風祭文庫・人魚の館






「五十里の野望」
(第5話:気配)


作・風祭玲
(RB原案・TWO BIT)


Vol.082





この話を読む前に”レンタルボディ編:ヒミコシリーズ”を読まれますとちょっぴり味が濃くなります。

「ヒミコ」シリーズの詳細については


http://www2u.biglobe.ne.jp/~bell-m/bunko/rb/index.htm


を参照して下さい




なお、「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/indexj.html


を参照して下さい





ザーッ

真奈美が竜宮から帰ってくると地上は雨になっていた。

「櫂……本当に何処にいるの?」

「掴まったってウソだよね…」

「だって約束したじゃないの”無茶をしない”って」

「だからお願い…早く帰ってきて」

降りしきる雨を見ながら歩いていると、

「ニャン」

あの白黒ブチのネコがいつの間にか真奈美の足下にすり寄っていた。

「あら、お前、どうしたの?」

真奈美がネコに訊ねると、

「ニャァ……」

ひと鳴きして、

タタタタタ

と走り出した。

「ちょっと……」

真奈美はネコに誘われるように後を追い始めた。


「待って……待ってよ……」

真奈美とネコとの追いかけっこが続く、

しかし、

「もぅ、どこ行っちゃたのかな?」

追っていたネコの姿を見失ったとき、

「マナはお前か?」

突然の声がかけられた。

「誰?」

自分の人魚名を呼ばれ真奈美は驚きながらに振り向いた。

「どこを見ている、こっちだ、上だ」

再び声がしたので、見上げると、

「うわっ!!」

金色の竜が彼女の上で舞っていた。

「…………」

呆気にとられていると、竜は真奈美の前に降り、

「ふぅ、やっと見つけた」

「竜族の竜彦だ」

っと竜はややぶっきらぼうな自己紹介をした。

「マナ…です」

真奈美が挨拶をすると、

「あぁ、知っているよ、カナと連んでいるんだろう」

「……はい」

「で、アイツ、いま行方不明なんだってな」

「はい」

「あたしに用とは?」

真奈美が竜彦に訊ねると、

「アイツの居場所、大雑把だけど見つけたぜ」

「うそっ」

「来るか?」

竜彦の誘いに真奈美は無言で頷いた。

ヒュォォォォ

人魚・マナと竜彦は大きく空中へと踊り出した。



そのころ、人魚から人間に戻れないことに気づいた僕は半ば放心状態だった。

「…しょうがないなぁ」

おっさんは呆れながら頭を掻くと、

「おらよっ」

と言いながら僕を抱き上げた。

「え?、あのぅ?」

僕がとまどっていると、

「人間に戻れないのなら、水のある所までこうしていくしかないな」

そう言いながら僕を抱きかかえて通路を歩く。

『あっそう言えば、いま僕って裸だよなぁ』

これまで意識しなかったことをそのときなぜか意識してしまった。

とたんに恥ずかしさがこみ上げてきた。

『うわぁぁぁ……』

『なんだこの恥ずかしさは…』

顔が真っ赤になると僕は思わずうつむいてしまった。

「なんだ、顔が赤いぞ」


『心臓がバクバクする…』

『この感覚って……』

『まさか女の子の………』

『そんなぁ……』

僕の頭の中は混乱しはじめた。

ふと、おっさんは立ち止まると僕を通路の陰に置いた。

「人がいる…ちょっとそこで待ってな」

とひと言言うと、おっさんはふっと姿を消した。

『ちょちょっと、置き去りにしないでよ…』

思わずそんな声が僕の頭の中でした。

やや間をおいて、

ウグッ

グェ

声にならない声がしたあと、

ドサッ

人が続いて倒れる音がした。


「やっ、待たせたね、いい池が見つかったからそこまで案内するよ」

そう言いながらおっさんがひょっこりと顔を出した。

「え?」

再び抱き上げられると数人の男達が倒れている中を

ヒョイヒョイと巧みに進んでいった。

『すげぇ……本当に何者だ、このおっさんは』

僕は感心しながらおっさんを見る。

「さぁここだ」

「うわぁぁ」

休憩所だろうか、やや大きめの池があり、

小さいながらも噴水と、池の中には魚が泳いでいた。

