1976年 読売ジャイアンツVS阪急ブレーブス(前編)
76年のパ・リーグは2シーズン制導入4年目にして初めて阪急ブレーブスによる前後期完全制覇という結果に終った。光ったのはエースの輝きを完全に取り戻した山田久志。前期・後期共に13勝ずつを挙げ、年間実に26勝をマーク、4年ぶり3度目の20勝投手となった。ベテラン足立も17勝で健在ぶりを発揮、2年目山口もジンクスを跳ね返す12勝9Sの活躍を見せた。戸田も2年連続二桁勝利にノーヒットノーランも達成した。この4人だけで実に67勝を稼ぎ出している。
打線では加藤秀が2年連続打点王、福本が7年連続盗塁王とお馴染みの顔が頑張った。また、代打男で知られた高井が長池の不振からスタメンのチャンスを掴み、自己最多の15本塁打と持ち前の長打力を発揮した。
一方のセ・リーグは前年に球団史上初の最下位と屈辱を舐めた長嶋巨人が優勝した。巨人は日本ハムから張本勲、太平洋から加藤初と投打に効果的な補強を行い、前年は不振続きだったジョンソンも本来の守備位置である二塁に定着して見違えるような動きを見せた。王も張本に刺激されるように復調し、本塁打・打点のタイトルを奪回した。張本も首位打者は逃したが.355という高打率をマークしてセ・リーグ投手陣を打ちのめした。レフトで活躍した名手・高田の内野転向も大成功だった。投手陣では4年目の小林が1本立ちして18勝をマーク。新浦も11勝と初の二桁勝利を達成。移籍の加藤は先発・リリーフに獅子奮迅の活躍で15勝8セーブを挙げ、4月の広島戦ではノーヒットノーランも達成している。
かつて西本監督の時代、阪急は5度日本シリーズで巨人と対戦し5度とも敗れていた。最初の3度が2勝4敗、後の2度が1勝4敗といいようにやられていて第7戦まで持ち込んだ事さえ1度もなかった。今度は違うぞ、今度こそ打倒巨人を果たしてみせる。上田監督は熱い思いを胸にシリーズに臨んでいた。
巨人 | 阪急 | |||
王貞治 | 49本塁打 123打点 打率.325 | 加藤秀司 | 28本塁打 82打点 打率.300 | |
張本勲 | 22本塁打 93打点 打率.355 | 長池徳二 | 12本塁打 59打点 打率.238 | |
ジョンソン | 26本塁打 74打点 打率.275 | マルカーノ | 25本塁打 64打点 打率.271 | |
柴田勲 | 10本塁打 36打点 打率.284 20盗塁 | 福本豊 | 8本塁打 46打点 打率.282 62盗塁 | |
高田繁 | 13本塁打 58打点 打率.305 17盗塁 | ウィリアムス | 15本塁打 51打点 打率.271 12盗塁 | |
末次利光 | 9本塁打 47打点 打率.281 | 森本潔 | 16本塁打 46打点 打率.228 | |
淡口憲治 | 10本塁打 39打点 打率.298 | 高井保弘 | 15本塁打 47打点 打率.244 | |
吉田孝司 | 5本塁打 37打点 打率.260 | 大熊忠義 | 5本塁打 35打点 打率.278 | |
小林繁 | 18勝8敗2S 防御率2.99 129奪三振 | 山田久志 | 26勝7敗5S 防御率2.39 143奪三振 | |
加藤初 | 15勝4敗8S 防御率3.70 161奪三振 | 足立光宏 | 17勝8敗1S 防御率2.54 67奪三振 | |
堀内恒夫 | 14勝6敗 防御率3.97 82奪三振 | 山口高志 | 12勝10敗9S 防御率2.82 152奪三振 | |
新浦寿夫 | 11勝11敗5S 防御率3.11 162奪三振 | 戸田善紀 | 12勝5敗1S 防御率3.91 76奪三振 | |
ライト | 9勝7敗 防御率3.32 51奪三振 | 白石静生 | 4勝5敗2S 防御率4.37 30奪三振 |
10月23日の第1戦は巨人が18勝の小林も予想されたが、蓋を開ければシリーズ経験豊富なベテランの堀内、阪急は順当に26勝の山田の先発で始まった。巨人は山田の立ち上がりを捉え、初回に3番・張本のタイムリーと5番・末次の犠牲フライで2点を先行した。阪急も続く2回表にすかさず反撃。下位打線の連打で掴んだ二死1・2塁から1番・福本のタイムリーで1点を返した。
3回・4回と両チームゼロが続いたが、5回表に阪急は試合を引っくり返す。先頭の2番・大熊が二塁打、3番・加藤秀が四球。無死1・2塁の場面となり長嶋監督はシーズン中はエース格の活躍を見せた小林をここでリリーフに送った。これがシリーズ初登板の小林は代わり端のマルカーノに同点二塁打を浴びると続くウィリアムスには死球で満塁。一死後、7番・中沢に二点タイムリーを許して阪急が2点のリードを奪った。
