土器づくり方法

2014年夏、最近は設計図を描いて土器づくりをしています。初心者には成形法として下に示す純正輪積みをお勧めします。
土器/陶器の初心者でもこの方法をマスターすれば、大きさに関してはいいものが出来ます。胴部などの壁の微妙な曲率については慣れでしょうか。
先日、加曽利貝塚でジョギングしていた人が土器づくりを見学された時に、「自分は芸術のセンスがないから土器づくりには向かないよね。」と言っていましたが、パソコンをある程度使えれば、土器は作れます。 
中級者はこの方法をもとに作成方法を改良すれば、早く/確実なものを作れるようになれます。 上級者は下の方法は見るまでもないでしょう。
(陶芸や土器づくりに現在で行われている方法の一つに一名「蛇積み」と言われる粘土ひもを一周以上積んでつぶしていく方法がありますが、出土した縄文土器そ観察すると一周ごとに粘土ひもをつぶしてつなげていく方法が行われているようです。 また、輪積みのように粘土ひもの輪を置いていくのではなく、粘土ひもを片方の手に持って、端を成形している土器の上に置いてひねりながら下部と同じような厚さにつぶしながら帯を作っていて、一周でその帯を作り終え、次の周を作り始め、何段か帯を作った段階でヘラ/貝殻等できれいに成形していく方法を 上級者はやっています。小輩、早く作る時/大きい土器を作る時はこの方法でやります。この方法は帯積みとでも言うのでしょうか。このページで紹介しているのは初心者でもきちんと対称が取れた土器ができる方法です。 手の握力が疲れますが・・・。)


2015年現在、使っているEXCELシート例を添付します。ダウンロード後ヴィールスチェクして使ってください(internet通過時にヴィールスが付く可能性もあります)
添付ワークシートは横幅を焼成で12%縮むとしていますが、最近は10%としています
資料や写真のjpgファイルをExcelに貼り付けます。
距離を示す両矢印線のExcel上のサイズ(プロパティから情報入手)を図中の右から2番目の列に入力。
実物の高さ等×1.15を最右列に自動計算させる。
設計図中(四角枠中)に計算結果を書き込む。
壁、注口部などの厚さや大きさを同様に計算して書き込む。
底部をここでは厚さ1.2cmとして(底部の厚さより厚い四角を動かし、四角の上の2つの角を土器の外壁に合うように長さを最適化)図に描き、直径を求める。
以上で設計図完成。

この設計図を基に、粘土を輪積み(註)で成型して、大きさをなるべく正確な土器を作っています。
(兵庫県考古博物館でこの方法の土器づくりを経験させていただきました)

厚さが0.7cmと比較的薄いので、太さ1cm強の粘土ヒモを輪積みして作ったのが右の画像です。
この注口土器は上の段の形が変わった形なので、まずそろばんの玉状に作って、両手の指を使って四隅突出の形に変形しました。最終的には上段の大きさが本物に比べて大きい。設計図は上段の横幅を小さくする必要がありました。

註)一般に陶芸で手びねりで作る方法として、次の方法があります
 1. 輪積み法(粘土円環を載せて潰して繋げていく方法)
 2. 巻き上げ法(ヘビ積み法;粘土ヒモを潰しながら積み上げる方法)
 3. 玉造法(手ねり法)
 4. パッチ法(SSC法;連板法、粘土片を貼り合わせていく方法)
 4. 型起こし法(型に粘土を入れて成型する方法)
縄文土器製作法は1>>2で、ミニチュア土器で3が行われるようです(可児道宏氏著「縄文土器の技法」同成社発行参照)。
全国の博物館で土器づくりをしているのを見てきましたが、純正輪積みを頑なに教えている所もありましたし、輪積み法と巻き上げ法の折衷法をやっている所もありました。
 設計図に沿った純正輪積み法による土器づくり
上の設計図とは違う土器の作成ですが、基本的には同じ作り方です。
(一人で粘土の泥だらけの手で成型と撮影をしなければいけないのでわかりづらい所はありますが、もう少し知りたい時は、近くの陶芸教室で見学するか、加曽利貝塚の大須賀邸の横で水曜/土曜/日曜にやっている土器づくりを見学してください)

