プロローグ

 

「愛という感情は、

  神が与えたもうたモノだろうか?

 

   ならば、

    神は人にとこしえを与えるつもりはなかったのだろう。」

 

 

 

 

世界が変わるのにはほんの些細なきっかけで十分だ。

そう、誰もが気付かないほど些細なモノが世界を変えている。

 

そして、

 

人間の存在自体を変えるきっかけは、

たった一人の人間から始まる。

 

 

「正義」の名を冠する者たちの頂きに立つ者から・・・・・

 

 

「アル・イン・ハント」

 

 

 

 

 

「全ては手の中に。」

 

      

       Divine     Arf                          
 神聖闘機 seed 

 

 

 

「イザミ」

 

 

「・・・・い、月の裏側から新たに発見された鉱石は、
「シオン」と名付けられることが今日、
アメリカ、日本、ロシア三国の科学者たちの会合で決定されました。
この「シオン」は地球上のあらゆる鉱物よりも、軽く、強靱であることから、
これからの宇宙開発に多大な発展をもたらす事が期待されています。そして・・・・・」

 

街の大きなビジョンに映し出されたニュースキャスターは、
この今世紀最大の発見をさも自分が発見したように興奮して報じていた。

 

だが、

街の無関心な人々はそれを足音で消している。

 

ただ一人、それを見上げる者がいる。

 

けれども、その真摯な瞳は何も映してはいない。

 

息を肺の奥からゆっくり吐き出すように呟かれた言葉も、

また、

 

「シオン・・・

 

 

・・・・・・全ての始まりを意味する言葉。

 

 

何を始めるの?

 

 

あなた達は。」

 

 

言葉を人々の無関心が消していく・・・・・

 


 

世界の暦は2000年を一区切りして、再び一年から始まっていた。

それから72年後。

 

A・C・C(アフター・カウント・クリア) 72年 (旧暦 2071年)

地球の民は月へ、そして宇宙の空へ、その生活の場を持っていた。

 

A・C・C 3年に始まった地球人類の宇宙への進出は、
かつて大航海時代、多くの国が新天地を求め、多くの人がその命を子に伝えたように、
着実にその数を増やしていった。

多くの人間が月へ移住し、多くの人間が衛星都市に移り住む。

しかし、
人の営みは場所が変わろうとも同じ物。

生きて、食べ、眠り、産み、死ぬ。

抗うことが出来ない、一つのサイクルの中で人間たちは地球と同じように生きている。

だが、人間という生き物にある、知恵の負の面は、
例え、なんら自分と変わらない営みをしている者でも、
その生きている場所が違うことを嫌った。

地球の民は自らを、母なる大地から生まれた者とし、
月、衛星都市に住む者を多くの蔑みと侮蔑を込めこう呼んだ。

 

「ルナ・チャイルド」、通称「ルナ」

意味は「月の子供」

 

また、月と衛星都市に住む者は地球に住む者を、
「土から逃れることが出来ない者たち」の意を込めこう呼んだ。

 

「マザー・バインダー」、通称「バイン」

意味は「母親に縛られる者」

 

A・C・C 40年頃から始まった、
互いに互いを認めないこの対立は年をふるごとに強くなっていった。

それはまるで、イギリスから独立をしようとしていた頃のアメリカのようだった。

地球各国はそれぞれの衛星都市の反発、
そして国際連盟の統治下にあった月の一個の国としての独立の動きに、
警戒を強めた。

この状況を打開すべく、地球は一方的に「弱者を心ない者たちから守る」という名目の元、
あるものを発足させる。

 

A・C・C 52年
地球の月、衛星都市の一括的統治機構。

「地球平和維持機構 The Earth Maintain Peace Machine 」

「通称 EPM」の発足である。

この組織は、
地球各国とその植民地的立場にある
(植民地は差別用語として使うことが出来ない)
衛星都市との仲介役として存在した。

また、双方が軍事的衝突を起こした場合、その調停も担当することになっている。

無論、軍事的制裁の前に外交による解決を第一目標にしている。

 

が、

 

真の姿は地球が作りだした衛星都市及び月を支配する組織だった。

確かに「EPM」は内部で軍事と外交の二つに分かれており、

外交が失敗して、初めて軍事的に動くことを大前提にしている。

外交最高顧問は地球の歴代の法皇が担当し、
軍事顧問は地球各国から選出された者が担当。

しかしながら、その内部での力関係は圧倒的に軍事顧問が強く、
また各国の後ろ盾を持つために、その軍事力自体、かなり強大であった。

また、そのメンバーは全て地球の者でしめられ、
衛星都市、月の者はほんの一握りしかいなかった。

 

