ちょっとしたコラム      
                
06.6.3付


1978年 ヤクルトスワローズVS阪急ブレーブス(前編)

 78年のパ・リーグは阪急が前後期制覇で2年ぶりの完全優勝を成し遂げた。前期は2位に9ゲーム差の独走。後期は近鉄とのマッチレースとなったが9月23日の「藤井寺決戦」を制してゲーム差なし、勝率6厘差で逃げ切った。投手陣は山田の18勝を筆頭に10勝投手が5人。完全試合を含む13勝を挙げた今井の一本立ちも大きかった。

 野手陣では主砲の加藤が腰痛で苦しみ打率.255と本調子に程遠い数字だったが、24本塁打・86打点と中軸の責任を果たした。入団4年目のマルカーノは打撃3部門共に自己最高の成績で、打点は1点差でミッチェル(日本ハム)を抑えリーグ1位となった。また、前年の日本シリーズで好走塁を見せた3年目の簑田が大熊に代わってレフトに定着。打率.307に61盗塁と大活躍で、福本を大いに刺激した。福本は自己2番目となる打率.325をマーク、盗塁も70個で6年ぶりに前年より増加させてタイトルを守った。

 一方のセ・リーグは3連覇を狙う巨人と、それまで下位に低迷する事が多かったヤクルト、大洋の三つ巴の争いとなった。やがて大洋が失速し、代わってリリーフエース江夏を擁する広島が3強に加わった。前年独走した巨人は主力の高齢化が著しく、絶対的な優位を保てずに一進一退を繰り返した。そんな中ヤクルトは9月に3試合連続サヨナラ勝ちを演じて勢いを増し、10月4日にホーム神宮で中日を下して球団創設29年目の初優勝を成し遂げた。

 76年途中から指揮を執った広岡の意識改革が成功し、長年の負け犬根性を払拭したチームは前年初めて2位となり、そしてこの年の優勝へとつなげたのだった。チームの顔である若松は首位打者こそ7厘差で逃したが.341のハイアベレージでベストテン2位となった。ベテラン大杉も2年連続で3割30本塁打をマーク。また、大砲マニエルもチーム最多の39本塁打を放ち存在感を見せ付けた。

 新入団のデーブ・ヒルトンの活躍も目覚しかった。独特のクラウチングスタイルからヒットを量産して前半は首位打者レースのトップを走った。後半は厳しいマークで数字を落としたが、最終的に.317の打率を残した。大器と言われ続けた杉浦も17本塁打、打率.291をマークして、8年目でようやくレギュラー定着を果たした。
 投手陣では松岡・安田の2枚看板が共に15勝をクリア。鈴木も開幕8連勝するなど13勝でリーグトップの勝率.813と健闘した。井原は先発・リリーフと大車輪の活躍で自己初の10勝をマークして成長の跡を見せた。

 こうしてリーグ4連覇そして日本シリーズ3連覇中の王者・阪急にシリーズ初出場のヤクルトが挑むという図式で1978年の日本シリーズは火蓋を切った。

両チーム主力選手の成績
ヤクルト     阪急  
大杉勝男 30本塁打 97打点 打率.327   加藤秀司 24本塁打 86打点 打率.255
マニエル 39本塁打 103打点 打率.312   マルカーノ 27本塁打 94打点 打率.322
若松勉 17本塁打 71打点 打率.341 12盗塁   簑田浩二 17本塁打 65打点 打率.307 61盗塁
ヒルトン 19本塁打 76打点 打率.317   高井保弘 22本塁打 77打点 打率.302 
杉浦享 17本塁打 67打点 打率.291   福本豊 8本塁打 34打点 打率.325 70盗塁 
船田和英 8本塁打 25打点 打率.271   島谷金二 22本塁打 76打点 打率.298
大矢明彦 7本塁打 44打点 打率.268   ウィリアムス 18本塁打 66打点 打率.295
角富士夫 7本塁打 29打点 打率.273   中沢伸二 7本塁打 40打点 打率.239
         
松岡弘 16勝11敗4S 防御率3.75 119奪三振   山田久志 18勝4敗4S 防御率2.66 117奪三振
安田猛 15勝10敗4S 防御率3.93 71奪三振   今井雄太郎 13勝4敗1S 防御率2.38 122奪三振
鈴木康二朗 13勝3敗1S 防御率4.11 70奪三振   稲葉光雄 10勝5敗 防御率2.91 74奪三振
井原慎一朗 10勝4敗4S 防御率3.38 95奪三振   佐藤義則 13勝8敗1S 防御率3.62 114奪三振
倉田誠 5勝2敗4S 防御率4.24 49奪三振   山口高志 13勝4敗14S 防御率2.78 95奪三振

