ちょっとしたコラム      
               
06.5.20付


1977年 阪急ブレーブスVS読売ジャイアンツ

 77年のセ・リーグは巨人が2連覇を達成した。リーグ10年ぶりの80勝を達成して2位ヤクルトに15ゲーム差を付けた独走優勝だった。王・張本の強力コンビは健在で、王は通算756号を達成するなど2年連続で本塁打・打点の二冠王。張本もタイトルは逃したが、2年連続打率2位と活躍した。また、柳田が「史上最強の5番打者」と呼ばれ、リーグ3位の打率.340をマークした。柴田、高田のベテラン勢も持ち味を発揮し、柴田は5年ぶりに盗塁王に返り咲いた。投手陣ではエースに成長した小林が2年連続で18勝、新浦は2.32で防御率1位に輝いた。3年目の西本が8勝で新人王を争う活躍を見せ、またヤクルトから移籍した浅野が9勝をマークしてカムバック賞に選ばれた。

 パ・リーグは前期を阪急、後期をロッテが制した。プレーオフはロッテが第3戦までに2勝して王手を掛けたが、阪急は4戦・5戦と連勝して見事にリーグ3連覇を達成し王者の底力を見せた。
 この年は前年オフに主力の森本、戸田とのトレードで中日から獲得した島谷と稲葉が大活躍をした。島谷は最後まで有藤(ロッテ)と首位打者を争い、自己最高の打率.325でベストテン2位となった。稲葉も5年ぶりの二桁となる17勝をマークしてチームの勝ち頭となった。山田は16勝、山口は10勝とそこそこの成績で、足立が勝ち星を減らした分は新人王となったルーキー・佐藤が埋めた。

 こうして日本シリーズは2年連続して上田阪急と長嶋巨人の顔合わせとなった。シリーズ2連覇で貫禄さえ漂わせる上田に対し、前年の雪辱を晴らすべく決意を新たに臨む長嶋であった。

両チーム主力選手の成績
阪急     巨人  
加藤秀司 19本塁打 73打点 打率.319   王貞治 50本塁打 124打点 打率.324
マルカーノ 21本塁打 67打点 打率.269   張本勲 24本塁打 82打点 打率.348
島谷金二 22本塁打 74打点 打率.325   柳田真宏 21本塁打 67打点 打率.340 17盗塁
高井保弘 11本塁打 56打点 打率.277   柴田勲 18本塁打 52打点 打率.287 34盗塁
福本豊 16本塁打 54打点 打率.305 61盗塁   高田繁 17本塁打 65打点 打率.296 
ウィリアムス 16本塁打 50打点 打率.251   河埜和正 12本塁打 45打点 打率.294 13盗塁
大熊忠義 12本塁打 35打点 打率.251   土井正三 8本塁打 49打点 打率.260
長池徳二 10本塁打 27打点 打率.275   淡口憲治 5本塁打 21打点 打率.245
         
稲葉光雄 17勝6敗1S 防御率2.45 104奪三振   小林繁 18勝8敗7S 防御率2.92 155奪三振
山田久志 16勝10敗7S 防御率2.28 132奪三振   新浦寿夫 11勝3敗9S 防御率2.32 96奪三振
山口高志 10勝12敗11S 防御率3.05 151奪三振   ライト 11勝9敗 防御率4.24 82奪三振
足立光宏 7勝7敗 防御率3.16 38奪三振   堀内恒夫 10勝9敗3S 防御率4.59 86奪三振
白石静生 7勝6敗 防御率3.30 64奪三振   浅野啓司 9勝4敗1S 防御率2.52 61奪三振
佐藤義則 7勝3敗1S 防御率3.85 75奪三振   西本聖 8勝5敗4S 防御率2.67 54奪三振

 第1戦は10月22日に阪急が山田、巨人が小林の先発で始まった。阪急は初回に先頭打者の福本がいきなり二塁打。大熊がきっちりバントで送り、続く3番・加藤秀の犠牲フライでそつなく1点を先行した。巨人も2回先頭の王が同点ソロを放ってすぐに1-1とした。しかし阪急はその裏、下位打線の8番・大橋、9番・山田の連続タイムリーですぐ2点のリードを取り返した。

