日本最古のオフィオライト、養父市の蛇紋岩
  (養父市)

 ぬめっとした光沢、まだらな模様、すべすべした手触り・・・蛇紋岩は、蛇の模様のように見える外観からそう名付けられました。
 兵庫県には、この蛇紋岩が養父市(関宮岩体)と豊岡市(出石岩体)に分布しています。今回、養父市の加保坂や琴引峠周辺で、蛇紋岩を観察しました。

蛇紋岩(蛇紋岩露頭③) sp25723.1,sp.25723.3
 

1.関宮岩体の蛇紋岩
 
 今回は、上月さんと二人での地質観察です。最近は毎月のように二人で石や地層を見るためにどこかに出かけています。
 伊豆橋、あゆ公園、ひすい露頭と巡り、そのあと蛇紋岩の露頭4ヵ所(①~④)を訪れました。

蛇紋岩関宮岩体周辺の地質図と観察地点
 
 まずは、伊豆橋上流の川原です。ここには、小石の川原が大きく広がっています。橋の脇から川原に下りて、上流から流れてきた蛇紋岩の小石をひろいます。この小石は、いろいろなところで話をするときに「ひょうごの小石の標本」の1つとしてプレゼントしています。
 ここでは蛇紋岩のほかに、角閃岩・結晶片岩・花崗岩・安山岩・流紋岩・砂岩・泥岩・凝灰岩などを見ることができます。
 猛暑の川原は、もうほんとうに暑くて1時間いるのが限界でした。

大屋川の川原(伊豆橋上流) 蛇紋岩(伊豆橋上流の転石)
いちばん大きな蛇紋岩:横9.8cm
 
 次は、あゆ公園です。公園は、ひすい輝石が発見されたヒジロ谷川が大屋川に注ぐ地点にあります。
 大屋川の流れの中に真白い岩をいくつか見ることができます。これは、ほぼ曹長石だけからなる曹長岩です。あたりには黒っぽい岩が大いので、曹長岩の白はとてもよく目立ちます。
 ここでも小石を拾うことができますが、暑いので省略です。

大屋川の曹長岩転石(あゆ公園)
 
 加保の集落から加保坂に向かう道に入ってしばらく進むと、ひすい輝石岩の露頭があります。ひすい輝石岩は、コンクリートと鉄格子に保護されて、横には「兵庫県指定文化財 加保坂の硬玉(ヒスイ)原石露頭」の案内板が立っています。
 ひすい輝石岩は北海道から九州までの各地で発見されていますが、ひすい輝石岩の自然産状を示す露頭が発見されたのはここが初めてでした。
 鉄格子のフェンスの中に、風化して赤く粘土化した蛇紋岩帯の地層に囲まれて白いひすい輝石岩が飛び出しています。大屋のひすい輝石岩は、ひすい輝石の柱状結晶が集まったもので不純物をほとんどふくんでいません。そのために白く、「白いヒスイ」と呼ばれています。

ひすい輝石岩の露頭
 
 加保坂に向かって道を上っていきました。あたりは蛇紋帯で、道の法面のところどころに蛇紋岩の露頭が出ています。
 蛇紋岩露頭①では、法面が崩れています。蛇紋岩はもろく滑りやすいので、このように斜面は崩れやすくなります。

斜面の崩れた蛇紋岩(蛇紋岩露頭①)

 
蛇紋岩露頭②は、大きく節理が入っていますが薄くはがれるように割れる性質はなく塊状の蛇紋岩です。ハンマーでたたくと硬くてなかなか割れませんが、岩石自体はどの部分もカッターナイフの刃で簡単に傷がつくやわらかい鉱物でできています。
 採集した標本(写真右)には黄緑色の部分と濃緑色の部分があります。蛇紋岩は蛇紋石が集まってできた岩石ですが、蛇紋石にはクリソタイル、リザード石、アンチゴライトの3種類があります。
 この中で、黄緑色の部分は主にリザード石でできています。ルーペで観察すると、黄緑色の微小結晶が集合したリザード石が観察できます。濃緑色の部分は塊状で、リザード石のほかにクリソタイル、アンチゴライト、緑泥石などをふくんでいると思われます。
 この標本には絹糸光沢をもった繊維状のクリソタイルの細い脈が入っています(写真下)。
 標本のどの部分にもひもに下げた磁石が強く引きつけられるので、磁鉄鉱をふくんでいることがわかります。

