第十一話 「西部太平洋会戦(前編)」





初め、その物体を確認した観測員は、またいつもの様に途中で燃え尽きるものと思っていた。それでも彼がそれ を監視し続けたのは、それが彼に与えられた任務であったからだ。しかし――

「こ、こいつは!?」

本来ならばとっくに大気との摩擦によって消滅しているはずのそれは、大気圏突入時の質量を保ったまま降下 を続けている。彼はあわてて北米防空司令部への直通電話を取った。

「こちら、マッキンリー第6レーダーサイト、成層圏を降下中の不審な飛行物体を確認。現在東経146度、北緯68度付近を 南西に飛行中!」

『司令部、了解。当該飛行体は第1、第3レーダーサイトでも捕捉している。そちらの落下予測地点は何処か?』

「現在のコース、降下角を維持すれば日本列島北部、おそらく北海道エリアの中央部付近と思われます」

『了解、そのまま監視を続行してくれ。日本政府にはこちらから警告を出しておく』

北米防空司令部からの警告を受けた日本政府の命令により、すぐに千歳基地から航空自衛隊のF−2戦闘機が二機、緊急発進する。 離陸して程無く、F−2戦闘機隊は超高空を飛行する炎の帯を発見した。

「ワイバーン01よりトレボー、目標を視認。現在、南西に向かって飛行中」

『トレボーよりワイバーン01、接近して詳細を確認せよ』

「ワイバーン01、了解――ワイバーン02、ヤツに接近するぞ」

F−2戦闘機隊はアフターバーナーを噴かして一気に接近を試みる。しかし、相手の速度は彼らの最高速度より遥かに速く、 追いつく事はとても出来そうになかった。

「ワイバーン01よりトレボー。駄目だ、接近出来ない。目標は少なくともマッハ10以上の速度を出しているようだ」

『トレボー、了解。後は、陸自に引き継ぐ。ワイバーン01、ワイバーン02は帰還せよ』

「ワイバーン01、了解。これより基地に帰投する」

未確認飛行物体は、F−2戦闘機の追撃を振り切ると、そのまま北海道中部の山中に落下した。幸い、人家の無い地域だったので 死傷者は出なかったが、その正体は解明しなければならない。早速、陸上自衛隊の一隊が調査の為に現地へ向かう。

「――ここが、連絡のあったヤツが落ちた場所か。しかし、なんだこれは?」

現地に到着した彼らが見たのは、数キロに渡って穿たれた巨大な溝だった。一見してそれは、あきらかに何かが“落ちた”の では無く“不時着”した跡である事が解る。つまり、飛行物体は“自らの意思”で着地前に制動をかけたのだ。

「隊長、落下溝の先端部へ向かった部隊から連絡がありました。落下物の本体は消失しているそうです」

「どう言う事だ?」

「報告では、それらしい場所に直径20m程の穴が開いているそうです。おそらく、地下へ潜って移動したのではないでしょうか」

「地下へ潜ったァ?まるでどこかのスーパーロボットだな」

呆れたように声を上げた指揮官だったが、その可能性を全面的に否定することはできなかった。何しろ、先例は山のように存在 しているのだ。

「よし、各隊に連絡して周辺地域を徹底捜索。落下した物体を、なんとしても発見しろ」

「了解。直ちに伝えます」

しかし彼らの懸命な捜索にもかかわらず、結局落下物本体が発見される事は無く、何が落ちて来たのかは不明のまま調査は 数日後に打ち切られてしまった。



――西部太平洋上空


北海道の事件から一週間、大気を切り裂いて降下する蒼天の巨体が太平洋上にあった。

「現在高度115000ft、主機推力カットします」

「よし、艦首戻せ」

「アイ、サー。トリム・ゼロ、水平航行。高度114000ft」

「現高度を維持しろ。カメレオン、スタート」

「了解。光学迷彩、作動します」

D.Dがパネルを操作すると、蒼天の巨体はまるで空に溶け込むかのように姿を消して行った。光学迷彩とは、背景の映像を 艦体表面の特殊な皮膜に投影して擬装する特殊迷彩の事である。アレックスの言葉通り、原理的にはカメレオンの擬態と同じ ようなもので、蒼天に多数装備されている試験装備の一つだ。連邦軍の艦政本部としては、大気圏内で運用される全ての艦艇に 装備したかったようだが、消費エネルギーが莫大なのと装置、特に投影用の特殊皮膜が嵩張るので実用化の目途は立っていない。

