ちょっとしたコラム      
              
04.6.26付


78年秋、阪急王国に挑んだ猛牛軍団(後編)

 近鉄4連戦に1勝3敗と負け越した阪急は、16日の日本ハム戦も山田で落として4連敗。この年9勝のうち5勝が阪急戦というキラー・高橋直樹に4安打無四球で完封された。14日の近鉄戦から2試合連続の完封負け。打線のつながりが見られない試合が続いていた。だが翌17日の南海戦では今井が完投勝ちしてようやく連敗ストップ。打線も奮起して10安打で7点を奪った。同日ロッテと対戦した近鉄は、小川のソロ本塁打による1点のみで好投した神部を援護出来ず、1−3で敗れた。この結果、両者の勝率は再び7厘差に縮まった。

 そして19日は近鉄がエース・鈴木啓示がきっちり中4日で先発。実にシーズン8度目となる完封勝利で日本ハムに8−0と快勝。この日は打線も12安打と活発に打った。後がない阪急も何と17日に完投している今井を中1日で連続先発させる必勝体勢。今井は期待に応えてクラウン打線を6安打1点に抑え完投勝ち。3日間に2完投勝利の離れ業をやってのけた。

 勝率は5厘差となったが依然として近鉄が首位。近鉄にとって最終戦となる23日の直接対決に勝てば後期優勝が決まるという状況になった。一方の阪急はその近鉄戦に勝ちさえすれば残る2試合に1勝するか又は2引き分けで優勝という状況だった。23日の試合が引き分けに終ったら、阪急は残りを2勝か1勝1分けという厳しい条件になる。従って阪急にとっても、前後期完全制覇のためにはどうしても落とせない試合であった。

<藤井寺決戦前の戦績>
    近鉄の戦績 勝率     阪急の戦績 勝率
9月16日         60試合目 ●急0−4日 .654
9月17日 63試合目 ●近1−3ロ .667   61試合目 ○急7−2南 .660
9月18日              
9月19日 64試合目 ○近8−0日 .672   62試合目 ○急4−1ク .667
               
  残り1試合 39勝19敗6分け     残り3試合 36勝18敗8分け  

 9月23日、世に言う“藤井寺決戦”を迎えた。近鉄の先発はここまで25勝9敗の鈴木啓示が中3日で登板、阪急は17勝4敗の山田久志がマウンドに上がった。両チームともエースを押し立てて正面から激突したのである。鈴木の25勝は15勝の間違いではない。15勝で最多勝利投手になる近年では信じ難い数字ではあるが、四半世紀前にはまだこれほどの投手が存在したのである。一方の山田も勝ち星では鈴木の後塵を拝したものの、ここまで勝率.810というエースらしい勝ちっぷりを見せていた。今井を中1日で使ってまで、この試合に中6日と万全の体勢で山田を送った上田監督であった。

 試合が始まった。山田は初回に自らの暴投で1点を失う。しかし、2回からは立ち直り丁寧な投球で近鉄打線を抑えていった。9月12日の10回戦で1回0/3でノックアウトされた時とは別人のように淡々と投げ続けた。これまでシーズン優勝の経験がない近鉄ナインは「勝てば優勝」の状況に前回の4連戦とは違った緊張感が漂っていた。しかし、2回までは無難に抑えた鈴木が3回に打たれる。3回表の阪急は福本がタイムリーを放ち同点。福本は5回の打席でも四球で出塁するとすかさず二盗し、続く簑田のタイムリーで逆転のホームを踏んだ。近鉄は2回以降、得点が入らない。逆転を許して重苦しい雰囲気の中、試合は進んだ。

 その後6回、7回と両チーム無得点。1点差の緊迫した展開で迎えた8回表、二死三塁で鈴木は勝負強いマルカーノと敢えて勝負に出た。次打者が2週間前に逆転満塁ホームランを浴びた長池だったという事もあったかもしれない。だが勝負のボールはダメ押しの26号2ランホームランとなってレフトスタンドに弾んだ。続く長池にもヒットを打たれ、鈴木はついに降板。得点差は3点とは言え、後期に入って先発した18試合にオール完投の大黒柱が降板した時点で、近鉄の命運は尽きていた。その後最終回に1点を返したが及ばず、決戦に敗れた近鉄は阪急の結果待ちとなった。
 阪急は37勝18敗8分け、勝率.673で残り2試合。近鉄は39勝20敗6分けで全日程を終え、勝率.661で2位に落ちた。阪急の優勝の条件は2試合で1勝するか2引き分けという状況になった。

<9月23日・後期13回戦>
阪急 0 0 1 0 1 0 0 2 0   4
近鉄 1 0 0 0 0 0 0 0 1   2

 9月27日から川崎球場でロッテVS阪急の2連戦が行われ、阪急は第1戦に後期大車輪の活躍を見せている今井を先発に送った。目前の胴上げを見たくないロッテもエースの村田兆治が先発した。しかし村田は4回に高井に先制22号ソロを浴びると中沢にもタイムリーを許し2失点。5回にもマルカーノのタイムリーで1点を失った。結局13三振を奪い完投した村田だったが4失点。対する今井は村田と同じ被安打8ながら要所を抑えて1失点完投で13勝目を挙げた。この勝利で阪急は翌日の最終戦に敗れても近鉄の勝率を上回る事が確定し、1976年以来2年ぶりの前後期完全制覇を成し遂げたのである。

<9月27日・後期12回戦>
阪急 0 0 0 2 1 0 1 0 0   4
ロッテ 0 0 0 0 0 0 1 0 0   1

 目前で優勝を逃した近鉄ナインの悲願は翌年実を結んだ。移籍のマニエルの強打に引っ張られるように前期制覇、そしてプレーオフでは宿敵・阪急を若武者・山口の3連投もありストレート勝ちで下して球団創立30年目の初優勝を飾ったのである。

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