ザブン

身体が乾いてちょっと息苦しくなっていたので、

僕の方から池の中に飛び込んでいった。

「ふぅ、気持ちがいい…」

「はは、”水を得た魚”とはこのことだな」

おっさんは笑いながらタバコを吸いはじめた。


「くっそう」

そのころ、五十里は怒りに燃えていた。

「おいっ、まだ見からんのか」

日頃冷静さがウリだった彼は感情を露わにし、

あたふたとしている夏目や相沢に当たり散らしていた。

無理はあるまい、

長年探し求めてやっと見つけた人魚が、

目の前で自分を飛び越え逃げしまった上に、

学生時代から自分の邪魔ばかりしてきた

”鳥羽俊介”がそれに一枚噛んでいたとなれば、

彼の怒りは容易に収まることはできなかった。

「武装警備隊を配置しろっ、何が何でも見つけるんだ!!」

矢継ぎ早に五十里の指示が飛ぶ、

「くっそぅ、人魚めぇ…見つけたらただじゃすまさんっ」

そういう五十里の手元にはSM雑誌の通販コーナーのページが開かれ、

正面のパソコンから次々と発注がなされていた。

「支社長…ちょっと普通じゃないぞ」

相沢が夏目に小声で言う、

「あぁなった五十里は誰でも手がつけられないからな…」

「話に聞いたことがある、一度暴走すると男も女も見境がなくなるとか」

「いや、人間だろうが動物だろうがお構いなしと言う話も…」

「とにかく犠牲者がでる前に早く人魚を捕まえないと、

 とんでもないことになるぞ」

何かとぶつかり合う相沢と夏目だがこのときは意見が一致していた。

「おいっ、夏目っ、もっと過激な物はないのか」

五十里の怒鳴り声が響いた。


ちゃぽん。

「ふう」

池の魚たちと泳いでいるウチに僕の体調は元に戻った。

「さて、そのままここに居てもいいけど」

「そろそろ危険だし、行きますか」

タバコを吸い終えたおっさんはそう言うと池の縁から腰を上げた。

そのとき、

「いたぞ!!」

と言う声と共にさっきの男達とは違って警備員達がこっちに向かってきた。

「え?、警備員?」

僕が呆気にとられていると、

パンパン

と乾いた音がしたと思った瞬間。

ビシッ

僕の頬をかすめて1発の弾が飛んできた。

「え?…えぇっ」

「ほぅ、武装警備隊とは五十里め、本気を出してきたな」

おっさんは悠長に言う。

「ちょちょっと、ここは日本でしょう?」

僕があわてて言うと、

「まぁ、アメリカ帰りの連中に取ってはこれが当たり前なんじゃないのかな」

「そんな……」

「先に行くぞ」

おっさんは僕に一言いうと池から離れて行った。

「あっ、待って……」

「悪いけど、少し水を貰うから向こうに行っててね」

僕は魚たちに言うと、池の水に手をかざす。

ザザザザ

見る見る池の水が立ち上がる。

「さっきのお返しだ!!」

そう叫ぶと、

ドォォォン

立ち上がった水は大きな固まりとなって警備隊へと向かって行った。

ドザザーーン

うわぁぁぁぁぁ

悲鳴をあげながら警備隊達は廊下を押し流されていく。

「ふん、ざまぁみろ」

そして、

「水術・水の衣」

僕がそう言うと池の水が身体にまとわりつき、まるで着物の様に僕の身体を覆った。

「さっき、エレベータの中で見せたヤツの応用です」

そう言うと僕の身体はふわりと浮き上がった。

「さっ行きましょう」

「ほぅ」

おっさんは横で感心する。


「人魚を発見しました」

五十里の元に人魚発見の報告が届く。

「どこにいた」

訊ねる夏目の声に、

「3号館の地下っ、1号館との連絡通路です」

と言う返事が返ってくると、

「直ち包囲するんだ、なんとしても人魚を捕獲しろ」

五十里の厳命が飛ぶ。



「おっさん、どこまで行くんだ?」

「この先の1号館だ」

「まだ先なの?」

「あぁ」

やがて僕たちは一つのエレベータの前に来た。

「ここ?」

「そうだ」

おっさんがボタンを押そうとしたその時。

「動くな…」

振り向くと僕たちはいつの間にか武装警備隊に2重に取り囲まれていた。

警備隊員達は銃を向けると

「おとなしく、降参すれば命は取らない」

「抵抗したら…」

と言ったところで、

ポーン

突然エレベータのドアが開いた。

