「神は慈悲深く・・・・」

 

      Divine     Arf                          
 神聖闘機 seed 

 

 

 

第一話    「罪を狩る者」

 

 

物語の幕開けの前にある二つの国の運命を語っておこう。

 

A・C・C 77年。

それは誕生と死の年だった。

 

その巨大な神の無慈悲の象徴「Artificial Life」が産まれた年。

そして、その兄弟「Arf」が完成した年。

 

そして・・・・・・・・・・・・


 

「シオンは人型で安定する。」

この絶対定理が発見されてから、シオンを発掘に伴う、
「EPM」の軍事的圧力は日に日に強まっていった。

 

それに反発していた衛星都市「カナン」

カナンは、各衛星都市の中心的役割を担っていた、そして、実際、ルナも衛星寄りの立場であったため、
カナンは宇宙において「EPM」についで力のある者だった。

 

あまりの「EPM」の弾圧に、カナンの指導者であった「カル家」は決断をする。

 

「シオン」を盾に、地球に、「EPM」に衛星都市と月の独立を迫ったのだ。

 

その強硬な手段に地球は困惑した。

いかなる外交も拒否した「カナン」は各衛星都市と共に結託、頑として独立を求めた。

もちろん、各衛星都市、月はこれを支持した。

バインVSルナの全面戦争

つまり、地球VS衛星都市、月の戦争が始まるに十分な状況であった。

 

「EPM」の軍事最高顧問ゴート=フィックらはこれを機に衛星都市、月を完全に隷属化すべしと叫んだが、
外交最高顧問であった法皇ら穏健派の強い要望もあり、
今一度、「カナン」の長年の友好国「アルファリア」に説得を試みさせた。

 

 

A・C・C 77年12月23日

「アルファリア」の使節団長、キッス国王の弟であるモンド=キッスはこう言った。

「私たちは、この地球の仲間と宇宙の友と月の兄弟に最高のクリスマスプレゼントを贈ることを約束します。」

 

皆、必死だった。

地球と宇宙との戦いは想像を絶する悲劇を産み出すであろうから。

凄まじい駆け引きと水面下での戦いの成果がこの日にあった。

 

「アルファリア」の使節団は「カナン」入りを果たす。

 

が、

 

全ては無駄。

 

全ては無意味。

 

全てはあまりに、あまりにも無意味だった。

 

A・C・C  77年12月24日

衛星都市「カナン」

衛星軌道維持システムの暴走により、

消失。

 

その日、世界中で流星という名の魂を見れた。

街の無知な人間はこのクリスマス、

聖夜の贈り物にはしゃいだ。

 

そして不幸はこれで収まらなかった。

この陰謀の臭いが十分に感じれる事件において、その一番の容疑者はもちろん「EPM」である。

しかし、「EPM」は世論が高まる前に、
「カナン」に訪問していた「アルファリア」使節団の陰謀であると公表したのだ。

その情報操作はまさに完璧だった。

 

そして、翌年、一月。

「アルファリア」を「EPM」は急襲。

そして、それに使われた兵器はもちろん、

あの「創られし命を持つ者 Arf」であった。

その数は少なく、その容姿は頼りなげであったが、

 

その成果は素晴らしかった。

 



 

辺りには硝煙の臭いが満ちている。

瓦礫はかつてその歴史と美の象徴として存在していたはずの多くのものを現していた。

 

動くものが何もないと思われていた筈のこの場所で、数人の人間が海岸を目指し這いつくばっていた。

 

「海岸に行けば、潜水艇があるはずです・・・・・そこまで行かなくては・・」

「分かっている・・・・・急がなくては!」

怪我をしていない人間はその中にはいないようだった。
彼らの着ている服の高級感がいっそう、煤けた風になっている様子を印象づける。

 

 

「エメラルド様大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」

 

初老の男の視線の先にはまだ幼い少女がいた。
その服は既にあちこちが破れボロボロ、だが少女はなんの苦痛もその顔には出さない。

 

