風祭文庫・人魚の館






「五十里の野望」
(第4話:復活)


作・風祭玲
(RB原案・TWO BIT)


Vol.081





この話を読む前に”レンタルボディ編:ヒミコシリーズ”を読まれますとちょっぴり味が濃くなります。

「ヒミコ」シリーズの詳細については


http://www2u.biglobe.ne.jp/~bell-m/bunko/rb/index.htm


を参照して下さい




なお、「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/indexj.html


を参照して下さい





ズドォォォン

大破し制御不能に陥ったドール・初号機は緊急爆破された。

海面に衝撃の波紋が広がる中、

「医者だ!!、いや、獣医を手配しろっ」

”わだつみT”並びに”わだつみU”の船内は大騒ぎになっていた。

「なんとしても死なせるなっ」

そんな中で五十里の厳命が下る。

「弐号機、浮上します」

「VTOL、間もなく本船上空に来ます。如何しますかっ」

「上空で待機させろ」

「了解っ」


ザバッ

程なくして弐号機が海面に姿を現し、

その弐号機が抱えている篭の中に傷ついた人魚が一人入っていた。

「こりゃ酷い…」

夏目が傷だらけの人魚を見ながら言う、

人魚の身体からは幾筋の赤い筋が流れていて、

翠色の髪の中からのぞく顔にはすでに血の気が無くなっていた。

「爆破の衝撃が追い打ちをかけたかも知れないですね」

相沢も人魚の様子を気にしていた。


カシャン

弐号機の手を放れた篭はクレーンでつり上げられ、

”わだつみT”の甲板上に下ろされると、

甲板で待機していた作業員が慣れない手つきで人魚を篭から出す。

翠色の髪と緋色の鱗が灯りに照らされてキラキラと輝く、

コロ…

その時、小さな玉が人魚のそばに落ちた。

しかし、それに気づく者は誰もいなかった。


「俺、本物の人魚って初めてみたよ…」

「あぁ、俺もだ…」

「結構美人だな」

遠巻きに作業を見守る他の作業員が口々に感想を言う。


「おいっ道をあけろっ」

五十里を先頭に船医・夏目・相沢・桂の5人が人魚のそばにやって来ると

船医が人魚の容態を調べはじめた。

「どうだ…」

五十里の質問に船医はやや難しい顔をしながら、

「一応、生きてはいるようですが」

と言う答えに

ふぅ

周囲に安堵の空気が流れる。

「しかし、見ての通り重傷ですので、すぐに手当をする必要があります」

「ただ…」

と言うと船医は立ち上がり困惑した表情になった。

「…人魚を手当てしたことがないから、治療法が判らないのか」

五十里が医者が考えていることを言うと、

「はい」

船医はそう言って頷いた。

「とりあえず、人間の応急手当で構わないからやっくれ」

「よろしいのですか?」

「仕方がない」

五十里がそう言ったとき、


「うわっ、なんだこれ」

人魚の様子を見ていた作業員が声を上げた。

「どうしたっ」

五十里達が声を上げて人魚を見ると、

人魚の側に落ちていた玉がムクムクと大きくなっていた。

「なに?」

やがてサッカーボール程に成長すると、

パシっ

と弾け、クラゲの様な奇妙な生き物が姿を現した。

ドタドタドタ

一斉に全員が人魚から離れた。

ヌォォォォォォ

生き物は触手を伸ばすと付近を探り始め、

人魚を見つけるとそれを覆い始めた。

「私の人魚がっ」

「やめろっ」

走り出そうとする五十里を夏目が制止させた。

人魚は幾重にも包み込まれると、やがて繭玉の様な姿になった。

「どうなってんだ」

夏目と相沢が声を上げる。


「支社長っ、いけません」

夏目の手をふりほどいて人魚に触ろうとする五十里を桂が必死で止める。

「誰か、生の肉か魚を持ってこい」

桂が指示すると、

作業員の一人が船内の冷蔵庫から1匹の魚を持って来ると彼に渡した。

五十里を夏目に渡した桂が、

「さがって……」

手で合図して作業員達を下がらせると、

竿にくくりつけた魚をそっと人魚の所にのばした。

