第八話 「スーパーロボット軍団、始動!」
「あしゅら男爵様、マジンガーZが出撃してきました」
部下の報告に、グールの司令室に立つあしゅら男爵は冷たい笑みを浮かべた。
「来たか、兜甲児。今日こそ貴様を葬ってくれるわ」
今までの戦いでマジンガーZとその操縦者である兜甲児に幾度と無く煮え湯を飲まされて来たあしゅら男爵は、
打倒マジンガーZに異常な程の執念を燃やしていた。
はっきり言って、マジンガーZの性能は他のスーパーロボットと比べて
それほど抜きん出ている訳では無い。寧ろ、スーパーロボットの中ではそのモデルケース的な存在であり、
グレートマジンガー、コンバトラーVと言った後発のスーパーロボットや、グレンダイザー、ライディーンのように
現存の物とは異なった高等技術で製造されたスーパーロボットに比べれば性能的には劣っていると言える。
しかしながら天才・兜十蔵博士の作り上げた機体は攻守におけるバランスが非常に良く、兜甲児の天性の操縦技術と
相俟ってスーパーロボット達の間にあってはその中心的な存在であると言えた。あしゅら男爵のみならず、
彼の上位指揮官でありDC地上軍の総司令官Dr.ヘルがマジンガーZを執拗に狙う理由は、そのあたりに起因するのだろう。
「全戦力をマジンガーZに向けろ。研究所など、マジンガーを倒してから始末すれば良い」
「はっ!」
指令を受け、機械獣部隊がマジンガーZに向かう。嘗ては一機種一体だった機械獣だが、Dr.ヘルがDCと手を結んで
からは、どの機体も人口知能を使った量産が可能となった。(中には量産に不向きな為、生産されなかった物もあったが)
今回、投入されたのはトロスD7型三機、ダブラスM2型二機、ガラダK7型二機、それに加え怪鳥型メカザウルス・バドが
二機と恐竜型メカザウルス・サキ三機の合計十二機。マジンガーZ一機相手にしては、過剰とも言える兵力展開だ。
「甲児君、相手は凄い数よ。気をつけて!」
少し遅れてアフロダイAで出撃して来たさやかが、甲児に注意を促す。
「解ってるって、さやかさん――行くぜっ、ロケット・パーンチ!」
甲児の気合と供にマジンガーZの右腕が飛び、一番近くにいたガラダK7の胴体を突き破った。動力部を破壊され機能
を停止してその場に崩れ落ちるガラダK7。
「先ず一機!お次はどいつだ!?」
甲児の声に呼応するように、巨大な角を持ったトロスD7が突進して来る。
「おおっと、当たるかよ。こいつはお返しだ、光子力ビーム!」
間一髪でそれをかわしたマジンガーZの眼から放たれた光子力ビームが、トロスD7に突き刺ささる。トロスD7はそのまま
前のめりに転倒して爆発した。
「へへーんだ。雑魚がいくらかかって来ても、マジンガーの敵じゃないぜ――うわっ!」
突然、上空からマジンガーZに向かってミサイルが降り注ぐ。見るとメカザウルス・バドが何時の間にか頭上に接近
し、攻撃をしかけて来ていた。ジェットスクランダーが使用できない現在、マジンガーZは空を飛ぶ敵に対しては極めて分が悪い。
「甲児君、危ない!」
アフロダイAの胸部からミサイルが放たれる。しかし、速度の遅い大型ミサイルはメカザウルス・バドに難なくかわされ
てしまった。
「ンのやろォ、これでも喰らえッ、光子力ビーム!」
上空へ向け、光子力ビームを放つ。しかし高速で飛行するメカザウルス・バドには、全く命中しない。しかも、上に気を
とられている内に、他の機械獣にも間合いに入られてしまっていた。
「しまった!」
気付いた時には、すでにマジンガーZは包囲されていた。
『わっはっはっ。兜甲児、遂に貴様も最後だな』
勝ち誇ったあしゅら男爵が通信回線に割り込んで来る。
「てめぇ、あしゅら、汚ねえぞ!」
『なんとでも言え。さあ機械獣供よ、マジンガーZを血祭りに上げるのだ!』
と、その時、
「まてまてまて〜ぃ」
森の中から、ずんぐりとしたスタイルのロボットが飛び出して来た。
「DCの悪党供、このボス様が来たからにはオマエらの好きにはさせないだわさ!」
甲児の友人、ボスの乗るボスボロットだ。一応、マジンガーZのサポートロボット的な存在――本人は主役
と思っているようだが――ではあるが、スクラップから造られている事からも能力は推して知るべし、である。
「うりゃうりゃうりゃ〜っ」
腕を振り回しながら、手近にいたダブラスM2に突進する。だが――
