ちょっとしたコラム      
               
06.7.15付


1979年 近鉄バファローズVS広島カープ(後編)

 10月31日の第4戦は近鉄が中3日で井本、広島が今シリーズ初先発の福士の顔合わせで始まった。近鉄は初回に二死満塁のチャンスを掴むが、6番・羽田がセカンドフライに倒れて無得点。しかし3回表にマニエルがアーノルドを一塁に置いてシリーズ1号本塁打を放ち、2点を先行した。
 3回まで2安打5三振と井本に抑えられていた広島も4回裏に反撃。無死1・3塁から4番・山本が犠牲フライ、続く5番・水谷が逆転2ランを放って3-2と試合を引っ繰り返した。

 広島は7回、二死三塁から高橋を迎えて近鉄の三番手・山口がマウンドに上がると、この高橋が代わり端を捉えて2ランホームラン。5-2として主導権を握った。福士は9回に代打・有田にソロ本塁打を許すが、結局7安打3失点で完投勝利。シリーズは2勝2敗のタイとなった。

10月31日・第4戦
近鉄 0 0 2 0 0 0 0 0 1   3
広島 0 0 0 3 0 0 2 0   5

勝ち 福士 1勝   負け 井本 1勝1敗

本塁打 マニエル1号、水谷2号、高橋1号、有田2号


 11月1日の第5戦は中3日同士となる近鉄・鈴木、広島・山根の先発で始まった。第2戦で投げ合った二人は再び緊迫の投手戦を展開した。山根は1回表に二死1・3塁のピンチを迎えたが、5番・栗橋をセンターフライに打ち取った。立ち上がりを無得点で切り抜けた山根は2回から5回までは1安打と近鉄打線を封じた。

 一方の鈴木も5回まで3安打無四球の内容で広島をゼロに封じる。第2戦と同様の展開となり、1点勝負の様相を呈していた。そして迎えた6回裏、先頭打者である投手の山根がセンター前ヒットで出塁。1番・高橋が送って一死2塁。2番・山崎はセンターフライに倒れたが、3番・三村がライト頭上を破る二塁打を放ち広島は待望の1点をもぎ取った。

 2度目の登板で初めて援護点をもらった山根は7回以降も変わらぬ調子で投げ続け、9回までの3イニングで一人の走者も許さなかった。最後の打者・マニエルを一塁ゴロに打ち取りゲームセット。山根は2安打完封で1点を守り切り、現役最多勝投手・鈴木啓示に投げ勝った。シリーズを連敗でスタートした広島は地元に戻って3連勝と息を吹き返し、逆に王手を掛けて第6戦に臨む事となった。

11月1日・第5戦
近鉄 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0
広島 0 0 0 0 0 1 0 0   1

勝ち 山根 1勝1敗   負け 鈴木 1勝1敗

本塁打 なし


 11月3日の第6戦は広島が中3日の池谷、そして後のない近鉄は中2日で井本を先発に起用した。広島は初回に3番・三村がソロ本塁打して1点を先制。しかし、広島での3試合で計5得点と不振だった近鉄打線がこの日は活発に打った。2回裏、三塁走者の梨田が平野の一塁ゴロの間に還って同点。3回裏にはマニエルのタイムリーと梨田の2ランで勝ち越し。4回にも三塁打の羽田を置いて平野の犠牲フライでさらに1点と小刻みに加点した。

 井本は2回以降は付け入る隙を与えず、7回まで3安打ピッチング。8回に連打でピンチを招くが落ち着いて後続を打ち取った。結局井本は9回二死から山本にソロ本塁打を浴びたものの、6安打無四球でシリーズ2度目の完投勝ち。近鉄は3勝3敗のタイとしてついに勝負の行方は最終戦に持ち込まれる事となった。