そして、軽く身体を突っついたとき、

ヌォッ

表面一部がまるで触手のようにのびると、魚を包み込み。

ジュッ

あっと言う間に魚を分解してしまった。

うわぁぁぁぁ

驚く作業員達。

「これは……」

さすがの五十里が驚きの声を上げると、

「ひょっとすると人魚の秘密を我々から隠すための仕掛けかも知れませんな」

と説明する夏目に、

「なに?」

「じゃぁ、コイツは中に取り込んだ人魚を

 あの魚のように始末しているとでも言うのかっ」

五十里が怒鳴り声を上げた。

「いえ、何とも言えません…」

「ただ我々が直に触れることができない以上」

「いまこの中で人魚がどうなっているのか知る事はできません」

そういう桂の言葉に、

「くっそう」

五十里はゼリーの繭玉に包まれた人魚をにらみつける。

「どうします?、捨てますか?」

「馬鹿者、此奴のためにドールを2体も潰しているんだ」

「研究所へ持って行って、じっくりと調べる」

五十里はそう言うと船内へと戻っていった。

「まっ、これだけ経費を掛けている以上、

 何らかの成果を上げないと不味いですからね」

相沢の言葉に夏目はさっきまで人魚だった物体を眺めていた。

「さて、問題はどうやってコレを研究所まで運ぶかだ…」

夏目はすでに次のことを考えていた。



「えっ?、櫂がまだ帰ってきていない?」

真奈美は櫂の妹・香奈からの電話に驚き声を上げた。

「そんな……だって櫂はあたしよりも先に竜宮を出たのよ…」

「…わかった、あたしも探してみる」

そういって電話を切った真奈美は、

「お母さんっ、ちょっと竜宮に行って来る」

と叫ぶと家を飛び出して行った。


「なんだろう、イヤな予感がする…」

真奈美は自転車で海岸まで来ると周囲に構わず海へ入って行った。

ザブン

頭まで海水に浸かると大きく息をする。

すると真奈美の身体からムクムクと尻尾がのびると美しい尾鰭へと変化し、

程なくして翠色の髪を靡かせた人魚・マナへと変身した。

サッ

人魚になった彼女は身をくねらせながら

櫂ことカナと分かれたところへと向かう。

「たしか…この辺だったけど…」

その時、海面上でいつもなら夜遅くまでいる船の姿が無いことに気づいた。

「あれ?」

「船がいない……」

「なんで?」

「まさか……」

マナはあれだけ動き回っていた船が姿を消していることが気になった。



「お〜ぃ、慎重になっ」

「ゆっくりゆっくり」

「オーラィ」

研究所の一室に置かれた水槽に人魚を包み込んだ物体が徐々に下ろされていた。

作業を行う者はみな素肌が出ない特殊な防護服に身を包んでいる姿が、

この作業の異様さを物語っていた。


やがて表面の一部が水面に触れた瞬間。

ヌォ〜っ

表面から数本の触手が伸び空中をさまよいだした。

「うわぁぁぁぁ」

悲鳴を上げて、逃げまどう作業員達。


「やれやれ、困ったものだな」

「船から降ろすときも大変だったが」

「これでは、これからの作業も思いやられるぞ」

夏目が特殊ガラスで仕切られた隣の部屋から搬入の様子を見ながら言う、

「それにしても、アレは一体なんだ?」

五十里の質問に桂が、

「はい、サンプル調査では細胞構造はクラゲに近いと言う結果が出ていますが」

「性質は”粘菌”としての性質が強いそうです」

「新種か?」

「えぇ、各地の文献や論文を当たっていますが、

 これまでに該当するような事例はありません」

「そうか、一応は新種発見ってやつだな」

「はぁ」

桂の力無い返事が喜ぶに喜べない現状を物語っていた。

「なぁに、なんとかなるさ、要はあの奇妙な生き物を取り除けばいいんだから」

五十里の横で相沢が気楽なセリフを吐く、

しかし、夏目は浮かない顔をして、

「そう上手くコトが運べばいいんだが」

「あんまり悲観的になっちゃぁいけないよ」

「私は悲観論者でな」

夏目と相沢に険悪な空気が流れ始めると、

「夏目・相沢っ、人魚を水槽に沈めたらすぐに中の様子を調べさせろ」

五十里は一言指示を出すと部屋から出て行った。

「はい」

