風祭文庫・人魚の館






「五十里の野望」
(第6話:発見)


作・風祭玲
(RB原案・TWO BIT)


Vol.085





この話を読む前に”レンタルボディ編:ヒミコシリーズ”を読まれますとちょっぴり味が濃くなります。

「ヒミコ」シリーズの詳細については


http://www2u.biglobe.ne.jp/~bell-m/bunko/rb/index.htm


を参照して下さい




なお、「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/indexj.html


を参照して下さい





ブワァァァァァァ

雨の中を人魚を乗せた一体の竜が空を舞う。

「ねぇ……どこまで行くの?」

マナが下の竜彦に聞くと、

「もぅ少しだ……」

「この先にあるデッカイ建物の中からあいつの気配がした」

「この先といっても…」

そう言いながらマナは下を見下ろす。

「どの辺なんだろう、ココって……」


「ぬわにぃっ?、壊滅だとぉ」

撤退してきた武装警備隊員からの報告を聞いた五十里が叫び声をあげる。

よほど激しい戦いだったのか、

武装警備隊員は傷だらけで立っているのがやっとの状態だった。

「申し訳ありませんっ、連中は思いのほか手強く」

「RB開発室に突入した部隊は善戦したものの玉砕」

「開発室の様子はっ?」

RB開発担当の榛名が横から声を出した。

「はっ、私が撤収する直前の段階ではRBの格納容器が破壊されたのか

 部屋中が溶液で水浸しになっている状態でして…」

と報告すると

「なっ……私の成果が……」

榛名はガックリと肩を落とす。

すると横にいた桂がポンと榛名の肩を叩くと

「まぁ、そんなにがっかりするな」

「必要な情報はすべてこのコンピュータに保管してある。損害は小さいよ」

と言って、目の前に置いてある”春”と書かれたフルタワー・パソコンを指差した。

これは先日、桂がアキバでパーツを買い集めて拵えたもので、

会社の豊富な予算を流用したので、

どのパーツも”購入時点”において最高級のもので構成されていた。

「桂さん……自慢したのはわかりますが」

「今日、新しいクロックのCPUが発売されましたよ」

っと榛名が指摘すると、

「なに?、それはいけない、直ぐに取り寄せなくては」

桂はそう言いながらパーツショップのHPをチェックし始めた。

「はぁ〜っ」

榛名のため息が漏れる。


「で、その後、人魚と鳥羽の行方は」

夏目が訊ねると

「私が聞いた範囲では、3人は下に行く様なことを言っていました」

「3人?」

「2人じゃないのか?」

「あっ、申し訳ありません」

「実はドールNo3が稼働し人魚と共に行動をしていますので」


「なに…ドール参号機が稼働しているだと?」

榛名が声を上げる。

「はい」

「起動したNo3は人魚と共に行動し我々に対して敵対行動をとっています」

「なんと」

「それにしても、ドール3号機はなぜ勝手に稼動したんだ?」

夏目は榛名に訊ねるが、

「そうですね…そのようなことはあり得ないのですが」

榛名も首をひねるだけだった。


「さぁて、どうやって下に降りるかだな」

おっさんは灯りが消えたエレベータを眺めながら言う。

「階段でいく?」

