ちょっとしたコラム      
               
 06.7.1付


1979年 近鉄バファローズVS広島カープ(前編)

 1979年のセ・リーグは前年の覇者・ヤクルトが開幕8連敗といきなりつまづいた。巨人も主軸の高齢化で勢いがなく、例年にない混戦となった。そんな中、地力のある広島が徐々に抜け出して4年ぶりにペナントレースを勝ち取った。前年1位のヤクルトは最下位、同2位の巨人が5位と開幕前の予想を覆す展開だった。

 広島は史上初めて200本塁打を突破した前年ほどではなかったが、42本塁打の山本浩二を筆頭に5人が20本塁打以上を記録。高橋慶が日本新の33試合連続安打を記録して1番打者の座を不動のものとした。また、投手陣では4年目の北別府がリーグ2位の17勝を挙げて新エースに名乗りを上げた。移籍2年目の江夏も31セーブポイントで最優秀救援投手となり、その力を十分に発揮した。

 パ・リーグでは前年日本一のヤクルトから強打者・マニエルを獲得した近鉄が序盤から突っ走った。しかし、6月初めにそのマニエルが死球であごを骨折する重傷を負い戦線離脱すると状況は一変し、一時は阪急の猛追に遭った。だが、土壇場で踏ん張った近鉄は前期優勝を勝ち取り、プレーオフでも後期覇者の阪急にストレート勝ちして初のリーグ優勝を決めた。1967年から78年まで12年間で9度のリーグ優勝を誇った阪急ブレーブスの黄金時代はここに終わりを告げる事となる。

 長期間離脱したマニエルだったが、それでも37本塁打で本塁打王に輝いた。また6年目の栗橋も自己最多の32本塁打、80打点と中軸打者として十分な働きを見せた。レギュラー選手全員が打率.270以上で二桁本塁打をマークと、その打力には目を見張るものがあった。

 投手では前年25勝の大エース鈴木が背筋痛に苦しみ、自己ワーストタイの10勝止まり。しかし7年目の井本が15勝を挙げて一本立ち。左腕の村田も初の二桁となる12勝をマーク。高卒入団2年目の山口が7勝4セーブに加え、防御率2.49でタイトルを獲得。山口はプレーオフでも3連投して優勝の立役者となった。

 こうして79年の日本シリーズは古葉・広島と西本・近鉄の対決となった。古葉監督は初出場して1勝も出来なかった75年の雪辱を、西本監督にとっては過去6度チームを指揮した日本シリーズに全て敗退した経歴を払拭するチャンスが巡って来たのだ。

両チーム主力選手の成績
近鉄     広島  
マニエル 37本塁打 94打点 打率.324   山本浩二 42本塁打 113打点 打率.293 15盗塁
栗橋茂 32本塁打 80打点 打率.291 16盗塁   ライトル 23本塁打 61打点 打率.264
佐々木恭介 18本塁打 46打点 打率.320 14盗塁   衣笠祥雄 20本塁打 57打点 打率.278 15盗塁
アーノルド 17本塁打 65打点 打率.289   ギャレット 27本塁打 59打点 打率.225 
羽田耕一 13本塁打 49打点 打率.274   水谷実雄 23本塁打 69打点 打率.260 
平野光泰 18本塁打 51打点 打率.279 21盗塁   高橋慶彦 5本塁打 33打点 打率.304 55盗塁
小川亨 12本塁打 44打点 打率.277   三村敏之 12本塁打 60打点 打率.288
梨田昌崇 19本塁打 57打点 打率.272   水沼四郎 4本塁打 24打点 打率.277
石渡茂 11本塁打 45打点 打率.281   木下富雄 5本塁打 25打点 打率.248 25盗塁
         
井本隆 15勝4敗1S 防御率3.61 93奪三振   北別府学 17勝11敗 防御率3.58 155奪三振
鈴木啓示 10勝8敗 防御率4.40  91奪三振   池谷公二郎 12勝8敗 防御率4.88 124奪三振
村田辰美 12勝8敗2S 防御率3.42 98奪三振   山根和夫 8勝4敗 防御率2.91 83奪三振
柳田豊 11勝13敗4S 防御率4.09 102奪三振   福士明夫 7勝9敗1S 防御率3.57 109奪三振
山口哲治 7勝7敗4S 防御率2.49 57奪三振   江夏豊 9勝5敗22S 防御率2.66 117奪三振

 10月27日の第1戦は近鉄が井本、広島が北別府と共にシーズンのチーム最多勝同士の先発で始まった。近鉄は初回に失策と2四球で二死満塁のチャンスをつかみ、ここで6番の羽田がセンター前へ2点タイムリーで先行。しかし広島も2回表に水谷のタイムリーですぐ1点を返す。

