昼下がりのお戯れ
「んっふっふっふ・・・」
さっきから鏡の前で満足そうに微笑んでいるのは、何を隠そう、就任したての夢の守護聖オリヴィエである。

「まったく、コスチュームを自由にオーダーして良いなんて☆女王陛下も粋な計らいだねぇ」
シルクやサテンの光る素材が、所狭しと部屋中に散らばっている。
鏡台の上には、ラメのメーク用品・・・これらは全て、昨日オリヴィエがコスチューム用にオーダーした物だ。
「さあて、そろそろ謁見の間に行く時間だね。」

これから、謁見の間において夢の守護聖の着任の儀がある。
オリヴィエにとって、初の晴れ舞台である。この機会に、女王陛下を始め、守護聖全てに自分の美貌をきちんと認識させなければ・・・

「やぁーぱり、自分が『これ以上ない』って思う位、ファッションをビシッとキメられた時って、気持ちが引き締まるって言うか〜」

銀のブレスレットがしゃらしゃら鳴る。衣装の布地をひらひらとなびかせ、肩で風切って宮殿へ向かう。気分は爽快

「夢の守護聖をこれへ・・・」

女王陛下の厳かな声と共に、謁見の間の扉がゆっくりと開く。
オリヴィエの視界に先ず、女王陛下の重々しい姿と、補佐官の楚々とした姿が飛び込んできた。

「ふーん、まあ、まあ、かな?」

ゆっくりと前へ進む。斜め前の、ターバンを巻いた地の守護聖が目に入る。

「・・・問題外ね。この場合。」

オリヴィエは、彼が故郷の装いを踏襲している事を見て取った。彼はこちらを見て穏やかに微笑んだ。
続いて、彼の正面に居る壮健な緑の守護聖に視線をくれた。

「んー、自分のキャラクターに合った装いしてるじゃない。」

彼は、オリヴィエと視線が合うや、そっと親指を立てて見せた。
続いて、横に居る風の守護聖。切れ長の眼をしたクールそうな雰囲気に、サテンのショールが良く似合っている。

「あらん。なかなかかっこいいじゃない♪」

彼は白い歯を見せて、オリヴィエに対して笑顔を作った。
その正面には、こちらにウインクをする、お調子者風の鋼の守護聖が居た。服装は面白味の無いアイビールック。

「・・・好みじゃないわ。」

そしてその横に立っている少年・・・オリヴィエはハッとした。丁度自分と同じ年頃の水の守護聖。

「おとなしそうだけど・・・綺麗なコね。」

彼は伏目がちにこちらを見、会釈をした。細そうな髪がさらさらと流れた。
その正面に目を向ける。紅い髪の少年・・・彼も自分と同じ位の歳なのだろう・・・と、バチッと目が合った瞬間、

げっ・・・」

炎の守護聖の口からは、オリヴィエにとって信じられない感嘆詞が飛び出していた。

「ぬぬぬぬ・・・ぬわんですってぇぇぇぇぇ」

内心、ハラワタ煮え繰り返りながら、オリヴィエは炎の守護聖の顔を思いっきり睨み付ける。
炎の守護聖は、尚もあっけに取られた表情でポカンとオリヴィエを見ている。

「何さ何さ!!」

彼の事は取り敢えず無視する事にして、その横の、自分とは違う意味で眩しい光の守護聖を見る。
彼は・・・愕然とした表情でオリヴィエを見ていた。見ていた、と言うよりはこちらに視線を張りつけたまま、固まっていた・・・と言った方が適切かもしれない。シルクの装束に金色が映えてかなり眩しい彼が、ようやく呪縛から解き放たれたかの様に、ゆっくりと口を開く・・・

「何だ!そなたの、その、金銀チャカチャカはっ!!!!」

背中に、真っ黒ないでたちの闇の守護聖の、かみ殺すようなこらえ笑いが聞こえていた。
 


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女王陛下の取り成しにより、着任の儀は、滞り無く終了した。

「あーあ、何で私のセンスがわかんないの?」
さっきから、オリヴィエはルヴァの執務室に来て憤慨している。ルヴァが、あの後早速オリヴィエを気遣って呼んだのだ。

「はぁ。まあ、あの方はいつもああいった感じなんでねー。気にしなくていいですよー。」
ルヴァは相変わらず、新参者のオリヴィエに、まるで10年来の親友の様に親しく微笑んでいた。
「でもさぁ、自分の方が数倍眩しいのに、人の事『金銀チャカチャカ』って、あれ、何よ。」

「あの方は眩しさを司ってますから〜」
のんびりとルヴァがそう言った時(↑おいおい)

「ルヴァ様、入ってもいいですか?」
バリトンの声と共に、先程の紅い髪の失礼な守護聖が入ってきた。

「おや、オスカーじゃありませんかー。どうぞ。丁度オリヴィエも来てますよー」
オリヴィエは、さっきまでルヴァに注いでいたのとは打って変わって気取った顔でオスカーを振り返る。

「・・・その麗しいお姿にもだいぶ慣れてきましたよ。一時はどうなる事かと・・・いや、ははは」
オスカーは爽やかに笑っている。ますますもってふとどきなヤツ。
自己紹介の時も、この炎の守護聖は、まるで物珍しい動物でも見るかのような顔をしていた。好奇の目。

「あんた、芸術ってもんがわっかんないんだねぇ。ちょっとは着飾って見たら?」
流石にオリヴィエ、多少の事にはびくともしないのだ。

「いや、俺は。。。レディが美しく身を飾る姿は大歓迎だが・・・あいにくとそういう趣味は無いんでな。」
オリヴィエの眉がぴくっと動く
「ふふん。そういう趣味?そういう趣味って何よ。」
「まーまー、お二人とも。初対面のうちから、どうやったらそんなに仲良くなれちゃうんですかねぇ。」
ルヴァも流石に止めなくてはと思ったらしい。

「時にオカマの守護聖殿。女性と男性のどちらがお好きですか?」
「オッ、オスカー!」
うろたえるルヴァ。明らかに面白がってるオスカー。事態は如何に?!
しかし、オリヴィエはいたって冷静だ。
「はい?私?そーねー、綺麗な人が好き☆かな。あんたみたいなガサツなのはちょっとねぇ。あと、あの眩しいヒト。。。」
「オリヴィエ〜。あの眩しい人は、一応光の守護聖なんですけどねぇ。」
「あんたは、さしずめヒカリモノの守護聖ってとこかな。」
「失礼しちゃうわね。人をしめ鯖みたいに!」
「はっはっは・・・邪魔したな。ルヴァ様。夢の守護聖殿。」

オスカーは、楽しそうに立ち去っていった。
「あ〜。彼は根は悪い人じゃないんですよ〜。彼なりに、あなたと仲良くなろうとちょっかい出してるんですよー。」
地の守護聖は、一生懸命オスカーを弁護している。しかし、オリヴィエもそんな事はとうに判っていた。判っていたから、本気で怒っているのではなく、ただ彼をぎゃふんと言わせてやりたいと考えていた。
「大丈夫よ。気にしてないわ。」
オリヴィエはルヴァにニッと笑いかけた。
 
 

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