ちょっとしたコラム      
               
04.6.12付


78年秋、阪急王国に挑んだ猛牛軍団(前編)

 1978年のパ・リーグ後期ペナントレースは大詰めを迎えていた。前期を勝率.688、2位に9ゲーム差と言う独走優勝で制した阪急は後期も好調で、9月10日時点の成績は以下のようになっていた。近鉄の勝率も高く、通常なら首位でもおかしくない数字だったが阪急の勝ちっぷりはその上を行っていた。割を食ったのは他球団で、3位のクラウンでさえこの時点で22勝28敗の借金6であり、2位近鉄からは12ゲーム差を付けられ優勝争いからは疎外されていた。後期の行方は阪急の前後期完全制覇か、近鉄が逆転優勝するかの2つに絞られていたのである。さらに注目すべきは阪急VS近鉄の直接対決がまだ5試合も残っていた事である。この5試合が両チームにとって後期の命運を懸けた戦いとなる事は必至であった。

<78年パ・リーグ後期勝敗表・9/10現在>
    成績 勝率 残り
1位 阪急 55試合 33勝14敗8分け .702 10試合
2位 近鉄 58試合 35勝17敗6分け .673 0.5 7試合
3位 クラウン 56試合 22勝28敗6分け .440 12.0 9試合
4位 ロッテ 53試合 19勝26敗8分け .422 0.5 12試合
5位 日本ハム 58試合 21勝30敗7分け .412 1.0 7試合
6位 南海 58試合 18勝33敗7分け .353 3.0 7試合

 阪急を率いるのは就任5年目、43歳の上田利治。1年目こそプレーオフでロッテに不覚をとったものの、翌75年から堂々の日本シリーズ3連覇を達成。常勝阪急の名と共に、若き名将の名をほしいままにしていた。一方の近鉄を率いるはこれも就任5年目となる熱血漢・西本幸雄。西本には上田が就任する前年まで阪急を11年間指揮してきたという経歴があった。西本は阪急を5度リーグ優勝に導いたものの、日本シリーズでは全て敗れていた。対して上田は3度シリーズに出て全勝、もちろん阪急プレーブス初の日本一も上田の下で達成されていた。
 さらに近鉄は西本監督2年目の75年後期に優勝したものの、プレーオフで阪急と対戦して1勝3敗と敗れていた。そして何より、近鉄はリーグ優勝をいまだ果たしていないパ・リーグ唯一の球団であったのだ。近鉄悲願の初優勝のためには、打倒阪急は避けて通れない道であった。こういった様々な因縁の糸が複雑に絡み合う両者の対決はいやが上にもヒートアップしていた。

 そして9月11日から西宮球場で阪急−近鉄の4連戦が行われた。第1戦に必勝を期す近鉄は23勝のエース・鈴木啓示を立てる。阪急は9勝5敗の稲葉光雄が先発した。6日の日本ハム戦で2安打完封勝利を挙げてから中4日のマウンドに登った鈴木は10試合連続完投勝利という日本新記録を継続中で、まさに絶好調だった。試合は0−0の投手戦が続いたが、近鉄は7回表に5番・アーノルドの13号ソロでついに均衡を破る。しかし、その裏それまで完璧な投球を見せていた鈴木が突如乱れて一死満塁のピンチを迎える。ここで打席には代打・長池徳二。昭和40年代の阪急を背負った主砲も出場機会が減り、売り物のホームランもここまでわずかに4本とプロ入り以来最少の数字であった。だが、長池はこの場面で最高の打撃を見せた。これまで幾度も対戦してきた好敵手鈴木から逆転の満塁ホームランを放ったのである。この後さらに1点を追加した阪急は5−1と逆転勝ちで第1戦を飾った。近鉄とのゲーム差は1.5に広がった。

<9月11日・後期9回戦>
近鉄 0 0 0 0 0 0 1 0 0   1
阪急 0 0 0 0 0 0 5 0   5

 翌12日、エースを投入しての痛い敗戦にも近鉄ナインは気持ちを切り替えていた。小川の9号ソロで先制するもその裏にすぐ逆転されたが、梨田の7号3ランなどで阪急のエース・山田を2回途中でKO。3回までに7−2と5点差を付け試合を決めた。近鉄は先発の柳田が4点を失いながらも完投勝利を挙げ、再び0.5ゲーム差に接近した。

<9月12日・後期10回戦>
近鉄 1 5 1 0 0 0 0 1 0   8
阪急 2 0 0 1 0 0 0 1 0   4

 1勝1敗で迎えた13日の第3戦は4連続完投勝利を含めて7連勝中の今井雄太郎を近鉄打線が攻略。7回まで13安打を浴びせて小刻みに加点。投げては先発・神部が粘り強く7回途中まで3点に抑え、8回一死1・3塁で救援したベテラン・板東が最後を締めた。近鉄は16安打の猛攻を見せ、9回表の5得点で試合は決まった。ゲーム差は逆転してマイナス0.5となったが、勝率では阪急が.680で近鉄は.673と、まだわずかに及ばなかった。

<9月13日・後期11回戦>
近鉄 0 1 0 2 0 1 2 0 5   11
阪急 0 1 0 0 0 0 0 2 0   3

 ついに首位奪取に王手を掛け、こうなると近鉄は押せ押せムードである。第1戦で痛恨の一発に泣いた鈴木啓示が中2日で志願の先発マウンドに上がり、今度は見事に5安打散発の完封勝利を挙げる。通算64完封というリーグ新記録のオマケ付きだった。これで近鉄は38勝18敗6分けの勝率.679として、34勝17敗8分けで勝率.667の阪急を抜いてトップに立った。注目の4連戦は阪急が初戦を取りながら、終わってみれば近鉄の3勝1敗と言う結果になった。
 直接対決の最終戦は9月23日。それまでに近鉄は2試合、阪急は3試合を予定していた。どちらも1つも落とせない、ギリギリの戦いが続くのだった。

<9月14日・後期12回戦>
近鉄 1 0 1 2 0 0 0 2 0   6
阪急 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0

(後編に続く)

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