僕が聞くと、

「いや、恐らく各階には武装警備隊ががっちり固めているはずだから」

「強行突破は難しいぞ」

「う〜ん、困ったなぁ」

『こんな時竜彦がいてくれたらなぁ』

心の中で呟いた。


「見えたっ、あそこだ」

「えっ?どこ?」

「正面、高い建物が集まっているところがあるだろう」

「うん」

「あれの一番左の建物だ」

「あそこにカナがいるの」

「あぁ」

「どうする?」

「このまま突っ込んでみるか」

「え?」

「あいつがこんなに海から離れたところにいる。ということは

 陸の連中に捕まった証拠だろう。

 それなら、別に遠慮することないんじゃないのか?」

と竜彦が言うと、

「そりゃぁそうだけど」

マナは渋々了解した。

「よしっ、決まり、これから突撃するぞ」

「しっかり捕まってろよ」

「え?、ちょっちょっとぉ〜」

竜彦は徐々にスピードを上げると一番左側の建物に向かっていった。


「ん?なんだあれは?」

上空を監視していた武装警備隊員が、

研究所に接近してくる奇妙な飛行物体を見つけた。

ピーピーピー

館内に警報が鳴り響く、

「何事だっ」

「正体不明の飛行物体っ、当研究所に急速接近中」

「なんだと」

「モニターは」

「現在追尾中!!、しばらくお待ちください」


どんどん建物が迫ってくる。

「しっかり捕まっていろよぉ」

竜彦の忠告にマナはしがみ付く、


「なんだ、なんだ?」

武装警備隊がサーチライトで竜彦を照らし出した。

「竜だ……」

一人の隊員が叫ぶと、

「本当だ、竜だ……」

たちまち、警備隊はパニックに陥った。


「なんだとぉ、竜が現れただとぉ」

連絡を受けた桂が怒鳴り声をあげた。

「正月ボケもほどほどにしろっ」

そういって無線を切ったところで、

「何事だ」

五十里が再び腰を上げてきた。

「はいっ、”竜”が当研究所に接近しているという報告がありまして」

と言う桂の説明に、

「竜?」

五十里が聞き返した。

「そうです」

「おいっ、警備隊にはちゃんと休暇を与えているのか」

「だと思いますが」

「なら、顔を洗ってもぅ一回確認しろ。と伝えておけ」

「はい」


「よしっ、突撃だっ」

頃合いを見計って竜彦は一気に突撃していく、

「キャァァァァァァ」

悲鳴をあげるマナ。

「うわぁぁぁ」

逃げ惑う警備隊。

ズボォォォォォン

竜彦は風と水を伴いながら一気に正面玄関を突き抜けると、

「えぇっっと……そこか」

逃げ惑う警備隊員たちを尻目に階段をみつけると、階段を降りはじめた。

「なっなんだ?」

「うっうわぁぁぁぁ」

それぞれの階で陣地を構えている警備隊員たちも、

竜彦の出現に戸惑い逃げるばかりだった。



ズズズズズズン

突如建物が揺れ、パラパラとコンクリート片が降ってきた。

「なんだ?」

おっさんが不思議そうな顔をして上を見上げる。

しかし、僕には何が来ているのかが容易にわかった。

「竜彦め、僕の居場所がわかったみたいだな」

僕は見上げながら笑みを思わず浮かべた。


「竜は1号館の地下を潜っていってます」

と言うオペレータの声に、

「人魚に会いに行っているのか」

「よかろう、合流したところで一網打尽にしろ」

五十里は指示をだす。


ズズズズゴゴゴゴゴ

徐々に音が大きくなってくると

