風祭文庫・人魚の館






「五十里の野望」
(第7話:脱出)


作・風祭玲
(RB原案・TWO BIT)


Vol.086





この話を読む前に”レンタルボディ編:ヒミコシリーズ”を読まれますとちょっぴり味が濃くなります。

「ヒミコ」シリーズの詳細については


http://www2u.biglobe.ne.jp/~bell-m/bunko/rb/index.htm


を参照して下さい




なお、「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/indexj.html


を参照して下さい





「くっそう、忌々しい鳥羽めっ」

五十里はそう怒鳴ると、榛名に、

「おいっ、”ドール・マッスルマン”は使えるか」

と聞いた。

「なっ、支社長っ……マッスルマンをお使いになるので」

榛名は驚いた顔で五十里を見る。

「使えるのか?と聞いておる」

「無理です。昨日”アキラ”との接続機動試験を行ったばかりで、

 まだ微調整が終わっていません。いま出すのは危険ですっ」

と榛名は反対した。

「かまわん、俺が出すと言ったら出せ」

「ダメです」

珍しく榛名は五十里の命令に反抗する。

「えぇいっ、どけっ」

「俺が直接命令を下す」

「どきませんっ、RBの開発・運用の責任者は私です」

「なんだとぉ、貴様っ」


「…私だ、ドール・マッスルマン1号を直ちに起動」

険悪な雰囲気に夏目は自分の権限でマッスルマンの稼働を命令した。

「いけませんっ、夏目さんっ」

「ゆるせっ、榛名っ」


マッスルマン1号が射出されたのはそれからしばらく経ってのことだった。

「マッスルマン1号、目的地に到着」

オペレータの声に、五十里はマイクを握ると、

「わははははは…」

「よくぞココまで来たきたものだな、ほめてやる」

としゃべり出した。

「…むっ、その声は五十里か…」

鳥羽の声に、

「ふふふふふ、鳥羽っ、よくも散々俺をコケにしてくれたな」

五十里がそう言うと、榛名が五十里に飛びかかりると、

「支社長っ!!やめてくださいっ」

と言って五十里からマイクを奪い取った。

「うるさい、だまれっ」

「えぇい、貴様はクビだ!!、とっとと失せろ」

そう言って警備隊員に榛名を連行するように指示を出した。

「うわぁぁぁぁ」

連行されていく榛名。

「ふん、私のじゃまをする奴は誰とでも許さん」

「…おい五十里ぃっ、

 ラスボスにしてはちょっと登場が遅すぎないか…」

鳥羽が痛いところを突く、

「喧しいっ」

「さぁドール・マッスルマン1号よ、

 そこにいる奴らを標本にするのだ」

とマッスルマン1号に指示を出すと、

「…イエス…」

そう叫んで、マッスルマン1号は人魚達に向かって歩き出した。

しかし、結果は……


「マッスルマン1号、完全に沈黙」

オペレータからの報告は五十里の敗北を意味する物だった。

「おのれぇっ、よくも私のマッスルマンを…」

悔しさで五十里の表情が一段と険しくなる。

「すぐに2号の支度をするんだ!!」

「しかし、2号はまだ”アキラ”のインストールが

 完全には終わっていませんが」

「構わんっ、さっさと支度をさせろっ」

五十里はそう言うと席を立った。

「ん、どこへ行くんだ?」

部屋を出ようとする五十里に夏目が訊ねる。

「トイレだ…」

一言そう言うと五十里は部屋を出ていった。



「ふぅ…全く何奴も此奴も…」

文句を言いながら五十里が用を足していると、

「よう、五十里じゃないか、奇遇だなぁ」

と隣から声がかかった。

「なっ」

「とっ鳥羽っ」

そう、五十里の隣で鳥羽俊介が用を足していた。

「おっと、いま下手に体を動かしますとズボンに掛かかりますよ」

「くっ」

「まぁ、このときが男にとって一番無防備になる時間ですから」

「ちゃんと周囲の状況をしっかりと調べた上でチャックを開かないと

 取り返しのつかないことになりますよね…」

そう言いながら鳥羽は片目を瞑ってみせた。

「取り返しのつかないだと…」

「貴様っ、私に何をするつもりだ」

「え?、何をするのかって?