左. 底を作ります縁の円周を摘み上げます。この円形が土器の対称性を決まるので慎重にまーるく。

右、太さ2cm弱の粘土のヒモを作ります。空中で粘土を両手でにぎにぎしてデコボコのヒモを作って、板の上に置いて、コロコロ転がしてデコボコをなくして右写真のようなひもにします。

1段の壁の高さ : 目安として、直径2cmの粘土のヒモを厚さ1cmの壁につぶすと、約3cmの高さの壁になります(2cmのヒモ→半径1cmの円、面積3.14cu→1cm×3cmの長方形)。縄文中期の土器の厚さは1cm前後、後期の土器の厚さは中期より薄にのが一般的です。
左、底の直径をヘラで測ります。

右、その長さの3倍(ヘラを指をつまんで決めた長さ)の所にしるしをつける(ヘラの指までの長さを左方向に3回しるしをつける)。
左、3回目のしるしの所で粘土のヒモを切る。

右、切った粘土のヒモの両端をつなげて、輪っかにする。つなぎ目は粘土がしっかりつながるようにする。この丸い輪は土器の対称性を決めるので、きれいな輪にする。
左、作った粘土の輪を”底”に載せる。両手を輪っかに合わせて”底”の左右/前後にきちんと合わせる。軽く押して粘土の輪っかを底の粘土に接着させる。この置き方が土器の対称性に大きな影響を与える。

右、左手の親指で粘土の輪の内側の粘土を下に下げる。右手は輪っかが動かないように支える。
左、下に下げたことにより指の跡が付いたところを左手の親指で横に動かして表面を滑らかにする。外側は、左手親指は下げ、右手は下げたところを上げる という作業をする。左右の親指は接するくらい近くで作業をする。

右、角度/厚さを調整して、新しくできた段の直径を測って、2段目の作業を始める。
左、さ2cm弱の粘土のヒモを作ります。空中で粘土を両手でにぎにぎしてデコボコのヒモを作って、板の上に置いて、コロコロ転がしてデコボコをなくして左写真のようなひもにします。

右、1段目と同様にして粘土の輪っかを作って置く。
左、1段目と同様な作業を行う。

右、つなぎ終わった段階では外側は右図のよう。
左、両手の親指/人差し指/中指を使って粗く厚薄をなくし、高さの直径が設計図の値になるように壁の角度/曲率になるようにした後、ならし板/竹べら/ハマグリなどで壁面をならす。


3段目以降はこの繰り返しです。

パッチ法(Sheet and laminating)で土器/陶器を作る人がいますが、輪積み法(Ring and padding)でしっかり作る方が確実に行えます。土器の場合、出土した壊れた土器を観察すると、輪積み法で作られたものが多いとのことです。

 粘土の水分 : 水性樹脂の固形分についてはJISで測定方法があります。この測定方法に準じた測定で土器用粘土や陶芸用粘土の水分(水分=100−固形分)を何回か測りました。小輩がこねるのに適しているとした粘土の水分は15%前後でした。上の設計図を作成する際に×1・15と15%縮むことを想定していますが、この水分の値と同じ水準でした。この測定の値は遊離水の含有率を示します。

