、後が大変ですのでクルマの中で変身を解かないでください」

ラルはすかさずミールにクギを差さす。

「判っているわよ」

「ちょっと、ベルトを緩めただけよ」


ミールを乗せたリムジンは街の中を颯爽と走り抜ける。

「しかし、本契約にはならなかったのは残念ですね」

「えぇ、あたしのミスだわ」

「地上人がこれほどガードが固いとは思ってもいなかったわ」

ミールは車窓を眺めながら呟いた。

やがてリムジンは郊外の海に面した邸宅へと入っていった。



ガチャ

ミールが玄関を開けると、

「あっ、ミールさまお帰りなさい」

「いかがでしたか?」

作業中のスタッフがミールを取り囲みはじめた。


「ちょっとケチが付いたけど、

 取りあえずはオッケーっ、作業は続けてね…」

そう言うとミールは部屋を後にした。

海に面する部屋に来るとミールはスーツを脱ぎ捨てると裸になり、

そして、庭先に誂えてある巨大なプールに

ザブン

と飛び込んだ。

夕暮れの風があたりをなめ回すようにして吹く、

ザパっ

長く潜っていたミールが水面に顔を出すと気持ち良さそうに一泳ぎする。

すると、それを待っていたかのように

彼女の両足が徐々に1つに融合していくとやがて一本脚になり、

また、左右の両足先も一体化し一枚の鰭へと変化すると、

肌色の脚に青緑色の鱗がわき出るように生えはじめた、

そして、脚を覆い尽くした頃、彼女は人魚へと変身した。

「プハァ……」

「くぅぅぅぅぅぅ……」

「一日の仕事が終わってこうして本来の身体に戻る、

 この瞬間がたまらないのよねぇ……」

ミールはそう言いながら、鰭と化した脚を

上下に動かしながらプールの中を泳ぎ回った。

「あら、ミール、帰ってたの?」

一人の女性がプールに入ってきた。

「あっリムル」

「服、脱ぎっぱなしだったわよ」

「ゴメン、あとで片づけて置くわ」

「まったく、少しは乙女の恥じらいと言うのを持って欲しいわ」

リムルは文句を一通り言った後、

「どう?、交渉はうまく行った?」

そう言いながら服を脱ぎはじめる。

「それがねぇ…お試し期間なんだってさ」

「え?」

「しばらくの間、あたし等を使って使えそうなら採用、

 駄目ならバイバイってことよ」

「あははは…だから私が言った通りになったでしょう?」

「そりゃ、そうだけど、でも悔しいわ」

そう言うとミールはスイっと泳ぎはじめた。

リムルも裸になるとプールへ入る、

たちまち彼女の下半身は魚のそれへと変化し、

パシャッ

と言う水音を立てて泳ぎ始める。

「けど、半分とはいえうまくだましたものね」

「あら、だますなんて人聞きの悪い言い方をしないでよ」

「わたしは彼らに条件を提示しただけで、連中はそれに乗ってきた…」

「だましてなんかはいないわ」

「ふふ……さぁそれはどうかしら?」

「さっきの例もあることだし、地上人をあんまり甘く見ない方がいいわよ」

「うん、でもまぁ、これで地上とのパイプが出来上がれば

ポセイドン様はお喜びになるはずよ」

「そうねぇ…我がアトランティスが大西洋に押し込められて早1万年…」

「カリブぐらいしかろくな島もない狭い大西洋とは違って」

「島がいっぱいある広い太平洋で早く泳ぎたいものだわ」

「そうそう」

そう言いながらミールがくつろいでいると、


Pi

リムルがリモコンでTVをつけた。

やがて映し出されたTV画面には、

東京からの生中継で謎の怪獣のことを報じはじめた。

「なに?怪獣?」

「そうみたい」

画面には朝日に照らされてる6枚の羽を広げている怪獣の様子を映し出した。

「?」

ミールはしばらく画面を見つめていると

「あっ、これって」

声を上げた。

「あなたも気づいた?」

「まぁね」

「TVではしきりに”怪獣”って言っているけど」

「この羽の付け根にいるの…」

「恐らく人魚ね…しかも”ムー”の」

リムルは画面をじっと眺める。

「はぁ〜っ」

「連中、こんなことまでおっぱじめる様になったの」

ミールはあきれた声を上げ、

