MLB開幕記念特別編
野茂(ドジャース)、颯爽の大リーグデビュー
1995年1月に近鉄を任意引退し、日本プロ野球に別れを告げた野茂英雄はアメリカ大リーグのロサンゼルス・ドジャースと2月12日に契約を結んだ。前例のないこの行動に対し、日本球界の反応は冷たく「通用するわけないさ」、「どうせすぐに尻尾を巻いて帰って来るよ」などと声高に叫ぶ評論家も多かった。祝福されて海を渡った21世紀の日本人選手とは違う、逆風の中での旅立ちだった。日本での安定した環境を離れ、1965年の村上雅則(SFジャイアンツ)以来となる日本人大リーガーを目指す野茂の挑戦が始まった。
この年のメジャーリーグは前年途中からのストライキの影響で開幕が遅れており、通常162試合制のところを144試合制で行われることになっていた。4月を調整期間として過ごした野茂は開幕メジャー入りを勝ち取り、5月2日のサンフランシスコ・ジャイアンツ戦に先発登板することとなった。
そしてその日がやって来た。野茂は1回表の先頭打者・ルイスに内角低めのストレートを投じた。午後0時49分50秒、新しい歴史が始まりを告げた。メジャーリーグの重い扉はついに開かれたのだ。結局ルイスは2−2から5球目のフォークを見逃し三振、野茂はデビュー第1打者を見事に三振に斬って取ったのだ。しかしこの回は2死から3連続四球で2死満塁のピンチを迎える。だが野茂は6番・クレイトンをまたもフォークで空振り三振に仕留めて切り抜けた。
2回は下位打線を連続三振など簡単に料理。3回一死から2番・トンプソンに初安打を許すが、終わってみればこれが唯一の被安打。4回は四球1つを与えたが三人で終了。5回も11球で片付け2度目の三者凡退。ストレートは最速93マイル(約149キロ)を計測。5回で91球を投げ、100球前後を目途にしていたため予定通りの降板。打線の援護がなく、野茂は勝利を逃したが5回1安打7奪三振無失点の内容は勝利投手に値するものだった。
1回 | 2回 | 3回 | 4回 | 5回 | ||
1 | ルイス | 三振 | 中飛 | 右飛 | ||
2 | トンプソン | 一飛 | 左二 | |||
3 | ボンズ | 四球 | 左飛 | |||
4 | ウィリアムズ | 四球 | 三振 | |||
5 | ヒル | 四球 | 四球 | |||
6 | クレイトン | 三振 | 中飛 | |||
7 | フィリップス | 三振 | 三振 | |||
8 | マンワーリン | 三振 | 三振 | |||
9 | ポーチュガル | 捕邪 | 中飛 |
その後も好投を続けたが、5月一杯の野茂は勝ち運に恵まれなかった。しかし、そのツキのなさも6月に入ると一変する。2日のメッツ戦に8回を投げ1失点で待望のメジャー初勝利。すると7日のエクスポズ戦、14日のパイレーツ戦、19日のカージナルス戦にも勝って4連勝。特にパイレーツ戦では8回で16個の三振を奪い、チームの新人奪三振記録を更新するドクターKぶりを見せつけた。パイレーツには5月17日にも7回で14三振を奪っており、2試合15イニングで30奪三振の荒稼ぎだった。
そして24日のジャイアンツ戦。デビュー戦以来の対戦だったが、野茂の右腕は冴え渡った。2安打13奪三振とジャイアンツ打線を寄せ付けずメジャー初完投を初完封で飾った。続く29日のロッキーズ戦でも6安打13奪三振で2試合連続の完封勝利を挙げた。これで6月は負けなしの6連勝、防御率も0.89と抜群の数字をマークして月間MVPに輝いた。もう誰も「野茂は大リーグで通用しない」などと言わなくなった。
この活躍で野茂はオールスターにも選出された。しかもナ・リーグの先発投手の大役を任された。7月11日、テキサスのザ・ボールパーク・オブ・アーリントン。野茂はオールスターゲームの栄光のマウンドに上がる。先頭のロフトンをフォークで空振り三振、続くバイエガにはライト前に運ばれたが、3番・マルチネスはまたもフォークで空振り三振に仕留めた。
2回も4番・トーマスを直球勝負でキャッチャーファウルフライ、5番・ベルを空振り三振、そして6番・リプケンをライトフライに打ち取った。2回を投げて1安打3奪三振の無失点に抑え、その実力を見せ付けた。
オールスター後の初登板となった15日のマーリンズ戦も3安打10奪三振で完投勝利。4試合連続の二桁奪三振で7連勝を飾った。8月5日、最早お得意となったジャイアンツ戦では7回二死からの内野安打1本に抑えて1安打完封の9勝目。
15日のカブス戦では初めて二桁安打を浴び、18試合ぶりに自責点4を記録する苦しい投球。しかしモンデシーの逆転満塁弾など打線がパックアップして区切りの10勝を達成した。
その後は調子を崩して20日のメッツ戦、25日のフィリーズ戦と大量失点で初の連敗を喫する。31日のメッツ戦では勝利投手は逃したが8回途中まで2安打11奪三振の力投を見せ、不振から抜け出した。
そして、9月12日のカブス戦では8回を1失点、しかも無四球の内容で約1ヶ月ぶりの11勝目を手にした。
24日のパドレス戦では自ら同点打を放つなど投打に活躍して12勝目。そしてシーズン最終登板となった30日のパドレス戦では優勝がかかる一戦だった。野茂は11回目の二桁奪三振となる11三振を奪い13勝目。ついにドジャースはワールドチャンピオンとなった1988年以来、7年ぶりの地区優勝を果たした。