「どへ〜っ!」
あっさり殴り飛ばされてしまい、ゴロゴロと転がった挙句、アフロダイAを巻きこんで転ばせてしまった。
「いったーい!ボス、何すんのよ!」
「す、すまねえ、さやか〜」
「ボスよぉ、何しに来たんだよ、オマエ‥‥」
おもいっきり力の抜ける甲児だった。
『大した援軍だな、兜甲児――それでは、そろそろ冥土への切符を渡してやろう』
「くっ‥‥」
機械獣が攻撃態勢に入る。そして、一斉攻撃に移ろうとした刹那、何処からか飛来した巨大な戦斧が
上空にいたメカザウルス・バドの内の一機を切り裂いた。爆発して四散するメカザウルス・バド。
『な、なんだ!?』
驚愕するあしゅら男爵。メカザウルス・バドを切り裂いた戦斧は弧を描いて戻って行く。
「あっ、あれは!」
戦斧が戻って行った先には、何時の間に現れたのか二体のロボットが在た。一体はマジンガーZとほぼ
同じようなカラーリングで、マジンガーZよりも一回り大きなボディとやや異なった形状の頭部を持っている。
そして、戻った戦斧を手にした今一体は赤、白、黄の三色の鮮やかなカラーリングを施した機体だった。
「グレートマジンガー、それにゲッターロボ!?」
それは、マジンガーZの兄弟機グレートマジンガーと、合体ロボットの代表格ゲッターロボの空戦形態
ゲッター1だった。
「甲児君、大丈夫か?」
「助太刀に来たぞ」
通信スクリーンにグレートマジンガー・パイロット、剣鉄也とゲッター1のメインパイロット、流竜馬が現れた。
「鉄也さん、竜馬さん、一体どうして?」
「説明は後だ。まず、機械獣を片付けてしまおう――マジンガー・ブレード!」
大腿部にあるポケットから長剣が飛び出し、グレートマジンガーの手の中に収まる。
「とりゃーっ!」
鉄也の裂帛の気合と供に、マジンガー・ブレードがメカザウルス・サキを袈裟切りにして葬った。
「むゥ、これはいかん」
あしゅら男爵は、形勢が一気に不利になった事を悟った。DC地上軍の戦力が立ち上がったばかりなのと、
相手がマジンガーZ一機だけとの想定で、今回投入した戦力は二線級の機体ばかりなのだ。
「まさか、グレートマジンガーとゲッターロボが出て来るとは‥‥」
陣形を建て直して戦闘を継続するか、この辺りで撤退するか、微妙な状況だ。しかし、この時機械獣部隊に致命的なミスが出た。
増援の出現に対応しようとした一部の機械獣が反対方向へ移動しようとした為、一ヶ所に数機が固まった状態になってしまったのだ。
百戦錬磨の竜馬が、このチャンスを見逃す事はなかった。
「チャンスだ!鉄也君、甲児君、あそこにビームを集中するんだ――ゲッター・ビーム!」
「「ブレスト・バーン(ファイヤー)!」」
三機から放たれたビームの集中砲火を浴びて、トロスD7、ガラダK7、メカザウルス・サキが瞬時に蒸発する。
「しまった!ええい仕方が無い、ここは一時撤退だ。全機を収容しろ」
あしゅら男爵は、残存の機体をグールに収容させると、翼を返して引き揚げて行った。
「ふぃ〜、やっと帰ってくれたか――サンキュー、鉄也さん、竜馬さん。おかげで助かったぜ」
「無事でなによりだ、甲児君。取り敢えず、研究所へ戻ってから詳しい話しをしよう」
「了解だ、竜馬さん」
甲児がマジンガーZを格納庫に納めて光子力研究所の管制室に戻ると、そこには既に鉄也と竜馬、さやか、そして残りの
ゲッター・チームのメンバー、神隼人、車弁慶が集まっていた。別に呼ばれてはいないだろうが、ボスも来ている。
「それで、一体状況はどうなっているんだ?」
顔を会わせるなり、甲児が切り出す。このあたりの単刀直入さが――良きにつけ、悪しきにつけ――彼の持ち味なのだろうか。
皆、苦笑を浮かべている。
「そう言うところは、甲児君らしいな――隼人、説明してくれないか」
竜馬に促された隼人が、頷いて口を開いた。
「多分、鉄也君の方も同じだと思うが、連邦軍から日本政府を通じて早乙女研究所の方にDCが動き出した旨の通報が入って
来ていたんだ。それで、いつでも動けるようにと準備をしていた所に、弓教授からの連絡が入ったと言う訳さ」
「へえ、じゃグッドタイミングって訳だ。でも、なんでゲッターGじゃなくて古い方のゲッターなんだ?」
「ああ、今ゲッターGは整備を兼ねてゲッター線の増幅実験に使っていてね。稼動状態に無いんだ」
