風祭文庫・人魚の館






「五十里の野望」
(第3話:捕獲)


作・風祭玲
(RB原案・TWO BIT)


Vol.080





この話を読む前に”レンタルボディ編:ヒミコシリーズ”を読まれますとちょっぴり味が濃くなります。

「ヒミコ」シリーズの詳細については


http://www2u.biglobe.ne.jp/~bell-m/bunko/rb/index.htm


を参照して下さい




なお、「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/indexj.html


を参照して下さい





翌朝、

HBS社の社運を賭けて”わだつみT”と”わだつみU”は港を出港していった。

目指すは事前調査でその可能性が高いと判断した”友石海岸沖”


ザザザザザ

2隻の船は順調に航行する。

「五十里支社長っ、間もなく該当海域です」

”わだつみT”のブリッジで指揮を取っている五十里の元に報告が来た。

「よし」

「”わだつみT”は兼ねてからのプランに従って海底地形探査を…

 ”わだつみU”はポイントA−1に向かい

 探査船”ケルマディック”にて探査を開始。以上だ」

五十里の指示を受け、2隻の船は別れそれぞれの担当海域へと向かう、

しばらくして、”わだつみT”に仕掛けられた海底探査器が、

海底の地形の状態をコンピュータへと送り始めた。

そして、それは船の進行に応じて刻々と海底の地形が映し出され記録されていく。


また”わだつみU”は前もって人魚出現予測ポイントとして

ピックアップされた十数点でのポイントで探査船による

人魚の探査が行われた。

五十里は数日以内には発見・捕獲出来ると信じていたが、

しかし、結果は芳しくなかった。


これだけの機材を投入しても、

竜宮どころか人魚の影さえも発見できなかった。

無愛想な五十里の表情に徐々に焦りの色が出てくる。

「くっそう…なぜだ!!」

「なぜ、見つからないっ!!」

そんなとき、

「支社長、お困りのようですね」

いつの間にか支社長室に本社勤務の相沢友之が入っていた。

五十里は彼を睨むと、

「ここは日本支社長室だ、お前のような本社のヤツが入ってくるところではない」

と言うと、

「おやおや、これはご挨拶ですね」

「本社のご老人達より”あなたの様子を見てくるように。”

