「神の聖なる」

 

       Divine     Arf                          
 神聖闘機 seed 

 

 

 

第二話    「L−seed

 

 

モニターを背に顔を上に向けている一人の女性。

モニターには空に静かに佇む白と蒼の機体が映し出されている。

 

それはL−seed。

 

「良いのですね?」

長い黒髪の女性が自分の上にいる者に尋ねた。

 

 

その声は不思議と無感情で、その意味する所を見いだせなかった。

 

だが、その問いを受けた者はその意味を理解できたのだろうか、

彼女の視線を受ける一人の男の瞳には、

 

迷い

 

悲しみ

 

憤り

 

慈しみ

 

様々な感情が見えた。

 

黒髪の女性、サライは真っ直ぐな瞳を彼に向けた。

モニターでは、L−seedへの集中砲火の真っ最中であった。

モニターを見守る幾人かの者は、
動かない二人と動かないL−seedを心配そうに交互に見ていた。

 

L−seedの中のマナブの戸惑いが伝染したかのように、

サライに見つめられた男は動かなかった。

その口は決して開かないのではないかと思うぐらいにきつく締められていた。

 

男の容貌は意志が強い。

そんな印象を強烈に与える物だった。

四十代前半か半ばぐらいのその男。

良い男とは言えないが、その高い背とがっしりとした体つき、そして精悍な顔つきは、

優しさと言うほどではないが、包容力を感じさせた。

 

 

サライの視線を正面から受けた彼は、懐に入れたままの右手を動かした。

 

 

だらんと力無く垂れる右腕。

何か固い物を握っていたのだろうか?

血の気を失い真っ白になっていた。

 

男は何も答えなかった。

 

「いらえ」は無かった。

 

だがサライは理解した。

 

サライは初めて表情を崩した。

それはひどく不思議な表情だった。

 

どこか悲しげで、寂しげで・・・・・・・・・

 

それでいて・・・・・・・・

 

とっても嬉しそうで・・・・・・・・

 

微笑みとは言えないような、

でも微笑み以外の表情ではない物を浮かべ、

サライはモニターに振り返った。

 

 

「マナブ様、始めましょう。」

 

きっかけは、こうして放たれた。



マナブと呼ばれた青年。

彼の名は正しく、マナブであった。

 

彼のつぶやきの後に、
ゆっくりと白と蒼のArfは動き出した。

 

ひどく緩慢に、長い眠りから覚めようとしているかのように・・・・

彼に浴びせられる弾丸、レーザーに何の抵抗も感じないような動きである。

 

ゆらゆらと空中を漂う。

 

一見すれば、ダメージを受けて、中のパイロットが失神でも起こしているようにも見える。

だが、中の青年には何のダメージも見受けられない。

 

彼の行為は、「恐る恐る」その表現がピッタリな物。

 

強い力を持つ機械を初めて扱うときに、加減が分からないために、
おっかなびっくり動かす、そんな感じな物。

白と蒼のArfは、ふと止まった。

「φ」の兵士達は、その様子に訝しさを感じ、打つのを止める。

 

 

 

 

 

 

ガガーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!

 

一機のArfが前触れもなく、爆発した。

「なんだ!!」

兵士の一人が叫んだ。

隣で爆風を受けて倒れ込んだ兵士がそれに答える。

 

「分かりません!」

非常に簡潔で、分かりやすい答えだった。
ここに置いて、最も相応しい解答だ。

彼らが、地上に気を取られていたとき。

彼らの隊長だけは、非常に冷静と言えた。
さすが「φ」の隊長を務めているだけはある。

 

が、

彼が、素早く空中を見やったとき。

白と蒼のArfは既にいない。

 

当然の事であろう、

彼は、既に地上に降りて、

二機目の生け贄に、最初で最後の攻撃を加えようとしていたのであるから。

**********

「ヒィっ!」

喉から空気が掠れ抜けたような声を出し、兵士は見た。

 

自分のArfの性能を持ってしてでは絶対にかわせない早さで、巨大な剣が降りてくるのを。

 

地上に降り立った白と蒼のArf。

背についた奇妙な剣に左手をかける。

背から抜き放つ勢いのままに、マナブは剣を「φ」のArfに斬りつけた。

 

左手のみで放った一撃は、片手の攻撃でありながら、
「φ」の「Wachstum」を肩から斜めに真っ二つに切った。

並のArfでは、両手を持ってしても出来ないような攻撃。

 

「ぐあぁああああぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

コクピットの中で兵士は肩を抑えている。

押さえている手の隙間から血が滴り落ちる。

 

だが、不思議なことに服は裂けていない。

 

 

ビーーーーービーーーーーーー

 

既に限界を超えている機体は、パイロットに脱出を促す。

現在、Arfには全機に、完全な脱出装置が取り付けられており、
機体が限界に達すると同時に自動的に脱出されるようになっている。

 

だが、決して人命尊重の意識がそこに働いているわけではない。

ただ、Arfパイロットの貴重さ故の措置である。

戦争は「Arf乗り」のゲーム盤。

そんな言葉が囁かれている時代。

コマの替えは多くなかった。

 

「く、くそ!」

あまりに前触れも無しに発生したダメージに、Arfによる自動的な脱出がされなかった。

兵士は直ぐに手動で脱出を行おうとした。

 

 

が、その動きはあまりにスロー。

 

戦場に置いては、

いや、

このArfを前にしては、あまりにスロー。

 

「兵器と化した人は、全て消去する・・・・」

つぶやきは兵士に聞こえただろうか?

 

マナブの声はひどく冷静。

でも、その顔はとても悲しそう。

 

ヅゴッ

 

兵士は唐突に訪れた圧迫に、内臓を飛び散らせて潰された。

それが何なのか?

彼は知ることはない。

 

白と蒼のArfの残った方の右手であることを。

 

 

コクピットのあるArf下腹部、

もっともシオン含有率が高く、

Arfに置いて、

もっとも強固な部分。

 

 

それを意ともたやすく打ち抜くArf。

 

兵士は死んでも、その事実を信じれないだろう。

 

回りの彼の仲間も同様にして・・・・

**********

一瞬のうちに、間合いを詰め、左手の剣でArfを破壊。

その勢いのまま、右手でArf下腹部にあるコクピットを破壊。

右手が完全に相手を捉えると同時に既に、身体を滑るようにして後ろに下げる。

 

 

まるで人間の武道の達人、それも剣と拳の達人にしか出来ないような、
滑らかで無駄のない動き。

そして、強力な攻撃。

 

Arfと人。

その両方を一瞬で破壊したマナブ。

 

右甲部に、淡く光るナックルの様なものがひどく目立つ。

燃え上がる二カ所の炎に照らし出された白と蒼のArf。

 

より一層、特有の気高さと不気味さを際だたせていた。

瞳には、魂の宿っている光り。

全身を照らす赤は、まるで血のように。

 

「何なんだ?このArfは・・・・」

憎々しげなつぶやきの後、

 

「ん?」

 

隊長は、そのArfの胸に文字を認めた。

共通語で書かれたその文字は、

 

L−seed

そう読めた。

そして、それは彼が読んだ最後の文字。

 

 

ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!

 

NEXT STORY


次回予告

Arf、人の動きを模するモノ。

LINK−S、戦いを創るモノ。


後書き

長らく、お待たせしました。

白と蒼のArfの正体、ようやく判明です。

タイトルにあるように、これが「L−seed(エルシード)」です。

次回は、Arfの動力等の疑問が明らかになります。

ご意見、ご感想は掲示板か、こちらまで。l-seed@mti.biglobe.ne.jp

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