ちょっとしたコラム      
               
06.4.8付


1975年 阪急ブレーブスVS広島カープ(後編)

 雨で1日流れて第4戦は10月30日に行われた。先発は広島が外木場、阪急が足立と第1戦に投げた両投手が中4日で再び激突した。
 試合は阪急が2回に森本の本塁打で先行した。しかし広島もその裏、山本浩と山本一の2本のソロホームランですかさず逆転。3回にも山本浩のタイムリーでさらに1点を追加した。このシリーズ初めてのリードを保つ展開に地元広島のスタンドは「今日こそ1勝!」と沸きあがった。

 しかし阪急も7回表に相手の野選などで一死満塁のチャンスを掴む。ここで打順は3番・加藤秀。一塁ゴロでまず三塁ランナーを還すと、続く4番・長池がレフトへタイムリーを放って同点に追い付いた。阪急は4回から登板した2番手・戸田が3イニングをノーヒットに抑える好投を見せていたが、この7回の攻撃で戸田に代打を送ったため7回裏から山口をマウンドに送った。2日前に完投したばかりの山口の投入にスタンドはどよめいた。この新人投手への上田監督の絶大な信頼感がうかがえる起用である。

 ここから外木場と山口の息詰まる投げ合いが始まった。8回そして9回も両チーム無得点で試合はこのシリーズ2度目の延長戦に突入した。11回の広島と12回の阪急はそれぞれ先頭打者がヒットで出塁したが後続がなく無得点。12回裏の広島はヒット2本でサヨナラのチャンスを迎えたが3番・ホプキンスがショートフライに倒れて決定機を逃した。

 そして迎えた13回表、二死二塁で打順は投手の山口。前の打席でも内野安打を放っている山口はここでもレフト前ヒットを放ち待望の勝ち越し点。7回から無失点を続ける山口がこのまま行けば投打のヒーローとなるはずだった。
 しかし、粘る広島はその裏二死一塁から水谷のヒットと深沢の四球で満塁のチャンスを掴む。山口は一転して一打逆転サヨナラのピンチを背負った。ここで外木場の代打に起用された佐野の打球はセンター前へ。同点のホームを踏んだ三塁ランナーに続き二塁ランナーの木下がサヨナラのホームを狙ったが本塁寸前タッチアウト。この時点で規定の制限時間を超えており、試合は痛み分けに終った。中1日の山口は結局7イニングで110球を投げ、外木場は実に200球を投げて13回を完投した。試合時間は4時間49分で第1戦の長時間記録をさらに塗り替える大熱戦だった。

10月30日・第4戦(延長13回)
阪急 0 1 0 0 0 0 2 0 0 0 0 0 1   4
広島 0 2 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1   4

本塁打 森本1号、山本浩2号、山本一1号


 続く第5戦は広島が佐伯、阪急が山田の先発で始まった。広島が2回にそれまで16打数1安打と不振が続いていた衣笠祥雄の本塁打で先行した。しかし阪急は3回表に二塁打の大橋が山田の内野ゴロで三進すると、2番・大熊の二塁内野安打で同点とする。さらに4回にはマルカーノ・森本・河村の3連打で一死満塁と佐伯を攻め立てた。古葉監督はここで早くも佐伯をあきらめて金城をマウンドに送った。代わり端、8番の大橋がスクイズを決めて阪急が1点の勝ち越し。結果的にはこの1点が値千金の決勝点となった。

 阪急の先発・山田は第2戦同様に丁寧な投球で広島打線を封じた。8回まで先頭打者の出塁を許したのは3回裏の1イニングだけ。バックも好守備で山田を支えた。6回一死1・2塁でシェーンの打球はセンター・福本の頭上を襲った。しかし福本はこれを背走しながら捕球する超ファインプレー。飛び出した一塁ランナーを刺して併殺が完成し、山田はピンチを脱した。
 その山田が9回を迎え先頭のホプキンス、続く山本浩に連打されると上田監督がリリーフに送ったのはまたも山口高志。3日間で267球を投げた山口の3連投である。山口は期待に応えて後続のシェーン・衣笠・山本一を11球で打ち取り阪急は3連勝で初の日本一に王手を掛けた。