 小林が不調と見るや、長嶋監督は3回表の攻撃で早くも小林に代打を送り、3回裏からは2番手・浅野が登板した。浅野に3回・4回と三者凡退に抑えられた阪急打線だったが、5回二死から島谷とマルカーノに連続タイムリー二塁打が出て決定的な3点を追加した。
 阪急は7回にも島谷がタイムリーを放ってダメ押し。山田は大量リードで余裕の投球を見せ、9回に張本にソロ本塁打を許したが危なげなく6安打2失点の完投勝利、阪急が先勝した。

10月22日・第1戦
巨人 0 1 0 0 0 0 0 0 1   2
阪急 1 2 0 0 3 0 1 0   7

勝ち 山田 1勝   負け 小林 1敗

本塁打 王1号、張本1号


 翌23日の第2戦は阪急が足立、巨人が堀内の両ベテラン投手の先発となった。阪急はまたも初回に福本が四球で出塁するとすかさず二盗。内野ゴロで三進したあと、3番・加藤秀のショートゴロを巨人・河埜が間に合わないホームに返球する間に福本がホームインして1点を先制した。
 堀内は4回まで2安打1失点と好投したが、5回に打順が回ると代打を送られた。阪急は6回に2番手・加藤から島谷の犠飛で2点目。

 足立は5回は一死2塁、6回は一死1・2塁とピンチを迎えたが落ち着いて後続を断った。阪急は8回にも三塁打の福本を置いて代打・高井が犠牲フライ、3点目を挙げた。結局足立は最後まで得点を許さず7安打完封勝ち。阪急は巨人より少ない5安打で効率良く3点を取って、前年に続きシリーズ1・2戦連勝スタートを切った。

10月23日・第2戦
巨人 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0
阪急 1 0 0 0 0 1 0 1   3

勝ち 足立 1勝   負け 堀内 1敗


 舞台を後楽園に移した25日の第3戦は巨人がライト、阪急が白石という左腕投手の投げ合いとなった。ライトが4回まで阪急打線を3安打無失点に抑えれば、対する白石も毎回走者を出しながら4回をゼロに抑えた。特に4回裏は一死満塁のピンチを迎えたが、8番・吉田を三振、9番・ライトをレフトフライに打ち取り得点を許さなかった。

 5回表、一死1・3塁の先制機で投手の白石に打順が回ると上田監督は早くも代打の切り札・高井を送った。この高井のピッチャーゴロの間に三塁走者が還って阪急が3試合連続で先取点を奪った。しかし、その裏からシリーズ初登板のマウンドに上がった山口がピリッとしない。一死から土井にセンター前ヒットを打たれ、続く王にはライトスタンドへ飛び込む逆転2ランを浴びてしまった。

 巨人は5回から小林、8回途中からは加藤へとつないで逃げ切りを図るが、阪急は9回先頭の4番・島谷がレフトスタンドに同点本塁打。土壇場で試合は振り出しに戻った。山口は8回には二死満塁のピンチを背負うなど不安定ながらも王の本塁打以降は無失点に抑えていた。しかしロングリリーフも8イニング目に入った延長12回裏、ついに力尽きた。巨人はこの回先頭の上田がヒット、末次が送って続く柴田は敬遠され一死1・2塁となった。

 ここで打席に入ったのがこの試合ノーヒットの7番・河埜。河埜は山口のストレートを会心の当たりでレフトスタンドに運んだ。シリーズ史上7本目となるサヨナラ本塁打で巨人が一矢を報いた。肩を落としてマウンドを去った山口にはこれが日本シリーズ最後の登板となった。

10月25日・第3戦
阪急 0 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0   2
巨人 0 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 3x   5

勝ち 浅野 1勝   負け 山口 1敗

本塁打 王2号、島谷1号、河埜1号


 26日の第4戦は巨人が中2日の堀内、阪急が稲葉の先発で始まった。序盤は両投手が好投。堀内は5回まで阪急打線を四球1つのノーヒットに抑えた。対する稲葉も3回に高田・土井の連続二塁打で1点を失ったが、4回・5回は三者凡退と追加点を許さなかった。