 見ての通り私も両手がふさがっていて動けませんよ、あははは」

沈黙の時間が流れる…

「ふぅ……」

鳥羽が腰を振ると、

「おやっ、私の方が早かったみたいですね」

ぐっと構える素振りをする五十里。

「まぁまぁ、そう警戒しなくても…」

「そうだ、支社長就任祝いをまだ渡していませんでしたね」

そう言いながら、鳥羽は横に置いてあった紙袋をごそごそと開けると、

ピンク色のクマのヌイグルミを取り出した。

「最近、流行っているそうですよ」

と言って、それを五十里の頭の上にポンと乗せた。

「”トトちゃん2号”と言います。

 私の手作りですので、大切にしてください」

「じゃっ」

と言う言葉と共に鳥羽は消えるように姿を消した。

「こらっ、鳥羽っ、待てっ……痛てて」

慌ててチャックを上げてしまった五十里は思いっきり挟んでしまった。


ドカドカドカ

五十里が戻ってくると、

「よう、五十里遅かったな」

「なんだ、そのピンクのヌイグルミは……」

夏目は五十里の頭の上のヌイグルミを怪訝そうに見る。

「あっ、支社長、お茶目ですね」

「いまそのクマのヌイグルミが流行っているんですよ」

桂が物欲しそうに言うと、

「馬鹿者っ」

「遊んでいる暇があったらさっさと仕事をしろっ」

「ったくぅ、なんだこのヌイグルミは」

五十里は手を伸ばして頭の上のヌイグルミを取ろうとしたが、

なぜかヌイグルミはがっしりと頭に張り付き容易にはとれなかった。

「なっ、この野郎っ、くそっ」

そんな五十里の様子に、

クスクス

周囲から笑いがこぼれる。


「マッスルマン2号の射出準備が出来ました」

「如何しますか?」

オペレーターが訊ねると、

「よし、すぐに出せっ」

ヌイグルミを引っ張った状態で五十里は指示を出す。

「了解っ」


「…さて、どうしようか」

”鰭”が入った容器を前にして僕とマナは考え込んでいた。

「こんなにでかくては竜彦じゃぁ運べないし…」

「う〜ん」

「ねっ、この間あたしに見せたカナの飛空術で運ぶのは?」

「無理無理、水の量が足らない上に、どうやってここから飛び立つんだ」

と言って天井を指さす。

「そっか………」

「エレベータで上に運ぶと言っても、あの白いのが壊しちゃったし…」

「誰かが一旦竜宮に戻って”水の道”の門をココに開けるにしても」

「ここは竜脈の節じゃないからなぁ…」

「困ったわねぇ…」

っと考え込んでいると、


ドールNo3がひょっこり顔を出した。

そういえば、コイツ…さっきなんでサキさんのメッセンジャーになったんだ?

「あれ、No3…どうしたの?、そのクマのヌイグルミ…」

マナがNo3の頭の上に置いてあるピンク色のクマのヌイグルミの事を尋ねた。

No3は上のヌイグルミを指さすと、

「よう、俺だ、お嬢さん達」

とおっさんの声がヌイグルミから流れてきた。

「おっさん……なにしてんのそんなとこで」

僕がヌイグルミに訊ねると。

「あぁ、これか?」

「もしものコトを考えてな、通信用に置いていったんだ」

「ふぅ〜ん」

「で、なんでNo3の頭の上なんだ?」

「あははは、実はなそのヌイグルミはドールを

 遠隔操作出きる仕組みになっていてな、
 
 いま私がそのドールを別の所から操作しているんだよ」

と答えた。

「はぁ」

感心しながら、ヌイグルミを眺める僕とマナ。

「さて、実は君たちに知らせておくことがある」

急に改まった声でおっさんは喋り始めた。

「なに?」

「さっきのドール、あの白いヤツだけど、

 そろそろ次のがそっちに降りていくぞ」

おっさんはアッサリととんでもないことを教えてくれた。

「………ぬわにぃ?」

「また、あいつが来るの?」

マナは露骨にイヤな顔をする。

「五十里のヤツはしつこくて、

 一度手を出したらトコトンまでやるヤツだからな」

「はぁ………また、アレと戦うのか」

僕はがっくりと項垂れる。

「まぁ、そうイヤな顔をするな」

「今度のヤツにはちょいと細工をしてある」

「降りてきたら、戦わずに逃げろ」

「え?」

と喋っているウチに、


ズズズズズズズズズズ………ズズン!!