「光学迷彩、作動しました。全システム、異常無し」

「ライザ、現在位置と進路は?」

「東経125度30分、北緯17度18分、フィリピン諸島ルソン島の東、約640マイル付近です。コース260、速度43ノット」

ライザの報告を受けて、アレックスがマップで現在位置を確認する。

「う〜んと‥‥ああ、だいぶ良い所に降りたな。D.D、速力を巡航に下げて進路を330へ」

「アイ、サー。進路変更、右90、補機出力70%。現在40ノット‥‥38‥‥34‥‥速度30ノット、巡航速です」

「OK――ハンガー、ハンスはいるか?」

『なんでしょう、チーフ』

「青龍とトロイホースの修理状況は、どうなってる?」

『青龍は100%終了しています。トロイホースの方は、主機だけは何とか100%の出力が出せるようにしましたけれど、 姿勢制御の方がまだ手付かずになってます。ですから、真っ直ぐに飛ぶ分には問題ありませんが、戦闘機動となるとちょっと 厳しいですね。あと、通信も常用周波数帯は使えるようにしました』

「まあ、嘉手納まで行くだけだから、それでも何とかなるかな。格納庫のハッチはどうした?」

『取り敢えず上下共扉はくっつけておきました。但し、開けっ放しです』

「なんだ、そりゃ?」

『開閉用のシリンダーが、オシャカになってるんですよ』

「代替部品はないのか?」

蒼天には、かなり多種多様の補修部品が積まれており、大抵の艦艇の修理が可能になっている。 しかし、アレックスの問いにハンスは肩を竦めた。

『自分も初めて知ったんですが、ペガサス級のは75φって言う特殊なサイズなんですけれど、 こいつが普通のヤツよりかなり強度が高いヤツでして、一般的な50φじゃ代用出来ないんです』

「付けられないって事か」

『無理矢理付ければ何とかなるでしょうけど、開閉するとなると‥‥』

「どうなるんだ?」

『多分、開けたとたんに下側が千切れますね。重量を支えきれないんですよ。何しろ、ペガサス級の格納庫扉は 前盾を兼ねてますからね。普通の格納庫扉より遥かに重いんです』

「『玄武』のは使えないのか?」

『玄武のドア・シリンダーですか?ありゃ95φですよ。 付けたら邪魔になって、逆に閉まらなくなりますって』

「う〜ん、仕方が無いか。まあ、発進出来ないよりはマシってモンだな。よし、ロンド=ベルにも言って、青龍、トロイホース共に 発進準備に入ってくれ。今回はRセクションも同行させる――ところで、グレンダイザーはどうなった?」

『光量子エンジンの調整は、ほぼ終了しました。これから、トロイホースに搭載します』

「OK、宜しく頼む。ああ、それから俺のレギオスをセンターカタパルトへ揚げておいてくれ」

『アイ、チーフ』

各部への指示を出し終えると、アレックスは艦長席に設置されている端末を操作して、画面に表示される情報に目を通し始めた。 その情報の多くは連邦軍の公式戦報だが、中にはブルーナイツ独自の情報網によりもたらされたモノも入っている。 暫くそれを見ていたアレックスは、ある一点まで進んだところで画面を止めて情報室にいるマックを呼び出した。

