砥峰高原F(800m)  神河町     25000図=「長谷」


春の風物詩、2015年砥峰高原の山焼き

火が道路に迫り佳境に入った

 砥峰高原の山焼きは、毎年春に行われる。昨年は天候不順のため2回も順延になったが、今年は雲一つない快晴に恵まれた。

 年一度のこの行事を見ようと、山間の道を多くの車が砥峰高原へ向かっていた。高原には、出店が並び、歌や踊りのイベントも予定されている。
 点火予定は、午後2時。その1時間前には、高原の駐車場はすでにいっぱいだったので、ふもとの広場に車を止めた。
 覚悟を決めて歩き出そうとしていたら、主催者側の軽トラが通りかかり、荷台に乗せてもらうことになった。そのとき聞いた意外な言葉、「山はもう燃えとんや。」

 軽トラの荷台には15人ほどが乗った。急な坂道をスピードを上げて飛ばしていく。カーブでは体が大きく傾き、ジェットコースターに乗っているよう。風を浴びたみんなの顔が笑っていた。 
 駐車場に入り切れなくて道路に並ぶ車をどんどん追い越し、軽トラは高原に着いた。

もう燃えてしまっていた

 草原には、煙が立っていた。入り口付近から交流館の前あたりまで焼けて黒くなっている。池の上にはまだ火が残り、消防隊員による消火活動が続けられていた。
 この失火については、いろいろな情報が流れていたが、翌日の新聞に警察の談話が載った。それによると、高原内に入った観光客がアウトドア用の湯沸かし器でコーヒーをつくろうとしていたが、目を離したすきにその火がススキについたという。

失火よる火の消火活動

 ステージの周りも焼けて黒くなっていた。これからのイベントが中止になったという放送が流れた。それでも、フォーク歌手、ザ・ふじやんは道に立って「この街が好き」を元気に歌った。私たちは、手拍子をしながら歌を聞き、そして消火活動を見守った。

 失火によって一部がすでに焼けてしまったためなのか、予定よりも早く点火された。
 高原左手の上から点火された火は一列になって、下へゆっくりと燃え広がった。真ん中の方が速く燃え進み、火の列は弧を描いた。燃えて黒くなった部分が火の後に広がり、その上を煙が這った。

点火された火が下へ広がる

 火は、草原の下にある池の上でも大きくなった。その火は、大きな炎を上げて草原の右へ広がっていった。消防車のホースから出る水が、その火をコントロールしていた。

下の火も大きくなり広がった

 火は高原中央の散策道を越えて、しだいに観光客のいる道路の方に近づいてきた。目の前で燃える炎。山焼きが佳境に入った。たくさんの人が、カメラを構えている。道路を移動し、火に近づく人たちもいた。
 「危険なので、道路の反対側で見てください。」の放送が流れたり、「消火用のホースの後に入って下さい。」と消防隊員が呼びかけたりしている。何よりも山焼きを安全に行うことが大切なのだ。

観光客の前で燃え上がる

 火が近づいてくると、バチバチというススキが燃える音が聞こえた。風が強まると炎が大きくなり、そこから立ち昇る白や黒の煙が上空で渦を巻いた。炎からすすが舞い上がり、こちらにも飛んできた。

風が強くなると炎が大きくなる

 いつの間にか、草原の一番右手にも点火されていたようだった。残されたススキの原に、火が左から右から迫り、やがて一面が黒くなった。

山焼き終盤 草原が黒一色に染まった

 火は区域のすべてを焼き尽くし、草原を黒く染めた。予定外の失火を別にすると、点火から1時間半ほどで山焼きは無事終了した。

  ススキは、今でも一部が茅葺き屋根の茅として利用されている。秋には、銀色や金色に染まったススキの穂が風に揺れ、その景色を見ようと多くの人が訪れる。

 山焼きは、ススキの草原を維持するために行われている。草原は何もしないと森林に移行していくので、山焼きはその第一歩となる低木の侵入を防ぎ、ススキの芽立ちを助け成長を促す。
 砥峰高原のススキ草原の中には、小規模な湿原が散在し、そこにはハッチョウトンボなどの昆虫や、ムラサキミミカキグサ、シロイヌノヒゲ、モウセンゴケなどの湿原に特有な植物が生息している。この湿原を保全するためにも、山焼きは欠かせない。

 山焼きを行うにあたっては、周囲の森林への延焼を防ぐために防火帯をつくるなどの作業が必要となる。火の回り方が風によって変化するので、事故が起こらないように最大限配慮しながらこの行事を迎えているのである。地元である川上地区の人たちも、イベントに参加したり、出店を出すなど、この行事を盛り上げている。

 それが、今回の失火・・・。最初は小さかった火が、あっという間に燃え広がったという。けが人が出なくて本当によかったが、心無い一部の観光客の行動がこの日まで準備をしてきた人たちに多大な迷惑をかけ、見に来た人々を落胆させた。

山焼きの後

 計画通りにはいかなかったが、それでも山焼きは無事に行われた。
 一面真っ黒になった草原は、初夏になると青々としたススキにおおわれる。秋にはススキの下には、リンドウが花を咲かせ、流れの近くにはアケボノソウが咲いたりするだろう。

 初めて見た山焼きの炎を残像のように思い出しながら、うすベージュ色に咲くミツマタの花の間をふもとまで歩いた。

山行日:2015年3月28日

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