「それにしても、こうも水術を地上人の前で堂々と使うとは」

「ムーの連中は何を考えているのかしら?」

リムルも半分あきれた顔で言う。


「何か意図が合ってのことかなぁ」

「!」

「ちょっと…」

「どうしたの?」

「コイツの下…」

「え?」

「う〜ん、映像が小さくてハッキリとは見えないけど何かをぶら下げているわ」

「そう?」

「ちょっとぉ…手の空いているの、いない?」

ミールはスタッフを呼びつけると、画像分析をするように命じた。


やがて、

「ミール様」

「何か判った?」

「えぇ…TV画像からの分析で確かなことは言えませんが」

「なにかの容器のようで、その中に比較的大型の魚の鰭のようなモノが入っています」

「魚の鰭?」

「はい」

「なんで、鰭なんか…」

ミールが考え込んでいると、

「あっ」

何かを思いついたようにリムルが声を上げた。

「どうしたの?」

「ほらっ、15年ほど前なんだけど…」

「ムーで大騒動があってその際に海母が傷つけられ、身体の一部が奪われた…」

「って話を聞いたことがあるわ」

「じゃぁ、アレって…まさか?」

「そうよ、地上人に水術を見せてまで運ぼうとするモノ…となれば」

「その時の海母の一部?」

「えぇ…」

「しかし、そんな重要なモノをなんであんな形で運ぶわけぇ」

「さぁね」

ミールがTVを食い入るように眺めていると、


「たっ大変です」

ラルが大慌てでミールの元に駆け込んできた。

「どうしたの?」

「ミール様配下のシルル・ルシェル・サルサの3人が禁を破り」

「警備の手薄な北極海からベーリング海峡を抜けて太平洋へ向かったとのことです」

「なんですってぇ〜っ」

ミールが大声を上げる。

「あらあら、大変ねぇ」

「あんの、馬鹿共がぁ〜っ」

「まったくしょうがない娘達なこと」

「シルルめっ、あたしの仕事を増やしやがって…もぅ」

そう言うとミールはプールから這い上がりはじめた。

「出かけるの?」

「仕方がないでしょう、いま向こうと事を起こすとあたし達の計画に響くわ」

「大事にならないうちに強制連行してくる」

そう言っている間にミールの鰭は足先へと変化し、脚も2つに分かれはじめた。

そして立ち上がる頃には足を覆っていた鱗もきれいに消滅していた。

「頑張ってね…」

プールの中からリムルが手を振る。

「戻ってきたら、お仕置きよっ!!」

そう叫んで、ミールは館の中に姿を消した。


「でも、あの3人、よく北極の下を抜けられたものねぇ」

しきりに感心するリムル。



「ルシェル…あの、島の横を通れば太平洋よ」

シルルは氷越しにうっすらと見える島影をさしてルシェルに言う、

「シルル…寒いよぉ…疲れたよぉ」

弱音を吐くルシェル。

「全く根性なしねっ、少しはサルサを見習ったらどうなの?」

「そんなこと言ったって…」

訴える目でルシェルが文句を言うと、

「なぁに言ってんのっ」

「あんた、ミールのハナを明かしてやりたい。って思わないの?」

「え?」

「い〜ぃ、ムーの宮殿の奥深くに眠る海母は私たちアトランの祖でもあるのよ」

「それは知っているよ」

「だから、海母の半分はあたし達の物」

「それを取り返しにこうして来ているんじゃないの」

「でも、ミール様の許可を貰っていないじゃない」

「あんたねぇ……」

「ミールの許可をいちいち貰っていたら日が暮れてしまうじゃない」

「そんなもん事後承諾で十分よ」

とシルルが言ったところでサルサが、

「急ぎましょう…ここで長居をすると凍ってしまいます」

そう言うと、さっさと先に進んだ。

「ほらっ、こんなところで文句を言っていないでさっさと行く」

シルルはルシェルが乗っている水竜の尻を叩くと、

先行するサルサの後を追い始めた。

「ミール様に見つかっても、これ全部シルルのせいだからね」

ルシェルはそう文句を言うと、水竜を南へと向かわせた。



つづく


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