『どうした、アル?』

「レポートのC−18なんだが、オーストラリア方面がDCに押さえられたってなっているけれど、地上軍なのか?」

『いや、どうやら前回の戦いの時に降下していた宇宙軍の残党らしい』

「指揮官は誰か解かるか?」

『まだそこまでは解かっていないが、何か気になるのか?』

「漠然としたモノなんだが、何でオーストラリアなんだろうな。資源が無いとは言わんが、本来ならアフリカか東南アジアあたりを 押さえるハズだろう?」

アレックスの言葉に、マックは少し考え込んでから口を開いた。

『港‥‥かな。連中、まだ結構な数の潜水艦を保有してるハズだろう。拠点港は欲しい所なんじゃないか?』

「しかし、拠点制圧の為に地上部隊を動かすとなれば、少なくとも方面司令官級の判断が必要だろう? ハマーンは、その辺の事には疎かったと思ったけどな。寧ろ、キシリア=ザビあたりのやり方だろう、これは」

『しかし、キシリアは前の戦いで戦死したハズだろ?デラーズがでも音頭を執ってるんじゃないか』

「まさか。あのオッサンは宇宙での艦隊戦が専門だぜ。誰か、別の黒幕がいると考える方が妥当な線だろう。とにかく、 そこら辺のあたりの情報を集めさせてくれ」

『わかった、やらせとくよ』




その頃、ドック・エリアでは、ロンド=ベルの面々が、出航の準備に追われていた。蒼天からの補給物資を積み込み、修理の終わった MSを次々艦内へと搬入して行く。

『ブライトさん、グレンダイザーの搬入が終了しました。これで、搬入作業は全て終了です』

「了解した。コウ、各機の固定状態を再度確認してくれ。ファ、各部署の準備はどうか?」

「完了しています」

「トーレス、機関の方はどうなった?」

ブライトにとっては、これが一番の心配の種だ。

「姿勢制御は手付かずですが、メイン・エンジンは完全に修理できています。蒼天のメカニック、腕がいいですね。こんな短時間で、 あれだけボロボロだったエンジンを直すんですから」

トーレスが感心したように言った。

「そいつは、この先頼もしいな。よしファ、管制にトロイホース出航準備完了と伝えてくれ。許可が出次第出航する」

「はい――トロイホースより入出航管制、出航準備完了しました。出航許可願います」

『管制よりトロイホース、出航を許可します。外部電路及び連絡通路離脱、船台拘束解除。これより、発進口への移動を開始します。 アイドリング状態で待機して下さい』

「トロイホース、了解」

「よしトーレス、機関始動」

「了解、メイン・エンジン、アイドリング・パワー」

トロイホースのメイン・エンジンが唸り出すのと同時に、トロイホースの乗った船台が発進位置に向かってゆっくりと動き出す。

「メイン・エンジン、圧力一杯」

『管制よりトロイホースへ、発進位置まで後100秒。ロック解除後、微速にて前進して下さい』

やがて、船台は大きく開いた発進口の前で停止する。

『管制よりトロイホース、ロック解除します。進路クリア、現在高度114000ft、発進どうぞ。発進後3200ftまで降下してください』

「よし、トロイホース発進!」

「微速前進、トロイホース発進します」

ブライトの合図で、トロイホースは船台を離れ蒼天の外へと滑り出た。

『管制より青龍、トロイホース発進しました』

「青龍、了解。こちらも間も無く出発できる」

蒼天艦首部の上下左右にある四つのドームの内、右舷側のドーム内にある格納庫に収められた青龍の艦橋では、 エイジが出航準備の指揮を執っていた。アレックスがまだ蒼天の艦橋に残っている為である。