11月3日・第6戦
広島 1 0 0 0 0 0 0 0 1   2
近鉄 0 1 3 1 0 1 0 0   6

勝ち 井本 2勝1敗   負け 池谷 1勝1敗

本塁打 三村1号、梨田1号、山本1号


 11月4日の第7戦は広島が山根、近鉄が鈴木と共に中2日でのシリーズ3度目の顔合わせとなった。第2戦では鈴木が、第5戦では山根がそれぞれ完封勝利をマーク。日本シリーズの、そしてこの2人の対決の雌雄を決する時がやってきたのだ。
 試合は広島が初回に先頭の高橋がライト前ヒットすると、これをマニエルが後逸。高橋は一気に三塁を陥れ、続く衣笠のタイムリーで生還した。シーズン中は指名打者のマニエルにはシリーズ前から守備の不安が言われていたが、近鉄にとってこの大事な試合でその不安が現実のものとなったのだった。

 広島は3回にも水谷のタイムリーで追加点。14年目のベテラン鈴木には中2日はやはり厳しかったか、近鉄・西本監督はこれで鈴木をあきらめ、4回から2番手・柳田をマウンドに送った。
 4回までシングルヒット2本に抑えられていた近鉄だったが、5回裏に平野が打った。ここまでシリーズ20打席ノーヒットと不振にあえぎ、定位置の1番から8番に降格していた平野の執念の同点2ラン。試合は2-2の振り出しに戻った。

 4回・5回と三者凡退、6回も簡単に二死を取った近鉄の2番手・柳田だったが代打・萩原にヒットを打たれてペースを乱した。続く7番・水沼にレフトスタンドへ勝ち越し2ランを叩き込まれたのた。食い下がる近鉄もその裏、連続ヒットの走者を有田がバントで送り、6番・羽田の三塁ゴロの間に1点を返した。
 そして4-3と広島1点リードのまま試合は大詰め9回裏を迎えた。広島のマウンドには守護神・江夏。この年プロ入り13年目で初優勝を経験した江夏は、この試合の7回二死から登板して打者4人をピシャリと抑えていた。広島悲願の日本一は目前と思われた。

 9回裏の近鉄は先頭の5番・羽田が初球をセンター前ヒット。1点差の最終回に初球打ちはないと広島バッテリーの油断を見透かしたような羽田の積極的なバッティングだった。西本監督はすかさず足のスペシャリスト・藤瀬を代走に送った。その藤瀬が続くアーノルドの4球目にスタート、捕手・水沼の送球が逸れてセンターに抜ける間に藤瀬は悠々三塁へ。ノーアウト三塁の大ピンチとなった。

 そのアーノルドは警戒のあまり歩かせてしまい、さらに代走吹石も二盗して無死2・3塁となった。勝ち越しランナーが二塁に進んだ事で広島は7番・平野を敬遠して満塁策を取った。依然1点リードしているとは言え、ノーアウト満塁というまさに絶体絶命のピンチ、近鉄に取っては千載一遇のチャンスが巡って来た。しかしここで江夏の左腕が冴えた。代打・佐々木を空振り三振、そして続く9番・石渡を打席に迎えた。カウント1-0からの2球目に運命のスクイズのサインが出た。走者のスタートを視界の端に捉えた江夏はとっさにウエストボールを投げ、石渡は飛び付くようにバットを出したがこれを空振り。三塁走者が挟殺されてツーアウト。

 こうなれば江夏は完全に打者を見下ろしていた。3球目をかろうじてファウルした石渡だったが、4球目の膝元に入るカーブに空振り三振。自ら背負ったピンチを無失点で切り抜けた江夏は駆け寄る捕手・水沼に思い切り抱きついた。広島カープ、球団創立30年目に訪れた初の日本一だった。

 最優秀選手には全7試合に安打して27打数12安打の.444をマークした高橋慶彦(広島)が選ばれ、併せて打撃賞も獲得した。最優秀投手には250勝投手・鈴木と3度投げ合い、2勝1敗と勝ち越した山根和夫(広島)が選ばれた。優秀選手に2本塁打の水谷実雄(広島)、技能賞に打率.304の三村敏之(広島)、敢闘賞に2完投で2勝の井本隆(近鉄)が選ばれた。

11月4日・第7戦
広島 1 0 1 0 0 2 0 0 0   4
近鉄 0 0 0 0 2 1 0 0 0   3

勝ち 山根 2勝1敗   セーブ 江夏 2セーブ   負け 柳田 2敗

本塁打 平野1号、水沼1号

(この項完)

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