 とお使いを頼まれた者に、一言ねぎらいの言葉も欲しいものですが」

「ふん、私はまだ敗北はしていないよ」

「さぁ、それはどうですか?」

「なに?」

「今のままアクセルを踏み続けると”失敗”という崖に

 真っ逆さまですよ、五十里支社長」

「なんだと?」

「そこで提案があるんです。

 ここは一つ、ハンドルを切られてはいかがですか?」

「ハンドル?」

「そうです、作戦変更です」

「………」

五十里は何も言わず相沢を見る。

「実は支社長の計画を見せていただきましたが、

 一つ見過ごしている点があります」

「なに?」

「”竜宮は隠されている”と言うことですよ」

「まさか」

「竜宮は特別な何かで巧みに隠されている。

 故に、いくら探査しても引っかからない」

「では…」

「そう、故に竜宮の在処を知っている

 ”人魚”を捕まえるのが先決…でしょう?」

「それは、平行してやっているっ」

吐き捨てるように五十里が言うと、

「確かに、支社長はピンポイントで人魚探しを行っていますが」

「問題はその方法です」

「逆なんですよ…」

「…竜宮探しと人魚探しが」

「…なっ………」

「と言うことで、面白い物を持ってきました」

相沢はそう言うと、梱包状態の機材を机の上に置いた。

「なんだこれは…」

「……魚群探知機です。人魚専用の…」

五十里の表情が変わった。

「支社長が以前拾った人魚の亡骸を分析していた時に判ったのだそうですが」

「人魚には人魚特有の波形って言いましょうか、

 そう言うのがあるそうなんです」

「で、この探知機はその波形を探る装置。

 と言うワケでして…」

「使えるのか」

「試してみます?」

ニッ

相沢の表情が笑った。



翌日、この相沢が持ってきた人魚専用の探知機は”わだつみT”に搭載され、

早速これを用いた人魚探査が開始された。

”わだつみT”のオペレーション・ルームで

憮然としている夏目に相沢が近づいてきた。

「おや、何を怒っているんです?、夏目さん」

「ふん、別に怒ってはいない」

「またまたぁ〜無理しちゃってぇ」

「僕が持ってきた、人魚探査機が気に入らないというんでしょう?」

「なにしろこれはあなたが練った計画がぶち壊しにしますからね」

「ふん」

「図星……ですか?」

夏目は何も言わずオペレーション・ルームから出ていった。

その後ろ姿に相沢は手を振って応えた。




「櫂…海母様の”失われた鰭”の手がかりは何か見つりましたか?」

僕が竜彦と共に鰭探しを始めて半月が過ぎていた。

それで”一度は乙姫さまに途中経過を言った方がいい”