「副長、全艦発進準備完了しました」

「うん――チーフ、青龍準備OKです」

『よし、行ってくれ。俺は後からレギオスで合流する』

「了解。それでは、先に行っています――アン、発進だ」

「アイ、サー。青龍より管制、発進許可願います」

『管制より青龍、格納庫扉開きます。30‥‥50‥‥80‥‥格納庫扉全開放。艦体固定解除、進路クリア。青龍、発進どうぞ』

「了解。青龍、発進します」

船台から離れた青龍は、トロイホースの後を追って降下する。

「現在高度8000‥‥6000‥‥4000ft。右舷前方にトロイホースを視認、高度差約700」

「よし、トロイホースの左後方につけろ。チーフはどうした?」

「接近中です。約150秒で着艦予定」

窓の外を見ると、アレックスのレギオスがアーモダイバー形態でカタパルト・デッキに接近して来る所だった。甲板直上へ達した所で、 スラスターを使い、そのまま着艦し、歩いて格納庫内へ入って行く。暫くすると、レギオスを格納庫に納めたアレックスが艦橋に上がって 来た。

「異常ないか、エイジ?」

「今の所、全て順調です。それじゃ、自分は格納庫に行ってますんで、後お願いします」

「おう、ご苦労さん」

その後、暫くは平穏な航行が続いた。何しろ、西太平洋のど真ん中を飛んでいるから、行けども行けども目に入るのは 海ばかりである。こうなるとアレックスには取り立ててやる事は無く、艦長席のディスプレイで情報検索の続きでもやっている他は無い。 しかし、一時間程経った時、蒼天からの通信が入って来た。

「チーフ、蒼天からレーザー通信が入っています」

通信を受けてレイナがアレックスにそう告げる。レーザー通信は、到達距離が極めて短いが、指向性が強く盗聴に対する抗性は高い。 その為、トロイホースの自由が利かない現在、動向を掴まれないように蒼天との通信は、火急の場合を除きレーザー通信に限定されている。

「メインに回してくれ」

通信回線が艦橋前方のメインスクリーンに繋がれると、情報班情報収集グループのリーダー、保科智子少尉が現れた。 彼女は、若干18歳にして蒼天情報班bRの立場にあり、bQにあたる情報解析グループのリーダーと共にマックが最も信頼している 部下の一人である。

「どうした、委員長?」

“委員長”と言うのは、智子のニックネームである。黒縁の眼鏡に三つ編みにした黒髪と言う普段のスタイルが、その真面目な 性格と相俟って「まるでクラス委員長のようだ」と誰かが言い出したのが定着してしまったらしい。

『チーフ、つい先程その付近から発信された超長波の通信を傍受しました』

「超長波?近くに潜水艦がいるのか」

水中には波長の短い電波が届かない為、潜航中の潜水艦は交信に波長の長い電波を使用する。つまり、蒼天が超長波を傍受 したと言う事は、何処か近くに潜航中の潜水艦が存在している可能性がある訳だ。

『内容の解析は今やっとりますけど、発信位置が青龍から近かったので、注意した方がええ思いまして』

因みに、彼女は日本の神戸市出身なので、言葉に少し関西訛りがある。

「連邦軍の潜水艦の可能性は無いのか?」

『照会しましたけれど、その予定はあらへんそうです。それに、周波数が連邦で使うとるのと違うてますので、DCと思ってええのと 違いますか?』

「OK、用心しとこう。そっちも情報の収集を続けて頼む。それと、解析の方もお嬢にハッパかけといてくれ」

『了解しました』

蒼天との通信を終えると、アレックスはすぐに各セクションのリーダーを艦橋に集めて、状況を説明した。

「――と言う訳だ。まあ、相手が潜水艦ならちょっかいを掛けて来るとも思えないが、一応警戒態勢は採っておく事にする」

「しかし、水中用MSなんか持って来てませんよ。レギオスで水中戦は厳しいでしょう」

ハンスが疑問を口にする。

「別に、相手の土俵まで行って勝負する事はないだろう。上から対潜弾をバラ蒔くだけでも、結構違うんじゃないか?」

「エイジの言う通りだな。我々の第一目的は、トロイホースをカデナ・ベースに無事連れて行く事だ。本気で相手をする必要は 無い。て、事で全員レギオスの出撃準備をしといてくれ。作戦の詳細は‥‥ま、敵が動かんと解からんな。じゃ、かかってくれ」