「うん!だいじょうぶ!」

 

少女、エメラルドはその名が示すように、透き通るような淡い緑色の髪を持っていた。

黒い澄んだ瞳、若さゆえと言うわけではないほどに綺麗な肌。

どこかの神話物語の妖精のような雰囲気を持っていた。

またその容姿も、それに合わせて可愛らしく、

そして、彼女が成長すれば間違いなく、美しい女神になるだろうことを十分に予想させた。

 

「みんなこそだいじょうぶ?けがはない?」

 

その少女の言葉に周りの人間は表情を和らげる。

彼女の腕には包帯が巻かれている。

その怪我はこの小さな少女にとって決して、軽い物ではない。

だが、少女の笑顔は崩れない。
痛みなどでは決して崩れない。

 

少女は既に、笑顔と言葉で人を癒す術を知っていた。

 

比較的若い青年が彼女を優しく抱えると、彼らは海岸に向かっていった。

この幼い女神を護る為に。

 

エメラルド

 

 

エメラルド=キッス

 

 

幼いながら彼女は、

 

あまりにも、

 

あまりにも人に優しかった。



 

一つの国がたった四十八時間で滅んだ。

 

まさに「Arf」にとっての最高のデビュー戦だった。
これを見た各国がこぞって「Arf」開発、「シオン」入手に動いたのは言うまでもない。

 

「アルファリア」王国 キッス国王以下親族は全て「Arf」の誤爆により死亡したと報告された。

これを爆破した兵士はその裁判の前日、何者かの凶弾に倒れている。

故に真実はいまだに謎である。

 

ただ、「EPM」との利害が一致している強国(アメリカ、EU、日本、中国等)がその事について、
なんの調査も取らないことは当然のことであり、
真実が白日の下にさらされる日は来ることはないのかも知れない。


「アルファリア」の滅亡から二年後。

 

A・C・C 80年

ついに「Arf」はその生産工程を安定させる。

量産型Arf「Wachstum(ヴァクストゥー)」の完成である。

 

これを機に戦場でのArfの役割はより一層重要になっていった。

 

そして、A・C・C 81年

「EPM」に新たな機関が発足する。

 

EPM所属特別防衛機関「φ(ファイ)」の設立。

 

その初代総帥にはあのシャト家の青年。

猫の演出、時代の行く末を決めたと言われるあの演出を作りだした者。

 

ルシターン=シャトが就任した。

 

その若さは彼のカリスマを高める物になったにしろ、彼の評価を下げる物ではなかった。

 

金色の髪、蒼い瞳、すらりとした長い背、引き締まった肉体とその顔。

世のご婦人方を魅了して止まない素晴らしい容姿であった。

彼の顔は言ってしまえば、両性の魅力を持っていた。

決して弱い印象を与えるのではないが、線が細いというのだろうか、どこか女性的な印象を受ける。

しかし、その瞳に輝く者は彼がそれだけの者ではないということを、幼い子供にすら理解させるだろう。

 

Arfパイロット、俗にはArf乗りと言われる彼らを育成するため作られた訓練場において、
ルシターンの成績は常にトップであった。

だがそれ以上に、
彼が「EPM」に多大な資金援助をしているシャト家の者だったことも関係しているのだが、

彼は「φ」の総帥となった。

 

若きルシターンは若き「φ」を率いる指導者として確実にその地盤を固めていく。

 

宇宙でも変化がある。

それまでの小さなテロリストたちが一つにまとまり、
一つの組織として、そのテロ活動を活発化させていた。

 

月、衛星都市独立支援組織「ノア」である。

 

実際「φ」の設立はこの「ノア」に対抗するためだと言っても良かった。

彼らは全くの無差別テロを生業としていた。

しかもArfによる。

 

まさに典型。

手段が目的に、目的が建前になった組織の典型。

 