二人は部屋を出ていく五十里の姿を無言で見送った。

しかし、その後夏目の指示で桂が行った様々な調査の結果。

取り込まれた人魚の姿はなんとか確認できたものの、

詳細になると人魚は寝ているらしいと言う以外は全く不明だった。



「で、アヤノ…櫂いえ、カナは見つかりましたか?」

乙姫は心配そうにアヤノに訊ねる。

櫂の母・アヤノとマナは乙姫の前にいた。

「いろいろと探してはいるのですが…」

櫂の姿が消えてから3日がすぎていた。


「あたしもあのとき水鏡を見ていれば…」

乙姫が肩を落とすと、

「いえ、これは乙姫さまのせいではありません」

アヤノは乙姫に言う。

そのときすっと一人の仕えの人魚が乙姫の側に来ると、

「乙姫さま…」

と声をかけた。

「なんですか、いま大切な話をしているところです」

「申し訳ありません、

 ただ、ひょっとしたらその話に関わるモノかと思いまして」

と言って、乙姫の前に差し出されたのは剣の柄だった。

「あっ」

「えっ?」

アヤノとマナが声を上げる。

「これは…”竜牙の剣”…どうして」

乙姫の問いかけに、

「はい、先ほど私が人間界からこちらに来る途中で拾いました」

「どこで?」

マナの問いに、仕えの者がその場所を言うと、

「そこって、あたしがカナと別れたところだ…」

「やっぱり何かに巻き込まれたんだ」

「また、その周囲には細かく砕けた人魚の亡骸も沈んでいました」

「そんな…」

マナは思わず絶句するが、

「いえ、ご安心を…その人魚はわれわれ海精族によく似せてはありますが」

「間違いなく地上人の作りモノです」

「作り物の人魚…?」

「そういえば、しばらく前から門の周囲にいた地上人達の船…」

「カナがいなくなった頃を境にいなくなりましたね」

「はい…」

「と言うことは…カナは地上人達に捕らわれた…」

「まさか」

「いえ、考えられます」

乙姫は強い口調で言った。



その夜、傷ついた櫂の身体を繭の玉のようにして覆っていた

粘菌に異変が起こりはじめた。

ピシッピシッ

と表面に亀裂が入ると、

ボロ

徐々に崩れはじめた。

ボロボロボロ

やがて崩れ落ちる中から人魚・櫂が姿を現した。

ボロボロ…ボロ……

ゴボ…

「くっ」

完全に崩れ落ちたとき、櫂は気が付いた。


「ん?……」

「あれ?」

「ここはどこだ?」

目をあけてに飛び込んできた景色は海とは全く違っていた。

「えぇ?」

取りあえずす泳ぎ出してみると、

ゴン

すぐに透明な壁にぶつかった。

「イテテ…なに?ガラス?」

「なんだこりゃぁ」

その時はじめて僕は水槽の中にいることに気づいた。

そして、ガラス越しにはなにやら点滅を繰り返す大量の機材が見えた。

「一体…どうなってんだ?」

「えっと…」

直前の記憶を辿りはじめると、

「確か、マナと分かれて、変な人魚に追いかけ回されて、で…」

「!!」

「そうだ、ケガ」

気を失う直前、大ケガをしたことを思い出して身体を見るが、

どこにもケガの痕跡はなかった。

そして下を見ると粉々になったゼリー状の物体が落ちていた。

「そういえば…」

「僕が初めて人魚になったときにもこういうことがあったな」

「じゃぁ、あれは僕の傷を治してくれたのか」

そう思うと、

「ありがとう」

と一言礼を言った。

すると、それは淡く光ると消えていった。


「さて、とにかくここから出ることを考えなくっちゃな」

そう考えながら、水面へと浮き上がりはじめた。

しかし、水槽の上部にはしっかりとした蓋が施されていて

くぅぅぅぅ

開けようと試みたがビクともしなかった。

ドンっ

ならばと思ってガラスに体当たりをしてみると、

ユサ…

水槽が小さく揺れた。

「ふ〜ん、どうやらコレは急ごしらえで下はちゃんと作っていないな…」

「そうか、なら…」

今度は勢いをつけて体当たりをすると、さっきよりもやや大きく揺れた。

「よしっ」

手応えを感じた僕は、スッと水を従えさせると。

「もぅ一丁!!」

そう叫んで水もろともぶつかってみた。

ズン!!

