ちょっとしたコラム      
              
 03.7.19付


阪神、21年ぶりのリーグ制覇成る

 1985年に阪神タイガースは21年ぶりのリーグ優勝を果たした。2リーグ制になってから3度目の優勝だったが、過去2度は共にチーム防御率両リーグ1位、対してチーム打率は同11位と完全な投高打低の優勝だった。だが、この3度目の優勝は防御率4.16の投手陣をチーム打率.285、チーム本塁打219本の打線が支えた優勝だった。防御率4点台の優勝チームは史上3度目だった。

 開幕直後にこの年の阪神を象徴するような試合があった。4月17日、甲子園球場では“伝統の一戦”と呼ばれる阪神−巨人の2回戦が行われた。優勝から20年間遠ざかっていた阪神は開幕カードの広島戦を1勝1敗で乗り切り前日の対巨人1回戦も10−2と大勝していた。この試合の先発は阪神が11年目の工藤。前年は7勝止まりだったが、82・83年は連続二桁勝利を挙げている。一方の巨人は4年目の若い槙原。この甲子園では相性が良く、83年4月16日に初登板初完封を飾るなど通算5試合で3勝1敗、防御率2.54と好投していた。

 この試合は初回に巨人がクロマティの1号2ランで先制。阪神もすかさずその裏に岡田のタイムリーで1点を返し2-1。その後は槙原・工藤の両先発が踏ん張り6回までスコアボードにゼロが並んだ。持ち味の粘り強い投球を続けていた工藤だったが、7回表に中畑の犠牲フライで追加点を許す。阪神には痛い3点目と思われた。

 そして7回裏。待望の追加点をもらった槙原の投球は微妙な変化を見せ始めた。8番・木戸からの下位打線だったが、その木戸がいきなりセンター前にヒットを放つ。投手・工藤の代打・長崎は打ち取ったものの、1番に帰って真弓に四球。2番・弘田はレフトフライで二死となったが、打順はクリーンナップへとつながった。
 走者2人を置いて打席に入ったのは3番のランディ・バース。1−1からの3球目はシュート回転で打ち頃のコースに甘く入った。バースの打球はセンターバックスクリーンに低い弾道で飛び込む逆転3ランとなった。試合は4−3と阪神が引っ繰り返して逆に1点をリード。

 そして続く4番・掛布もセンターに高々と打ち上げる。これはバックスクリーンすぐ左のスタンドに飛び込む追い打ちのホームランとなった。連続ホームランで阪神のリードは2点。マウンド上の槙原は茫然自失、まさに放心状態だった。続く5番の岡田は0−1からのスライダーを狙い打ち、これまた打球は弧を描いてセンターへ。岡田の打球はバックスクリーンのやや右側に飛び込んだ。3者連続ホームランのうちバックスクリーンに飛び込んだのは正確にはバースと岡田の2本である。しかし、3本続けてセンターを守るクロマティの頭上を越えていったのは紛れもない事実。世に言う「バックスクリーン3連発」はこうして誕生した。クリーンナップの三者連続ホームランでスタンドは騒然。7回裏の攻撃が終わった時にはスコアは6−3、巨人の2点リードは逆に阪神の3点リードとなり、俗に言うダブルスコアとなっていた。

 しかし、試合はこれだけでは終らなかった。9回表の巨人の攻撃が始まった。8回に続いてマウンドに上がった左腕・福間からクロマティ、原が連続ホームラン。3番・4番の連続ホームランでたちまち1点差となり、打席には5番・中畑。阪神のクリーンナップが3者連続本塁打のあとに巨人のクリーンナップも3連発で追い付くのか?しかしここで救援に立った中西清起は後続を3人で断ち切り、プロ入り初セーブを挙げる。中西はこのセーブをきっかけに年間30セーブポイントをマークしてチームの優勝に大きく貢献する事となる。

 前日の1回戦も河埜の落球をきっかけに10−2と大勝していた阪神はこれで対巨人1・2回戦を連勝。勢いに乗って4月18日の3回戦も11−4と再び大勝した。3連戦3連勝、終ってみれば阪神の勢いばかりが目に付いた3試合であった。結局、この勢いは最後まで衰えることなく阪神の快進撃は続くのである。

<4月17日・阪神-巨人2回戦>
巨人 2 0 0 0 0 0 1 0 2   5
阪神 1 0 0 0 0 0 5 0   6

 強力打線で他チームの投手陣を粉砕する阪神は巨人、広島と三つ巴の優勝争いを続けた。厳しい戦いが続いたが、巨人が9月上旬の大洋戦に3タテを食って脱落。同じ時期に直接対決をした阪神と広島は阪神が2連勝して広島を突き放した。これで優勝に大きく前進した阪神は9月10日からは巨人を3連破したばかりの大洋を逆に3タテして、さらに勢いに乗った。

 順調にマジックを減らした阪神は10月16日のヤクルト戦を迎え、ついに「マジック1」にこぎつけていた。勝つか引き分ければ優勝という状況で試合は始まった。
 6回表に阪神は2点を勝ち越したが、その裏すぐに4点を奪われヤクルトに2点のリードを許した。しかし、シーズン中に少々の失点を跳ね返す逆転劇を何度もやってのけていた阪神ナインに2点差は小さいものだった。

 試合は進み、2点を追って9回表の阪神の攻撃が始まった。ヤクルトのマウンドを守るのは逆転直後の7回から登板していたエースの尾花高夫。尾花は7回、8回と阪神の攻撃を無得点に抑えていたが、阪神打線の底力は尾花でも止められなかった。9回表の阪神は先頭の4番・掛布がいきなりレフトポール直撃の39号ソロで反撃の口火を切る。続く5番・岡田も大声援の中、センターオーバーの二塁打。途中から6番に入っていた北村がきっちり送って一死三塁。ここで7番・平田に代わって代打・佐野が打席に送られた。優勝を懸けた試合にスタメン落ちした佐野だったが、ここは犠牲フライでしっかりと自分の仕事を果たした。ついに5−5の同点となった。

 こうなるとロードながら球場はもう優勝ムード一色である。阪神はその裏から中西をマウンドに送り、その中西が2イニングをパーフェクトリリーフで抑える。最後の打者・角の打球は中西の正面に飛んだ。捕球した中西はひと呼吸置いて満面の笑みを浮かべながら一塁へ送球。一塁手の渡真利がボールをつかんだ瞬間、阪神タイガースの21年ぶりとなるリーグ制覇が決定した。すでに、今から18年前の出来事となった。当時の優勝を経験した現役選手はチームにはもう誰もいない。この年の阪神が記録した219本塁打は今でもセ・リーグ記録として残っている。

<10月16日・ヤクルト-阪神24回戦>
阪神 0 0 0 1 0 2 0 0 2 0   5
ヤクルト 0 1 0 0 0 4 0 0 0 0   5

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