組織のリーダーは「ハーミット」そう呼ばれている。

この名の意味は「隠者」。

正に彼らにはお似合いの名だろう。

あくまで「隠れ潜む者」としての意味だが。

 

実際は、「隠者」が意味する物とノアの「ハーミット」では天と地ほどの差がある・・・・

 

しかし、物語のスポットは決してこの男に当たるのではない。

 

A・C・C 83年

独立支援組織「モーント」

非テロを掲げる彼らは、リヴァイ=ベヘモットという名の指導者の下、
外交手段で地球に独立をアピールした。

 

しかし、非テロを掲げると言うことは、裏を返せば、
彼らはルナの代表として、
いつでも正式に戦争を仕掛けると言うことを意味していた。

実際の所彼らが、本当にテロ活動を行っていないのかどうかは分からない。

現にこの時期から、地球でのテロは激化している。

声明も証拠も何もないためにその真偽は不明であるが。

 

 

これに伴い、A・C・C 85年頃より、

「φ」の権限は拡大され、「EPM」から離れ始めていた。

ただ「φ」の強さは、時代の流れによってではなく、
ルシターン自身のカリスマによる物が大きかった。

これを危惧する者は多い。

 

 

A・C・C 87年

全てが拡散していく、混沌化していく世界に一つの道を示そうとしたのだろうか?

それは現れる。

現れてしまう。

 



 

中国大陸

 

内戦が続く地帯。

辺りには硝煙と血の臭いが満ちている。

 

二人の首相が互いに互いを相応しいと思い続けている、
この戦争の終わりはまるで見えていない。

泥沼化したこの戦争を、「φ」が調停に乗り出してきていた。

 

AM 0:12

ドォオオオオオオオオオオオン!!!!!

 

凄まじい爆音と共に、基地の一角が吹き飛ばされる。

「敵襲!敵襲!敵襲!!」

連呼される叫びに、兵士達は次々と自らの武器を取り、
今もなお攻撃してくる一カ所に向かって迎撃し始めた。

 

しかし、その攻撃はたった一カ所から行われているのにも関わらず、移動していないにも関わらず。

その攻撃は決して休まることはなかった。

 

だが、ふと攻撃が休まる。

兵士達は訝しげに思いながらも攻撃の手を止めた。

 

空を見上げた一人の兵士が叫ぶ。

 

「い、いるぞ!!目の前に!!」

一斉にライトが照らされる。

 

そこにはその巨体をいつの間に動かしたのだろう。

兵士達の最前線から100メートルにも満たないところにそれは立っていた。

紛れもない、新型兵器量産型Arf「Wachstum」。

その肩には「φ」のマークが刻まれている。

 

「畜生!!ファイだ!!」

「Arfだ!Arfをだせ!!!!!早くしろ!!」

司令官の叫びが響く!!

彼らもそのかなり高価な兵器を買っていた。

それを買わなければ、国の難民の半分以上を救える程高価な品物。

Arf、既に戦争の花形となりつつあったそれは、その数が国力の評価になると言っても過言ではなかった。

 

次々にパイロットが乗り込み、立ち上がるArf。

手にした巨大な銃を持ち、打ち始める。

 

その一発、一発でどれだけのものが失われているかも分からずに。

 

戦いはいっそう、激しくなっていく。

 

 


「・・・・「アル・イン・ハント」・・・・・・・発動します。」



 

幾つものシナリオが同じ時に存在してしまった不幸を人類は実感する。

それは神の名を冠した人造体の、

神の御業(みわざ)による裁きなのかも知れない。

 



 

A・C・C 87年

 

中国大陸 某国

 

「φ」の奇襲から始まったこの戦いは、終始「φ」が優勢だった。

だが、それは至極当たり前のことなのだ、

「φ」の兵士はArfに乗るために育成されてきたエリート集団である。

そして、元来Arf自体が貴重な物であるために、
それを多数有する「φ」は一国以上の軍事力を「EPM」ではなく「φ」のみで所持していた。

しかも、先に述べたように、エリートパイロット達で編成されているのである。

彼らにとっては、勝利こそが日常であり、それ以外を知らなかった。

 

