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演出家ごあいさつ 

 以前からうすうす気付いてはいたのだが、どうも私は「さい」が
好きなようである。「さい」とはもちろん哺乳類奇蹄目犀科の
「さい」なわけだが、これが何とも言えずによい。
 動物図鑑を紐解くにしても、まず「さい」のぺ一ジを開いてしま
うし、ふと気が付くと部屋にある木彫りの「さい」の置物(武蔵小
山の怪しげな輪入雑貨屋で3年程前に買った)を眺めていたりする。
また、「動物奇想天外」の「ブチハイエナ」特集で、画面奥の隅に
映った「さい」の姿に気をとられ、あれは「くろさい」なのか「し
ろさい」なのかと考えているうちに、「ブチハイエナ」の生態につ
いて造詣を深める機会を逃してしまったなどということもしばしば
である。
 最近では私の「さい」好きも度を越してきたようで、人から
『「さい」のどこがよいのか』と尋ねられたとき、「さい」のよい
ところが次々と頭の中を走馬灯のように駆け抜け、思わず『全部!』
と答えてしまう自分の姿に、『キムタクのどこがいいの』と尋ねら
れ『う〜ん、全部!』と答えてしまう茶パツの女子高生の姿をオー
バーラップさせている私は、ちょっとリリックな気分である。
 そう、思い返してみれば中学生の頃、室生犀星の名前を初めて目
にしたとき、『ふざけた名前のオッサンやなあ』 『このオッサン
「さい」の星からやって来た宇宙人かいな』などと語らったことを
今では深く反省しており、自らのペンネームに「さい」を取り入れ
た室生氏のセンスに敬意を表している次第である。そしてまた、
「愛の詩人」室生犀星氏に負けぬよう、私も「愛の演出家」として
生きて行こうと今、決意を新たにしたのである。

1995年クリスマスの日に 

          (羽田野真男「月光社員」チラシ掲載)

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