ブワッ

っと水を伴った風が吹き抜けると僕の目の前に竜彦の姿があった。

「よっ」

「元気そうだな」

僕の姿を見て竜彦が言う。

「あぁ……お前もな」

僕が返事をすると

ヒョコ

竜彦の後ろからマナが顔を出した。

「カナ…」

マナは僕の姿を見つけるとボロボロと涙を流し始め、

「うわぁぁぁぁぁぁん」

泣きながら僕に飛びついてきた。

「マっマナっ、なんで、お前が……」

「カナのバカっ、死んじゃったかと思ったわよっ」

「えっえぇ?」

僕が驚いていると、

「お前がいきなり姿を消したので、竜宮でも騒ぎになっているぞ」

竜彦がここ数日の様子を僕に説明した。

「そうか、マナには心配をかけたね、ごめん」

と謝りながら彼女の頭を撫でる。

「それにしても、ひどい部屋だな、これは」

竜彦が武装警備隊と一悶着でメチャクチャになった

RB開発室を眺めながら感想を言う。

「あぁ、さっきここで大暴れしたからね」

僕が言ったとたん、

パシッ

頬に平手打ちが飛んだ。

痛ってぇ……

「なんだ……」

マナを見ると彼女は凄い形相で僕を睨みつけていた。

「無茶しないって約束したじゃないの」

と怒鳴り声をあげた。

彼女の気迫に思わず、

「……スミマセン」

と謝ると、

「あははははは……」

「まぁ、そう怒らないで……」

「彼女を危ない目にあわせてしまったのはこの僕だ」

と言いながらおっさんが出てくるとマナに頭を下げた。

「はい?」

マナはおっさんに驚いていると、

「妹さん?」

おっさんは僕に彼女のことを尋ねてきた。

「いっいや……」

僕は首を横に振ると、

「そうか、じゃぁ、彼女か」

とおっさんが言った途端に僕の顔が真っ赤になる。

「赤くならなくてもいいじゃないか」

「キミのことをこんなに心配してくれる彼女がいるなんて…なぁ」

そう言いながら、おっさんは竜彦に同意を求めた。

「まぁ、そうだが……それにしても、お前は面白い人間だな」

「私に出会ってそんなに冷静にいられる人間は初めてだぞ」

竜彦は、まるでずっと以前から知り合いのように振舞う様子に

おっさんに驚いているようだった。

「あはは、まぁ細かいことは気にしない気にしない」

おっさんは竜彦の体をそう言いながらぽんぽんと叩く、

「やっぱ、このおっさん只者じゃないな」


「!!」

突如、竜彦の表情が変わった。

「この気配……」

「竜彦も気づいた?」

「まぁな、これは……”海母”さまの気配だな」

「どうやら、この下にあの”鰭”があるみたいなんだ」

僕が説明すると、

「なるほど」

「で、悪いんだけど、僕たちを乗っけて鰭の所まで行ってくれないか?」

「いいだろう、後ろに乗れっ」

そういって竜彦はくるりと背中を向けた。

直ぐに僕とマナ、そしておっさんが竜彦の上に乗っかる。

「あっ、そうだ」

「いっしょにくる?」

僕は部屋の隅で僕たちの様子をうかがっていた、No3に声をかけた。

No3はコクンと頷くと竜彦の上に乗せられた。

「だれ?」

マナが彼女の事を聞いてくる。

「ん?、あぁ海で僕を襲ったやつの仲間」

「え?」

「けど、さっきの大騒動で僕がピンチになったとき助けてくれたから」

「いっしょに連れて行こうと思ってね」

「大丈夫?」

「大丈夫でしょう」