そして、彼らはどの国にも属さずにその意志により、力を発動させることが出来た。

それは全く持って、地球から常に月と衛星都市の喉元に突きつけられた剣であった。

 

それまであった、地球における月、衛星都市の独立を容認する国々は一つを除き、
全て外交顧問に入れられ、その力を逆に失う結果となった。

「EPM」は月、衛星都市の安全を守り、急な事態にも対処できるようにと、
それぞれにの都市に常駐していた。

 

これにより、衛星都市と月の意味合いは真の意味で「地球の植民地」となったのだ。

しかし、当時はこれで良かったのだ。

 

実際、衛星都市や月の軍事力は弱く、地球の国々の圧倒的な軍事力には到底勝てるわけがなかったから、
それ以上に宇宙空間を舞台に大きな戦争を起こせるほどに、
地球の科学力や衛星都市、月の資源は充実してはいなかった。

衛星都市、月にとっても虫酸が走る思いであったが、
実際、地球に行かない分には、その差別に合うことはなかったし、
怪しい行動を取らない分には、「EPM」に和平と言う名の暴力を振るわれることはなかった。

もっとも衛星都市や月側のテロが地球では希に起きてはいたが。

 

当時はこれでも良かったのだ・・・・・・・・

 

A・C・C 72年 (旧暦 2072年)

後の歴史学者が「サタンの卵」と称した一つの鉱石が、月の裏側の一部で発見される。

その名は、

 

「シオン」

 

この月より発見された鉱石は、

人類に、「ルナ」「バイン」区別無く、様々な恩恵を与えた、

そして、

 

それに倍する害悪を。

 

わずか月の裏側の一部分の地下二百メートルに眠っていた鉱脈。

アルミニュウムより軽く、そして強靱、決して錆びず、
黄金すら解かす有機王水にすら耐えうるこの夢の存在は、

あらゆる分野・・・・特に兵器関係において・・・・・飛躍的な発展を促すと思われていた。

この発見により、「EPM」の軍事的支配は一気に強まった。
月に来る「ルナ」の制限、月と衛星都市間の貿易の制限、
これは一重に「シオン」の衛星都市への流出を危険視した物であった。

しかし、その制限は「シオン」とは関係のない民間企業にも課せられたために、
衛星都市は深刻な物資不足に襲われた、これは各衛星都市に物価の高騰を招き、
衛星都市の、そして月の「EPM」そして地球に対する不満が増大することになった。

 

伝説のオリハルコン・・・・そう当時は呼ばれた、「シオン」。

しかし、この万能とも思われた鉱石には、加工が困難であることに加え、ある深刻な問題があった。

 

それは内装、外装に関わらず、この金属を使用した部品は、
周囲のあらゆる構成に物理的な干渉を加えるのである。

端的に言えば、ある種のフィールドが、作動不良もしくは機能障害をもたらし、
最悪の場合その機器自体の破壊を招く。

そして、この「シオン」の不思議なことは、
それが起きるのは、人の意志によって何らかの形になった場合に限られた。

事実、自然のまま、つまり鉱石状態ではいかなる力場も認識されていない。

 

しかし、その有益な性質の為に、「シオン」は実用された。

 

そして悲劇が起きた。

A・C・C 75年

457名を乗せた月連絡シャトルの爆発事故。

周辺の空間に原形をとどめる物は、たった一つの物の除き発見できなかった。

 

そして、A・C・Cの世が始まって以来、
いや、宇宙に人が旅立って以来のこの未曾有の大惨事は、

実はたった一つのトランクによって引き起こされたという事実に、人々は戦慄した。

 

たった一つの回収物である、このトランクは完全に無傷であった。

そしてそれは「シオン」の合金「シオン鋼」で作られていたのである。

 

「シオン鋼」の鋳造プロセスをとそのノウハウを開発したある悪魔的な天才は、後にこう言った。

 

「意に沿わぬ形に閉じこめられた意志が造反しているのだ。」

 

これにより「万能の金属」と言われた「シオン」の利用開発は一端、完全に閉ざされてしまう。

伴い、「EPM」の軍事的な圧力は月から、衛星都市から弱まっていった。

 

