白 岩 山(973m)    神崎町                    25000図=「生野」

聖なる山へ再び

猪篠から望む白岩山

 冬の初め、あるいは冬の終わりに、猪篠川に沿った国道を北に進むと、雪を頂いた山として初めに見えるのが白岩山(しらいわさん)である。前景の山の間から見えるその頂は、白く高くそびえている。
 黒い岩がゴツゴツと山頂部に突き出したこの山が白岩山と呼ばれるのは、山頂の岩を長く染める白い雪のためである。

 前回(「地元の村の聖なる山」)の岩石の記録を補うため、登路を変えて再び白岩山の山頂をめざした。

 猪篠の村の一番高い所で、地元の人に登山口を教えてもらった。そこから歩き出すと、すぐに登山路を示す矢印の標識が立っていた。踏み跡程度の小道が、小さな沢に沿って北へ上っていた(地形図破線路)。スギの植林の中の、単調な急傾斜の道である。沢の水はすぐに枯れ、沢音は下に遠ざかっていった。地面の土は数日前の雨をそのまま含み、しっとりと湿っている。陽は林内に点々とまばらに射しこむのみで、夏というのに辺りはひんやりとしていた。
 林床には、ミツマタが柔らかい葉を伸ばしている。サワガニが、道に這い出してきた。小さな茶色のカエルが、小便をうしろに飛ばして跳んで逃げた。
 傾斜はさらにきつくなり、ガレ石がしだいに地面の多くを占めるようになってきた。道は浅い谷を離れ、左の斜面をそのまま上って、自然に尾根道となった。その尾根道を急登すると、主尾根に達した。

白岩山山頂付近の光景

 主尾根を東へ上っていった。山頂の手前に小さな丸いピークがある(Ca.890m)。このピークを越えると、景観が一変した。正面に山頂が見える。その下の斜面には、笹原がヒノキ林に囲まれて広がっている。笹原の中には、アセビの濃緑が点在し、大小の岩が庭園風に配置されている。かつてこの山を広くおおっていた笹原がここにわずかに残されていた。
 笹原の中の道を、岩を縫って山頂へ向かった。岩の間には、ママコナがピンクの小さな花をつけ、ハナアブがその花を飛んでいた。

 岩が積み重なった高みが山頂だった。山頂の岩に立つと、南西方向が大きく開けていた。右から左へ、段ケ峰・千町ケ峰・平石山・暁晴山・雪彦山・七種山、市川を隔てて笠形山・飯森山……。それらの山々は、手前の濃い緑の山の上に、白くかすんで連なっていた。
 眼下に見える猪篠の村には、棚田が鮮やかな緑で美しい模様をつくっていた。その谷の上を低く、一機のヘリコプターがゆっくりと通り抜けていった。
 空はいつのまにか雲におおわれ、ふもとから涼しい風がこの山頂まで吹き上がってきた。

 「以前はきれいな山やったんですでー。上のほうは、ずっとクマザサにおおわれていましてなあー。」
 猪篠の村の人には、かつての植林前の白岩山の姿がずっと心に残っている。山を下りて仰ぎ見た白岩山は、猪篠の村を抱くようにして、そう高くない位置に、その稜線を大きく横に引いていた。
  

白岩山山頂
(背後に笠形山)
ヤマジノホトトギスとキスジホソマダラ
(白岩山山頂付近で)

山行日:2004年8月21日
猪篠北登山口〜(破線路)〜主尾根Ca.740m地点〜736mピーク〜主尾根Ca.740m地点〜白岩山山頂〜猪篠東登山口(Ca.650m)〜(林道)〜ゲート
 国道312号線を猪篠川に沿って北上し、猪篠の信号を右折する。猪篠(奥猪篠)の集落内の道を上り、ほとんど一番高い所にある民家の右脇から山に入った。ここからの道は、地形図に破線で描かれている。浅い谷から左手の尾根にそのまま進み、主尾根に達する。試みに、まず山頂と反対方向の736mに進んだ。その後、主尾根を山頂へ向かった。

 帰路は、前回と同じルート。まず主尾根を西へ下り、Ca.900mあたりで方向を変え、山頂の南斜面を東へ進む。緩やかに下った後、暗いスギの植林地の急坂をつづらに下った。下りついた谷沿いの道を下ると、舗装された林道に出た。ここには、登山路を示す「白岩会」の案内板が立っている(Ca.650m地点 地形図実線路のヘアピンカーブしたところ)。この林道を下り、猪篠の集落に入って、元の位置に帰った。
■山頂の岩石■ 白亜紀後期 峰山層 安山岩

山頂付近に露出する安山岩の岩壁
 白岩山山頂付近の岩石は、暗灰色の安山岩である。不規則な割れ目に沿って割れやすいが、岩石自体は緻密で非常に硬い。
 安山岩は、斑晶として斜長石と輝石を含んでいる。変質によって全体的にやや緑色を帯び、輝石も他の鉱物に置き換わっているようだ。岩の表面には、長さ1〜5mm程度の長方形の穴が多く開いている。これは、溶脱した斑晶が
抜け落ちた跡だと考えられる。

 今回、下山路で新たに石英斑岩・流紋岩質溶結凝灰岩・細粒の閃緑岩の分布を確認することができた。

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