しかし、それから三十分と経たない内に、再び蒼天からのレーザー通信が入った。

『チーフ、逆探がDC軍のモノと思われるアクティヴ波を捕らえました』

「アクティヴ波?潜水艦のレーダー波なのか?」

『いえ、電波の接近速度からすると、航空機やないかと思います。確か、ミンダナオ島にDCの航空基地がありますさかい、 そこから上がって来たのと違いますやろか』

「ちっ、その手で来たか。あそこの基地を潰しておかなかったのは、失敗だったな。仕方が無い、こうなったらお相手するしか無いか」

『ウチらは、どないします?』

「そのまま監視を続けてくれ。ところで、発信元の位置は解かるか?」

『概算ですけれど、青龍から見て方位145、距離250〜300マイル、電波の入射角から見て高度は2000ft以下やと思います』

「移動速度はどれ位だ?」

『電波の強まり方から見て300〜350ノット程度やないでしょうか』

「350ノット?随分と半端なスピードだな」

時速約630kmである。戦闘機や攻撃機の類にしては遅過ぎるし、艦艇にしては速過ぎる速度だ。

「ガウ‥‥かな。どう思う、委員長?」

『ウチも同感です。更に言うなら、レーダー波から見てコマンド・タイプやないか、と』

「解った。有難う」

そう言って、アレックスが通信を切ろうとすると、思い出したように智子が付け加えた。

『ああ、そうや。さっき“パープル”から、通信の解析結果が上がって来ましたの言い忘れてましたわ』

“パープル”と言うのは、情報解析グループの通称である。蒼天では、各部署毎に色分けされたベレー帽を着用しており、情報解析グループ のそれは薄紫色の為、この通称で呼ばれていた。同様に、情報収集グループは朱色のベレー帽を着用しているので“バーミリオン”と呼ばれ ている。

『やっぱり、青龍とトロイホースの発見報告でしたわ。発信者のコードはP−23言うてましたから、多分旧ジオンで建造してたプローバー級の 潜水艦でしょう』

「プローバー級って事は情報収集艦か。どうやら、敵さんの哨戒線に引っ掛かったみたいだな」

『蒼天の姿は見られてへん様ですけど、トロイホースについては「艦体に破口を認む」とまで言うとりますから、ロクに動けへん事は承知してる 思います。まず間違え無く襲って来るつもりでしょうから、気ィつけて下さい』

「サンキュー、引き続き情報を集めてくれ――レイナ、このあたりのミノフスキー粒子濃度はどれ位だ?」

数次に及ぶ戦争の結果、場所によって濃度の差はあるものの、地球圏のあらゆる場所にミノフスキー粒子が蓄積されている状態になって しまっている。

「レベル2です。通信、索敵共にほぼ影響は受けません」

「そいつは有難いな。よし、総員を戦闘配置に就かせろ」

戦闘配備の発令と共に、青龍の艦内が俄かに騒がしくなる。艦橋にも1stレーダー・オペレーターのスティーヴ=カーライル軍曹と 通信オペレーターのマーガレット(マギー)=サフォード伍長が駆け込んで来た。

「スティーヴ、RPV(無人偵察機)を出して145度方向の索敵をやってくれ」

「了解。誘導は、どうしますか?」

「なるべく、アクティヴ波は出したくないな。自立誘導で行こう。高度は、そうだな‥‥3000ftでいいかな」

やがて、カタパルトからエイのような姿をしたRPVが射出され、後方へと飛び去った。すると、それに気付いたブライトからの通信が入る。

『アレックス大佐、今飛んで行ったのは?』

「RPVを偵察に出したんです。どうも、DCの哨戒網に引っ掛かってしまった様で、敵と思われる一群が接近中です」

『本当ですか?』

「ええ。そこで、我々が相手をしますので、その間にトロイホースはカデナ・ベースへ向かって下さい」

『しかし、それでは‥‥いや、解かりました』

一瞬、自分達も戦うと言い掛けたブライトだったが、現在のトロイホースでは戦力どころか却って足手纏いになる事は明白だったので、 すぐに思い留まってアレックスの提案を了承した。