「えっ?えっ?」

降りようとした白衣の男が予想外の様子に驚いている。

「ありがとさんよ」

おっさんは素早く白衣の男を突き飛ばすとエレベータに乗り込み、

僕も続いて乗り込んだ、そして、一言。

「ばいばい」

と手を振るとドアがしまった。


唖然として見送る警備隊員達。

「……あっ」

「バカヤロウ!!」

「せっかく追いつめたのに、台無しにしやがってぇ」

白衣の男に食ってかかる。

「そっそんなぁ」

「えぇぇぃっ、目障りだ連行しろっ」

そう隊長が指示をすると白衣の男は、

「いやだぁ〜っ」

と言う声を残して何処とも無く連行されていった。

その後、彼の姿を見たものはいない。



隊長は無線機を取り出すと、

ピッ

「申し訳ありません、鳥羽と人魚を取り逃がしました」

「連中はただいま1号館中央エレベータで地下へ降りています」

という連絡を夏目に入れた。

その連絡を受けた夏目は、

「五十里っ、あの二人はいま1号館のエレベータで地下に降りていっているそうだ」

そう五十里に告げると

「なに?」

「まずいぞ」

「あの地下には例の”鰭”がある、見つかるとやっかいなことになるな…」

五十里の表情が堅くなる。

「どうする?」

夏目の問いかけに、

「エレベータを階の途中で止めるんだ、そうすれば連中を監禁できる」

「そのあと特殊部隊を下ろして始末させろ」

「人魚もか」

「馬鹿者っ、人魚は捕獲するんだ」

「わかった」

夏目は五十里の指示をそのまま武装警備隊へと伝えた。



フィィィィィィン

エレベータは順調に降下していく、

「そうだ、おっさん」

「なんだ?」

「おっさんと初めてあったとき、僕の他にニセモノの人魚がいるような事を言ってたよね」

「ん?」

「ほら、”人魚を作ったとか”、”ホンモノを初めてみたとか”」

「あぁ、そのことか」

「僕がここに連れて来られた切っ掛けって言うのも」

「海で変な人魚が僕を襲ったからなんだけど」

「ニセモノの人魚がいるの?」

と訊ねると

「あはははは」

おっさんは笑い、

「いまそれを確かめに行っているんだよ」

と答えた。

「え?」

「ふふふふふ、まぁ見てのお楽しみ」

おっさんは含み笑いをする。


やがて、

ポーン

と言う音と共にエレベータは停止した。

「よしっ、着いた」

「ここ?」

「あぁそうだ」

そう言っておっさんと僕はエレベータから降りたとき、

フワッ…………

「!」

竜宮の奥で海母さまに出会ったときと同じ感覚が走った。

「海母さま?」

僕がキョロキョロしていると、

おっさんは胸ポケットからカードを取り出し、

スッと読みとり機に通した。

ピッ

小さな電子音がした後、

カシャッ

と言う音と共にドアの鍵が開いた。

「なにをしている?」

「こっちだ」

と言うとおっさんは部屋に入って行った。

僕も続いて入ってみると、そこはなにかの実験施設のような大きな部屋だった。

「なんですか?、ココは」

「ほぅ、大した物だな…」

おっさんは感心しながら備え付けてある機材を一つ一つ眺めていった。

まるでマッドサイエンティストの研究所に迷い込んだ気分で眺めていると、

「おいっ、嬢ちゃんっ、こっちに来てみ」

隣の部屋からおっさんが顔を出して僕を手招きした。

「?」

誘われるまま隣の部屋に行くと、

「!!」

部屋の壁際には人の高さぐらいの遮光板で隠された

円筒形のガラス容器がズラリと並べれられ、

その中の数本には人目で人魚と判る人影が入っていた。

おっさんは入り口近くにある1台のパソコンを操作しながら

「ふ〜ん、零号機と初号機は破棄したのか…」

などと喋り、

「ん?、これかな?」

「お嬢ちゃん」

「なに?」

「さっき言っていたお嬢ちゃんを襲ったヤツてこれか?」

と言ってキーを叩くと、

カシュン

と言う音と共に一本のガラス容器の遮光板が開いた。

開いたガラス容器を覗くと、

そこには、海の中で僕を襲った赤い色の鱗を持つ人魚が眠っていた。

「あっ、コイツだ!!」

僕が指を差して叫び声を上げると、

「なるほど…」

おっさんはそう呟きながらさらに操作を続け、