「もぅ」


「ふぅ重いなぁ」

竜彦が一言小言を言うと、

「階段から下りるのか?」

おっさんが聞いてきたので、

「だってエレベータが使えないんでしょう」

っと僕が答えると、

「階段はもっとも危険だよ」

「しかし、キミが来たんでこの手が使えそうだ」

おっさんは竜彦を指さして言うと、

エレベータのドアの前に立ち、

「いよっ」

っと気合いを入れるとドアを開け始め、

「ようしコレくらいならいいかな?」

そう言った時にはドアはほぼ全開になっていた。

「ほえぇぇぇぇ」

「すごい」

「よしっじゃぁ、行くぞ」

そういうと竜彦は再び風と雨を巻き起こしながら階段を降りはじめた。


ズダダダダダダン

武装警備隊が再びRB開発室に乱入してきたのは、

それからしばらく経ってのことだった。


「全く、使い物にならない奴らだ、全員リストラをしろっ……」

取り逃がした報告を聞いた五十里は怒りを露わにする。

「で、連中は?」

「階段を使わずにエレベータの空間を使って降りているようです」

「なにぃ?」

「下まで一直線じゃないか」

夏目の驚きの声を出す。

「箱を上に引き上げたのが失敗でしたね」

「えぇぇぃ、構わんっ箱を下に落とせ」

「支社長っ、落ち着いてくださいっ」

「エレベータの箱を落としたらそれこそ大変です」

「くっそう、忌々しい鳥羽めっ」

五十里の怒鳴り声がむなしく響いた。


「ココ……みたいだね」

最下層のドアを前にして僕は中から漏れてくる

”海母さま”の気配を感じ取っていた。

「よし、開けてやろう」

そう言うとおっさんは再びエレベータのドアを開け始めた。

ゴゴゴゴゴ

と言う音を立てて、ドアがゆっくりと開く、

マナは口を開いたまま唖然として見る。

「ようし、これでOKだ」

おっさんが先に入ると、僕たちも後に続いて入った。


グォォォォォォォン

入ってきた前に姿を現したのは、

巨大なホールのような地下室とそこを埋める様々な機器、

そして巨大な冷凍施設が目に入って来た。

「うわぁぁぁ、なにこれ?」

「すごぉぉぉぉい」

「大した物だな」

「………」

口々に感想を言う。

おっさんはガラスで仕切られた部屋に駆け込むと、

なにやら物色をはじめていた。

そして、ある物を持ってくると、

Pi

とそれについているボタンを押した。

グィィィィン

すると、金属製の2つの容器が目の前にせり出してきた。

「なんだ?」

その片方の容器をよく見ると、

「うわっ」

僕は思わず声を上げた、

「なになに?」

マナが割り込んでくる。

「あっ見ちゃ駄目だ!!」

と制したが遅く、

「キァァァァァァァァァ」

彼女は大声で悲鳴を上げた。

その容器に中には大きく傷ついた人魚の骸が入っていた。

「惨いなぁ……」

竜彦が眺めながら言う、

「何よコレ……」

マナは僕に抱きついて言った。

「おぉぃ、お探しの”鰭”はこっちだ」

別の容器を眺めていたおっさんが声を上げて僕たちを呼んだ。


「ホントだ、鰭だ……」

僕とマナ・竜彦は顔を寄せ合って鰭の入っている容器の窓を眺めた。

「さて、問題はコレをどうやって運ぶかだな…」

「う〜〜ん、鰭だけでも結構でかいし…」

「困ったなぁ…」

と思案に暮れていると、



ゴゴゴゴゴゴゴ

ズズズン!!