「まあ、DCの戦力があの程度なら、俺達の腕とゲッターで充分だがな」
そう言って弁慶が豪快に笑う。
「とにかく、DCが動き出した以上、我々も体制を整えなくてはならないだろう――竜馬君、他のスーパー・ロボットの準備は
どうなっているのか解かるのかね?」
「ええ、弓教授。今、早乙女博士が確認をとってくれているはずです」
丁度この時、その言葉を待っていたかのように、早乙女研究所からの通信が入った旨が告げられた。すぐに回線が開かれる。
『弓教授、お久し振りです』
「早乙女博士もお元気そうでなによりです。早速ですが、状況はどうなっています」
『南原コネクションのコンバトラー・チームは、間も無く準備が整うそうです。しかし、未来工学研究所の方は‥‥』
「やはり、ライディーンは眠ったままですか」
早乙女博士の言葉に弓教授も沈痛な表情になる。ひびき洸の駆るライディーンは、インスペクター事件終了後
封印状態になってしまい、ラ・ギアス事件の際にも復活する事はなかった。
『洸君も何度か呼び掛けてみたらしいのですが、反応は無かったそうです』
「ライディーンが抜けるのは厳しいですな」
『ええ。しかし、朗報もあります。宇宙科学研究所の宇門博士の話しでは、大介君が地球へ向かっているそうです』
「本当ですか、早乙女博士!?」
横で聞いていた甲児が声を上げた。
『ああ。ただし、到着がいつになるかは、解からないそうだ』
「それでも、彼が来てくれれば心強いですよ」
竜馬が嬉しそうに言った。
『それに、橘博士も何か考えてくれている様だ』
「橘博士と言えば、あなたと並ぶゲッター線研究の第一人者でしたな」
弓教授の言葉に早乙女博士が頷く。ゲッター線と言う、特異な宇宙線はその扱いが非常に厄介で、現在その研究に成功したと言える
研究者は、早乙女博士を含め三人しかいない。しかも、その内の一人は行方不明になっており、今では早乙女博士と橘博士だけが
その研究に携わっていると言えた。
「ところで、博士。ロンド=ベル隊の動きは解かりましたか?」
竜馬の問いに、早乙女博士が顔色を変え一瞬言葉を詰まらせる。常に何事にも動じない早乙女博士にしては、非常に珍しい表情だ。
一同の内心に、一瞬不安が過る。
『む‥‥実は、ルナツーでDCの部隊と交戦した後、ザーンからの救援要請にそちらへ向かった所までは解かっているんだが、
その後の行方がわからんのだ』
「ロンド=ベルが行方不明!?」
戦友達の凶報に、流石の竜馬も動揺が隠せない。代わって、弓教授が口を開いた。
「連邦軍の方は何と?」
『それが、DC以外にも何か問題を抱えているらしく、反応が鈍いのです』
「DC以外の問題?例の特務機関の絡みですか?」
『いえ、そうでは無い様です。推測の域を出ませんが、どうも異星人ではないかと‥‥』
「異星人?又、インスペクターが?」
『それは、まだ何とも‥‥とにかく、状況がはっきりするまで全員そちらに留まっていた方が良いでしょう。何か解かりましたら、
すぐに連絡を入れます』
「解かりました。こちらでも、各所に当たってみます。では――」
通信が切れた後、場は重い雰囲気に包まれていた。言うまでも無く、ロンド=ベル隊の行方の事が原因だ。実際には彼等は
一応健在なのだが、如何せんトロイホースの損傷で今現在通信機能がマヒしてしまっている。又、ブルーナイツの方は
アレックスに一計があるらしく、通信封鎖を行っているのだ。これでは、所在が判らないのはあたりまえである。
「ところで、鉄也さん。ジュンさんは?」
さやかが、明るい声で鉄也に尋ねた。鉄也のパートナー、炎ジュンの駆るビューナスAはさやかのアフロダイA同様、マジンガー・
チームのサポート役として欠かせない存在だ。場の雰囲気を変えたかったのもあるが、さやかにとっては大きな関心事だった。
「ああ、ビューナスAの整備がまだ済んでいないんだ。前の戦いでの消耗が思ったより大きくて、少し手間取りそうなんだよ」
「そうなんですか‥‥」
大失敗。よけいに雰囲気が重くなってしまった。
「ああーっ、もうこんな所でウジウジ考えていてもしょうがねえや。俺、飯食ってくらあ」
いきなり、甲児が大声でそう宣言すると食堂の方へ歩き出した。一同は呆気にとられてそれを見ている。
やがて、竜馬がクスリと笑って口を開いた。
「甲児君の言う通りだな。我々も機体の整備でもしてこよう。隼人、お前はここで弓教授に協力して、情報収集に当たってくれ。
