昼下がりのお戯れ
「それにしても、、、」
さっきからオリヴィエは、自分の執務室から見える公園の噴水の傍に佇む水の守護聖を眺めていた。
「なーんて綺麗なコなんだろねぇ。オリヴィエ様の五感が疼くのよね。。。」

何を思い立ったのか、オリヴィエはきびすを返すと自分の執務室を後にした。
 

「は〜い☆こんにちは。リュミエールっていったけね。」
「おや、あなたは・・・オリヴィエですね。ごきげんよう。」
リュミエールは、振り返るとにっこりと笑った。さっき遠目から見ていた時の、憂いた表情はもうなかった。
「ねえ、あんたはいつから守護聖やってるの?」
2人で噴水のほとりに並んで腰掛ける。リュミエールからは、かすかに薔薇の香りがたちのぼっている。
「わたくしも。。。ほんの最近就任したばかりなのです。」
「ふーん。」
リュミエールの表情がちょっと曇った様に見えた。憂い顔の原因は、ホームシックって所だろうか・・・
「ねぇ、あんたとは歳も近いし、仲良くやってきたいなって思ってるんだ。」
「ええ。わたくしの方こそ、よろしくお願いいたします。」

きっと知らない人が彼らが並んでいる様子を見たら、ナンパせずには居られまい。
まるで舞台衣装のまま六本木に来た宝塚の娘役と、以前お立ち台で男共をブイブイ言わせていたイケイケお姉ちゃんの様である。
もちろん、この場合どっちがどっちなのかは皆様のご想像にお任せ致します (くすっ)

それはさて置き。
オリヴィエが聖地にやって来て最初の金の曜日の夕方。
オリヴィエはここの所毎日の様に水の守護聖の執務室を訪れていた。
ここに来ると、執務室には行きづらい闇の守護聖とも面識が出来るので、新参者のオリヴィエとしても結構便利だった。
しかし、水の守護聖の元を訪れる最大の理由は、単に彼の美貌を鑑賞したいという不純極まりない事である。
今日も、3時を見計らって何となく彼の元を訪れてみた。

トントン

ノックをする

「お入りになって下さい。」
リュミエールの小さな声が聞こえてきた。

ドアを開けるとそこに居たのはあの、自前で充分眩しい光の守護聖だった。
「あらん、ここでお会いするなんて珍しいじゃない。ジュリアス。」
オリヴィエが自慢のアクセサリーをチャラチャラ鳴らしてズカズカ近づいていくと、ジュリアスは嫌そうな顔をする。
「そなたは・・・頻繁にリュミエールの元を訪れていると聞いたが・・・この者まで騒々しくしようとはもはや考えてはいまいな?」
確かに、ヒカリモノちゃらちゃらなリュミエールは、ちょっと想像したくない・・・
「ま、随分じゃない。私が何時騒々しかったって言うのよ。自分だって充分・・・もごもが
リュミエールに口を塞がれるオリヴィエ。
「ジュリアス様。オリヴィエはわたくしにとても親切にして下さってますよ。」
本当に嬉しそうにリュミエールが言った。そんな彼に、私はあんたのが好きなの、とは死んでも言えないと思うオリヴィエ。
「そうか、そなたも就任して早々クラヴィスにばかり気を遣っていては身が持たぬと心配していたのだが、歳の近いオリヴィエと親しくするならその方がそなたの身の為かも知れぬ。しかし・・・」
ジュリアスは一瞬顔を曇らせる。
「リュミエール。そなた自身は真面目で職務にも忠実であるのに、何故付き合うものを選ばぬ?」
ジュリアスは、体のいい言葉を選んではいるものの、要するに
クラヴィス派なんて許さぬ。おまえもオスカーとつるんで自分の腹心になれ
と言いたいだけなのだ。あぁ、なんとなく腹黒い。
「いえ、わたくしはみなさんと仲良く出来ればそれが嬉しいのです。」
明らかにクラヴィス派のリュミエールにそんな事を言われたジュリアスだったが、何故か水の守護聖のこの言葉には説得力がある。
「そうか・・・先の件は頼んだぞ。」
そう言い残すと、ジュリアスはつかつかと水の守護聖の執務室を後にした。
 

「ねーぇ、先の件ってなあに?」
オリヴィエはリュミエールの執務机に寄りかかるとリュミエールにそう尋ねた。
「ええ、今度の日の曜日は女王陛下の聖誕祭なのです。当然宮殿では祭典が催されます。わたくしは聖誕祭は初めてなのでどんなものなのかは判りませんが、オーケストラが入るのでその指揮者をやる様に頼まれました。」
「へぇ、聖誕祭、か。でも、何であんたが指揮者をやんなきゃなんないの?」
「それは、わたくしが音楽をたしなむからではないでしょうか。」
「あ・・・」
たしなむ、何てモンじゃない。オリヴィエは、リュミエールが音楽家として宇宙中に名を轟かしていた事を今更思い出した。
彼の曲は『ヒーリングメロディー』として大衆の心を癒しているのだ。
「じゃあ、あんたが作った曲を演る訳ね。」
「ええ。”澄み渡る清き流れの中に”だそうです。」
それはリュミエールの数ある曲の中では代表作の部類に入るものだった。
「ふうん。さすがジュリアスね。」
「いえ、陛下が所望されたそうです。」
「ええー!凄いじゃない。陛下、あんたの曲好きなんだー。」
「光栄な事です。」
しかし、リュミエールはあんまり嬉しそうではなかった。
「・・・?どうしたのさ、しけた顔しちゃって。」
「いえ。何でもありません。」
その時、オリヴィエの脳裏に彼の比類無き煩悩の渦が押し寄せた。
「ねぇ、私にも協力させてよ。」
オリヴィエは自分の思い付きに、心踊る気分だった。
 