蛇紋岩露頭② 塊状の蛇紋岩(蛇紋岩露頭②) sp.25723.4
クリソタイルの細脈 横11mm

 蛇紋岩露頭③では、脂肪光沢のあるすべすべした触感の蛇紋岩が見られます。滑りやすく、ハンマーでたたくと葉片状にうすくはがれるように割れます。割れた面を見ると、こすれあった跡が筋となって残っています。
 表面の色は、青・緑・黒があって、そこに白や黄色が混ざってまだら模様をつくっています。
 複数の種類の蛇紋石や緑泥石からなっていると思われます。また、磁石が強く引きつけられるので、磁鉄鉱をふくんでいることがわかります。

蛇紋岩露頭③  青い蛇紋岩(蛇紋岩露頭③)

 この地点の蛇紋岩には、緑泥石がレンズ状に入っています(写真左下)。緑色を帯びた黒色で、ハンマーでたたくと葉片状にうすく割れます。割れた面には真珠光沢があってつややかに光ります。
 緑灰色の条痕色を示し、モース硬度は2.5(2と3の間)です。周囲の蛇紋岩も2.5ですが、蛇紋岩は緑泥石に傷をつけることができました。
 蛇紋岩中に産する脈状~レンズ状の緑泥石はほかにも報告があり、どのようにしてできるのか興味深いものがあります。

レンズ状に入った緑泥石脈(蛇紋岩露頭③) 葉片状の緑泥石 横32mm(蛇紋岩露頭③)

 
最後に琴引峠の近くの露頭に向かいました。ここは採石場の跡で、露頭が大きく広がっています。緑色や青色の剥離性の強い蛇紋岩です。
 蛇紋岩には不規則な割れ目が無数に走り、露頭の下には割れ落ちた岩片が積もっています。蛇紋岩は破砕は変形を伴いながら形成されるので、このような産状になることがよくあります。

琴引峠西の採石場跡(蛇紋岩露頭④)
(上月さん撮影)
蛇紋岩の斜面を登る(蛇紋岩露頭④)
(上月さん撮影)

 この露頭の下の方には、黒くて塊状の蛇紋岩が見られます。ハンマーで割った面を観察すると、アンチゴライトと思われる暗緑色で柱状の結晶が束状に集まっているのが見えました。

くずれ落ちた蛇紋岩(蛇紋岩露頭④) 蛇紋岩露頭④

2.蛇紋岩のでき方

 蛇紋岩は、マントルのかんらん岩が地下深くで水と反応してできます。この作用を蛇紋岩化作用といいます。かんらん岩は、おもにかんらん石からなる岩石です。
 蛇紋岩化作用では、次のような反応が起こると考えられています。

3(Mg0.9Fe0.1)2SiO4 + 4.1H2O →1.5Mg3Si2O5(OH)4 + 0.9Mg(OH)2 + 0.2Fe3O4 + 0.2H2
  かんらん石    +  水   →    蛇紋石     + ブルース石 +  磁鉄鉱 + 水素

 かんらん石のMgとFeの割合やかんらん石とそれと反応する水の量比によって、反応式は若干変わってきますが、蛇紋岩化作用では、かんらん石と水が反応して、蛇紋石とブルース石と磁鉄鉱と水素ができるのです。
 このほか、蛇紋岩には、緑泥石やクロム鉄鉱などがふくまれていることがあります。また、もとのかんらん石を構成していたかんらん石や輝石が残っている場合があります。
 蛇紋岩は磁鉄鉱をふくんでいるために、磁石にくっつきます。