と竜彦に勧められて、僕は彼と共に乙姫さまの元を訪れていた。

「いや、それが……まだでして」

頭をかきながらそう返事をすると、


「そうですか……」

乙姫さまの想像以上に落胆した様子にあわてた僕は、

「あっ、そんなに落ち込まないでください」

「竜彦と共に探しているので、そのうち見つかると思います」

そう弁明すると、

「なぁ、竜彦っ」

っと隣にいる竜彦に話を向けた。

「まぁな」

「見つかる見つからないはお前の腕次第だけどな」

竜彦は素っ気なく受け流す。

「……少しは話を併せろよ」

「しらん」

相変わらずの竜彦。

「櫂、あなただけが頼りですからね」

乙姫さまはそう言うと僕の手をしっかりと握りしめていた。

「はっはぁ」

「困ったなぁ……」

「これじゃぁ”絶対に見つけろ”って言われているのと同じことじゃないか」

僕はすっかり困惑していた。



しばらくして、乙姫さまの元を辞しようとしたとき、

「あっ、櫂っ」

僕を呼び止めた。

「はい?」

何か別の問題を吹っかけられるのでは、と心配しながら返事をすると、

「最近、地上人たちが”門”の周囲を調べ回っています。

 気をつけてください」

そう告げると乙姫さまは去っていった。

「”門”の周囲?」

「竜彦っ、何か知っているのか?」

竜彦に尋ねたが、

「あぁ、人間どもが一所懸命調べているみたいだな」

「じゃっ、俺は忙しいのでこれで」

というと竜彦はスィっと僕の前から姿を消した。

全く相変わらず無愛想なヤツだ。


「あっ、カナ、終わったの?」

乙姫さまの館を出ると、意外にもマナが僕を待っていた。

「あれ?、マナ…なんでここに?」

「”なんで”ってご挨拶ねぇ」

「あっ、そっか、今日はマナが竜宮に来る日だったのか」

「そうよ」

「で、乙姫さまの用事はもぅ終わったんでしょう?」

「うん、まぁ…」

そう返事をすると、

「じゃぁ、一緒に帰ろう」

「学校とは違って、竜宮からの帰りに一緒に帰れるコトってないから」

と言うと、彼女は僕の手をつかむと泳ぎ始めた。

僕もマナに合わせて泳ぎ出す。

「ねぇ…いったい何を頼まれているの?」

「あれ?、まだ言ってなかったけ?」

「”乙姫さまの大切なもの”としかね」

「海母さまの鰭をね……」

「海母さま?」

「そう」

「海母さまって確かあたし達人魚の遠い祖先って聞いたけど」

「人魚だけじゃない、この星のすべての生き物の源らしいよ」

「うわぁぁぁ」

「で、なんで鰭を探すことになったの?」

「マナも知っているだろう、昔ここで闘いがあったって話」

「えぇ」

「なんでも、そのときに無くなってしまったそうだ」

「ふぅぅん」

「で、最近、地上人の手にその”鰭”が渡っていることが判って

 それで、乙姫さまが僕にその”鰭”を地上人の手から取り返して来て欲しい。

 と頼んできた。と言うワケだ」

とこれまでの経緯を説明した。

「なるほどねぇ」

「それで、目星はついているの?」

「それが全然っ」

「あのねぇ」

マナが呆れた顔をする。

「しょうがないだろう、何処にあるのかも判らず、

 手かがりとなるのは、海母さまの気配のみ、

 日本周辺にあるならまだしも、
 
 これがアメリカやヨーロッパだったら手に負えないよ」

と僕が言うと、

「確かに、そうかもね」

ようやく納得した表情でマナが言う。


「どちらにしても、カナ…あんまり無茶しないでね」

「え?」

「最近、変な夢を見るのよ」

「カナ…いえ櫂がどこか私の手の届かない所に行ってしまう夢を」

「だから、無茶しないで…」

「うっ、うん、わかった」

「気をつけるよ…」

「約束よ」

そう言うとマナはクルリと身体を回転させて円を描いた。

母さんに聞いたことがある。

人魚は約束をするときの”おまじない”としてそうすることを、

だから、僕も続いてクルリと回った。


クス

僕が回ったのを見てマナが笑った。

そして、そのときの彼女の姿は人間の時とは

別の美しさがある事に気づいた。

「きれいだなぁ…」

ポッとつぶやくと、

「え?、なに?」

「いっいや、別に…」

「どうしたの?、顔赤いよ」

マナに指摘されて、

「何でもない…何でも…」

とその場を取り繕う。

「そう?」

そう言いながら僕たちは竜宮の城門をくぐると、

人間界との門にさしかかった。

ぱぁぁぁぁぁっ

通路が光輝くいたのもつかの間。

一気に闇と水圧がのし掛かってくる。

「うっこの瞬間が一番イヤだ…」



しかし、僕たちが門をくぐり抜けたとき、

丁度その真上を”わだつみT”がさしかかっていたことは知る由もなかった。


ビーッ

船内に警報がけたたましく鳴り響く、

「どうしたっ」

警報に驚いた五十里と夏目がオペレーション・ルームに飛び込んできた。

「ついに見つけたかっ」

後に続いて相沢もやってくる。