その後チームはプレーオフで敗退したが野茂は236奪三振で奪三振王となり、見事にナ・リーグの新人王にも選ばれた。防御率も2.54という素晴らしい数字で2位。リーグ内で2点台以内は野茂も含めてわずか3人だけ。スト明けでファン離れが心配されたメジャーリーグを救った救世主とも言われた、野茂英雄のトルネード旋風が吹き荒れた1年だった。
相 手 |
勝 敗 |
投 球 回 |
安 打 |
三 振 |
四 死 球 |
自 責 点 |
相 手 |
勝 敗 |
投 球 回 |
安 打 |
三 振 |
四 死 球 |
自 責 点 |
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5月2日 | SF | 5 | 1 | 7 | 4 | 0 | 7月20日 | FLA | 8 | 4 | 9 | 2 | 2 | |||
5月7日 | COL | 4 2/3 | 9 | 7 | 2 | 7 | 7月25日 | HOU | ●7勝2敗 | 4 | 4 | 1 | 2 | 3 | ||
5月12日 | STL | 4 | 0 | 5 | 7 | 1 | 7月30日 | CIN | ○8勝2敗 | 8 | 5 | 11 | 0 | 1 | ||
5月17日 | PIT | 7 | 2 | 14 | 4 | 0 | 8月5日 | SF | ○9勝2敗 | 9 | 1 | 11 | 3 | 0 | ||
5月23日 | NY | 6 | 8 | 7 | 2 | 3 | 8月10日 | STL | ●9勝3敗 | 8 | 6 | 7 | 3 | 2 | ||
5月28日 | MON | ●1敗 | 6 1/3 | 4 | 9 | 7 | 3 | 8月15日 | CHI | ○10勝3敗 | 6 2/3 | 11 | 7 | 3 | 4 | |
6月2日 | NY2-1 | ○1勝1敗 | 8 0/3 | 2 | 6 | 4 | 1 | 8月20日 | NY | ●10勝4敗 | 7 | 6 | 13 | 2 | 5 | |
6月7日 | MON7-1 | ○2勝1敗 | 8 | 6 | 4 | 4 | 1 | 8月25日 | PHI | ●10勝5敗 | 3 | 6 | 6 | 2 | 6 | |
6月14日 | PIT | ○3勝1敗 | 8 | 6 | 16 | 3 | 2 | 8月31日 | NY | 7 1/3 | 2 | 11 | 2 | 0 | ||
6月19日 | STL | ○4勝1敗 | 8 1/3 | 3 | 8 | 3 | 1 | 9月5日 | PHI | 5 | 3 | 7 | 3 | 1 | ||
6月24日 | SF | ○5勝1敗 | 9 | 2 | 13 | 3 | 0 | 9月12日 | CHI | ○11勝5敗 | 8 | 6 | 8 | 0 | 1 | |
6月29日 | COL | ○6勝1敗 | 9 | 6 | 13 | 2 | 0 | 9月19日 | SF | ●11勝6敗 | 5 | 7 | 3 | 5 | 6 | |
7月5日 | ATL | 7 | 2 | 10 | 5 | 1 | 9月24日 | SD | ○12勝6敗 | 5 | 3 | 2 | 3 | 1 | ||
7月15日 | FLA | ○7勝1敗 | 9 | 3 | 10 | 1 | 1 | 9月30日 | SD | ○13勝6敗 | 8 | 6 | 11 | 2 | 1 | |
191 1/3 | 124 | 236 | 83 | 54 |
野茂は翌96年も4月13日のマーリンズ戦で自己最多の17三振を奪うなど16勝を挙げた。特に9月17日にはロッキーズを相手にノーヒットノーランを達成。97年も14勝で3年連続二桁勝利をマーク。
98年途中でメッツにトレードされると、以後は99年ブリュワーズ、00年タイガース、01年レッドソックスと移籍を繰り返した。レッドソックスではシーズン初登板でオリオールズを相手に2度目のノーヒットノーランを達成した。両リーグでのノーヒットノーラン達成は史上4人目の快挙だった。
そして02年は4年ぶりに古巣ドジャースに復帰し、この年はメジャー自己タイの16勝を挙げチームの勝ち頭となった。4月26日のツインズ戦では日米通算150勝を達成。03年も2年連続の16勝に加え、防御率も1年目以来となる3.09という好数値をマーク。メジャー通算100勝も通過して114勝まで数字を伸ばした。また、日米通算3000奪三振も達成。いまやメジャーでの通算勝利、通算奪三振は日本でのそれを大きく上回った。今季、2年連続3度目の開幕投手として4月5日(現地時間)のマウンドに上がる野茂のトルネード投法は以前よりややコンパクトにはなったが、その輝きは少しも衰えていない。
年数 | 試合 | 完投 | 完封 | 勝利 | 敗戦 | 勝率 | 投球回 | 奪三振(奪三振率) | 自責点 | 防御率 | |
日本 | 5年 | 139 | 80 | 13 | 78 | 46 | .629 | 1051回1/3 | 1204(10.31) | 368 | 3.15 |
アメリカ | 9年 | 283 | 16 | 9 | 114 | 90 | .559 | 1787回1/3 | 1802(9.07) | 765 | 3.85 |
合計 | 14年 | 422 | 96 | 22 | 192 | 136 | .585 | 2838回2/3 | 3006(9.53) | 1143 | 3.62 |