と地響きを上げヤツは降りてきた。

「来たぁ〜っ」

「フォォォォォォォォ」

相変わらず、白いタイツ姿にマッチョな身体を、

見せつけてヤツは僕たちの前に現れた。


「マッスルマン2号、目的地に到着。バトルモードに移行します」

オペレータの声に、五十里は頷くとマイクを持った。

「ふはははははは」

「さっきのは、ほんの小手調べだ」

「今度は本気だから覚悟しろっ」

五十里の声が響き渡る。


「いいな、ヤツとは戦うな、ひたすら逃げ回るんだ」

ヌイグルミのおっさんの声に僕たちは頷いた。


「さぁ、行けっ、マッスルマン2号!!」

「フォォォォォォ」

マッスルマン2号は徐々に迫りはじめる。

間合いを取りながら逃げる僕たち。


「ほぅ、逃げの姿勢か…」

五十里はモニターに映し出された人魚達の様子を見ながらつぶやく。

「ふっ、マッスルマン1号の仇だっ、押しつぶしてしまえっ」


「フォォォォォ」

僕たちに迫るマッスルマン2号。

「きゃぁぁぁぁぁ」

取りあえず、おっさんの指示通り逃げ回る僕たち。

「わはははははは、痛快痛快」

ヌイグルミを頭に乗せたまま、笑う五十里。

しかし、


Pi−−−−−−

突然警報音が鳴り響くとマッスルマン2号は停止した。

「どうした?」

五十里は笑うのをやめるとオペレーターに問いただした。

「緊急事態発生!!」

「各神経系にエラーが続出していますっ」

「シンクロ波形にも乱れが…」

「パルス反転!!」

「信号が逆流してきます」

「あと、10秒でアキラの処理能力を超えます」

「いかん、未調整部分でエラーが発生したんだ」

桂が叫んだ。

「直ぐにシャットダウンして回収しろっ」

夏目も続いてが叫ぶ。

「駄目です、アキラ、ハングアップ…制御ができません」

「なにっ?」

「マッスルマン2号、暴走状態に突入!!」



「なんだ?」

突然止まった、マッスルマン2号の様子に僕とマナは顔を見合わせる。

「ふっ、案の定、暴走状態になったな」

No3の上のヌイグルミが喋る。

「なんだ、暴走というのは」

竜彦がヌイグルミに聞くと

「身体とBIOSとが不整合を起こして制御ができない状態になったことだ」

「よくわからん」

「お嬢ちゃん達…」

「え?」

「なにか頑丈そうな物の陰に隠れな」

「これから、ここが吹っ飛ぶぞ」

「吹っ飛ぶ?」

「あぁ、あと少しでコイツは大暴走を起こすからな」

「あの”鰭”も下げておくといい」

そう言うとNo3はリモコンを拾い上げると、

Pi

っとボタンを押した。

ウィィィィィン

収納される容器。

竜彦と僕たちは取りあえず頑丈そうな所に身を隠すと

マッスルマン2号の様子を眺めた。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

マッスルマン2号の様子が徐々に変化していく、



「マッスルマン2号の様子はどうなっている」

夏目の問いかけに

「だめです、完全に制御不能です」

と言う答えが返って来た。

「………なにこれ?」

突然、一人のオペレーターが声を上げた。

「なんだ?」

「マッスルマン2号の上半身に生体エネルギーが集中しています」

「なんだと」

モニターを食い入るように見る桂、

だが、直ぐに顔色が青くなる。

「まずいっ、気孔砲の発射モードに入ってる」

「気孔砲?」

「生体エネルギーのビーム砲だ」

「しかも、リミッターが外れているから…こりゃぁ最大出力で撃つぞ」

「どうなる?」

夏目の質問に、桂は握った手を開くと

「ここが……”どっかーん”ってこと」

と答えた。

「なっ」

「止められないのか」