探知機のセンサーから得られたデータをコンピューターが照合する。

ピッ

「パターン、青っ、人魚を検出しましたぁ」

解析室からの返答を受けて桂が声を上げる。

「ようしっ、ついに見つけたぞ」

喜ぶ五十里。

「現在、人魚は当船の直下っ、水深300m付近を北北東へ向け移動中」

「意外と深いなぁ」

相沢が数値をみてこぼす。

「よしっ」

「”わだつみU”をすぐに呼び戻せっ」

「これより人魚捕獲作戦を開始する」

五十里の指示が発せられると船内に緊張が走った。

「了解!!」

”わだつみ1”は大きく舵を取ると海面上を櫂達と併走し始めた。

「人魚っ、水深250mまで浮上」

大型モニターに映し出された海図に小さな点が現れる。

やがてその点が2つに分かれた。

「2体いるのか?」

夏目が驚きの声を上げる。

「2体とも捕獲するまでだ」

五十里の口元がゆるむ。



「ねぇ、なんか上騒がしくない?」

マナが海面の方を見上げながら言うと。

「そうか?」

僕も続いて見上げる。

「ん?」

「真上に船がいるな」

「そのせいか」

「そぉ?」

海面に近づくにつれ水圧が緩くなる。

「あっ」

「どうした?」

「竜宮に忘れ物をしちゃった。

 ちょっと取ってくるから先にいってて」

そう言うとマナはくるりと向きを変えると再び潜り始めた。

「やれやれ」

一人残された僕は再び泳ぎ始めた。

海面まであと少し、



モニターに映し出された2つ点が突然離れ始めた。

「人魚っ、二手に分かれました。片方は戻っていきます」

オペレーターの声に一時騒然となる。

モニターを見ながら夏目が

「気づかれたか?」

と心配するが、

「いや、違うだろう」

と相沢が返事をする。

「なら良いのだが」

再びモニターを見る夏目、

「どうします?、支社長。

 片方はおそらく竜宮に向かい始めたと思いますが」

桂が五十里に訊ねる。

「追いかけますか?」

相沢の問いかけに五十里は、

「その必要はない、浮き上がってくるヤツを捕まえるんだ」

と指示を出すが、続いて桂から、

「”わだつみU”より入電っ『我、所定の位置に着く』」

と言う報告を聞くと、

「よしっ零号機と初号機を投下させろっ、弐号機は待機」

矢継ぎ早に”わだつみU”への指示をだした。

「了解!!」



五十里からの指示を受け取った”わだつみU”はドールの射出準備を始めた。

「起動システム・オール・青っ」

「各モニタ異常ありません」

「現在のシンクロ率、35と38っ、問題ありません」

「その他各システムエラーなしっ、いつでもOKです」

「水深150mにてカプセル解放にセット」

次々とオペレーター達が声を上げる。

「よしっ、零号機・初号機射出っ」

榛名の指示と共に、

シュボンっ…シュボンっ…

射出用カプセルに納められたドールは、

通信用のケーブルを延ばしながら、

空中に大きく弧を描くと海中に突入した。

「10・20・30・40…」

ドールの水深値が読み上げられる。

「……140・150っ」

「カプセル、解放!!」

バゴン

ドールと納めていたカプセルは殻が割れるように弾けると、

中身のドールを海中へと押し出した。

「零号機・初号機っ、起動!!」

グゥンっ

眠りから覚めたドールはまるで自分の身体を確認するがごとく、

クルリ

と一回転すると、上昇してくる”櫂”目がけて一気に潜っていく。



「なにかが、落ちたのかな?」

続けて2つの水音を聞いた僕は海面の方を眺めた。

「!!」

「なんだ?、何かがくる」

急速に接近してくる気配に僕は泳ぐのをやめた。

「まさか、海魔?」

すっと”竜牙の剣”の柄を握りしめ、気配を読む。

「違う…な…これは海魔じゃない。だとすると」

そのとき、2つの物体がものすごい早さで僕の横を通り過ぎて行った。

「なに?」



「零号機・初号機、人魚と接触!!」

”わだつみT”でドールの様子をモニターしていたオペレータが声を上げる。

「おぉ」

オペレーション・ルームにどよめきがわき起こる。

「捕まえたのか?」

「いえっ、通り過ぎた模様」

「何をやっているんだ」

「おい、”わだつみU”を呼び出せ」



「なんだ、今のは…」

「一瞬、人魚に見えたけど」

僕は”竜牙の剣”を握りしめた、

シュオン

翠色の刀身が現れる。

「しまった、甲冑を持ってくるんだった」

今日に限って置いてきたことを後悔した。


シュォォォォォォ

大きく弧を描いてさっきの片方が戻ってくる。

「海魔か?、それとも…」

その瞬間、前に黒い陰が現れるのと同時に、

ガシッ

ヤツは僕の肩をつかむと思いっきり引っ張りはじめた。

ぐわぁぁぁぁぁ

猛烈な水流で目が開けられない…

「てめぇっ」

ガシュッ

僕は手にした”竜牙の剣”の柄で肩に食い込んでいる

ヤツの手を思いっきり殴ると、

ギャッ