「ほぉ…アズサはこいつに使っているのか」

「…アリス−ナデシコやうちのヒミコと違って柔軟性があるようだな」

などと言いながら何かを調べているようだった。


「おっさんっ、これって…なんなの?」

僕が訊ねると、

「RBさ」

と言う答えが返ってきた。

「RB?」

「RBって、あの?」

「そう、レンタルボディのことだよ」

「でも、RBって確か医療用にしか使われないことになっているんじゃないの?」

と僕が訊ねると

「ほぅ、結構詳しいんだね」

おっさんは驚いた表情で僕を見る。

「さっき言ったでしょ、普段は人間をしてるって……」

「ふむ……」

「ここのRBは一般向けのRBとは違って別の目的の為に研究されているんだ」

「別の目的って?」

「そうだなぁ…例えば軍事用とかね」

「軍事用?」

「シッ声が大きいぞ」

「そんな事ってやっていいの?」

「昔、国連の決議で軍事目的等のRBの使用を禁止することになったけど、

 まぁ世の中、ダメと言われりゃぁ…やりたがるヤツがいるからね」

「じゃぁこの人魚は…」

「何かの兵器だろ」

「げっ…」

「ここでは以前、RBに偽魂(ダミー)を咬ませて、

 コンピュータによる一元稼働を試験していたんだが、

 事故が起きて、それは破棄。

 で、その後やってきた連中…

 ホラ、さっき上で会ったろう…
 
 が同じ偽魂(ダミー)を使って、

 こっちは人間による遠隔操作を試験したみたいだな。

 キミを襲ったと言う人魚も、恐らく誰かの遠隔操作で襲ってきたんだろう」

とおっさんは説明をした。

「うわぁぁぁぁ」

僕が驚いていると、

おっさんはパソコンの画面を見ながら、

「しかし、連中が目指しているのはコレじゃなくて、

 RBの自律判断による分散運用を目指しているみたいだな…

 遠隔操作はその前段階ってヤツだろう」

「自律判断?」

「そっ、自分で”感じて””判断して”動くってヤツ。

 まぁ、コレが実現できれば大量生産が出来ると

 使い捨ての兵隊が出来るってわけだな…

 しかも様々なタイプのヤツがね」

と言って僕を見つめた。

「まずいんじゃないの?それって」

「あぁ、これはブチ壊さんといかんな」

おっさんはそう言うとガラス容器の列を眺めた。



「あれ?」

「夏目さん、RB開発室に誰かいますか?」

研究所のサーバーを監視していたオペレーターの問いかけに、

「なに?」

「桂っ、誰かいるのか?」

夏目は桂に訊ねる。

「いえ誰もいないはずですが…」

桂が答えると、

「現在そこの端末が操作されて、サーバーにアクセスしているですが」

「なんだと?」

「しかも管理者特権で…」

「入室の記録はどうなっている?」

夏目の質問に、

「それが、桂さんになっているんです」

「な……」

驚く桂。


「何事だ」

五十里が乗り出してきた。

「RB開発室からサーバーにアクセスされているんです」

と言うオペレーターの返事に、

何かを気づいた五十里が、

「夏目っ、鳥羽と人魚が降りたエレベータって言うのはどのエレベータだ?」

「え?」

「1号館のエレベータですが…」

「だから…それのどれだ?」

五十里の問いかけに夏目がしばらく考える。

「………あっ」

五十里同様重大なことに気づいた夏目は大声を上げた。

「馬鹿者っ、奴らの目的は”鰭”ではなくて”RB”だっ」

「すぐに、武装警備隊をそっちに向かわせろっ」

「はい」



「おっさん、さっきから何を操作しているんだ」

「ん?、ちょっと調べものだよ」

「え?」

「連中がコレをどこまで開発しているのか?ということをね」

「ふ〜ん、そっか」

「じゃぁ、おっさんはスパイなのか」

僕が言うと、

「さぁ、それはどうかな」

おっさんはニヤリと笑うとさらに操作を続け、

「なぁ、さっき言っていた”ヒミコ”とか”アズサ”ってなに?」

と質問をすると、

「”ヒミコ”・”アズサ”はRBのBIOSだよ」

「BIOS?」

「そう、本来はRBに入れられた人の魂と、

 RB本体との間を仲介する役目を担っているのだが、