 近鉄は中盤の4回、永尾のタイムリーで3点目。さらに6回裏にはリリーフの大野、福士を攻めてまたも二死満塁の場面から石渡が2点タイムリーを放ち5-1と広島を突き放した。近鉄・井本は3回から6回まで広島打線をノーヒットに抑え反撃を許さず、試合を近鉄ペースに持ち込んでいた。広島は最終回に1点を返すにとどまり、結局井本は散発4安打で堂々の完投勝利を収めた。

10月27日・第1戦
広島 0 1 0 0 0 0 0 0 1   2
近鉄 2 0 0 1 0 2 0 0   5

勝ち 井本 1勝   負け 北別府 1敗

本塁打 なし


 10月28日の第2戦は近鉄が14年目の鈴木、広島が若い山根の先発で始まった。78年は実に25勝と大車輪の活躍を見せた鈴木も、この年はわずか10勝に終わり、シリーズ開幕でなく第2戦での起用となっていた。確かにシーズンの勝ち頭は15勝の井本であったが、それでも公式戦通算では43勝であり、通算252勝の鈴木とは比べ物にならない。先を越されて面白かろう筈のない鈴木だったが、その井本が完投勝利を収めただけに、俺も続くと気合は十分であった。

 対する山根はこの年夏場から彗星の如く一軍に登場すると8勝をマーク、防御率も2.91とチームの先発陣ではナンバーワンの安定感を誇っていた。試合は両投手の好投で緊迫の投手戦となった。
 鈴木は1回・2回と三者凡退。3回から5回は先頭打者に出塁を許したが、いずれも併殺で切り抜けた。対する山根は鈴木以上の内容で5回まで近鉄打線をパーフェクトに抑え、一人の走者も許さない。

 6回裏の近鉄は先頭の有田が三塁ゴロ。しかし、これを衣笠が一塁に悪送球して初のランナーが出た。しかし山根は後続を断ってこの回もゼロに抑えた。7回裏、近鉄は先頭の3番・小川がライト前ヒットで出塁。ようやくチーム初安打である。ここで広島・古葉監督が動いた。左打者のマニエル・栗橋を迎え、被安打1本の山根に代えて切り札・江夏の投入である。この時点でスコアは0-0、しかもまだ7回ノーアウト。今では考えられない段階でのストッパー投入であるが、この年の江夏はオール救援ながら104回2/3も投げており、古葉監督にも江夏にもロングリリーフは当たり前だった。

 しかし、この起用が裏目に出る。4番・マニエルがセンター前に弾き返してノーアウト1・3塁。続く栗橋の代打・アーノルドがセンターに犠牲フライを打ち上げて近鉄に待望の先取点が入った。さらに6番・羽田がセンター前タイムリー。続く7番・有田はセンターへ決定的な2ランホームランを打ち込んだ。
 4点の援護をもらった鈴木は8回に二死2・3塁のピンチを招くが代打・正垣を三振に取って切り抜けた。結局鈴木は6安打9奪三振で完封勝利をマーク、近鉄は2連勝で広島に乗り込む事となった。

10月28日・第2戦
広島 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0
近鉄 0 0 0 0 0 0 4 0   4

勝ち 鈴木 1勝   負け 山根 1敗

本塁打 有田1号


 10月30日の第3戦は広島が池谷、近鉄が村田の先発で始まった。2連勝の勢いそのままに近鉄は初回に石渡・小川の連打でチャンスを作り、マニエル・栗橋の連続四球で押し出しの先取点。さらに羽田の内野ゴロの間に2点目を挙げた。広島は2回裏に5番・水谷のソロ本塁打で1点を返したが、以後は得点が奪えない。近鉄は1失点ながら4回まで5四球と不安定な村田に代え、5回から柳田をマウンドに送った、柳田は5回そして6回を1四球を与えたのみのノーヒットと好投してリードを守る。

 広島・池谷も2回以降は立ち直り、3回から6回までは三者凡退。7回に連打を許して二死2・3塁とされたが、1番・平野を一塁ファウルフライに打ち取った。ピンチの後にチャンスあり、その裏の広島は途中出場の山崎がいきなり二塁打。一死後、池谷に代わる代打・内田のタイムリーで同点。近鉄も3番手の山口を投入するが、二死からギャレットのタイムリーが出て3-2と逆転に成功した。

 ここで古葉監督はすかさず江夏を送り、今度は江夏もきっちり2イニングを無失点に抑えて広島が2度目の出場、通算9試合目で初のシリーズ勝利を成し遂げた。3戦が終わって近鉄の2勝1敗となった。

10月30日・第3戦
近鉄 2 0 0 0 0 0 0 0 0   2
広島 0 1 0 0 0 0 2 0   3

勝ち 池谷 1勝   セーブ 江夏 1セーブ   負け 柳田 1敗

本塁打 水谷1号

(後編に続く)

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