小さな悲鳴を上げ、ヤツは僕を放した。

「野郎っ」

僕はそう叫びながら、ヤツの後を追いかけた。

改めて見るヤツの姿はがっしりとした防具で身を固めているが、

上半身は人の姿をし、一方、下半身は魚という、

そう、僕と同じ人魚だった。

「人魚なのか?」

しかし、ヤツからは生気は一切感じず。

また背中から伸びているケーブルに作り物と言う臭いがした。

「お前、人魚じゃないな」

「ならっ、遠慮はしないぞ」

僕はヤツと間合いを詰めると、大きく剣を振り下ろした。

ギュォォォン

ヤツは声を上げると、ゆっくりと沈んでいった。


ピッ

「初号機損傷!!」

オペレーターが声を上げる。

「全システムに45%の以上のダメージです」

「人魚に噛まれたのか?」

夏目が訊ねる。

「いえ、何かで切られた模様です」

「切られた?」

「やっぱりな」

五十里は確信した目で言う。



ハァハァハァ

「一匹は葬ったが、でも、もぅ一匹がいるな」

僕は残るもぅ一匹の行方を探った。

シャァァァァァ

「そこだっ」

動きを感じてとっさに”竜牙の剣”を振り下ろす。

ギュォォォォン

僕の目の前にはさっきのと同じ体中を頑丈な防具で防護された人魚がいた。

さらに、僕の剣はそいつの両腕につけられていたプロテクターで防御されていた。

「くそっ」

そいつからとっさに離れると、掌に光の玉を作るとそいつ目がけて放った。

ズドォォォォン

顔面で炸裂する。

「やった」

しかし、そいつは直撃を食らってもびくともせずに僕に向かってきた。

「うわぁぁぁ、来るんじゃねっ」


「零号機っ、人魚と格闘中です」

オペレーターは零号機の状態を報告する。

「よしっ」

「”わだつみU”へ連絡っ、弐号機に捕獲器を持たせて下ろせとな」

夏目が指示を出す。

「了解」


ガッ

「くっ」

僕はそいつから拳の一発を喰らった。

「この野郎!!」

そいつに殴りかかろうとした瞬間、次の2発・3発目を立て続けに喰らう、

「くっそう、ならば、こいつでどうだ」

特大の光の玉を作ると、そいつのすぐそばで炸裂させた。

グォォォン

「どわっ」

衝撃に押し流される。

はぁはぁはぁ

水の透明度が戻ると、そいつは動かなくなっていた。

「へっへっへっ、ざまぁ見ろっ」


「零号機、沈黙しました」

オペレーターが声を上げる。

「なに?」

「初号機は?」

夏目が怒鳴る。

「再起動終了、現場に急行中」

「弐号機は?」

「間もなく射出します」

「よし、初号機で時間を稼がせろ」


「とにかく、ここにいては危険だ、竜宮へいったん戻ろう」

と言うと僕は向きを変え再び潜りはじめた。


「人魚、潜行していきます」

「初号機、間もなく接触」

オペレーターが叫ぶ


シュォォォォ

「なんだと、アイツ、生きてやがったか」

僕は再び剣を構えた。

しかし、ヤツはなかなか僕の前には来なかった。

「なんだ?」

僕の周りをまるで逃がさないようにグルグルと回り始め、

それどころか、死角に来るたびに槍のような武器で攻撃を始めた。

「くっ、このっ」

攻撃を避けながら必死で応戦する。

「くっそぉ、こいつめっ」

「周りをぐるぐると回りやがって」

「なら、こっちから行くぞ」

頭に血が上った僕はヤツの後を追いかけ始めた。


「人魚、初号機の挑発に乗っているようです」

「弐号機は?」

「順調に降下中」

「ようし、捕獲器を開け、ヤツをその中に誘い込むんだ」

夏目は声を張り上げる。

「了解っ」


ガシュッ

弐号機が持っている捕獲器が開き、特殊金属でできた籠が口を開く。

「待ちやがれっ」

さっきまでとは打って変わり、目の前のヤツはひたすら逃げるだけだった。

「くおのっ」

僕とヤツとの間は徐々に狭まり、

そして、ついにヤツの上にでた。

「もらった」

そう言うと竜牙の剣を思いっきり振り下ろした。

ガッ

「やった」

手応えを感じた次の瞬間。

ドスッ

激痛が身体を走った。

「なっ」

真っ二つになりかけたヤツの腕から伸びた槍が僕の身体を突き刺していた。

身体から吹きだした血があたりを染め始める。

「くっ…痛ってぇ…」

それだけでは無かった、ヤツは槍を引き抜くと2度3度を突き刺した。

ウグッ

徐々に意識が遠のいていく…

「真奈…」


「緊急事態発生!!」

「初号機制御不能、人魚に重傷を負わせた模様!!」

オペレーターの叫び声に、

「馬鹿者っ、初号機を爆破っ、すぐに人魚を捕獲しろっ」

「いいかっ死なせるなっ」

五十里の怒鳴り声が響いた。


「ん?」

竜宮にいたマナはふと何かに呼ばれたように振り向いた。

しかし、そこには誰も居なかった。

「確か、櫂の声が聞こえたんだけど…」



つづく





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