「それから、万が一こちらで取り逃がした場合の為に、飛行可能な機体――リ・ガズィとZガンダム、できればグレンダイザーも出撃準備を させておいて下さい」

『了解です。では、後程カデナ・ベースで会いましょう。御武運を祈ります』

ブライトには、もう何も言える事はなかった。まだ出会って間もない自分達の為に、アレックス達は盾になろうと言うのだ。 確かに、連邦軍内においてロンド=ベルの持つ役割が大きいのはブライトも自覚している。だが、それだけの為に、こうも簡単に危険に身を晒す 事が出来るのだろうか?
尤も、アレックス達の方はそこまで深刻には考えていなかった。単に、目の前に敵が現れたから叩き潰す。ただそれだけなのである。

「チーフ、RPVが接敵しました。本艦からの距離約270マイル、高度1850ft、速度350ノット、数45」

「映像は入るか?」

「はい。メインに出します」

メインスクリーンにRPVからの映像が映し出される。まだ目標との距離があるせいで黒い点々にしか見えないが、その中に一際大きな影が 三つばかり混じっていた。

「デカイのは、やはりガウ攻撃空母か。小さいのは、みんなドップ戦闘機かな?それにしても、妙な編成だな」

アレックスの言葉に、スティーヴも頷く。

「そうですね。ドップの数からすると、ガウがもう少しいてもいい様な気がします」

「レイナ、連中がこっちに追いつくのにどれくらいかかる?」

「約40分で攻撃圏内に入ります」

「それだけあれば、十分だな。15分後にアクティヴ探査を始めてくれ――格納庫、エイジかオッダーはいるか?」

格納庫を呼び出すと、通話画面にはオッダーが出た。

『どうした、アル』

「後40分程で、お客さんが来る。ガウが3機、ドップ42機の混成だ。お前のセクションは、プロペラント・タンクを付けてトロイホースを カデナ・ベースまで護衛してくれ」

『トロイホースを先行させるのか。まあ、妥当なトコロだろう。言っちゃあ悪いが、今の状態じゃあ足手纏いにしかならないだろうからな』

「ああ。迎撃はM、E、Hセクションにやってもらう。スコード・リーダーは、エイジでいいだろう。それからRセクションは艦直掩に回してくれ」

『解かった。準備出来次第出すか?』

「いや、合図はこちらで出す。なるべく、連中には基地から遠ざかってアセってもらおう」

『OK。あと5分あれば、準備が出来る。いつでも言ってくれ』

格納庫との通話が終わると、アレックスは艦長席に身を沈め黙したまま、メインスクリーンに表示されている時間表示をじっと見つめていた。 その間も、各部署からの報告が刻々と上がって来る。

『火器管制室、準備よし』

『応急対策班、配置に就きました』

『機関室、いつでも戦闘機動に持っていけます』

『レギオス全機、出撃準備できました』

(‥‥18‥‥19‥‥20分、そろそろか)

アレックスが考えた時、レイナの緊張した声が艦橋内に響いた。

「敵編隊、コンタクト!方位170、距離45000、高度3500、的速350ノット」

「来たか。よし、針路変更170、速度第1戦速へ。全艦、第1級戦闘配備、砲・雷撃戦用意!前部発射管1番から8番まで3号弾装填、 予長尺12000、炸裂高度4500。レギオス全機、発進かかれ!」

艦内に警報が鳴り響き、艦体内部に収納されていた兵装が次々に姿を現わす。同時に、青龍も大きく進路を変え、 今まで同航していたトロイホースから遠ざかって行く。次第に小さくなる青龍の姿を、ブライト達は複雑な心境で見送っていた。

「これで、良かったのでしょうか?」

クリスが、誰に言うとも無く呟いた。

「戦闘機動の出来ない我々がいても、却って彼らの負担になるだけだ。仕方が無いさ。我々に出来る事は、彼らの無事を祈る事だけだ」





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