 

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翌日、リュミエールの私邸にオリヴィエの姿があった。
オリヴィエが申し出たのは、オーケストラで自分も演奏をしたいという事だった。
「今日の午後2時から、オーケストラとの音合わせがありますから、その時に話してみましょう。それにしてもオリヴィエ。」
リュミエールは微笑みながらオリヴィエを見た。
「あなたはあの曲を弾くことも出来るんですか?」
「もっちろんよォ。これでも私、あんたの作った曲のファンなんだからねっ。」
オリヴィエがそう言うとリュミエールは子供の様に声をたてて笑った。彼のハートはもう、GETしたようなものだ。
「で、楽器は何を?」
「リュミちゃんは、何弾いて欲しい。」
「え?わたくしが決めてもよろしいんですか?じゃあマラカスを・・・」
「こら!リュミちゃんたら!」
二人はケラケラと笑った。最もオリヴィエは自らの野望の達成に向け、勝利の高笑いをしていただけなのだが・・・
 

結局オリヴィエはチェンバロを担当する事になった。
「オリヴィエは何でもこなせるので驚きましたよ。」
流石にオーケストラで得意のマンドリンを披露する事が出来ないのだけが残念だったが、今回オリヴィエは、他にも自分の才能を披露することが出来る野望を抱いているので、ご満悦だった。
「では、1回合わせてみましょうか。」
指揮台の上でタクトを構えるリュミエール。思ったとおり、彼は正装で指揮者を務めるつもりだ。
バンマスの隣で、オリヴィエはさっきから口元の緩みを一生懸命押さえていた。
勢い良くタクトが振られた。

ジャン♪

流石「王立フィルハーモニー」いきなりオリヴィエが加わっても、指揮者が作曲者のリュミエールでも、動揺の色も無く一発で音を合わせる。
まさに、流れる様に、フルで弾き通してしまう、リュミエールも嬉しそうだ。
「ねえねえ、ちょっと聞きたいんだけどさあ。」
オリヴィエがバンマスに話しかける。
「やっぱり指揮者っていったらタキシードよね。」
「・・・普通はそうなんですが」
「あの、もさもさひらひらの守護聖ルックでタクト振られて、私気が散ったんだけど皆さんは?」
「!オリヴィエ・・・」
リュミエールはぽかんとオリヴィエを見た。
「いえ・・・私達は・・・」
バンマスは否定しようと口を開く。すかさずオリヴィエがわめく。
「そうなんだー!やっぱりー!ねえ、リュミちゃん。バンマスもリュミちゃんに指揮者らしい格好して欲しいって。」
「はあ。」
リュミエールは、一体何が我が身に起こったのかイマイチ判ってない。
「きっまりー。私がちゃんと、あんたを一人前の指揮者に仕立ててあ・げ・る☆」
・・・リュミエールは一応、指揮の腕はプロなんですが・・・
 

場所はオリヴィエの私邸。
「んふふ・・・やったわ。ミッション成功☆ミこれでリュミエールを麗しくしたてて・・・」
・・・と、にやけ顔で呟くオリヴィエは、オーケストラとの音合わせが終わるや否や、仕立て屋を私邸に呼んだ。
「ふふふ。これであの、眩しさ天然男に、私の美的センスを認めさせてやるぅ。」
つまり、自分の就任の儀のリターンマッチ、という訳。リュミエールは良い迷惑だろうに・・・
 

そして日の曜日が遂に訪れた。
 

「リュミエールのオーケストラが式典の開幕を飾ると言うのに、一体何処に行ってしまったのだ!」
さっきからジュリアスはイライラとそこいら中をうろつきまわってる。
「・・・フ、騒がしい事だな。」
クラヴィスが自分を鼻で笑ったと気づいたとたん、ジュリアスの血圧は一気に下120上200に跳ね上がった(死んでしまうぞ、おい)
「何を言うか!今日がどのような日か知っての発言か!」
「・・・知っている。あの者が見事な演奏を収めてくれる事も・・・麗しい・・・
その次の言葉は飲み込んでしまうクラヴィス。
「まあ、落ち着け。もっと後輩を信用したらどうだ?」
カティスがジュリアスの肩をたたく。ジュリアスは、緑の守護聖には弱いのであった。
 

宮殿の一室に設けられたリュミエールの控え室。リュミエールは朝早くからここにずっと閉じ込められていた。
「はい。目、閉じて。ちょっと、動いちゃ駄目よ。」
扉には「立入り禁止」と書いた紙が貼られている。
 

「スタンバイ願います―」
立入り禁止ルームに声が掛かる。
「オリヴィエ。本当にわたくし、これで陛下の御前に?」
「そうよん。リュミちゃん。ス・テ・キ☆」
オリヴィエ会心の作は、苦笑いを浮かべた。

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