「無理です、アキラがハングアップしているために、

 すべての停止信号が無視されています」

「えぇぇぇい」

「総員待避!!」

「直ぐに逃げるんだ!!」

五十里の一声で1号館の中はパニック状態になった。

「うわぁぁぁぁぁ」

「逃げろ〜っ」

まさに阿鼻叫喚。



うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん……

「なにやら上、うるさいね」

マナが上を見ながら言う。

「お嬢ちゃん達、ヤツはこれから自分の身体を吹き飛ばして気孔砲を打つ、

 そうなるとこの天井より上がすべて吹き飛ぶから、そうしたら脱出するんだ」

ヌイグルミはそう言うと、No3が僕たちの頭を押し下げた。

「吹き飛ばすって」

「じゃぁあたし達はどうなるの」

「ココにいれば、まぁ大丈夫だろう」


「カナ…」

竜彦が僕の名を呼んだ。

「なんだ竜彦」

「水縛結界は作れるか」

「いま僕もそれを考えていたところ」

「でも手元にある水では、そんなに強力なのは作れないぞ」

と言うと、予め作っていおいた水の玉を竜彦に見せた。

「外界と隔絶されちゃぁ、俺もそんなに水を出せないし」

「何喋っているの?」

僕と竜彦のひそひそ話にマナが首を突っ込んできた。


マナの姿を見ると、

「そうだ」

「おい、マナ」

「え?」

「お前の水、ちょっと貸せ…」

「え?、なに?」

「ちょちょっと」

「きゃぁぁぁ…」

マナが持っていた水を取り上げると、水の玉に注ぎ込む。

「よし」

「これなら、何とかなるな」

と僕が言うと、

スッ

その水の玉の上に手を置いた。

「何を始めるつもりだ?」

僕の様子にヌイグルミが聞いてきた。

「シェルターだよ」

と答えると、

「水縛結界!!」

と叫んだ。

すると、

シュパー

水の玉から数本の柱が立つと、それらがつながり一つの水の壁が現れた。

「よし、この中に入れ」

僕は竜彦はマナ・No3を引きずり込むようにしてその中に潜り込む。

「せまい…」

マナが文句を言うが、

「ちっとの辛抱だ、我慢しろ」

と言うと、

「身体を丸めろっ」

と声を上げる。


フォォォォォォン

五十里達を乗せたVTOLが研究所から飛び立った。

眼下に見える研究所からは夜勤の研究員や職員、そして武装警備隊が

我先にと逃げ出していくようすが手に取るように見える。

「けしからんヤツだ、待避命令は1号館のみのはずなのに」

「2号館や3号館からも逃げ出しているぞ」

五十里は逃げ出していく人間を指さして文句を言う。

「夏目っ、1号館以外から逃亡した者は容赦なくリストラをしろ」

「これは命令だ」

「鬼だなお前は…」

夏目はあきれた顔で五十里を見る。

「マッスルマン2号の様子はどうだ」

「気孔砲発射まであと3分」

「ドールの限界容量を超えてます」

「ってことは撃った瞬間にマッスルマン2号は消滅だな」

「くっそう、人魚共め…」

五十里は歯をギリギリさせながら1号館を眺めていた。

「やれやれ、また1からやり直しか」

夏目はため息をつくとイスに深く腰掛け直した。

「あと30秒…20秒…」

「10秒・9・8・7・6・5・4・3・2・1………」



「ふぉぉぉぉぉぉん」
ボヒュンッ
マッスルマン2号が気孔砲を発射した瞬間、その身体は蒸発した。

一呼吸おいて研究所1号館はふわりと浮き上がると、

1階部分から光が溶け出すように滲み出し、

見る見るビルが光の中へと沈みはじめた。

「研究所がぁ〜、ぼくのパソコンがぁ〜」

桂はガックリと項垂れる。

「衝撃波来ます」

………

ズドォォォォォォォォォォォォォォォォンンンン!!!!!