2回から5回まで巨人打線を1安打に抑えた山田も6回、王に同点2ランを喫して試合は4-4の同点となった。本塁打に続いて5番・末次にもヒットを打たれて山田は降板、マウンドには切り札の山口高志が上がった。山口は持ち前の速球で後続のジョンソン、吉田と連続三振に取った。
ここから小林、山口の投げ合いとなるが阪急は8回表に二死から3連打で1点の勝ち越し。9回にも中沢が1号ソロをレフトスタンドに叩き込んで巨人を突き放した。一方の山口は打者13人に2安打無四球5奪三振と見事な投球で巨人打線の反撃を許さず最後まで投げ切り勝利投手となった。
阪急 | 0 | 1 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 1 | 1 | 6 | |
巨人 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 4 |
勝ち 山口 1勝 負け 小林 1敗
本塁打 王1号、中沢1号
雨で1日置いた25日の第2戦は巨人が左腕・ライト、阪急が下手投げ・足立の技巧派投手同士の先発となった。阪急は2回にマルカーノ、ウィリアムスの連打で無死2・3塁のチャンスを作ると続く6番・森本が先制打。さらに中沢の内野ゴロの間に三塁ランナーが還って2点を先行した。巨人は4回に張本の犠牲フライで1点を返すが、続く5回に阪急は福本の内野安打となるゴロをジョンソンが一塁悪送球して2点を追加した。
阪急の先発・足立は6回まで散発3安打の投球を続けていたが、7回裏先頭の王に2試合連続2号ソロ(シリーズ新の通算26号)を浴び、続く代打の柳田にも二塁打を打たれたところで降板した。ここで上田監督がリリーフを告げたのはもちろん山口高志。しかし山口は一死後に原田にセンター前タイムリーを打たれて4-3と1点差に迫られた。
8回表に阪急は相手のエラーから貴重な5点目を得た。その裏の山口は悪い癖の制球難が出て2番・高田、3番・張本に四球を連発。迎えた4番の王に二塁打されて5-4とまたまた1点差に迫られた。しかし山口は5番・柳田を三振、6番・ジョンソンをセンターフライに退け、どうにかピンチを脱した。9回裏も矢沢をレフトフライに打ち取ると、山本和、山本功と続く巨人の代打陣を連続三振に斬って取り1点差で逃げ切った。これで阪急は敵地・後楽園で2連勝と絶好のスタートを切ったのである。
阪急 | 0 | 2 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 1 | 0 | 5 | |
巨人 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 2 | 1 | 0 | 4 |
勝ち 足立 1勝 セーブ 山口 1勝1セーブ 負け ライト1敗
本塁打 王2号
27日の第3戦、阪急は中3日で山田、巨人は加藤が先発した。勢いに乗る阪急は初回から猛攻を見せた。二死一塁から4番・マルカーノ、5番・ウィリアムスが連続タイムリー二塁打。さらに2四球で迎えた満塁のチャンスに8番・大橋が2点タイムリーを放ち、いきなり4点を先取した。
巨人は早くも加藤をあきらめ、2回から小林をリリーフに送った。その小林のヒットからチャンスを掴み、3回表に巨人は張本のタイムリーと王の犠牲フライで2点を返した。
代わってから3イニングを抑えた小林だったが、5回裏にマルカーノに痛い3ランを喫した。これで阪急は7-2とリードして押せ押せムードになった。山田は8回に1点を失ったが、打線がその裏決定的な3点を追加、結局10-3で阪急が大勝して6度目の対決で巨人相手に初めて王手を掛けた。長嶋巨人は3連敗であっという間に崖っぷちに追い込まれたのである。しかし、阪急の一方的な展開に思われた勝負の行方は第4戦以降混沌としたものになって行くのである。
巨人 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 3 | |
阪急 | 4 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 3 | X | 10 |
勝ち 山田 1勝 負け 加藤 1敗
本塁打 マルカーノ1号
(後編に続く)