 蛇紋岩は、上部マントルのかんらん岩が水と反応してできます。蛇紋岩は、かんらん岩より密度が小さいため、マントルから地殻中に上昇してきます。地表の侵食が上昇してきた蛇紋岩まで進むと、地表に蛇紋岩が現れます

3.大江山オフィオライト帯と蛇紋岩

 かんらん岩とそれが変化した蛇紋岩からなる「関宮岩体」や「出石岩体」は、兵庫県ではもっとも古い岩石にあたります。
 同じような岩石は京都府の大江山や鳥取県の若桜などにも点々と分布し、「大江山オフィオライト帯(列)」と呼ばれ、日本全体でも最古の岩石のグループに属しています。

大江山オフィオライト帯の蛇紋岩の分布

 オフィオライトとは、付加した過去の海洋プレートで、上部マントルのかんらん岩類や海洋地殻のはんれい岩、玄武岩、チャートから成っています。
 下の図は、オフィオライトの層序図です。この図のいちばん下の「かんらん岩(塊状)」が蛇紋岩なったもとの岩石と考えられます。その上の「はんれい岩(等粒状・層状)」は、その「かんらん岩(塊状)」が部分溶融することによって生まれました。

オフィオライトの層序図

 大江山オフィオライトの形成に関して、広島県庄原市の西城岩体(広島県庄原市)や大江山岩体(京都府)の斑れい岩中のジルコンから、それぞれ5億4500万年前と5億4400万年前の年代が得られました。この年代は、古生代より古いプレカンブリア時代末期(原生代 新原生代末期)にあたります。このジルコンの年代は、上部マントルのかんらん岩の部分溶融によって生まれたマグマが上昇し、はんれい岩として固結した年代を表しています。

 大江山オフィオライトは、三郡-蓮華帯にふくめられています。
 三郡-蓮華帯は、古い時代の蛇紋岩メランジュです。蛇紋岩メランジュとは、蛇紋岩の中に、変成岩や花崗岩などさまざまな岩石のブロックが混じり合ってできた岩体です。

 養父市の蛇紋岩の形成については次のようなストーリーが考えられています。
 プレカンブリア時代末期に中央海嶺で生まれた海洋プレートが古太平洋パンサラッサ海に広がり、三郡ー蓮華帯の他の地層とともに沈み込んだ。沈み込んだ海洋プレートの下位にあたるかんらん岩が水と反応して蛇紋岩となり、周囲の変成岩や火成岩を取り込みながら蛇紋岩メランジュとして他の地層の上へ衝上した。

 大江山オフィオライトの形成に関しては、構成する岩石の微量元素分析などによって、もっと詳細な形成ストーリーが提案されています。
 大江山オフィオライトは日本最古のオフィオライトです。今後の研究によって、海洋プレートの進化や海洋プレートの日本列島への沈み込みの開始などの解明が期待されています。

◆ひすい輝石など蛇紋岩にともなう鉱物については、『ひすい輝石・ソーダ雲母……蛇紋岩に伴う鉱物』を参考にして下さい。

引用・参考文献
  HIkaru Sawada,Sota Niki,Mitsuhiro Nagata,Takafumi HIrata (2022) Zircon U-Pb-Hf Isotopic and Trace Element Analyses for Oceanic Mafic Crustal Rock of the Neoproterozoic-Early Paleozoic Oeyama Ophiolite Unit and Implication for Subduction Initiation of Proto-Japan Arc.Minerals,12,107
 Kimura, K.; Hayasaka, Y. Zircon U–Pb Age and Nd Isotope Geochemistry of Latest Neoproterozoic to Early Paleozoic Oeyama Ophiolite: Evidence for Oldest MORB-Type Oceanic Crust in Japanese Accretionary System and Its Tectonic Implications. Lithos 2019, 342–343, 345–360.

 木村光佑,早坂康隆(2015) 大江山オフィオライトのジルコンU-Pb年齢と起源,日本地質学会講演要旨


■岩石地質■ 原生代 新原生代末期 蛇紋岩(超苦鉄質岩)
■ 場 所 ■ 養父市大屋町
■探訪日時■ 2025年7月23日