水槽は大きく飛び跳ねる。

そしてさらに反動を大きくつけると、

「コレでどうだ!!」

ズシン!!

当たった瞬間、水槽は大きく傾き、

ドォォォォォン

大きな音とともに横倒しになった。

ザバァ〜っ

外れた蓋から水が流れ出す。



「なっ、何事だっ」

「水槽が割れたのかっ」

物音を聞きつけた数人の男が水圧で開いたドアから部屋に入ってきた。

「なんだぁこりゃぁ!!」

男が見た物はひっくり返った水槽と水浸しになった部屋の様子だった。

そして、その水槽の前にいる僕の姿を見つけると、

「にっ人魚…」

そう叫ぶと、すぐに壁に備えている電話に飛びつくとボタンを押しはじめた。

「まずい、どこかに電話をしているっ」

とっさに僕は周囲の水を寄せ集めると左手に集中させ、

シャーっ

まるで床の上を滑るように飛ぶとその男のところに向かっていった。

「なっ」

驚く男。

「くぉのっ」

僕は直前でジャンプして男の首に尾鰭をかけると一気に引き倒した。

ドスっ

グェ

その男は床に頭を強打して失神したが、すぐに他の男が、

「コイツ!!」

と叫ぶと、僕の尾鰭をつかみ部屋の隅へとなげ飛ばした。

っなろっ

とっさに水を呼ぶと落下点に水が集まり

バシャッ

僕はその中に落ちた。

「ほぅ、水の中で生きている人魚と言うことだけあって妙なことをするな」

男の一人が感心する。

「しかし、こんなに暴れるとは相当目覚めの悪いヤツみたいだな」

そう言いながら男達が近づいてくる。

「おいっ、五十里支社長からは”人魚に傷を付けるな”と言われているぞ」

「なぁにコレで躾をするくらいならいいだろう」

そう言いながら、壁に立てかけてあった棒を持ったとき、

黒い影がスッと男達の背後を通った。

「え?」

ドサっ

すると男達は音もなく次々と崩れるように倒れた。

そしてスーツ姿のビジネスマンっと言った感じの男が背後から出てきた。

「すごい…」

まるで、アクション映画のワンシーンのような光景に僕は呆気にとられていた。

「たしかに、行儀は悪いですよお嬢さん」

「それにしても人魚とは五十里も妙なものを作ったな…」

男はそういいながら僕をじっと眺めた。

「!」

「キミは……本物の人魚なのか……?」

男が驚き、

「人魚って本当にいたのか」

と感心しながら僕を眺めた。

「おっさん、誰?」

僕が口を開くと、

「ほぉ、日本語が喋れるのか、関心関心」

そう言いながら笑い、

「私か?、私は只のサラリーマンですよ」

と笑みを浮かべながら答えた。

「へぇ〜」

「確かに某紳士服チェーン店製のスーツに、

 駅で売られている一本千円のネクタイで身を包み、

 胸ポケットには携帯電話、
 
 そして鞄の中にはおそらく数々の資料ともにB5サイズのノートパソコン。

 一見すると営業をやっているサラリーマンのようだけど…

 その一撃必殺技…おっさん…”忍”だろう」

と僕が推理すると、

「あははははは」

「人魚なのに随分と詳しいねぇ」

「そりゃまぁ、年中無休で人魚をやっているわけではないからね」

「なるほど」

おっさんと妙にうち解けた話をしていたとき、


「そこまでだ」

その声にハッとして扉の方を見ると大勢の男達がそこを固めていた。

「よう、五十里か久しぶりだなぁ」

おっさんは男達の中央で腕を組んでいる男に声をかけた。

「ん?、貴様は鳥羽っ」

「なんで、お前がここにいる」

「いやなに、キミの日本支社長就任のお祝いと、

 ”アズサ”を見せてもらおうと思ってこうして駆けつけてきたのだが、

 まさか、本物の人魚に出会えるとは思ってもいなかったな」

「なんだと!!」

見る見る五十里の顔色が変わる。

「支社長っ、人魚が…」

五十里の横にいる男が僕を指さして耳打ちをした。

「わかっている、どうやら目を覚ましたようだな」

そう返事をすると。

「おい、鳥羽っ、その人魚をこっちに渡してもらおうか、

 それは私が捕まえた物でな、そいつの所有権は私にある」

その話を聞いた僕は思わず、

「誰がお前の物だっ」

と大声を上げた。