測定方法例:
 1.測定容器を A とする。Aは直径10cm位の小さいケーキを焼くアルミホイル容器を用いる。重量は0.1mgまで測定できる化学天秤(Chemical balance)を使用する。200℃くらいまで昇温可能で昇温がプログラミングできる固形分測定用熱風乾燥器(微風力タイプ)を用意し、初期温度を100℃以下にする。A が2、3個入るデシケーターを用意する。イオン交換水か蒸留水を用意する。
 2.何も入れないAにアルミホイルに何回か折って作った長さ約5cmの撹拌棒をを入れ、重量を測定する。重量を a とする。
 3.粘土約1gを Aに分取し、重量を測定して重量を b とする。
 4.イオン交換水または蒸留水 約5gを Aに入れ、撹拌棒で粘土を充分に分散させる(時間があって、邪魔にならなければ長時間ほっとおけばかなり分散するのでサンプル毎に作る撹拌棒がいらない)。
 5.2または3サンプルについて 上記項目2から項目3の操作を行う。
 6.用意できたサンプルを熱風乾燥器に入れる。
 7.最終温度を120℃にプログラミングして、8〜12時間乾燥する。
 8.指定経過時間後、容器を熱風乾燥器から取り出し、デシケーターに入れる。
 9.一定時間後、冷却されたことを確認してデシケーターから測定容器を取り出して化学天秤で重量を測定して重量を cとする。
 10.式 (c−a)/(b−a)×100 で水分を計算する。
 11.サンプル個数分について上記項目9〜10を行い、水分の平均値を計算する。
 12.重量測定後、サンプルをまた熱風乾燥器に入れ、120℃でさらに1時間乾燥させ、上記項目8〜11を行い、恒量であるか確認する。
 13.恒量になっていない場合、項目12を繰り返す。

樹脂に比べて粘土は粘度が低いので、急激に昇温すると飛び散って水分が高い値になることあり。また、簡易方法として赤外ランプや電子レンジで測定する方法もあるが、乾燥中のサンプルが突沸で飛び散ることに注意。重量測定にロードセルを用いた料理用天秤を使うこともできるが、防風箱をかぶせて測定する必要がある。

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「千葉市民土器づくりの会」 (2000年)

  加曾利貝塚博物館の学芸員が総出し、土器づくり同好会の人々の応援を得て、土器づくりの講習会が行なわれました。
(千葉市民土器づくりの会を含む加曽利貝塚土器づくり同好会では常総粘土と山砂を一定比率で混合して土器づくりを行います。粘土と砂を混合したものを粘土とも呼ぶので、下の説明では原料粘土をclay、混合した粘土をsoilと書きます)


 T. 2000/4/9 <素地土作り>

乾燥させたClay と Soil を 3kg/2kg の割合で混合する。講習会では、水との混合率を明確に把握するために、乾燥したClay を用いる。
縄文時代に加曾利で作られた土器は、武蔵野ローム層の下の常総粘土層の上部を使った。今回のClayは八千代で掘り出したもの。
0.準備 1.粘土と砂を混合する 2.充分に混合する
3.水を500g加える 4.混合する 5.さらに水を500g加え、混合する 6.さらに水を500g慎重に加える  場合によったら400gでやめる
7.混合する 8.全体重をかけて練る 9.体重をかけ、そぐようにして練る  競争率3倍をクリアーして参加した人達。

 Clay と Soil の割合を 3kg/2kg としたのは、常総粘土層の Clay を使用した場合について、加曾利貝塚博物館が最適として採用してきた比率。使用する Clay と Soil が異なる場合は比率が異なるとのこと。(”粘土”や”土”という言葉があやふやに使われるので、”Clay”と”Soil”と書きました。”Clay”は常総粘土層から採取した粘土、”Soil”は粘土に比べると平均粒子径が大きい土を意味しています。)

 U. 2000/4/16 <成形>

0.1週間前に練成した粘土をポリエチ袋から出し、そぐようにして練る 1.底部の円盤を作る 2.円盤の縁を盛り上げる 3.直径約2cmの粘土のヒモを縁に載せながら接合させる 註1
4.試験的に2段作り、糸で切って、接合を調べる 5.上段まで積んだ時に、下段の接合の悪さを発見。 補修 6.粘土の輪を積み重ねていく  註2
粘土のヒモの長さは直径の約3倍。
7.縄文をつけるためのヒモとハマグリ
8.縦の線模様を竹べらで描く 竹べらは寝かせて浅く 9.細い粘土のヒモをつける ヒモの上下を細い棒で土器に接合させる 10.底部を台から離す時は斜めにならないように 11.縄文は長さ5cm位の色々なパターンのヒモを強く押して転がす