10月31日・第5戦
阪急 0 0 1 1 0 0 0 0 0   2
広島 0 1 0 0 0 0 0 0 0   1

勝ち 山田 2勝   セーブ 山口 1勝1セーブ   負け 佐伯 2敗

本塁打 衣笠1号


 阪急の地元・西宮に戻っての第6戦は阪急が中2日で足立、広島がシリーズ初先発の池谷の顔合わせとなった。この試合も先制したのは広島。2回一死1・3塁から道原がレフト線へのタイムリー二塁打を放ち2点を先行。続く池谷にもヒットが出て、上田監督は2番手・戸田を送った。戸田は1番・大下をショートフライ、2番・三村をセンターフライに打ち取り追加点は阻んだ。阪急はその裏すかさず大橋のタイムリーで1点を返した。

 続く3回裏は三者凡退に抑えた池谷だったが、4回二死から崩れた。二死一塁にヒットのマルカーノを置いて7番・中沢が逆転2ラン。池谷はさらに四球と安打でランナーを出し、1番・福本にタイムリー二塁打を浴びて降板。代わってマウンドに上がった金城は2番・大熊に死球を与えて打者1人で交代。二死満塁で迎える左打者・加藤秀対策で登板した3番手の左腕・渡辺弘だったが、加藤に二塁内野安打を許し2者が還ってこの回の阪急は決定的な5得点を挙げた。

 3回、4回、5回と阪急の2番手・戸田は広島打線を抑えていた。許した走者は3回の山本浩の四球と5回のホプキンスのシングルヒットの2人だけだった。そして6回表、広島は先頭のシェーンがライト前ヒット。ここで上田監督が投手交代を告げる。マウンドに向かうのはもちろん山口高志。これでついに4連投でシリーズ5試合目の登板である。3勝2分けで一方的に押しながらもここで一気に決めてしまおうという上田采配であった。

 山口は衣笠、山本一を連続三振、代打の水谷をセカンドゴロに打ち取りピンチを防いだ。7回表も三者凡退、8回は先頭のホプキンスに一発を浴びたが後続を断った。その裏の攻撃で山口はこのシリーズ実に4本目となるヒットを放ち、これがタイムリーとなって失点を帳消しにした。
 そして9回表、代打の佐野がライトフライ、続く水谷はショートのエラーで出塁したが久保を三振に打ち取りツーアウト。最後の打者・大下の打球はライトへのファウルフライ、指名打者制のない日本シリーズでスタメンから外れていたウィリアムスが軽快に追い付いてゲームセット。かつて川上巨人にシリーズで5度屈した阪急ブレーブス悲願の日本一達成の瞬間だった。

11月2日・第6戦
広島 0 2 0 0 0 0 0 1 0   3
阪急 0 1 0 5 0 0 0 1   7

勝ち 戸田 1勝   セーブ 山口1勝2セーブ   負け 池谷 1敗

本塁打 中沢2号、ホプキンス1号

 シリーズMVPは6試合中5試合に登板して1勝2セーブと大車輪の活躍を見せた山口高志が選ばれた。新人投手のシリーズMVPは史上初の快挙だった。内容的にも24回2/3を投げて防御率2.16、21奪三振と立派な成績だった。打撃賞には打率.368の大橋穣、最優秀投手には2勝の山田久志、優秀選手賞には2本塁打の中沢伸二と2試合で21回2/3、合計324球を投げた外木場義郎が選ばれた。その他、技能賞には第5戦で超ファインプレーの福本豊、敢闘賞に2本塁打で打率.333の山本浩二が選ばれた。

(この項完)

BACKNEXT