**********

 

「隊長、これは演習ですかぁ?」

φの兵士が気の抜けた声で尋ねている。

口調は確かにここが戦場と思っていないのではないかと思うほど、緊張感に欠けたものであったが、
その攻撃は正確に敵の砲台、Arfにダメージを与えていた。

 

 

「演習よりも楽だな。」

「まったく。」

「こんな事ばっかりやってたら、腕がなまるぜ。」

「はは、おまえの腕がなまってるのはいつものことだろう?」

「なにおぉ!」

回線に何人かの兵士が入り、無駄話をしている。

 

だが、そうしている間も、彼らの手によって、武器は次々に爆発していった。
そして、人の命も次々にかき消えた。

人間の死を前にしている者たちとは思えないほどに躊躇もなく、まるでゲームでもするかのように。

 

φの隊長が部下の緊張感のなさに、注意を促した。

「おいおい、止めとけ、戦闘中だぞ。敵さんの相手もしてやんないとな。」

隊長自身も、勝利に慣れすぎているのだろう。

その口調はあくまでも義務的だ。

 

Arfの基本装備は、レーザーガン、レーザーソードである。

レーザーソードは常に腰部に柄のみの状態で装備されている。

使うときに、レーザーをオンにすることによって、刃であるレーザーが現れる。

背部に取り付けられている盾は近接戦闘には邪魔になるために、取り付けていない者も多い。

 

戦場は「φ」の独壇場だった。

その日は綺麗な月が出ていた。
静かな夜であれば、上を見上げて、心を安らかにする者もいただろう。

だが、今は誰もその月の美しさを知ろうとしなかった。

φは命を散らすことに狂喜し、
φと戦う者はその命を散らしていくことに急いでいた。

 

**********

 

たった一人、

たった一人だけ、見ている者がいた。

 

φの砲撃にやられ、下半身が吹き飛んだある兵士。

強烈な痛みは死という偉大な静寂の前に沈黙し、その兵士は静かに横たわっていた。

その耳には、何も聞こえない、叫びも、泣き声も、あらゆる音が聞こえない。

 

ただ静かに最後に見る景色を決め、瞬き一つせずにそれを見つめていた。

その顔は血を失い、青白い。

死神が彼に微笑みかけているのが感じられる。

 

 

兵士の目がゆっくり、ゆっくり閉じられる。

死神の暖かな安らぎを感じて。

 

彼が最後に見た物は何であったのだろう?

 

 

 

「・・・・来て・・・下さったのですね・・・父なる神よ・・・」

 

 

つぶやきは小さすぎて、誰にも聞こえない・・・・・・

 

**********

 

月を背負うかのように、飛翔しているArf。

 

白と蒼によってカラーリングされたそれは、

レーダーに何の反応も示さない。

ステルス加工がしてあるのだろうか、目視する以外その存在を認識することは出来なかった。

 

ただ彼はそこに存在した。

眩しい純白と覚めるような蒼が美しいコントラストを作り、
見る者に、この戦場に場違いな芸術的な感嘆を上げさせた。

 

先のArfにならい、人型であるそれは、一見、禍々しい雰囲気を持っている。

 

仮面を付けたような顔。

いや実際にそれは仮面なのだろう。

鋭利な螺旋状の二本の角がつき、目は黄金に光り輝いている。

いにしえの悪魔を思わせる仮面。

それも上級の大悪魔、いや魔王を連想させる。

美しすぎる故に、見る者に恐怖を与える。

 

 

 

その身体は、

既存のArfよりも人間に近い印象を与えた。

容姿の異様さを除けば、機械的な部分は少なく、

それは「Wachstum」よりもずっと、人体が持つ微妙なカーヴを表現している。

触れば弾力があるのではないか、皮膚の下に流れている血液の脈動を感じれるのではないか、
と思わせるほどに。

まるで一流の彫刻家が人間の裸体を造ったような、人間の持つ、生物の持つ柔らかさを現していた。

 