 : 縄文時代は多くの土器が作られました。ここで紹介した輪積み方法で土器を作っていたとしたら、縄文人は円周率を知っていたと思います。土器を作るときに必要な、簡単な技術です。一段分の粘土のヒモを土器の直径の上に持ってきて、だいたい3倍にして新しい段として積み重ねればちょうど円の一周になります。丈夫な土器を作るには、連続的な粘土のヒモを輪積みした方がいいのです(外観だけでいいのならツギハギでも問題はありませんが)。


 V. 2000/4/23 <みがき/つぶし>

1.暗所で乾燥させた土器を磨く。
口縁部は竹ヘラ、貝などで平坦にする。口縁部の磨きが最重要。
2.内面を曲率が同じハマグリの端部で磨く。凹凸をなくする。 3.ハマグリの背中(現代はプラスティックの容器)等で”つぶし”を行なう。根気よく行なう。光沢が出るようになる。この人の磨きはすごい!もしかして縄文人? 4.外面に無地の部分がある場合は磨き、つぶしを行なう。粘土のヒモをつけた部分も同様。


 W. 2000/5/14 <焼成>

9:00前。焚き火を始める。 ∵ 野焼きを行なう地面の水分を蒸発させる。おき火(炭火)を作る。 10:00。3週間博物館の会議室に置いて、室温で乾燥させたものを、焚き火の周りに置いて、熱で乾燥させる。5〜10分間毎に、土器を回転させ、熱せられる面を変える。 12:00。土器づくり同好会の人が作った土器で、あさり、しいたけ、野菜のスープを作り、土器の料理を味わう。
12:55。おきびに乾燥させた土器を並べる。数十分かけて、土器の温度を上げる。 13:20。薪を一気に並べ、本焼きをはじめる。割れるものはこの段階で割れる。
13:35。土器を寝かせ、底を焼く。
13:40。取り出し開始。

 この段階の、乾燥具合、焼け具合は経験者でないと何とも判りません。

      参考書 : 「縄文土器のつくり方」 加曾利貝塚博物館友の会 発行  ¥100 (博物館受付で買えます)

左:新井氏製作縄文式土器 (強い磨きです)
  右;新井氏製作時の写真(2001年夏休み展示)

加曽利貝塚博物館が創設時期に縄文式土器作成研究を後藤和民氏が中心となり計画していたところ、群馬県桐生市で縄文式土器研究をしていた新井司郎氏に巡り会いました。
新井氏は、加曽利貝塚博物館に設けられた「縄文土器製作研究所」に所長として招かれ、素焼きで漏水のない縄文式土器の製作方法の研究を博物館と共同で行なうに至りました。
単なる外観の復元ではなく、機能性/構造の復元を行なうために、製作中の土器と寝食を共にしたことは、感銘を受ける話です(上記¥100の「縄文土器のつくり方」に書かれています。この冊子は10倍、100倍の価値があります)。



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独り言
純粋な常総粘土は青白い(緑っぽい)。赤くなるのはロームが混ざっているから?

因みに、常総粘土は茨城県から千葉県にかけて、ローム層の下にある粘土。海水域で生成したため、塩が含まれていて土器焼成温度が1000°以上になるとヒビが入ったり割れたりするとのこと。焼成温度が1000°である須恵器が作れないため、千葉市では須恵器製造遺跡が1か所以外ない。千葉市で発掘される須恵器の大半は埼玉県鳩ケ谷付近で作られたとのこと。ハニワは野焼きの時代は地元で作られたが、穴窯で作られたハニワは埼玉県で作られたものが千葉に運ばれた例があるとのこと(ハニワは土製セラミックであり、1000℃で焼成されたとは思えないが)。





市川市立考古博物館でも土器づくりが行われています(2002年)。

木更津の上総博物館でも土器づくりが行われています。
(詳細は知りませんが、技法のレベルは高いと感じられました)