何かが落ちてきたような地響きがエレベータの所からすると、

開け放たれているドアから埃がモウモウと立ちこめた。

「なんだ?」

やがて……

ギギギギギギ…

バキバキバキ…

と言う音と共に、全身白タイツに覆われ、5つの目が描かれた仮面を付けた

マッチョな大男がエレベータのドアを崩しながら入ってきた。

「いやっ、なによあれっ」

マナがイヤそうな顔をする。


「わははははは」

「よくぞココまで来たきたものだな、ほめてやる」

スピーカーから男の声が流れてきた。

「むっ、その声は五十里か」

おっさんが天井に向かって叫ぶ。

「ふふふふふ、鳥羽っ、よくも散々俺をコケにしてくれたな」

「…支社長っ!!やめてくださいっ…」

「…うるさい、だまれっ…」


「なんだ?、揉めているのか?」

僕とマナが顔を見合わせると


「おい五十里ぃっ、ラスボスにしてはちょっと登場が遅すぎないか」

「喧しいっ」

「さぁドール・マッスルマン1号よ、そこにいる奴らを標本にするのだ」

「イエス」

そう叫ぶとマッスルマン1号は僕たちに向かってきた。


「いやよ、いくらマッチョでも、

 あたしはあんな男と初体験をするのはゴメンだわ。

 カナっ、あんなヤツはちゃっちゃとコレで片づけちゃって」

とんでもないことを言いながら、僕に剣の柄を手渡した。

「あれ”竜牙の剣”じゃないか」

「コレ、どうしたの?」

と聞くと

「乙姫さまの仕えの人が拾ったのよ、さぁ早くやっつけてよ」

マナは僕の陰に隠れるようにして、僕に指示した。

「待てよ、いくら何でもコレで切るのは……」

と僕が躊躇していると、おっさんが、

「大丈夫、奴はドール、人間じゃない」

と言う。

「やれやれ……」

僕は柄をぐっと握ると、

フォン

竜牙の剣から翠色の刀身が延びる。

「ほぅ」

おっさんが感心しながらそれを眺める。


「よしっ、行くぞ、この野郎っ」

「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ」

僕は床の上を飛ぶようにして、マッスルマン1号に斬りかかった。

どりゃぁぁぁ

ブン

思いっきり剣を振ったが、

剣先がマッスルマン1号に当たる直前、ふっとその姿が僕の視界から消えた。

「なに」

「カナっ、上っ」

マイの叫び声が上がる。

「!!」

見上げると、高々と飛び上がったマッスルマン1号が僕に目がけて落下してくる途中だった。

「うわぁぁぁ」

ズシンッッッ

「グェ」

「カナっ」

マナの悲鳴が上がる、

しかし、間一髪、

僕はマッチョマンの落下地点から身体を移動していた。

「フォフォフォフォ」

マッスルマン1号は奇妙な笑い声をあげると、再び姿を消した。

すかさず上を見上げるが、ヤツの姿はない。

その時、猛烈な衝撃が脇腹をおそった。

「しまった…」

素早く僕の横に移動していたマッスルマン1号が、

僕の脇腹に蹴りを入れていた。

「くおのっ」

水術の力を全開にして体勢を立て直す。

「やりやがったな」

尾鰭で壁を叩くと反動をつけ、その勢いでマッスルマン1号に斬りかかるが、

しかし、再びあっさりとかわされた上に痛烈なパンチを食らった。

呆気なく吹き飛ばされる僕。

くっ

「水が守ってくれるから、ある程度衝撃を緩和しているけど」

「生身の身体だったら、とっくに病院送りだな」

そう言いながらマッルスマン1号のパワーを感じていた。


「やはり、ラスボスらしく一筋縄ではいかないようですね」

おっさんはそう言いながら悠長に眺めている。

「ちょっと、のんびり見ていないでカナに手を貸してよ」

マナがおっさんに食ってかかるが、

「これは、君達の問題でしょう?」

「部外者の私がシャシャリ出ていく場面ではありません」

と素っ気なく答えた。

「もぅ、分かったわよ」

「竜彦っ、カナを助けに行くわよ」

「あたしだって、水術の一つや二つ使えるんだから」

「ヤレヤレ…」

竜彦は仕方なさそうな顔をすると、

ふわり

とマッスルマン1号に向かって動き始めた。

「マナっ、ヤツの左足に水術弾を打ち込むんだ」

「え?」

「人間は左足が軸足だから左足にダメージを与えると思うように歩けなくなる」

「そうなの?」

「感心している場合か」

「分かった」

マナは右手に光の弾を作ると

「いいわよ」

「よし」

フォォォォォ

猛然とマッスルマン1号に迫る、マナと竜彦。

「今だっ」

「あたしだってぇっ」

マナは水術弾をマッスルマン1号目がけて打ち込む。

しかし、マッスルマン1号素早く動くとマナの放った水術弾をかわしてしまった。

「そんな」

「危ないマナっ」

飛び上がったマッスルマン1号はマナ目がけてボディプレスをかけようとした。

僕はとっさにマナの尾鰭をつかむと思いっきり投げ飛ばした。

「きゃっ」

その瞬間、

ズシン!!

マッスルマン1号が僕と竜彦の真上に落下した。

ぐぁぁぁぁ

うぉぉぉぉっ

「きいたぁぁぁぁぁ」

竜彦はなんとか耐えたが、僕は動けなくなっていた。

「ふぉぉぉぉぉ」

マッスルマン1号は動けない僕を抱きかかえると再び飛び上がった。

「野郎っ」

何とかふりほどこうとしたが、がっしりと抱きかかえられ外せない。

「くっそう!!」

やがて落下になり、床がぐんぐんと迫る。

「駄目だ……」


「諦めては駄目です」

という声がしたと思ったとたん、

どぉぉぉぉん

強力な力が真横から襲った。

「ぐぉぉぉぉぉぉ」

マッスルマン1号と僕は横方向へ吹き飛ぶと、

ドッシン!!