その装備は、

頭部にはまるで、はちまきをしているかの様に長い二本の帯状の物が、
その背から足下まで垂れている。

それが何なのかは分からない。

 

肩、肘、膝には間接部を護るためであろう、大きなパットがついている。

肩のは特に大きい。

 

胸には筋肉を思わせる綺麗な装飾のついた胸当て。

身体全体に、鎧という一個の物ではなく、一つ一つに独立した防具を付けていた。

小手、すね当てと言った感じに。

ただ一つ、右甲部に半円形の一見するとナックルのようにも思える物がついている。

左甲部には何もない、

右甲のそれは淡い光を発していた。

見たことのない輝きを放つそれは、異質なArfであるそれをさらに異質に見せていた。

 

 

そして、武器。

手に持つのは、一目見ただけで分かる長身の銃。

おそらくはレーザーガンだろう。

これがこの奇妙なArfが持っている一番まともな武器である。

 

この他の武器は、背でクロスするように背負われている長い棒と剣。

まるで十字架、いや逆十字だろうか?それを背負ったように見える。

 

通常のArf達の剣は腰にレーザーをオフにした状態でつけられているのだが、
奇妙なことに、
このArfはレーザーソードを装備しておらず、何で出来ているかは不明だが金属製の剣を持っていた。

棒に関してはその用途はまるで分からない。
その先に何もついていないので槍とは思えない。

ただ殴る為の物だろうか?

 

 

この不思議なArfは、背から生える二枚の飛行翼をはためかせるようにして、上空にいた。

眼下で行われている「φ」の戦闘を冷めた目で見つめながら。

 

「命ある武器、命無き武器そして、自らを武器とする人間に告げる・・・・・・・」

 

翼を持ちし者は、
そこにいる全てのArfに、全ての人間に語り始める。

 

まるで、神の降臨を予言する聖者のように。

 

***********

 

「命ある武器、命無き武器そして、自らを武器とする人間に告げる・・・・・・・」

 

外部から聞こえる声に、全兵士の動きが止まる。

 

 

「全ての武器を廃棄し、あらゆる武器を捨てて欲しい。」

 

 

「何処だ?」

「レーダーに反応がないぞ。」

浮き足立つ兵士。これはφの者たちも同様であった。

仮にステルス加工をしている機体であっても、熱感知レーダーに反応するはずである。

そのどちらにも反応が無い。

しかしながら音が届いているのである。

レーダーに映らない範囲で音を発している物があるという事は、まず有り得ない。

 

「目視に切り替えろ!!」

φの隊長の声が響く。
仮にもφの隊長である、その命令は的確だった。

Arfが次々に頭を動かし始める。
Arfの目を通して、兵士の瞳に外の光景が映る。

一人の兵士が、地面にのびる影を見つける。

 

それはまるで、天使のシルエット。

 

巨大な翼を広げ、天を舞う神の御使い。

 

ゆっくりと目線を上にあげていく。
それを認識した兵士が呟いた。

自分の感情をストレートに表現したその言葉は、的確にこれからの出来事を予言していた。

 

「・・・・・・・ルシファー・・・・」

 

それは天使でありながら、神に反旗を翻した者。

 

**********

飛翔し続けるArf

 

その柔らかな生物と言った感じの外見とは対照的に、
機械的なフォルムのコクピットでは、一人の青年が瞳に光を宿し座っていた。

 

その光は迷い。

そして、悲哀。

 

青年は20代前半に見える。

その青年の容姿は特筆すべき物が無いほどに平凡であった。

敢えて言うなら、少し良いぐらい、中の上か中の中。

背は見たところ、170p半ば、体型も普通。

顔は東洋系であることから、東洋人であろう。

彼の外見について、語ることはこれくらいである。

 