弁慶、行くぞ」
「わかった」
「おう――でもその前に、俺も飯が食いたいな」
「それじゃあ、僕もグレートの整備をしてくるか」
活気を取り戻した彼等の様子に、弓教授は満足そうな笑みを浮かべた。
(確かに、ロンド=ベルの皆の事は心配だろう。だが、それをここでどうこう言っても始まらない。こう言う時の、
甲児君のあの思いきりの良さは、やはり良いカンフル剤だな)
そして、この時弓教授の心の中には、ある決断が生まれていた。
――R206小惑星群宙域
地球と月軌道との間には、いくつかの小惑星群が散らばっている。それは、彗星の置き土産であったり、コロニー建設の際に
資源を採掘した小惑星の残りカスであったりと、大きさや数は様々だ。その中の一つ、R206と名付けられた小惑星群の付近を
朱雀、青龍そしてトロイホースの三隻がゆっくりと航行していた。応急修理のおかげで、トロイホースの推力はなんとか40%程度
まで回復して来たが、それでもあまり無理の出来る状態では無い。船足が遅くなるのは、仕方の無いところだった。
「リン姉様ぁ、R206を確認しました〜」
航法レーダーにR206小惑星群を確認したグレースが、リンに報告する。
「了解。メグ、そっちは?」
「ん〜、まだ何も‥‥あ、捕まえたわ、リン姉。チャンネル6、パターンA−3よ」
「OK、転送して――030及びトロイホース、誘導波をキャッチしました。これより転送を開始します」
朱雀がガイド・ビーコンを中継し、トロイホースの航法ディスプレイに航路が表示される。
「ブライトさん、航路誘導が来ました」
「了解した。しかし、こんな所でか?目標は何処だ、トーレス」
「どうやら、R206小惑星群の様ですね」
事前にアレックスから“目的地に近づいたら誘導波が来る”とは通告されていたが、ブライトには些か予想はずれの場所だった。
トロイホースはガイド・ビーコンに導かれて小惑星群に接近して行く。
「中に入る気か?」
「どうなんでしょう」
その時、トーレスは前方にある直径4km程の小惑星の陰に一隻の宇宙艦が止まっているのに気が付いた。
「ブライトさん、あそこに船がいます」
トーレスの示す方を見たブライトは、驚愕に目を見開いた。
「何だ、あれは‥‥」
それは、ブライト始めて目にする巨大な宇宙艦だった。勿論、ブルーナイツの母艦、蒼天である。
「ラ・ギアスで出会ったオーラシップも大きかったが、こいつは比較にもならないな」
アムロが呟いた。
「ゴラオンの全長が500mちょっとだったが‥‥」
「1500m、いえ2000mは超えていますね。連邦軍は、何時の間にこんな艦を造っていたんでしょう」
アムロの言葉を受けて、クリスが感心した様に言った。実際に蒼天は、現在建造中の超々弩級戦艦「ヱクセリヲン」を除けば、
連邦軍艦隊中最大の艦である。
「ブライトさん、通信が入っています。『誘導波に従って、艦底部ハッチより進入せよ』との事です」
通信手席のファが、ブライトに声を掛けた。蒼天の方を見ると、確かに艦底の一部が開いており、そこから誘導灯が延びている。
「よし、やってくれトーレス」
「了解」
トロイホースはハッチに艦首を向けた。尤も、ハッチと言っても戦艦が出入りを考慮されているので、
コロニーの湾口並みの大きさがある。
「進入コースに入りました。入口まで230秒」
『発着艦管制より、トロイホース。現在の進路、速度を維持して下さい。艦体固定位置まで340秒です』
「トロイホース、了解」
ハッチをくぐり、指定された位置へ進む。
「こいつは、凄いな」
あたりを見まわして、ブライトが溜息をつく。内部はちょっとしたドックの様だった。発着艦口の前後がパーキング・タワーの様に
区画割りされていて、前部エリアに四隻、後部エリアに二隻、計六隻の艦艇が同時に収容できるようになっている。
船台に固定されたトロイホースは、船台ごと移動しドックのひとつに納まった。すぐに整備要員が集まって来て修理の準備に入る。
「アレックス大佐の、言っていたアテと言うのはこの事だったのか。しかし、一介の大佐が何故こんな艦を動かせるんだ?」
「こう言っては何だが、彼も少し正体の知れない所があるようだな」
アムロの言葉に、ブライトは無言で頷いた。
第七話
第九話
「小説の部屋」へ戻る