「うわぁぁぁぁ〜っ」

衝撃波に翻弄されるVTOL

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

研究所から放たれた光の帯は夜空に大きな直線を描いた。


「きゃぁぁぁぁぁぁ」

「どわぁぁぁ」

水縛結界の中の僕たちも爆心地に近いだけ思いっきり翻弄されていた。


………………

どれだけ時間が経っただろうか、ようやく静かになった頃。

「おっこいしょ」

結界の外に顔を出てみると外の風景は一変していて、

上に乗っかっていた構造物はきれいさっぱりと姿を消して星空が覗いていた。

また、衝撃で水脈とつながってしまったのか、方々からわき水が吹き出していた。

「ほぅぁ、こりゃすごいなぁ」

後から出てきた竜彦も関心していいる。

「アイツ……消えちゃったな」

結界から這い出した僕がマッスルマン2号が居たところに来ると、

「まぁ、しょうがないよ」

「でも、ここにいた人たちってどうしたのかな?」

マナが武装警備隊員達の安否を気遣う。

「それは大丈夫だ、研究所にいた人間は全員逃げ出したよ」

と言うおっさんの声に、

「おっさん、無事だったかぁ」

「あぁ、こっちからもなかなか凄いショーが見られたぞ」

「お嬢さん達も無事で何よりだ」


「ホントによかった」

マナがホッとした表情で言うと、

「さて、”鰭”を掘り出さなくてはな」

「えぇっとどの辺だっけ」

瓦礫の山と化した部屋の中をすーっと飛びながら探す。

「ここだな」

竜彦が最も気配の強い所を見つけると、そこで立ち止まった。

「確かにその辺だな」

僕も微かに残る部屋の雰囲気と気配の強さから確信した。

「ところでどうやって掘る?」

僕とマナが顔を見合わせていると、

「ばーか、何お見合いをしているんだよ」

「水を使え、水を」

竜彦の一言で、

「あっそうだった」

と僕は言うと、近くで吹き出している水に手を着け一気に水を集めだした。

初めはチョロチョロ出ていたのが、

ドボドボとなり、

ついにはドザーっ吹き出した。

みるみる、水位が上がってくる。

マナが気持ちよさそうに泳ぎ始めた。

水の噴き出す位置を鰭の容器の当たりに移動させると、

ググググググ

徐々に瓦礫の中から容器が浮き上がり始めた。

「ほぅ」

竜彦が驚きの声を上げた。

「大したものだな」

No3の上のヌイグルミも驚く、

完全に浮き上がったあと、

容器に近づいて中の様子を見てみると、

”鰭”は何事もなかったような状態で浮かんでいた。

「よかった”鰭”は大丈夫だ」

ホッと一安心すると、豊富に湧きだしている水を見ながら、

「さてと…」

「水がこれだけあるから、”鰭”は飛空術で竜宮に持って帰るか」

そう僕が言うと、

「やったぁ」

マイが飛び上がる。

「なんで、お前が喜ぶんだ?」

「えへへへへ、またカナと一緒に空を飛べるもん」

嬉しそうに返事をする。

「しかし、待てよ、この容器のまま持っていった方がいいんじゃないか?」

ヌイグルミを介しておっさんが注意した。

「え?そうなの?」

「なにぶん古いものだろう、迂闊に空気に触れさせると痛むぞ」

「そうかなぁ…」

「となるとコレごと運ぶのか」

僕は容器を眺めた後、息を吸って水の中に潜る。

ザザザザザザ

水が僕の体の回りに集まり固まると、

ブワァァァァ

背中から水で出来た2本の翠色の羽が姿を現した。

「よし」

羽が現れたのを確認すると僕は容器の側に行き、

「ふんぬ」

と持ち上げ始めた。

羽は大きく広がり、

徐々にオレンジ色に変わる。

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」

なんとか容器を持ち上げようとするが、

「くっ駄目だぁ」

と言うと手を離してしまった。

「なによ、駄目なの?」

マナが残念そうに言う。

「大丈夫、羽を増やしてみるから…」

「え?、その羽って増やせるの?」

「まぁね」

そう返事をすると、新たに2枚の羽が生えると4枚となる。

「ならこれでどうだ」

「うぉりゃぁぁぁぁ」

しかし、容器は少し持ち上がったものの相変わらずビクともしなかった。

「くっそう」

「まぁだぁ?」

マナが頬杖をつきながら言う。

「じゃぁこれでどうだ」

さらに羽を2枚追加して6枚羽となる。

「うおりゃぁぁぁぁぁぁ」

6枚の羽はオレンジ色に輝きながら大きく広がり暁の空を彩った。

グググググググググ

徐々にだがゆっくりと”鰭”を納めた容器が浮き上がる。

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「浮いた浮いた」