 自律運用を目指している”アズサ”はより人の魂に近い存在かもな」

と返事をした。

「おっ、キミの事も結構調べているみたいだね」

と言うと僕を見る。

「ただ、この”イブ”と名付けられた人魚はキミじゃないみたいだな」

「”イブ”?」

「あぁ、15年前に見つけた…ってことになっている」

「どうやら死骸のようだけど」

「ふ〜ん」

『15年前と言ったら…竜宮で闘いがあった頃か』

「それと、コレは面白いなぁ」

「どうしたの?」

「いや、魚の鰭のようなモノがやけに詳しく分析されているのでね」

「魚の鰭?」

『鰭と言えば…海母さまの…』

『そういえばさっき海母さまの気配を感じたよなぁ』

「おっさん、それって何処にあるの?」

おっさんに鰭の在処を訊ねると

「ん?」

「この下のようだが」

「そこに行ってみる」

僕がエレベータのほうへ行こうとすると、

「待った、キミ一人で下に行くのは危険だ」

「私の作業が終わるまでちょっと待ってな」

そう言って。

キーを叩き始めた。

「?」

「なぁに、ちょっとオマジナイを一つ」

「オマジナイ?」

「ふっふっふっ」

「ここが無くなるオマジナイをね」

と答えた。

「無くなる?」

「あぁ、そうだよ、綺麗さっぱりにね」

そう言うと、

ニヤッ

と笑うおっさんに背筋が寒くなってきた。


「さぁて、コピーはしっかり頂いたし…細工は動き出したし、

 では行きますか」

とおっさんが腰を上げたとき、

ダダダダダン

入り口から武装警備隊が突入してくると乱射してきた。

「うわぁぁぁ」

僕は壁づたいに逃げる。

「いたぞ」

数発の弾が”水の衣”を突き抜けた。

「このっ」

反撃をしようとしたが、

「まずい、ここで水を使ったら…動けなくなる」

と先のことを考えて躊躇っていると。

パシュッ、バシュッ

と言う音共にRBが入ったガラス容器が突如開き始めた。

ザバー

容器の水が床にあふれ始める。

「しめた」

すかさず、その水を集めると警備隊目がけて所構わず打ち込んだ。

ガシャンガシャンガシャン

音を立てて崩れていく機器。

「うわぁぁ」

「下がれ下がれ」

ダダダダダダダダン

警備隊の悲鳴と反撃の音が部屋にこだまする。

「おっさんは?」

何時の間にか姿を消したおっさんの姿を探していると、

グィ

突然腕をねじ上げられ、

ダンッダンッダンッ

そして、激しく壁に何度もたたきつけられた。

「痛ぁ…」

「ふふふ捕まえたぞ」

「よくもやってくれたな」

僕はいつの間にか背後に回っていた警備隊員に掴まっていた。

ググググ

押さえつけられて身動きがとれない僕に、

「実験動物の分際で暴れやがって…

 2度と暴れられないようにしてやる」

そう言うと僕の腕を思いっきりねじ上げた。

「腕が折られる…」

そう思ったとき、

バシャッ

何かが跳ねた、そして、

「うわぁぁぁぁぁ」

と言う声と共にねじ上げていた力がすっと消えた。

「え?」

警備隊員の方を見ると、ガラス容器の中にいた人魚が噛みついていた。

「お前…僕を助けてくれたのか?」

と言うと、

No3と書かれた人魚はコクンと頷く

「この野郎っ」

警備隊員が噛みついていた人魚を突き飛ばすと、

「くっそぉ」

「ぶっ殺してやる」

と言いながら起きあがってきた。

「てめぇ…調子に乗るんじゃねぇ」

バシーーーン

僕は床に手をつき尾鰭で警備隊員の上半身を思いっきりひっぱたいた。

その瞬間、警備隊員の身体がグニャリと歪むと、

「ぐぉぉぉぉぉ……」

と言う声を残して僕の目の前から消失した。

しばらく間を置いて、

グッワッシャーーン

と言う音と共に機材が一斉に崩れ落ちた。


パチパチパチ

「お見事!!」

いつの間にかおっさんは僕の側にいて拍手をしていた。

「おっさん、何処に行ってたの?」

「なぁに、他の連中を始末していたのさ」

と言って指さした先には累々と警備隊員達が倒れていた。

「では、下に行こうか」

おっさんはそういうと僕の肩を叩いた。



つづく


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