ひすい輝石・ソーダ雲母……蛇紋岩に伴う鉱物
加保のひすい輝石露頭
 兵庫県北部の養父市には、蛇紋岩が分布しています。この蛇紋岩に伴ってひすい輝石が産出することが知られています。
 ひすい輝石は、地下深くの高い圧力の下でしかつくられない鉱物で、世界的にみてもその産出地は限られています。日本では、養父市以外でも数ヶ所で見つかっていますが、ひすい輝石の自然産状を示す露頭が発見されたのはここが初めてでした。
 ひすい輝石以外にも、この蛇紋岩に伴ってソーダ雲母・白雲母・金雲母・曹長石・鋼玉(コランダム)・緑泥石・角閃石類・ルチルなどの特徴的な鉱物が産出し、この地域は鉱物の研究者や愛好家にとってたいへん魅力的な産地となっています。

 今回、工藤智己さん(加保でのヒスイ輝石発見者の一人)と松内茂さん(松内ミネラルコレクション館長)に案内していただき、これら蛇紋岩に伴う鉱物を調査・採集しました。

※ 養父市の蛇紋岩岩体については、『兵庫最古の岩石、蛇紋岩「関宮岩体」』を参考にして下さい。

ひ す い 輝 石

 大屋町加保から加保坂へ伸びる道路の途中に、ひすい輝石の露頭があります。これが露頭として日本で初めて発見されたもので、県の天然記念物として保護されています。
 鉄柵の中に、赤っぽい土からとび出したひすい輝石の大きなかたまりがあって、その真ん中あたりに白い新鮮な部分が見えます。ひすい輝石の繊維状〜柱状の結晶が団塊状に集合しているのです。
 この産地のひすい輝石は、白く緻密で、化学分析によってきわめて純度が高いことが分かっています。ひすい(ひすい輝石)というと、緑色の宝石が思い浮かびますが、純粋なものはこのように白いのです。ひすい輝石は、クロム(Cr)を含むと緑色、チタン(Ti)を含むと青紫色になります。

ひすい輝石露頭のひすい輝石 ひすい輝石の破断面(写真横5mm)
工藤さんに頂いた標本

ソ ー ダ 雲 母 と 白 雲 母

 ソーダ雲母は、曹長石やひすい輝石に伴って産出します。このような産状は、今まで他には知られていませんでした。
 ここに産出するソーダ雲母の標本は、淡紫色をした板状の美しい結晶で、その大きさや美しさにおいて世界でも誇りうる鉱物標本のひとつといえます。

 白雲母は、金雲母と同じように曹長岩の中に見られます。
 また、蛇紋岩を貫く花こう岩ペグマタイの中にも多く産出します。ペグマタイト中の白雲母は、構成鉱物として長石や石英と共に産出し、大きいものは長径3cmに及びます。表面は銀色に光って見えますが、劈開面で薄くはがすと無色透明となります。

ソーダ雲母(写真横13mm)
松内さんに頂いた標本
ペグマタイト中の白雲母
(写真横13mm)
 
金 雲 母

 曹長岩の中に金雲母が集まっている部分があります。
 真珠光沢のある褐色の板状結晶で、放射状に集合していることもあります。結晶面は、湾曲していることが多くなっています。

金雲母(写真横13mm) 金雲母(写真横13mm)
放射状に集合している

鋼 玉 ( コ ラ ン ダ ム )

鋼玉(写真横13mm)
松内さんに頂いた標本

 鋼玉は、曹長岩中に曹長石や白雲母に伴って産出します。濃い青紫色で、双眼顕微鏡で見ると、破断面がぎざぎざになっていることが分かります。
 大変硬く(硬度9)、写真を撮るために虫ピンで周りの曹長石や白雲母をこすり落としたのですが、鋼玉にはまったく傷がつきませんでした。
 日光の下で水で湿らせると、パッーとその青紫色が鮮やかになりました。

 9月生まれの娘に、「はい、誕生石のサファイア!」と見せると、「磨いたのをちょうだい。」と言われました。

緑 泥 石

曹長石に伴って産出する緑泥石(写真横13mm)

 続緑泥は、ヒスイ輝石や曹長石に伴って産出します。
 鮮やかな緑色で、雲母のような板状の結晶が劈開面で光を反射します。

 緑泥石は、結晶片岩中やいろいろな岩石中の変質鉱物としてよく見ていましたが、これほど大きくてきれいなものを見たのは初めてでした。

曹 長 石

 曹長岩は、ほとんどこの曹長石からできています。
 細粒の結晶が集合していることもありますが、大きく成長している場合は10cm以上にもなっています。色は白い場合が多いのですが、淡く灰色がかっていたり緑色がかっていたりすることもあります。
 黒いかんらん岩や蛇紋岩の中で、白い曹長岩は非常によく目立ち、転石の中でも一目でそれと分かります。
 曹長石はヒスイ輝石やソーダ雲母を伴うので、それらの鉱物を探すよい指標となります。

大屋川に見られる曹長岩の転石 曹長石(写真左の曹長岩の表面)

角 閃 石 類

 これも曹長岩中に、短柱状あるいは先の尖った長柱状の結晶として産出します。
 また、転石の中には繊維状〜柱状の角閃石類の結晶だけが絡むように交差して集まってできた岩石が見られました。
 角閃石類にはいろいろな種類がありますが、これらの角閃石類が何という種類なのか今後調べてみる予定です。

角閃石類(写真横13mm)
角閃石類が集まってできた岩石
角閃石類(写真横13mm)
曹長岩中に放射状に産出するもの

 養父市の蛇紋岩体の中には、夏梅鉱山や大谷鉱山がありました。これらの鉱山からは、紅砒ニッケル鉱、硫砒ニッケル鉱、針ニッケル鉱、ニッケル華などのニッケル鉱物が産出しました。

 蛇紋岩に伴って産出するこれらの鉱物は、どれもが魅力的です。ただ、最近は業者が根こそぎ持ち帰ってしまう場合も多いそうです。したがって、このページには、詳しい産地を記すことはできません。
 鉱物を採集する場合は、必要最小限の量にとどめ、できるだけ後の時代まで残さなければなりません。


■ 場 所 ■ 養父市 25000図=「関宮」
■探訪日時■ 2006年8月22日 (一部は2006年7月15日)

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