黒髪、黒い瞳、

今その瞳には、モニターからの光が映し出されている。

地上で蠢く人間を、機械を現した光の点に、
いっさい退却の様子が見られないことに、

青年は落胆の色を隠せなかった。

 

コクピットの中の様子、
ボタン、レバーが並べられているそこは、大体、他のArfと似たような物であり、
青年は両手を球形のハンドルに入れ、その中のレバーを握っている。

足にも同様に球形の物がついているのだが、これはどのArfにも姿形は変わっても存在している、
Arfにリンクするためのシステムである。

中央にはモニターがあり、あらゆる物をあらゆる方法で探知していた。

両脇、中央モニターの上にもモニターが存在しているが、
今、それには何も映っていない。

 

一見するだけで、その装備は決して量産ではなく、オーダーメイドで作られた物であることは分かる。

 

 

その中、青年は、もう一度だけ言った。

 

 

「武器を捨てるんだ。

 

でなければ、武器も、

 

自らを武器とする者も破壊する。

 

 

これが最後だ。

 

人に、

 

人に

戻ってくれ。」

 

彼の言葉は悲痛な叫びのようだった。

瞳には涙こそ出てはいないが、いつでも涙腺を緩めれば涙がこぼれそうな程に悲しげに瞬いていた。

 

そして、彼への返事は、

多くの弾丸、光線だった。

 

**********

 

ガガガガガガガ!!

 

光線、弾丸が当たる音がコクピットに響く。

いやそれは響いているのではない、青年がArfを介して感じられる物。

あくまで感覚の物である。

自分の肌に何かが当たる感触。

それは自分の機体に物が当たった事実が伝わってきたもの。

 

その機体の強度は、集中砲火を浴びても何らの変化も見られないほどだ。

同様にして、パイロットである青年にも痛みとしてではなく、接触という感覚しかもたらさない。

 

彼らの安めの武器では、この機体には傷を付けることは出来ない。

 

 

ただ、水を浴びるかのように弾を受け続ける天使を模倣した機体。

青年はレバーに手をかけたまま、動かない。

 

 

青年は動けなかった。

 

 

全てを始める、そのきっかけが欲しかった。

 

それは・・・・・・もたらされる。

 

右横のモニターに何か映る。

人、女性。

それも素晴らしい美女。

 

胸半分までしか映らないモニターからも分かる、長い黒髪。

染めているのであろう前髪は若干の銀色。

長いまつげ、漆黒に澄んだ瞳は、年齢不問な美しさを創り出していた。

真剣な表情を作っている今は、固いイメージを感じさせるが、
彼女が笑えば、おそらくそこら辺の幼児であっても虜にしてしまうだろう。

華美な派手さは全く感じない、しかし、その美しさは、血の美しさなのだろうか?

内からにじみ出る鋭いまでに輝く美しさを持っている。

 

まるで、皆既日食に現れた、満天の星星の輝き。

神秘的な美しさであった。

 

 

 

「サライ。」

青年は呼んだ。

 

「マナブ様、始めましょう。

御当主様からの許可は出ております。」

 

 

青年の悲しみと迷い、それに恐怖を知っているのであろうか?

女性は瞳に限りない優しさを持っていた。

彼女はそれには気付いていないが。

 

 

 

「・・・・・・・・オールクリア・・・・・

 

 

・・・・すべてしね・・・・・」

 

ゆっくり、青年は呟くとその身に纏う者を動かす。

 

青年には、

マナブには、

 

 

恐怖と迷いは無かった。

 

 

ただ、悲しみだけ。

 

 

ただ哀しみだけ・・・・

 

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次回予告

多くの血と心がある戦場。

舞うのは天使か悪魔か、それとも神か・・・・


後書き

主人公登場です。私の某SSと同じ名前です。

誰かL−seedの絵を書いて頂けると嬉しいです。

ご意見、ご感想は掲示板か、

こちらまで。l-seed@mti.biglobe.ne.jp

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