これを機に、各衛星都市の中でも指導者的な立場にあった

 

「カナン」は、

 

地球において唯一、「EPM」に所属せずに月、衛星都市の独立を支援していた

 

王国「アルファリア」と協力し、

一気に理想を実現しようと動き出した。

地球と衛星都市、月の二極分化による平和。

 

そして、その理想の道のりが見え始め、
「カナン」、各衛星都市、月、「アルファリア」が共に進むことを誓い合った時、

一つのニュースが世界を、宇宙を駆けめぐった。

それは非常にシンプルなニュースだった。

 

そして、シンプル故に、多くの人々に理解をさせた。

 

「シオンは人型で安定する。」

 

あの惨劇から一年。

世界は再び、シオンを求める。



月連絡シャトルの事故から、

一年後。

シオンの存在は人々から忘れ去られようとしていた。

 

世界は、

地球の「アルファリア」、衛星都市の「カナン」そして、月を中心として、独立運動が本格化し始め、

世界の動きもそれに流れていった。

いかな強大な軍事力を持つ「EPM」とはいえ、
何の理由もなくその動きを止めることは出来なかった。
またその意味がなかった。

既に衛星都市の独立の意志は「EPM」の一時的な圧力によって強くなっており、
各国でもそれの容認の気運が高くなっていた。

シオンが使えない今となっては、各衛星都市、月を一つの国と考え、
それを相手に貿易をした方が得策とする意見も多かった。

世界は一応の平和に向かっていった。

 

 

世界のその雰囲気の中、

ある一人の芸術家が、その和平の一つのシンボルとして、
また、事故で犠牲になった人々に対して追悼の意を込めて、
その事故唯一の回収物であるシオン鋼のトランクを混ぜた金属で出来たモニュメントを作成した。

それは幾何学的な数個の部位をリングで連結させ、、かろうじて人の形と分かる前衛的な作品だった。

 

そして、それは発見された。

 

ある時、

一人の少女が公園に飾られたそれを見て、母親にこう訴えた。

 

「ママ、ママ!これあたしの真似してる!!」

 

そう、この奇妙な人型は、最至近距離にいる人間の動きを不器用にトレースしていた。

そして、その一連のショーはカメラに収められ、マスコミをにぎわした。

 

そして、科学者は注目した。

ショーを映しているA・V機器が何らの支障もきたしていない。

つまりこの奇妙な人型はフィールドを発生させていなかったのである。

 

先のシオン鋼鋳造を発見した悪魔的天才の言葉。

 

「意に沿わぬ形に閉じこめられた意志が造反しているのだ。」

これを借りるならば、

シオンが求める形は「人型」なのだ。

 

理由不明、解析不能なこの結論に多くの科学者達が苛立ちを隠せなかった。

しかし、先人パスカルがはからずも言及した、

「わからない?あるモノが理解できないからと言ってそれが存在を止めるわけではない。」

という根本原理に渋々従った。

 

そして、この出来事は一応の収束を迎え始めた世界に激変をもたらした。

 

「アルファリア」に協力的であった地球の各国はそれぞれの衛星都市の支配権を主張しあい、
再び、「EPM」が月に乗り込んだ。

「アルファリア」の声も、「カナン」、衛星都市、月の者たちの叫びは、
もはや地球の欲にまみれた人々には届かなかった。

 

大量に発掘されるシオン原石、それに伴い、その開発は急ピッチで進む。

人型という制約、そして、もっとも近い位置の人間をトレースする特殊性は、
必然的に操作者を搭乗させる形へと導いた。

 

そして、

A・C・C 77年

それが完成する。

 

宇宙開発作業用義体の開発という体裁を取りながら創り出されたそれ。

 

初めて皆の前に現れたそれは、

その最初の完成品は、
あらゆるテクノロジーを結集して作られたとは思えないほどに、

粗末な物だった。

 

全長20メートルに及ぶ巨大な人型は、

まるで「シオン鋼」という粘土で出来た人形に人間がただ塗り込められるように入っている感じ。

とても今までのロボットの延長線上にあるという物ではなかった。

ただその分、よりその姿は人間を思わせた。

 

今までの人型のロボットは、安定性の問題から、
バストとウエストの大きさは同じであり、そのまま下半身がついてきている、いわば寸胴の形であり、
脚部に尋常ではない負担がかかるために、その太さはウエストの1.75倍であった。

