ちょっとしたコラム      
                
03.8.2付


夏の甲子園大会記念特別編
1998年横浜高校の夏、松坂大輔の夏(前編)

 1998年夏の第80回全国高校野球選手権大会で注目を一身に集めていたのは神奈川県代表・横浜高校だった。横浜はその年春の選抜大会に優勝しており、春夏連覇を狙う屈指の強豪チームだった。選抜でエースの松坂は5試合全てに完投し、うち3完封。3回戦の東福岡高戦では13三振を奪うなど45イニングで43奪三振、自責点はわずか4で防御率0.80の投球を見せていた。

<選抜大会の松坂の成績>
相手校 スコア 内容 安打 三振 四死 自責
2回戦・報徳学園 ○6-2 完投 9 6 8 2 2
3回戦・東福岡 ○3-0 完封 9 2 13 3 0
準々決勝・郡山 ○4-0 完封 9 5 7 2 0
準決勝・PL学園 ○3-2 完投 9 5 8 4 2
決勝・関大一 ○3-0 完封 9 4 7 2 0
合計     45 22 43 13 4

 勢いに乗る横浜は選抜大会後も春季神奈川県大会、そして春季関東大会を制して公式戦29連勝を達成して夏を迎えていた。松坂は県大会決勝こそ東海大相模に7回8失点と打ち込まれたが、関東大会では埼玉栄を5安打12奪三振で完封、同決勝の日大藤沢戦では延長13回を投げ抜きわずか2安打に抑え19奪三振の連続完封で見事な立ち直りを見せた。チームの、そして松坂の照準は春夏連覇にピタリと向けられていた。

 夏の県予選も圧勝だった。組み合わせにより7試合又は8試合を勝ち抜かなければならない神奈川大会だったが、この年は全国大会が80回記念大会のために東西2地区に分けて地区予選が行われた。そのため甲子園切符を掴むには例年より楽な状況だったが、そうでなくとも楽に勝ち進んだろうと思われるほど横浜の強さは際立っていた。

 初戦の対神奈川工戦が6−0だった以外は全て10点差以上付ける横綱相撲。3回戦・対浅野高、10−0で6回コールド。4回戦・対武相高、10−0で5回コールド。準々決勝・対鶴見工、12−0で7回コールド。準決勝・対横浜商大、25−0。そして決勝・対桐光学園、松坂が初失点を記録したものの完投して14−3で勝ち甲子園行きを決めた。準決勝以降はコールドの適用がないため9回まで行われたが、そうでなければ5連続コールドで甲子園に行くところだった。予選での松坂は4試合で24イニングを投げ25奪三振、防御率1.13の好成績だった。まさしく県内では向かうところ敵なしの横浜高校であった。そしてその勢いは甲子園に乗り込んでからも続いた。

<東神奈川大会予選の松坂の成績>
相手校 スコア 内容 安打 三振 四死 自責
2回戦・神奈川工 ○6-0 救援 1 0 2 0 0
3回戦・浅野 ○10-0 登板なし - - - - -
4回戦・武相 ○10-0 先発 5 2 6 0 0
準々決勝・鶴見工 ○12-0 登板なし - - - - -
準決勝・横浜商大 ○25-0 完封 9 7 8 2 0
決勝・桐光学園 ○14-3 完投 9 5 9 6 3
合計     24 14 25 8 3

 甲子園での初戦の相手は大分・柳ヶ浦高だった。試合は7回まで2-1と横浜がわずかなリードを保つ展開だったが、8回裏に一挙に4点を奪って試合を決めた。松坂は制球を乱して6四死球を与えたが、球威は十分で9個の三振を奪い散発3安打の1失点(自責点0)で完投勝ちした。

柳ヶ浦 0 0 1 0 0 0 0 0 0   1
横 浜 0 1 0 0 1 0 0 4   6

 2回戦は初戦でノーヒットノーランを達成した左腕・杉内を擁する鹿児島実業と当たった。試合は予想通りに投手戦となって5回まで0-0。6回に横浜は機動力で杉内を揺さぶった。先頭の小池が四球で出塁すると2番・加藤がきっちりバントで送り、さらに小池は三盗を成功させた。ここで3番・後藤がセンターへ犠牲フライを打ち上げて、横浜はノーヒットで1点を先行した。そして8回、ついに杉内が崩れ松坂の2ランなどで横浜が一挙に5点を奪い試合を決めた。松坂は1回戦とは違い制球も冴え、わずか108球で5安打無四球9奪三振の完封勝ちを収めた。直球のスピードは夏の甲子園史上最速となるMAX151キロを計測していた。

鹿児島実 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0
横   浜 0 0 0 0 0 1 0 5   6

 3回戦は石川・星稜高との対戦。打線は初回にいきなり1番・小池が先頭打者本塁打を放ち先制すると、3回には相手の失策絡みで2点を加えた。5回にも柴と常盤のタイムリーでさらに2点を追加した。結局7安打ながら、好機を着実に得点に結びつけて星稜の先発・米沢から5点を奪った。松坂は今度も4安打13奪三振と相手を寄せ付けず、2試合連続の完封勝利をマーク。横浜はベスト8へ進出し、エース松坂は27イニングで被安打12、奪三振31、防御率0.00と好調そのものであった。

星 稜 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0
横 浜 1 0 2 0 2 0 0 0   5

 そして準々決勝で西の横綱、大阪・PL学園と激突した。PL学園は松坂の、そして捕手・小山の癖を徹底的に分析して球種を割り出していた。2回の松坂はPLの9番・松丸にセンターオーバーの二塁打を浴びるなど3点を失った。横浜も4回に5番の小山がレフトスタンドに2ランを放ち反撃に出る。その裏1点をPLに奪われるが、横浜は5回にも再び2点を取って4-4の同点とした。
 5回、6回とゼロら抑えた松坂だったが、7回に1点を奪われ勝ち越しを許す。8回からPLは先発の稲田に代え、エース・上重を投入して逃げ切りを図った。しかしこの回、二死二塁からまたも小山が打った。セカンド左を破るセンター前へのタイムリーヒット。5-5、再び同点となり試合は延長戦に突入した。

 11回の表、横浜は柴のセンター前タイムリーで1点を取り、この試合初めてのリードを奪った。だがPLも食い下がる。その裏一死二塁のピンチを背負った松坂は4番・古畑を三振に取り、ツーアウトに漕ぎ付けた。しかし、続く5番の大西には初球を狙われて三遊間を破るレフト前タイムリーを打たれ、6-6の同点となり試合はさらに続いた。13回に入って松坂の投球数は200球を超えた。
 16回の表、横浜は再び1点を勝ち越した。今度こそ、と思われたがPLの粘りは試合をまたも振り出しに戻した。16回の裏、一死三塁でPLの3番・本橋はショートゴロ。一塁への送球を見てから三塁走者がホームに突入した。慌てた一塁手の後藤が本塁へ悪送球して7-7の同点、試合はついに17回に突入した。

 2番手だった上重も11イニング目となり、投球数もすでに先発・稲田の78球を大きく超えていた。その17回表に常盤の2ランが飛び出し、横浜が初めて2点のリードを奪う。3度目の正直、その裏のPLの攻撃を松坂は三者凡退に抑えてついに難敵を振り切った。松坂は17回を一人で投げ抜き、被安打13・奪三振11・四死球6・失点7で投球数は250球に達していた。こうして横浜高校は大苦戦の末に準決勝進出を果たしたのである。

横  浜 0 0 0 2 2 0 0 1 0 0 1 0 0 0 0 1 2   9
PL学園 0 3 0 1 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0   7

(後編に続く)

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