はしゃぎながらマナは手を叩く

「ようし、じゃぁ行くぞ」

ぶわっ

マナとNo3が合流して僕たちは飛び立った。



「随分と派手にやったものだな……」

五十里達が乗ったVTOLは研究所の周囲を周回していた。

眼下に見える研究所は1号館は完全に消滅し、

そばにあった本館・2号館・4号館は衝撃波で半壊。

他の館も外装などがすべて吹き飛んで爆発の威力を見せつけていた。

「全員が避難してて良かったんじゃないのか?」

夏目は五十里に言うが、五十里は答えなかった。

「さて、この様子ではあの人魚達も1号館と運命を共にしたか…」

桂がぽつりと呟くと、パイロットが、

「支社長!!あれを」

1号館があったところを指さすと、突如2枚の羽が伸び、

それが4枚・6枚と増えると、ついには羽ばたき飛び上がりはじめた。

「なんだあれは?」

息をのむ五十里。

「ん?あれは?」

6枚の羽の下に下がっている容器に気づくと、

「あれは……”鰭”を納めたやつではないか」

「おいっ、あの羽の付け根あたりを大きく映せ」

五十里は命令した。

ピッピッピッ

スクリーンが徐々にアップになっていく、

そして、最大表示ななったとき、

水の玉の中にいる人魚の姿が映し出された。

「なにっ」

驚く夏目と桂。

「ほぅ、あの爆発に耐え、さらに空をも飛ぶとは大したものだな」

五十里はうっすらと笑いを浮かべると、

「何をしている、奴らを追うんだ」

と命令した。


そのころ、

ギュォォォォォォォンン

防衛軍のマークをつけた一機のファイターが研究所に接近しつつあった。

「オレンジ1より本部へ」

「間もなく、報告にあった地点に到着する」

「本部よりオレンジ1、なにか変わったものは見つかったか」

「まだ肉眼では確認は出来ていないが、

 怪獣レーダーには空中を移動する物体を捕らえている。

 さらに接近してみる」

「了解」


ギュォォォォン

「報告にあった爆発と光の帯はこの辺か?」

「おい、何か見つかったか」

「見てください、HBS社の研究所が破壊されています」

後部座席の隊員が地図と照らし合わせて指摘する。

「ホントだ」

「オレンジ1より本部へ、HBS社の研究所が破壊されている」

と報告をしたとたん。

「東さんっ」

「どうした」

「9時の方向に怪獣を発見」

「なに?」

機首の向きを変えると、6枚の羽を持つ奇妙な物体を見つけた。

「オレンジ1より本部へ、怪獣と思わしき飛行物体を発見」

「これより接近します」

「本部よりオレンジ1へ、慎重に行動をしてください」

「了解」


「おいっ、近づくぞ」

ファイターは徐々に飛行物体に接近する。



ギュォォォォン

「わっ、何々?」

突如目の前を横切った飛行機にマナは驚く、

「ねぇカナ…なんだろう今の?」

マナは尋ねてきたが、飛ぶことのみに集中していた僕は

「ゴメン、いまちょっと話しかけないで…」

と言うのが精一杯だった。



「おのれっ」

「どこの社かは知らないが、私の人魚を横取りに来たか」

五十里は人魚達のそばを繰り返し飛行する飛行機にいらだっていた。

「構わん、撃墜しろっ」

「え?」

「それはいくらなんでも、マズイのでは」

桂が答えるが、

「えぇい、何をぐずぐずしているさっさと撃墜せんか」

と五十里は騒ぐ。

「!!」

機体に描かれた防衛軍のマークを見つけた夏目が

「五十里、待て、あれは…」

と言ったが時は遅く、

五十里は操縦席に乗り込むと、ビーム砲のスイッチを押した。

グィィィィン

シュピーーーー

VTOLに備え付けられている、ビーム砲が一斉に発射される。

ギュウウウウン

飛行機はビーム砲を避けながら飛行するが、

ボン!!

尾翼に命中すると徐々に高度を下げ始めた。

「やった!!命中した!!」

小躍りして喜ぶ五十里。

しかし、

「オレンジ1より本部」

「こちら本部」

「未確認飛行物体を調査中、敵の攻撃を受ける」

「只今より、機体を放棄する」

その連絡を最後にオレンジ1は、レーダーからその機影を消した。


「緊急事態発生!!」

「緊急事態発生!!」

「HBS社研究所付近に出現した謎の飛行物体を第1種航空怪獣と認定」

「防衛軍は直ちに出撃」

「繰り返す」

「防衛軍は直ちに出撃」

ギュォォォォォン

ファイターが秘密基地から次々と離陸していく、

目標は関東西部に出現した、6枚の羽を広げて南下する大怪獣…



つづく


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