 ヤクルトのホーム球場は神宮球場だったが、大学野球との兼ね合いで、当時は全てデーゲームであった日本シリーズに使用する事は不可能だった。そこで、ヤクルトのホームゲームは同じ都内にある後楽園球場で行われることとなった。
 日米野球があるために例年より早く10月14日にシリーズ第1戦は行われ、ヤクルトが安田、阪急が山田の先発で始まった。

 試合は点の取り合いとなった。阪急が2回表に山田自らのタイムリーで1点を先行すると、ヤクルトも3回裏に船田の犠飛で同点。阪急は5回表に高井のソロ本塁打で再び1点のリードを奪うが、ヤクルトもその裏船田が本塁打して再び同点。ヤクルトはさらに7回にはマニエルと大矢がソロ本塁打して勝ち越すと、7回にも杉浦のタイムリーが出て5-2と3点をリードした。

 しかし、直後の8回表に阪急はついにヤクルトの先発・安田を捉えた。先頭の3番・高井がヒット、続く4番のマルカーノが二塁打で無死2・3塁。ここで5番の島谷はセンター前ヒットで2者を還して1点差。ノーアウトからの3連打、しかしヤクルトの広岡監督はそのまま安田を続投させた。結果的にはこれが裏目に出て、ウィリアムス凡退の一死後に代打の河村が逆転2ランを叩き込む。阪急は一挙4得点で6-5と試合を引っくり返した。

 山田は9回裏に二死満塁のピンチを迎えたが、6番・杉浦をセカンドファウルフライに打ち取り完投勝ち。阪急が粘りの勝利でまずシリーズ第1戦をものにしたのだった。

10月14日・第1戦
阪急 0 1 0 0 1 0 0 4 0   6
ヤクルト 0 0 1 0 1 2 1 0 0   5

勝ち 山田 1勝   負け 安田 1敗

本塁打 高井1号、船田1号、マニエル1号、大矢1号、河村1号


 第2戦は翌15日にヤクルトが松岡、阪急が今井の先発で始まった。阪急は初回に先頭の福本がいきなりホームラン。出鼻を挫かれた松岡だったが、2回・3回はゼロに抑えた。一方、この年後半戦は絶好調だった阪急の今井はシリーズ初登板の緊張もあったか、先制点を守れない。2回裏、先頭の大杉に四球を与えると続くマニエルに逆転2ランを浴びた。さらに3回裏には杉浦の2点タイムリーツーベースなど5安打を集中されて4点を失った。

 4回に両チームが1点を取り合ったあと、6回裏のヤクルトは角のホームランと大杉のタイムリーで決定的な2点を追加した。阪急は7回にマルカーノが3ランを放って松岡をノックアウトしたが序盤の大量失点が痛く、結局10-6でヤクルトが逃げ切り1勝1敗のタイとした。

10月15日・第2戦
阪急 1 0 0 1 0 0 3 0 1   6
ヤクルト 0 2 4 1 0 2 0 1   10

勝ち 松岡 1勝   負け 今井 1敗

本塁打 福本1号、マニエル2号、角1号、マルカーノ1号、大杉1号


 第3戦は舞台を西宮に移して17日に行われた。先発は阪急がベテランの足立、ヤクルトが鈴木。阪急は初回に先頭の福本がヒットで出塁。2番・簑田の初球に二盗を決め、その後二つの内野ゴロで生還した。3回にも福本は四球で出塁すると二盗。二死後に加藤のタイムリーで2点目のホームを踏んだ。阪急はさらに4回にも島谷のタイムリー二塁打で1点を追加し3-0とリードした。

 一方の足立は慣れた西宮のマウンドでその技巧が冴えた。1回から4回まで3者凡退。打者12人に対して外野飛球すら若松のレフトフライ1本に抑えた。5回一死から初安打を許すが後続を断ち、6回・7回も1安打ずつ打たれたが無得点に抑えた。
 阪急は7回裏、ヤクルト2番手の西井から中沢が2点タイムリーを放ち駄目押し。足立はシーズン4勝止まりだったが、この試合では3安打無四球という最高の投球で前年第2戦に続く2度目の完封勝利。阪急が2勝目を挙げた。

10月17日・第3戦
ヤクルト 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0
阪急 1 0 1 1 0 0 2 0   5

勝ち 足立 1勝   負け 鈴木 1敗

(後編に続く)

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