自動車用内燃機関は生き残れるか

〜環境問題と内燃機関の未来〜


第5章 電気エネルギーは未来を救えるか

(2) 夢の太陽エネルギー ソーラーカー(Solar Car)

 ソーラーカー、太陽の光を受けて走るまさに夢の自動車だ。
 電気自動車の一種と捉えることはできるが、純粋な電気自動車が電気を貯蔵して走行するのに対して、ソーラーカーは太陽電池で発電しながら走行するという違いがある。
 電気自動車が低公害車のイメージリーダーであるとすれば、ソーラーカーは未来エネルギーのイメージリーダーであると言える。
 ソーラーカーが注目され始めたのは1980年代後半。国内外でソーラーカーレースが盛んに開催されるようになった頃からである。
 特に日本でその名を知らしめたのは、オーストラリアを縦断する全行程3010qのワールド・ソーラー・チャレンジの第二回大会(1990年)で、ホンダの「ドリーム」が初参加で第二位に入ったことであろう。 第三回大会(1993年)、第四大会(1996年)には二連覇を達成し、いずれも前大会の自己記録を更新する輝かしい戦績であった。
 だが、ホンダ以外の自動車メーカーの視線は冷ややかだ。これは明らかに、実用性を欠いているという現実があるからだろう。
 太陽エネルギー(太陽光)の出力は1u当たり1kWである。これを太陽電池で効率15%として変換すると、1u当たり0.15kWである。現在、5ナンバー車でも200馬力は当たり前だが、太陽電池でそれに相当する馬力(150kW)を得ようとしたら、1000uの広さが必要となる。 標準的な一戸建て住宅なら10軒分、フルサイズの観光バス(12m×2.5m)なら約33台に当たる面積だ。
 観光バス一台分では4.5kW、50t原付バイク並みの出力しか得られない。逆に言えば、50t原付バイクを動かすのに、観光バスクラスの屋根が必要となるのである。もはや、実用性がどうこう言えるような余地はない。
 これからの研究で太陽電池の効率を上げればどうにかなる、という希望的観測もできない。何故なら、太陽電池の効率は理論的に30%が限界だからだ。36%の太陽電池も開発されてはいるが、たった6%の向上でしかない。効率を30%で換算しても、観光バスの屋根で発電できるのはは80t原付バイク程度である。
 レースでソーラーカーが走れるのは、走行抵抗を限りなく小さくし、一定の速度で走るからだ。自転車のように細い専用のタイヤで転がり抵抗を減らし、ゴキブリの如き地を這うようなボディで空気抵抗をできる限り抑えている。内部も極限まで軽量化され、居住性など無いに等しい。 だがここまでしても、せいぜい時速50〜60q位が限界なのだ。
 走る場所がサーキットなどの閉鎖空間であることも重要な条件だ。サーキットに信号は無く、障害物も極端な坂道も無い。ストップ・アンド・ゴーの無い所だからこそ、ソーラーカーは走り続けられるのだ。
 レースにはピットストップというものがあるが、ピットアウトするときにはピットクルーが後ろから押す光景が良く見られる。これは、停止状態から瞬間的に速度を上げるほどのパワーが無いからである。
 つまり、ソーラーカーは自動車としての実用性の全てを捨てることで成立しているのである。
 ソーラーカーは、クリーンで無尽蔵な自然エネルギーを使った究極の自動車というイメージが強いが、それは現実を無視したものだ。
 モーターショーなどでも、一般者の屋根やボンネット上に太陽電池を並べて「ソーラーカーです」といったようなものを見かけるが、実際には太陽電池だけで走るわけではない。鉛電池に蓄えた電力で走り、太陽電池は消耗した電力を僅かに補うに過ぎない。
 夢を壊すようだが、純粋なソーラーカーなど有り得ない。太陽電池が自動車に使われるとしたら、そんな電気自動車の補助的なものか、一人か二人乗りの自転車的なパーソナルカーになるだろう。

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