しかし、シオンで出来た人型のこれは、
ウエストも細く、脚部も機能性ではなく、「美」という見地においてバランスの取れた物であった。

非常にスマートな印象を受ける。

 

その開発に関われなかった科学者達はよりそれを嘲った。

機能性を重視してこそ、機械だと。

 

しかし、その容姿を始めせせら笑っていた者は、この数十分後、絶句することになる。

 

そのゴーレム達の末裔の動きは、強靱さ、軽快さ、そして繊細さ。

 

威力中程度の戦車砲撃を三十分間受け続けたそれは、三十分前と何ら変わらぬ様相を呈し、
巨大な障害物を軽快なフットワークでかわし、その大きさに見合った銃の交換も素晴らしい早さだった。

だがその強靱さ、軽快さはシオン発見当時から期待されていた物であって、たいした感動を生まなかった。

 

そこにいた死の商人や政治家、軍人、マスコミを驚愕させたのは、

一匹の猫。

たった一匹の猫。

 

何処からか紛れ込んだ一匹の黒猫。

その小さい命は巨大な命ない者に怯えもせず、その足下で眠り始めた。

巨人はそれを拾い上げた。
そして、あろう事かその巨大な手で撫で始めたのである。

観客は皆、猫の死を確信した。

それは当然のこと、ロボットであれば間違いなく、
例え搭乗者が一流の者でも猫を潰してしまうだろう。

 

考えてみて欲しい。

我々がアリを指先で掴むのと同じなのだ。
いやもっと小さい生物を掴んでいるのと同じだろう。

ましてやそれを撫でるのである。

どんなに力を込めないようにしても、その掴まれる生物にとっては万力で潰されたように感じてしまうだろう。

 

が、

モニターに映し出された猫は、気持ちよさそうにその目を瞑っていた。
そして、飽きたのか立ち上がると大きなあくびをして、

「にゃう」

 

と一声礼を言うようにその巨人に鳴いたかと思うと、
その手から降りていった。

 

素晴らしい繊細さ。

 

その日、その巨人はあらゆる人類の武器の中で頂点に立った。

 

この猫の演出、そう全ては演出だった。

この素晴らしい効果を持った演出を考え出したのは、
まだ十代の少年と言っても差し支えのない青年であった。

 

ルシターン=シャト

「EPM」に多くの資金を出していた名門「シャト家」の青年。

この青年にはもしかしたら見えていたのかも知れない。
この巨人によっての未来を、既に。

 

「Artificial Life」

意味は「人工の生命」

 

そう科学者達はそれを呼んだ。

科学というモノがその範疇を乗り越え、ついに生命を創り出した。

科学者達はそれをことさら自慢げに語った。

 

しかし、それの発展途上でありながら、その強大な力を目の当たりにした人々は、
後に起こるであろう、それの使い道を十分に予想できた。

 

そして、その数ヶ月後、それは本性を現した。

「EPM」付属宇宙遊撃部隊

・・・・・・後のEPM所属特別防衛機関「φ」(ファイ)の前身である・・・・

に配備されたそれは、
20メートルの身長はそのままに、外装に人で言うところの鎧を付けた感じのそれ。

 

シオン鋼戦闘人型

 

完成された新たな時代を思わせるその巨大なユニット。

その正式名称は、その記念すべき第一作目の兄弟の名から取り、

 

「Arf」(アルフ)

と名付けられた。

 

 

だが、人々はその意味をこう捉えていた。

 

「Artificial ruthless figur」

 

即ち「人の造りし無慈悲な人型」と。

 

そして、この名は以降、生み出されるあまたの人造兵士達の総称となる。

 

「Arf」・・・・・・・アルフの進化は終わらない、そして、誰も止められはしない。

 

人類の運命の手綱はすでに人類自身から離れ、彼らに渡されたのかも知れない。

 

彼らによって引かれる運命のタロットカードの意味は、まだ分からない。

 

それが何なのか?

それが正位置か、逆位置かさえも、

 

まだ、わからない。

 

ただ、テレビに映し出された「Arf」を見て、
呟かれた言葉があった。

それが誰によってかは、まだ語ることは出来ない。

 

黒い瞳を寂しげに、しかし強く輝かせ、

 

「人間は、ついに神の肉体を手に入れてしまった。

 

・・・・・・魂も

 

 

・・・・意志も

 

 

・・・・・・・・・ない。」

 

 

意味はまだ・・・・・

誰にも・・・・・・

わからない。

 

 

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