「なっ、日本語を喋ったぞ…」

五十里を除く男達はひそひそ話をはじめた。


「おいっ、お嬢ちゃん」

おっさんが僕に声をかける。

「え?」

「さっきの術は使えるか?」

「何を?」

「床の上を飛んだ術だ」

「あぁ、そこの水を使えば…」

と言って水槽に残っている水を指さした。

「上等っ」

おっさんはそう言うと、

「俺が合図したら、その術であいつ等の上を飛び越えろっ」

「え?」

「幸い、お前が飛んだ所を見た奴はそこで全員のびている」

「だから、あそこの連中はお前が飛べることを知らないはずだ」

「わかった」

僕はそう返事をすると呼び水を送ると、

水槽の水を手元へと引き寄せはじめた。

スルスルスル

徐々に水は僕の手元に流れ込んでくる。


「おい、早くしろっ」

「じゃなければこちらから取りに行くぞ」

五十里はそういいながら徐々に近づいてきた。


「まだか」

「もぅ少し…」

「…よし、いいよ」

僕が返事をすると、

「わかった、じゃぁ受け取れ」

おっさんは僕の右手をつかむと五十里の元へと放り出した。

「うぉりゃぁっ」

その瞬間、左手に集めた水で床に叩きつけると、

僕の身体はふわりと浮き上がり五十里の真上を、

そして男達の間をすり抜けて廊下に出た。

「なっ」

呆気にとられる五十里達

「こぃっ」

廊下に出た僕がそういうと一度散らばった水は

僕の後を追いかけるように飛び跳ねながら部屋から飛び出してきた。

そして、飛び跳ねる水の中を泳ぐようにして僕は廊下を飛んだ。

「何をしている、追えっ」

五十里の怒鳴り声が後から追いかけてくる。

「廊下に出たけど、どうすりゃぁいんだ」

やがて長い廊下は終わりエレベーターの扉が見えてきた。

「しまったぁ」

途中にあった階段に行かなかったことを後悔したが、

すっ

僕がエレベーターに近づいたときドアが開いた。

「よしっ、このまま突入だ」

そのまま勢いで僕はエレベーターの中へと突入した。

パシッ

エレベータの壁に手を付いたと同時に、

パタン

エレベータの扉が閉まり、

グィィィィン

エレベータは降下しはじめた。

「あ〜ぁ、エレベータの中が水浸しだな」

顔を上げると、あのおっさんがボタンを押していた。

「すみません」

「あぁ、いいよ、どうせウチの会社の物じゃないから」

「さて、お嬢ちゃん、すぐに海に帰してあげたいのは山々だけど」

「悪いが、ちょっと私とつきあってくれないか?」

「え?」

「いっいいけど…」

僕が返事をすると

「いい物を見せてあげるよ」

そういっておっさんは片目を瞑って見せた。

「いやぁ、それにしても人魚と一緒にエレベータに乗るなんて長生きするもんだな」

「あははは…」

「長生きって…おっさん、僕の父さんとそんなに変わらないじゃないか」

「へぇそうかなのか?」

「それにしても、人魚と言うのは自分のコトを僕って言うのか?」

「ん、みんなじゃないけどね」

「そうか」

「キミは水を操れるのか?」

「うん、まぁね」

「こうして水を操ることで、色々できるんだ」

と言うと僕は掌の上に小さな水玉を作ると

ふわっ

と浮かせてみた。

「へぇ」

「そりゃぁすごいわ」

ポーン

エレベータが止まるとドアが開いた。

「ここで乗り換えだ」

「乗り換え?」

「このエレベータはここ止まり、

 ここから先は別のエレベータに乗らなくてはならないんだ」

とおっさんは答えた。

「はぁ」

「動けるか?」

「えっと」

「そうだ、おっさん何か服あるかな?」

「え?」

「人間に戻る」

僕はそう言うと竜玉を取り出し、

フン

と力を入れた。

しかし…なにも起こらなかった。

「え?」

「くっそう…どうなんてんだっ」

再度力を入れてみたが、やはり何も起こらなかった。

「そんな…人間に戻れない」

「どうした?」

おっさんが僕を見る。

「人間に戻れない…」

僕は訴えかけるような目でおっさんを見た。



つづく





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