丁度マッスルマン1号を下にする体勢で床に落ちた。

「カナっ」

マナの叫び声がした。

「痛ててててて…」

『”竜牙の剣”を持つ者よ…』

「え?」

起きあがると、目の前にドールNo3が浮かんでいた。

「No3…どうしたんだお前…」

『”竜牙の剣”を持つ者よ…』

『貴方は竜宮から来た者か?』

「えっまぁそうだけど……」

『私の名はサキ…』

「サキ?」

『あの中に囚われている者…』

そう言うと、No3は人魚の骸が納められていた容器を指さした。

「どういうことだ?」

『私の願いを聞いてくれぬか?』

「願い?」

『そう、私はずっと昔、海彦さまを守る為に命を落とした』

『しかし、あの中に魂を縛られ竜宮に戻ることが出来ぬ』

『そなたの”竜牙の剣”で私を解き放してくれないか』

「なっ」

『そして竜宮へ連れて行ってくれないか』

そう言うとNo3は目を閉じた。


「ふぉぉぉぉぉぉ」

僕の下敷きになっていたマッスルマン1号が目を覚ますと

ムクリと起きあがり始めた。

「げっ、まだ生きてやがったかコイツ」

僕はすかさず間合いを取る。

「おぉぉぉぉぉぉ」

マッスルマン1号が立ち上がり、

再び僕に襲いかかろうとしたとき、

No3がはっと目を開けると、

ズンっ

強烈な波動がマッスルマン1号を直撃した。

「ふぉぉぉぉぉぉぉ」

壁に叩きつけられ、身動きが出来なくなるマッスルマン1号

『偽りの身体と魂を持つ者よっ、土に帰るがよい』

『さぁ”竜牙の剣”を持つ者よ、その剣であの者を土に返せ』

僕は頷くと、

「うぉりゃぁぁぁぁ」

マッスルマン1号に斬りかかる。

ズバッ

ふぉぉぉぉぉ…

真っ二つにされたドール・マッスルマン1号はそのまま沈黙した。

「やったぁ」

僕は飛び出してきたマナと抱き合って喜ぶ。

『さぁ…邪魔者は始末した、次は私を頼む』

と言うとNo3は僕の手を引くと骸の前に連れてきた。

「いいのか?」

『………』

サキは答えなかった。


ガッシャーン

骸を納めた容器は粉々に砕け、

”竜牙の剣”によって切られた骸はまるで砂の城が海水に溶けていくように

ゆっくりと崩れていった

『ありがとう…これで私は竜宮へ帰ることが出来る……』

そして骸が崩れ去った後に1個の竜玉が残っていた。

鮮やかな青い色をした竜玉を拾うと、

マナが寄ってきて、

「あたし…聞いたことがある」

「人魚が死ぬと、身体は朽ち果てるが青い海の色へと色が変わった竜玉は」

「竜宮の奥へと集まり生まれ変わる日を待つって話」

「そうか」

「じゃぁ、この竜玉を竜宮へ持っていけば」

「サキさんもようやく生まれ変わる順番を待つことが出来るわけだ」

「そうね」



パチパチパチ

振り向くとおっさんが拍手をしていた。

「お見事!!」

「凄いじゃないか、あのドールを倒してしまうなんて」

「いや、そうでも…サキさんが押さえてくれたから」

と言うと割れた容器を眺める。

「そうよっカナはあんたの助けを借りなくても、ちゃぁんと……モゴ」

僕はマナの口を塞ぐと、

「おっさん」

「ふふふ、さぁて、私の用事も終わったからコレで失礼するよ」

「また、会うことがあるかも知れないから、そのときはよろしくな人魚のお嬢さん」

とおっさんは言うとまるで風のごとく消えていった。

「キザなおっさんだったわね」

「うん」



つづく


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