 6回表の阪急は先頭の8番・大橋が初安打となるレフト前ヒットで出塁。ここから堀内は突如として乱れ始め、続く投手の稲葉に死球、さらに1番・福本も四球で歩かせ無死満塁となった。2番・大熊を打ち取った一死後、3番・加藤秀のショートゴロを河埜が落球して同点の走者がホームを駆け抜けた。1-1の同点となり、なお一死満塁。ここで長嶋監督はすかさず小林を投入した。小林は4番・島谷をショートゴロ併殺打に打ち取りピンチを脱した。

 阪急はその裏からエース・山田を投入して巨人打線を抑えにかかったが、8回二死から3番・張本に勝ち越しソロ本塁打を浴びる。残る攻撃は9回表のみ。その9回も代わった浅野から4番・島谷がセカンドゴロ、5番・マルカーノがピッチャーゴロでたちまちツーアウトランナーなし。巨人の連勝でシリーズは2勝2敗のタイに−。そんな空気が球場を包んだところから阪急の逆転劇が始まった。

 ここで代打に起用されたベテランの藤井が四球を選ぶ。上田監督は代走に2年目の俊足・簑田を送った。簑田は見事二盗に成功して一打同点のチャンス。打席にはこれまた代打の高井。代打男として一時代を築いた高井は見事にレフト前ヒット。本塁突入は際どいタイミングだったが、二塁ランナー簑田は捕手・吉田のタッチをかわして同点のホームイン。

 続く大橋にもヒットが出て投手は加藤に代わった。しかし加藤も阪急打線の勢いを止められず投手の山田にタイムリー二塁打を喫し、その後内野のエラーも出てこの回阪急は一気に4点を奪って逆転に成功した。その裏の巨人は下位打線からの攻撃で代打攻勢をかけたが原田、淡口と山田の前に左打者が連続三振。最後の打者・上田がレフトフライに倒れ、阪急が地力を発揮して3勝1敗とシリーズ3連覇に王手を掛けた。

10月26日・第4戦
阪急 0 0 0 0 0 1 0 0 4   5
巨人 0 0 1 0 0 0 0 1 0   2

勝ち 山田 2勝   負け 浅野 1勝1敗

本塁打 張本2号


 続く27日の第5戦は巨人が新浦、阪急が佐藤とシリーズ初先発同士の顔合わせで始まった。後のない巨人は2回裏に二死2・3塁のチャンスで投手の新浦がタイムリーを放って2点を先行した。4回まで1安打と新浦に抑えられた阪急だったが、5回にシリーズ初スタメンの簑田がレフトへ二塁打。続く中沢のライトフライで三進した簑田は大橋の犠飛でホームを踏んだ。

 阪急は6回に加藤秀がヒットの大熊を置いて逆転2ラン。7回には新浦から小林、ライトと懸命のリレーをとる巨人から福本のタイムリーと大熊の2点タイムリー二塁打で決定的な3点を追加した。阪急は5回から登板した白石が7回に柴田のソロで1点を失うと、8回からは連投のエース山田を投入。山田は期待に応えて8回・9回とパーフェクトリリーフで締めくくった。最後の打者・柴田をピッチャーゴロに打ち取った山田はそのまま一塁ベースに駆け込んだ。

 阪急は4勝1敗と巨人を圧倒して日本シリーズ3連覇を達成した。前年に続く勝利で、かつて5度退けられた巨人の影を完全に振り払い王者の交代を印象付けたシリーズだった。MVPには2勝1セーブの山田久志が、打撃賞には打率.368で2本塁打の張本勲が選ばれた。また、最優秀投手に第2戦で完封勝利の足立光宏、優秀選手に打率.353の福本豊、技能賞に打率.286の大熊忠義、敢闘賞に第3戦でサヨナラ本塁打の河埜和正が選ばれた。

10月27日・第5戦
阪急 0 0 0 0 1 2 3 0 0   6
巨人 0 2 0 0 0 0 1 0 0   3

勝ち 白石 1勝   セーブ 山田 2勝1セーブ   負け 新浦 1敗

本塁打 加藤秀1号、柴田1号 

(この項完)

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